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「ラ・カンパネラ 第六章(GS)」

にょふ (2008-06-21 15:51/2008-06-29 15:54)
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 横島忠夫には幾つもの名前がある。人魔にして関東守護者、人間以上魔族未満、煩悩大魔神な癖してシスコン(重度)。不死身の忠ちゃんやら人外☆キラー等々。

 そして、一番マトモな呼称として使われているのが、猿神の弟子。もしくは高校生が一番マトモかも知れない。

 そんな横島の日常は忙しい。月曜日から金曜日までは学校へ行き、勉学に勤しむ雰囲気だけを出しておいて、基本睡眠学習に勤しんでいる。深夜番組(エッチな番組)を見ている所為か、夜の帳が下りるまでは眠たいらしい。

 そんな平日が終れば、妙神山にて猿神直々の修行……最初の頃は、猿神も手加減を微妙に間違えたりして、横島が三途の川で遠泳を余儀なくされたりしていたが、それでもココ最近はそういった手加減のミスも減ってきた……らしい。

 そして今日も―――


        GS美神極楽大作戦! 〜ラ・カンパネラ〜


           第六章 〜インテルメッツォ〜


 横島の修行相手として対峙しているのは人間サイズの猿神。
 それは猿神の身外身の術で出した、横島とほぼ同等の霊力を持っているのだが、幾ら横島と同じ霊力を持っていると言っても、元となっているのは猿神なので、その強さは、対峙している横島を圧倒的するに十分な強さを持っていた。


「ウキィィィ!!」
 猿神の身外身(以降、猿神S)が繰り出す如意棒の連弾をギリギリで避けている横島だったが、それでもギリギリ避けている状態から反撃に出れる程、横島の戦闘技術は向上していない。


「こな…くそっ!」
 それでも横島は、猿神Sの如意棒を掻い潜りながら、サイキック・ソーサーを二枚展開させて、来るべき衝撃に備える。
 無策でサイキック・ソーサーを二枚展開させた訳ではない。それは横島が用意した策略であり、その策をもって今日の修行を無事に潜り抜けようとしていた。
 そして、用意した策が通用するか否かの、鍵を握るのは方向とタイミング。
 受ける場所を間違えれば不発に終り、出すタイミングを一拍子早くても、逆に一拍子遅くても横島の用意した策は無策に成り下がる。


「ウキャァァ!」
 如意棒の連弾が避けられている事実に、その連弾を一度止めて別の攻撃に出た。
 身体を回転させて横薙ぎに横島の頭部を狙っていた。
 遠心力を加えた攻撃は、それだけで破壊力が倍増する。更に、薙ぎと言う攻撃方法は避け難い。上下に逃げれば絶対的な隙が生まれ、後ろに跳び下がれば身体を回転させているエネルギーを使って間合いを詰める事も容易くなる。
 そんな猿神Sの一手は多少の隙を生む。身体を回転させる為に、一瞬だがその視界から戦っている相手を見失う。
 そんな一瞬の隙につけ込むしかないと判断した横島は、用意したカードを切った。


「サイキック・ソーサー……リアクティブ!」
 リアクティブとは、その名の通りに反応を意味する英語である。
 そして、戦車などに搭載されている特殊装甲の一種として、リアクティブアーマーと呼ばれる爆発反応装甲を搭載する戦車が存在する。
 その原理は、二枚の装甲板の間に指向性の爆薬を配置し、着弾などの衝撃を受けた際に、その衝撃によって内部の爆薬を炸裂させ、着弾によるダメージを相殺させる為に開発された特殊装甲である。
 着弾によるダメージを無効化するだけなら、それこそ、対戦車砲などにも耐えうるだけの強度の高い装甲板や、最近開発が進んでいる電磁装甲と呼ばれる、着弾した弾丸を溶解させるアーク装甲などを用意すれば事は済むのだが、リアクティブアーマーには、それ以外にも非人道的な反応が存在する。
 着弾時のダメージを無効化する為に、装甲板の間にある爆薬を炸裂させて最外部の装甲板を吹き飛ばすのだから、その装甲板は当然外部射出される。そして、その装甲板は金属である為に、炸裂した装甲板は、散弾染みた弾丸へと変貌を遂げる。
 戦車の護衛として随伴している歩兵などは、その散弾を受けてしまう為に、現在ではリアクティブアーマーを持つ戦車自体少なくなった。
 しかし、横島が展開させたサイキック・ソーサーが二枚であっても、それはリアクティブアーマーである。
 故に、その反応もまた!


