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「生まれ得ざる者への鎮魂歌―第二話『別離・・そして、楽園の時へ』―(天上天下+オリジナル)」

ホワイトウルフ (2005-02-13 21:09/2005-02-13 22:42)
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わしは、あの時去っていく兄様を止められなんだ。兄様の初めて出会った時の俯かせた顔と同じ顔・・・悲しみと孤独を纏った『あの儚げな笑顔』を見て、わしは何故か足を止めてしまった。


生まれ得ざる者への鎮魂歌
第二話『別離・・そして、楽園の時へ』


二年前のあの日、わしは揺れていた。兄様は全て知っていて、兄上の凶行を全て止めていたと聞いたのは、後の話じゃ。だから、兄様のあの時した『覚悟』はずいぶん前から決めていたことなのじゃろう。

だが、あの時、仮に・・・そう仮に兄上をわしの手で救えても、きっと兄様まで救うことはできなかったじゃろうと今思えば、いまいましくもわしは気づいてしまった。

兄上と同じ・・・いや、全く別種の『宿命』を兄様は背負っていたことにわしは、全く気付かなんだのだから。―――そう『兄上のこと』は気付けても、兄様の『苦しみ』『悲しみ』『孤独』も何一つわしは気づいてやれなかった。・・・わしにはあの時、兄上のことで精一杯だったのじゃから―――。

・・・でも。

「それでも、お恨みしますぞ兄様。何故、一言もわしに教えてくれなかったのじゃ?」

真夜は今でも、其れを思うと涙した。


―二年前―

『SPIRIT』・・・真夜にとって、三度目の勇士がつむいだ言葉・・・この勇士と過ごした九年間の中でわずか二度しか聞いたことのない『呪詛』のような言の葉を聞いて真夜は凍りついた。

一度目は、出会ったとき。

二度目は慎が、真夜が『虎(フー)の罠』にはめられたのを見て『暴走』した時。

・・・そして今、三度目の言葉を聞いたとき、勇士の歳を経て背まで伸ばし後ろで一房にくくった黒髪は再び銀の輝きを持ち、その黒色の瞳は赤々と染まった。

あの『最後の』と言うべきかどうかは分からない。
あの運命の日、『光臣』『慎』との試合―――いや闘いの時。傍観者であったはずの勇士はそこに『乱入』した。

しかし、それは今までの二度の時の変貌を遂げた勇士の様子と違った。纏う空気も、そして何よりあの瞳の奥の瞳孔が・・・獣のように荒々しく裂けていた。そう・・・まるで慎と同じ『龍眼』のように。唯一、龍眼と違うのは・・・あの禍々しいまでも『血』を連想させるようなあの『真紅』の瞳の色の深さだろう。その深さゆえ覗き込んだものの魂を抜き取るような寒ささえその眼に宿してきた。

わずか・・・ほんのわずかの時間だった。前に慎を止めたときより、桁違いの力をその場の者たちに勇士は見せ付け、慎の暴走を完全に鎮圧させた。

経略はこうだ。

暴走する瞬間、慎は『葛葉 真魚』の乱入の隙を利用し、彼女ごと光臣に『鍛針功』をあてる『予定』だった。いや・・・慎には、おそらくあの時見えたのは『光臣の隙』だけだったのだろう。だが、そこには龍眼ですら見えなかった未来があった。

『SPIRIT』・・・除け『ドン!』
『ズギャ!!!!』

勇士が・・・あの呪詛をはいた後、真魚を突き飛ばして代わりに『鍛針功』を直撃で受けた。だが、其れでも貫通した余波が光臣を襲う。

(ばか・・な・・・これは・・・高柳家の奥義『龍形氣功 鍛針功』!?)

