彼は、彼女のことを愛していた
彼女も、彼のことをとても愛していた
だけど、彼は“セイギノミカタ”で、彼女は“悪”を孕む“漆黒の聖母”だった
春になったら、桜を見に行こうと二人で約束をした日
彼女は、彼から逃げだした
自分が人を殺すものだと知っていたのに
自分の存在を罪深いと思っていたのに
――彼女は、生きたいと願ってしまったから
彼が、自分を殺すと、その瞳を見たとき分かってしまった
彼は、“セイギノミカタ”だから
“悪”に染まってしまった自分を許してくれるはずはないから
それが嫌で、従者に頼んで遠くに逃げた
裁きを受けようと思っていたのに
自分を殺すのが、彼ならいいと望みまでしたのに
だけど、逃げ切ることは出来ず
彼女は、彼の刃をその身に受けた
それで、終わり
そして、彼は心を鉄にしたまま“セイギノミカタ”になった
これは、“彼”の記憶
これは、“彼女”の叫び
夢見た少女が流した涙は、どちらのもの?
「それじゃあ、セイバーはその霊体化ってのが出来ないのか?やっぱり、俺が未熟なせいか?」
聖杯戦争やサーヴァントについて説明をした後、セイバーは自分は霊体化が出来ない、といった
「いえ、略式ではありましたが正式な召還を受けましたし、ラインもしっかり繋がっています。霊体化できないのは、私がサーヴァントとしても少し特殊だからです」
セイバーは少しためらいがちに告げる
「うーん、そっか。じゃあ一番の問題は服だな。さすがにそのままの格好じゃ目立ちすぎる」
「お兄ちゃんの昔の服でいいかなあ?あっ、でも鎧着てちゃ入らないよね、脱げないんですか?」
普通に服の心配をする二人
それを聞いて、セイバーは目をみはる
「あの、どう特殊なのかとかは聞かないのですか?」
「話せない事を無理に聞く趣味はないし、話してもいい事なら、いつか必要なときに話してくれればいいさ。今は、当面の問題を解決しないと」
「鎧が脱げないんなら、お父さんのコート借りよっか。丈はなんとか調整してみる」
彼らの気遣いを、騎士は好ましいと思った
「脱げない事はありませんが、戦闘の可能性があるので脱げません。着脱にかかる時間は僅かですか、戦闘ではその間ですら命取りになりますから」
「ああ、そうか。監督役なら、他のマスターもそこに来てる可能性があるもんな。教会の中ならまだしも、行き帰りに鉢合わせしたらそのまま戦闘になるか」
納得したように頷く
「じゃあ、やっぱりお父さんのコート借りよう。あっ、男モノだけどセイバーさんは大丈夫?」
「えっ」
セイバーの顔に、かすかに驚愕と困惑の色が浮かぶ
「ごめんな、セイバーってあんまりにも綺麗だから俺もさくらも男か女か分からなくて。男性の英雄の方がぱっと浮かぶのは確かだけど、女性の英雄がいないわけじゃないし。そのどっちでも失礼だと思うんだけど、本当に分からなくて」
セイバーの見かけ上の外見は中学生程度
まだ、男女の別がつきにくい年であるのも関係している
「その、綺麗、等と・・・・・・いえ、なんでもありません。男物で構いませんよ」
少し頬を紅潮させた姿が、初めて外見相応にみえた
「わかりました。じゃあ、お兄ちゃんも手伝ってくれる?かんとくやくさんのとこに行くなら、早めに終わらせないと」
料理の腕では士郎の方がまだまだ上だが、裁縫の腕はさくらの方が上だ
「そうだな、ちょっと待ってくれ、セイバー。まずは爺さんのコート、見つけてこないと」
そういって、ばたばたと駆けていく兄妹
一人残されたセイバーは、ふっと笑みを浮かべた
「かわった魔術師(メイガス)達ですね。しかし、悪くない」
「気をつけてね。私も、ちゃんと留守番するから」
