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「生まれ得ざる者への鎮魂歌―第五話『一にして無限の答え』―(天上天下+オリジナル)」

ホワイトウルフ (2005-02-20 20:40/2005-02-20 23:03)
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嘗て、学び舎が『聖域』だったころ、ここは『戦国と言う名の楽園』だった。
しかし、2年前、たった一人の歯車たる男が失踪した時。全ては、緩やかな流れで歪んでいった。もはや、ここは『楽園』と呼べるものでは、無くなっていた。


生まれ得ざる者への鎮魂歌
第五話『一にして無限の答え』


雨が降ってきた。

『ろくな約束はしないものだ』と愛馬である我がバイク『ヴォルフガング』に乗って、俺はそう考えていた。

何で俺が、女の家に荷物を持って・・・引越し? いやいや、とりあえず一時的な居候?
・・・ふむ、やはりどちらにせよ、論破されたのだから、仕方あるまいというわけか?

『兄様、亜夜はおらぬがわしと同意見だと思うゆえ申すが、前々から申しておるように、家に戻ってはくれぬか?』
『しかし、女が2人だけの家にだな』
『・・・ただ面倒なだけじゃろう?』
『ご名答』
『むう、そう言っていつも兄様は流そうとするのじゃ。だが、今回ばかりは引かぬぞ。毎回、そう言っていたら、いつまでたっても埒が明かぬ。そもそも・・・』
『そもそも?』
『兄様の家でもあるのだから、しばらく住めば、記憶の手がかりになるのではないか? わしら二人と言うが、使用人もおる』
『・・・それも、そうだな。・・・・・・は!

最後の、迂闊な納得がいけなかった。あっという間に、言いくるめられて、もはや引き返せないぐらいに俺が、真夜達の家にしばらく住むと言うのは決定事項に成っていた。

「もしかして、俺は流されやすいのか?」

そう一人で問いかけ、私服であるレザージャケットを雨に打たれながらバイクを俺は疾走させる。

「しかし、今日はいろいろ有った」

今頃、あの小僧は凹みに凹んでいるだろう。アレだけ、啖呵を切ってあの様ではな。相手の力差が、見ただけで分かると言う眼力すら持ってない以上、無闇に戦いを挑むの愚かだ。

まあ、『勝てないから挑まない』と言う理由だけで戦いを避け続けるなら、ただの負け犬なのだが・・・今回は、ただの蛮勇としか言えない。もっと実力をつけてから出直すべきだった。まあ、井の中の蛙が大海を知っただけでも、良い成長を促せるだろう。

ただし、『負け犬根性』引き下げて、このままオメオメつぶれるなら、そこいらの奴と大して変わらぬ奴だったと言うことだが・・・根性だけは見込めたのだ。奴は必ず、強くなるだろう。

しかし、話は変わるが、普通の学校かと思えば『達人クラス』の奴がちらほら居るではないか。

このままでは、今日の騒ぎもあって眼をつけられるのも時間の問題か?
俺自身、絡まれても『全て、殲滅してお帰り願う』自信はあるが・・・非常に面倒なこと、この上ないな。

「――――――果てしなく、欝だ。む、そろそろか」

教えてもらった住所は、ここいらだな。方向感覚には、自信があるからここいらで間違いない。・・・というか、家が全然無いな。

辺りが、自然に囲まれた風景になっている。・・・さっきまで都会に居たのに何故だ?

「・・・・・・家がないと言うか、むしろこの馬鹿でかいのが、家なのか?」

俺の前に、無遠慮且つ広大な大きさを持った和風の・・・家?・・・いや、屋敷がある。

――――――やめよう。無駄に考えれば考えるほど、自分が滑稽に見える。『使用人』という言葉が出たのだから、これくらいのことは考慮すべきだった。

俺の前には、きちんと『棗』と書かれた大きな掛札のかかった門がある。
・・・やはり、ここらしい。

「ええと、インターホンは?・・・あったあった」

目の前のインターホンを、バイクから降りて押す。

『ピンポーン』

『以外に、庶民的な音だ』などと下らぬことを思いながら、俺はインターホンからの返事を待った。

『・・・はい、どちら様でしょうか?』

しばらくすると、若い女の人の声がインターホンを通して聞こえて来た。
おそらく、使用人の方だろう。

「ああ、俺は・・・『棗 真夜』さんの後輩で、今日ここに来るよう呼ばれまして、白観 勇士と申します」
『・・・・・・あの、すいません。耳が遠くなったようで、もう一度お名前を申してもらえませんか?』
「『白観 勇士』ですが」
ドタン!!・・・・・・ドタドタドタドタ
「む?」