光臣は、状況把握より、自分が放たれた技に驚愕を覚える。

慎は、そのまま道場の端まで吹っ飛んだ光臣への追撃に移り、光臣に乱撃を食らわす。あわてて、『柔剣部』の部員の二人である『俵』と・・・何故か『クズ男』が止めに入るが一撃で潰される。俵はアバラを大半やられ昏倒、クズ男はふっとばされたまま動かない。どちらも重症だ。

このまま、慎の暴走と言う名の『凶行』が続くのかと思われたその時だ。葛葉があわてて勇士に駆け寄って勇士の様子を伺っていた正にその時、勇士の姿が掻き消えた。

「・・・眼をさませ。愚弟」
『ブン!!!!』

次にそこにいた観衆が勇士の姿が見えた時は、もうすでに隅にいた慎の頭を右手で鷲づかみにして道場の中央の床に正確に弧を描くように投げ飛ばした・・その慎との背丈の合わない異様な姿だった。

慎は、あわてて床に叩きつけられては適わないとばかり、空中で体勢を立て直し、着地の態勢に入ろうと床を見下ろしたが・・・驚愕した。見下ろした床に今、先程、自分を投げ飛ばした己の『義兄』が悠然と立ち、己をその『紅い眼』で見上げていたからだ。

「な!・・・『ズドム!!!!』・・がは!!」

鋭い重低音がとともに、慎は一瞬、意識が遠退きかけた。己の腹には、兄の足が突き刺さり、己はそのまま、空へと縫い付けられ・・・そこで初めて、己が暴走していたことに慎は、気がついた。

もはや、『龍眼』で読めなかった勇士の未来の動きの疑問より・・・己を足で空に縫いつけ、悠然と片足で立つ兄が見上げる冷たい『紅い闇の眼』から放たれる威圧感にさらされ・・・慎は気が気でなかった。

そこで、初めて真夜は気づいた。『鍛針功』を直撃したはずの自分の兄様に怪我がないか。だが、心配した真夜は・・・勇士の姿を見て、ぎょっとした。正確には・・・『鍛針功』によって勇士の黒いレザーシャツが吹っ飛ばされ、除かせた初めて見る己の『義兄の背』を見て、凍りついた。筋肉質でもない均一に統合されたその綺麗な『怪我のない』肉体よりも・・・何より、驚愕される物があったからだ。

「な・・・兄様? な、なんじゃ・・・その背の・・き、傷跡は!?」
「え?」

真夜の指摘で気付いた真魚は・・・放心していたその身を奮い立たせて真夜のいった勇士の背を見て、真夜と同じく凍りつき、その場にぺたんと座り込んだ。

そこには―――勇士の背には奇怪な図形が・・・俗に言う『魔法陣』のようなモノが描かれていた。・・・ただし、見た者が血の気の失せるような深い傷で。

『ドサ!!』

座りこんだ真魚の傍に足を下ろし、慎を下ろす。
そうして下ろされた慎に・・・もはや、戦意などなかった。

「・・・こうなることは、分かっていた。遅かれ早かれとな・・・真夜、やはり俺は誰も救えはしない。誰もな」
「な、何を言っているんじゃ兄様?」
「この手は血に濡れるしか能のない屍をつむ手だ。俺はあの時、親父殿とおふくろを『また』守れ・・・いや、『また』殺めてしまった」

その時、真夜には見えた。

勇士の背に片方が漆黒の・・・。
そして、もう片方が純白の一対の大きな羽を・・・。

さながら真夜にしか見えないその堕天使に似た翼をもった義兄が真夜には、何か遠い存在に見えた。

「俺は、慎が堕ちた先の姿だ。・・・誰も救えないのなら、俺は奪うだけだ。俺は俺であり続けるため―――『俺』が慎の『闇』を連れて行く。だから、後は・・・頼んだぞ真夜」

『ドシュ!!』

そう言いながら、勇士はその場に倒れている慎の胸の心の蔵、目掛けて右の手を突き刺さした。

「かは!!」

突然の出来事に苦痛を訴える慎。

「「な!!」」
「何をするつもりじゃ、兄様!?」
「やめて!! 慎君を殺さないで!!」

勇士の行為に大声で真夜は問い、真魚はとっさに傍にいる勇士の腕をつかむ。

「・・・言ったはずだ。俺は慎の『闇』を奪うだけだ。慎の命まで奪いはしない」
「何を!?」
「ぐぅぅー!!」

未だ、痛みを訴える慎。だが、真魚は反論しようとするも、気付いた。
『何故、心臓を突き刺しているのに慎は生きているどころか唸れるのか?』ということに。

「まさか・・・心霊医術!?」
「似たようなものをしてるに過ぎない。・・・ここか!?」

『ズブ!!!!』

真魚が、押さえつけていた華奢な腕はその腕の形容に似合わず、一部とも行動の妨げにはならない。そして、ついに引き抜いた勇士の右の手には血が一滴もついていない代わりに・・・よくわからない禍々しいまでの鈍くて黒い輝きを持った『何か』があった。

