*下の7話とは前半は同じですが後半の展開が大幅に違います。
「さて、今日の方針言っておくわよ。慎二にコンタクトを取るわ。」
「彼がマスターかどうか確認するのね?」
早朝、前日のように“ぬぼー”っとした凛が牛乳を飲んで頭をすっきりさせたところで今日の行動について話し合う。
「ええ、あいつの手には令呪を確認できなかったけど、他の生徒にもそれらしいのはいなかった。だから、直接コンタクトをかけて見るわ。自己顕示欲の強い奴だから適当にカマかけてやれば、案外あっさり白状するかもしれないし、そうでなくても二人っきりの状況になれば、近くにサーヴァントを待機させようとするでしょうからね。」
「けど、それって、ちょっと危険じゃないの?」
ロゼットの心配の声をあげる。それに対して凛は頷いた。
「もちろん、あなたには霊体化して警護してもらうわ。慎二の方は、あんな奴にやられたりしないから、サーヴァントの方だけに注意を払ってちょうだい。それで大丈夫よ。」
「わかったわ。まかせといて。」
凛の言葉から自分達に対する信頼が感じられて、ロゼットは自信たっぷりに頷く。凛もその反応に満足そうだ。
「けど、マスターである事はともかく、結界を張った事は簡単には言わないんじゃないかなあ?」
そこで、今度はクロノが発言した。
あの結界は魔術師の常識と照らし合わせても人間としての倫理観と照らし合わせても間違いなく外法である。そんな事を簡単に他者に明かすとは思えない。
「普通に考えればそうね。まあ、最悪、マスターであることさえわかれば有無を言わさず倒してしまえばいいわ。乱暴な方法だけど、どの道、敵なんだし、そいつが結界を張ったのなら倒せば結界は解ける筈だから。それで駄目なら、対象は他に居るって事だからその時は改めて他を当たりましょう。」
「あの、桜って娘の方がマスターって可能性はないの?」
そこで、ロゼットの言葉に対し、凛は一瞬だけ不快な表情を浮かべ、すぐにそれを隠す。
「・・・・そっちも勿論当たるわ。けど、性格的な事からすれば慎二の方が可能性が高いわね。最も、それはあくまで当人のみの話だけど・・・・。」
「サーヴァントがマスターを操っているっていう事?」
クロノの問いかけに凛は含むように答えた。
「それもあるし、バックに誰かついている可能性も・・・・・・あるわ。」
「そう・・・・。凛、あなた何か隠してない?桜って娘あなたと何か関係あるの?」
「何もないわ。ただの知り合いよ。」
感情を込めず、しかし、見るものが見れば明らかに嘘だとわかる態度で答える。
それを見てロゼットはそれ以上追求しようとせず、ただ静かに言った。
「そう、なら、これ以上何も言わないけど、私達でよかったらいつでも相談してね。」
「・・・ええ。」
それに対し、凛は一言だけ頷いた。
「一体この僕を呼び出して何の用だい?もしかして僕の誘いを受ける気になったのかな?」
「冗談、死んだってあなたと付き合ったりするもんですか。それより、あなた聖杯戦争のマスターね?」
凛のかまかけに慎二は一瞬驚いたような表情をするが、直ぐに得意そうな顔をして意外な程程あっさりと白状した。
「へえ、気づいていたのか。そうさ、僕はマスターさ。特別な存在、魔術師なのさ。」
まるで、誰かに自慢したいのを我慢していた子供のように聞かれて無いことまでペラペラしゃべる慎二。
凛はそこで、さらに情報を引き出そうとする。これだけでも十分であるが、情報は引き出せるだけ引き出して置いて、間違いはない。
「それで、この学校に張ってある結界もあなたが張ったのかしら?随分強力な結界みたいだけど。」
凛は学校の結界に対し、わざと不快感をみせず“強力な”と褒めているように聞こえる言葉を使い、さらに、“あなたのサーヴァント”が張ったではなく、“あなた”が張ったと言った。