急に、大きな音がしたと思ったら、足音が走って遠ざかっていく様子がインターホンから聞こえる。其の後、何も向こうから聞こえなくなった。

・・・・・・無視されたのか?

『タタタタタ!!』

・・・何者かが走って近づいてくる
て、敵か!?・・・いや、殺気や敵意は感じられない。

などと思っていると・・・。

『ドタン!!』
「勇士さん!!」

「!・・・誰だ?」

門の横についている小さな人通りようのドアから若い女が飛び出て、俺の名前を急に呼ぶのだが・・・はっきり言って記憶が無いので分からないし、思い出せもしない。

歳は二十代後半くらいで髪はポニーテールの黒髪で、服装は・・・女中さんの着物姿をしている。

「え?・・・えと勇士さんですよね? お聞き間違いも無いですよね? というより、髪の色と眼の色違いますけど、勇士さんですし・・・あれ?」
「・・・・・・いよいよ、真夜の言うことの裏づけが取れたというわけか」
「え?・・え?」

何やれ、疑問が顔いっぱいに広がっている女中さん。
・・・天然形と見た。―――くだらない分析は後だな。

「えと・・・真夜・・いや、真夜さんの所に案内してくれません?」
「え・・・あ、はい。―――でも、勇士さん。何で真夜お嬢さんを『さん付け』で呼ぶのですか?」



あの後、大変だった。俺の記憶がない事を聞くと、屋敷中引きずり回して、記憶のためだと言って、家の使用人を一人一人紹介されそうになった。中々、パワフルな人だったことを見抜けなかったのが、今回の愚のひとつだろう。

彼女、曰く『勇士さんは、私達使用人も全員家族だと申していました』と俺が言っていたらしかったので、俺が居なくなったときの悲しみは、みんな非常に大きかったらしい。

・・・肝心の真夜には、30分引きずり回されても、逢えなかったというのが今回の問題なのだが・・・。

で・・・まあ、ようやく俺が何をしに来たのかようやく悟り、荷物だけ受け取ると、真夜たちが居るであろう場所を教えてくれて、そそくさと彼女は行ってしまった。

しかし、そもそも肝心の彼女の名前自体は一切教えられてないし・・・みんなの自己紹介といっても、名前も教えてもらえず、何をしているかとしか教えてもらってないので・・・・・・・・・。

無駄足じゃないか!?

「やれやれ、脇役は伏兵、されど伏兵は伏兵というわけか。とんだ回り道をしたような気がする」

俺は、冷や汗を流しながら、自分の愚かさを笑った。
やはり俺は、少々、流されやすいのだろう。

「・・・? このような物置で何をしているのだ?」

案内された物置の前で、少し考えていると・・・。

「ま、待て亜夜!!」

中から、真夜の声が聞こえた。
・・・どうも、何やらあわただしい様子だ。

「止めても、ムダよ。お姉ちゃん」
「奴はケータイからじゃし、場所も判らん・・・第一、お主、バイクの運転なぞ、できんじゃろう」
「大丈夫よ。お兄ちゃんのバイクだもの、このコが全部教えてくれるわ」
「待て! もしかすれば、もう少しすれば兄様がここに来る。それを待ってからでも」
「待ってられ「呼んだか?」・・・!!
「兄様!?」

入りづらかった中にようやく入れたが・・・どうもまた外に出るはめになりそうだ。

「・・・話はおおよそ見当がつく。そんな並みのバイクより、俺のバイクのほうが数倍速い。案内しろ、乗せてやる」
「兄様、来て早々悪いが・・・頼む。言い出したら、止まらぬからな亜夜は・・・」
「・・・本当は、もっと早く来たがったが、ここの使用人に捕まっていた」
「?・・・何のことじゃ?」