「・・・これは、俺が持っていく。慎は俺と同じ道をたどるべきではない」

そう言って勇士はその禍々しい黒い『何か』を己の胸に突き刺した。

『ドシュ!!』
ぐ!!・・・・・・はぁはぁはぁ」

突き刺した手は又も、血はついていなかったが真夜は悟った。あの黒い何かはまずい、毒物以上にまずいものだと・・・。

「兄様!! さっきの『黒いモノ』を吐き出せ!! それは兄様の体に負荷を掛ける!!」
「馬鹿を言うな。そこら辺に捨てられるほど生易しい『モノ』ではない。この身はすでに堕ちた身だ。だからこそ、抑えられる。しかし、それだけだ。もはや・・・お前らのことまで考慮はできない」

考慮できない。それはつまり・・・。

「兄様が・・・兄様が兄上のように暴走すると申すのか!?」
「はぁはぁはぁ、真夜。俺は、ようやく、分かったよ」

息を切らしながら、勇士が持つその威圧感は落とすどころか、胸に突き刺した黒い異物のおかげで加速させて増大した。

だが、不思議と其れを見ていた連中に恐怖を感じないのは、勇士が真夜に言った優しげな口調と・・・何より、真夜の問いに答えずに見せた孤独と悲しみを纏った『儚げな笑顔』を見たせいだろう。

「な、何がじゃ? 何が分かったのじゃ?」

其れを聞いてはいけないと、直感で悟っていたが真夜は震える声で・・・聞いてしまった。

「九年前のあの雨の日、何故、俺がお前の目に止まり・・・何故、お前に気に入られ・・・何故、お前の家に引き取られたのか?」
「・・・・・・・」

真夜は、小さく子供のように震えたまま沈黙した。

「俺は今日と言うこの日のために・・・今日、こうするためだけにお前と出会ったんだ」
「ちがう!!」

真夜、否定した。勇士の言ったことが、あまりにも悲しすぎることだったから。真夜は自分の奥底の気持ちから・・・勇士の言ったことを全力で否定した。

しかし・・・運命は加速したまま止まらなかった。

「・・・お前がどう言おうと、もはや戻れはしない。もう触れ合うことはできないし・・・会う事も・・・叶いはしないだろう。それでいい・・・それでいいんだ。慎が、地獄に落ちるくらいなら、これでいい」
「あ、兄貴?」

初めて、そこで慎が口を開いた。

「慎・・・お前の闇は俺が連れて行く。もはや、お前が闇に飲まれて暴走することはないだろう。例え、『零毀』を持ってしてもだ。お前の中に糧とすべき闇がない以上、『零毀』はお前を主人として見放すだろう。だが・・・亜夜は違う。亜夜にだけは触れさせるな。俺が心残りなのは・・・何も告げられない亜夜だ」
「そ、そんなこと、兄様がここにいれば済むことじゃろう!!」

真夜の叫びは、むなしくも無視したまま勇士は喋り続ける。

「慎、お前の中の龍眼は・・・まだ『繋がった』ままだ。その眼を魔眼ではなく、浄眼として使え。お前は、闇の残滓を落とし、死ではなく生に贖罪し、モノを生かし続けろ。俺からは・・・以上だ。こんなことしかできない俺を許せ」
「ふ、ふざける『トス!』・・!!」
『ドサ!!』