「ウキャ!?」
 身体を回転させて横薙ぎに起こした旋風を受け止められ、更に、それを受け止めた装甲板は霊力のカタマリ。
 それが炸裂した事により発生した、散弾染みた霊力の弾丸を身体の側面に喰らってしまった猿神Sは、たとえ元が猿神であろうと無傷でいる事は叶わない。

 人魔横島忠夫は成長する魔族である。

 人であった時より、霊力だけを見れば超一流のGSであった横島は、人魔となり、その霊力の上昇率は常軌を逸脱している。
 そんな横島の霊力のカタマリである、サイキック・ソーサーの散弾を喰らった猿神Sは致命傷こそ負わないものの、防御体勢をとらざるを得ない。


「喰らえっ!」
 そんな隙を見せた猿神Sに速攻で追撃を加える。
 自由に形を変えられる栄光の手を、右手に展開させて、それを左右に三尺ずつ、合計六尺程度の棒状にまで伸ばして、その霊棒を猿神Sの死角である下段から一気に猿神Sの顎に向けて、全速力の一閃を走らせる。

 最高の武術とはなんであるか?

 武術を修めんとする者にとって、その答えは明白の理であって、永久の命題なのかも知れないが……最高の武術など存在しない。

 それが答えであり、武術を修めんとする者にとっての超えるべき壁でもある。
 剣術を修めた人物が、槍術を修めた相手に勝ったからと言って、それがイコール剣術>槍術だと言う道理はない。それは、槍術を修めた人物の槍術の研鑽が、剣術を修めた人物の剣術の研鑽より未熟だっただけの事。
 全ての武術は一長一短があり、剣術がショートレンジで最大限の力を発揮するのに対して、槍術はアウトレンジで最大限の力を発揮する。
 その得意な間合いに持っていく事こそが、勝敗を左右する重要なファクターであり、武術を修めんとする人物が、生涯を賭して挑む命題でもある。

 そんな武術の中、棒術と言う武術は一際異彩を放つ武術である。

 振れば刀、突けば槍、払えば薙刀……多岐に渡る攻撃手段と、戦う間合いを選ばない特性を持つ棒術は、普段からトリッキーな動きをし、更に、傷付く事を嫌う横島にとって、これ程相性が良く、また、相手の苦手な間合いから攻撃が出来る棒術は、搦め手からの攻撃を好む横島にとって、最適の武術だったのかも知れない。
 そして、横島は間近で猿神が使う如意棒と言う、至高の棒術を見続けていた為に、その棒術は巧緻を極めている。
 現に、死角から迫る致死量の霊棒に気付かずに、反撃を取ろうとした猿神Sの顎に、その霊棒の旋風は決まった。


「カァ…!」
 瞬間、猿神Sの脳は揺さぶられたが、首の筋肉が強靭な猿神の分身体である猿神Sが、その一撃で終る程も弱くない。
 そして、その一撃で攻撃を終らせる程、横島も甘くなかった。


「うらぁ!」
 顎に当てられた霊棒によって、天を仰がざるをえない猿神Sの死角である足元にまで沈み込んだ横島は、先程二枚展開させていた残り一枚のサイキック・ソーサーを、猿神Sの膝に叩き込む。


「キ…ァ」
「これで…」
 片足を堅牢な盾で攻撃された事により、バランスを崩され猿神Sの身体が前に倒れ込む。その隙を逃さずに、先程の猿神Sの回転薙ぎを彷彿とさせる動きを見せた横島は、猿神Sの後頭部に踵を落とした。
 その衝撃で意識を失いかけた猿神Sだったが、それでも猿神である事実に、多少の意識を持ちながらも―――