俺の苦労を、屈託の無い顔で『判らない』とされるのは正直・・・この途方も無いイラツキを別の何かに晴らしたくなった。

「乗せてやるのはいいが・・・俺のバイクは、並みじゃない分、名の通りひどい『荒くれ者』だ。重圧酔いだけはしないようしっかり歯を食いしばれ」
「あ、ありがとうお兄様!!」

『ガシ!!』

亜夜が、俺の台詞を聞き、喜ぶまでは良かったのだが・・・。
こともあろうに、物置の戸の側部に背持たれて立っていた俺に、喜びついでに亜夜は抱きついてきた。

「・・・真夜」
「睨んでなど、おらぬ」
「何も、言ってないぞ」
「むぅ」

その小さきナリに似合わない密やかな殺気まで感じたのだが―――。
・・・俺としては不本意だった。



俺のバイク『ヴォルフガング』は見たままにいえば漆黒の色をした重装の鎧を纏った馬鹿でかいバイクだ。

普通のバイクと全体的なフォルムが違い、ゴテゴテとした硬そうな鎧じみた黒い幾数のフレームを纏う。そして、普通のバイクよりも二周りぐらい大きなナリをしている。

大きなナリから化け物じみた馬力は想像をつけるだろう、それと共に小回りに融通が利かないなどという想像は、遥かに裏切る繊細なハンドリングも可能だ。がしかし・・・それと共にこいつは名の通りの『荒くれ者』で乗り手を選ぶ。

直進は、其の馬力に言わせた速さによる重圧が・・・。
曲線には、ふざけたように言うことの聞かないハンドルが・・・。
それぞれ、乗り手を試してくる。だが、屈服させればこれほど頼もしい愛馬は無いだろう。

現に今俺は、それを乗りこなし後ろに亜夜を乗せて、闇夜の道路を亜夜の案内を元にふざけた速度で疾走している。

もっとも、他にもいろいろな機能がついていて、これをバイクと呼ぶのはどうかと思うのだが・・・物騒なものばかりなので、ここではあまり口に出したくない。

結論から言えば、確かに口に出して言えばバイクだ。
・・・がしかし、これは、どこをどう見ても装甲二輪車と言った方が、まだしっくり来ると言うものだ。

話は変わるが、件の話はこうだ。執行部にとやらに眼をつけられている小僧と黒人が・・・ついに動いた執行部に今まさにと言う感じだ。まあ、どうも執行部がというより、其のうちの一人の『先走った行動が』というらしいが・・・。

「ねえ、お兄様」
「・・・この重圧で慣れない奴が、喋ると舌をかむぞ」

亜夜の声に少し、かげりを感じながら俺は『荒くれ者』を手懐け走らせている。

「このコの記憶も一緒に見ているから、大丈夫」
「・・・俺の相棒に嫌われなくて良かったな」
「はい。―――私、お兄様が居なくなって寂しかった」
「―――そいつは、すまんな。おまけに、記憶喪失までなって家族であるお前らに迷惑かけている」
「お兄様。私達が、兄妹って言われても今一しっくりこないって本当?」
「・・・それについては、肯定だ。だが、今日。お前の家に来て、心のどこかにあった疑心が晴れた。今じゃ、心から手放しでお前らの言ったことは間違いじゃないと言える」
「そっか。・・・あのね、お兄様が去った時、慎お兄ちゃんもお姉ちゃんもお兄様がいなくなった理由を私には、全然教えてくれなかった。そのうち、慎お兄ちゃんも連絡とか時々くれるけど、旅とかで居なくなって・・・私の家って、お姉ちゃんと2人きりだった。そりゃ、使用人さん達も居るけど。・・・やっぱり家族は、慎お兄ちゃんと勇士お兄様と真夜お姉ちゃんの3人だから」
「・・・・・・」

この辺の寂しさなどは、割合、判る物などではない。
しかし・・・当事者である俺は記憶が無いためか、どうしても亜夜の話が、蚊帳の外の話のように聞こえて―――それが今の俺には、とても歯がゆかった。