勇士の言葉に、切れかけた慎の前から一瞬で、背後に回り当身を食らわせて、勇士は慎を気絶させた。

「慎を任せたぞ」

勇士は、真魚にそう告げる。

「どこに行く気ですか? あなたには、まだ見届ける義務があるでしょう? 兄として」
「もう、見届ける必要などない。こいつらは、もう立派にひとり立ちできる。・・・例え、俺がいなくても・・・・・・だが、先程言った亜夜だけは気がかりだ」
「なら、あなたが導いて「ないない」・・・」

勇士が言う口癖を聞いて・・・真魚は言葉を止める。

「その必要はな。・・ないんだ。俺が導かずとも、少し馬鹿だが・・心根が優しい兄と、厳しくも大らかな姉が亜夜には居る。慎のようにもう『闇』を彷徨うようなことはないだろう」

そう言って、勇士は真魚に慎と光臣の闘いの始まりのときに預けていた黒いレザーコートを受け取る。

「しかし、あそこでこのコートを吹っ飛ばされたら如何するつもりだったのだ?」
「え?」
「ふふ、一応・・お気に入りなのだぞ、これ」

今までとは、打って変わった雰囲気で言われた言葉に真魚は呆けるしかなかった。
そして、勇士は上半身が裸にならないようにと受け取ったレザーコートをその身に羽織り、最後にと言わぬばかりに光臣に真剣な眼差しで向く。威圧感が、一瞬晴れたのは幻とばかりに、道場の隅にいた光臣を包む。

無論、その紅い眼で光臣を捉えて・・・。

「―――光臣、俺はお前を恨みはしない。・・・が、拒絶する。お前は自ら望んで力におぼれて堕ちた。もし、今日ここで起こったことを己のせいだと少しでも思うのであれば、追って来い光臣・・・貴様のなすべき贖罪を俺が教えてやる。俺の足跡を辿り続けろ。俺がお前に望むことはそれだけだ」
「・・・・・・」

勇士の言葉は聞こえていたのだろうが・・・光臣は答えられなかった。

「・・・さて、手向けだ。真夜、受け取れ」
『シュン!』

勇士は、コートの胸ポケットに入っていた黒いサングラスを真夜に投げ渡す。

「兄様?」
「写真は一枚。お前らと此間撮った一枚しかない。後、俺が残せるものは生憎それくらいにしか思いつかなかった。・・・・『ゴホ!!』

言葉の端で、勇士はいきなり吐血した。

「「!!」」
「兄様!!」
「来るな!!!!」

其れを観てあわてて、走りよってくる真夜を勇士は声を上げて止める。

「・・・ふぅ、時間切れだ。もう持たない―――か」

そう小さく勇士が呟く。
次の瞬間、威圧感が倍加した。いや、もっと正確に例えれば、道場の空間が凍りついた。

「聞け。我は・・『生まれ得ざる者』をこの身に宿す者。全ての生きとし、生けるモノの天敵にして、人で在らざる者だ・・・・・・・さらばだ真夜。不出来な兄ですまなかったな。お前たちと居た9年間、俺にとって掛け買いのない『明るい日々』だったぞ」

そう、勇士は最後に言い、儚げな笑顔と共にゆらゆらと陽炎のごとくその姿を『消した』


・・・その場にはまるで居なかったように、『白観 勇士』は2年前のあの日、姿を消した。
しかし―――。



―現在―

そこは戦国と言う名の楽園だった。


―???視点―

「転校初日から、もう面倒だと思っている自分が居るな。全く、あの女。『あなたはそこに行くべきです』だと? 其れこそ、余計な世話と言うものだ」

一人の青年が居る。サングラスを掛けて、銀髪の背まで伸びる長髪を後ろに束ね、袖なしのネックの黒いレザーシャツを着て、腰に黒のレザージャケットを腕の裾で巻きつけ、黒いレザーパンツを穿いた格好の青年が・・・ここ、『統道学園』の校内を闊歩している。

何故、私服なのか? もしかして『この統道学園の生徒ではないのか?』と聞かれれば、答えはNOだ。

そもそもあんな堅苦しい服は自分には似合わない・・・が似合わないからといって、この学園に『生徒』としてきた以上、制服は着なきゃならない。だから、今まで来ていたのだが、一応今は放課後と言うことで、颯爽と着替えた。

