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「蒼い師と緑の弟子 第14話―もしくはまぶらほ編10話―(まぶらほ+風の聖痕)」

キキ (2005-01-23 23:59)
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 「……あのさ、確か特訓してるのよね?」

 昨日は生徒会の仕事で忙しかったので居なかった玖里子が、朝六時昨日の空き地に着いたとき和樹しかいないため疑問に思い。和樹の指の先を見て――とある光景を見て少し固まった後言ったのはこの一言だった。

 「そうですよ。何か気になることでもあるんですか」

 「……着いて早々木の枝から吊り下げられてる二人見て、気にしないはずないと思うんだけど……てかなんでこうなってんの?」

 地上から高さ四メートルほどの空間に、体を白い粘着質のスライムみたいなもので体の自由を封じられ枝から吊るされている二人を玖里子が指差すと、和樹はふっと笑い

 「浅はかなんですよ……周りをよく見ないで落とし穴を掘るなんて――しかも、掘った後見張りも置かないから、その穴に対人粘着地雷なんて物をいれられて気付かない……もう少し周囲の警戒と俺が来たタイミングに気を配るべきですね。それをしないから、落とし穴の上で俺が無事なのを見て不思議に思い一歩踏み出して、三十分以上吊るされるなんてことに――」

 「えっと……何となくわかったから、もう言わなくていいわ――それは良いんだけどさ……」

 上から、「良くないです!こんな屈辱味わったことがありません!せめてこの最初から見ていたこの卑怯者に一太刀!」とか「降ろしてください!こんな格好いやです。和樹さん一人ならいいんですけど……そのときなら私から……」と言っているのだが。
三十分以上無理な体勢で吊るされて疲れきっている上に口にもスライムが貼りついているためモゴモゴとしか聞こえないので、和樹は―言葉が分かっているため「脱がれるより脱がすほうが好きなんだよな」と頭では考えているが―自然に無視し、玖里子は冷や汗をたらしているがもっと気になることがあったのでそっちを優先した。

 「なんです?」

 「……どうして、凛と夕菜ちゃん……あんなに…エッチな格好で吊るされてるの?」

 顔を赤くしているがそれも無理の無いところで、二人とも体を若干反らすような体勢で、空中から吊るされているため、自然と体の出ているところが強調されている上に。 
 制服の上着とスカートがきわどいところまで捲りあがった状態でスライムが固まっているため、見えそうで見えないではなく角度を変えればかなり明確に見えるという、半裸と言うよりストリップの途中というべき健康な男が見たら悶絶して飛び掛りそうな格好なのだ。 
 結界で見えないし他人がおいそれとは入れないからいいものの、そうでなければ猥褻行為として警察呼ばれるかもしれない。 
 そんな夕菜と凛の格好が、少し前自分がからかい半分で押し倒そうとして和樹に逆に押し倒され、来ると踏んでいた夕菜は教師からの信任厚い和樹の策謀によって担任教師の中村に呼び出され孤立無援の状態から、和樹の自主的な中止により解放されたときとほとんど変わらないので、わざとではないかと疑う玖里子に

 「偶然ですよ、化学物質を自由自在になんて操れません。そんな事誰かが出来たら大変なことになりますよ」

 和樹ははっきりと言った。 
 嘘ではなかった。和樹は通常の化学物質を操ることは出来ない。ただ例外的に、スライムみたいな半液体半物質みたいな物に熱を通すことで操ることは出来るのだが、言ってないだけだ。 
 それを知らない玖里子は信じることにした。今までの経験から和樹の態度は嘘を言っている者のそれではないからだ。確かに嘘だけはついてないが…… 因みに二人の格好とスライムの色は和樹の“趣味”だということは、三人は知らないほうが幸せだろう。

 「――でさ、二人とも何時ごろになったら降りてこられるの?」

 三十分以上あんたは何してたと思っているのだが、直接聞く度胸―というより勇気―は無い。しかし、“偶然”あんな体勢で固定されてしまった二人に対する同情心や義務感みたいなものからくる玖里子の質問に対し

 「いや〜罠成功したのは良かったんですけどね〜、あの罠解除する煙幕状の薬の在庫切らしちゃってたんですよ〜」

 すっかり忘れてたな〜まいったまいった、などと笑う和樹を見て玖里子は「そんな物使うな!」と思ったのだが口は別の言葉を言っていた。

 「ちょっと待ってよ!じゃあ、何時までもあのまま!?」

 「いえ、効果が大体三十分ですから安心していいですよ……ほい、ご到着」

 和樹の言葉の途中で、効果が切れて頭から落ちてきた二人を、神速の踏み込みで真下に来た和樹のそれぞれの腕がお腹を包むような感じで柔らかく受け止めた。

 抱きとめられたことに気付き、顔を真っ赤にして「降ろせ!」と怒鳴る凛と、こちらも顔を赤らめて「和樹さん」と幸せそうに身をゆだねる夕菜をからかって遊んでいる和樹を見ながら、玖里子は式森和樹という少年が悪人ではあるが結構お人好しな人間だということがわかってきていた。
 寮のときも、なんだかんだ言って玖里子を巻き込まないで脅迫したし、玖里子を押し倒したときも玖里子が本気で嫌がれば即座に止めた、そして今回の凛のことにしても聞く限り和樹にメリットなど無いのに―凛をからかって遊んでいるがこれだけならば別に協力することは無い―凛が本気で追い詰められていると見れば協力した。 

 (悪党じゃないっていうより、悪党にはなれないタイプなのよね。――隠し事結構あるし、性格悪いけど……)

 そこで考えを止めると玖里子は、夕菜と凛が衣服を直している間和樹がそちらのほうを見ないように監督することにした。最も当の和樹が意外にも紳士的にすぐに横を向いたため、和樹の背中を見るだけだったが……


 「――夕菜ちゃん、凛。一言いって良い?」

 二人から、こうなった経緯『三日間の間に和樹から一本取れば、和樹が一つ願い事を聞いてくれる。でも、三日間で取れなければ、夕菜と凛が聞く』を聞かされた玖里子は、その言葉に引っかかりを覚えたので少し悩むとそう言った。

 「なんでしょう?」
 「なんです?」

 「和樹ってさ……その駿司って人より強いんでしょ……だったら、和樹から一本。それも、駿司って人より短い練習時間でとるって……無理なんじゃない?」

 その言葉の途中で、和樹が「ちっ、気付かれたか」という顔をしたのを見た玖里子は、「和樹は二人に何頼むつもりだったんだろう」と少しの好奇心と絶大な恐怖をわかせる疑問を覚えたため、顔が引きつったが最後まで言い切った。
 その言葉を聞いた直後、玖里子と和樹の間に立っていた二人は振り返り

 「あ、凛ちゃん、夕菜。昨日言わなかったんだけどさ。二人の場合、下手な小細工うって戦うより、罠なんか仕掛けないで目の前の戦いしか考えずに戦ったほうがいいよ。二人の性格からいってそれが合ってるし、そのときが一番“強い”からね。今日やってみてそれがわかっただろ……これから気をつけようね♪」

 二度に分けて油を注ぐより、すでに限界近くまで燃えている火に油を注ぐことで被害を最小限にしようとしている和樹の「朝早くからやっていたことは無駄。でも目の保養にはなった。ご馳走様♪」という風にしか取れない言葉を聞いた。
 僅かな沈黙の後二人はほぼ同時に動いた。