「わたしね。お兄様に一番可愛がられてたと思う。一番下だったからかもしれないけど
ね。お兄様って、とても優しかったんだよ。お姉ちゃんにも慎お兄ちゃんにも、いつも優しい顔で見て・・・悪いことして怒られると思ったときも、ちゃんと反省の気持ちだけ促して、頭ごなしに怒ったりしなかった」

・・・全く、今の俺は何でこの子にこんな話をさせているのだ?
自分の記憶の無さが・・・これほど、痛感したことは無かった。それでも、この子の話は聞くべきだと思う。それが今の俺にできることだから・・・。

「私はいつもお兄様にくっついて、お姉ちゃんが『いい加減、兄離れしたら如何じゃ?』っていつも言われてた。そう言ったお姉ちゃんも、どことなくうらやましそうな顔してたけど・・・」
「俺と・・・その慎という弟の仲は如何だったんだ?」

俺は、ふと今は居ないという弟だという男が気になった。

「仲良かったよ。男兄弟って言うのは、判らなかったけど・・・男同士にしかわかんないことをお兄様と共有して・・・それに、お姉ちゃんと一緒に慎お兄ちゃんに嫉妬して」
「・・・・・・」
「時々、訳分からないことで殴りあいになって・・・でも、お兄様のほうがずっと強いのに何でか、二人ともボコボコになって、其の後お兄様が自分と慎お兄ちゃんの治療して・・・『何で喧嘩したの?』って聞いたら『喧嘩じゃない』って慎お兄ちゃんは言うし・・・」
「・・・男ってのは、奇妙な生き物だ。憂さ晴らしに殴り合ったり、殴り合ってでしか語れない時もある不器用な生き物だからな」

・・・なるほど、以外に青春みたいな青臭いこともしていたようだ。まあ、今やれと言われても・・・ごめんだと言うだろうがな。

「・・・・・・そういうのが、私とお姉ちゃんは分からなかった」
「その代わり、お前ら姉妹にしか分からないことがあるのではないか?」
「う〜ん、どうだろ? あるのかな?」

間の伸びたさっきまでとは違った声が聞こえる。

「そういうのは、俺らには分からないさ。お前らが当然だといっても俺らには、『はてな』と思うモノもある」
「・・・お姉ちゃんが、高校に行き始めてから・・・お兄様が、笑うことが少なくなったの。『お兄様、どうしたの?』って聞いてもやっぱり元気のない笑顔で・・・ううん。お兄様は、少なくなったというより、本当の笑顔を見せなくなった。私、すごく心配だった。お兄様が去る日の前の日の夜、お兄様・・・すごい怖い顔してた。怒ってたわけじゃないけど・・・とっても、悲しそうな顔でとても怖かった」
「・・・・・・何を考えてたんだろうな」

・・・本当に、其のときの俺の心境は如何だったのだろう?
愚かな兄だったのだろうか? やむ終えない事情があったのか?
今なっては、真実は・・・記憶の奥底・・か。

「お兄様の髪」
「ん?」
「お兄様の髪はね。・・・黒かったんだよ。眼もね。じゃなくて黒かった」
「・・・変だな。俺の眼は、カラコンも入れてないし・・・。髪もどう見ても地毛だ」
「うん。でも、髪とか眼の色が変わっても、お兄様のことは一目見て分かったよ」
「そうか」

そう言われると悪い気はしないものだ。

「うん・・・宗一郎様、大丈夫かな?」
「まあ、ボコボコになってても、俺が治してやるさ。さすがに、死んではいないだろうしな」
「・・・うん。宗一郎様にはね。が見えるの」
?」
「そう、龍が見えるの。あのお兄様と宗一郎様と会う前の日にね。夢で龍を見たの」
「夢で龍」
「それとね。これは、お兄様のことだけどね。それと一緒に、片方が黒くてもう片方が白い色の大きな羽を持った顔の見えない黒い服を着た天使が見えたの。・・・これは、たぶんお兄様」
「・・・そりゃ、堕天使だ」

よりによって、片方だけ黒とはな。どうせなら、両方の羽が黒かったら気が楽なのだが・・・。

「堕天使?」
「片方が黒いってことは、そっちの羽だけ闇に食われた哀れな天使様だ。それとも、自ら望んで闇に堕ちたのかも知れないがな」
「・・・でも、本題はここなの」

まだ、あるのか?

