「ギルさん!そっちのお肉いい感じなんじゃない?」
「む、そうだな、フジムラ。よく気づいた。ああ士郎、そちらのこんにゃくをとれ」
「分かった、ギル兄。あっ、これケルベロスの分な」
「・・・・・・(がつがつがつ)」
「さくら、お前の分だ。これでいいか?」
「ありがとう、月さん」
本日の衛宮家の夕食は鍋
ちなみに月とケルベロスも真の姿で参加
ケルベロスのことを、わんちゃんだと信じて疑わない藤村大河は大物だろう
月とギルガメシュは衛宮切嗣の知り合いと紹介している
「しかし成長したものだな、士郎、さくら」
箸を休め、どこか誇らしげに二人を見る
「そうだよね、ギルさん。士郎もさくらちゃんも大きくなって、お姉ちゃん寂しいけどうれしいよう」
うんうんと頷く大河
「藤村はあまり変わってはおらぬな。・・・・・・衛宮切嗣のことは好かぬが、お前達のような子を育てたことだけは、誉めてやってもよい」
彼はこの家を気に入っていた。愛しているといっても過言ではない
真っ直ぐでどこか不器用な兄も、純粋で明るい妹も、その二人が作り出すこの家の空気も
ほぼ、五年だ。それだけ付き合えば、情も移るというもの
だから、気に入ったものには褒美を与えるのが王の度量と言うもの
「食事が済んだら、土蔵に来い」
さて、この愛し子達どの道を選ぶのか
父親と同じ道だけはたどらねばよい、と思う
そうして食後、大河が帰った後
士郎とさくらは、土蔵の中でギルガメシュと対峙していた
「――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――」
紡がれたのは、一つの呪文
けれど何の意志も持たないそれは、ただの言の葉にすぎない
「まもなく、魔術師達の戦争が始まる。これは、その戦争の駒を呼び出す呪文だ。本当はもう少し長ったらしかったがな。士郎とアレならこれだけで充分であろう」
懐から一つの紙を取り出す
紙には、先ほどの呪文が一字一句間違いなく書かれていた
「魔術師達の戦争?それって」
「それは、願いを叶える器を手に入れるための戦争。詳しくはお前達も参加すれば分かる。もし参加する気があるのなら、ここでそれを唱えろ。」
「ギルお兄ちゃんも参加するの?」
その問いに、彼は薄く笑う
「気が向けばな。だが、覚悟しておけ。それはまがうことなき戦争だ。一度足を踏み入れれば、もはや日常には帰れぬ。そして、お前達の大切な者達をも巻き込むであろう」
そこで、厳しかった表情を緩める
後に残るのは、彼らが慣れ親しんだ“兄”の笑み
二人の頭にぽんと両手を置く
「もう一つ、その指輪の使い道を教えておこう」
二人の右手の中指に飾られた指輪を撫でる
士郎には紅、さくらには白の石が嵌められている
これは、二人の誕生日にこの青年が与えたものだ
本当の誕生日は二人とも覚えていないので、切嗣の家族になった日が彼らの誕生日だ
「それぞれ台座には魔力殺しとしての役割もあるがな。さくらのものは治癒、士郎の者は耐魔の効果がある」
彼らが初めて会った年の誕生日
衛宮切嗣が死んで初めての誕生日に、青年はこれを与えた
“衛宮切嗣の子”として生きていくことを背負った彼らのために
「ではここで別れだ。この戦争に生き残っておったなら、また会おうぞ」
最後に彼らが一度もみたことのない笑みを残して、夜闇に消えて行った
彼らは、青年がかつて英雄王と呼ばれていたことを、まだ知らない
「戦いを選ぶのならばそれでもよい。この英雄王(オレ)がしかと見届けてやろう」
ああは言ったものの、彼は傍観に徹するつもりであった
最高の友に次ぐほど、気に入っている二人である
何の手出しもせず、二人の選択の結果を見守るのも一興
「しかし、言峰の奴と、間桐の蟲の動向は気になるな」
前回のマスターの性質の悪さはこの自分がよく知っている
聖職者でありながら、孤児の世話を引き受けるふりをして生贄を集めると言う趣味の悪いことも考えていた
脊髄反射で止めろといったが
