注意:今回は、一切ギャグが存在しません。ご了承ください。
その夜の空間において、まさしく世界は闇に閉ざされていた。
真夜中の七の夜の時間。
それは闇と夜の眷属の時間であり、同時に最高の時間であった。
それ故、死徒と呼ばれる吸血鬼たちは、好んでこの時間に食事を開始する。
彼らの食事のメンディッシュは生きた人間の血。
彼らは、そこに嫌悪とか悲哀とか。
そんな感情は一切ない。
ましてや気合いとか、そう言うのも入れることはない。
彼らにとって、人間とは大事な食べ物なのだ。
人が動物の肉を食べるのと同じ事。
それは当然だ。
詰まるところ、死徒と呼ばれる存在は食物連鎖の頂点に君臨する存在なのである。
故に、彼らは当然のように人間を殺して血を啜る。
それが、彼らの生きていく上で当然の行為だからだ。
だからと言って、その当然の行為を受け入れない人間たちは発生してくる。
彼らは、その卓越した技能を用いて死徒などの『魔』に属するものたちを狩ってきた。
西洋においては、それらは『埋葬機関』と呼ばれる機関が代表的。
そして東洋においては『退魔機関』と呼ばれる機関が代表的であった。
この2つの機関は激しく対立しあっている。
それは、あり方の決定的な違いからだろう。
『埋葬機関』は『魔』に属するものを問答無用で殺すことが役割だ。
たとえ『魔』が人々のために力を振るおうともどうでもいい。
重要なのは『人から外れている』という事だけなのだ。
それまでの過程や、現状などどうでもいいのである。
故に『埋葬機関』はそのあり方故に、周りから嫌われていた。
逆に『退魔機関』のあり方は『埋葬機関』と逆である。
『退魔機関』の存在理由は『人を害なす魔を狩る』と言うことにある。
当然、人々と共存する『魔』であるならば決して狩ろうとはしない。
それ故、『退魔機関』は周りの組織から、それほど嫌われていなかった。
そして、その『退魔機関』において特に強い力を持つ一族。
俗に『四大退魔』と呼ばれるものたちである。
『両儀』、『浅神』、『巫浄』、『七夜』。
この4つが『四大退魔』と謳われ『魔の者』たちから恐れられていた。
特に『七夜』は『魔』に属する者にとっては鬼門中の鬼門であった。
一切魔術的、概念的な力を用いず『肉体的な強さと技術』のみで『魔』と対等に渡り合う。
故に『七夜』は『退魔機関』において最強と謳われた。
これは、そんな『七夜一族の長兄』と『式森一族の長兄』の話である。
『式森一族』は退魔機関に末席に名を連ねる存在である。
だが、その詳細を知るものはほとんどいない。
『退魔機関』のトップに君臨する『四大退魔』の、その中のさらにトップクラスの人間のみ、その正体を知るとされている。
数多の名高い魔法使いと魔術師たちの血を引きし『式森一族』。
しかしながら、それだけではない。
『式森一族』は魔術的、概念的な潜在能力はもちろんのこと、肉体的な面においても群を抜いていた。
その運動能力は『七夜一族』に匹敵するとさえ言われている。
それ故、『式森一族』は『退魔機関の末席』とされながらも、その実『退魔機関の頂点』とさえ言われた。
代々『式森一族』に受け継がれる宝刀。
『七夜一族』であれば、宝刀『七つ夜』。
そして『式森一族』は、宝刀『天鎖斬月』。
この2つの宝刀の強度は尋常ではない。
少なくとも、神祖クラスの攻撃さえビクともしないと言われている。
そして、それは事実だ。
少なくとも死徒クラスの攻撃を受けた際、刃こぼれなど全く起こさなかった。
それ故、この二つの宝刀をねらっている輩が多いと言えば多いのだが。
「まったく」
かくして和樹は呆れたように空を見上げた。