「天使はね。何かでかいモノの頭の上で片膝を立てて、座っているの」
「でかい・・モノ?」
「うん。何か分からない、黒い大きな生き物。それも宗一郎様に見えた龍と同じくらい大きいの。でも、それが何かは分からなかった」

・・・謎が謎を呼ぶといったところか。
に、堕天使に、黒い化け物か。
さっぱりだ。

「・・・ここいらで、話は終わりだ」
「え?」

『ギャリリリリリリリリリ!!!!』

バイクを横にし地面を滑りながら、ブレーキをかける。地面にフレームの一部がすれて火花が散るが・・・フレームは全然堪えた様子も無い。

「はい。・・・本日のご乗車、ありがとうございました。本駅は終着駅です。お忘れ物の無い様、お下りください」

冗談めかしたことを言いながら、俺は一軒のぶち壊れたコインランドリーの前でバイクを止める。中からは、何やら怒声が聞こえる。

「お兄様は行かないの?」
「行かん。行く必要が『ないない』。お前で何とかして来い。俺がしてやれることはこれくらいだ。待っていてやるから、さっさと行って来い」
「うん!!(久しぶりに聞いたな。お兄様の口癖)」

元気よく頷いて、バイクを下り亜夜は被っていたヘルメットを俺に投げ渡し、刀を一本持ってコインランドリーに入って行った。・・・俺自体はノーヘルなので、予備用のヘルメットを亜夜に渡していたのだが・・・。

「しかし・・・何故ここだと。亜夜は分かったんだ?」

案内された後に気付いたのは、今回の疑問点だった。



「へえ〜、テメエが五十鈴の報告にあった野郎か?」
「話しかけるな。下衆」

俺は、脚を組んでハンドルに乗せて、でかい図体の相棒をベット代わりに寝転んでいた所を・・・コインランドリーから出てきた色眼鏡をかけ、煙草を咥えた男に話しかけられたが・・・正直、こいつは下衆だと・・・見た瞬間に判断した。

「あん? おい、てめえ。執行部に逆らうとどうなるか分かってんのか?」
「虎の威を借る狐か、貴様は?」
「・・・てめえ、執行部には手を出すなって言われてたが、執行部に関係なく、てめえをウェルダンに焼きたくなったぜ」

そう言うと、男の周りに大きな火の帯が現れる。

「・・・・・・」
「はん、ビビッて何も言えねえのか? それとも、この夜なのに馬鹿みてえにかけてるグラサンのせいで、何も見えねえのかよ? あん、答えろや」
「話にならん。火遊びがしたければ、一人でやっていろ」

・・・全く、おちおち寝てもられないな。
俺は、ふうとため息をつくと、興味をなくしたように再び寝始める。

「・・・・・・・」

横目でちらりと見ると震えている。どうやら、かなり怒っているようだ。

しかし・・・相手との実力の差を見ただけで判断できないのなら底が知れている。例外は、拮抗している時の実力の差と、相手が自分の想像外の化け物であったときはだ。・・・まあ、この場合、自分で言うのもなんだが、例外の後者が今回のことに一致しているのだろう。

「上等だテメエ、ただの威しで済まそうかと思ったが、冗談抜きにケシズミも残らねえほど燃やしてやる。テメエは死んだぞ、この野郎!!

