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「生まれ得ざる者への鎮魂歌―第六話『自分の在り方』―(天上天下+オリジナル)」

ホワイトウルフ (2005-02-24 02:17)
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最近、焦りを感じる。俺はこのままでいて、本当に記憶を取り戻せるのか? いや、仮に取り戻せても、必ずしもそれが俺の救いになるものではない。そう思うと、俺はジレンマにかられるのだ。俺にとっての過去は、必要なのか? だが、それと同時に過去を求める自分も確かに、存在していた。


生まれ得ざる者への鎮魂歌
第六話『自分の在り方』


「違う!! もっと肩の力を抜け、膝を使って!! もう一度、右!!」

真夜の大声が、聞こえる。小僧に向かって言っているのだろう。
全く、毎朝毎朝、休みの朝から勤勉だ。

今は、GW(ゴールデンウィーク)・・・つまり連休なのだが、柔剣部は、それを利用して棗家で強化合宿中である。

・・・各言う自分も、気がつけば練習に師事をご同輩から、ちょくちょくと求められたりしている。まあ、俺自体、今は庭石を枕にいつもの黒尽くめのスタイルで二度寝中だ。

「・・・はぁはぁはぁ、おい銀髪」

木からぶら下げたフライパンの真中心を、打つ鍛錬をしていた小僧が寝転がる俺を見て、言う。まあ、ただの怠け者にしか見えないだろう。

「何だ小僧?」
「お前は、しねえのか?」
「係りつけの医者から、過度の運動は止められているのでな」
「んな嘘丸見えのこと言ってねえで、お前もやれよ」
「はぁ・・・」

思わず、ため息が出る。
二度寝、失敗。まあ寝ていた場所も悪かったし、そろそろ昼だ。この場合は仕方あるまい。

「・・・で、さっきから全然、向上してないな。力任せに殴っても仕方ないのだぞ。寧ろ、この鍛錬は最低限の力しかいらないのだからな」
「そ、そりゃ、チビ女が言ったことの理屈は分かるけどよ」

フライパンの真中心を打ち抜くことにより、打撃力と反発力が拮抗させるため、フライパンは殴られたにもかかわらず、跳ね上がりもせず振動するだけで居る。

これは、『通背拳』・・・又は、『遠当て』と呼ばれる技の基礎訓練である。

『遠当て』とは、いわいるインパクト・・・つまり、衝撃を外界にあるものを媒介に目標まで伝導させ、遠距離を攻撃するロングレンジの技であり、障害物越しからもヒットさせられる非常に便利な技だ。

また、これは氣を使うための登竜門のような訓練でもある。

「お前は、余計な力が入りすぎてせっかくの力を無駄にしている。もっと、力まず、考えず、無心で打ってみろ」

俺は立ち上がり、小僧のいるフライパンをつるした木へと歩いていく。

「いいか? これができれば、このようなことが可能になる」

俺は、木から8Mくらい離れた位置で立ち止まる。

『シュン!』
立っていた姿勢から、俺は目の前に人差し指と中指を突き立てた右拳をフライパンに向けて、殴るように瞬速で突き出す。

『ゴォーーーン!!』
「うお!」

次の瞬間、小僧の真横にあったフライパンがけたたましいドラのような音を鳴らし、ガタガタと振動する。

「わかったか? どうだ、丸腰なのに遠距離が攻撃できるんだ。便利だろ?」
「・・・あ、ああ・・・あんた、実はすごかったんだな」

少し驚いたような顔で小僧は、俺を見る。どうやら、ようやく俺の実力の大きさに気付いたようだ。

「ふむ、まあこれくらいならお前にも、じきにできるようになる」
「兄様!」

遠くにいた真夜が・・・今日も小さい姿なのだが、先程の音に気付いてこっちに走ってくる。

「今のは、どっちじゃ?」
「期待させて、すまんが俺だ」
「・・・はぁ〜、小僧ができたのかと思ったのじゃが」
「そう言ってやるな。少々、飲み込みは遅いがそれも仕方あるまい。やる気が萎えないだけ立派なものだ」
「なあなあ、銀髪」

俺が、真夜と話していると小僧が話しかけてくる。

「何だ?」
「コツ教えてくれねえか?」
「・・・なんじゃ、お主。さっきからわしが指摘しているじゃろう。肩の力を抜いて・・・」
「いや、なんか銀髪のほうが俺に合ったもっと簡単に分かりやすいこと教えてくれそうでよ」
「・・・・・・わしの教えは不服か?