 「式森、お前の言うとおり、目の前の“敵”に集中することにした――何か遺言はあるか」

 「和樹さん……覚悟してください。一対三です「ちょっと!あたしは関係ないわよ!」和樹さん魔法を使わないようですし、これなら何とか」

 剣鎧護法を刃に宿らせて不気味に輝かせながらこちらを見る凛と、玖里子の手を片手で握り締めもう片方でウンディーネを召喚した夕菜を見た和樹は

 「それじゃあ一言……二人ともいい体つきしてたよ。自信を持って良い。良かったね♪」

 まったく穢れを感じさせない清らかな笑みで言った。

 「この不浄者、覚悟!」 
 「こんなときにしか褒めないなんて酷すぎます!」

 真正面から堂々と、初めて異性からある程度のコンプレックス―“女らしくない”とか“胸が小さい”と本人だけが気にしている―を持つ体つきをほめられた二人は顔を羞恥と怒りと僅かな喜びで真っ赤にして一歩踏み込み 
 「ポチッ」と和樹が何時の間にか持っていたスイッチを押す音を聞いた 

 「「「ええーーー!!!!」」」


 「――いい忘れていたんだけどさ……こういう場合、確実に罠に引っ掛けるためには罠を複数用意するのが基本だから、罠が一つなんてことはないよ……ところで――」

 またも木から吊るされた魔法を遮断するネットの中で「ずるいー!」「卑怯者!」「何であたしまで!」と叫びながら動き回ったためこんがらがって今は身動きすら出来ず体にネットが食い込んでいるため苦悶の声をあげている―見ているほうからすればかなりHな光景だが―三人に対して、相手を後一歩というところまで追い詰めた時の詐欺師のような誠実溢れる笑みを和樹は浮かべた。

 「――あの賭けは無効ってことにして、みんなが損したってことで示談にしようと思うんだけどどうだろう」

「だ、だが」 
「で、でも」 
「あたしは関係ないって言ってるじゃない」

 和樹の提案に対して断ろうとする凛と夕菜、自分は無関係だと訴える玖里子。自然に後者を無視して和樹は続けた。

 「嫌ならいいけど、そのネット時間が過ぎるごとにだんだん締めていくようになっているんだ。ボンレスハムになりたいって言うんなら、俺は止めないよ……で、どうする」

 ――十数秒後、二人は泣く泣く屈服した。どう見ても和樹の一人勝ちだった。


 凛は正眼に刀を構えて、数メートル先に剣を片手でぶら下げて突っ立っている和樹を見ていた。はっきりいって見ているものからしてみれば隙だらけのようにしか見えない。が、凛は地をするような足運びで距離を詰め、和樹から二メートルのところまで接近すると
 一足で、その距離をゼロにして斬りかかった。
 次の瞬間、凛の体が和樹の頭上を超えて飛んでいった。 

 「凄い、ですね……」 

 「そうね……」

 何度か見てはいるものの、ぼうっと立っているだけで体を動かしたところがまったく見えない―前回凛が「右手首を掴まれたのはわかったのですが、それ以上は……」と悔しそうにいった―和樹が、小柄とはいえ剣の達人である凛を吹っ飛ばしているのだ。慣れるわけが無い。
 今日は特訓五日目の放課後、凛が和樹と一対一でやってもらいたいと言ったのでこうなっているのだが

 「凛さんが、飛んでいくだけなんですけど、これって――」

 「特訓になってるのかしらね」

 「なってないですよ」

 何回見ても変わらない光景に疑問を覚えた二人に対して、和樹が答えた。

 「「え――「なんだと!」

 その言葉を聞いて表情を一変させて驚愕の声を出そうとした二人の声を覆う形で、何とか受身を取ったものの衝撃で身動きが出来ないはずの凛の叫びが聞こえた。 

 「凛ちゃんタフだね〜。あ、もしかして受身の取り方は上手くなったのかもね。じゃあ、無駄じゃなかったんだ」

 さすがの和樹も驚いたようで感心して言った。

 「そんな事をいっているのではない!どういうことだ!お前は私に強くなれると――」

 「確かに強くなれるとは言ったけど、その時もう一言言っただろ。凛ちゃんが一回、一回吹き飛ばされているだけじゃなく。どこが悪かったのか反省して方法を考えるのならって……体で覚えるって言葉もあるけどさ、それに頭がついていかなきゃ何の意味もないんだよ」

 「…………すまん」

 後半は呆れたような和樹の言葉に、凛は羞恥と自責の念で顔を赤くして謝った。今思えば和樹は最初のときからずっと変わらない部分を掴んでいたし。その後の行動も、若干の違いはあれど基本的に同じだった。 
 なのに、ただ闇雲に斬りかかっていた自分を凛は恥じた。

 「まあ、俺もえらそうなこと言えないけどね……いまだに先生には(魔術が得意なことを差し引いても魔術に)偏りすぎだとか言われているから」

 凛が十分和樹の言葉を吟味して理解したことを確認すると、和樹は凛に対しての慰めともとられかねない言葉を出した。最も、凛が和樹の言葉を理解しなければキツイ言葉を言っていたのだが……

 「前から聞きたかったんだけど「なんです」和樹の先生って和樹より強いの?」

 和樹が和麻のことを言ったので、前から知りたかったことなのでいい機会だと訪ねた玖里子の言葉を聞いた凛と夕菜も頷いた。

 「自慢じゃないですけど――」

 その瞬間、和樹の脳裏に和麻との戦闘訓練が浮かび上がった。
 殺気が無いだけで殺し合いと変わらない戦闘訓練だった。だから、気を抜けば比喩的な意味ではなく冗談抜きで死んだだろうし、訓練の終了は和樹―和麻もだがまずありえない―が半殺しにされるまでで、ギブアップなしだった。 

 「――勝つどころか、一本とったことも無いですよ」

 魔力量だけなら和樹が僅かに勝ってさえいるのに、いつも全力で戦う和樹に対し和樹が苦手なところを和樹にわからせるために戦闘スタイルを調節―だから、和麻の得意とする戦闘スタイルではなく苦手な戦闘スタイルの場合がある―したうえで、訓練直後戦闘中に把握した和樹の良くなったところを褒め、悪かったところの中で大至急改めるべきことを一つ―それ以上は自分で考えろということ―教える人類最強としか思えない自分の師を思い出しながら和樹は言った。 

 和樹は知らないが、実は和樹が手ごわくなったため和麻は二年位前から戦闘スタイルの調節を止めていたり「三十までは弟子に負けたくないな」と言って自己鍛錬に励んでいたりするのだが、それでも十分化け物だろう。

 そこまで詳しくは知らないし、和樹の魔術さえ知らないが、今まで見てきた和樹が一本もとったことが無いということに対し

「冗談、でしょ?」 
「本当ですか?」 
「信じられん……」

 三人は同時に引きつった声を出した。

 「そうですかぁ?」

 「そうですかって……あたしから見れば、あんたに勝てる人間ってあんまり想像できないんだけど……というか、本当に人間なのあんたの先生」

 うんうん、と頷く夕菜と凛。そのことについては和樹も何度も疑問に思ったのだが、その言葉の内容を訂正することにした。

 「いえ、俺って結構“負けて”いるんですよ」

 この師弟が『勝負に負けても戦いには勝つ』という言葉の体現者なので、目的を果たすために必要でなければ敵前離脱を当たり前に行う。そのため、厳密な意味で“負けた”ことはあまり無いのだが、それでも“負けた”ことはある。例えば――