時は七つ夜の時間。
『魔』がもっとも活発に動き出す時間。
そんな時間において、和樹は血の海の上に1人立っていた。
足下に転がる、数多の死体。
それらは、やがて灰となって風化していく。
「今日は多いな・・・今ので12体目か」
彼が羽織る黒いコートは、すでに所々血に染まっていた。
同時に、彼の右手に握られている天鎖斬月の黒い刀身もまた血に染まっている。
「まったく、どうかしてるぜ」
本当に呆れたように呟きながら和樹は天鎖斬月の刀身に付いた血を払うと静かに鞘に納めた。
「さて、志貴の方はどうしてるかな」
そう呟くと、和樹は歩き始めた。
◆ ◆ ◆
「はっ、間抜け」
そう言いながら、七夜志貴は『七つ夜』を振るう。
その一太刀で死者は斬り殺された。
それは、なんて鮮やかな解体劇。
『殺人術』と言う1点において『七夜一族』は他の追随を許さない。
そもそも、魔術的、概念的な後押しをなしとして『七夜一族』は『魔』と対等に渡り合うのだ。
当然と言えば当然の結果だ。
「ふっ、蹴り穿つ!」
志貴は死者の懐に入り込むと、死者の顎の部分を蹴り上げた。
その一撃により、死者の頭が木っ端みじんに吹き飛ぶ。
「捌く」
神速で別の死者の懐に入り込み、そのまま延髄を決めながら背負い投げの要領で死者を脳天から地面に叩きつける。
それにより、死者の脳漿が地面にぶちまけられた。
その圧倒的で一方的な『殺人劇』に死者たちは思わず後ずさりする。
意志など存在しない死者たちだが、本能的に『逃げる』と言う選択をしたのかもしれない。
もちろん、そんなことを許してくれるほど志貴は優しくなどない。
「はっ、殺し合いの最中に逃げ出そうとはな」
そう言って志貴が一歩を踏み出す。
その表情−−−彼は、嗤っていた。
「まったくもって興ざめだ−−−貴様ら全員、斬刑に処す」
その瞬間、志貴の姿が消えた。
いや、来たのではない。
あまりにも突然の加速に消えたように見えたのだ。
死者たちは志貴を捉える事は出来ない。
『七夜一族』にとって闇とは『聖地』そのもの。
『七夜』が闇に紛れこみ気配を消せば、たとえ『真祖』であろうとも彼らを捉えることは出来ない。
だからこそ、これは当たり前の展開。
「極細と散れ」
その言葉通りに、志貴は死者たちをバラバラに解体していく。
彼の『眼』に見える『線』と『点』の世界。
彼の『眼』は未来を見ていた。
存在が、その存在を開始してから内包されている『脆さ』と言う名の『未来』。
彼はその情報を『線』と『点』で認識する。
『線』は『存在の脆さ』そのもの。
『線』を断てば何でも斬れる。
『点』は『存在の死』そのもの。
『点』を突けば、例外なく死滅する。
嗚呼、そうだとも。
『線』と『点』はどんなものにでも存在する。
生命、非生命、有機物、無機物、物体、概念。
どんなものにでも存在するのだ。
そうだとも。
七夜志貴は理解している。
理解しているのだ。
(は、ははははは)
志貴は死者を殺しながら嗤った。
ただただ嗤った。
そうだ。
(セカイが死に満ちている)
当然だ。
死のない存在など、この世に存在しない。
例外などない。
例外など許さない。
心せよ、彼の者の瞳は万物の『死』を見る瞳なり。
「−−閃鞘」
その瞬間、死者は意志のない意志で見た。
一瞬だけ、志貴の姿が2つになっているのを。
それが、死者の見た最後の光景であることも、間違いなかった。
「迷獄沙門」
『七つ夜』が振り抜かれた。
一瞬にして、志貴は死者の首筋に存在する『死点』を二度も斬り裂いた。
死者の首から勢いよく血が噴き出す。
「弔毘八仙、無情に服す・・・」
志貴がそう言うと、死者は灰となって消えていった。