揉めにもめたのだが、さくらは留守番となった
戦力的にはついていったほうがいいのだが、そうは行かなかった
監督役が、“教会”の人間だからである
彼女は“カード”の所有者なのである
クロウ・カードといえば、魔術師内では伝説の一つにすらなっている
クロウ縁の李家が“協会”への隠ぺい工作はかなり行ってくれたが、“教会”には余り手が出せていない
今まで何も行ってこないことから、ばれていないか黙認しているのだとは思うが
あまり、接触の機会は作らないほうがいい
「ああ、大丈夫だ。それに、“鏡”もついてきてくれるしな」
「は、はい!がんばって、士郎様をお守りします!」
真っ赤になりながら、こぶしを握り締めて主張したのは“カード”の一つである“鏡(ミラー)”である
“鏡”は攻撃こそ出来ないが、敵の攻撃をことごとく無効化し、やろうと思えば反射も出来る
相手の力量を測るには最良のカードだろう
もっとも、ついて行かせる最大の理由は本人?が必死に主張したからだが
“鏡”を手に入れる際の事件で、“鏡”が士郎のことを懸命に慕うようになったのは、士郎以外には周知の事実である
そのことは、本来映ったものの似せ姿をとる“鏡”が、士郎の前では本来の姿でいようとすることからも分かる
服は自由に変えれるらしく、今日はふわふわの白いセーターを着ている
「見事なものですね。ここまで意志を持った使い魔を造り上げるなど・・・・・・しかし、微笑ましい」
“鏡”の裏効果発動、見ている相手を微笑ましい気分にさせる
ただし、士郎に関するとき限定
彼女のマスターもほえほえとした笑顔で見守っている
“選定者”はにやにやとからかい混じりの笑みを浮かべ、“審判者”は我関せず、と言った風情である
「ありがとう、“鏡”。心配してくれてうれしいよ」
破顔する士郎に、ますます紅くなる“鏡”
(やっぱり、さくらの兄だから心配してくれてるんだろうな)
気づかぬは、朴念仁ばかりである
いい加減気づかないと、天誅が下るぞ、てめぇ
「さて、と。まずは後片付けしなくちゃ」
窓ガラスは、さくらが直した
カード以外にも、初歩の魔術ならさくらは使える
しかし、先ほどの戦闘で庭があれてしまっている
「お願いね。“地(アース)”!」
ぼこぼこになってしまった地面をならす
木や花は、それほど多く植えてなかったこともあり無事だ
「後は、知世ちゃんに連絡しなくちゃ」
さくらは、学校をしばらく休むことに決めた
兄は魔術師として活動していないからいいが、さくらはカードのマスターになるとき、かなり騒動を引き起こしている(引き起こしたのはカードだが)
ただでさえ、カードのことは有名なのである
李家がごり押しで誤魔化したとはいえ、情報を掴んでいるものがいてもおかしくない
友達を危険に巻き込まないためには、聖杯戦争が終わるまで休むしかない
夜は遅いが、今夜、知世が起きていることは直感で分かった
カードは、占いの道具としての一面もある
同様に、カードのマスターである彼女にも、予知の才があるのだ
「もしもし、知世ちゃん?」
『まあ、さくらちゃん!さくらちゃんから電話をかけてくださるなんて、うれしいですわ。何のご用でしょう?』
「あのね、明日から学校を休むから、そのことを言っておきたくて」
『・・・・・・それは、カードに関わることですの?』
さくらが“魔術使い”であることを、知世は知っている
本当なら、自分が関わってはいけない領域であることも
「ちょっと違う、かな?この近くに、魔術師の人が何人か来るらしいの。それで、“カード”に気付かれたらいけないから、その人たちが遠くに行くまではお休みするの」
嘘でもないが、本当からも程遠いことをさくらはいった