その言動からサーヴァントの力を自分の力と誤認し、強大な力を得たと調子に乗っていると感じられる慎二なら、もしかしたらこれで自分から白状するかもしれないと計算しての事である。
「まあね。何せ、魔力はいくらあっても困らないだろ?」
そして、慎二はあっさり暴露した。凛は“やった”という会心の気持ちと共に、この場でぶちのめしてやりたいという衝動を抑え、冷静に話を続ける。
「そうね。ところで、あなたがマスターって事はあなたと私は敵同士って事でいいのよね?」
「まあ、待てよ、遠坂。僕は君と戦う気はないよ。それよりも僕と組まないか?僕と君が組めば聖杯戦争なんて楽勝だぜ?」
殺意を込めて言う凛に対し、慎二は少しおどけた口調で答える。凛は自らの殺意を押さえ、普段のお嬢様的な言葉で問い返す。
「あら、あなたと組む事で私に何かメリットがあるのかしら?」
「メリット?そんなの簡単じゃないか。僕と君、最高の魔術師が二人も組めばどんな敵にも負ける筈ないだろ。」
何か隠し札があるのでは無いのかとも疑っての問いかけだったが、返ってきたのは単なる根拠の無い自信のようだ。ならば、もうこれ以上聞くことは彼女にはなかった。
「生憎だけど、お断りよ。悪いけど、こんな結界を張るような奴は冬木の町の管理者としても、私としても絶対に許せない存在なのよ。それに、あんたみたいなヘボと組むのもお断りだしね。」
「な、何だと!!」
凛の言葉に激昂する慎二。そして、自らのサーヴァントを呼び出そうとする。
「もういい!!死んじゃえよ、お前!!ライダー、遠坂を殺せ!!」
「シスター!!パートナー!!」
慎二の呼び声に答え、今まで霊体化して待機していた紫の髪の眼帯をした女が現れ、とてつもない速度で遠坂に飛び掛ってくる。
ズキュュューン
だが、その進行を待機していたロゼットの銃弾が阻む。
「喰らいなさい!!」
「ひっ。」
そして遠坂が慎二にガントを放とうとする。すくみあがる慎二。だが、ライダーがそれを庇う。
「凛!!」
そこで、クロノが凛に駆け寄り、彼女を庇いながら魔力弾を放つ。
「くっ。」
慎二を庇い、避ける事もできないライダーはそれをまともに喰らう。そこで更に入るシスターの追撃。
「これでどう!!」
銃弾を連発する。凛達は知らない事だがライダーは反英霊だった。そして、ロゼットの弾丸は魔の属性を持つ全ての存在に対し、付加効果をもたらす。
通常の1.5倍程度に増大されたダメージが次々とライダーに突き刺さる。
「このままでは。慎二、離れていてください。」
「そうはさせないわ!!」
慎二は今、明らかにライダーの足かせになっている。それを逃さぬよう凛はガントを連発する。ライダーにとってはたいしたダメージは無いが、慎二とそれを庇うライダーの動きを封じるには十分すぎる援護だった。
「まずい、このままでは・・・。」
ライダーがあせりの声を漏らす。ライダーにしてみれば凛達は最悪の相手だった。敵の数が多くなれば守る戦いというのは難度が格段に増大する。通常のマスターとサーヴァントのコンビにクロノという動く宝具が加わり、さらに全員飛び道具持っている。
対魔力の高さから辛うじて耐えられてはいるが、ライダーにとってはあまりに不利な状況だった。
「仕方ありません。自己封印・暗黒神殿(ブレーカー・ゴルゴーン)」
故にライダーは切り札である宝具を解放した。
その眼帯が外れ、その下から美しく、そして禍々しき眼、魔眼が現れた。
「!! まずい!!」
ロゼットはとっさに凛を庇うように立つ。
そして、彼女の身体は動きが大きく鈍る。
「シスター!?」
「くっ、これは、石化の魔眼か!?」
凛が叫ぶ。そして、クロノはその魔眼の種類を掴んだ。
「形勢逆転ですね。」
ライダーが呟く。シスターの対魔力はC、ただし呪いに関してはBとなるので辛うじて動けはする。