あ・・・ちょっと、怒ってるな。

「い、いや、そ、そんなことはねえが、ぎ、銀髪に聞いたらどうかなって」
「そもそも、兄様に師事してもらうなんて百年どころか千年早いわ!!」

・・・どういう計算で、そんなことを言うのだ真夜?
百年も千年も、人は待てないぞ。

「わしだって、子供のころから兄様にはろくに師事などもらえなかったのじゃぞ!! それを記憶が無いこと良いことに」
「き、記憶ってなんだ銀髪?」

そういえば、この小僧。その場にいた当事者でありながら、何も聞いてなかったな。

「俺は、半年より以前の記憶が無い」
「おいおい、マジ?」
「こんなことで嘘はつかん」
「というわけじゃ、小僧。兄様の記憶が無いこといいことに、余計なことをふきこむでないぞ」
「ふ、ふきこむってなんだよ?」
「兄様は・・・柔剣部であるが、今はボランティアでここに居るようなものじゃ」
「は?」

・・・ふむ、其の通りだな。まだ、入部していることも納得行かないが、活動を強いられないだけマシというものか。

「つまり、わしが言いたいのは・・・兄様は、非常に気まぐれじゃ!!

本人の目の前で言うのはどうかと思うのだが、真夜?

「じゃから、ちょっと気分を害したら、すぐ居なくなる可能性もあるのじゃ」

俺は、どこぞのなのだ?

「せっかく、言い包めたのに・・・というわけで、兄様に無理強いはするでないぞ!!

不穏当な言葉が、聞こえたな。
・・・・・・やはり、俺は流されてここに居たようだ。

「あの・・・銀髪が難しい顔になってんぞ。チビ女」
―――しまった、兄様の前でいらぬことを言い過ぎた」
「・・・・・・ちと、学校に行って来る」

俺は、そう言って、すたすたと其処を離れていく。

「あ、兄様。何用で休みの学校にいくのじゃ!?」

真夜が、後ろから大声で問いかけてくる。

「記憶探し」

俺はそう大きな声で言うと、再び俺のバイクがある場所に向かって歩き出した。

「・・・・・・なんか、お前のところの家庭の事情って、複雑そうだな?」
「兄様は・・・昔から気まぐれじゃ。故に扱いが難しいのじゃ。時々、何を考えているのか分からない時もあるが、それに余りあるくらい優しき人なのじゃ。・・・今回とて、不平にもならぬ小言を言いながら、結局はわしらに付き合ってくれているからのぅ」
「何で、あいつ記憶が無いんだチビ女?」
「それが、分かれば苦労はせぬ。兄様は2年前にとある『事件』と共に失踪しておったのじゃ」
「ふ〜ん、あんま聞いても良い話じゃないようだな。―――さて、確か力みすぎとか言ってたな銀髪の奴。それと力は最低限だけとか。・・・後は考えんなとかも」
「其の言われた力、全部下っ腹に集めて、的確に殴ってみよ」



「・・・はて、勢いで飛び出たが、さして出る必要もう無かったような。うむ、ないない。その場の乗りという奴か? まあいい・・・そうだ。俵と五十鈴だったか。・・・まあ、休みの学校に居るのは部と委員会の連中だけだから、居るわけ無いな」

と思いながらも、俺は私服のままヴォルフガングを校舎裏に止めて・・・校舎に入っていく。

・・・しかし。

「大将!!」
『ゴス!!』
「む?」

考え事をしていたら、声をかけられた。
・・・と思った瞬間には、誰かの顔を殴っていた。

・・・・・・見なかったことにしよう。

『スタスタ』

「って、何事も無かったように去って行くんじゃねえよ大将!!」
「駄目か?」
「いや、そこで真顔で聞かれても困るんだが・・・」

『スタスタ』

「だから、無視して去るなって!!」
「わがままな奴だな」
「どっちがだ!?」
「まあ、いい。まさか居るとは思わなかった『殴られ屋』
「妙な『あだ名』つけてんじゃねえ!! 俵だ!! 俵!! 俵 文七!!
「何だ、米屋?」
「―――何で分かったんだ? 俺の家が米屋だって。大将、記憶、戻ってないんだろ?」
「戻ってない」

