Revenge For The Destiny
〜序章〜
第1話「人を超えし者達(後編)」
サルタヒコの躁艦でゆっくりとドックに入るユーチャリス。そして船体が完全に入ると、壁面から固定用のアームと思しき物が伸びてきてユーチャリスを固定する。最後に入り口が閉まって少ししてから、先程の女性(?)から通信が入った。
『エアロックが完了しましたから艦外に出ても大丈夫ですよ。すぐに迎えが行きますから、外で待ってて下さい』
「了解した(プッ)さて、行こうか、ルリちゃん」
「はい、アキトさん」
そう言ってバッタにタラップを準備させるアキト。そして外に出ると、そこには紅い瞳で銀髪を短く切りそろえた20代前半くらいの男が立っていた。
「はじめまして。時空戦艦『ラフレシア』艦長のガルム=フォン=ルントシュテッドです。よろしく」
そう言って右手を差し出すガルム。
「ユーチャリス艦長のテンカワ=アキトだ」
「ホシノ=ルリです」
そう答えて握手するアキトとルリ。すると、ガルムが何か訝しげな顔をしてたずねてきた。
「お二人だけですか?他のクルーの方達は……」
「あの船は動かそうと思えば1人でも動かせるようになっている。実際、ここに来る少し前までは俺1人で動かしていたしな…彼女はここに来る直前に飛び乗ってきたんだ」
「ほぉ〜、それは凄いですね…今までさまざまな船を見てきましたが、このサイズで1人で動かせるとは……まぁ、立ち話も何ですから詳しい話は奥でしましょうか。こちらへどうぞ」
アキトの答えを聞いて何か感心したような表情を見せるガルム。ひとしきりそうしていた後に、おもむろにアキト達を奥の部屋に案内し始めた。そして案内された部屋には……
「ようこそ、ラフレシアへ。歓迎します……って2人だけなんですか、ガルム艦長?別室に大人数用のものを用意しちゃったんですが…」
革張りのソファーと綺麗なガラス製と思われるテーブル。そしてテーブルの上にはかごに山盛りになっているクッキーがおいてある。それを準備しているのは、声から判断すると先程までユーチャリスと通信をしていたと思われる女性のようだ。
「まぁいいじゃないか。それよりベル、自己紹介をした方がいいんじゃないか?」
苦笑いを浮かべながらそう言うガルム。それを受けてベルと呼ばれた女性が自己紹介を始める。
「私の名前はベルダンディー=ミルヒ、ベルって呼んで下さい。この船の通信士をやってます。もっとも、めったに仕事が無いので普段は雑用係ですけど」
そう言ってにっこりと微笑むベル。ちなみに彼女の容姿は、ガルムと同じ銀髪を腰に届くくらいに伸ばしたストレートで、瞳もガルムと同じ赤。身長は165前後くらい。街を歩いたら10人中10人が振り向くであろう顔立ちをしている。
「他にも3人クルーがいますけど、彼らは後で紹介するとして…取りあえずここがどこか、と言う所から説明しましょうか。あ、別に食べながらでも結構ですよ。遠慮は無用です」
そう断ってからおもむろに説明を始めるガルム。ルリは『それじゃあ、頂きます』と言ってクッキーをポリポリかじっている。どうやらお腹が空いていたようだ。しかし、アキトは口をつけようとしない。
「ここは一般的には『異次元』と言われている空間です。もっとも、世界によっては『ディラックの海』とか『時の最果て』とか呼ばれてもいますが、我々は『世界の狭間』と呼んでいます」
「「世界の狭間?」」
聞いた事が無い単語に首を傾げるアキトとルリ。
「ええ、あなた方の世界ではそこまで解明されていないようですが…図にした方が解りやすいですね。ミーミル、全周囲3Dモニターを起動して下さい」
【了解しました】
ヴン
どこからか合成音声とおぼしき声がした瞬間、周りがただのだだっ広い平原…とは言っても草が生えてたりはしていないが…に変わる。そしてその大地からは幾つもの円柱が空に向かって伸びていた。突然の事に唖然としているアキトとルリを尻目にガルムは説明を続ける。
「これが我々が認識している世界の形。この円柱1つ1つが『世界』そして上が未来で下が過去と言う訳です。本当は多数の『可能性』と言う名の枝がこの円柱から伸びてるんですが…ゴチャゴチャしてしまいますから今回はオミットしました。そして今私達がいるのが、この円柱と円柱にある隙間なんです。この隙間は、常に一定と言う訳じゃありません。時には円柱同士がくっ付くほど近かったりしますし、また時には無限と言っていいほど離れたりもします。もっとも、この隙間にいる限りは、我々のように世界を行き来できる者以外には無限に広がる暗黒の世界ですが…」