そう言って、男は俺に馬鹿でかい火球を投げつけた。

『ボウ!!』
そして火は・・・俺に直撃した。



「け! 何だ、口先だけだったのかよ? そっか、そりゃワリイことしたな。ち、五十鈴の奴にまたぐちぐち言われんのが、眼に見えてんな」

執行部の男、竜崎はそう一人で目の前の人型の火達磨に不満を言う。

「・・・はあ、なんだっけこいつ? そうそう、白観とか言ってたな。何か2年位前にいた奴だったか? はん、所詮古い伝説が、勝手に一人歩きして、デカクなってっただけってことだな」
「で? これで終わりか?」
「!!」

急に、声をかけられて、声のほうを向くが目の前には未ださっきと全く変わらないバイクの上に人型の火達磨がある。

(・・・待て、何で、この火達磨になった野郎は悲鳴も上げずに、そのまま“のた打ち回る”ことなく微動だせず燃え続けているんだ? いや、そもそも俺は今さっきなんて思った?)

先程の言葉を幻聴とは思えず竜崎は、冷や汗を流す。

(目の前にはさっきと全くかわらねえ、火達磨がある。・・・全く『変わらねえ』!? あんな気、火の手が上がってるのに、形が崩れてねえ!!)

「な!?」

竜崎が、驚きの声をあげると共に、人型の火達磨の火が急速に一点に集中していく。
次の瞬間・・・右の手のひらに集束した火球を持った勇士が何事も無かったかのように先ほどと同じ姿勢で現れた。

「・・・・・・」

さすがに、この様子に開いた口が塞がらないような間抜けな顔で、竜崎は勇士を見ている。

『ボシュ!!』

勇士は、手のひらの火球を握りつぶして破裂させると冷めた様子で竜崎のほうを見る。

『カシャ!』

其の後、勇士がバイクのハンドルの間にあったディスプレイのパネルを足で押すと『ヴォルフガング』の真横にあるひとつフレームが跳ね上がった。

『ジャキ!』
「!」

次の瞬間、フレームの端から、何故か馬鹿長い『剣に似た長刀』が勇士の右手で抜かれて、気がつけば竜崎の鼻先の前に突きつけられていた。

火遊びは、一人でやれと言ったが・・・」
「て、てめ」

さすがに、今の状況に強く出れない竜崎は憎憎しげに勇士を睨みつける。

「つまらん。そもそも、炎を使う時に燃やすなどと言っている時点で貴様の実力が知れる」
「あん!?」
「この場合は、消してやるぐらい言って見ろ。其の時点で貴様が生み出す火氣のレベルが知れるというものだ」
「く!」
「属性一つしか使わないのに、其の程度とは情けない。どうせなら、すべての属性の氣を使いこなして見せるか、もしくはもっと火氣の扱いに磨きをかけて見せろ」
「―――なるほど、あんたの伝説はハッタリじゃ無かったってことか? くそ、道理で五十鈴が手を出すなといったわけだ」

急に竜崎は、まじめな顔になる。

「ふん、ようやくまともな面になったな」
「ち、言ってくれる。だがな、あの一年の制裁は必須事項だ」
「まあ、あのような騒ぎを起こせば、仕方ないか。しかし・・・余計な被害まで出したのではないか?

勇士は、右の片目が見えるようにグラサンを右のほうをズラシ、竜崎を睨みつける。

「ぐ・・・う・・・」

威圧されて、竜崎は動けなくなる。

「行け。次は無いと思え」
「・・・ち! この借りは必ず返してやるからな!!」

竜崎がそう言って、居なくなった後。勇士は、ジャケットのポケットからドラッグケースを出し・・・その中からカプセル型の薬を一錠出しそのまま飲んだ。

『ゴク』・・・・・・はぁ、女狐め。俺には、何一つ言わなかった。亜夜にしろ、真夜のことにしろ・・・。俺のことを知っているとか抜かしておいて、何一つ教えもしないで・・・。全く、どうせまた俺は悲しませることになるのだろう。俺に『堕ちた魂』が有る限り・・・。何故、俺に残った記憶がこんなしみったれたことだけなのだ?」

勇士は、そのままサングラスをはずし、其の赤い眼を夜空の虚空へと向け、問いかけた。



「ふぅ」

『ドン!!』

放課後、柔剣部の道場で俺が居る前でご同輩が、サンドバックを吹っ飛ばしているようだが・・・まだ昨日の小僧にやられたわき腹が痛むようで、今ひとつ力が出ないようだ。
俺はといえば、又着慣れない学生服を着込んでグラサンをつけたまま考え込んでいる。

