「くっ・・・父さん・・・母さん・・・・。」
「アキト!?」
火星での戦いで戦艦のグラヴィティブラストを受けながら、それでも息絶え絶えに生還を果たしたゴキブリアキト。死ななかったのは潰されても死なないゴキブリの遺伝子のおかげといえよう。
「まずいわ、あなた!!このままじゃ、この子助からない!!」
「くっ、こうなったら、再改造しかない!!しかし、何の遺伝子を組み込めば・・・・・よし、再生能力のあるミミズの遺伝子を組み込もう!!」
そのアキトを手術室に運び込んだテンカワ夫妻。
アキタカは考え込んだ末にそう提案する。
しかし、それをカズハが否定する。
「駄目よ!!既に組み込んだゴキブリの遺伝子は取り除けないからそんな事したらこの子、ゴキブリミミズ男になっちゃう!!そんな事になったらいくらなんでも自殺しちゃうわ!!って、言うか私だったらゴキブリ女になんかなったらその時点で自殺するわ!!」
「くっ、確かに。では、トカゲはどうだ!?」
カズハの言葉に納得し、次の提案をする。
しかし、彼女はまたも拒絶した。
「駄目よ!!それは何か、別の意味でいけないっていうか、何ていうか、この子は蜥蜴っていうか爬虫類が大嫌いって私のシックセンスが告げてるわ!!」
「くっ、そうか。だが、何の遺伝子を組み込めば・・・・そうだ、いっその事、女に性転換してみるというのはどうだろう!?純粋な生命力では女性は男性よりも優れている。これならば、助かるんじゃないのか!?」
「あなた馬鹿なの!?女性だったら、自分がゴキブリと同化してるなんて事実に生理的に耐えられる訳ないじゃない!!アキトは男だからかろうじて耐えられてるのよ!!それに、第一、アキトの性転換なんて使いふるされたネタで読者も私達も満足できる訳ないじゃないの!!」
っと、色んな意味でかなり危ない台詞を発するカズハ。
「くっ、だが、それではどうする!?」
反論するアキタカ。
現在の科学を持ってしても、再改造以外にアキトを助ける手段は無い。
しかし、どんな生物の遺伝子を組み込んだとしても人間とゴキブリと何かの混ざった、奇怪な生物になる事は避けられないのだ。
それに対し、カズハは少し、考え込んだ後、悲痛な決意の浮かんだ表情で答えた。
「“あれ”を使いましょう。」
「なっ!?馬鹿な、あれを使うというのか!!」
アキタカが叫ぶ。
カズハのいう“あれ”それは二人が偶然手に入れた、使い方次第で世界を変革させてしまいかねない遺物。
それを使うという事は事はある意味科学者として敗北を認めたにも等しい。
「ええ、私は科学者としてのプライドよりも母親として、息子を救う事を選ぶわ。」
カズハは夫を見据え、真っ直ぐに言う。
そして、やがて、アキタカは頷いた。
「わかった。直ぐに準備をしよう。」
屋外へ出、そして、石のようなものを幾つか並べる。
そして、言った。
「いでよ、シェンロン!!そして、願いをかなえたまえ!!!」
その叫びと共に、あたりが暗くなり、そして一体の龍が現れた。
それは奇跡の球ドラゴンボール。
科学者としてこんなものを認めるのはある意味敗北な“ふぁんだじー”なものである。
『願いはなんだ。どんな願いも一つだけ叶えてやろう。』
龍が口を開く。
そして、カズハは言った。
「アキトを、平行世界から来た私達の息子の怪我を治して!!」
『承知した。』
龍が厳かに頷き、そして、アキトの怪我が修復されていく。
『願いは叶えてやった。さらばだ。』
そして龍は消え、ドラゴンボールはあたりは飛び散り、昼間に戻っていった。
「よかった。アキト。」
怪我が治ったアキトを抱きしめるカズハ。
だが、そこで、アキタカがポツリと呟いた。
「なあ、カズハ。今、ふと思ったんだが、“怪我を治して”じゃなくて“身体を元通りに治してくれ”っていう風に願えばついでに元の人間に戻せたんじゃないか?」
「あっ・・・。」
そこで、二人目をあわす。
そして言った。
「アキトには黙っておきましょう。」
「ああ、そうしよう。」
流石は夫婦だった。
(後書き)
短いですがここできります。本当は分量的に、次の5話と合わせて投稿すべきなのかもしれませんが、この話は三人称、上のは一人称という違いがあるので分けました。