え? どこで着替えたか?・・・まあ、そんなことは気にする必要のないことだ。
ちょちょいのちょいと、すれば『問題』はない。

・・・あまり気にするな。

―――ふと気がついたが俺は誰に心の中で話しているのだ?・・・いや、俺は『電波形』ではないはずだ。絶対、そんなものになったつもりはない。

「ふぅ・・・どうでも良いが、ここは広いな。図書室に行きたいがどこにあるのだ?」

「くそ!! あの一年、つええぞ。おい!! 誰か、棗さん連れて来い!!」
「ん?」

俺が歩いていると、ここの3年らしい人が、何人か俺の横を走り去っていく。

「おい!」

ん? 俺の肩を先程駆け抜けたうちの一人の先輩らしき一般人Aの男子生徒が掴んできた。
―――何だ?

「てめえ、何年だ? 三年じゃねえだろ!? てめえもあいつらの仲間か?」
「は? 仲間? いや、俺はただの転校生だが・・・」
「転校生? って、お前何年だ?」
「2年」
「―――どうでもいいが、ここは3年の階だぞ」

・・・・・・いらぬ所に来たな。

「ああ、情報に感謝する先輩。ついでに、図書室とはどこだ?」
「あん? 図書室ならそっちのだな。でも、そっちにゃ・・っておい!!

俺は先輩が指差したほうに、すたすた歩いていく。何か言っていたが、まあいいだろう。



・・・死屍累々というか何と言うか。まあ、めんどくさい所に出たな。でも、図書室ってあの先だろう。一応、チャレンジするか。

俺はそう思いながら、いろいろと気絶している三年の輩が転がる廊下の床を、悠々と歩いて、ある所に来て止まった。

「あん? てめえ誰だ? 俺ら『爆拳(ナックルボム)』にかかってくんのか?」

目の前に死屍累々となった場所の原因の2人が俺の前に立ちはだかったからである。

一人は・・・なんていうかチビ? で、もう一人が黒人のノッポ。非対称的な二人だな。

「おい、聞いてんのか!? そこの銀髪グラサン野郎!!」
「いや、全く」

いきなり、怒鳴りつけてきたチビに真実を俺は明かした。

「てめえ、やるんならさっさとかかってきやがれ!!」
「・・・邪魔だ、除け。俺はお前らなどに用はない。その先にある図書室に行きたいだけだ」
「はん、何か、むかつくな!! どいて欲しけりゃ俺らを倒してからにするんだな!!」
「宗一郎、俺を数に入れるな。やりたきゃタイマンでやれ。どう考えても、ありゃ通行人Aだ。少々、えらそうだが・・・」

チビが好戦的なのは分かったが・・・。ノッポは、チビに言った台詞を聞くに、邪魔にはなりそうにないな。

「なら、いい!! 俺一人で行かせてもらうぜ!!」

そう言うなり、宗一郎とノッポに呼ばれたチビが、殴りかかってきた。
やれやれ、口で言っても聞かないか? 格下に下出に出るのも億劫だし・・・まあ、適当に流すか。

「はぁ・・・益もない闘も武も好まないのだが・・・」
「べらべら、うぜえ!!」

『シュン!!』
「!・・・ち! よけやがったか?」

殴りかかってきたチビの拳を軽く捌いてやったが・・・気づいてないようだな。

「・・・おいおいマジかよ?」
「あん、ボブ如何した? って言うか、いつの間にそっちに移動した?」
「宗一郎、そいつかなりやべえぞ」
「何、言ってんだ?」

ボブと呼ばれたノッポは、外側から見ていたから気付いたのだろう。俺のほうを見て、冷や汗を流してる。

「宗一郎、俺は一歩も動いちゃいねえ。もちろん其処の銀髪野郎もだ」
「てめえが、動いたから其処にいんだろボブ? ボケたか?」

全く、気付いてない馬鹿にボケ呼ばわりとは・・・哀れだな。

「俺はボケてねえ!! 動いたのはおめえだ、宗一郎!!」
「何を言って・・は? 何で、窓と教室の壁が逆位置なんだ?
「てめえは・・其処の銀髪野郎の手がぶれたかと思ったら、てめえが一瞬で其処に移動させられたんだよ!!」