しかし、クロノは“今のままでは”C、石化を抑えるのが限界でまともに動く事は既にできない。
「ははは、いい様だな、よし、ライダー、ここで奴らを殺せ!!いや、まてよ、せっかくだから遠坂の奴は腕の一本か二本折って動けなくしてから捕らえてやれ。顔は結構いいからな。僕の奴隷にしてやるよ。」
今まで完全に怯えあがっていたにも関わらず、自分達が有利になったと思った瞬間、いきなり高笑いをあげる慎二。
それに対し、眉を吊り上げさせる凛とロゼット。
「調子に乗らないで!!」
そこでロゼットは十字架の防御結界を発動させた。
対魔力と合わせ、魔眼の拘束から逃れる。
そして、防御結界の効力が切れる前にそのまま一気に決めにかかった。
「四つの聖文が刻まれし銃(テトラグラマトン)!!」
必殺の宝具を発動させる。だが、しかし、相手の方も引き際を心得ていた。
「う、うわ。おいなんで逃げるんだ!?奴らを殺せって命令しただろう!!」
「相手の戦力がはっきりしません。まだ、何か切り札を隠し持っている可能性もあります。魔眼が決定打にならない以上、現状での戦闘はあまり賢いとはいえません。最も、マスターが死を覚悟で戦うというのなら、こちらも全力を尽くしますが。」
ライダーは魔眼が破られた時点で不利を悟り、慎二を抱きかかえ、撤退を開始していた。宝具の一撃を何とかかわし、そのまま逃走しようとする。
「ば、馬鹿、僕が死んで言い訳ないだろ!!くそっ、この役立たずめ!!わかった、早く逃げろ。」
「了解しました。」
そして、喚く慎二を連れてそのまま走り出す。ロゼット達も後を追おうとするが、速度では差がありすぎた。
「くっ、何てこと。」
やがて、彼等は見えない所まで走り去ってしまう。凛が歯噛みをする。
「どうする、凛?」
ロゼットの問いかけに凛は少し考えた後、答えた。
「・・・・あいつの逃げる所はわかってるわ。追いましょう。他所の魔術師の家だけど、こんな結界を張るような奴に礼儀を見せる必要わないわ。」
「そうこなくっちゃね。あいつらが結界を発動させる前に今度こそ倒さなくっちゃね。」
凛の言葉に同意する凛。そして、走り出そうとする二人をクロノが止めた。
「待った、それは夜にするか、そうでなければ行く前に士郎にこの事を伝えておいた方がいいと思う。」
「衛宮君に? 何故? かれは敵なのよ?」
クロノの言葉に疑問と不快感を込めて問う凛。それに対してクロノは答えた。
「もし、あいつらが家に戻らずに学校に戻ってくるつもりだったらどうする? あいつらは僕達がいない間に結界を発動させて魔力を蓄えようとするかもしれない。だから、万が一の場合に備え、その時はセイバーにライダーを討ってもらうよう頼んでおくんだ。確かに彼は敵だけど、少なくともこの結界の発動を許せないっていう点では僕達と利害が一致していると思う。」
凛は不意をつかれたようになり、直ぐにその言葉に納得した。
「そうね。確かにその通りだわ。わかったわ。保険として衛宮君に伝えておきましょう。」
そう答え、彼女は彼を探しに校舎へと戻って行った。
(後書き)
何か、クロノがちょっと頭がキレルタイプに(汗)えーと、下にあるのと後半の展開を変えたVerです。どっちがいいでしょうか?よろしければ意見おきかせください。評判のいい方の続きを書きたいと思います。
ところでテトラグラマトンがランクBって弱すぎですかねえ?ちなみにこのssではランクB以上かつ、50以上ならバーサーカーを殺せると設定してあるんでB+だと普通に殺せちゃいますし、かといってAというほど神秘性は高くないでしょうから、他につけようがなかったんですが。まあ、技能と付加効果で最大A+まで力を発揮できるんですけどね。ところでA++ってAの4倍と3倍どっちが正しいのでしょう?