今、五人は和樹の部屋のテーブルを囲んで座っている。
ちなみに並びは、紅尉から右に和樹、玖里子、凜、夕菜となっており、ちょうど和樹の正面に夕菜が位置している。
あのあと、紅尉を知らない夕菜に紅尉が自己紹介をした。
その後、話が長くなりそうだったので説明しやすいようにこうして座る事になったのである。
ちなみにその際紅尉の怪我について和樹が聞いたが、眼鏡の位置を直しつつ、
「聞かないでくれ。」
と言われたので追求しなかった。
なお、和樹は仕事のときの[ギュスターヴモード]のままである。
なんでもこういった話のときはこっちの方が楽だかららしい。
「さて、それではどちらの話から始めようか?」
「今回の事についてを先に話したほうが、多分話が通りやすいと思うが?」
「ふむ、和樹君もそう思うか。それではそちらの話から始めるとしよう。」
「時に和樹君、君は君の先祖の事をどれくらい知っているかね?」
「は?先祖!?・・・いや、一族の事くらいしか知らないが・・・」
「つい最近の事だ、葵学園のサーバーにクラッカー(探魔士)が侵入してね、その際一部の生徒の魔力データが外部に流出してしまったのだよ。」
『という事は今度の事はナイツ絡みじゃない訳か。葵学園自体はその事を知らない筈だしな。』
そんなことを考えつつ続きを聞く和樹。
「私はたまたま仕事で流出したのが誰のデータか調べていてね、その過程で君のデータを見つけたのだが正直見て驚いたよ。」
そこでなぜか和樹の方見て躊躇する。
和樹は訝しがりながらも、さっきまでの言動から後に続く言葉を推測した。
「ひょっとしてそれがさっきの先祖って言葉につながるのか?」
「・・・・・・その通りだ。そのデータによると、式森和樹という人間は歴史上、あるいは伝説上の偉大な魔術師達の内の多くの血を引いているとあった。」
「ヱ゛?」
イマナンテイッテクレヤガリマシタカ、コノマッドハ。
「具体例を挙げると、まず日本では賀茂保憲と安部泰親の息子や娘が幾人も君の家の家系に連なっている。のみならず、先の二人のほかにも有名どころがざっと五十、その上さらに世界からスイスにパラケルスス、イタリアのミランドーラ、呉の董奉、そして・・・トファルドフスキ。ほかにもまだまだいるらしい。」
さしものギュスターヴ和樹もこれには唖然とした。
歴戦の猛者といえど、想像をはるかに超える驚きには勝てないものらしい。
「つまりあたし達がこうしてあんたのところに嫁に出されたのは、あんたとあたし達の間に生まれるであろう大魔術師をそれぞれの家が欲したためって訳。あんたの家って優秀な魔術師ってここしばらくいないでしょ、だから決して分の悪い賭けでもないと思うのよね。」
と、玖里子が簡潔にまとめる。
なるほど確かに筋は通っている。
自分の両親が魔術師としてならけして優秀な部類に入らないことは自分とて知っている。しかし。
しかし、一つ重大な見落としがある事を彼女らは知らない。最も知りえよう筈も無いが。
だが和樹自身がそれを知っている以上、言える言葉はひとつしかない。
「やめておけ。」
そう、それが唯一の答え。
「どういう意味かしら?」
「言葉どおりだ。俺の事は置くとしても、これから生まれる子供の事を道具か何かと勘違いしているらしいあんたらの家にも、自分の子供の事なのにそれに甘んじようとしているあんた達にも腹の据えかねる思いだけどな、もしあんたらがまだ多少はまともな部分を持ち合わせているなら、こんな事を言う事にすら意味が無い。」
「そんな、和樹さん、私はそんなつもりじゃ————」
「なら今のあんたが家の方針を無視し切れるのか?」
言葉に詰まる夕菜。当然だ、それが許されるならこんな非常手段ともいえる手をとらないだろう。
しばらくの間自分達のやろうとしていた事の非道さに押し黙る三人。
その沈黙を破ったのは、
「・・・先ほどの言葉、特に最後の部分を分かるように説明してもらおうか。」
いまだに納得できない思いを抱えているであろう凜であった。
「・・・まず、俺の家にたいした魔術師が1人もいないと思っているようだが、トンデモナイ魔術師なら既にいる。」
「「ええっ!?」」
「・・・誰なんですか、それは?」