まあ、気付かれるようではまだまだ未熟だな。さらに言えば、『如何移動させたか?』まで見られたら、其れこそ愚の骨頂だ。

「さて、「小僧共・・・ん? 2人ではなかったのか?」・・・今度は何だというのだ?」

俺が、今度こそ穏便に通してもらおうとしたらチビの後ろのほうに・・・少女・・・って、待て、何でこんな所にあんな子供がい・・・はて? 何だ、どこかで見た様な。

俺は、チビ不良の後ろに居る着物姿の少女を背にして後ろを肩越しで見た瞬間、思考が固まり、歩を進めようとしていた足を止めてしまった。

「お主等が強いのは、よくわかった。もうそこらで、拳を収めよ」

・・・ん? いつのまにか数に入れられているのか?―――ますますここに来るのが億劫になったな。

―――どうするか?・・・このまま弁解するのも面倒だ。しかし、だからといってここで反抗しよう者なら・・・こいつらとご同類か。

とりあえず、様子見するか。
どうも、ただの子供じゃなさそうだ。あの着物姿の女の子は・・・。

「さもなくば、わしが直々に相手をせねばならぬが?」

女の子の言葉に反応し、ギロリと睨みつける不良チビ。
・・・いささか、大人気なくはないか?

「言っとくが、わしは強いぞ」
「ボブ、銀髪グラサン野郎の次は謎のジジイ言葉の小学生が、俺にケンカを売ってくる。こういう場合、如何したらいい?」
「知らん。・・って言うか、銀髪野郎は、てめえがいきなり殴りかかったんだろうが」

さわやかに、少女を無視しているな。・・・まあ、気持ちは分からんでもないが。

「わしは、これでも17歳じゃ!!」

ずいぶんとご立腹のようだなあの子。
・・・しかし、17歳ということはあの姿は仮初めか。

「まあよい。姿形が気になるというなら、少しは戦いやすくしてやるわい」

そう言うなり、少女は、着物の帯を緩め、ぶつぶつと呟き始める。

・・・あれは、何かの術だな。
おそらく自己暗示の言葉だ。体内の『氣』が膨張している。

『『『『パチパチパチ』』』』
『おお、出た!!』
『待ってました!!』
『『『ヒューヒュー!!』』』

その様子を見ていた。周りに居た観衆が・・・ちと待て、伸びていたはずの方々まで、歓声を上げているぞ。俺は、呆れを通り越して冷や汗を流した。

『ボン!!』

!!・・・っていうか。体が大きくなるのは分かったが、均等に成長できないのか? いきなり胸からというのは・・・少しアレだぞ。

そう思いながら俺は・・・その光景から顔を背けた。

「統道学園3年、棗剛真流皆伝、『棗 真夜』、まいる」

俺は、ようやく成長が、終わったことに気付き、背を向けていたのを、少女だった女を体の向きを正面に向けて、見た瞬間固まった。

女は・・・少女の体系に着ていた小さい着物を纏い、妖艶さと美しさを漂わせていたのだが俺が固まったのは・・・そう言ったものが理由ではない。



「ボブ。その小学生が、『ムチムチ水商売系ボディコン女』に変身しちゃったりした時は、如何すればいい?」
「知らん」

宗一郎の言葉を一蹴し、ボブは又も周りにいた輩と喧嘩を再開する。

『棗流功氣煉法 弐十参』。わしほどの達人ともなれば、これぐらいの身体操術は造作もない」

真夜はそう言いながら、構えるのを銀髪の青年は固まったまま見ている。

「今日は、今から進入部員の歓迎会でカラオケに「真・・・夜・・?」・・?」

宗一郎に攻撃を仕掛けようとしていたのを、銀髪の青年の言葉で真夜の足は止まった。

「何じゃ、お主? わしを知って『カシャン!!』・・!!・・な!?

