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「ラ・カンパネラ 第五章(GS)」

にょふ (2008-06-14 19:03/2008-06-21 15:49)
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 あるマンションの一角、そこに似つかわしくない水音が響く―――


「どないしたんや、もう終わりか?」
「うっ…」
「こんなんで終るとでも思ったんかいな?」
 くちゃくちゃと、少年の上に跨る女性が動くたびに水音は増す。その水音は悩ましい程に艶かしく、二人で彩る音としては不つり合いなまでに激しく。


「や…やめて…く…れ」
「無理な話やな〜」
「な、なんで…」
 何故こんな事をするのか?
 少年は、そう尋ねたかったが、その言葉を紡ぐ前に女性の動きが活発になり、少年の口も塞がる他なかった。


「全部あんたが悪いんやで?」
 嗜虐とも、哀れみとも取れる表情で、少年の上に跨る女性の動きは止む所を知らない。


「な、なんでや……おか…ん」
「あんたが悪いんや……忠夫」
 少年の名を忠夫、女性の名を百合子―――二人は親子だった。


        GS美神極楽大作戦! 〜ラ・カンパネラ〜 


           第五章 〜ア メッツァ ボーチ〜


 話はつい数分前に遡る―――


「久しぶりやな忠夫」
「お、おかんっ!?」
 結構な朝、それもかなり早めな朝の出来事。
 突如としてインターフォンが鳴ったので昔からの習慣か、電話や覗き窓からの確認を取らずにドアを開けてみれば、そこに立って居たのは横島の母、百合子だった。


「朝早ようから悪いけど……で、お前が女性を囲うてるてホンマか?」
「な、何の話だぶりるっ!?」
 真っ赤だった、ちょっと赤黒いかも知れない。
 悲劇だった、喜劇かも知れない。


「どもる事はつまり、やましい事があるって証拠や……で、何処におんねん?」
 百合子は横島の意向どころか惨劇の具合など無視して話を進める。
 なにせ横島の母だ、こんな惨劇は日常茶飯事だろう、この程度の血祭りぐらい、浮気をした大樹で慣れている。


「……なぁ、息子の具合とか無視か」
「当たり前やろ? そんな怪我二秒とせんで治る筈やし」
「筈で話を進めるな!」
 横島も、二秒と掛からずに復活出来る自分の特異な身体を、無視している事実に気付きもしない。


「なんか文句あんのか?」
「ありませんマム!!」
 まったくだ。


「クロサキ君に頼んであんたの生活を監視させてもうたけど……自宅マンションを勝手に入手。更に、そのマンションに、金髪美女と金髪美少女の、横島忠夫とまったく接点が見当たらない人物二人が入居。その二人と仲睦まじく外出する姿も数度となく確認。更に同級生らしき人物も数人招きいれた事も確認、一人は隣に住んでいた女子学生と、もう一人は元同僚の女子学生であった事を確認。
 マンションの事は構へん、あんたがGSやら魔族やらになった御蔭で手にいれた財産やろうしな……けどな、この女性関係だけは許されへんな……あんたも年頃やから、そんな事もあるやろう。そんな事に何の文句もあらへんわ。自宅マンションに女友達を連れてくるのも構へん……けどなんやコレ? 自分のマンションに金髪美女・美少女“だけ”を入居させてる。それも、まったくお前と接点が見当たらん二人をや……随分とえろうなったな〜♪」
 A4の報告書数枚を端折って読み上げつつ、その視線の先にしっかりと横島を見据える百合子。
 その表情は笑顔、それはとても綺麗な笑顔。一部の隙もない絶対零度の微笑み。最近おキヌの黒い笑顔で多少の耐性がついたかも知れないと思っていた横島だが、それでも母の笑顔は別格だった。
 その証拠に一方向からしか見ていない報告書に異議を申し立てたい横島なのだが、恐怖で身体が固まって、指の一本すら動かせない状態である。


「判決、控訴棄却の上執行猶予なしの極刑が望ましい……以上」
 一方的且つ惨劇だった。
 ついでに言えば、陪審員も居なければ、検事が裁判長だった。
 マンションの廊下に響き渡る絶叫と、鈍い音、たまにグチャともクチャとも取れない水音すら聞こえる始末―――冒頭のアレはコレだった。
 そんな詮無き事よりも、己がコブシ一つで、魔族に成った横島の肉体を破却させるだけの正義の鉄槌を持つ百合子に、西条辺りが尊敬の眼差しで見詰める事だろう。