それは、紛れもない『殺人術』という名の『芸術』。
「さて、次の標的は・・・・と」
そう言って殺意を振りまく志貴。
故に、彼はこう言われた。
『殺人貴』と。
「ったく、志貴。お前、何をそんなに張り切ってるんだよ?」
不意に響き渡る声。
その声の主は和樹であった。
「ああ、アンタか」
「おいこら。お前、はっちゃけすぎ。いい加減に元に戻れ」
「ああ、そうだな」
そう言って志貴は不意に懐から眼鏡を取りだし、それをかける。
すると、空間を支配していた異常なほどの殺意と殺気が消えた。
「ふぅ、しんどかった」
そう言う志貴には、先ほどの禍々しさは感じられない。
そこには、ごく平凡な青年にしか見えなかった。
少なくとも、表面上は。
「ったく、お前ってマジで橙子さんに似てるよな。
眼鏡の有無で性格が変わるところとかとくに」
「うるさいなぁ、俺だって好きでこうなってるわけじゃないんだぞ?」
「ああ、わかってるさ」
そう言って、和樹は周りを見回した。
気配は、特に感じない。
「とりあえず、事故処理は俺に任せろ。お前はさっさと帰れ」
「おいおい、そんな言い方はないだろ?」
「どうでも良いが、早く帰らないとアルクェイドさんとかうるさいぞ」
それを聞くと、志貴は少しだけ汗を掻いた。
どうやら、その情景が浮かんだらしい。
「じゃ、早く帰れ朴念仁」
「こら、俺のどこが朴念仁なんだよ?」
「お前の性質上」
「いや、俺はお前ほど鈍感じゃないぞ」
「その台詞、そのままお前に返すぜ」
そう言って2人とも妖しい笑みを浮かべる。
「ま、馬鹿なことはやってないで俺は帰らせてもらうな」
「ああ、んじゃな」
「じゃあな」
そう言って志貴は静かに闇に紛れていった。
そんな志貴の後ろ姿を見ながら、和樹は苦笑いをする。
だが次の瞬間には、その表情は戦士の表情であった。
「で、そろそろ出てきたらどうだ?」
そう言うと、志貴が立ち去った別の闇の中から、1人の男が現れた。
異常なほどの筋肉。
その体は、まさしく鋼であった。
その胸板など、すでに胸板と呼んで良いものか。
「死徒・・・・それも下位クラスの27祖レベルか」
ポツリと呟きながら、和樹は鞘から天鎖斬月を引き抜く。
「今宵は『七夜一族』を相手にしようと思っていたが、まぁいい。
前菜に貴様を食い散らかしてやろう」
「やれるものならやってみろ、この阿呆」
そう言って和樹は中指を立てた。
その瞬間、死徒は突進してきた。
先ほどの死者より、何倍も早い。
だが、和樹は冷静にその攻撃を見切り死徒の攻撃をかわした。
そうだとも。
死徒の一撃を受け止めようなどと言う馬鹿はいない。
そもそも、肉体的なポテンシャルで言えば和樹は目の前の死徒の足下にも及ばない。
だが、それ故に付け入る隙がある。
死徒や真祖などの超越種は、そのポテンシャルの高さ故に攻撃が単調になりがちだ。
それ故、極限まで訓練された者たちからみれば、その攻撃は非常に回避しやすいのである。
だからこそ、和樹が死徒の攻撃をかわしたのは当然の成り行きだった。
「やるな!」
死徒がギアを1つ上へ上げる。
より早く、より強力に。
だが、その死徒の攻撃はそれでも当たらない。
和樹にとって見れば、死徒の攻撃は欠伸が出るほど単調であった。
ならば、避けるのはまったくもって簡単だ。
「おいおい、もう終わりか?」
呆れたように言いながら、和樹は一度死徒から距離を取った。
「なかなかやるな。では、これならばどうだ?」
そう言ったとき、死徒の手に血のように真っ赤な炎が発生した。
「!? まさか、異能か!」
「正解だ。だが、もはや遅い」
そう言った時、死徒は正拳突きの要領で炎を纏った拳を前に突きだした。