 「そうなんですか?例えばどういう人に?」

 「まあ、(向うの世界の人だから)知らないと思うんだけど……殺人貴って人にはもう手も足も出なかったね」

 『灼熱』の能力を持っていた鬼種から作られた骨刀を提げて、漆黒の忍者服のような服を着た目に魔眼封じの包帯を巻いた男を思い出しながら答える。

 「殺人鬼?なんか猟奇的ね、ジャック・ザ・リッパーみたいなの?」

 ロンドンを震え上がらせた殺人鬼の名前を言う玖里子に対して

 「いえ、殺人の貴いって書くんです……まあ、どうでもいいことですから忘れてください」

 和樹は手を振って、四年前北欧で会った和麻よりも七歳ほど年上なのに童顔のためにそう見えなかった、和麻と壮絶な戦いの末引き分けた男の話を終えた。

 その後、凛と夕菜のタッグの強化をすると、全員で食事することにした。因みにエリスは「出掛けてくる」と言って近所の子供と遊びに行っているので「どうするか」と訊いたら来るといったので全員で出掛けた。 


 「やああああ!!」

 走った勢いのまま掛け声と共に斬りかかった凛の下段からの跳ね上げるような一撃を、和樹が横に構えた剣で受け止めた。
 膂力に劣る上に体勢も悪い凛は、鍔迫り合いをせずに一端引こうと素早く重心を後ろに持っていこうとした瞬間―― 
 その動きを読んだ和樹が肩からタックルするように踏み込んだため、弾かれるように二,三歩後退した 
 が、その勢いのままさらに後退して和樹との距離を開けると

 「ウンディーネ!」

 作戦通り絶妙なタイミングで夕菜の水弾が、距離を詰めようとした和樹
 ――ではなくその目前で弾けた。粉々になった水弾は夕日に照らされ虹を作るとともに僅かといえ和樹を驚かせその動きを一瞬とはいえ
 ――封じられずに、走りながら剣を一閃されるだけで何事も無かったかのように突破された。 

 「はぁ!!」

 瞬時に距離を詰めかける和樹に対して、作戦はすでに崩壊していたが他に手が無いため、剣鎧護法を宿らせた剣からの衝撃波を放った凛に対して和樹は 
 ――その衝撃波が自分に届くときに合わせて剣を地面に突き刺し棒高跳びの棒代わりにして飛び、空中で体を捻って横に一回転し、衝撃波を撃った反動と和樹が突然視界内から消えたので隙だらけの凛の肩に放射線の頂点からやや落下した状態で狙い通りに両手を置くと勢いを殺す意味で一瞬倒立の体勢になって、その着地の衝撃によってバランスを崩した凛の背中に倒立の体勢から半回転した勢いのついた膝を叩き込み、激痛で声もあげられずに地面に突っ伏した凛の背中の上に膝立ちになってあっさりと動きを封じこめた。 
 そのまま流れるような動きで、激痛に呻く凛の背中の上で左足首と左手首を繋ぐように手錠をはめて動きを封じると、和樹は唖然としている夕菜への距離を詰めにかかった。 

 「ザ、ザラマン――」

 慌てて火精霊を召喚しようとした夕菜だったが、その目前で和樹が走りこんだ勢いを殺さずにサイドステップしたので、目標を見失った上に死角に回り込まれ、あっさりと取り押さえられた。 

 この場にいるほかの三人は知りようもないが、先程凛に対して攻撃した技こそ、殺人貴が和樹に対して放ったものだ。それを、今回和樹は相手が凛なので手加減したのであって本来は極めて殺傷力の高い技である。 
 実際、本家本元の殺人貴は技の前と最中に多彩なフェイントを混ぜて和樹の予知能力や処理能力を麻痺させた上に、空中で体を捻らずに和樹の頭を掴んで跳躍で勢いのついた自身の体重と己の膂力で首を横に百八十度回転させて頚骨をイカレさせ、背後に回った勢いのまま背中に膝を叩き込んで背骨を叩き折ったあげくいくつかの内臓を破裂させて和樹が倒れこむ最中に止めを刺しにいったくらいに凶悪な代物だ。
 十二の子供に躊躇せずにそこまでやる殺人貴も相当なものだが、自分を半殺し―というよりかろうじて生きているがほっといても数分で死ぬようなダメージといったほうがいい―にした技を使えると判断して修得した和樹も相当なものだろう。 

 「と、とんでもないわね」

 凛にかけた技のことは知らないが、その一部始終を見ていた玖里子は、人間離れした動きに対する驚愕と賞賛を込めてそう呟いた。 
 この少年が、歯が立たなかったという連中に対して「どういう奴らよ」と畏怖を感じながら…… 
 因みに玖里子は和樹の外見が特に強そうに見えない分、和樹言ったふたりは筋肉マッチョで見るからに強いとわかる外見に違いないと確信していた。 

 その頃和樹は、骨や内臓が痛まないように手加減したのだが、痛みのためにたとえ手錠が無くてもいまだ動けない凛を背負って、それを羨ましげに、でも気の毒そうに見ながら治癒魔法をかけている夕菜を連れて玖里子がいる簡易テント―玖里子が医薬品などと一緒に持ってきた―の所に向かって歩いていた。


 「一週間にしては上出来ですよ。合格と言えると思います。勝率四割ぐらいはありますよ。あとは、十回やれば四回の確率を本番で出せるかどうかです」

 凛の治癒を手伝いながら、「明日だけど、大丈夫なの?」と訊いた玖里子に対して和樹は答えた。

 「四割しかないんですか?」

 若干不安そうに言う夕菜。先程コテンパンにやられたので不安なのだろう。

 「こう言っちゃ失礼なんだけど……俺が最初に予想していたのは、良くて三割ってところだったんだ。でも予想以上に二人とも息があっているし、さっきのウンディーネを含めた作戦も見事だった。ただ、途中で弾けたのは良かったんだけど、弾けたことによって水の勢いがほとんど殺されて足止めの意味がなくなっていた。あの場合は、炎とかにしたほうがいい」

 そうされたら、衝撃波を避けることが出来てもダメージはあったと思う、と締め括った。
 避けられた場合の作戦を立てなかったのはまずいかもしれないが、二人の性格と片方が素人同然で一週間という短い期間では、そこまで考えると逆に弱くなるので触れなかった。

 その言葉に自身を持った夕菜と痛みが抜けた凛は「もう一戦やろう」と言ったが

 「いや、今日は早く寝て疲れを取ったほうが良い。だから解散にしよう」

 という和樹の言葉に頷いた。
 今日も食事しに行こうということになり、片付けを終えてエリスを待っているとき、突然凛が正座をして深々と頭を下げた

 「式森、夕菜さん、玖里子さん……本当にありがとうございます。この恩は決して――」

 いきなりの土下座に驚いた三人の中で、真っ先に平静さを取り戻した和樹は、言葉の途中で凛の額を指で突ついた。
 額を両手で押さえてきょとんとした顔を向ける凛に向かって和樹は笑った。

 「そういうことは、明日勝ってからにしよう。だから、今は明日の勝負に集中するために少しでも体を休めな。そうじゃなきゃ、勝てるものも勝てないよ」

 そう言って疲れが取れる薬だから布団に入る前に飲むことと言って、和樹は夕菜と凛の二人に袋に入れた錠剤―ただの睡眠薬と栄養剤―を渡した。

 「し……式森」

 その袋を握り締めて凛は感動したかのように呟いた。

 「わ、私はお前を勘違いしていたようだ。何時も、何時も人をからかっては嬉しそうに笑ってばっかりの極悪人で、強い力を持っているくせに普段ぼんやりしている面倒臭がりで、誰かを脅迫して相手の嘆きを聞いて悦に入るくらいのサディストで、温和な顔をして腹の中は真っ黒の卑劣な男だとばかり――」

 そっと和樹のほうを見て、和樹が穏やかに微笑んで―麻衣香に止めを刺したときの笑みだった―いるのを見ると「「り、凛(さん)」」と言って慌てて、思い出すような目で言い続ける凛の肩に手を置いて止めようとする夕菜と玖里子に気付かず凛は言い続けた