親友に言い訳しなければならない後ろめたさ感じながら
『わかりましたわ。事情は聞きません。もし言ってもよろしい時になったら、いつでも話してくださいね。さくらちゃんの可愛らしいお姿がしばらく見れなくなるのはさびしいですが、私がまんしますわ』
いつだって自分の言葉の裏を見透かす、大好きな親友の気遣いが、さくらにはうれしかった
「ありがとう、知世ちゃん。絶対に、いつか話すから」
『楽しみにしてますわ。では、お休みなさいませ』
たおやかな声があいさつを告げる
しばらく、この声が聞けないのだと思うと、さくらは無性にさびしかった
「うん・・・・・・お休み、知世ちゃん。またね」
電話を切ると、台所に向かう
そして、二人分のお茶の用意をした
「二人分、でいいのかな?誰かがくるのは分かるんだけど・・・」
カードの主になってからというもの、さくらは予知能力も強くなっていた
超能力者のように“視る”事は出来ないが、感覚として“分かる”のである
そして、呼び鈴が鳴る
「こんばんは、さくらちゃん」
「こんばんは、桜さん」
扉の前に立っていたのは、顔を真っ青にした少女だった
「あの、先輩はいないんですか?夜も遅いのに」
「お兄ちゃんは、ちょっと人に会いに行ってるんです。あの、桜さん、大丈夫ですか?」
顔色の悪い年上の女性を心配するさくら
「いえ、なんでもないの。ちょっと怖い夢を見てしまって・・・・・・子供じゃないのに、おかしいですよね」
「ううん、そんなことないです。私でよかったら、どんな夢か話して見てくれませんか?話すと、気が楽になるって言うし」
一生懸命言葉をつむぐ
さくらがこんな表情をした彼女を見るのは、彼女がその兄ともめたとき以来だ
お兄ちゃんが慎二さんと仲良くなって、慎二さんと桜さんを家に連れてきてくれるようになってしばらくしたころ
慎二さんが、青い顔で家に来た
震える声で、慎二さんは
『桜を殴った』
って言った
それを聞くとお兄ちゃんは、慎二さんの腕を掴んで今に連れて行った
『俺は、この馬鹿と今から話すから、お前は桜のとこに行ってやってくれ』
けんかするんじゃないかって、少し気にはなったけど、桜さんを一人しておけない気持ちの方が強くて、いそいで駆けだした
桜さんたちのお家に入ると、桜さんはぼうっと座りこんでいた
右のほっぺたが、赤く腫れていた
『桜さん!早く、手当てしよう!痛そうだよ』
片手をそっと桜さんの頬に当てると、初めて桜さんの目が私を映した
『さくらちゃん・・・?いいの、放っておいて。これは罰なんだから』
顔をうつむけて、桜さんはヨクワカラナイコトを言った
『罰って、桜さん、悪いことでもしたの?』
私がそう聞くと、桜さんはゆっくりと頷いた
『そう、全部私が悪いの。私が、兄さんから奪ってしまったから。私が、兄さんに嘘をついていたから。だから、罰を受けるのはアタリマエなの』
私にじゃなくて、自分に言い聞かせるように、桜さんは言った
それが、とてもかなしくて、私は両手を桜さんの顔にそえて、強引に目を合わせた
『だめだよ!だって、叩かれれば痛いんだから。桜さんが悪いことをしたんだったら、慎二さんに謝らなくちゃ。でも、慎二さんに叩かれたのは、ちゃんと痛かったって。もうしないでって言わなきゃ・・・・・・慎二さんが、かなしいよ』
桜さんは、目を見開いた
『兄さんが?どうして・・・・・・』
何で、桜さんは私よりも頭がいいはずなのに、こんな簡単なことが分からないんだろう
『あやまりたくても、あやまれないのはかなしいよ。私も、お兄ちゃんと喧嘩して、どっちも口を聞かなくなって、なかなか謝れなかったときかなしかったよ。慎二さん、家に来たとき、すっごく青い顔してた。きっと慎二さんも桜さんをぶっちゃって、痛かったんだよ、ここが』