突き出すと同時に、纏われていた炎は一直線に和樹に飛んでいく。
(ちっ、よりにもよって『軋間』の者が死徒と化した存在か・・・やっかい極まりないな)
経緯はわからないが、『軋間』は『魔』の中でもっとも『純粋』に近い。
故に、『軋間』は高い確率で『反転』すると言われている。
だが、そんなことはどうでもいい。
問題なのは、目の前の存在だ。
目の前に迫りくる炎。
どうする。
どうする。
どうする。
(ちっ、仕方がない)
和樹の眼が両儀となり、セカイに『線』と『点』の出現する。
ああそうだとも。
両儀なる瞳とは、複数の魔眼の集合体の総称。
それらが合わさり、両儀のような紋章が浮かび上がったことから『両儀なる瞳』と呼ばれるようになった。
だが、そんなことはどうでもいい。
ああ、和樹もまた理解している。
セカイは常に死に満ちているのだと言うことを。
「斬!」
ただ1振り。
それだけで十分だ。
和樹は襲いかかる炎の『線』と『点』を斬り伏せ、炎を『殺す』
「なに!?」
まさか自分の異能が防がれるとは予想だにしていなかったことだろう。
一瞬だけ、軋間の動きが止まった。
だがこの一瞬こそが、和樹にとっては最高の好機。
「クイックシルバー」
そう呟くと、和樹は軽く指を鳴らした。
その瞬間、世界はモノクロと化す。
「これが最後だ」
そう言って和樹は天鎖斬月に膨大な魔力を込める。
魔力だけを込めるなら、和樹の魔法使用回数は減らない。
そもそも魔術回路から発生した魔力を使用しているため、減るはずもない。
そして、天鞘斬月から巨大な黒い魔力が発生した。
本来、色など持たないはずの魔力が黒とかして目に見えるほど。
それが、どれほど異常なことなのか。
黒い魔力は和樹の天鞘斬月を握っている手を包み込み、まるで巨大な片翼の翼のような形状に変化した。
これこそが、天鞘斬月の真の姿。
その一撃は、山を一刀で斬り伏せるほどと伝えられている。
「いっやぁぁ!」
和樹は一瞬にして軋間との間合いを0にすると、そのまま天鎖斬月を振り下ろした。
一刀両断。
まさしくそれであったであろう。
軋間は痛みを感じることすらなく、その存在活動を停止させた。
「ってと、終わり終わりっと」
和樹は元の色を取り戻した世界において天鎖斬月を鞘に納めた。
両儀なる瞳も、もとの黒い瞳に戻っている。
「ってと、今日は月が綺麗だからな、帰ったら月見でもするか!」
妙案とばかりに笑いながら和樹はその場を去った。
これは、ほんの非日常の一こまでしかない。
されど、世界から見ればどうでもいい一こまである。
この光景の意味を持つかどうかは、それは人々しだい。
今宵の話は、ここまでにさせていただきます。
では、いずれまた。
あとがき
さて、両儀なる瞳につては、試行錯誤を重ねた結果第3の力を直死の魔眼とさせて頂ました。
そこ、他力本願と言わない。
D,さんへ。
ええ、キシャーはキシャーですとも。
それにしても、キシャープラチナですか・・・・考えておきましょう。
沙弓との関係についてですが・・・・まぁネタばれになりますので次回ということで。
紫苑さんへ。
いやぁ、やっぱキシャープラチナは・・・・・自主規制と言うことで。
式と凛だけじゃなくて、主要退魔一族の者たちとは大抵和樹は知り合いですよ。
なお、ハーレムにしようかどうかは考え中です。
今回は、ちょっと早かったですね・・・・(汗
とりあえず、次回は本編を再開させていただきます。
実は言うと、この番外編、その場の勢いで書いただけなので・・・(汗
構成時間は、わずか1分なんて言うむちゃくちゃな者だったりします。
まぁ、それはおいておいて、次回もご期待ください。