◆◆◆


 繰り広げられた惨劇は二分程度続いていた。
 その後、一分で復活した横島を賞賛すべきかは微妙な所だが、それでも、人魔となってその回復速度が増した横島が、復活に一分もの時間を要する程のダメージを与えた百合子の愛(コブシ)は異常なのだろう。
 ちなみに、どの程度のダメージかと……言えない。これを18禁にするのは憚りが強いので割愛させて頂きたい。


「ふぃぃ〜、死ぬかと……いや、途中で何回か死んだよな俺?」
「何ブツクサ言うとんねん?」
「ちょっと親父の偉大さを知っただけや」
 横島の脳裏に浮かぶのは、あのコブシを喰らっても尚、浮気を辞めようとしない横島大樹の事だった。
 大樹も流石横島の父と言った具合に回復能力が異常なのだが、それでも人魔となった横島と比べるとやはりその能力は一歩下がるだろう。
 しかし、それでもあのコブシの恐怖を知って尚、その浮気を辞めない大樹に、横島は畏敬とも尊敬とれる感情を抱くに十分だった。


「……尊敬してるとか言わんよな」
「も、勿論ですっ!」
 滲み出る殺気に、周囲の気温が下がっていた。
 勿論それは横島の体感気温なのだが、それでも現在、梅雨時期の体感気温としては破格の……あのアシュタロスと対峙する為に向かった、南極の不能到達極で味わった極寒を感じていた。
 その感覚、推して知るべし。


「ヨコシマぁ……五月蝿いぞ」
「ベ、ベスパっ!?」
 横島とベスパ&タマモの部屋は隣接している。そんな状況下であの惨劇、その時の横島の叫びと、それに付随する横島の身体から発した水音を合わせれば、防音効果も抜群な部屋に住んでいたとしても十分に聞こえる騒音だ。
 そんな騒音を聞いたベスパが朝、それも結構早めな朝であったとしても、起きるには十分な騒音だった為に、ベスパが外を確認する事も考えられると横島は思っていたのだが、そこには想像を遥かに超える出来事が巻き起こっていた。


「ヨコシマぁ……この人だぁれ?」
 起き抜けの所為か、重たそうな目蓋を擦りながら横島に確認を取る。そこまでなら十分に予想出来た範囲なのだろうが、しかし現在時刻6時過ぎと言う結構な時間帯。
 更に、ベスパは朝に弱い。魔族としての矜持を持っているベスパは、その行動原理として遅寝遅起きを欠かさない。
 そんな建前を振りかざしているベスパが、実は深夜にやっている通販番組にはまっていると言う事は、タマモ経由で横島に伝わっているのだが、横島も深夜にやっている、ちょっとエッチな番組を欠かさずチェックしているので、言及出来る立場に居ないのと、その事が別段、普段の生活に影響しなかった所為もあるので言及していなかった。


 しかし時代は、横島を許してはくれなかった。


 起き抜けの所為か、口調が甘ったるい。更に、最近キッチンを小破させた時に、着ていたパジャマを駄目にしてしまったベスパが、現在着ているのは透けていないのに理由があるのか? と言わざるを得ない、ポリエステル素材のバニラ色の短めなベビードールと、その下にチラリと見える、これまたポリエステル素材のバニラ色の小さめのショーツが見受けられる……通販のセットで買ったのだろうが、その格好は、どこから如何見ても寝る時の服装などではなく下着姿だ。
 そして、そんな姿と言葉に百合子の下した判断は―――


「忠夫♪」
「ちょっと待てっ! これに関しては俺は知らなむさんっ!!」
「……ぅぁ」
 能面の様な顔なのに、何故か素敵な笑顔を浮かべながら、世界を狙えるに十分な左フックを喰らった横島は、最近誰かに開けられた事のある腹に再び穴を開けられた。
 そんな自分の過ちを見せられたベスパは意識を手放す事で、なんとか自我を保つ事に成功していた。
 百合子は百合子で、口だけをニヤリとさせた笑顔を浮かべていた。その光景は、誰がどう見ても殺人現場にしか見えないのだが、それ以前に横島……何故に南無三? 南無三宝の略語である南無三は、主に失敗した時に口走る感嘆句に近いのだが、最近ではすっかり使わなくなっている筈なのに?
 超閑話休題。