 「――でも、結構いい奴だったんだな」

 問答無用で逃げ出そうとしているのだが凛を見捨てられずに迷う二人に構わずに話を締めくくって顔をあげた凛に対して

 「そうかもね」

 和樹は、やんわりと微笑んだ。その『気にしてないよ』という言葉がカタチになったような笑みを見て夕菜と玖里子は緊張をとき、凛は腰が抜けた夕菜たちを見て不思議そうにしていた。
 それを見ながら和樹はこの話をしっかりと心のメモに書き込みながら「三人とも、温和な顔して腹黒だって分かっているのに騙されるところが可愛いよな」と思っていたりする。


 「エリス、悪いけど夕菜の所で今日は寝てくれ」

 夕食後の帰り道、土手の中ほどにさしかかったとき和樹が突如そういったので、

 「どうして?ますたー」
 「どうかしたんですか?」

 エリスと夕菜だけでなく皆が和樹に訝しげな視線を集めた。

 「ん、ちょっと用事ができたから」

 和樹がそういうと夕菜と凛が「手伝えることなら、手伝いましょうか」とそれぞれの口調で言ったので

 「いや、もしかしたら、夜遅くなるかもしれない。そうなったら、明日に差し支える。だから、ふたりは薬飲んで寝てくれ」

 エリスをよろしくと言うと和樹は来た道を引き返していった。


 「すまないね。和樹君」

 「いえ、駿司さんも一週間ご苦労様です」

 近くの自動販売機で買った緑茶を手渡しながら、結界の外からとはいえ一週間凛のそばにいた駿司に対して和樹は言った。 
 その声に微笑ましいものを見たような響きを聞き取ったのと気づかれていたことに駿司は苦笑した。

 土手を通り過ぎているとき、駿司はアベックにまぎれて和樹に対して話しをしたいというサインをして、和樹はそれに頷いたのだ。
 和樹の傍にいればそこまでの圧迫感を周囲に与えないとはいえ、居たら話の邪魔になるかも知れないエリスを夕菜たちに預けて。

 「凛は、学校ではどんな調子なのかな?」

 和樹が隣に座ると少しの間を取って駿司は訊いた。何気ない口調だったが、どう聞いても『年の離れた兄か、年の近い父親が、少女を心配する声』にしか聞こえなかった。
 だから和樹はその口調と、「明日は?」という質問をせずに真っ先に学校での凛のことを訊いてきた様子に、ふと義妹のことを思い出して微笑した。

 「そうですね。知り合って、まだ二週間過ぎだし学年も違うからよく分からないところもあるんですけど。人気者ですよ凛々しいとかかっこいいという意味で……悪い噂も聞かないし、ただ余裕が無いというか厳しい性格なんで敬遠してる子もいると聞きますけど」

 「そうか……和樹君から見るとどうなのかな?」

 紫煙を吐きながら、駿司がつぶやく。

 「答えてもいいですけど……その前に一つ答えてもらってもいいですか?」

 「なんだい」

 気楽な口調で訊く駿司を硬直させる言葉を和樹は口調を変えずにつぶやいた。

 「この話は、あなたがその衰弱しきった明日をも知れない体で凛ちゃんを訪ねてきたことに関係しているんですか?」

 突然の核心を突く質問を聞いて、驚きのあまり紫煙を大量に吸い込んでしまい咳き込んだ駿司は落ち着くと

 「……心臓に悪いな……君は。知っていたのかい」

 先程よりも弱った口調で駿司は呟く。こちらに顔を向ける駿司にたいして静かに和樹は頷いた。いつもの人畜無害の表情ではなく真剣な目つきで

 「そうか……凛は――」

 「知りませんよ。今俺が言うべきことじゃないですから」

 その若干厳しい答えに「そうか」と呟くと駿司はタバコを吸った。暗がりに灯る小さな明かりを見ながら黙る駿司を見ながら、和樹が声を出す

 「……さっきの答えなんですけど……凛ちゃんは可愛くて面白い子ですよ。意地っ張りで生真面目な頑固な子ですけど、その分素直で純粋というか初心な……」

 だからからかいがいがあるしすぐ騙せるんだよな〜と内心考える和樹に対して

 「……凛はね、静岡の分家の子なんだ」

 駿司はタバコを携帯灰皿に捨てると、呟くような声で語り始めた。先程の自分の問いに対する答えだと何となく理解して和樹は静かに聞き始めた。

 「色々あって本家に預けられて、ずっと僕が面倒を見ていたんだけど、可愛かったよ。他に遊び相手もいなかったし、仲はよかったんじゃないかな。兄妹みたいなものだった……ところがさ、凛を跡継ぎにすることが決まったから、僕が剣を教えなきゃならなくなった。そうなると、今までのような優しい関係じゃなく、厳しい関係にならざるを得なくてね。それから遊ぶことは一切無くなったし、言葉遣いも厳しくなった……最初のほう凛は悲しそうだったけど、すぐに従うようになった。僕は慣れたんだと思って気にしなかったんだ」

 最後のほう悔恨のようなものを混ぜて駿司は言った。

 「…………」

 和樹は、自分たち師弟のことを当てはめようとはしなかった。和麻・和樹と駿司・凛は、置かれた環境も、本人たちの性格も全く違う、それなのに当てはめたりするのは愚かだろう。

 「素質がいいからね昼も夜も修行したら、腕は凄い勢いで伸びていった……でも、心のほうはどうだったか……友達を作って遊ぶことは重要なんだけどさ、そんなことが出来る家じゃなかった。後継ぎは禁欲的で家のことだけを考えていればいい。だから、学校に通うようになってからも友達はできずに、学校と道場を往復するだけだったんだ……一度だけ凛が窓から外で遊ぶ子供たちを羨ましそうに見ていたときも、僕はあの子を引き剥がして道場に連れて行った。気にしてなかったんだ。道場を継ぐ気だと思っていたからね」

 「でも凛ちゃんはここへ来た」

 「ああ、そのときになってようやくわかったよ。凛に必要だったのは修行じゃなく。友と遊んで、知識を深めて青春を謳歌する事だってね」

 「だから、夕菜が凛ちゃんのことを友達だって言ったとき、あんなに嬉しそうだったんですか」

 そう言われると駿司は、月を見上げた

 「……本当に君は心臓に悪いな……和樹君」

 「はい」

 「さっきの質問の答えだけど、僕にはわからないんだ……僕は神城に拾われて育てられた。だから、恩返しのつもりでずっと尽くしてきた。だから、その生き方に疑問を覚えたことはないし、後悔したこともなかった……でも、凛のことは違うんだ。どうしたらいいのかわからないけど、違うということだけはわかっている……ここに来て、凛の顔を見ればどうするか決められるかもしれないと思ったけど……ああいう態度しか取れない。こんな僕を月にいる仲間が迎えたらなんて言うかな……褒められることはないだろうね。この期に及んで、妹に対してどうしたらいいのかわからない僕を……なぁ、和樹君」

 「はい?」

 「僕は、どうするべきだったんだろうな。これから、どうするべきなのかな」

 苦悶の色を顔に浮かべながら駿司は和樹に対して乞うように言った。
 死に掛けた体でここに来て凛を見守っていたということから、駿司の決意は丸解りなのだが、それを表に出すにはあと一押しが足りないと見て取った和樹は必死に頭を回して言葉を思い出す。