凜と玖里子が驚きの声をあげ、聞いてきた夕菜の声は何故かおびえを含んでいた。
「俺だ。」
「・・・あんたね、魔法総量元8回、今現在6回のあんたの何処がとんでもないって言うのよ。」
「それだけだったら確かにな。だがもし、生まれてから最初の計測までの間に回数に変動があったとしたらどうだ?」
三人が三人とも何を言っているのか分からないといった顔をしていた。
「生まれたときの俺の魔力はとんでもないものだったらしい。そのまま放っておけば魔力の暴走で肉体が崩壊して死亡、のみならずあふれた魔力によって巨大隕石の衝突並の被害がもたらされる筈だったとか。」
三人とも呆然としている。そりゃそうだ、自分自身聞いたときは自分の耳を疑った。だが・・・
「信じられないとは思うが全て事実だ。何せその場には私もいたからね。」
その紅尉の言葉で現実に戻ってくる3人。
「・・・それで、あんたはどうやって生き延びたの?そんなとんでもない魔力、むやみに放出するわけにもいかないでしょうし、何より当時赤ん坊だったあんたにそんな真似が出来るはずもないし・・・」
「それはこれらの、いや、彼らのおかげだ。」
そう言いつつ立ち上がり、言い終わるや否や和樹の両の手のひらから刀身が伸び、気付けば左手には紅い剣が、右手にはさっきの黒い剣が握られていた。
それらは今の和樹の雰囲気とあいまって、荘厳な雰囲気すら感じさせた。
「彼らについての話の前に、そもそもどうしてこんな剣が俺の元にあるのかの話をしよう。」
その言葉から感じる重みに思わず居住まいを正す3人。
「全ての発端はさっき出てきたトファルドフスキだ。その血を引いていた人物に俺は心当たりがある。俺のひいひい婆さんで俺が七歳のときに死んだポーランド人のイェジーナ婆さんだ。」
その様子を興味深そうに眺める紅尉。
「そのイェジーナ婆さんがまだずいぶん若かったころ、家の倉庫で偶然見つけたトファルドフスキの魔術書に書いてあった魔術を試したんだ。それがどういう魔術だったのかは知らないけれど、結果は失敗。でも、おそらくはそれを書いたトファルドフスキすら予期しなかった事が起きた。」
「何が起きたというのだ?」
「異世界とつながった。」
「なんですってぇ!!?」
玖里子は和樹の魔力の話よりも驚いた。それはそうだろう、魔界とかのつながり易い処ならともかく、それら以外の異世界となると魔術としては禁断を超えて奇跡に近い出来事だ。と同時に、もしそんなとんでもない先祖がいたら和樹の魔力の事はありえても不思議じゃないとも思えた。
「といっても違うのは魔法に似た力の在りようとか、大陸の形くらいの平行世界だったって話だけどな。」
そう言って和樹は補足した。
「それに別に婆さんの力だけでそれをやったわけじゃない。その世界、サンダイルって言うんだがそっちでも原因になった奴が居たんだ。その男の名はギュスタ−ヴ・ナイツ、またの名をギュスターヴ16世。そのギュスターヴはその世界で比較的ポピュラーなディガーっていう、人類以前に栄えた先史文明の遺物を発掘して、人々の生活に役立てる仕事をしている人間だった。その時そいつはその先史文明の残したメガリスと呼ばれる巨大建造物のひとつ、[星のメガリス]の崩壊跡に来ていた。何で崩壊してるのかについても話は伝わってるが、この話には関係ないので省く。で、そこで見つけた妙な装置に触れたとたん、それがいきなり煙を上げながら動き始めた。多分こっちも壊れてて、イレギュラーにイレギュラーが重なる事によって、つまりまったくの偶然で二つの世界はゲートでつながったんだろう。ともあれ、こうして二人は出会う事になったわけだ。」
三人のうち、玖里子と凜はいきなり始まった予想だにしなかった話に好奇心を刺激されたのか聞き入っているが、夕菜はなぜかぶつぶつと呟き、考え込みながら話を聞いている。
それとは対照的に紅尉はのんびり茶など飲んでいる。
ともかく和樹は話を続けることにした。
「そのときの話を婆さんに聞いたところ、何でも「お互いに一目ぼれ」だったそうだ。その後ゲートが不安定な事に気付いた二人はいろいろやって、一時的にだがどうにかゲートを安定させる事に成功した。それからお互いの事をいろいろ話し合ったらしい。不思議な事に異世界間にもかかわらずなぜか言葉が通じた。最近分かった事だけどこれは世界の補正とも言うべきもので、もしその間に子供が生まれたりすると、二つの世界の何処に言っても話が通じるようになり、代を経て血が薄まってもある程度の効果は残り続けるらしい。」