◆◆◆


 あの後、見事に復活を遂げた横島を連れてベスパ&タマモの部屋に侵攻した百合子。偏に、息子が囲っていると思われる金髪美女・美少女をこの目で見ようという、母の篤い想いでしかない……多分。
 そして、玄関で気絶したベスパを横島が手厚く運ぼうとすれば、スピンエルボーで撃墜させて、百合子が片手で頭を持ち、運んでいった。
 その光景を見てしまった寝起きのタマモが、その光景を悪夢だと思い
、寝なおしたのは甚だ余談だろう。
 そして、百合子が活を入れて復活させたベスパと、寝なおしたタマモを優しく起こした百合子は―――


「まぁ、冗談はさておき」
 ―――とんでもなかった。


「冗談? ……冗談で俺は何をされたんだよ…」
 まったくだ。


「何か言ったかい忠夫?」


(んなもん、言い返したらまた殺られてまうがなっ! そんな事解りきってるのに聞くか普通? ここは当然の如く黙秘権こうしゅけぃぃぃ!!」
 途中から……もとい、殆ど最初辺りから心の声が前面に出ていた横島が、黙秘権の行使どころか、絞首刑に晒されるのは当然の理だろう。
 鳴かずば雉も撃たれまい……そんな格言が出そうで、それ以外に何か大切なモノが出て行きそうな横島。
 本当に、たまに出る失言がとんでもない横島だ。


「あ、あの……それ以上するとヨコシマも流石に危険なんじゃ…」
 帯ではなく、首をギュっとね♪ をされている横島を見たベスパは、先程、これ以上の惨劇を目の当たりにした所為か、多少の耐性が出来ていたのだろう、なんとか現状に耐えていたが、タマモにはまったく耐性がなかったのとプラスして、敬愛する兄である横島のあんまりな光景に、気絶をして先程のベスパ同様に自我を保とうとしていた。


「大丈夫だよ、この程度でくたばる様な忠夫じゃないさ」
 そういい残すと、横島を乱雑に捨て置いた。
 そんな光景にベスパは、この親子の妙な信頼感を感じ取ったのか、はたまた、母を知らないからか、これが母の強さなのかと……しきりに感心して、軽く恐怖していた。


「そんなことよりもベスパさん―――あんたは忠夫のなんやねんな?」
 床でピクピクと痙攣している横島を、傍目で見ながら百合子は、真剣な表情を浮かべてベスパの方を向いた。


「私はヨコシマの家族です」
 そんな百合子の言葉に、間髪を入れずに、滞る事なく、淀みなく答えるベスパ。
 それだけは胸を張って言いたい。それは横島が与えてくれたモノだから。
 百合子に畏怖を抱くベスパでも、それだけは譲れない。百合子が横島の母であっても、たとえ、その母に違うと言われても、その絆を断ち切る事だけは絶対にしないと。たとえそれが世界を敵に回したとしても、絶対に貫くだけの覚悟を持っていた。


「だろうね、クロサキ君の報告書にも、そんな感じで書いてたし」
「そ、それじゃ……なんでヨコシマを?」
 ベスパに若干の肩透かしがなかったと言えば嘘になるが、それよりもまず、何故、息子である横島に対する仕打ちが、これ程熾烈を極めるのかと言う疑問の方が強かった。


「親子のスキンシップみたいなもんや……ついでに、勝手に家族を増やしといて、その連絡もせえへんかった駄目息子への教育もかな?」
 未だにピクピクと蠢いている横島の頭を叩いて答える百合子。そして頭を叩かれて、今まで走馬灯を見ていた横島は、多少は残っていた意識を手放し、全てを暗闇の中に落とした。
 そんな百合子と横島を見たベスパは、結構大きめな汗を額に浮かべているが、この母があってこそ、横島の回復能力があるのだと確信を持った。