・・・冗談だったのだが、当たってしまったな。
そう、俺の前には俺より二つ分くらい頭の高い髭面の男がいる。

『ダブりインパクト』・・・などと言うと自分の傷をえぐることを思い出すので、俵と呼ぼう。

「で、何用かな『俵先輩』?」
「妙に、よそよそしいな。まあ、記憶が無いから仕方ねえか。そうだ! 大将、すまねえな。此間、竜崎の馬鹿が大将にからんだんだって?」
「誰だ。竜崎とは?」
「あいつ、名前も言わなかったのか? まあいいか、今頃、相良が灸をすえているだろうしな」

俺を無視して、ぶつぶつと思案する俵。誰だ、相良って?

「で・・・竜崎とは誰なんだ?」
「色眼鏡かけた煙草ばっか吸ってる火氣使いの男だよ」
「―――そう言えば、そんな奴いたな。俺と火遊びしたいようだから絡んできたが・・・丁重にお断りした」
「丁重にが・・・すげえ気になるが、まあいいか。まあ、大将ならあんな奴、歯牙にもかける価値ないか」

歯牙?・・・悪いが、見定める価値もなさそうなのだが、あの男。

「で、こんな休日の学校に何しに来たんだ大将?」
「ふむ・・・気晴らし?」
「いや、何で疑問系なんだよ?」
「それが、とんと分からんな。ただぶらついていたら、自然とここにといった感じだろうか?」
「俺は、てっきり五十鈴の奴と逢引しに来たのかと・・・ってそう睨むなよ大将」

全く、昔の俺がこの男を殴っていた理由が少し分かってきた。

「・・・絵美はいるのか?」
「流したな、大将」

いい加減、うるさい奴だ。
『“気晴らし”か“何か”』だと言ったろう。

「馬鹿なことばかり言っていると、そのうち条件反射ではなく、素に殴ってしまうぞ俵」
「わあった、わあった。五十鈴だろ?」

何か、誤解したままな気がするが、まあいい。とりあえず、俵には会った。次は五十鈴に会えば、ここに来た意味もあるというものだ。

「確か、執行部の部屋に「どこだ?」・・・マジで行くのか大将?」

異な事を聞く奴だな。

「・・・大将、確か柔剣部に入ってるよな?」
「紙面上はな」
「入ってるのに、不満があるのか?」
「そんなものは、無い」
「大将は、執行部と柔剣部のどっち側につくんだ?」
「所属しているのは形式的に、柔剣部だろう」
「・・・・・・何か、話に妙なずれを感じるんだが」

何がずれているのだ?

「大将、マジで執行部の所にいる五十鈴に会いに行くのか?」
「今日俺がここに来たのは、お前と五十鈴・・・絵美に顔を見せに来るためだ。・・・待て、そもそもなんでお前らは休日の学校にいるんだ?」
「・・・居るのを知ってて学校に来たんじゃねえのか、大将?」

呆れたような顔で、俵は問いかけてくる。

「別に、ただ何となくだ。今回の行動はさして、意味あっての行動ではない。居たなら、よし。居なければ、仕方有るまいといった感じだ」
「・・・・・・まあ、いっか。五十鈴の奴、妙に大将のこと気に入っているみたいだし。一応、言っておくわ大将。俺と五十鈴は執行部に入っている。俺は執行部顧問。五十鈴は執行部副会長だ」
「ふむ、今日は執行部の仕事がらみで学校に居るということか?」

俺は、いい加減、棒立ちするのもだるいので、そこいらの壁に寄りかかって俵に問う。

「まあ、そういうことだ。で・・・いいのか? 光臣の野郎が今、居ないだけまだマシとして、柔剣部が執行部の所なんかに来て?」
「―――先程から何を危惧している俵? 俺が行くことに問題があるのか?」
「・・・そういや、大将も執行部の裏役だったから、問題ない。いやいや、アレは2年前だから関係ねえ。となると記録上に残っている柔剣部所属は・・・とは言え記憶がねえからこれ自体も・・・あんま・・・記憶?・・・・・・・・・あ!

