飛んでくる火球を和樹は天鎖斬月で消滅させる。
だが、いくら斬ろうともきりがない。
まるで底が存在しないと言わんばかりに、キシャーは数多の攻撃魔法を繰り返す。
「よっ!」
真上から襲い掛かってきた濁流を一刀両断する。
本当に、きりがない。
「さっさと死になさい、この偽者が!!」
とりあえず、叫びまくっているキシャーについては無視しておく。
(さて、どうしたものか)
キシャーの攻撃に巻き込まれる形でB組のクラスメートが気絶していく。
もっとも、和樹自身はB組のクラスメートに恨みこそあれ感謝とか、そう言った正の感情は欠片たりとも持ち合わせていない。
まぁ、普段の彼らの行動を見れば、一目瞭然と言えば瞭然だが。
(クイックシルバーで時をスローにする? ・・・でも、なんかスロー世界に入ってきそうなんだよなぁ)
和樹よ、お前の考えは100%正しい。
そんなことした時には、キシャーは間違いなくキシャープラチナを使ってくるから。
まぁ、たぶんだけど。
「どうして当たらないんですか偽者!!」
「いや、当たると死ぬし」
「私が死ねと言ったら黙って死ねばいいんです!! どうしてそれがわからないんですか!?」
誰か、このキシャーを止めてくれ。
ってか、このキシャー、マジで精神病院行きを決定である。
自分の意思は、天上の神の声と同異議だと考えているのだろうか?
もし、そう考えているのから本気でやばい気がする。
もちろん、いろんな意味で。
(もはや、話すだけ無駄だな)
そんなことを考えると、どこかで火球が着弾した。
まったく持って、この目の前の女は被害とかその後のこととか考えていないのではないか?
不意に和樹はそう考える。
安心しろ、和樹。
お前の感は当たっているから!!
「さて、こう言うのりは嫌いなんだがな」
そんなことを言いながら、和樹は神速で一気に夕菜の懐に飛び込んだ。
「寝て「自分から間合いに入り込んでくるとは、いい度胸ですね偽者」・・・!?」
突然の夕菜の声に、和樹は咄嗟に後ろへ飛んだ。
飛ぶと同時に、和樹が入り込んだ夕菜の懐に全方向から火球が着弾する。
相互効果により、火球の威力は倍以上に膨れ上がり大爆発を起こした。
これにより、B組の教室だけでなく、その階の壁や窓ガラスなどが全て消し飛ぶ。
「ったく、大丈夫か沙弓」
「ええ、なんとかね」
そう言って和樹と沙弓は瓦礫の中から姿を現した。
和樹は咄嗟に、天鎖斬月に魔力を送り込み現れた黒い片翼を用いて爆発を防御したのだ。
もちろん、完全にとはいかなかったが。
それでもせいぜい人に軽く押される程度まで軽減した。
なお、和樹たちが瓦礫の中から出てきたのは、単純に飛んできた瓦礫に埋まってしまったと言うだけである。
「まぁ、それでも自分から自爆紛いのことをするとは、彼女も阿呆ね」
「ああ、だが魔力自体は桁外れだ・・・・もしかしたら純粋な人間じゃないかもしれない」
「どういうこと?」
「前例を知ってるだけだけどな、こう言う場合、大抵は上級クラスの何かが憑いている」
「上級クラス?」
「ああ、そしてあのキチ○イに憑いているのは最上級の魔王クラスだろうぜ」
「げっ!! マジ!?」
驚く沙弓に和樹は軽く肩を落とした。
「そうとしか考えられない。じゃないと、あの異常な魔力は説明・・・・っ!!」
咄嗟に和樹は天鞘斬月を横に薙ぎ払った。
その一撃により、煙の中から飛んできた火球は消滅した。
「おいおい、マジですげぇな」
呆れたように和樹は呟く。
その隣になっている沙弓もまた、驚愕に表情を染め上げた。
煙の中から現れたのは、多少制服が焦げているものの、まったく無傷のキシャーの姿だった。
「さっさと死になさいって言ってるんです、この偽者」
そう言って、キシャーは今までにないほど大きな火球を作り始めた。
やっぱりイフリートが申し訳なさそうな顔をしているが気のせいだろう。
「ちょっと、どういう化け物よあれ」
「さっそう、人間に見えねぇな・・・・さて、どうしたものか」
「ちょっと、和樹の客なんだから和樹がどうにかしてよ」
どうやら沙弓はあれと無関係を決め込みたいらしい。
そりゃまぁ、精神的な衛生上よろしくないのは間違いない。
『B組の良心』と呼ばれている沙弓だが、それでも自分の命はおしい。
「とは言っても、あれはそう考えていないらしいぜ?」
和樹はキシャーを指差しながらいう。
それを聞き、再度沙弓はキシャーの方を見た。
「ちょっとそこの塵!! さっさと死になさい!!