・・・昨晩は大変だった。とてもじゃないが・・・真夜の家の感想なんか言っていられなかった。

小僧と黒人は、あの火氣使いの男にボコボコにされていて、コインランドリーも、ぼろぼろに破壊されていた。・・・コインランドリーの持ち主には不運でしたと告げるしかない。亜夜と小僧と黒人の傍に知らない女・・・彼女がコインランドリー以外での被害者だったらしく、その女も居たのだが・・・まあそれ自体は大したことは無い。俺は、其の後、彼らに軽く『氣功治療』を施して(・・・完全に治されれば、それはそれで惨めだしな)其の後は、まるっきり亜夜の足代わりだ。

あの暗い会話に加われというのはごめんだったが、後ろから見ているのも欝だった。文句も言えないので、さらにになる。・・・欝、欝、欝だらけだ。

『ねえ、お兄様』
『ん?』
『強くなるって・・・なんだろう?』
『・・・哲学的なことを言い出すな』
『私、何もできなかった。気になる人がいて、その人が打ちのめされて、関係ない人が巻き込まれて』
『関係ない器物もな』
『・・・棗家に生まれて、物心ついたときから武道やって・・・いっぱし“強く”なったつもりだったけど・・・・・・私』
『武をやっていると、誰もが突き当たる疑問の一つだな。こればかりは自分で見つけるしかない。答えは、一つであり、又一つではなく人の数だけ存在する』
『え? そんなにあるの?』
『少なくとも、俺はそう思っている。答えは単純にして明快・・・そして一つだが・・・それには人の生き様、思想、理由、そして、それを求める者の心情と多種多様に余計なものがついてくる』
『答えは・・・一つだけど、いくつもある?』
『そう、矛盾しているが・・・これがまた面白い。お前は、お前の中の強さの意味を自分なりに求めればいい。ただし、周りの見えていない答えになど愚答に過ぎないことを肝に銘じておけ』
『お兄様はもう見つけたの?』
『さて、俺は如何だろうな。見つけたのかな、記憶を失う前の俺は・・・』
『今のお兄様の強さの意味は?』
『それを聞いてどうする? 甘ったれるな、言葉で“強さ”の意味を知ろうとするな。様々な行動と己の中の生き様から見つけろ。・・・なあに、其の疑問に気付けたのなら、次は答えを・・・そして、それを見つけたらその意味を・・・そうしていくうちに、お前は“強く”なる。答えはいつも一つでありながら、常に無限だ。まあ、これは俺のウンチクに過ぎないからな。真夜ならば、違う答えを言うかもしれない』
『・・・分かった。ありがとうお兄様』

・・・・・・『強い』という意味か? ならば、俺の中の俺だけの答えはただ一つ、己の闇をこぼさぬように、ただ朽ち行く身を誰にも悟られず、ただただ周りの光を愛でる事だ。

これもまた、矛盾した答えだ。何故なら、この答えは周りなど見えていないのだからな。しかし、俺の答えはこれで十分だ。

「兄様、亜夜に強いとは何だと問われたであろう?」

道場の隅で壁を背に座りながら、ぼんやりしていた俺に真夜は俺の前に立ち、問いかけてきた。

「・・・ああ」
「答えは・・・一つにして、無限と言ったそうじゃな」
「まあな」
「・・・なるほど、わしもそのような考えを持ったことはなかった。わしの中での強さの意味か」
「強さの意味は一つだ。しかし、それを持つ意味の中にはそれとは別に、また己の中での答えが秘められている。表の意味から、裏の意味をどう見出すかは己次第だ」
「ふむ、兄様は・・・いや、やめておこう。口で聞きだそうとするのは愚行というじゃな」
「ふふ、さすがと言うべきか。亜夜とは違うな」

これでも、真夜はよく物事を見通す力を持っている女だと俺は常々思う。

「いや、どうやらわしは表の意味しか知らぬようじゃ。わしだけの強さの答えは・・・見つかるかの?」
「ふ、見つかるさ。お前もまた“強き”女だからな」
「ふふ、礼を言おう兄様。これで、わしは又強くなる楽しみができたわ」