何やら、ぶつぶつ言い出したと思ったら、いきなり大声出してからに何だというのだ?

「大将、執行部って何だか知ってっか!?」

顔を、ガバリと上げ、俺に迫りながら問いかけてくる俵。

ええい、暑苦しい!! 迫ってくるな!! 執行部? ああ、この学園のトップ。所謂、生徒会とか、風紀員をまとめて束ねたような委員会のことだな? 少々、過激だとは思うがな。わけの分からん奴が制裁とか抜かして、暴走しているくらいだからな」
「――――――なるほど、こりゃ厄介だ。(そんな簡単なものじゃないって大将)」
「何を言っている?」

俺を見て、苦笑しながら言う俵。
先程から勝手に、一人で納得ばかりして・・・。非常失礼だな俵。

「・・・あのなあ、柔剣部と執行部は敵対関係にあるんだ大将」
「それは、知らなかったな。だが、俺は『執行部』に用があるんではない。『絵美』に用があるんだ。問題は有るまい」
「そういう問題じゃないんだが、な〜んか、五十鈴が喜びそうな妙な説得力と・・・」

そこで、妙な間を空け俵がニヤニヤし始め、口を開く。
このような顔している限りろくなことしか言わんだろう。

「五十鈴を誑し込みそうな口調『ドゴ!!』うご!

『スタスタスタ』

「一生やっていろ。馬鹿め」

埒が明かない愚かな馬鹿に一撃を顔に見舞い、一言を残し俺はその場から歩き始める
俺は、この馬鹿から場所を聞き出すより、自分で五十鈴を探すことを心に決めた。

・・・が。

「た、大将!! わ、分かった。きちんと教えるから置いてくな!!」

其の決心も、5秒で消えた。

「・・・・・・ふぅ、次は無いと思え

俺は、サングラスの右のほうだけはずし、右目で俵を威圧して釘をさす。

「わ、分かった。分かったからそう睨むな。大将」
「なら、さっさと案内してくれ」



「! ゆ、勇士様」
「久しいな」
「え、ええ、でも・・・俵さん。質問よろしいでしょうか?
「あ、ああ」

・・・棘があるような気もするが、俺に聞いているわけではないのでいいだろう。

あれから、すぐに案内をしてここまで来たのだが・・・。

ふむ、らしくない行動だったかな。少々強引に来た様な気もする。ここに俺が居るのは、問題があるのかどうかはどうでもいいが・・・・・・はぁ、らしくない。

絵美は俵を部屋の隅に連れて行って話をし始めたようだ。其の程度の距離なら内容が聞こえるが・・・聞かないように集中しておこう。

・・・しかし、何やら今朝かららしくない。記憶のことが、全然取り戻せないから『焦っているのか?』と聞かれれば、答えはYESだ。

・・・正直、この学園に来た初日以外で思い出せたことは皆無といっていい。情報は聞いただけだが、それでは記憶を取り戻す鍵にはならない。ならば、どうすればいい? 半年たっても戻らない記憶が、ここに来て初めて戻りそうになったんだ俺はどうすれば・・・。

「で、どういうことですか俵さん? よりによって勇士様をここに連れてくるなんて」
「・・・大将が、お前に逢いたいだとよ」
・・・そ、それはうれしいですが、形式状ここに彼をここにつれてくるのは非常にまずいです。光臣さんは、彼をここに引き入れたいのでしょうが・・・今の勇士様は記憶のことで余裕が無いようですから、其の件の話は非常に難しいです」
「・・・それがよ。大将、今一、執行部と柔剣部のことについて分かってないようなんだよ。さっきも、『俺は執行部に会いに行くのでない。絵美個人に会いに行くんだ』って言って聞きやしねえ」
「・・・・・・」
「其処、紅くなってないで話し続けていいか?」
「べ、別に紅くなど」
「はいはい、ごちそうさん。続けていいか?」
「は、はい」
「どうもな。大将の奴、焦ってるみたいだ」
「焦っているって、どういうことですか?」
「いや、『今日ここに来たのも気まぐれで、ぼんやりと気がつけば来ていた』なんて言っていたんだが、大将の奴、ここに来るまで上の空だ。俺とお前さんに逢いに来たって言ってたんだが・・・それにしても、様子が変だ」
「記憶が、戻らないことに勇士様が焦りを感じているってそう言いたいんですわね?」
「そうだ」
「・・・確かに、勇士様の様子が少しおかしいですね」