 「過去の行動を良かったっていえる奴なんてほとんどいない。大抵の奴はこれで良かったのかもう少し良いやり方があったんじゃないかと思って後悔する……だから後悔してもいい、迷ってもいい、その過去に縛られてもいい……でも、もう一度その過去の焼き増しだけはするな。したところで何にもならないし、後になって後悔することが増えて頭痛くなるだけだ。教訓は一度で良いんだぞ、何度も味わうなんて馬鹿みたいだからな……昔、俺にある人が言ってくれた言葉です」

 あるとき、どうすべきか迷う和樹に和麻が言った言葉だった。

 「このままだと、昔と同じってことか……でも、僕には恩が」

 駿司は呟くように言った。

 「凛ちゃんから聞いたんですけど、駿司さんは百年以上も神城に仕えていたんでしょう……もう充分だと思いますよ。だから、凛ちゃんの兄として向かい合えると思うし、そうするのが自然だと思います。大体家にしても組織にしてもそこにいる人がいてこそ成り立つんじゃないですか。家名や格式なんてカビの生えてあんまり価値のないものを後生大事にして今まで尽くしてくれた駿司さんを省みない奴らに、駿司さんが、遠慮することなんて無いでしょう」

 先のわからない体でここに来た駿司が誰かから言ってもらいたかった言葉がこれだった。心のそこではわかっていたし、そうしたかったのに、最後の一押しがなかったために出来なかったことだった。
 だから、ここに居た、和樹ならばその一言を言ってくれるのではないかと期待していた。そして和樹は期待通りに言ってくれた。

 「すまないな和樹君。おかげで、決心がついたよ」

 礼を込めた謝罪の言葉を口にする駿司に和樹は「いえ」と笑った

 「ところで駿司さん」

 「なんだい」

 気分良く茶を飲む駿司に対して

 「本家の人から俺をどうこうしようって言われていたんでしょう。なんていわれたんですか?」

 気管に茶が入ったためにむせ返る駿司は、和樹に対して「何で知ってるんだい」という目を向けてきた

 「いや、最近訳のわからない何家とかいう連中がここら辺にたむろってまして、口揃えて勧誘してくるんですよ。なのに、神城からは初めて来た駿司さんだけそういうこと言ってこなかったので、握りつぶしたか破り捨てたかしたんだろうなって思ったんですけど、なんて書いてあったのかなって思って」

 和樹が駿司に対して親切にしている理由は、凛のこともあるが、駿司が本家からの命令―内容の見当はついている―を破り捨てたのだろうというのが大きい。 
 そういう生物としての尊厳最低ラインを心得ている相手のほうが付き合っていて気持がいいし、第一会話が出来る。

 「どうして、僕がそういうのを持っているってわかったんだい?」

 「駿司さんここに居るの、神城家からの指示でしょう。公用じゃないと、凛ちゃんが勝っても説得できないじゃないですか。私用だから無効だって言われて」

 感心して駿司は和樹を見た。和樹は山の貴人を倒した自分に対しての視線をよくわかっている。おそらく、和樹を勧誘しようとした連中は“丁重”に帰らされただろう。最も“丁重”の度合いは相手の態度によって違うのだろうが……

 「……その通りだ、和樹君。僕は神城家から凛を連れ帰るとき、もう一人連れて来いといわれている」

 何かを隠すように言う駿司を見て「もしくは俺の子供を身ごもったときなんだろうな」と考えたが口には出さなかった。駿司に対して言っても意味がないし、このことを隠したうえに握りつぶして凛には聞かさずに自分が何とかしようとしていた駿司を責めるつもりなどない。


 「そうですか。ところで駿司さん、明日凛ちゃんと話してどうするつもりなんですか?」

 明日の決闘は、凛の元気な姿を見たいから言ったんだけどその時間と体力がもったいないから話をしたほうが良いかもしれない、と聞かされた和樹はそう言った。

 「謝ろうと思っている……許してくれなくていい、憎んでくれていいけど、謝りたいんだ……でも、凛は僕の言葉を聞いてくれないかも知れないな」

 その寂しそうな声を聞いて、それまでは治ったら自分も神城に連れて行こうとするのではないかという一抹の疑念を抱いて迷っていた駿司の治癒を行うことにした和樹だが

 (今の意固地になってる凛ちゃんじゃ、逆効果になりかねないな。夕菜たちが協力してたのに勝負を放棄できないって考えるだろうし……だから、凛ちゃん駿司さんが死にかけでもしない限り……)

 そこまで考えると和樹はキュピーンと目を光らせた。

 「駿司さん、凛ちゃんが話を聞いてくれる手があるんですけど、聞いてくれますか」

 「本当かい!ぜひ、聞かせてくれ」

 勢い込んでそう言ってくる駿司に対して

 「明日戦ってください。その後、倒れて死に掛けてください」

 非情としか聞こえない言葉を言った。突然の言葉に目を見開く駿司に和樹は、言葉を続けた。

 「演技です。駿司さんの体を治すので、演技してください」

 「……和樹君、僕は寿命なんだよ。病気じゃないんだ。病院に行って確かめてもいる。気持は嬉しいけど……」

 困ったように微笑む駿司に対して和樹は立ち上がりながら手短に語り始めた。

 「一週間前、俺の使い魔の子が言いました。人狼種特有の病気で死に掛けた人狼がいたから話しかけようとしたけど、逃げられたって。覚えありませんか?」

 「あのときの」

 思い出して目を見開く駿司に「ちょっと待っていてください」と言って和樹は走り去ろうとしたが、振り向いた

 「実は俺も迷っていたんです。駿司さんの治療をする方法は二つあるんですけど、一つは隠しておきたくて、一つはあまりやりたくなかったんです。それに駿司さんが治ったら俺も神城に連れて行こうとしているんじゃないかって疑っていました。だから、今まで迷っていたんです。偉そうなこと言ったのは、俺のそういう気持を駿司さんにぶつけたのもあります。すいませんでした」

 治癒の炎を隠して起きたかった和樹は、そう言って頭を下げるとまた走り出した

 「いや、謝るのはこっちだよ……」

 という駿司の言葉を聞きながら


 「紅尉先生、月下美人を一ついただけませんか?」

 保健室に入ってきた和樹を見た瞬間妖しく眼を輝かせた紅尉を見て、和樹はこれだから嫌だったんだと呟いた。

 「月下美人を?何に使うのだね?」

 「病人が一人いるんです。月下美人を使わないと治せない病人が」

 「それなら、渡すのもやぶさかではないが……患者は誰かね」

 「……人狼です」

 「ほう、人狼かね……病気ならば医者が必要ではないかな」

 半オクターブ声の高さが上がり、いっそう目の輝きが増した紅尉。病気のときはともかく治れば、間違いなくベッドの一つに縛り付けるぐらいはするだろう

 「いえ、身近な人間が言いと本人が……」

 それを見て、紅尉をついてこさせないようにするためには『自分の意識を残した検査』という条件を出す必要があると判断した和樹の目に。
 保健室の隣室への扉に張られた結界札が見えた。前から張られていたものだが、その結界札が以前は発動していなかったのに、今は発動していることが和樹の桁外れの霊視力からしてみれば一目瞭然だった。そして、その中にいる存在が成長するまでの時間も……

 (三日逃げ切れば何とかなる!)

