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「H2×2  第二話・愛好会に入って(H2)」

甲子EN (2005-02-06 02:20)
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「ふ〜む……」

 氷也は家に帰って来るなり、テーブルの上に置かれたメモ用紙と睨めっこしていた。

『今日はフランス料理を食べに行きま〜す♪ 晩御飯は自分達で作ってね〜♪ 両親より』

 とりあえず前半はこの際、無視して冷蔵庫の中を開ける。それなりに材料があったのでお手軽に野菜炒めを作ろうと材料を取り出す。

 冷蔵庫の横に掛かっているエプロンを着け、氷也は早速、調理に取り掛かる。

 トントントントン。

 良いリズムの包丁の音が台所に鳴り響く。氷也も聖も家事は得意である。何しろ、両親とも良くデートとかほざいて家を空けるからである。ハッキリ言って、あの両親は子供の目から見ても変だ。

 『出来れば子供は同じ誕生日が良いなぁ〜』とか言って、いちいち生理の日数計算して種付けしたら、本当に氷也も聖も同じ日に生まれた。正直、時々、自分達は双子なのではないかと疑ってしまう程だ。

 そんなネジが数本、大気圏の彼方まで吹っ飛んだ両親なので、氷也も聖も別に今更、フランス料理食べに行こうが気にしちゃいない。

「ヒョ・ウ・く〜ん!」

「うわ!?」

 その時、急に後ろから聖が手を回してきてグサッと包丁が氷也の足下に突き刺さった。

「とりあえず調理中に後ろから抱き付いて来るな」

「えへへ……」

 笑って誤魔化そうとする聖に溜め息を吐き、氷也は再び調理に取り掛かる。ソレを見て、聖は氷也が何を作りたいのか察知すると、自分もエプロンを着けてキャベツを切り始めた。