「それより本題やベスパさん―――このアホに何かされてないか?」
 ベスパがそんな事を考えていた時、全てが凍結した。
 先頃横島が味わった絶対零度の体感気温とは趣向の違った感覚。
 周囲の空気が凍る事ぐらいなら、おキヌの黒化で味わったベスパだったが、刻すら止まる感覚は初めてだった。
 人間が出す霊的な圧力ぐらいは、簡単に押しのけるだけの霊圧を持つベスパでさえ、動けなくなった。


「ぁ、ぁぁぁ…」
 辛うじて声帯を震わせて声を出そうとするベスパだったが、上手く言葉を紡げない。
 このままでは横島に更なる厄災が振るかも知れないと言う一心で、声帯を震わせてはいるのだが、百合子から放たれる絶対的な圧力に、声にならない絶望しか紡げなかった。


「ないんか?」
 百合子の言葉に辛うじて首を縦に振るベスパ。
 その動きはミリ単位で動いているのだが、それでも首を縦に動かしている事実があったので百合子も納得していた。


「まぁ、ベスパさんがそう言うんやったらええんやけど……ホンマに?」
 シャワーとか覗かれたかも知れない。
 そんな言葉が浮かんだベスパだが、それ以上の行動を取れなかった。偏に横島の安全と、そんな光景を見てしまっては、数日間、その悪夢にうなされる事請け合いだったので、嘘も方弁と言わんばかりに首を縦に動かしていた……ほんの少しだけ。


「せやったら問題ないな……それよりどないしたんや? 喋ってないけど?」
「ぇ……ぁあ……大丈夫です。ちょっと絶対的なプレッシャーを前に…」
「? 変な娘だね??」
 百合子は気付いていない、自分自身の圧倒的なまでの圧力を。
 その圧力の余波を喰らったタマモが気絶時間の延長を余儀なくされた事や、結構深めなダメージを負っている横島が、キーやんと名乗るおっさんと、サッちゃんと名乗るおっさんに手招きされている事すらも知りえない。


◆◆◆


「それでおかん、何しに来たんや?」
 キーやんとサッちゃんの手招きされていた横島だったが、そこは横島なので、数分こそ掛かったものの、やはり復活していた。


「あんたがマトモに生活してるか心配になったんと、さっきも言うた通りに、あんたが勝手に家族を増やしといて、それをウチに言わんかった事もあるな」
「……それは悪いとは思うけど、なんか忘れてただけやないか」
「それで……ホンマに手出してないやろな?」
「当たり前やっ! 幾ら俺でもセクハラしてええ人間とあかん人間の区別ぐらいは付けてるわっ!!」
 殴られた。
 顎から鈍い音が発せられた。骨が砕けたかも知れない。


「このアホが! 区別つける以前の問題や!!」
 口より先に手が出るのもどうかと思う横島だったが、そんな事を口走れば、即刻鉄拳制裁が待っているので、セクハラをしていい人物と駄目な人物の区別をつけているのと同様に、勇気と無謀の区別もつけているのか自制していた。


「に、兄様、これ…」
「おぉ、ありがとうタマモ」
 気絶時間の延長を余儀なくされたタマモだったが、タマモも傾国の大妖怪、金毛白面九尾の妖狐であったので、そんなにも長い時間気絶出来る事が出来なかった。
 兄である横島に冷えたタオルを渡せる事に喜んではいるのだが、敬愛する横島より確実に強い百合子を前にして、何故自分は気絶したままでいられなかったのかを悔しがってもいた。
 タマモの心も複雑だ。


「兄様ね……あんたの趣味も変わったんか?」
「何言うてんねん?」
「何時から年端もいかん様な子供を騙くらかして、自分の都合のいい様に教育する外道に堕ちたんかって聞いてんねや」
 百合子は横島の過去を一番知っている、知っているからこそ不思議に思った。横島はタマモの様な少女には手を出さない。

 ―――子供の頃に、意識していた異性である夏子が、その手合いの痴漢に遭遇したと聞かされた時、無事に逃げたと聞かされても、その時強く憤慨した記憶は、横島の脳裏から消え去る事はなかった。