例え偽者でも、和樹さんの姿をした者と一緒にいるなんて不愉快です!!
今すぐ消滅させてあげますから動くんじゃないですよ!!
キシャァァァァァアァァァァァァ!!!!」
そう叫ぶと、キシャーから超巨大な火球が発射される。
はっきり言って、着弾すれば間違いなく葵学園は消滅するだろう。
「最悪の展開だな」
呆れたように和樹が呟くと、同時に彼の目が両儀なる瞳とかした。
同時に、セカイを埋め尽くす線と点のセカイ。
ああ、そうだとも。
「セカイに死が満ちている」
和樹は自分に向かって飛んでくる火球をよく観察した。
火球の中心付近に存在する点。
本当に、それはなんて簡単な行為。
和樹はその点を迷うことなく天鎖斬月で穿つ。
火球は最初から存在していなかったかのように消滅した。
「――天照」
静かに目を閉じ、再び開けてキシャーを睨み付ける。
その瞬間、瞬炎と呼ぶに相応しい炎がキシャーの体を飲み込み、キシャーを吹き飛ばした。
吹き飛び、壁に激突するキシャー。
それを確認すると、和樹の瞳が普通の黒い瞳に戻る。
「やれやれ、『直死の魔眼』に『天照』・・・・どんだけ化け物なんだよ」
呆れたように和樹は呟く。
それに同意するかのごとく沙弓も頷いた。
「で、あの異物、どうする?」
「とりあえず、どうにかしないとな、相手は宮間だが流石にこれだけの惨事を隠蔽は出来ないだろう。
宮間の責任追及は、ほぼ確定だな」
「そうかしら? 協会ほどではないにしろ、地位の高い家系の隠蔽力は凄まじいものがあるわ。
おそらく、宮間は手段を選ばずこの惨劇を隠蔽するんじゃないかしら?」
「ああ、それはない」
と、和樹は何でもないように言い切った。
「どうして?」
「『式森』として、そんなことやらせない」
「ああ、なるほどね」
納得したように沙弓は頷いた。
『式森』の裏世界の影響力は絶大だ。
それこそ、彼らが一声かけるだけで、協会の大幹部が全員次の日には新しい人物に変わっているほどである。
この影響力は、『式森』に多くの有名な魔法使い、あるいは魔術師の血が流れているのが原因である。
現代魔術師で言えば、『蒼崎』や『遠坂』。
果てには彼の魔道元帥、あるいは万華鏡と呼ばれる老人『キシュア =ゼルレッチ・シュバインオーグ』の血まで流れている。
それゆえ、魔法回数こそ少ないながら、『式森』の魔力は事実上、地上最強なのである。
超一流の魔術師が数十人規模でやっと行える天候操作術を、『式森』はただ1人で軽くやってみせる。
また退魔師としても、優秀な家系の血が多く流れているのは確かだ。
つまるところ、『四大退魔』と謳われる『両儀』、『浅神』、『巫浄』、『七夜』。
『式森』はこれら4つの家系の血も流れている。
故に、その卓越した身体能力は『七夜』に引けをとらない。
だからこそ『退魔組織』の中において『式森』は末席に名を連ねながら頂点に君臨するという異例的な状況を作り上げた。
そう、誰も彼ら『式森』に逆らってはいけない。
逆らうことは『死』を意味するのだから。
そう、例え炎術師として最強を誇る『神凪』でさえ『式森』に逆らうことは許されない。
そもそも、存在規模自体に差がありすぎるのだから当然といえば当然だ。
以前『神凪』が愚かな事に『式森』に喧嘩を売った。
自らが最強と自惚れて修行もろくにしない『神凪』の術者たちは、その愚かしいほど醜い心の欲望を満たすために『式森』に喧嘩を売ったのだ。
