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「H2×2  第三話・楽しいか? こんな試合?(H2)」

甲子EN (2005-02-09 11:23)
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 ズバンッ!!

 比呂のキャッチャーミットに軽快な音でボールが収まる。サッカー部のピッチャーは長髪の一年生だった。

「何者だ、あのピッチャー?」

 野田はただのサッカー部では投げれない、野球のピッチャーの球を投げる彼を見て首を傾げる。

「確か……木根と言ったか? 県準優勝の北野中でエースストライカーだった奴だ」

「詳しいな」

「クラスにサッカー部がいるんでな」

「流行だもんな」

「お前は何部なんだ? 相撲か?」

 からかうように言うと、野田は「バ〜カ」と言った。

「水泳部だよ。バタフライ」

「………そんなん腰に良いのか?」

「医者が言うんだ。間違いねぇよ」

「そうか……」

 氷也はそれ以上、ツッコまず試合の方に集中する。フェンスの外では木根のファンの女子達が声援を上げていた。

 二回表、バッターは比呂。見逃しの三振だった。

「愛好会の球、三振する程の奴だったか?」

「中学時代、三番だったな〜」

「だよな」

 試合は一方的にサッカー部が優勢だった。三回表が終わった時点で7−1。

「「…………」」

 氷也と野田は無言で、愛好会側のベンチに座る。

 誰も試合の応援をしている為、二人が来た事に気付いていない。

 サッカー部はわざと打たせ、エラーした振りをしてバッターを走らせ、結局アウトにする。何とも陰険なプレーをしていた。

「どう思いますか、解説の神城さん?」

「こんな試合、あの野球大好き少年が黙ってるとは思えんな」

「「え?」」

 と、わざとらしい会話をすると、聖と春華が不思議そうに振り返った。

「あ! ヒョウくん!」

「徹底的に遊ばれてるな……」

「う〜……ヒョウくん、出てよ〜!」

「ふ〜む……」

 回は三回裏、一死ランナー二塁。氷也は溜め息を吐くと、立ち上がって大きく背伸びをした。

「出んの?」

「このまま続くと、誰かさんが泣きそうなんでな……」

 ビシッと聖の頭にチョップすると、次のバッターに声をかける。

「入会届けは必要ですか?」

「え?」

「入会届け」

「あ、い、いや別に……名前だけ言ってくれれば」

「神城 氷也。代打希望」

「あ、ど、どうぞ」

 氷也はバットを受け取ってフッと笑うと、左打席に立つ。

「お〜お〜、いっちょ前に左打ちってか〜」

 木根が馬鹿にするように言うが、氷也は無視してチラッとキャッチャーの比呂を見る。

「楽しいか? こんな試合?」

「………楽しくない試合なんてねぇよ」

「ほう」

「けど入ってるチームによるわな」

 その言葉に笑うと、木根がボールを投げて来た。ど真ん中のストレート。完全に馬鹿にされている。

 だが、それは氷也にはありがたい事で思いっ切りバットを振った。キィンと言う快音を奏で、白球はライト方向のフェンスの向こうへと飛んで行った。

 サッカー部も愛好会の誰もが呆然とボールの後を見つめる。氷也は無言でベースを一周すると、木根を指差した。

「三回裏で7−2……まだ分からないぞ」

「野郎……」

 気障に決める氷也を木根は苦々しく睨み付ける。ベンチに帰って来ると、スッと聖が手を上げたので、氷也がパァンと手を打った。

「す、凄い……あのストレートを初球で……」

 春華が恐る恐る氷也を見ると、彼はドサッとベンチに座った。

「あんなナメられた球、打てて当然だよ。なぁ?」

「俺に振んな」

 野田はプイッとソッポを向くと、氷也は苦笑した。

「何だか水城さんが自慢するだけはあるね」

「えへへ。ねぇヒョウくん、まだ逆転できるよね?」

「………まぁな」

 とは言うが、やはり運動能力の差は否めず、追加点は取れなかった。そして、四回表、愛好会が守備につく。

「ヒョウくん、何処守るの?」

「ピッチャー……やろうにも僕の球が取れるとは思えん」

 チラッと野田と相手ベンチの比呂を見る。野田は「やれやれ」と肩を竦めると、立ち上がって急に上半身を大きく回し始めた。

 比呂も溜め息を吐くと、点数をつけているサッカー部のマネージャーの川村の所へ行く。

「川村さん、一般入部の一年、国見 比呂。ただ今を持ってサッカー部を退部します」

「じゃ、この退部届けにサインを……」

 そう言われて比呂はサラッとサインをする。そして、ゆっくりと愛好会側に歩み寄って来た。

「入会届けは必要ないんですよね?」

「え? あ、ああ……とりあえず名前だけ」

「国見 比呂」

「と、野田 敦」

 その名前を聞いて何人かの愛好会員が、顔を見合わせる。

「俺達がピッチャーとキャッチャーやっても良いですか?」

「え? べ、別に良いけど……」

「しゃ。行くぞ、野田」

「あいよ」

 比呂はグローブを嵌めると、ブンブンと腕を回して野田と一緒にピッチャーマウンドに向かう。その二人を見て、氷也はフッと笑うとグローブを嵌める。

「じゃ、俺はショートでもするか」

「ヒョウくん、ショートできたっけ?」

「基本的に何処でもやれるよ」

 そう言って氷也はスコアボードを見る。四回表7−2……そんでもって氷也、比呂、野田の三人が加わった。

「後二回、打順が回って来れば8−7で逆転出来るか……」

「それって、後五回、点取られない事前提だよね?」

「あのバッテリー見て、前提云々言うか?」

「ゴメンなさい」

 ペコッと頭を下げるので、氷也は苦笑し、ショートに入った。

「国見……比呂?」

 春華は比呂の名前をポツリと呟いた。

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