私は、胸をおさえた
本当にたまに、お兄ちゃんとけんかするとき、最後には決まってここが痛くなる
『痛いなら痛いって、辛いなら辛いって、本当のこと、ちゃんと慎二さんに言ったほうがいいよ。桜さんと慎二さんは兄妹なんだから』
『兄妹?』
空っぽの声で、桜さんは呟いた
『うん、兄妹なんだから、桜さんはもっと甘えても、もっとけんかしてもいいと思う。・・・・・・それとも、桜さんは慎二さんのこと、お兄さんだと思ってないの?』
違うって、言われると思ってた
『そう、なのかもしれません』
びくり、と肩を震わせると、そう言ってしまった
『私と兄さんは、本当の兄妹じゃないんです。私は他所からもらわれた子で、なのに、私が兄さんの居場所を奪ってしまった。だから、兄さんが怒るのは当然です』
おかしい
桜さんが言ってることはおかしい
だって、それは
『そんなに大事なこと?』
『え?』
『私とお兄ちゃんも、本当の兄妹じゃない。私がお兄ちゃんに助けられて、お父さんに拾われて、家族になった。その前は、全然知らない人だった。それでも、お兄ちゃんは、私にとって大切で大好きなお兄ちゃんだよ』
血が繋がってなきゃ、家族になれないなんて、そんなことはない
家族になれないのは、自分達が家族だと思ってないから
だって、お父さんは最後までお父さんだったし、お兄ちゃんも、きっとそうだから
『それにね、これは私とお兄ちゃんの、お兄ちゃんに教えてもらったの“居場所とは、与えられたり奪ったりするものではない。自分で見つけ、自分で居座るものだ”って』
いつも堂々としてるギルお兄ちゃん
ギルお兄ちゃんの言葉は、強い
一度聞いたら、不思議なくらい頭の中に残る
『桜さんは、慎二さんと兄妹でいたくないの?』
それなら、私は何も言えない
本当の家族のことを知らない私には、元の家族のところへ帰りたいっていう気持ちは分からないから
『・・・・・こと、』
桜さんが、細い声で何かを呟いた
『そんなこと、考えたこともなかった。兄さんと、本当に兄妹になれるかもしれないなんて』
桜さんは、私をぎゅっと抱きしめた
『さくらちゃん、私ね、捨てられたんだと思ってた。父さんは私のこと要らなくて、間桐の家では使えるから、ここに押し付けられたんだって。だから、我慢してこの家の役に立っていれば、いつか姉さんが迎えに来てくれるって信じてた。父さんは私のこと要らなくても、姉さんは違うと思ったから。ここで捨てられさえしなければ、姉さんが見つけてくれるって』
涙はこぼれていなかったけど、桜さんの声は、泣いているみたいだった
『大きくなって姉さんは迎えに来ないんだって分かっても、それにすがらなきゃ、生きていけなかった』
桜さんは、私からちょっとはなれて、目線を合わせた
今までよりも、明るくて暖かい笑顔が浮かんでた
『でも、違うんですね。私は捨てられたんじゃなくて、間桐の子になったんだ。だから、わたしは間桐として生きていかなきゃいけない』
立ち上がって、桜さんは私の手をそっと握った
『私、この家は嫌いです。でも、兄さんのことは好きです。私に、ただ一人優しかったから。でも、それじゃダメなんですね』
桜さんの目は、前を見ていた
『私は、兄さんと本当の兄妹になりたい。兄さんの優しさに甘えるだけじゃなくて、何かを返せるように』
そして、私のことを玄関まで連れて行ってくれた
『ありがとう、さくらちゃん。もう、大丈夫です。兄さんももうすぐ帰ってくると思いますから』
この後から、桜さんはお兄ちゃんの前以外でも少しずつ笑うようになった