「…ダウンだっ!!」
 ―――次の瞬間、猿神Sは猿神の髪の毛に戻った。


◆◆◆


「ふむ、中々動ける様になったのぅ。特に最後の動きは、初見であれば、まず見破る事は難しかろう」
「相手が相手だし……こんなモンじゃまだまだだよ」
「そう卑下する程のモノでもないぞ? 幾らお主の力と対等にしている身外身の術であっても、それを倒す事は難しい。そして、あの手札……メインが棒と盾だと思わせておいて、本命が急所への刺突とは……中々の妙手じゃったぞ」
 多岐に渡っての攻撃手段がある棒術にも弱点はある。

 一つは、得物が長い故に掴まれ易い事実。

 そしてもう一つは、決定力不足。

 前者は棒を使った投げ技もあるので、それを弱点の一つとして捉えるのは厳しいかも知れないが、後者の場合はそう言う訳にもいかない。
 刃がない棒は、相手の耐久力が高ければ高い程、その効果が薄くなる。
 猿神の如意棒であれば、その8トンと言う質量をもって相手を圧倒出来るのだが、横島の霊棒は質量自体存在しない。その分扱い易い点は考慮出来るが、しかし、やはり決定力不足になる。
 だからこそ横島は、最後の瞬間、霊棒を霊波刀に変質させて、猿神Sの鳩尾に刺突をもって貫いた。


「まぁ、卑怯な手だけは得意だからな〜、なにせ美神さんトコで鍛えられたし…」
「問題なかろう、お主はまだまだ弱い。弱い者が強き者に勝つ為には、そういった手も必要じゃからの」
「そんなモンか?」
「左様な、文珠を使えばその限りではないのじゃが、文珠とて万能ではないからの」
 横島の霊能力の極みとも言うべき文珠は、万能の器と呼ばれる程の能力を持つのだが、その生成は人魔となった横島でも、多くて一日に一個。
 そして、その効果も文字の意味と、使用者のイメージに依る所が大きくて、万能と言うよりも汎用と、猿神はそう位置づけている。
 そんな不確かなモノに頼るよりも、純粋に横島の能力を押し上げて、文珠を補助程度に置く事が、猿神が行っている修行の目的だった。


「まぁ、卑怯云々より、俺的には新技の評価の方が心配なんだけど」
「サイキック・ソーサー・リアクティブの事か? 相変わらずネーミングセンスの欠片もないが、実用的な観点から言えば及第点をやってもよいな。使用するサイキック・ソーサーが二枚故に、霊力の消費も良く抑えておるし……しかし、よくサイキック・ソーサー一つ一つに、別々の概念を組み込んだのぅ」
「んなモン、元々ある効果なんだし、出来ない方がおかしいだろ?」
「……お主と言う男は…」
 横島の何気ない一言に、猿神は咥えていたキセルを落とした。
 元々、霊力を集束させる才能だけは異常に高かった横島が、サイキック・ソーサーに身体中の霊力を集めさせない事や、多重展開させる事は、猿神が教えた霊力の基本的なコントロールだけで出来る様になった。
 しかし、そのサイキック・ソーサーに強固な盾であると言う概念と、それとは別の炸裂概念……それも指向性をつけた概念を組み込む事は容易ではない。
 本来横島のサイキック・ソーサーは、任意で炸裂させる事も、炸裂効果に指向性を付ける事も出来なかった。
 それをイメージだけで概念に組み込んだ横島の才気に、猿神は震えを覚え、そしてキセルを落としていた。


(まったく、戦う事を嫌っている癖に、こと才気に関しては天才じゃな……それも現代屈指の天才……この才気と、ルシオラから貰い受けた霊気構造を自在に使える様になれば…)
 再び猿神は震えを覚える。
 自らの力量を超える事はないと思えるのだが、それでも、成長し、あらゆる戦術を覚えた横島の将来を夢想すると、今では闘戦勝仏と呼ばれ、神族の一員となった猿神だが、若いみぎりに味わった、心ゆくまでの闘争を再び味わう事が出来ると…。


(また随分と遠い未来の話じゃし、横島は嫌がるかも知れんが、儂にも楽しみが出来たわい……ふむ、流石人外誑しと呼ばれるだけの事はある……よもや儂の心すら動かすとは思わなんだぞ、横島)
 落としたキセルを拾い、零れ落ちたタバコの種を、手の平で転がしながら一人密かに喉を震わせている猿神。
 そして、猿神がそんな事を考えている事など、露も知らない横島はと言うと―――