 その所為か、そういった手合いになる事だけは死んでも嫌だと思っているし、懐の深い横島でもそういった手合いの人物には、幼い頃のトラウマか、寛容にはなれない。


「あのなおかん、人様が聞いたら誤解する様な事を言うな。俺はタマモにどうこうして欲しいとか言った事もない……ただ、タマモが森の中で一人でおるのが嫌やっただけや」
「森におったって、なんやねんな?」
「あの……私は……妖怪なんです…」
 横島の顎辺りを冷やしながら、少し俯きつつ答えるタマモ。


「おかん……幾らタマモが妖怪や言うても、俺の家族である事は間違いない。だから、変な眼鏡でタマモを見んのは止めてくれ」
 少し俯いていたタマモをそっと抱き寄せて、全てを満たす様に抱きすくめる横島。


「……あんたも少しは大人になったって事か」
 その光景を見た百合子は驚きはしたが、それでもタマモがその行為を甘受してると言うよりかは、むしろ横島に抱き締められて、恍惚の笑顔を浮かべていたのを確認したのと、横島の目に宿る自分と同じ様な目―――保護者の目に宿る強さを見抜いた所為か、少しおかしげに笑っていた。


「色々とあったしな……おかんにもちょっとは感謝してる……ホンマにちょっとだけやけどな」
「……これがツンデレか。ちょっと琴線に触れたで」
 横島がこけた。
 勿論、抱きすくめられているタマモを巻き込んだのは言うまでも無い。


 しかし、そんな時に悲劇は繰り返される。


 今までベスパが居なかったのには理由がある……いや、理由と言う程の事でもない。
 ベスパのあんな格好……ベビードールと言う、殆ど下着姿な状態で横島の前にいれば、横島の無限の煩悩が発揮されるのは言うまでもなかったので、横島がキーやんとサッちゃんと戯れていた時に着替えにいっただけの話だ。

 勿論、着替えにそんなに時間を有する必要もないのだが、横島の母と言う存在である百合子の手前、何時もの様なTシャツにジーンズといったラフな格好を嫌ったベスパが、何に着替えるかを迷って、結構時間をかけて、更に、化粧もばっちりと決め様としていた時に、誰かが倒れる音が聞こえたので慌てて外に出ると―――


 ――ベスパ視点(妄想)開始――


「……タマモ」
「なんですか兄様?」
「俺……こんな事言うの恥ずかしいんやけどな」
 何時もはっきりした言動の横島らしくなく、言葉を詰まらせ、更に、何か恥ずかしそうに頭を掻いている。


「どうしたんですか?」
 そんな態度の横島に、タマモもまた首を傾げていた。


「多分、こんな事言うの二度とないと思うから……その、忘れんといて欲しい…」
「? は、はぁ?」
「……なんや恥ずかしいけど……その……おかんに紹介するのに妹ってのもおかしな話やと思うねや…」
「え?」
「俺ってどうしようもないアホな男やけどな……そんな男やけどな……お前の事が、タマモの事が……その…」
 手を所在なさげにうろうろとさせながら言葉を捜す横島、そんな横島の態度にタマモも何か感じ取ったのか、佇まいを正して、横島の一言一句聞き逃すまいと、真剣に横島を見詰める。


「あのな……俺はタマモの事を妹とかそんな風に見てきたつもりやったけど……無理や、これ以上自分の気持ちに嘘つくのも限界かも知れん……だから、おかんが居る前で宣言させてくれ……タマモ、俺の女になってくれ…!」
 緊張の所為か、前半は上手く言葉を紡げなかった横島だったが、それでもタマモを想う気持ちを前にして、その緊張も決意へと変質したのか、最後は男らしく、何時もの横島らしく……自分の想いを宣言した。


「…ぁ」
 タマモの瞳から一筋の涙が零れる。
 嬉しかった、知らなかった、期待が無かった訳でもない。
 自分が想う気持ちの半分も、横島は想ってくれていないだろうと感じていたからこそ、タマモの感情は溢れ出した。


「タ、タマモ?!」
 涙を流すタマモに驚いたのか、もしくは自分の言葉が嫌だったのかと思った横島は面白い程に狼狽している。


「ち、違います兄様……嬉しいんです…」
 袖口で涙を拭い、満面の笑みで横島の胸に飛び込んだタマモ。
 その光景をニヤニヤとしながら見詰める百合子、百合子の感情は祝福とも、自分の息子に訪れた春に対する感謝か―――それは百合子以外に知り得ない。