―――だから、またこんなカオを見るとは思ってなかった
泣きそうなのに、涙をにじませる事も出来ない表情
「私が“悪者”になって、先輩の敵になっちゃう夢を見たんです」
夢の記憶を、桜はぽつりぽつりと語る
約束と、それを裏切った自分と、その結末を
ただの夢と慰めることは出来ない
さくら自身、“意味を持つ夢”をなんどもみているのだから
「桜さん、前に行ってたお姉さんって、遠坂さんっていうの?」
いきなりの、突拍子のない台詞に女の体が凍りつく
「どうして、さくらちゃんが、それを」
「慎二さんに言われたんです。もし自分に何かあったら、お兄ちゃんに“遠坂に、桜を頼むって伝えてくれ”伝言をして欲しいって」
「兄さん、が」
「お兄ちゃんには、その時まで知って欲しくないみたいだったから言わないです。でも、桜さんについては何も聞いてませんから」
そこで、ぷぅっと頬を膨らませる
「桜さんのことなのに、桜さんに伝えないなんて、おかしいです。決めるのは、桜さんなのに」
無垢な賢者の瞳が、桜を映す
桜には、それがどんな鏡よりも、自分の本質を暴いてしまうような気がした
「同じことだと、思います」
まだ二次性徴を向かえていない少女特有の、高い声
「決めるのは、選ぶのは桜さんです」
桜にとっては、ある意味一番残酷な言葉
今まで、何一つ選択の自由を許されなかった少女には、選択の仕方すら分からない
(違う、私はあの時、“間桐桜”であることを選んだ。“遠坂”でも、“マキリ”でもなく)
それしか、道が残っていなかったわけではない
今まで気付かなかっただけで、いつだって選んだのは自分だ
“遠坂桜”では、“マキリ”に耐えられなかったから、“遠坂”を捨てた
それでも、“マキリ”ではいたくなくて“間桐”でいたいと思った
それは、周りから、強制されたものだと思っていた
本当は、心だけでも“遠坂”でいつづけることも、反対に“マキリ”に染まってしまう事も出来たのだから
「さくらちゃん、私は弱いんです。楽なほうに、逃げたいと考えてしまう。今でも、あの夢を思い出すと、心がぐらつく」
ただ、あの人への想いだけは自分にとって、唯一確か
「だけど、譲れない想いがあります。それがあるから、今苦しいけど、この想いだけは、私が、“間桐桜”が選んで、ずっと大切に抱えていくんです」
魔術師の言魂には力がある
聞き届けたのは、潜在能力だけなら“魔法使い”に匹敵するほどの魔術師
密やかに、誓いは成立した
「お茶、温くなっちゃいましたね。入れなおしてきます」
「あっ、それなら私が」
「いいの。さくらちゃんに、話を聞いてもらったお礼。私は、いつもさくらちゃんに教えてもらってばっかりだね」
「そんなこと―――っ!」
さくらの感覚に何かが引っかかった
「ごめんなさい、桜さん。ちょっと、用事が出来ました」
ぱたぱたと、土蔵のほうに走る
「星の力を秘めし“鍵”よ 真の姿を我の前に示せ 契約のもと さくらが命じる 封印解除(レリーズ)!」
“星”の杖を手におさめる。太陽と月の守護者も真の姿に戻る
「やっぱり・・・!戦闘になってる!月さん、詳しいことは分かる?」
“鏡”から情報が送られてくるも、まだ未熟な桜ではうまく受信出来ない
特に、杖の魔力を封印している状態ではなおさら
だが、“鏡”は月の管轄下にあるカードである
真の姿を解放し、主よりも遥かにカードとの付き合いの長い彼なら、現在位置まで割り出せる
「ああ、声が聞こえてくるな。・・・・・・戦場が移った。外国人墓地だ。相手は、かの大英雄ヘラクレスだ」
「ヘラクレスて、あのギリシャの大英雄のかいな!?また、どえらいもんが召還されとるんやなあ」