「小竜姫さま!」
 修行の際して、横島が猿神Sに致命傷を負わされた場合を想定して、いざと言う時は、文珠で≪蘇≫らせる為に控えていた小竜姫に、満面の笑みで声を掛けていた。


「どうしたんですか横島さん?」
「修行もひと段落つきましたんで、汗を流す為にも一緒にお風呂に入りましょう! そして、是非俺の背中を流して下さい!! 勿論そのむn!?」
 その言葉を発した瞬間、何処からともなく送られている、怨嗟の視線を感じた横島だったが、そんな直接被害を被らない視線よりも、もっと重要な視線が目の前にある事を知るべきだった。


「……横島さん、最後の言葉はどういう意味なんですか?」
 ぺたぺた……ぺたぺた……時折聞こえて来る、つるぺたはにゃ〜ん♪ と言う効果音は横島の気の所為だろう。
 そんな効果音を出している小竜姫は、俯いて胸に手をやっていた。


「ソ、ソレハ…」
 俯いている為に、横島から小竜姫の顔色は伺い知る事は出来ないのだが、その声のトーンだけで、横島は自分が踏んではいけない、地雷を踏んでしまった事実に気付いた。


「それは?」
 ぺたぺた……ぺたぺた……未だやむことを知らない、小竜姫から発せられる謎の効果音が横島の震えを加速させている。


(考えるんだ横島忠夫っ! ここの選択肢は重要だ……この重要な局面でパピリオがルシオラに言った『終っている』発言とかっ! 『胸なんて所詮飾りなんですっ! それがお偉いさんには判らんとですっ!』 ……なんてジ〇ン軍の技術士官みたいな事言ってみろ! 俺が逝ってしまうぢゃないかっ!!」
「終ってる……うふふふ、終ってますか私は?」
「や、やってもたー!」
 トンデモ失言癖が未だに根深い横島……もしかすると、自分の首を絞めるのが好きなのかも知れない。
 そして、背中にある逆鱗に自らポチッとな♪ と触った小竜姫が、横島を結構ウェルダンに焼いた事は言うまでもない。


「おお横島、こんな所で死んでしまうとは情けない」
 そんな日常に、やはり、その日は遠いと確信した猿神は、リメイク版の発売日が近い所為か、猿神の中で再びブームが来たのだろう。某RPGの某台詞を唱えて横島に笑い掛ける。


「い、いや……ギリギリで生きてるぞ……多分」
 今日の修行においても、瀕死の重傷を負っている横島。
 修行と言うよりも、トンデモ失言の所為で、結構な成果を挙げた修行を台無しにしている事実に猿神も閉口せざるをえない……そんな事に言及してしまっては、一応の平常を保っている小竜姫に、横島と同じ様にウェルダンに焼かれる事請け合いないので、仕方がないと言えば仕方がないのかも知れない。
 閑話休題。


◆◆◆


 そんな日常の中、一つだけ変化があった。それは―――


「なかなかやな」
 日本に滞在し、更に、横島の仕事の一環である修行を、この目で見てみたいと言って妙神山までついて来た百合子が、とんでもない言葉を発していた。


「お、お母さん…」
 本気で言ってるんですか?
 そんな万感の想いを込めて母の名を呼ぶベスパ。
 昨日見た光景の所為で、百合子のトンデモ感覚は知っていたが、まさか小竜姫のアレを見て尚、平然としていられるとは思いも寄らなかった様子。


「ベスパ、アレは忠夫の仕事やろ? それやったら受け止めなあかん」
「で、でもアレは…」
 ギリギリな横島を見るベスパの目には、小竜姫のアレは仕事の範疇ではないと思いながらも、前半部分の修行は確かに仕事だったので、それをどう説明するべきか迷っていた。


「だ・か・ら! ママじゃなくてお母様!!」
「知りまちぇん! ユリコママはユリコママなんでちゅ!!」
 そんなベスパの憂いなどお構い無しに騒ぐ横島の妹達。
 タマモは、昨日気絶した後、百合子から自分の事を、『母と呼んでくれると嬉しい』と言われて、照れながら呼んでみると、速攻で抱きすくめられ、ベスパと同じ様に顔を緩めていたりしていた。
 そしてパピリオもまた、横島ファミリーが妙神山に来た時に、横島から百合子の事を紹介されて、百合子に、『ママと呼んでもいいでちゅか?』と、ベスパと同じ様に母の存在に憧れていたのだろう。喜びながら抱きついていた……何故か横島に抱き付く時とは違って、力を制限しながら。