性質の悪いことに、この事件には当時の『神凪』の当主が参加していたらしいので尚始末が悪い。
そして、結果は言うまでもない。
この事件にかかわった『神凪』の術者は、全員病院送り。
軽い症状のものでも全治3ヶ月。
悪いものなら、一生ベットの上だそうだ。
そして驚くことに、この決定的な結末を作り上げたのは和樹ただ1人だったということだ。
当時13歳。
そんな子供が、大の大人、それも『神凪』の術者を約30名ほど相手に作り上げたというのだから信じられない。
そうだとも、だからこそ誰も『式森』に喧嘩を売らない。
喧嘩を売るということは、自分から殺してくださいと言っているものだからだ。
『神凪』はこの時、初めてその言葉の意味を肌で感じ取った。
そして、表面化で『神凪』は『式森』を敵視しながらも喧嘩を売らずに毛嫌いしているという状況が続いている。
尚、『神凪』の前当主は全治4ヶ月の傷だったということをこの場に記しておこう。
「にしても、なぁ」
そう言って呆れたように和樹はキシャーの方を見た。
そこには、服が所々焦げたものの、平然と立っているキシャーの姿があった。
「・・・・嘘」
そんなキシャーの姿を見て、沙弓は呆然とした。
和樹が使う『天照』の火力は一瞬にして数千度に達する。
それこそ、地面に着弾すれば地面の石などが余りの高温に溶けきってしまうほどの温度だ。
それほどの熱量を受けて、キシャーのダメージは服が焦げただけ。
いったい、どれだけの化け物なのだろうか。
「せっかくの私の制服をどうしてくれるんですか、この偽者!!」
どうやら自分の制服が焦げてしまってキシャーは怒っているようだ。
それにしても、学校はすでに瓦礫寸前だ。
この時点で、キシャーは学校のような公共物よりも自分の制服の方が大事だと判明。
「まさか天照まで通用しないなんて、な」
流石に和樹の背中に冷たいものが流れるのを感じる。
「さぁ、これでも喰らって死になさい」
キシャーは中級攻撃魔法を瞬時に発動する。
その数、約50。
「おいおい・・・・・」
「ちょっと、何とかならない?」
「まぁクイックシルバーを使えばなんとか」
と言ったところで、和樹と沙弓に攻撃魔法が一斉に発射された。
(ッ!! 予想より早い!)
和樹の予想した攻撃魔法の速さよりも、実際の方が早い。
(まずい!! これじゃクイックシルバーが間に合わない!)
と、和樹が考えたときだった。
凄まじい轟音。
それにより、中級クラスの攻撃魔法は全て弾き飛ばされてしまった。
「大丈夫ですか!? 式森先輩!!」
そこに現れたのは、神城凛だった。
その手には愛用の刀『千本桜』が握られている。
「ちょっと凛さん!! どうして邪魔するんですか!?」
突然邪魔されて、キシャーはかなりご立腹のようだ。
「何を言ってるんですか夕菜さん!! 人に対して攻撃魔法は犯罪ですよ!?」
「私は和樹さんの偽者を蒸発させるだけです!!
いったいどこが犯罪なんですか!?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
無言のまま、凛は和樹の方を見る。
「あ~、言っとくけど俺は本物だからな」
とりあえず弁護しておく和樹。
「うるさいですよ偽者、私に愛を語ってくれなくて、尚かつ私に危害を加える奴が和樹さんのはずがありません!!