「話を戻そう。話して分かったのはお互い自分以外に家族がいないこと。ギュスターヴのナイツ家っていうのはサンダイルじゃディガーの名門で通ってて、そいつ自身も実際優秀だったんだけど、一族のほかの人間は病気やら何やらでばたばた死んでいって、気付けば直系のそいつ以外誰もいなくなってたらしい。婆さんも似たようなもので、寂しさを抱えていた二人は急速に親密になっていった。そして、ゲートの維持が限界に達する日、ギュスターヴは先祖の遺産を含めた自分の持てる全てを持ってゲートを飛び越え婆さんにプロポ−ズしたんだ。つまり、そのギュスターヴ・ナイツって男が俺のひいひい爺さんに当たるわけだ。といっても、こっちは俺が生まれるずいぶん前に死んじまってるけどな。」
「はあー、なんというか・・・」
「なんともまあ壮大なラブストーリーね・・・、世界をまたにかける恋ならぬ、世界を超える恋なんて。」
そう感想を漏らす凜と玖里子。夕菜にいたっては感動のあまり言葉も無いようだ。
「まあ、遺跡とかが掘りつくされ始めてディガーの仕事が少なくなったり、一族が自分ひとりだったからしがらみが無かったり、二人とも二十歳前で若さに任せて突っ走ったりできたっていうのも理由のひとつだったっていう話だけど、最大の理由は一族特有の直感だったらしい。実際、第1子が生まれたのはその8ヵ月後だったらしいしな。」
〔もっともお前の直感は戦う事に特化しすぎて、ある方面においては鈍感そのものだがな。〕
〔まあ、仕方ないだろう。そうでなくばこの歳であれほどの高みへ至ることなど出来なかっただろうからな。〕
〔それにしたって鈍感すぎると思いますけどね・・・〕
「え!?」「なに!?」「今・・・、その二本の剣から声が・・・」
突然響いた聞き覚えの無い三つの声に驚く夕菜、玖里子、凜。
「だから毎回聞くけど俺のなにがどう鈍感なんだ!?」
そんな三人の様子は気にも留めず黒い剣に話しかける和樹。
〔それすら分からん奴にはなにを言っても無駄だ。〕
それにため息でも吐きたそうな口ぶりで答える黒い剣。
「あのー、和樹さん?」
「ああ、スマンスマン。で、もう薄々気付いてると思うが、この二振りの剣は例の爺さんが向こうの世界から持ってきたものだ。ナイツの一族に伝わる特に強大な力を持つ武器、六大遺宝。これはその内の二つでもある。そして六つ全てに向こうの世界の歴史に残った人物、あるいは偉大な冒険者の魂が宿っている。勿論この二つにも。といっても、もはや完全に一体化してしまっていて、剣の意思そのものみたいになっているが。」
そして剣達は語り始めた。最初に黒い剣が。
〔俺の人であったころの名はギュスターヴという。といってもさっきの話に出てきた奴じゃない。フルネームはギュスターヴ・ユジーヌ、またの名をギュスターヴ13世。もっとも向こうの世界では[鋼の13世]のほうが通りがいいがな。さっきの話のギュスターヴや和樹の遠い先祖に当る。この剣の名は[カイゼルブレイド](覇王の剣)という。この剣の力は魔力、あるいはそれに類するものによるあらゆる力をはじき、あるいは無効化する。まあ使い手にも相応の負担はかかるがな。もともとは俺が作った剣で[ギュスターヴの剣]と呼ばれていたんだが、俺の死後、エッグってとんでもない化け物に止めをさしたときに折れてな、その後しばらくたって、そのときの戦場で見つかった[ガラティーン]という名のぼろぼろになった魔剣とひとつにして鍛ち直されて、そのときにこの名前になり、その際この力を得た。もともと向こうの世界の金属はそういった力に強い抵抗力を持っているんだが、これの抗魔力はそれらの比じゃない。およそ魔に属する力なら、世界を滅ぼしうる力すら封じ込める。それと時を同じくして、どうやら死んだときに剣と一体化していたらしい俺は自我を取り戻し、この剣を振るう者たちを見届ける事にした。最も、この剣の力の特殊さゆえに、使い手たりえた者は数えるほどしかいなかったし、こうして話せるようになったのも和樹が担い手になってからで、夢枕に立つくらいならともかく、まともな形で精神でコンタクトできたものも和樹だけだがな。まあそれはあっちの二人も同じ事だ。〕