 そんな二人の口論の元となっているのが、母である百合子の呼び方である。

 案外古風なタマモは多大な尊敬と、それ以上の畏怖を抱く母の事をお母様と呼び、パピリオはパピリオで、妙神山に某マザコンが修行だと言ってたまに来るので、その人物が良く使用する、『ママ』と言う言葉に憧れをもっていたのか、その言葉を使って百合子の事をユリコママと呼んでいる―――どうでもいい戦いだった。


「まぁ、多少の行き過ぎは感じるけど、忠夫は無事なんやし問題あれへん……もしかして、ウチのスキンシップもあれぐらいの方がええんかな?」
 後ろの方で、無益な争いを続けているタマモとパピリオを、生暖かい視線で見つめていた百合子の口から、再びとんでもない言葉が発せられた。


「……ヨコシマが死にます」
 百合子の肩に手を置きながら、結構マジな顔で首を横に振るベスパ。
 先頃見た百合子のお仕置……もとい、スキンシップが苛烈を極めている事を知っているし、更に、それをちょっと真似ようかな? と考えていたベスパだったが、アレ以上の事が横島に降りかかれば、それだけで大惨事確定なので、本気で止めていた。


「ちょっとした冗談やがな……多分」
「多分って?!」
 そんな百合子に突っ込まざるをえないベスパ。横島一家の中で、一番の良識を持つのはベスパなのかも知れない。


「まぁ、冗談はさておき……正直、ウチもあんなにも傷付く忠夫を見て、平然とおれる程強うない。それでも忠夫が受け止めてる事に、一々心配な素振りでけへん。ウチは忠夫の母親で家族や……ベスパも忠夫の家族やったら忠夫を信じたり、それが家族っちゅうもんやからな」
 快活に笑う百合子の影に写る、絶対の信頼感と、少しの心配。そんなアンバランスな想いを見たベスパは、横島と百合子の絆の強さに憧れを持った。


「あのシゴキも、忠夫が決めた男の一生の仕事や。それをとやかく言う事はウチにも出来へん。忠夫の事を想うんやったら……ウチの娘やったら、アレぐらい受け止めなあかんで」
 そう言い残すと、百合子は立ち上がり、修行風景を写す装置のある部屋から、何処かに行こうとしていた。


「どうしたんですか?」
「忠夫の修行はアレで終りやろ? それやったらご飯の準備もしとかんと、忠夫の三大欲求を舐めたらあかん」
 ベスパの問いに、また笑顔を浮かべて答える百合子。
 ベスパも確かにと頷く。睡眠欲。食欲。そして性欲―――特に最後の項目が凄い横島なのだが、その凄さを知っている百合子とベスパも、凄いとしか言い様がない。


◆◆◆


「こら美味い! こらんがっ!?」
「アホ! もっと綺麗に食べんかい!!」
 横島のあまりの食べっぷりに、マナーの躾と言わんばかりに頭をはたく百合子。
 それが原因で口に含んでいたモノを、飛び散らす羽目になった横島……横島も横島だが、百合子も百合子だ。


「負けた…」
 そんな二人を見て小竜姫が呟く。
 小竜姫も伊達に長生き? していないので、調理にはそれなりの自信を持っていたのだが、横島の食いっぷりと、自分が作った料理を食べる時よりも咀嚼速度が格段に速かったので、その料理を口にする以前に敗北を認めていた。


「仕方ないでちゅよ小竜姫。私のユリコママには勝てまちぇん」
 そんな小竜姫に、微笑みながら慰めるパピリオ。
 その位置は、百合子の膝の上。母親と言う存在に一番甘えているのはパピリオだった。そんな甘え上手なパピリオに、怨嗟の視線を送っているタマモとベスパが居た事を追記しておきたい。