生気に満ち溢れた爽やかな笑みを浮かべるという、あの男にあるまじき気色の悪いまねをされれば、誰だってやめさせたくなるものだと思う
それが、孤児を集めるにあたっての対外的なものであっても
「どんなたくらみをしていることやらな」
基本的に、自分達は不干渉である
お互い好き勝手しているので、相手が何をしているのかは分からない
ただ、食事だけは半強制なのだが
「まあ、士郎もさくらも言峰ごときには汚せんだろう。傷を開かれ、抉られることはあってもな」
言峰が執着しているのは“衛宮切嗣”のみだ
士郎もさくらも、そのあり方はまったく違う
言峰に揺らがされることはあっても、折られることはない
「問題は、間桐だな。何せ、あの言峰が嫌うほどだ」
しかも、その家の子供は衛宮の家に出入りしている
一度心開いた者には、とことん甘い二人の性質を、彼はよく知っていた
それが、致命傷になりうることも
「様子を身に行く必要があるか」
そして、彼は黒の聖杯と偽者(フェイカー)を見つける
傍観するはずだった戦争に彼が参加する気になったのは、翌日のこと
マスターを殺して、あてどもなくさまよっていた
このまま、自分は消えるのだろうと思った
あの人に会うまでは
自分と同じくぼろぼろだったあの人は、私に手を差し伸べた
『私と手を組む気はないか?』
信じられなかった。私をみても、そんな事が言えるなんて
私は、マスターを殺したばかりだったのに
『そのマスターとやらにも落ち度があるだろうさ、消える覚悟で殺したくらいだ』
悪くないとは言えないが、殺されるほどのことをした方にも問題があるのだと、静かな声で言った
『私の目にはあなたが慎重なタイプに映ったからね。そんなあなたがやけになるほどだ。いいマスターではなかったんだろうさ』
自分なら、少なくとも悪くないマスターになれるだろうと彼女は言った
『ダメかな?美しいお嬢さん。まあ、悪い男に騙されて自分のサーヴァントを奪われた私じゃ、不安かもしれないね』
言われて初めて、左腕がないことに気づいた
そんなことにも気づかないほど、動揺していたなんて
『騙されたのに、一度マスターを殺している私を信じるの?』
『殺すつもりなら、今このときでも殺せるだろう。それにこれは戦争だ、裏切られるのも当たり前の。だから、ただ縋っているだけさ、一人では戦えないから。――私は君を信じてみたい』
その言葉が、泣きたくなるくらい嬉しかった
この状況にあってなお、微笑むことが出来るこの魔術師に、自分の運命を託してみたいと思った
『分かりました。私もあなたを信じたいと思います。私はキャスター。真名はメディア』
私の真名を聞いても、この人の微笑みは代わらなかった
それで、覚悟は決まった。自分に出来る精いっぱいの笑顔を返す
こんな笑い方なんて、忘れたと思っていたけど
『ありがとう。―――告げる!
汝の身は我の下に、我が命運は汝の杖に!
聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら
―――我に従え! ならばこの命運、汝が杖に預けよう……! 』
『キャスターの名に懸け誓いを受ける……!
貴方を我が主として認めよう――!』
私の聖杯戦争は、ここから本当に始まった
Fin
今回は、Interlude的な話です
次回から、いよいよセイバー召還、かな?
ギル様は難しいです。私ごときには掴めません
ただ、大事に護るよりも谷に突き落として、はい上がってきたところを更に突き落とすタイプじゃないかな?と
今回書きたかったのは、キャスターの再契約。名前は出してませんが、誰だか分かりますよね?
時期さえ会っていてれば、この人と出会ってもおかしくないと思うのです
九割オリジナルキャラです。情報が少なすぎるので
でも、このコンビは嵐を起こしてくれると思います
なお、この作品は萌えより燃え中心になりそうな予感がひしひしとしてます
今回の方と凛様がひどく漢前で
なおかつこの作品男率高いです。下手したら原作よりも
恋愛要素は、桜ちゃんのとこにちょっとあるくらい?