「タマモ…」
「兄様…」
 ウチも居んねんけどな〜。
 しかし、そんな野暮を言う程百合子も厚顔ではなかったのか、二人の為すがままにしている。


「いいかな?」
「ふふ、聞くのはルール違反ですよ?」
「そっか」
「はい♪」
 二人はそっと倒れこむ様に唇を―――


 ――ベスパ視点(妄想)終了――


「……ヨコシマ」
「な、なんで御座いましょうかベスパさんっ!」
 横島とタマモは、百合子の一言に倒れ込んだだけなのだが、ベスパは知らない、自分が、とんでもない勘違いを起こしている事を。
 そして、そんなベスパの思考など知る由もない横島だったが、それでも、ベスパのあまりにも抑揚の無い声と、近頃味わい続けている凍える視線を味わったが為か、思わず丁寧口調になってしまっている。
 そんな状況の横島に一瞥をくれてタマモの表情を見るベスパ。
 横島の転倒に巻き込まれただけのタマモの筈なのだが、何処か嬉しそうな表情を浮かべている。
 いや、むしろ、『あぁ!? こ、こんな所で接吻ですか……け、けど兄様になら……よっしゃ! ドンと来いっ!!』とでも言わんばかりに目を瞑って唇を突き出していた……タマモにとって、横島は敬愛する兄以上の存在だった様子。
 更にベスパは、百合子の方にも目をやる。

 ――好きにしてええで――

 そんな言葉を雄弁に語る、にやけた目元があった。


「ヨコシマ」
 再びそう言って横島に、音もなく迫るベスパ。


「ま、まてっ! 何を考えてるかは知らんが、多分それはベスパの勘違いだっ!!」
 横島は早急にこの場から逃げたいのだが、倒れる時に庇ったタマモを、その腕に抱いている状態なので自由が利かず、それでも、なんとか逃げようとタマモを振り払おうとすると、胸元にタマモの指がしっかりと横島のシャツを握っているので、そんなタマモを無碍に出来る筈もなかった。


「なんで…」
「お、落ち着けベスパっ!」
「なんで…」
「ぉお!」
 タマモを抱いている横島を片手で持ち上げたベスパに、驚愕の表情を浮かべる横島と、物理的な距離が離れた事によって、少し残念そうなタマモ……ついでに、何故かうんうんと頷く百合子の姿もあった。


「なんで…」
「ギ、ギブ…」
「なんで―――タマモなんだよっ!!」
 それはベスパの本音だった。
 ベスパの心裡はイライラとしていたが、何故かと理由を聞かれればベスパは答える事が出来なかっただろう。
 それでも、横島とタマモが抱き合っている姿は、勘違いを抜きにしても、ベスパの心をざわつかせるに十分だった。
 そして最近、横島に素直になって欲しいと言われたベスパは、自分の気持ちは理解していないが、それでもイライラとする気持ちを横島にぶつけた……まぁ、先程見た百合子の仕打ちを真似しているのか、熾烈を極めていた。


「何を言」
 そんな行動をとられた横島としては、疑問に答える余裕などなかった。
 更に、ベスパの言葉の意味が判らないので、そこに突っ込みを入れたかったのだが、言い切る前に、ベスパ&タマモの部屋の外にある、マンション一階に住むが故にある庭に……真っ赤な人間のカタチをした、前衛的なオブジェに成り果てていた。


「まだまだだね」
 そんな光景に、タマモが再び気絶したのは言うまでもないが、そんなとんでもない事を呟く、余裕綽々の百合子の姿が印象的だった。


◆◆◆


「ベスパさん、あんなアホにヤキモチ焼いてもしょうないで」
「へっ?」
 マンションの庭に前衛的なオブジェが出来た事により、タマモが気を失い。そのタマモを寝室まで運んだベスパと、その前衛的なオブジェに、『非炉逝(ヒロイック)』と書いた立て札を立てた百合子。
 そんな一種の異空間にいた二人だったが、突如として、その空気は変わった。