使い魔二匹の声も耳に入っていない様子で駆けだそうとする主を、月が引き止める
「行ってどうする。アレは桁違いだ。今の主にどうにかなるものではない」
使い魔は、少し嘘をついた
カードの中には補助系もある。戦闘の支援だけなら充分に可能だろう
それに、確かにサーヴァントの方は桁違いだが、マスターは違う
さくらの力なら、マスターを狙えば片をつける事も出来るのだ
しかし、そのようなやり方を幼い主が嫌うことを彼は知っていた
また、そのマスターも、問題だった
はっきりと“映像”として映ったのは」彼の主と同じか、それよりも年下に見える少女
無論、魔術師に年齢を問うのは意味がないが、それで割り切るにはまだ彼の主は魔術師に“成りきって”いない
どうせ近いうちに関わらねばならぬだろうが、今は、そんな存在に会わせたくない、と彼は思った
前の主の思い出だけにこだわっていたころとは、また自分も酷く変わったものだ
内心だけで呟く
「あんな、さくら。ランサーとかいうけったいな奴が襲ってきたとき、あの兄ちゃんはさくらを信じて任せたやろ?今度は、さくらの番や」
信じて待て、と
分かってはいるのだけど
「でも、心配だよぅ・・・」
さくらにしては珍しく、不安げな様子を見せる
もし耳と尻尾があったら、間違いなくしょんぼりと垂れてる
「信じろ。お前の兄と、そのサーヴァントを」
(それに、“助っ人”もいるようだしな。心配はあるまい)
土蔵の外に、ちらと意識を向ける
血が出るほど強く自身の腕を掴んで、話を聞いている少女がいる
それは、“月”のみが知っていた
To be continued...
昨日はお寺で、ちょっと遅い初詣と初バイトを同時にこなしてきたSKです
今回は難産でした。長くなる長くなる。もっとさらっと流すつもりだったのに。本当は、これに更に桜と慎二の会話の回想が入る予定でした
どちらの原作も今手元にないため、口調とか違ってたら指摘していただきたいです(キャラの性格や設定の違いは、多めに見て頂けると嬉しいです)
情報の受信は、さくらちゃんはまだ未熟なので、映りの悪い悪いテレビみたいな状態
後、士郎を助けに行かせないのは、イリヤとまだ“魔術師”として出会わせたくないからです。後はバランスの問題
実は、カードを使って有利な状態に導くっていうのはいくらでも想定出来るんです。ただ、やってしまうと物語的な面白みがなくなるものが多くて
さて、この話を書くに当たっていくつかテーマがありますが、そのうちに“誓いまたは約束”、“IF”というのがあります
後、今回キーキャラは桜です。裏ヒロイン(表ヒロインは勿論さくらちゃん)です。ちなみにここでいうヒロインとは、“女主人公”の意であり、士郎とくっつくかは別問題です
ここのアーチャーの過去は、思いついたとき、鬼か自分と思いました。や、最初は素直にHF鉄の心エンドから派生させようと思ったのですよ?でも、それじゃあゲームをなぞるだけだしなーと思ったら、こんな酷い過去が
ゲームでは、士郎の選択で運命が分かれましたが、これは桜の選択によって分岐した過去です。
だから、ここのアーチャーは原作よりも悲惨かもです。“理想を貫いて”なったのではなく“理想しか残らず”英霊になったので
同様に、慎二がいい人めになっているのも、桜があそこで真正面から向きあったためです
他にも、細かいとこは色々あります。ここのセイバーは、きちんと男性の格好をしているので、ギル様はセイバーが女だと知らないとか。キャスターの再契約もそうですね
……後書きが、どんどん長くなっていってますね
次は、士郎編です。神父との会話がまた悩みどころです