司貴聖伝史
第三話 やって来た花嫁(前編)
昼休みの時間。薄暗い生物室の中、一人の少女がいた。その少女は耳に手を当て、念話という魔力を使った特殊な会話をしていた。
「そんな・・・・・」
『全ては神城家の為だ。必ず使命を果たせ』
「なぜ、私が・・・・・」
『反論は許さん!! 急がねばならんこそ盗聴覚悟で念話で伝えておるのだ!!』
少女と念話で話している者の言う事は余りにも一方的で、その少女の願いも思いも全て無視し、自らの言う事が正しいと確信した声色だった。
故に迷いも人の情も感じられない。
『いいか、凛よ!! 必ず己の責務を果たすのだぞ!! よいな!!』
その言葉を聞き、凛と呼ばれた少女はぎゅっと刀の柄を握り締める。そこで念話が終了した。
「・・・・・・・・・・」
その後、凛は刀を抜き、自分の目の前に構える。刀身に映し出されている彼女の目は怒りと憎悪に満ちていた。
同じ頃、葵高校の特別室でも・・・・・
「玖里子様、お電話です」
メイドの服装をした女性が高級な金属製のお盆の上に乗せてある、旧式の電話を持ってきた。
そして、その前に立っていたのは葵高校の影の支配者『風椿玖里子』だった。
「あら、いまどき電話なんて珍しいじゃないの」
『はい、これなら魔法を使った念話や電波を使った携帯と違ってセキリティーが確かなので』
電話の相手は風椿の諜報員だった。
このような手段を遣うという事は、盗聴される可能性を危惧している。
つまりこれは相当重大な情報を入手したという事だ。
「それで、なにがあったの?」
興味津々に玖里子は風椿の諜報員に向かい、話をする。
『はい、実は・・・・・』
電話の相手である諜報員は玖里子に重大な情報を話した。
「えっ!? 神城が?」
それを聞いた玖里子は真剣な顔になった。
薄暗い生物室で凛は刀身に映し出された自分の顔を見て、呟き、それと同時に玖里子は一人の男子生徒の写真とそのプロフィールを見て呟いた。
「式森・・・・・」
「・・・・・和樹か・・・・・」
「式森君」
「ん?」
和樹が下駄箱の前で靴を履き替えている時、一人の男に呼び止められた。
彼を呼び止めたのは養護教諭の紅尉晴明だった。
「紅尉先生?」
「どうした? もうすぐ授業が始まるぞ」
「すいません。実家から大至急帰って来いと言われたんです。ちゃんと学園長先生から許可を貰いました」
「実家から!?」
それを聞いた紅尉は真剣な表情になった。
「はい。何でも僕や一族¢S体に関わる重大な事だと言っていました」
すると紅尉は心配そうな表情に変わった。
「そうか。ならしかたがないが、だが此処に戻ってきた時には魔力診断を受けてもらいたい。特に君の場合は・・・・・」
「紅尉先生。これ以上の事は言わないで下さい」
和樹が心配する紅尉を気遣うように言った。
「紅尉先生には色々とお世話になっています。だからそんなに心配しないで下さい」
「式森君・・・・・そうか・・・・・わかった・・・・・それはそうと、君の実家はかなり遠いぞ。どうするつもりだ?」
「その事なら大丈夫です・・・・・、あっ!? すいません紅尉先生。そろそろ行かないと。帰って来たらお土産持って来ます」
紅尉にそう言いながら、和樹は走り去った。
「式森君・・・・・」
紅尉はそんな彼を安堵した表情で見送った。
和樹は今、着替えと荷物を置きに行くため、彩雲寮に戻る事にした。
その帰路の途中、イタリアのフィレンチェにあるダヴィデ像の模造品が飾ってある広場に通り掛った時、悲鳴が聞こえた。
「きゃぁぁぁ!!!」
悲鳴の主はショートカットの髪型をした中等部の女の子だった。
「危ない!!」
和樹が叫んだその時、広場のダヴィデ像の近くにいる一人の少年が杖を構え、魔法を使った。
すると落下した少女はふわっと浮いていた。
そして魔法を使った少年は急いで走りこみ、その少女を受け止めた。
「アタタタ、だっ、大丈夫? 宮崎さん・・・・・」
その一部始終を見ていた和樹も急いでその少年の元へ駆け寄った。
彼は困った人を放って置けない性格なのだ。
「君!! 大丈夫!?」
「はっ、はい大丈夫です・・・・・」
少女を受け止めた少年は朝の時、学園長室を出た時にすれ違った少年だった。
「怪我とかしてない?」
「大丈夫です。ただのかすり傷ですから・・・・・」
「一応、近くの保健室に行ったほうがいいよ・・・・・、それで君、名前は?」
「ネギ・スプリングフィールドです・・・・・」
「僕は式森和樹」
その時、和樹とネギがしている頃、オッドアイの眼にツインテールの髪に鈴をつけた中等部の女子が通り掛った。
「・・・ん? あれ? あいつ?」
ツインテールの少女の名は『神楽坂明日菜』
真帆良学園本校女子中等部2年A組の生徒で、超人並の運動神経を持ち、そして彼女自身も知らない、ある『特殊』な能力を持っている。
「ん!? あいつの近くにいるのは・・・・・、あっ!?」
明日菜がネギの近くにいる和樹を見て、驚いた表情になり、そして彼を睨みつけるような顔になり、駆け足で近寄った。
「ん?」
和樹とネギが近寄ってくる明日菜に気付いた。
「明日菜さん・・・・・?」
ゴッ!!