 「紅尉先生、交換条件があるんですが」

 自分の悪運の強さに対する感謝と内心の決意をまったく感じさせない平然とした声で和樹は紅尉に語りかけた。

 「交換条件?」

 「ええ、月下美人を何も言わずに渡していただければ、俺の意識を残した検査か困ったことがあれば何か一つ手伝いをします」

 後半も聞いてはいるのだろうが『検査』と言う言葉を聞いてから「魔法医学の発展……身体能力測定……解剖……薬物検査……趣味」などと呟いてこちらを見ようともしない紅尉はかなり恐かったが、和樹は微笑んでいた。が、内心では絶対に検査されてたまるかと決意していた

 「式森君、もう一つ条件がある。月下美人は渡すし患者も見ないが、薬の調合はここでしてくれないか。君がどういう調合をするのか興味がある」

 喜んでいてもしっかり、人の足元をみる紅尉に対して

 「もちろんですよ。最初から保健室を使わせてもらうつもりでしたから、こちらからお願いしたいくらいです」

 とっととここから離れようと考えていた和樹は笑って答えた。


 その後、トゥスクル開発部長と医療部長が共同開発した人狼の治療方法―トゥスクルは唯一幻想種と友好的な人間の組織なので、幻想種が治療などの頼み事を頼みに訪れるときが結構ある―を教えてもらった和樹はポケットに入れていた薬を取り出して、月下美人の茎をすり潰すと混ぜ始めた。 
 調合自体は順調だったのだが、異世界で幻想種とも交流のある人間たちが編み出した調合方法―花びらではなく茎を使う自体珍しい―と組み合わせに使った薬は、紅尉といえども見たことも聞いたこともなかったので、薬を調合し終わるとそれは、しつこかった 
「どこでこんな方法を会得したんだ」 
「式森君、今日は寮に帰らずに一晩語り合おうじゃないか」 
「患者にはベッドが必要だ」 
「いっそ全てを忘れてしまわないか」 

 それらの言葉に対して和樹は「その話は二、三日以内にする検査のときに、今は病人が待っているので」と言ってかわした。
 それを聞くと、医者の良心が意外とある紅尉―だから、和樹も強硬手段に出ていない―は納得して和樹を帰した。 
 部屋を出て行くとき、紅尉の手の中の怪しげな銀色の球体が非常に気になったが気にせずに駿司のところに行くことにした。


 「じゃあ、ぐいっとどうぞ」

 和樹からビンに入った濃い黄緑色の液体を渡された駿司は、ためらわずにコルクのふたを開けて一気に飲み干した。

 「……開発したふたりが見たら、ためらわずに飲んでくれるなんてって言って泣いて喜ぶなあ」

 和樹の呆れたような感心したような声は、幸か不幸か駿司には届いていなかった。 
 薬をのどに流し込んだ瞬間から全身を電流のような速さで爽快感が貫いたからだ。体の壊死していたところが、復活していくことが手に取るようにわかる。
 半死人の状態にあって今まで使われてなかったり休んでいたりした、細胞が、神経が、血液が、骨が、筋肉が、内臓が、健康体に戻ったことで一斉に脈動した。 

 「熱い……」

 全身が燃えているようだった。そうすることで、「生きている」と自分に伝えようとしているようだった。
  自分の体の訴えに対して応えるように頷きはしたものの全身を焼く熱は収まらずに駿司の意識を刈り取ろうとしたとき 
 「どうぞ」と言って和樹がお茶を差し出した。
 さっき冷たいお茶を三つ買ったのは、これを見通していたのかと、考える余裕も和樹に礼を言う余裕もなく駿司は、少しぬるくなっていた―こういう場合、冷たいものを飲ませないほうがいい―ものの今の自分にとっては冷水同然のお茶を飲み干した。 

 「落ち着きましたか?」

 患者を診る医者のような視線で和樹は、駿司を見た

 「ああ……和樹君」

 体の異変が治まったばっかりなので虚ろな口調で駿司は呟くと、弾かれたように和樹の手をとった

 「ありがとう……」

 和樹が治してくれなければ、凛にたいして何も言わずに死んでしまうかもしれなかった。いや、何か言ったとしても死の直前の言葉になってしまい凛を傷つけたかもしれない。そう考えるとただ駿司は頭が下がった。 

 「いえ、気にしないでください」

 なんでもないことのように、この世界では確立されていない人狼の不治の病を治療した少年は言った。「でも」と和樹に対する礼など思い浮かばない駿司に

 「目の前の病人を治せる薬があるからそれを使っただけです。別に珍しい話じゃないでしょう」

 だから気にしないでくれと暗に駿司に伝えて。

 「それにお礼はしてもらいますよ……今から練習してもらいますからね」

 くくくくと笑いながら嬉しそうに言う和樹は、多大な借りがある駿司から見ても悪魔にしか見えなかった。が練習の内容を聞いた駿司は、凛に被害が“あまり”ないのと、それならば上手くいきそうな気がして和樹に協力することにした。


 そして決戦の日、和樹に対しての謝礼の巨額さと使い道を公表(できるはずないが)しなかったために、いまだに工事が始まる気配もない女子寮跡地に凛と夕菜が並んで駿司と対峙していた。凛と夕菜の後ろでは、応援要員の玖里子が人間体のエリスと並んで立っている。
 で、和樹は――

 「このたび審判及び立会人を任された式森和樹です。公平に審判するのでよろしくお願いします」

 誰も知らないうちに何時の間にか主審及び仲介人及び実況及び映像記録係という一番良く見えて火の粉がかからない立場を手にいれていた。
 そのことに対して凛・夕菜・玖里子の三人は「いつの間に」と最初は考えたが、考えても仕方のないことなので考えるのを止めた。
 後、凛はカメラがデジカメとポラロイドの二つだということに対して突っ込まなかった己を呪うのだが、それはさておき

 「両方とも準備を」

 その言葉を聞いた凛は愛刀を抜き、夕菜は数メートルの距離を後ろに下がり、駿司は余裕の表情でやる気満々の二人に声を掛けた

 「準備はいーかい」

 「無論だ!」

 「こっちも準備できました!」

 「はじ――「光散弾!」

 開始の声の途中で、夕菜はソフトボール大の光球を数個駿司に対して投げつけた。 
 その光球は途中でショットガンの弾のように分裂すると駿司の左方向と右方向の空間を覆い、その方向に対する行動を僅かな時間とはいえ不可能にした。
 相手の行動を妨げる奇襲としては上出来だと和樹が実況するなか、凛が駿司までの距離を詰めて大上段から縦に斬りかかっていた。 
 横に避けられず、かといって剣鎧護法で延長された刀の範囲は跳んで逃げられるものではなく、唯一の退路である背後に下がった駿司を

 「光遊撃弾!」

 夕菜の魔法が襲った。 
 轟音と共に巻き起こる衝撃波と土煙を見て、実戦経験の少ない夕菜が駿司を殺してしまったのではないかと心配に思って一歩踏み出すと
 ほぼ同時に駿司が上空から凛に襲い掛かった。
 何が起こったのかという三人―エリスは見えている―の疑問に答えるように

 「爆風の勢いを借りて跳んで電柱の上にいた駿司さんが、凛ちゃんに襲いかかります」

 実況役の和樹が言った。

 「和樹さん!もっと早く言ってください」

 「いや、先に言ったら、夕菜と凛ちゃんのひいきになっちゃうからね」

 接近戦になってしまい援護できなくなった夕菜が、顔を駿司と凛の接近戦に向けながら審判でもある和樹に言ってもしょうがないことだと自覚している文句を言って、予想通りあっさりと和樹に返された。

 立て続けの凛の剣突を駿司は紙一重でかわしながらじわじわと距離を詰めて、凛をあせらせて大振りにさせ、その大振りに合わせて踏み込みながら掌を突き出して胸に当てて、凛を弾き飛ばした。
 すぐに体勢を立て直して斬りかかったものの駿司が押していることは誰の目にも明らかだった。