「そんな事ありませんよ小竜姫様。忠夫は単純にこの味に慣れてるだけですから」
「そうなんですか? それだったら……そ、その……教授して頂いてもいいでしょうか? これからの事もありますし…」
「これからの事も?」
 百合子に赤面しながら調理の教授を願った小竜姫を見て、今までパピリオに送っていた怨嗟の視線を小竜姫にシフトさせたタマモ。
 横島に尊敬と愛情を捧げているタマモからすれば、その小竜姫の態度はライヴァル宣言ともとれた様子。


「どうしたんですかタマモさん?」
(あら? お子ちゃまの癖に嫉妬ですか? ふふふ、お子ちゃまはお子ちゃまらしく、指を咥えて羨ましがる事ですわ♪)


「いいえ、別になんでもありませんわ小竜姫様」
(上等じゃないこの年増……お母様に媚を売った所で、最終決定権は兄様にある事をお忘れ? 兄様もあんたみたいな年増より、私の様に若くてピチピチした方がいいに決まってるもの♪)


「それにしては何か言いたげな表情ですけど?」
(だ、誰が年増ですかっ! 年増と言うのはメドーサの様な垂乳を指して使う言葉です! 訂正しなさいっ!!)


「本当になんでもありませんわ」
(……垂乳ねぇ?)


「本当ですか?」
(ど、何処を見てるんですかっ!?)


「こんな事に嘘をつく必要ありませんから」
(垂乳に嫉妬するなんて……終ってる人は大変ですね〜♪)


「そ、それもそうですね…」
(くっ! け、けど横島さんの様なやんちゃな殿方には、私の様な年上の女性がお似合いなんですっ! むしろ子供が幾ら頑張った所で、横島さんが反応すら示さない筈っ!)


「ふ、ふふふ」
(よ、良く知ってるわね……け、けど! 私は将来有望な金毛白面九尾の妖狐よ? そのポテンシャル推して知ることね! これからの時代は黄金比なのよっ!!)


「ふふふふふ」
(よ、横島さんも言ってたじゃないですかっ! 胸なんて所詮飾りなんですっ! お偉いさんにはそれが判らないんですっ!! って!!)


「あ、あの……ヨコシマ……こ、これ食べてくれないか?」
 そんな小竜姫とタマモの水面下で、龍狐が相打っている事など露も知らないベスパは、結構な勇気を振り絞って横島と対峙していた。
 ベスパの心の中に、横島に与えられてばかりで、何か少しでも返せればと思っていたので、先程、百合子がご飯を作りに行った時に調理を教えて欲しいと懇願していた。
 百合子もかなりの子煩悩なので、そんな可愛いベスパの態度に、少し我を忘れてベスパを愛でていたのだが、一通り愛でた後、しっかりと調理を教授していた。


「……何コレ?」
 ベスパが横島の前に出したのは、随分と黒い物質だった。
 横島も、そんな黒い物体Xを知らないので、その黒い物体Xが何であるかとベスパに疑問をぶつける。


「こ、これはお母さんに教えて貰って作ってみた玉子焼きなんだが……やっぱり駄目か?」
「おぉ! ベスパが俺の為に作ってくれたのかっ!、くぅぅ!! 天よ御覧照あれっ! 男横島忠夫、この七難八苦乗り越えて魅せましょうぞ!!」
 横島は、ベスパが照れながら顔をマッハで赤くする様子に少し萌えながらも、そんなベスパを見た横島が、感動に打ちひしがれ、山中鹿介が呆れる様な言葉を吐く事や、こんなにも黒く、そして妙に照りがある黒い物体Xを、口に含むだけの勇気を持つのは当然だろう。
 ついでに、そんな横島の言動と、ベスパの不意をついた行動に、小竜姫とタマモの視線がベスパにぶつかる。


「な、なんだよ二人共…」
「……別になんでもありません」
(くっ! 伏兵っ?! 何処に伏せていた! ……って言うより、なんですかあの胸っ! そんな余分な脂肪の何処がいいって言うんですかっ!! 年をとったら垂れて大変になるだけなんですよっ!!)