そう言って、真夜はその小さな体で俺の右肩に座り、屈託の無い笑顔を見せた。

「よぉ、先輩。久しぶり」

―――ふむ、あいつらはあいつらで強さを求める理由ができたようだな。
俺は、そう思いながら真夜を肩に乗せながら、立ち上がり、ご同輩に話しかけている道場の客人の2人を見る。

「急がば、まわれって奴さ。こっ恥(ぱ)ずかしい話だが、今の俺らじゃ特攻かけても玉砕すらできねえ」

「統道学園一年、凪 宗一郎」
「同じく、ボブ 牧原」
「「本日より、柔剣部に入部させてもらう」」

「ふ、いい面構えになったな」
「そのようじゃな」

この日、来るべき未来の戦いにおいての戦友にして、柔剣部史上最強のメンバーが集まった日であった。

ところで・・・俺は入部扱いになっているのか?


追記、この日、『柔剣部』新入部員が来た後、昨晩の執行部の男『竜崎』は真夜に手痛い制裁を受けたようであった。


―後書き―
はい、というわけで第五話でしたが如何でしたでしょうか? 今回は、亜夜との会話を中心に話を進めましたが・・・実際、彼女と勇士の親密度はとか、宗一郎と亜夜はとかは・・・少々シナリオでいざこざがあります。まあ、それと共に、真夜と光臣との関係も同じようになっています。

さて、ではそろそろ恒例のレスの返答に入りたいと思います。
徐々にレスを書いてくれる人が増えて、うれしい反面、いろいろとレスの返答が、単純になってしまうのを感じます。しかし、読んでいて感想をもらえるのはやはりうれしい限りで今後ともよろしくお願いします。

ユピテルさんへ
宗一郎の活躍は近々入れますが、ボブは原作の活躍がかなり遅いので必然的に・・・未定です。というわけで、レスをありがとうです。次回もよろしくです。


Gさんへ
まあ、一応年上ですんで、威厳を見せないと・・・とはいえ、自分の歳がトラウマみたいになっている主人公が今日この頃w というわけでレスありがとうございます。次回もよろしくお願いしますw


カイさんへ
そっか、勇士はサイキッカーだったんだ・・・ってちがいますw いろいろとシナリオを思案しているので、そろそろ勇士の力の大きさを指す場面がボーリング場で出す予定なので好御期待ですw というわけで毎度のレスに礼を・・・では次回もよろしくですw


ロックさんへ
今回、あの女のことを女狐と勇士は呼んでいるので、勇士自体、彼女が苦手です。というわけで・・・レスありがとうっすw 次回もよろしくお願いしますw


秋雅さんへ
今回はちょっと更新が遅れましたが、完成を信条に書いていきますんで今後ともこの作品をよろしくお願いします。それでは、今回のレスありがとうございました。


たけのこさんへ
もう少しです。もう少しであの女は登場します。それまでお待ちくださいw
というわけでレスに感謝をそして、次回もよろしくお願いします。


ブルガさんへ
初レスありがとうございますw 今後ともがんばるんで以後よろしくお願いします。
というわけで、次回もよろしくですw


草薙さんへ
残念ながら、宗魄の存在がある以上、シナリオ上、そう簡単に楽園は成り立ちません。というわけで、そこいらの展開はじっくり見てよろしくお願いします。レス、ありがとうございます。次回もよろしくですw


D,さんへ
治療班なんです。そうしないと、いろいろと他のキャラクターの配置がおかしくなって行きますんで、まあそこんとこよろしくですw 毎度レスありがとうございます。次回もよろしくですw


txittxitさんへ
初レスありがとうです。今後ともよろしくお願いします。


無貌の仮面さんへ
初レスに感謝を。今後ともよろしくです。


春風さんへ
毎度のレスありがとうですw 人間関係は結構複雑かもしれませんね・・・。ボブだけが原作どおりのCPかな? というわけで、次回もよろしくお願いします。


さて、今回はこのぐらいにしたいと思います。
以上、ホワイトウルフでした。それでは皆さん、又次回で会いましょうw

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