 「和樹さん……」 
 「和樹……」
 「ますたー……」

 先程まで「凛さん、離れてください援護できません」と作戦とは違って意固地に駿司に斬りかかる凛に対して声をかけていたのだが、凛の必死の表情を見てから声をかけるのを止めてじっと見ていた夕菜を含める三人が声を掛けてくる。
 凛が押し始めたのに気付いたのだ。凛の攻撃のタイミングは変わっていないのに駿司の体にかすめるようになったから異変に気付いた。
 最も前の二人は駿司に何かあったのかと思ったのに対して、エリスは駿司がなんともないのに突然そうなったことを和樹に訊こうとして、和樹に黙ってというジェスチャーをされて首をかしげているのだが。 

 いきなり駿司が体勢を崩した。攻撃もされていないのに、足を滑らせた。

 「もらった!」

 勝機と見て剣を振りかぶる凛の手を「待った!」と言いながら凛の右腕を掴んだ和樹が止めた。

 「式森、何をする!お前は審判だぞ!」

 「終わりだよ、凛ちゃん。君の勝ちだ」

 和樹の言葉が終わるか終わらないかという時駿司が崩れ落ちそうになり、地面に激突する寸前で距離を詰めた和樹に抱きかかえられた。脈を取って、口の前に手をやって呼吸を確認する和樹。

 「まずいわね」

 ただ事ではないと感じて走ってきた玖里子が、和樹の背後から駿司の真っ白で肌が乾燥した顔を覗き込んで息を飲んだ。すぐに治癒の札を取り出して駿司の体に当てながら、一緒に近寄った夕菜に声をかける。

 「夕菜ちゃん手伝って……気休めにしかならないわね。何かいい薬ない。どんな病気でもすぐに治せるようなの」

 夕菜に声をかけると、三人に訊く玖里子。

 「そんなのあるわけ……あっ」

 簡易テントを床に敷いてその上に駿司をのせる和樹と駿司を見つめるエリス以外の三人の声が重なった。

 「「「月下美人」」」


 「待ってくれ……意味がない」

 そう言って、取りに行こうとする夕菜を弱々しい駿司の声が押しとどめた。

 「いいんだ……僕のは病気じゃない。長く生きすぎたんだ……無理して生きたけどもう……」

 その弱々しく、切れ切れの声を聞いて凛が声を詰まらせる。

 「だったら決闘なんて、くだらないことを!」

 「最後に凛が見たかったんだ……元気な君が……僕の命が長くないことは、前から知っていたから……だから、自分の知っていることを全部教えたかった……でも、それは間違いだった」

 ごふっと音を立てて駿司が咳き込んだ

 「早く気付くべきだった……君には押し付けじゃなく、本当に好きなことをやらせるべきだったんだ……同い年の友達と遊ぶように言うべきだった……自然を教えるべきだった……本の楽しさを……これも押し付けだな」

 「気にしていない。気にしていない……もう……だから」

 「……だからせめてここでは……好きなことを……本家の手の届かない……ここでは……好きなように……」

 言葉を続けられない駿司を凛は慌てたように揺さぶり、その体に暖かさのかけらもないことに愕然とした。

 「凛……許してくれなくていい、憎んでくれていい。でも……謝りたかった……すまなかった、すまなかった……月が奇麗だな」

 そう言って微笑むと駿司は目を閉じた。

 「……式森……駿司は……兄は、謝っていたよな」

 「ああ……」

 「知っていた……私は知っていたんだ。兄がなにをしたかったのか、ずっと……」

 そう言って、凛は冷たくなった駿司の頬に手を添えた。

 「拒んだのは私だ。つまらない意地から、拒否したんだ。許す……いや、私も謝るべきだったんだ、意地を張り続けたことに……それを……なあ……どうして、どうして私は、謝れなかったんだろうなあ……」

 嗚咽を続けて、凛は駿司の手を握って、その手を涙で濡らし続けた。 エリスの口を押さえながら和樹は、そっと声をかけた

 「凛ちゃん……駿司さんの言葉を覚えてる?」

 顔を上げた凛に対して和樹は微笑んだ

 「好きなように生きてくれっていったよね……それを覚えてあげることが何よりのことだと思うよ」

 「だが……」

 「それか……お兄さんと呼んであげたらどうかな」

 それを聞くと、凛はうわ言のように「お兄さん」と呟くと

 「駿司お兄ちゃん……」

 駿司の手を自分の顔に持っていき、修行前呼んでいた名称で、もう一度駿司を呼び

 「なんだい……凛」

 「うん……はあっ!!?」

 駿司の声が聞こえて顔に持ってきた駿司の手が優しく頭を撫でたので、昔のように甘えるように頷くと ――驚愕の声を上げて、その手を放しながら飛び退いて目の前のことに口をあけていた。

 「痛いな凛、これでも病み上がりなんだから、もう少し丁寧に――」

 先程死んだはずの駿司が、起き上がっていた。脈も弱かったし、体から熱が消えていくのを凛はこの手で確認していた。
 それがパニックに陥っていた幻覚だとしても、顔色の悪さだけは間違いなかった。第一、今も顔色が悪い。 
 訳がわからずに周りを見回した凛は、自分と同じだと断言できる顔で驚愕している夕菜と玖里子―両者とも目が僅かに赤かった―を見て、片手にカメラを持ちもう片方でエリスの口を閉じている和樹を見た。
 凛の視線に気付いた和樹は手をひらひらと振ると、駿司の方に向かって歩き出した。
 自然にエリスの口を閉じていた手が離れる

 「ぷはぁ……」

 可愛い息遣いをするエリスは、和樹に対して膨れながら言い始めた。

 「もー、ますたー。駿司さん昨日病気治ったんだよね。なのにどうして駿司さんの顔色が悪いのは薬のせいで、駿司さんは病気じゃないっていっちゃいけないの?凛お姉ちゃん可哀想だった!」

 その言葉を聞いて、三人は駿司に「あ、これ薬です」と言って錠剤のようなものを渡す和樹と 
 「あの薬すごいね、自分が健康体だってわかっているのに、死ぬかもしれないって思ったよ」と言って和樹から渡された錠剤を飲んで顔色を健康的なものに変える駿司を見た。 
 「はめられた」とほぼ同時に理解する三人の耳に

 「大成功でしたね。凛ちゃんの本音引き出せましたよ」

 と心底嬉しそうな和樹の声と

 「うん。そうだね……凛、こんな手を使って済まなかった。普通にやっても聞いてくれないと思ったんだ……でも、僕が言ったことは僕の本音だ……今までずっと言いたかったことなんだ……それだけは信じてくれ」

 と頭を下げながら謝ってはいるものの、お兄ちゃんと呼ばれて嬉しそうな駿司の声が聞こえた。

 「し、死ぬんじゃなかったの」

 「言ってませんでしたよ、そんな事。一度も死ぬとかなんていってないと思いますけど」

 いまだ頭が混乱しているものの何とか言葉を絞り出した玖里子に、死を連想することは言ったものの『死』そのものは言っていなかったと和樹は強調した。

 「……月下美人取りに行っても無駄って」

 「病人じゃないし、病気だとも言ってなかったでしょ……それに昨日、俺が治すために使ったんだ」

 テレポートを使って取りに行こうとした夕菜に対して和樹はそう答えた。病気だともこのふたりは言っていない。勘違いするようにはしたが……

 「和樹さん酷すぎます……凛さんが可哀想です」 
 「鬼か……あんたは」 
 「ますたー……やりすぎ」

 「確かに今回のことは酷すぎた……申し訳なかった……でも」

 死というものを遊び半分で使った和樹は冗談抜きで一度謝った。

 「「でも」」

 「俺って極悪人だし♪」

 「しゅ、執念深いわね、あんた」

 昨日凛が言ったことを根に持っていた和樹に対して、玖里子は戦慄した。いまだ呆然としている凛を除く三人に対して「まってくれ」と駿司が言った。

 「僕が和樹君に頼んだんだ。だから、責めるなら僕にしてくれないか」

 「ちょっと、待ってくれ。俺が考えたんだ。他人に押し付ける気は――」

 「駿司……」

 駿司と和樹の話を凛の小さな声が止めた。その言葉に込められた感情というか圧力は、その場にいた五人を同時に振り向かせて 
 ――頬を濡らす凛を見て黙り込ませた。そのまま、凛は歩いていき駿司の前に立つと