なんと明日菜は物凄い強力なキックで和樹を蹴り飛ばした。
「ゲフッ!!」
そして和樹は物凄い勢いで吹っ飛ばされた。
その隙に明日菜はネギと気を失っている少女『宮崎のどか』の二人を抱え、全速力で走り去った。
余りの出来事にネギは明日菜に抱えられたまま、彼女に話し掛けた。
「ちょっ、ちょっと!? 明日菜さん!? いきなり何するんですか!?」
「そんな事より、アンタ!! アイツに何もされなかった?」
「えっ?」
明日菜のいる真帆良学園本校女子中等部二年A組と和樹のいる真帆良学園葵高等学校一年B組は超が付くほど程、仲が悪かった。
その理由は明日菜のいる二年A組は中等部の中では魔力も回数も桁外れで、トップクラスであった。
そのためか和樹のいる一年B組は女子中等部二年A組を目の敵にしていた。
そしてB組は仲丸と松田を中心に小さい芽は早い内に摘み取れと言う考えで、明日菜達のクラスを色々な手段で陥れようとしたが、明日菜達の活躍により、ことごとく失敗に終わっている。
それ以来、明日菜達二年A組の生徒達は一年B組に対して、激しい警戒心を抱くようになった。
「ネギ!! 葵高校一年B組の連中には気をつけなさいよ!! あの連中は金の為ならどんな事でも平気でやる、最低な極悪集団よ!!」
「えっ!?」
それを聞いたネギはとても信じられなかった。
和樹がそんな人間に見えなかったのだ。
「いい!! 一年B組の連中に少しでも隙を見せたら、骨の髄までしゃぶり尽くされるわよ!! 絶対に油断しちゃダメよ!! わかった!!」
「はっ、はい・・・・・」
その頃、和樹は彩雲寮の廊下にいた。
「イタタ、あの中等部の女の子のキック、かなり効いたよ・・・・・」
和樹は明日菜にキックを喰らわされた時のダメージがまだ残っていた。
「ウチのクラスって周りから結構、恨みを買っているしなあ・・・・・、随分時間食っちゃったな、早く支度しないと」
そう言っている間、和樹は自分の部屋のドアを開けた。
すると、自分の部屋にはなんと一人の少女がいた。
その女の子はピンクのロングヘアーで、なかなか愛らしい顔立ちである。
そして今、身に付けている服は純白の下着だった。どうやらその少女は着替え中だったようだ。
両者の時は止まった。そして沈黙は破られた。
「き・・・・・きゃあああああっ!!」
甲高い悲鳴は部屋だけでなく、寮内に響いた。
「ごっ、ごめんなさーい!!」
余りの出来事に和樹は廊下へ一目散に逃げる。
「何で女の子が僕の部屋に・・・・・!? 僕の部屋?」
ふと思い立ち、そのまま後ろ歩きで自分の部屋の前まで戻る。
そしてドアに貼ってあるネームプレートにはちゃんと『式森和樹』と書かれていた。
「ここは彩雲寮で男子寮・・・・・、そしてここが僕の部屋・・・・・」
和樹はちゃんと自分の部屋だと確認し、一度、気持ちを落ち着かせ、ドアノブを握って、ドアを開け、キョロキョロと中を見回す。そこには葵高校の制服を着た少女がいた。
その少女は正座をし、三つ指を床につけ、深々と頭を下げている。
「お帰りなさい、和樹さん」
「ただいま・・・・・」
ついうっかり返事をしてしまう。
「お疲れでしょ。お風呂になさいますか、それともお食事? そ、それとも・・・・・・・・・・」
彼女は頬を朱に染め、ちらりとベッドの方を見ると、なんと自分の枕の他にハートの刺繍をした枕もあった。
改めて自分の部屋をよく見ると、部屋は綺麗に掃除されていた。
まるで新婚の住まいのようだった。
「あの和樹さん?」
「えっ、あっ、ごめん少し考え事をしていたからって、僕の事知ってるの?」
「はい。それはもう、ずっと前から」
「君は・・・・・誰? 何で僕の部屋にいるの?」
「私、宮間夕菜と申します。真帆良学園の葵高校に転向してきました。今日から和樹さんの妻として、し、寝食を共にさせてもらいます」
少女は宮間夕菜と名乗り、顔を赤くしながら、可愛いしぐさを出す。
「つ・・・・・妻?」
和樹の頭の中に『つま』の二文字がつく言葉が連想される。
ツマヨウジ、つま先、刺身のツマetc・・・・・
「!?って、結婚もしていないのに!?」
とんでもない出来事に和樹はただ、驚くしかなかった。
そしてこの出会いが『運命の出会い』である事を知らずに・・・・・
後書き
イグレッグです。やっと第三話が書けました。和樹のいるB組と明日菜のいるA組は超仲が悪いです。この先、とんでもない騒動に発展していきます。
感想があったらお願いします。
レスの返事です
Dさんへ
和樹は次回、夕菜達を連れて実家に帰ります。
きりらんしぇろさんへ
和樹は仮契約していません。
BACK< >NEXT