「なんでもありませんわ姉様」
(やはり一番の強敵は姉様なのねっ!? こんな、終ってる小隆起に構っている暇なんて無かったのよっ! ……いいえ! む、むしろ姉様と手を組んで……そ、それだったら……えへへ♪)


「んじゃ頂きま〜す……(え? なにコレ?? 口に中に広がる嫌な甘さ……そして噛むたびに自己主張が激しい炭化した元タマゴ……不味っ!? し、しかし、あんなにも期待に目を輝かせているベスパの気持ちを考えると……)ごめんやっぱ無理っ!!」
 今回は心の声が漏れていなかった横島だったが、絶対的な元タマゴの絶望感に打ちひしがれ、溜飲する事が出来なかった。


「な、何が無理なんだヨコシマっ!?」
「た、玉子焼きに……蜂蜜は合わない…」
 見た目が黒くて何故か照りがある時点で、視覚的に無理だった。
 口に含んだ瞬間に、鼻を通り越して脳に直接叩き込まれた、無駄に甘い香りも嗅覚的にもノーサインを出していた。
 噛み締める度に襲ってくる、口内の全水分を略奪する炭素の味覚も駄目だった。
 咀嚼する度に、ジャリジャリと聞こえる玉子焼きが奏でるに不相応な音の時点で、聴覚的にも、最悪を通り越して絶望していた。
 結論から言えば、ベスパの作った玉子焼きは、玉子焼きに対する冒涜なのだが、ベスパの気持ちを考えると、過分にフェミニストである横島が、そんな事を口に出せる訳はなく、ベスパが傷付かない改善部分を探しに探して、『玉子焼きに蜂蜜は合わない』と、そう言うに留まった……つわものだ。


「ベスパ、そんなモン入れたんかい?」
「お母さんに、ヨコシマは甘い玉子焼きが好きだって聞いたから……そ、その……蜂蜜って美味しいし…」
 何処か虚空を見詰めながら、乾いた笑いを浮かべるベスパ。
 蝶の化身であるパピリオと同様に、蜂の化身であるベスパもまた、蜂蜜が好きだった。
 そんなベスパが妙神山に来る時に何時も常備しているのは、日本ミツバチが採取した蜂蜜のみを使用し、更に、不純物を完全に取り除いている。
 その蜂蜜に雑味などは存在せずに、純粋に蜂蜜の甘味と美味しさを追求した、他の追随を許さない、まさに究極の一品―――価格は、キロで一万円ぐらいはする。
 閑話休題。


「ベスパ……玉子焼きを甘く焼く時に使うんは砂糖や」
「やっぱりそっちか…」
 隣に座っているベスパの肩を、そっとため息交じりに叩く百合子と、『やっぱりそっちかって、どういう意味なんじゃー!』と心の中で叫ぶ横島。
 そして、そんなベスパに、『勝った! 最後に勝利を掴む者は、胃袋を掴んだ者なのよっ!!』と、随分と先の長い話での勝利にほくそえむ小竜姫。
 更に、タマモも、『お茶目さん! 姉様ったら、とんだお茶目さん!! そんな萌え行動見せられたら、さっきの妄想がヒートアップしちゃうじゃないっ!? ……えへへ♪』と、流石、横島の名に冠しているだけあって、妄想を繰り広げて、ハァハァ言っていた。
 パピリオはパピリオで、そのベスパが妙神山に来る度に、その蜂蜜を食べさせて貰っているのだろう、何かを思い出し、更に、百合子の膝の上と言う、憧れだった母のぬくもりを堪能し続けて、恍惚の笑顔を浮かべていた。


「……平和じゃの」
 一人だけ完全に蚊帳の外に放り出された猿神が、百合子の用意したご飯を食べながら呟いていた―――まったくだ。


 あとがき(壊れ……かな?)


 横島君の修行風景の中に、武術云々とありましたが、あれは拙僧の捏造ですので深く追求しないで頂けますと、嬉しい限りでございます……それ以前に、相変わらずバトルが下手です。長く書けませんもの……後、多対一も書けません。長時間の試合やら多対一の試合なんて、剣道ではありませんし。

 追記として、横島君の強さですが……天才と書きましたが、最強とかそんな強さは持ってません。成長はするのですが、現時点では、あくまで常識的に強い部類に属するぐらいの強さです。後、棒術を使わせたのは拙僧の趣味です。

 最後に、プロット書き直しました……ふと気付いたら、ラ・カンパネラって前回で最終章を迎える筈だったのですが、タマモやら百合子やら……寄り道していたら何時の間にかあぜ道に突入していました。と言う訳で、そろそろ最終章に向けて頑張って行きます。