 「私は……本当だと思ったんだぞ……本当にいなくなると思ったんだぞ……なのに……一度も私には病気だと言ってくれなかったのに、式森には話したのか……」

 「凛ちゃん、俺も気付いただけで、駿司さんから聞かされたわけじゃ――」

 「うるさい!……いや、違う。違うんだ……ありがとう式森……兄を治してくれて」

 軽く頭を下げる凛を見た和樹は、さすがに罪悪感を覚えた。
 その和樹の前では、凛が駿司のほうを向いて、その胸に頭を預けた。

 「……生きていてくれてよかった……式森が助けてくれなければあのまま死んでいたかもしれないんだろう。だから、黙っていたんだろう……本当に生きていてくれてよかった」

 自らのシャツを濡らす凛を、駿司は彼女が幼いときにそうしたように片手でその頭を撫でもう片方の手で優しく抱きしめた。しゃがまなければならなかった少女が大きくなったことを実感しながら

 「ああ、僕も生きていられて良かった」


 顔を見合わせ、無言でその場を和樹たちは去っていった。

 その次の日、駿司は本家に戻り凛の件を本家に伝えた。 

 「凛の練度は十分であり、わざわざ呼び寄せる必要はない。
 式森和樹という少年の件については、彼を力ずくで連れてくるのは不可能であり。彼と居ることは凛にとって良い事だ。例え彼との関係が友人だとしても」

 その答えは、和樹の子供を凛に身ごもらせろと命令した者達の大反対を受けたが、神城家当主、神城佐平の鶴の一言で、凛は東京に居るべきだということになった。

 静かになった広間を見ながら佐平翁は、昨日警備の者にも部屋に居た自分にも気付かれずに部屋に侵入して自分に声をかけてきた少年を思い出しながら、その少年にゆずられた『いいもの』の続きを早く見たいと願っていた。


 その頃、葵学園――

 「し、式森、それは……」

 学校の廊下で、「駿司お兄ちゃん」という非常に聞き覚えのある音を聞き、ギギギギと音を立てて、壁に寄りかかって―先程通り過ぎた時は居なかった!―電子手帳大の小型のノートパソコンみたいなものを操作する和樹を見つけた凛は震える声を出した。

 「ん?ああ、これ、これはね」

 そう言うと和樹はノートパソコンを凛に向けた。
 当たって欲しくなかったが予想通り、昨日の映像が映っていた。楽しそうに笑っている和樹に震える体を落ち着かせながら続きをという素振りをする凛。

 「俺の報酬で、現在編集中のお宝映像♪試験的に編集したものが(佐平に)好評でね――って危ないなー凛ちゃん。グーは駄目だぞ。グーは」

 「うるさい!それを渡せ!」

 「駄目、だってこれ俺の報酬だからね」

 「報酬だと!」

 「そう、凛ちゃんの手伝いしたり、駿司さんを治したりして頑張った俺への」

 「何でそんなものが報酬になるんだ、他のものにしろ!」

 怒りを爆発させる凛に和樹は肩をすくめて笑うと

 「わかってないなー凛ちゃん。報酬ってモノは、貰って嬉しいものを貰うものだぞ。だから、これを貰うんだ」

 「私の写真が、うれしいのか」

 頬を染めて呟く凛に

 「ああ、これさえあれば、凛ちゃんをからかうことができるからね」

 女心なんてものをまったく理解しない和樹は言った。

 「お、お前は……どこまで」

 「あ〜凛ちゃん凛ちゃん。静かにしたほうがいいと思うよ。ここ人目があるし……ほら」

 色々な怒りで真っ赤に顔を染めて拳を握りこんだ凛は和樹の指先を目で追い、こちらに注目している学生の姿を目にして、さらに顔を紅くする凛を和樹は微笑ましいものを見たように笑うと下り階段に足をかけて

 「じゃあね、凛ちゃん。これから編集して駿司さんに送らなきゃならないんだ。凛ちゃんには駿司さんの感想を聞いた後に――」

 「ま、待て!それを渡せ!」

 小声で叫ぶという器用なことをした凛は、楽しそうに笑って階段を降りていく和樹を追いかけ始めた。

 その日、一年の神城凛が大声を上げて走っていたという噂は流れて、凛のイメージが少し変わった。が、和樹のことは“何故か”誰も知らなかったというのは、ただそれだけの話。


 後半、ほとんど原文のママです。

 次回は、紅尉と本性を出した和樹との会話をやります。


>ではレスを

>D,様
 ヴェルンハルトを殺す手段としてやりたくなるように素晴らしい手段ですねそれ。
 オモチャのために戦うというのは一つの真理です。
 夕菜は通常は和樹がコントロール出来るのですが、時々無理です。

>アルマジロ様
 すいません、このSSって何処にありますか。エヴァだとは思うのですが、見たことないので、よろしければ教えてください。こんな展開のエヴァSS見たことないので……
 ちなみにこの場面は、「灰と散りゆく魔法」という古い訳本の中で、最後の魔法使いが無駄だと知りつつ弟子を取り、その弟子の修行内容を端的にまとめました。引用に変わりはないですね。

>MAGIふぁ様
 そうですね。そのままの引用は止めます。お目汚し致しました。
 もし、アルマジロ様のおっしゃるSSをご存知でしたら教えてください。お願いします。
 そうですね、連絡するっていう手もありますね。ある程度事を進めて「こんなのやっているのですが、止めて欲しいですか?」と弁護士と一緒に訪ねる。

>紫苑様 
 唯一残っていた記憶が、確かなものになったため思い出しているって感じです。
 戦闘力が高い詐欺師、ある意味最強ですね。
 二人とも和樹から一本取れませんでした。逆に弄ばれます。

>nao様
 三日に一度死にかけていたって本人が煉に語っていましたから、それを和樹にやるのは当然かと。
 すいません。基本中の基本でした。穴に落としたら魔法を叩き込むっていう。

>零様
 人間向き不向きがありますから……
 この師弟は、相手が蚊帳の外に居ると引き込もうとするんで、そう簡単には逃げられません。
 賢人会議編では、和樹が本気で戦います。

>柳野雫様
 追い詰められたら、凛のような子はあっさりと壊れてしまいそうですから……
 手段を選ばずに目的を果たす。和樹の座右の銘です。

>雷樹様
 劇場版ナデシコ、全員死亡らしいですからね。いったいどういうことやったのやら……
 詐欺師と弁護士って居る場所が違うだけで、やってること同じじゃん。と私は個人的に考えています。

>マネシー様
 いや本当に面白いです。ここまで面白い文章を書けるなんて……
 二人は、作戦がはまるとおそらく駿司を倒せると思うんですが、凛が駿司戦っているうちに夢中になってしまうため、本気でやると勝てません。

>ヒロヒロ様
 メフィストって、ゲーテの神曲の悪魔のメフィストフェレスですか!?
 シンジがそんなのに鍛えられたSSがあるんですか。もしあるのなら教えていただきたいのですが……

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