「なるほど、それで『世界の狭間』と言う訳か……しかしあなた達の世界の技術は凄いな…他の世界に行けるほどまで科学が発展しているとは…」
先に現世復帰を果たしたアキトが感心したように言う。すると、それを聞いたガルムが苦笑しながら答えた。
「我々の世界の技術ではありません…出来るのはこの船のクルーと、極々一部の者だけです。我々の世界はそう大して技術が進んでる訳じゃ無いんです。それなのに何故我々がここに居るかと言うと……我々は『ヒト』を超えてしまったからなんです」
「人を超えた…?どういう意味ですか?」
さっぱり訳がわからない、という表情で質問するルリ。
「我々の先輩と言える方から聞いた話では『時間と言う鎖と世界という檻からの脱却』らしいです。ま、要は不老不死になって、世界間の行き来が出来る、と言ったトコですかね……おや、テンカワさん…でしたか。どうぞ遠慮なさらずに食べても結構ですよ」
ルリの質問に答えた後、クッキーにまったく手をつけないアキトを見てそう進めるガルム。しかし、アキトはそれでも手をつけずに答えた。
「以前受けた人体実験で入れられたナノマシンのせいで五感を失くしているんでな……味もわからないのに食べるのは料理に対する冒涜だ……」
「アキトさん……」
そっけなく言うアキトとそれを聞いて悲しげな顔をするルリ。すると、それをきいたガルムはちょっと考えた後ルリ達からすればとんでもない事を言い出した。
「そうでしたか……テンカワさん、もしかしたら治せるかもしれませんよ、それ」
「……っ!!!」
「本当ですか!!!?」
イネスですら治す事の出来なかったアキトの体。それを治せるかもしれないと言われて驚くアキトとルリ。ガルムはそれにかまわずに話を続ける。
「まぁ、私もこうなってから結構長く生きてるんですよ。その間色々な世界の様々な知識を勉強したりもしてまして、当然その中には医学の知識もある訳です。そして世界によってはナノマシン技術がかなり発達したりもしてるんですよ。それで、そこの技術で作ったナノマシン治療用の施設もこの艦には備えてるんです。未知のナノマシンにも使えない事は無いですから、それを使えばもしかしたら……」
「………アキトさん…」
「…頼めるか……?勿論、俺に出来る事なら何でもする…」
悲しげだった瞳に希望の色を浮かべながらアキトの方を見るルリ。そしてアキトは表面上は無表情を装ってはいるものの、かなり心を動かされている。
「ハッハッハッ、見返りなんていりませんよ。言うでしょう『医は仁術』ってね。こう見えても医者をやっていた事もあります。病人を治すのは医者の勤めであり、義務です。目の前に病人が居たら治療するのは当然の事ですよ」
カラカラと笑いながらそう答えるガルム。そして治療室に案内しようとした矢先に、アキトの付けていたコミュニケにサルタヒコから緊急通信が入った。
【マスター!!ユーチャリスの中にボソン反応!!!誰かがボソンジャンプしてくる!!】
「何だと!!?解った、すぐに行く!!」
そう言って走ってユーチャリスに向かうアキト。ルリとガルムも慌ててその後を追う。ベルだけは後ろでハンカチを振りながら「行ってらっしゃ〜い」とかのんきに言ってるが。
「あのー、ホシノさん?今のは一体誰なんですか?それにボソンジャンプとは一体……」
「彼は私達の船に搭載されているAIです。そしてボソンジャンプと言うのは私達が使っている空間移動の事なんです。詳しい事は後から話します」
「ほほう…大変興味深いですが…まぁ、お楽しみは後にとっておきますか(そういえばこちらの事ばかり話して彼らの事はほとんど聞いて無かったですねぇ…この騒ぎが収まったら聞くとしますか)」
そんな話をしながらアキトの後を追って走るルリとガルム。彼らの運命(さだめ)がメビウスの輪を書く時は……近い………。
To Be Continued……
後書き代わりの次回予告
突如ユーチャリスに発生したボソン反応。はたして跳んで来たのは一体誰なのか?そしてアキトの体は治るのか?次回『追いかけて来た妹(仮)』お楽しみに……つっても何か題でバレバレな気がしないでもないですが…(汗)