・・・ん? 絵美がこっちを見ているようだ。眼が合ったら愛想笑いして、又俵と話し始めた。

やはり、執行部の仕事中にきたのはまずかったか。・・・邪魔にならないうちに退散するが上策か。せっかく、逢いに来たが仕事の邪魔をするのであれば、いささか問題があるから致し方あるまい。

「で・・・って、勇士様、どこに行く気ですか?」
「いや、仕事の話をしているようだから、また日を改めたほうがよいかと思ってな」
「い、いえ、仕事はもう終わっています。そうだ! 俵さん、ここお願いします」
「は? おいおい、これお前の書類だろ?」
「後、其の書類に其処の印鑑押せばいいだけです。後お願いします。・・・勇士様とちょっと話してきますから
「ったく、世話女房みてえだなお前」
「ま、任せましたからね」

「・・・良かったのか?」
「いえ、せっかく勇士様が来てくださったのに、勇士様を追い返すほうが問題です」
「・・・ならばいいのだが」

俺はそう言って、執行部の部屋から離れ始めた。

「最近」
「はい」
「最近、昔の日常のことは教えてもらえるのだが、いっこうに核心について話すことを避けられている気がする」
「・・・棗 真夜のことですか?」
「ああ。・・・正直、彼女は俺に優しくしてくれるし、過去の自分や何かを押し付けてくるわけじゃない。だが・・・この日常はぬるま湯につかりながら、くだらぬ夢を見続けているようなそんな気がする」

俺は、俯きながら話す。

「・・・ふふ」

俺の言葉に、何故か絵美が笑っていたので、思わず、俯きかけていた顔を上げ彼女を見ると彼女はあどけなく笑っていた。

「? 何かおかしいことを言ったか?」
「あ、いえ、そうじゃないです。勇士様は以前、そうやって、さりげなく私に悩みを打ち明けてくれたので・・・そのことを思い出しまして」
「?・・・ふぅ、らしくない弱音だったな」
「そう、いつもあなたは、その苦悩を人には見せないようにしていますから。私は、そんな弱音を偶然・・・そう本当に偶然、聞いてしまったのが・・・私とあなたの関係の始まりだったのかもしれません」

・・・過去の俺か。必然か否か? 果たしてどうなのか。

「又そうやって、難しく考えておりませんか勇士様?」
「・・・記憶のことを、この半年考えたことなど無かった。しかし、いざ目の前にすれば滑稽なくらい無様に過去を求める自分が居る。それが・・・自分」
「・・・ええ、それもあなたです。今もあなたですし、昔もまたあなたです。焦ること無いんですよ勇士様」

今も、過去も、自分であることに代わりはない。俺は過去が無くとも、俺なのだ。
ならば、過去と付随するものが俺のことを占める重要なことであっても・・・俺は、俺の過去を焦って求める必要など皆無なのだ。

そう思うと、今まで俺の中で雲がかっていたものが消えたような気がした。

「ふむ、うん。何か、気持ちに整理ができた。礼を言う絵美。この礼、いつの日かさせてくれ」
「いえ、私はあなたの役に立てることがうれしいんです。勇士様は、いつも自分より他人を優先しすぎですから、ほおって置けないんです。私だって、其の恩を受けた身ですから」
「・・・下手に聞けば、問題児に聞こえるが」
「ええ、困った問題児ですよ。自分のことは何も悟らせないのに、そのような行動ばかりするのですから・・・でも、勇士様はそれ故に『孤高』『気高い』人なのかもしれません」

ふむ、言ってくれるな。
・・・しかし、最近確かに周りばかり気にしていた気もするな。いつの間にか、俺の行動は流されていたものばかりだったからな。

「また、何か思うのであれば、ぜひ聞かせてください」
「・・・そうも、弱音ばかり吐くようなマヌケには、成り下がらぬさ俺は」
「勇士様は・・・やはりお変わりないですね」
「ふむ、やはり今日は、らしくなさ過ぎた。自分は、フヌケた弱音を吐くような脆弱な存在ではないと信じたい。・・・久々に己を見つめなおすため鍛錬でもするとしよう」
「では、勇士様。今日は短い間でしたが、わざわざ逢いに来ていただいてありがとうございました」