さっさと招待を表したらどうなんですか!? この偽者が!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
凛は無言のまま千本桜を鞘から引き抜いた。
尚、凛が無言のときはかなりやばいのだ。
「やっば、凛の奴、キレちゃったわね」
「ああ・・・・『神城一族の歴代最高の剣士』か」
神城一族が始まっておそらく後にも先にも二度と生まれてくることがないと言われる最高の天才。
それが凛であった。
卓越した身体能力を始め、和樹には劣るものの類まれな魔力。
そして、それらを生かすための術や知識。
類を見ないほどの才能があった。
彼女は和樹と出会うことにより自らの才能に驕れる事無く、自らの才能を更に更に磨き上げていった。
そして今では凛は神城一族の最高の秘宝とされる『千本桜』を手にするまで至ったのだ。
そして、『千本桜』の真の姿はこれではない。
そう、刀ではない。
「―――いきます」
ゾッとするほどの低い声と共に、凛は千本桜に魔力を込める。
そして、変化が訪れた。
千本桜が空間に消えていき、凛の背後から合計6本の巨大な刀身が地面から生えてきた。
キシャーは、呆然とその光景を見続ける。
「千本桜景厳」
刀身が砕け散り、まるで桜の花びらの様に空間を舞った。
あとがき
BLEACHネタ第2弾。
今回は『千本桜』に出てもらいました。
もちろん、『殲景』も『終景』もありますよ。
降行さんへ
はい、キレまくっていますキシャーさ。
それにしても、キシャー、私の予想よりも強くなってしまったような気が・・・
suiminさんへ
>基本的に常識がないようで……。
だって、キシャーですから。
>よく宮間の連中もこいつを和樹のところに送り込む気になったものだと思います。
今頃、宮間の家の中は死体まみれ・・・・(ブルブル
まぁ、両儀なる瞳の最後の能力は、いまだ謎ということで。
ビーンさんへ
キシャーが駄目人間なのは当たり前です!(ぇ
沙弓についてですが、今はまだ検討中ですね。
D,さんへ。
もはや、キシャーは怪異扱いということで!!(ぉ
さすがに王子様症候群にはしません。
それをしていいのはナ○シコのユリ○だけですから♪
紫苑さんへ
私の中ではキシャーは電波キャラ決定です。
沙弓については、次回か、その次ぐらいということで(ぁ
皇 翠輝さんへ
はっは~♪
キシャーなんて、痛いキャラで十分なのです!!
いえ、しかし罪は償ってもらいましょう。
いずれ(ニヤリ
ていんさんへ
まぁ、確かに一般人を殺して喜ぶ人間なんていないでしょう。
いたら、そいつは間違いなく殺人鬼。
まぁ、本当にキシャーの頭の中を知りたいなぁ~
そらさんへ
いやぁ、キシャーは人間じゃありません!!(ぇ
おそらく、『直死の魔眼』ではちゃんとは見えないと思います。
だって、キシャーですから。
tttさんへ
違いますよ、tttさん。
厄介払いじゃなくて、キシャーが家族を説得(殴る蹴るの暴行で)をしたんですよ。
ええ、間違いなく!!
nackyさんへ。
いいえ、たぶんそんなことできないと思いますよ。
やったら「お父さん!! 何を勝手なことを言ってるんですか!! キシャァァァァ!!!」
となりそうですし(汗
アルファさんへ
ええ、犯罪はいけません。
でも、キシャーにしたら犯罪じゃないみたいですね。
もはや、精神病院行き確定!
foolさんへ
はい、和樹君は押され気味ですね。
しかし、こう言う時こそ主人公を助けに来るのがヒロインの役目!!
凛には頑張ってもらいましょう。
さて、今回は多くの方々に返事を頂、本当にうれしく思います。
しばらくテスト期間なので、更新は停止させていただきますので、ご了承ください。
では、次回も見捨てないで読んでくださいね。
なんか、今見たら消えていました・・・・なぜでしょう?
とりあえず、再度投稿させていただきます。
では