寮を出た所で凛ちゃんに呼び止められた。
「式森こんな時間に外出か?」
「うん、ちょっとコンビニに。凛ちゃんこそどうしたの?」
「実家からの命令でな、何でも強力な妖怪がこの町に入り込んだらしいんでそれを退治しろと言うのだ」
「偉いんだね」
「そんなたいそうなものでもない。ただ杜崎に負けたくないだけだろう」
凛ちゃんの話では退魔士の家系で仲が悪いのは杜崎と神城だけでなく、大抵はどの家も仲が悪いらしい。協力して戦った方が楽なんじゃないの?と聞いてみたら
「年寄りはカビの生えた伝統を守るのに必死だからな、そう簡単にもいかんさ」
ここで別れるのもなんなのでコンビニまで一緒に行くことになった。
そしてコンビニに行く途中の道のりで、僕達は、出会ってしまった。
ードクン
僕の危険感知が最大限の警報を鳴らしている。ここに居てはやばい。
ードクン
凛ちゃんの方を見てみた。僕と同じように何かを感じ取ったのか凛ちゃんも緊張している。
ードクン
それは、僕たちの前に現れた。
「和樹さん、凛ちゃんと一緒にお散歩ですか…。お手数ですがちょっと路地裏まで来ていただけますか?」
顔は微笑んでいるが、目は全く笑っていない。…まあいつものことだけど。
前にも言ったが夕菜と一緒に居るときに危険を感じるのは当然のことだ。ーしかもこんな夜に2人っきりで散歩。夕菜じゃなくても誤解する人も結構居るかもしれない。違うのは話し合いの余地があるかどうかだけで。
だから僕はいつもの事、で片付けてしまっていた。
もう、そんな日常なんて、とうの昔に崩れ去っていたことに、気付かないまま。
凛ちゃんも付いて来ようとしたが、
「これは私たち2人の問題です」
との言葉で何も言わなくなってしまった。
思えばここにも前兆はあった。いつもの夕菜なら凛ちゃんもろとも殺そうとするはずだし、凛ちゃんももっと食い下がっていただろう。
だから凛ちゃんの
「今日の夕菜さんはどこかおかしい。気をつけろ」
との言葉に
「夕菜はいつだっておかしいよ」
と軽口を叩いたけど、今日の危険感知はいつもの比じゃないことにはちゃんと気がついていた。
夕菜に連れて来られた路地裏には、むせ返るような血の臭いが充満していた。
「夕菜、元気そうじゃないか?如何して今日学校休んだの?」
そのことに気付か無い不利をして、今すぐにこの場から立ち去れと命令する僕の脳に抗って、僕は夕菜に問いかけた。
「元気と言えば今までに無いくらい元気ですし、元気じゃないと言えば死体と同じレベルで元気じゃありません」
「どういう、こと?」
緊張で脂汗が浮かぶ。脳が、いや、体全てが、夕菜との会話を打ち切り、この場から全力で逃げ出すことを要求している。
「私、死徒になっちゃったんです。分かり易くいうと吸血鬼に」
と言って微笑んだ。
「なんで、」
『何で笑ってられるんだ』
そう言おうとしたが声は出なかった。
「吸血鬼も意外と便利ですよ。血を吸い続ける限りは永遠に生きられますし。ー何よりも、血を吸って死徒にすれば永遠に和樹さんを支配できますし」
やはり逃げておくべきだった。もう、恐怖で体が動かない。
「だから凛さんと一緒に歩いていたお仕置きは後です。死徒になれば浮気も出来ないのでそれが最後のお仕置きですね」
そういって心底嬉しそうな微笑みを浮べる。
「死徒になるのも資格がいるんですが、和樹さんならきっと大丈夫です。なんたって世界一の魔法使いさんですから」
そういえば、紅尉先生の話では僕の力は人間では制御出来ない魔力らしい。死徒とやらになれば制御出来るようになるんだろうか?
「それでは和樹さん、私と一緒に永遠を生きましょう」
そういって夕菜が顔を近づけてくる。
逃げたくても逃げれない。どうやら自分の体に見放されたらしい。
だから
「そこまでです」
と、凛ちゃんの声が響いたとき、振り向きたくても振り向くことが出来なかった。
後書き
今回は凛ちゃん登場です。こんな所でアルク出したら。一瞬で夕菜を殺して終わりですしね(身も蓋もありませんが)
次回はいよいよ戦闘です。
感想への返信です
33様 そうは問屋が卸しません。アルクと夕菜が戦うのは最低でも十七分割されてからです。そうじゃないと戦闘シーン書こうにも空想具現化一発で片付いてしまいそうですし。
ていん様 夕菜は精霊魔法も使うので普通の志貴ではきついです。七夜モードなら何とかなりそうですが。まあ…殺しても死にそうにもありませんが。
D,様 そして和樹の悪夢が始まります。全てが終わった後、彼には幸せは訪れるのでしょうか?
柿の種様 これからは、基本的にはダーク&シリアスで。余裕があればちょこっとギャグも挟みます。
魔王の力が覚醒すればアルクでもきついです。キシャー補正もあるので(ぉぃ)
orb様 夕菜はいつでもキシャーです。いつからキシャーかは分かりません(汗)
トロンベ様 確かに質量差をものともせずに勝てそうな気が・・・(汗)
草薙様 物質変化を無駄遣いしている二十七祖候補(笑)ですね
まあ夕菜の場合は死徒になる前から我慢なんて一度もしたこと無いでしょうし、当然といえば当然の結果です。
星領様 逃げ切れずに出会ってしまいました。和樹は生き残ることが出来るのか!?それは誰にも分かりません。
D・K様 メルブラのワラキアの技のように・・・(汗)キシャー自体が悪夢ですが。
皇 翠輝様 もちろん死ぬときには苦しみます。最後にどうやって現実を理解させるかが問題です。
紫苑様 和樹の為というのもありますが夕菜は強力すぎるので七夜の血も反応します。アルクはロアの手下である夕菜は絶対に見逃しません。
555様 夕菜にとってはただの食事ですから。
fool様 あの人は凛ちゃんでした。とりあえず夕菜に勝てなさそうな気はしますが、見守ってください。夕菜さえ滅べば和樹に平穏は訪れる…はずです。