「お母さん達は?」

「フランス料理を食べに行ったそうだ」

「先週は中華だったね……」

「ああ……」

「ねぇヒョウくん」

「何だ?」

「愛好会に入って」

「やだ」

 そう答えるのに1秒。聖はドカッとまな板を包丁で叩く。

「お願い」

「やだ。っていうか、マネージャーしてたのか?」

「だって野球好きだもん。あ、そうそう。同じマネージャーで一年生の古賀さんっていう子と友達になったんだ」

「そうか。それは良かったな。で? 何で俺が愛好会などに?」

「実は〜……」

 聖は両手を合わせて今度、サッカー部と野球愛好会が試合をする事になった。そして、もし負けたら愛好会は解散という事になる。

「おねが〜い! ヒョウくん、力貸して!」

「やなこった」

「サッカー部には国見くんがいるんだよ〜! 国見くんが投げたら絶対に勝てないって!」

「そうだな。裏庭で細々と練習してる愛好会じゃ打てんわな」

 まぁ肘を壊してるそうだから、まず投げる事は無いと思う。

「ヒョウくんの力がどうしても必要なの! お願い!」

「やだね。野球なんか、もうしないって決めたんだ」

 あくまでも拒否する氷也に聖はムッと頬を膨らませる。

「もう良いよ!! そこまで嫌がるなら頼まない! 氷也の馬鹿ぁ〜!」

 目に光るものを浮かべ、聖はエプロンを脱ぎ捨てて台所から走り去って二階へと駆け上がって行った。

 氷也は腕を組んで、その後を見つめながらチラッと自分のすぐ横の壁に垂直で突き刺さった包丁を見て冷や汗を垂らした。

「お前が投げたら良いんじゃないのか?」


 中学時代、地区予選で青南中学に負けた。当時、一年生から天才と言われ、エースだった氷也。自然、周りから恨まれる事もあった。

 だが、氷也はそんな事を気にせず、エースと呼ばれるに相応しいピッチングを繰り返して来た。だが、三年の最後の最後に青南中に負けた。氷也は負けたが悔いは無かった。

 怪物と言われた橘 英雄を押さえ込み、エース国見との力投を演じた。負けはしたが、清々しい気分で引退する筈だった。

 その日、荷物を整理しようと部室のロッカーを開けると氷也は目を見開いた。

 ロッカーの中には大量の砂が敷き詰められ、開けた途端に砂がドバーッと流れ落ちて来た。

『ああ、それ球場の砂だよ。記念に入れておいてやったよ、天才ピッチャー様にな』

 そう言ったのは氷也と同じ三年生で、ずっと彼を恨んでいた者だ。他の三年達は全員、ニヤニヤと笑い、後輩達は三年生が怖くて何も言えない。

 氷也は無言で砂を掻き分けると、ズダズダに切り裂かれたグローブとユニフォームを見て体を震わせた。

『やれやれ、天才ピッチャー様なんて、とんだ大ホラ吹きだよな』

『全くだ。ここ一番で点取られるんだもんな〜』

『調子乗ってんじゃねぇよ』

 ここぞとばかりに飛ぶ罵言。三年生達は氷也が悔しがってると思い、鼻で笑う。だが、氷也は無表情のまま振り返った。その態度に三年生達は眉を顰める。

『当たり損ない、際どいフォアボール、エラーが重なって最後はパスボール………自分が天才だと思った事は無いが、最後の二つは誰が悪いんだ? まさか、あんな方に打たしたピッチャーが悪いとでも? バッターを思い通りに打たせれるなら守備なんていらないんだよ。それぐらいサルでも分かる』

『あ?』

『やれやれ。耳まで遠くなったのか……大ホラ吹きの天才ピッチャーに気を遣うよりも耳鼻科に行って自分の体の心配でもしたらどうだ?』

 そこで言わずともがな、乱闘になった。だが、氷也一人に対し、相手は多勢。結果的には氷也がリンチを受ける形になった。後輩達が慌てて止め、顧問の教師が来るまで氷也は、ずっとタコ殴りにされた。


 氷也は当時の事を思い出し、小さく溜め息を零し、ベッドの上を寝転がって目を閉じた。

「ふぅ……」

「愛好会に入りたくな〜る、愛好会に入りたくな〜る」

 その時、何やら耳元に奇妙な呪文みたいなのが聞こえた。

「愛好会に入りたくな〜る、愛好会に入りたくな〜る」

 氷也は寝転がって、パチッと目を開けると、そこには何やら目を鋭くさせて両手を挙げている聖がいた。

「………夜這いか、貴様?」

「ううん。催眠術。ヒョウくんが愛好会に入りたくなるように」

「……そうか、お休み」

「うん。朝起きたら、きっと入りたくなってるよ」

 アホらしいと思い、氷也は変な呪文を子守唄代わりに眠りに入った。


 で、試合当日。

「何で俺は此処にいるんだ?」

 土手から、しっかりと愛好会とサッカー部の試合を見物している氷也。フェンスの向こうでは、聖と一緒に声を上げてる少女がいた。アレが聖の言っていた古賀という子かと思いつつ、スコアボードを見る。

「一回裏3−0でサッカー部リードね……」

「あれ? お前、神城か?」

 と、そこへ自転車に乗った太った眼鏡の男に声をかけられる。

「野田……か」

 中学時代、比呂とバッテリーを組んでいた野田 敦(のだ あつし)の方を向くと、野田もグラウンドの方を向いた。

「比呂から聞いたけど、ウチの学校なんだって?」

「まぁな……」

「サッカー部対愛好会?」

「ああ」

「………サッカー部のキャッチャー、何処かで見た事あるな」

「俺の記憶では何処ぞの中学でエースだった奴の顔と一致するが?」

「奇遇だな。俺もバッテリー組んでた奴の顔と一致する」

「「………………」」

 二人はしばらく、そのキャッチャーを見ていて声を揃えて言った。

「「おいおい、サッカー部」」


「ドンマイ! しまっていこー!」

 聖は追い込まれたバッターに向かって声を出した。

「残念だったね、水城さん。頼もしい助っ人に断られて……」

 同じ愛好会のマネージャーの古賀 春華(こが はるか)に言われ、聖はムッと頬を膨らます。

「もう、良いよ。全く……中学の時のヤな思い出をずっと引き摺ってんだから」

「まぁまぁ。とりあえず、ちゃんと応援しよ」

 そう言われて聖は頷くと、春華と声を揃えて言った。

「「頑張れ〜!」」

 が、バッターは敢え無く三振してしまうのだった。

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