 ポンッと副題の意味を

 インテルメッツォ―――間奏曲


 次回……クライマックスへ向けて、物語は加速する……筈っス。


 レス返しです(暑くなってきました……素麺の美味しい季節になりました♪)


 ラッスィ様

 まずは、不快感を抱かせてしまいました事、平にお詫び申し上げます。申し訳ございませんでした。
 これからは斯様な事を繰り返さない様、注意し、もし表現的に必要になりましたら注記の方へバイオレンスの表記をつけて、再発防止に努めてまいります。
 個人的な意見と申されておりますが、読んで下さる方々の御意見は、文章を書いていく上で、重要なことでございますので、私が気付かずに書いてしまった、至らぬ点などございましたら、御意見して頂けますと嬉しい限りでございます。


 レネス様

 今回のGMは……案外マトモでした。そろそろ終曲を迎えるラ・カンパネラにおいて、重要な鍵を握っているのがGMですので、これからどう転ぶかは、私にも解りません(マテ
 ベスパルートに入っているか微妙な感じではございますが、それでもラ・カンパネラは私がGSの二次創作を書きたいと思って、書き始めた作品なので、ベスパに幸せになってもらいます!
 ん? …タマモを捕食? しまs…げふんげふん。ネタバレ注意につき未記入です。


 星の影様

 GMはやり過ぎな感じですか…ウチではスキンシップが殴り合いでしたので、横島家でもアレぐらいはすると思っていました。一般常識を欠いた事、お詫び申し上げます。
 小学生の頃に、一番上の兄貴(社会人)とガチ喧嘩をする様な、私の常識が非常識だと友人にも注意されていましたが、まさかこんな所に弊害が出てしまうとは……これからは常識を踏まえて書いていきます。
 金髪キラーか(待て)>待ちませんともっ! 人外☆キラー以外に、新たな二つ名を手に入れた横島君が次に目指すはめぐm(ry


 Tシロー様

 料理ですが……ベスパはまだまだ未熟です。これから向上の余地もあるのですが、私も子供の頃、玉子焼きを作った時、黒こげにした記憶がありましたので、ベスパにも同様の無念を与えてしまいました。砂糖を入れると焦げ易いっスから。
 某ドジっ娘&メガネっ娘ですか……彼女はある意味、妹属性を持つ強者ですからね……アレ? 衣装と素直じゃない所を考えると、彼女が美神さんd「私を年増蛇女と一緒にするなぁ!!」ソレは違うのにぃぃぃ!! …………陸上部のジャーマネも好きっス……ガクッ(ダイイングメッセージ)。


 七位様

 不快感を残してしまった事、誠に申し訳ございませんでした。GMだったら、アレぐらいするかな? と勘違いしていましたので、これからは注意して書いてまいります。
 前回、七位様が、折角面白いと思われたのにも関わらず、私の勘違いで台無しになってしまいましたが、これからは作品を作っていく上で、その作品の雰囲気を壊してしまわぬ様に尽力していきますので、これからも読み続けて頂けますと嬉しい限りでございます。


 J様

 ベスパにも、そろそろ嫉妬する自分の気持ちに気付いてもらわなければ、物語が進みませんので、これからちょっと、家族の暖かさが少しの違和感で崩れていく様を表現しなければなりません。
 故に、次回辺りからシリアス風味に進めて行くか、今のままのんびりと進めて行くか悩んでいますが、最後は大団円を目標としていますので、それまで内容が少し迷いが生じるかも知れませんが、それでも読み続けて頂けますと嬉しい限りでございます。


 猫人間ののん様

 淫靡と猟奇は隣り合わせのカード……すみません嘘ですっ!! …けほん。ちょっとGMの感じを間違えて演出してしまいましたので、今回は抑えて書いています。
 ベスパの趣味に関しましては、全国の美味しい蜂蜜集めと言う、変な趣味もありました、それも勿論、通販です(w
 そして、そろそろ完結に向けて、詰の作業をしなければなりません……まぁ、最後にはこれを書き出した目的が……これ以上はネタバレになりますので書けませんが、それでも満足して頂ける様に頑張って参りますので、これからも読み続けて頂けますと嬉しい限りでございます。

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