式森和樹には特殊な能力があった。その能力は『危険感知』。
その名の通り自分に降りかかる危険を予知できる能力である。一般的に特殊な能力を持つ者ほど魔法の使用回数は低いがその中でも彼の低さはだんとつで8回である。
彼の通う葵学園では魔法の使用回数が一万以上の生徒もざらにいる中でもこれはだんとつの低さである。
まあそれはおいといて、最近彼の危険感知能力は麻痺しつつあった。というのも彼の日常が常に危険でいつも何かしらの危険を感知していたからだ。
…だから夕菜が死徒になって次の日の朝、和樹が幸せな気分に浸っても彼に罪は無い…多分。
「なんだか久しぶりに気分が良いなあ。いつもなら夕菜がピッキングしようとして失敗して逆上してドアを破壊する音で目覚めるもんな・・・」
…さわやかな目覚めだったのにいきなりブルーになってしまった。燈子さん製の鍵にしてからピッキングはしなくなったけど、ドアを壊して入ってくるんだもんな…
『私たちの家ですから』
といって一応ドアを直すのは救い何だかそうじゃないんだか…。
いっそのこと学校に「ストーカーに追われているので」っていって許可もらって燈子さんの所にかくまって貰おうかな…。
…普通に結界無視しそうで嫌だなあ。
とりあえず鬱な事考えるのはやめて学校にでも行くか。
「よお和樹。今日は元気そうだな?」
と聞いてくるのは、クラスメイトの中で数少ない友人の遠野志貴だ。ちなみにこいつも僕と同じで魔法回数は少ないほうだがそれでも78回はある。
「うん。何故だか今日は気分爽快だよ。志貴こそ貧血の方は大丈夫?」
「和樹に心配されるほど落ちぶれちゃいないさ」
…そりゃ志貴が貧血で倒れるより、僕が神経性胃炎で倒れたり、吐血したりする方が遥かに多いけどさ。…しかも保健室は保健室で落ち着けないし…。
ちなみに保健室に行くくらいなら早退した方がまし、というのが僕と志貴の共通の見解だ。
ちなみに志貴は以前に目を繰り抜かれそうになったとか何とか…。
「そういっていられるのも今のうちかもね」
…僕の危険感知は自分以外にも働く。その勘が告げている。近いうちに志貴も僕と同じような目にあうと…。
そして僕と志貴は談笑しつつも葵学園へと向かっていった。
教室に着いても夕菜はいなかった。伊庭先生の話によると無断欠席らしい。
…突発的な破壊衝動を除けば優等生の夕菜がどうしたんだろう。
何故だろう。今幸せなはずなのに。ものすごく嫌な予感がした。
そして何事も無く昼休みになった。夕菜がいない学園生活がこんなにすばらしいとは思わなかった。今ならB組の連中全員が親友に思えるくらいに幸せだった。
いつもは手作り弁当だの何だので購買戦争に遅れてしまい、ドリアンパンだのバナ納豆パンだのメロンパン(具がきゅうりに蜂蜜)だのしか食べれなかった日々が嘘のようにアンパン、カレーパン、コーヒー牛乳のゴールデンコンビを入手する事が出来た。
「この幸せの中で死にたい」
などと口にして志貴に心配されたりもしたが、概ね平和な昼休みだった。
そして放課後、うまく夕菜をまけた時は志貴と一緒に馬鹿やりながら帰ったりするのだが、今日から志貴は家の事情とやらで実家から通学することになったらしい。
志貴の実家は遠野グループと言って、玖里子さんの家に負けず劣らずの大企業らしい。
といっても勘当同然に追い出され、親戚の家に預けられていたが、迷惑をかけたくなくて全寮制の葵学園に入学したらしい。預けられた家と折り合いが悪かったかといえばそうでもなく今でもその家の子供が志貴を尋ねて寮に来たりもしている。
そう言う訳で一人で平和を噛み締めながら歩いていると、山瀬さんと会ったので一緒に話しながら帰った。彼女とは去年の文化祭以来親しく話すようになったが、彼女と話しているとほぼ確実といっても間違いないほど夕菜が乱入してくるので心を落ち着けて話すことが出来たのは本当に久しぶりだ。
夕菜曰く
『和樹さんの浮気は何処にいたってわかるんですっ!!』
だそうだがあながち冗談とは思えない頻度で乱入してくるのでブルーになる。
…兎にも角にも平和な一日だった
なんてことは問屋が卸さない。
「なんかちょっと小腹がすいたな…」
今日はいつもより胃の調子がいい和樹君。どうやら少しおなかが減ったようです。
「コンビニでも行ってくるか」
そういいつつも外出の準備をする。
ちなみに葵学園は自由な校風が売りなので寮に門限なんてものは基本的にはありません。
…というか自由な校風じゃなきゃいくら優秀とはいえ二年B組は一部を除き全員退学です。
そして和樹は食事を求めて夜の町へとさまようのであった。
「喉が渇きました…」
日が落ちると夕菜は餌を求めてさ迷っていた。
「和樹さんに会う前に少し腹ごしらえと行きますか」
と言って路地裏付近をうろつく。
すると高校生が三人夕菜の前を通りがかった。
何も言わずに集団に駆け寄り
ズシャアッ
片手で一人ずつ女子高生の腹を貫通する。
残された男子が呆然と腰を抜かすと。
「和樹さん以外の男に興味はありません。さっさと消えなさい」
と言いつつもショック死した女子高生2人の血を吸い始める。
「…血がこんなにおいしいものだとは知りませんでした。和樹さんの血の味はいったいどんな味がするのでしょうか…」
といって恍惚の表情を浮べる夕菜を見て、残された男は脱兎の如く逃げ出した。
「和樹さん、待っていてくださいね。今、会いに行きます」
そういって手についた血をなめつつも夕菜は和樹のいるコンビニへと歩き出した。
後書き
次回はいよいよ和樹と夕菜の接触です。そしてあの人も…
感想への返信です。
D,様 夕菜の能力は27祖に匹敵します。教会に付けられる名はもちろん『デビルキシャー』(笑)
ていん様 夕菜が居なくなって和樹はむしろ幸せです。…まあ今だけですが(苦笑)でも和樹も最後はきっと幸せになれます。
草薙様 現在は覚醒して間もないのでまだ四季に主導権があります。…まあ壊れすぎな気はしますが(汗)
夕菜のポテンシャルは27祖でも上位クラスにくい込みます。夕菜の中にある存在も影響してますが。