「なんでタマモちゃんやねん! って言ったやろ?」
「あ……はい」
 ベスパは、頭に血が上り過ぎた所為か、自分の言った言葉をよく覚えていなかったが、それでも百合子から聞かされた言葉は、確かに自分が、何度か思った事のある言葉だったので、素直に頷いた。


「ヤキモチするちゅう事は仲のええ証拠や。もっとしいや」
 先程の光景を思い出しながら、愉悦と言った感じで微笑む百合子。母の愛は時にハードなのかも知れない。


「で、でも……あんまりヨコシマをあんな風にするのは…」
 ベスパとしても、横島を庭のオブジェにはしたくなかったのだが、頭に血が上っていた所為で、普段は鳴りを潜めている魔族の衝動が明るみに出てしまった。
 そんな自責の念と、またタマモに嫉妬してしまった自分の醜さで、自分で自分が嫌いになりそうだった。


「ええねんて、家族なんやろ? それぐらいのスキンシップは当たり前や」
 そんなベスパに笑って答える百合子、彼女の基準で話を進めると、この世から不倫と呼ばれる犯罪が消える事だろう……大樹・忠夫親子を除いてはだろうが。


「家族なら……ですか?」
「そや、ウチの家族やったら、アレぐらいの事で手加減しとったらアホらしいで」
「……解りました、これからは手加減を加減します!」
 そんな百合子の言葉に、何故か感銘を受けているベスパ。
 横島にとって、これはかなりのピンチなのだが、残念ながら、未だに前衛的なオブジェと化している横島には聞こえていない。


「うん、それでこそウチの娘やな」
「娘…ですか?」
「嫌なんか?」
「嫌と言うか……その……嬉しいんですが…」
 ベスパは家族と言う絆に弱い。
 弱いというか、琴線に触れる文句なのだろう。少し顔を赤らめながら百合子をモジモジと見詰めるベスパは、百合子が見惚れる程――速攻で抱き締めるぐらいに可愛かった。


「ベスパさんは忠夫の家族なんやろ? それやったらウチの家族でもある……嫌やったら、ちょっと寂しいけどな」
「あ、あの……凄く嬉しいです…」
「なんや他人行儀やな……親子やねんから、もっと砕けてもええねんで?」
「そ、それだったら……お母さんって呼んでも…いいですか?」
「なんでもええで……ちょっとくすぐったいけどな」
 ベスパを抱き締めながら、少しおかしげに笑う百合子に、ベスパもつられて笑みを浮かべていた。
 自分を―――魔族である自分を娘と呼んでくれた、母の強さとぬくもりに目を細めながらも嬉しげに。


「タマモにも……同じ様にして下さい……お母さん」
「勿論や、可愛い娘がいきなり二人も出来たんはビックリしたけど……二人共可愛いし、この何とも言えん嬉しさが、娘を持つ感慨なんかな〜」
 痛いぐらいに抱き締められているベスパだったが、今まで味わった事のない、母のぬくもりが嬉しかったので、されるがままで顔を綻ばせていた。
 横島に抱き締められるのも嬉しかったが、百合子に抱き締められる事も、それと同じぐらいに嬉しかった様子。
 この嬉しさを、今は寝室でうなされているであろうタマモにも、この喜びを知って欲しいと言う姉心も生まれていた。


 ついでに―――


「む?」
「どうしたのママ?」
「何かキャラをとられた様な…」
 娘の為ならなんでもする程、娘を愛してやまない美智恵が、何かを感じ取っていたのだが……これも甚だ余談だろう。


 あとがき(前回ぐらいから改行を変えてみました……大丈夫っスか?)