絵美が、頭をうやうやしく下げる。

「・・・少し大げさに感謝しすぎでは、ないか絵美?」
「確かにそうかもしれませんが、もう癖になっているようです」

そう言って、絵美は顔を上げて微笑む。

「そういえば」
「はい?」
「俵が言っていたが、柔剣部と執行部は敵対関係にあると聞いた」
「え? あ、ああ、はい」

眼に見えたように俺の問いにうろたえる絵美。

「ふむ、正直、執行部をほかの学校の生徒会や風紀委員会と似たようなものだと判断していたが・・・俵の様子から、認識を改めなくてはならないな」
「・・・ええ、本来なら勇士様が、来ていただいたことは私個人はうれしいことなのですが・・・関係上の都合を考えますと、良くないことでした」

絵美が沈んだ面持ちで話す。

「ここは、少々、油断のならない者達が潜む巣窟なのだろうな。此度は迷惑をかけた。俺はもう少し現状を把握しよう。しかし、俺にとって執行部も柔剣部も関係ないものだ。俺をどういう形で其の闘争に巻き込むとしても、己が手で其の火の子くらい払ってみせる。文句はいわぬ、潰してほしくば堂々と、俺を其の闘争へと狩り立てろ」
「・・・ええ、では今度会う時、私個人ではなく、執行部副会長として会った時は・・・。私は全力を尽くしましょう」
「まあ、俺はお前個人とは戦いたくは無いのだが―――『武』なら、まだいい。だが、『闘』はよくない。・・・『闘』は俺を凍てつく闇へと誘うだろう。『武』ならよし。だが、『闘』を俺に望むな。俺に無残に喰い散らかされるだけだ。・・・忠告はした。ではな」

俺はそう言い残すと、絵美を残し、学校を去るべく歩き始めた。

「・・・近々、又会うことになりますよ勇士様。今度は、執行部副会長としての私と」

絵美が、俺を去った後。そう静かに呟いていたことを俺は知らない。



夜、棗家の庭で鞘に納めた俺の長刀剣を持ち、俺は静かに佇む。

「・・・兄様?」

そこで、いつの間にかここに来ていた真夜が話しかけてくる。

「・・・・・・どうした?」
「兄様こそ、どうしたのじゃ? そのような刀を持って、このような夜更けに?」
「なに、脆弱な己を裁くために、精神統一していただけだ」
「・・・ふむ、兄様はいつも己に厳しいのじゃな」
「強くなるには、己に妥協しないこともまた道の一つだ」

俺は真夜のほうを、ちらりとも見ずに話す。

「確かに・・・己に甘えすぎる者が、強くなれぬのは道理じゃな」
「・・・小僧はどうだ?」
「それが、驚くことにもう『遠当て』しておる」
「そうか。ところで・・・黒人には、何をさせている?」
「走り込みじゃ」
は?・・・たのむ。もう一度、言ってくれ」

俺は、思わず真夜に振り向き、聞き返す。

「だから、走り込みじゃ」
「・・・・・・体が出来上がっている者に、それは無いだろう?」
「むぅ、だが最低限の体力づくりと姿勢における自然体の習得も必要じゃ」
「それなら平行させて、違うことをさせたほうが、よほど効率がいいぞ」
「・・・・・・うむ」
「いや、うむじゃないこっち向いて話せ」

何やら、冷や汗を流しながらそっぽを向く真夜。

「お前、このままひたすら走りこみだけさせる気じゃなかっただろうな?」
「・・・・・・うむ」
「だから、こっちを向け!!」
「では、兄様。風邪を引かぬようにな」
「待て」

俺は、ごまかすように去っていこうとする真夜の肩を捕まえる。

「うう、盲点だったのじゃ。許してくれい兄様」
「ようやく、非を認めたか」
「しかし、何をさせればいいのじゃ。異人に遠当てなど、教えても場違いじゃ」
「場違いという言葉が、場違いな気もするが、黒人には感覚の強化をさせたほうがいいな」
「感覚?」
「視覚以外の感覚と、其の感覚を使った闘争におけるセンスを磨かせる」
「・・・どうするのじゃ?」
目隠しして、殺気をぶち当てて、包丁でも投げつけて、避けさせたらどうだ?」
「・・・・・・兄様。本気で言っておるか?」