真夜の問いかけた言葉も、銀髪の青年が頭を抑えたときにサングラスがはずれて床に落ちた時に見た青年の素顔で固まった。

「ま・・まさか・・お、お主は?・・いや・・あなたは!?」
「う、誰なんだ?」

唸るようにして、銀髪の青年は俯く。

「あ・・・兄様!!!!」

そう、銀髪の青年は・・・2年前に失踪した真夜の義兄『白観 勇士』の失踪した日と全く変わらない容姿の姿をしていた。

「何だ? 銀髪グラサン野郎の兄妹か?」

宗一郎が、そう呟いた瞬間。

「ええい!! 小僧、除け!!」
「へ?」
『ドガシャーーン!!!!』

宗一郎は、真夜に持っていた木刀で一振りで吹っ飛ばされ、窓の外に落ちていった。

「宗一郎? ちょい待ち」

喧嘩を無理やり中断し、ボブは下を見て、何かの小屋の屋根がぶち破られているのを確認してからほっとした。

「あ、兄様!! 兄様なのじゃろう!?」

真夜は俯く勇士に駆け寄り肩を揺さぶるが、どうも勇士の様子がおかしい。

「はぁはぁ・・あんた、誰だ?」
「な、何を言う兄様!? わしじゃ真夜じゃ!!」

息切れしながら、見上げる勇士の赤い眼で真夜を捉えるも、その眼は2年前に見たような威圧感はなく、かすかに空ろだった。

「はぁはぁ・・そ、そうか。・・・はぁはぁ・・なるほど、『あの女』がここに行けといったのは・・・く!・・はぁはぁ・・そういう意味・・か」
「何を言っているのじゃ兄様?」

真夜は、自分と再会した兄に妙な『ずれ』を感じ焦った。
そして、次の言葉を聞き、真夜は完全に凍りついた。

「俺は『白観 勇士』。・・・されど、俺の記憶は半年前から在らず、今の俺は『過去』もなく、『未来』もなく・・・『今のみ』を生きる者だ」


真夜は、再会した兄に喜びを感じる暇もなく、己の兄の『堕ちいっていた』事態に驚愕を覚えるしかなかった。


―後書き―

ええと、宗一郎の最後の扱いがひどかったですが、別に彼を軽視するつもりはありませんのでよろしくです。・・・ううむ、今回はちょっとした二部構成でしたが、いかがでしたでしょうか?

やはり少しシナリオが強引な気もしますが、これからのシナリオの展開から考えてこれくらいの強引さがないと、難しいと気付いた今日この頃ですw

さて、それではレスの返答に入りたいと思います。


ユピテルさんへ
はい。一応、慎は今回書かせてもらったように生存していますが・・・今回のことがきっかけでしばらく本編のほうには登場しませんのであしからずです。それとレスありがとうです。次回も、がんばりますんでよろしくお願いします。


たけのこさんへ
勇士が学校に居る理由は・・・もう少しすれば、出てきますんで其れまでお待ちを・・・何故か2年ですけどw 今回もレスありがとうございます。次回もよろしくお願いします。


秋雅さんへ
慎と在学の理由は、上記の二人に書いたとおりなので省略させていただきます。満足していただけてこちらもうれしいです。毎回のレスありがとうございます。では、次回もよろしくお願いいたします。


隆行さんへ
上記の方に書いてある通りなので、そこのところよろしくですw 今回も、レスありがとうございます。それでは次回もまたお楽しみください。


D,さんへ
今の所、真夜に非常に気に入られてますから・・・いや、いや、この先シナリオがどう動くか分かりませんw 下手すれば、多くの人を巻き込んだCPがw
というわけでレスありがとうですw 次回もまたお楽しみください。


混沌さんへ
ええ、レスありがとうございます。あちらのほうを読んでると分かりますが・・・実はいろいろとあっちの作品にリンクしていたりしますw 向こうはしばらく書けませんが、応援ありがとうございます。それでは、次回もまたよろしくお願いいたします。


というわけで、皆さんには以上です。
以上、ホワイトウルフでした。それでは、皆さん。また次回でお会いいたしましょうw

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