 何か書いてるウチに一話分のプロットからはみ出ました。本当はもうちょっと早く消化させるつもりだったのですが、上手く行かず……気付いた時には修正出来ませんでした。

 GMの横島君に対する仕打ちは、些か生ぬるいかも知れませんが、激しい仕打ちが想像出来ませんでしたので、アレぐらいでご容赦下さい。アレでも結構悩みましたので…。

 横島君の過去につきましては、この作品の捏造です。ついでに言えば、拙僧の昔話でございます。

 百合子の呟きに、某テニプリネタがありましたが、拙僧は帽子サウスポーより、ダンクでスマッシュする人の方が好きです……主に声が。


 サクっと副題の意味を

 ア メッツァ ボーチ――優しい声で


 次回…………未定っス


 レス返しではございますが、最後に報告とお詫びがございます。


 Tシロー様

 横島×ベスパ×タマモ? ……そんな甘ったるい地獄……書きたいっスね〜。でも書けるか否かは、ネタが浮かんでいないので保留です……が! あの番外の様に寝る前に思いつけば書くかも知れません、そんな微妙な意欲を見せている今日この頃です。
 おキヌちゃんが某日陰桜? 私は金髪スキーですが、某腹ペコ騎士王よりも、某猫被りうっかりニーソの方が好きです。声はコンシュマー化した方で……いえ、アニメ版を非難してる訳じゃないんです。Uさんが隣の高校に居たんです、地元贔屓なだけなんです。
 ……けほん、タマモ辺りにニーソは穿かせて見たり、ベスパ辺りにうっかりを継承させるつもりはありませんが、それでも読み続けて頂けますと嬉しい限りでございます。


 J様

 本当の兄妹の様な関係であった筈のタマモが、何故か横島に覆い被さられて、カマン! とでも言いたげな表情を浮かべさせてしまった今回の作品でしたが、幾ら敬愛すると言っても、敬愛から尊敬を抜けば愛しか残らない。等と、無茶な言葉を思いついてしまった私は、既に終っているのかも知れません……ぎゃふん。
 一応、暖かい作品作りに励んでいるつもりではございますが、今回の様に激しい愛の形を表現する可能性もゼロではありません。それでも読み続けて頂けますと嬉しい限りでございます。


 レネス様

 黒キヌちゃんは書き易いんです……本当に書き易いんです。私が二次創作を始めるきっかけは、NT様がきっかけではありますが、元々、二次創作を読み出したのはFateでございました。そして、その中で扱われていた某日陰桜が大好きでしたので、その流れを汲むにキャラ負けしないのがおキヌちゃんでしたので………はっ?! マンションの影に……!?
 ……暖かい百合子とベスパの抱擁に隠れて、ストーカーの様にマンションの影から、出る機会を伺っていた某黒い人の出番自体少ないかも知れませんが、それでも読み続けて頂けますと嬉しい限りでございます。


 通りすがりの六世様

 毎日の様に、幽体離脱をしてマンションの影から様子を伺っていたおキヌちゃんは……自分は百合子の強さを前に負けてしまったのに、百合子と仲良くしているベスパを見て黒くなったと思いま……いえ、黒くなってます。そんな裏設定は今後の横島ファミリーには影響を及ぼしません……多分。
 斯様に、無駄に裏設定を盛り込んでは使わない……そんなアフォな私の書く作品ではございますが、それでも読み続けて頂けますと嬉しい限りでございます。


 猫人間ののん様

 私の作品を、過分に褒めて頂き誠にありがとうございます。前回まではスランプではありませんでしたが、今回からスランプ状態で書いています。追記しちゃいますが、私は基本ノープランで書いています。
 薄幸の美少女+管理人さん=私の琴線に触れてしまいますので、この作品が横島×ベスパと言う本質を忘れない為にも、貧乏くじを引かせてしまいました。おキヌちゃんにつきましても、黒巫女を間違って使うと、横島君がDEADENDを迎えてしまいますので、誤使用の際は注意事項をよく読み、容量・用法を守って、正しくお使い下さい状態なので多用には気を付けて生きます(誤字ではありません)。
 薬を飲むときは、容量の二倍の数を飲まないと効果が薄いと思い続けていた、そんな薬事法を無視する様な私の書く作品ではございますが、それでも読み続けて頂けますと嬉しい限りでございます。


 最後に、前回のレス返しに、一般通念上、重大な過失がありました事を報告し、お詫び申し上げます。


 前回、第四章のレス返しにおいて、諫早長十郎様に敬称を付け忘れておりました。諫早長十郎様に、多大な不快感を与えてしまった事に対しまして、深く謝罪申し上げます。誠に申し訳ございませんでした。
 これからは、規定違反以前の問題ではございますが、一般的なルール違反を二度と繰り返さない様、尽力してまいります。
 そして、二週間もの間、気付かなかった事、更に、今まで修正出来なかった事につきましても、重ねてお詫び申し上げます。

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