真夜が、じと眼で見てくる。

「ちょ、ちょっとした冗談だ(うむ、俺ならできるのだがな)」
「兄様と他の者は違う。兄様に異能なものが有るかは知らぬが、兄様には力を無限ともいえるように飲み込む『天武の才』がある。そのようなモノ、他の者は持ち合わせて居ない故、兄様が自分で行う鍛錬は他のものにとっては過酷過ぎるのじゃ」
「・・・『死ぬ気』でやれば、何でもできるだけだ」
「兄様?」

俺はうつむいて話す。

「俺の力は、ただ片足を墓穴に突っ込んだ状態からの焦りによって身に付いただけに過ぎない」
「兄様、記憶が」
「戻っては居ない。だが、そんな気がする。俺は、求めたのではなく、必要を迫られただけだとな」
「・・・そんなことは無いと思うぞ兄様。わしは少なくとも、小さい頃の兄様を知っておる。兄様の鍛錬する姿は・・・そのような悲壮に満ちたものなどは無かったぞ。兄様は、すでに、わし達と違って引き取られる前から技術は、ほとんど習得していたがの。兄様はいつも言っておった。『俺はすでに完成された身だ。あとは磨くことしかできない身、それ故に俺は自身の全てを鍛錬しているに過ぎない』とな」

真夜は、俺に月明かりの中、微笑みかける。

「完成されているというのは、少なくとも其の完成を望んだのは兄様ということじゃ。ならば、そのようなことないということじゃ、兄様」
「・・・全く、お前は優しい子だな真夜」

俺はそう言って、小さな姿の真夜の頭を撫でる。

・・・ひさしぶりじゃな。兄様にそう言われて、撫でられたのは」
「姿が、そんなのだから撫でやすい」
「むぅ、わしは子供ではないのじゃぞ」
「分かっている」

むくれる真夜をなだめるように俺は言う。

「お前は、良い『女』だ」

俺は、そう月明かりの下、サングラスをはずし真夜に其の赤き目を持って微笑んだ。


執行部との闘いが近い。だが、それだけではない。もっと別の、何かが迫っていることを俺は前と後を知らぬまま、時は過ぎていくこととなる。

―後書き―
というわけで第六話、如何でしたでしょうか? 最近、更新が最初より遅れていますがきちんと書いていくつもりなのでご安心ください。二日に一回は無理でも、三日で一回くらいを目指して書いていくつもりです。量も、そこそこ書いているのでかなり疲れますが、これからもがんばっていく次第ですので、今後ともよろしくです。

というわけでレスの返答です。

ユピテルさんへ
毎度のレスありがとうです。前回のテーマはそれなりに自分の答えを書いたつもりなので共感できてもらえればうれしい限りです。というわけで、次回もよろしくです。


D,さんへ
荒くれ者は高性能なハイテクバイクですのでこれからも、いろいろと活躍する予定ですw
女中は・・・脇役ですから、あまり出る機会が無いかもですw というわけで今回もレスありがとうです。それでは、次回もよろしくお願いします。


カイさんへ
テーマに、共感してくれてとてもうれしい次第です。毎回のレスありがとうございます。次回も、よろしくお願いします。


ロックさんへ
次回、ようやく、ボーリング場編に突入しますんで其処の所よろしくですw 今回もレスありがとうございます。次回も、よろしくお願いします。


紅姫さんへ
初レス、ありがとうございます。楽しんで読んでいただければこれ幸いですw 作品のほうは一応拝見しようと思っていますので、こちらともども、よろしくです。それでは又次回をお楽しみください。


春風さんへ
毎度のレス、ありがとうです。というわけで、次回ボーリング場編に入りますんで、好ご期待ですw というわけで、又次回をお楽しみください。


秋雅さんへ
今回、いろいろと宗一郎と、ボブへの師事が省略されていますが・・・宗一郎はボーリング場で・・・ボブは未定ですが双方、勇士の助言によって活躍する予定ですのでそこのところをよろしくですw 今回もレスありがとうございます。次回もよろしくです。


というわけで、今回はこのへんで失礼します。
以上、ホワイトウルフでした。それでは皆さん、又次回で会いましょう。

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