まぶらほ そして伝説に・・・
第4話
「は~い・・・」
覚悟を決めてドアを開ける和樹。
しかし、そこに立っていたのは和美達ではなく1人の女性。
彼女もまた葵学園の制服を着ていた。
しかも夕菜に負けず劣らずの美人だ。
栗色でウエーブのかかった髪を腰まで伸ばしており、かなりメリハリのきいた身体つきをしている。
どことなく沙弓に近い感じである。
そして、和樹はその顔に見覚えがあった。
それは今朝見た・・・
「風椿玖里子先輩・・・ですよね?」
2人でなかったことに思わずホッとしつつそう尋ねると、
「あら、私の事知ってるのね?それなら話が早いわ」
そう言って和樹に近づいてくる玖里子。
「え?」
「じゃあ、しましょうか?」
彼女は和樹の制服のボタンに手をかけた。
「な、何するんですか!?」
一瞬現実についていけなかった和樹だが、玖里子のしようとしている事を理解してすばやく離れる。
「何って・・・ナニに決まってるじゃない。大丈夫、すぐ気持ち良くなるから」
「止めて下さいよ!!」
和樹は玖里子から距離を取る。
だがここは寮の一室。
さして広いわけでもないため、あっという間に壁際まで追いつめられる。
「冗談は止めましょうよ、ね?」
引きつった笑みを浮かべながら和樹が言う。
しかし玖里子は歩みを止めない。
和樹まであと3歩。
「冗談じゃないわよ」
獲物を捕らえた肉食獣のような笑みを浮かべている玖里子。
和樹まであと2歩。
「だって、まだ会ったばかりだし」
「あら、そんな事気にしてるの? あたしはあなたの奥さんなのよ」
「はい!?」
またまた固まる和樹。
(宮間さんといい風椿先輩といい一体何なんだ?)
混乱する和樹。
その隙を突いて、玖里子が和樹にしがみついた。
そのまま押し倒される和樹。
「だ・か・ら♪ しましょう。据え膳食わぬは男の恥よ」
「ハッ! いやーーーっ!!! やめてぇーーーっ!!!」
「女みたいなこと言わないの」
正気に戻った和樹だが、時すでに遅し。
上着が剥ぎ取られ、玖里子の手が下に伸びる。
まさしく貞操の危機である。
しかし玖里子の思惑通りには行かなかった。
そう、この部屋にはもう一人いるのだから。
「玖里子さん! 止めて下さい!!」
呆気に取られていた夕菜だが、玖里子のしようとした事に反応し一気に復活。
2人の間に割って入り、玖里子を睨みつける。
「あら夕菜ちゃん。安心しなさい、あたしの次にさせてあげるから」
夕菜の妨害にも特にうろたえる様子のない玖里子。
余裕たっぷりの態度のまま悠然と応対している。
「そ、そういうことじゃありません!そういうのは、もっと純粋なもので・・・じゃなくて! と、とにかく駄目です!!」
「純情ねえ。でもね、愛がなくてもできるものなのよ?」
「そんなことないです!!」
「でも和樹はそう思っているんじゃない?」
「え!? そ、そうなんですか?」
玖里子の言葉に驚き、和樹の方を見る夕菜。
「え?えっと・・・」
突然話を振られ、動揺する和樹。
和樹が何も言わないのをいいことに、ここぞとばかりに追い討ちをかける玖里子。
「ほら、満更でもないって顔よ。ね、和樹?」
「和樹さん、本当ですか!?」
「当たり前じゃない。それに、男なら胸が大きい方がいいのよ」
そう言って軽く身をよじる玖里子。
それだけで彼女の大きな胸が揺れる。
残念ながら夕菜には無理な芸当である。
「酷いです! 和樹さんがそんな人だったなんて!」
玖里子へのやっかみも含めて、和樹に軽蔑のまなざしを向ける夕菜。
先ほどまで和樹を威圧していた面影はない。
よほど胸のことを気にしているんだろうか。
「・・・僕、何も言ってないし」
心外なのは和樹の方である。
何でこんなことを言われないといけないのだろう、という気分である。
「とにかく、そんなことよりも・・・」
これ以上話が暴走しないように、必死に歯止めをかける和樹。
しかし、
「そんなことってどういう事ですか!?やっぱり和樹さんは玖里子さんみたいな大きい胸がいいんですか!?」
夕菜はさらにヒートアップしていく。
先ほどのクールな時よりはマシだが、これはこれで始末が悪い。
「だから・・・」
「わたしだってもうすぐ大きくなります!玖里子さんに惑わされないで下さい!!」
(僕が言いたいのはそんな事じゃない!!!)
と言ったところで余計こじれるだけなので、言わないでおく和樹。
その沈黙を和樹の返事と取ったのか、夕菜の目に涙が浮かぶ。
「ほらね、和樹も大きい方がいいってことよ。残念だったわね、夕菜ちゃん」
「和樹さん、酷いです・・・」
涙ぐむ夕菜を尻目に勝ち誇る玖里子。
「・・・・・逃げるか」
話し合いはもはや無理と判断した和樹。
逃げ出す算段に頭を切り替えた。
幸い2人は油断している。
この隙を付けば何とか逃げ出せるだろう。
(二人には悪いけど、僕はまだ死にたくはないんでね)
ちなみに和樹が心配しているのはこの2人のことではない。
このあとやってくるであろう和美、沙弓の2人のことを心配しているのだ。
(二人には色々話しちゃったからな)
そう、この2人は和樹の秘密を知っている。
ゆえにこうしたことに対するお仕置きに手加減がない。
本来ならば全然平気なのだが、今の状態ではかなりのダメージを負わされることになってしまう。
「・・・よし、行くか」
2人に聞こえぬようにそう宣言し、ゆっくりとドアに近づいていく。
と、再びドアがノックされた。
今度は玖里子の時と違い、軽いノックだ。
「あら、誰か来たみたいね」
「誰でしょうか?」
(・・・終わった)
玖里子、夕菜もノックに気がついた。
もう逃げることは不可能である。
死を覚悟する和樹。
こうなってしまえば、押し倒されているところを見られなかっただけでも幸運と思うしかない。
「・・・は~い」
ドアを開ける和樹。
しかし、そこにいたのは2人とは別の少女だった。
巫女のような服を着て、刀を持っている。
(・・・・・コスプレイヤー?)
そう思ってしまう和樹。
と、その少女が和樹を睨みつけ・・・もとい見つめて一言。
「貴様が私の夫か?」
「・・・・・・」
地獄の底を突き破ってしまう和樹だった。
あとがき
本当は凛登場まで一気にいきたかったんですが、話が長くなってしまったので途中できりました。
この辺までは一応本編の流れに沿っていると思います。
次回、和樹君の力がついに・・・