次に赤い剣が語り始める。
〔私の名はケルヴィン・フォン・ヤーデという。かつて[鋼鉄王ギュスターヴ13世]の側近であった者だ。と同時に、私もまた親友ギュスターヴやこの剣に宿るもう1人である息子のフィリップ3世と同じく、和樹の先祖の1人でもある。私達親子がこの剣に宿るようになったのは、さっきの話にあったエッグという化け物との戦いのときだ。その時のこの二振りの剣(もっともあっちはまだ名前の変わる前だったが。)の使い手は、息子のフィリップの息子、つまり私の孫に当り、またギュスターヴ13世を母方の祖父に持つギュスターヴ15世という青年だった。彼は死闘の中、死せる我等の霊に加護を頼んだ。普通ならばそれはただの祈りで終わったろうし、彼とて気休め以上の効果は期待していなかったはずだ。だがその手にあったこの宝剣がそれを可能とし、我等はほんの僅かではあったが彼の力になる事が出来た。またその戦いの影響か、この剣の力が増大し、剣の中に留まり続けることが可能になり、我等もまた見守る事を選択した。〕
〔この剣の力については、かつてこの剣の使い手だった私から説明しましょう。私の名はフィリップ3世。ちなみにギュスターヴ公は伯父であると同時に私の妻の父親でもあります。さて、この剣の名はファイアブランド。強大な炎の力を秘めた剣です。かつては向こうの世界のある王家の象徴ともいえる宝剣でもありました。しかし、時代の流れだったとはいえ、その王家はこの剣のあまりにも強大な力により滅んでしまいました。どのくらい強大かというと、正しい手順を踏まぬ者ならこれを持っただけで剣に焼き尽くされ、また強力な力を持った術士でもあったその最後の王などは、悲しみのあまり剣の力によって火竜へと変化してしまいました。先ほどの話にあった戦いの後、残る六大遺宝と同じく、さらに強大な力を得たこの剣は、正しい手順を踏んで触れる事は出来るようになっても、その力を使いこなし、振るえるものはほんの僅かにしかいなくなってしまいました。しかし、恐らくはそれで良かったのです。それ以来一度もこの剣にまつわる悲劇は起きていないのですから。そして今は、最高の使い手たる担い手たりえた和樹の手にある、という事です。〕
「とまあ、これが俺の体に宿る二振り、[封魔剣カイゼルブレイド]と[火竜宝剣ファイアブランド]のあらましだ。」
「そんなとんでもない剣がこの世に存在するとは・・・・・・」
「彼らってそういう意味だったのね。それにしてもそんな事が世間に知れたら大騒ぎね、ひょっとすると消されるかも。」
冗談めかしてそんな事を言う玖里子。しかし。
「あるぞ、刺客を差し向けられた事くらい。葵学園に入ってからも2,3度あったかな?」
「なっ!!?」
「そ、それであんたは、どうしたの?」
「半分はどつきまわしてから丁重にお帰り願ったが、残りの半分、聞き分けの悪い快楽殺人者な外道どもは、ファイアブランドで塵も残さず焼き尽くした。」
玖里子と凜はショックを受けた。それはそうだ。ついさっきまで無害としか言いようの無い雰囲気をまとっていた少年が、1人ならず人を殺しているというのだから。
特に凜は、そんな危険な人物に闇雲に切りかかろうとしていた己の未熟を恥じていた。
「あーーーーーーっ!!!」
そこに、今まで黙りこくっていた夕菜が突然大声を上げた。
「思いだしました・・・・・・」
あとがき
やっぱり終わらなかった・・・
自分でも途中の段階で終わらなさそうだと気付いてましたが・・・
設定を削ればいいじゃないかと思われるかもしれませんが、あくまでこれは下地の部分であって、ここで書かないと多分書くところがありませんので・・・
次回も和樹の話は続きますが、長々と言うところは終わったと思うので次回で今度こそ一話は終わるでしょう。
ところで自分はキャラを書き分けできているでしょうか?(特にノーマル和樹とギュスターヴ和樹)
自分ではちゃんとやっているつもりなのですが、どうでしょうか?
レス、お待ちしてます。