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「想い託す可能性へ 〜 さんじゅうよん 〜後編(GS)」

月夜 (2008-05-30 11:18/2008-05-30 12:43)
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 想い託す可能性へ 〜さんじゅうよん〜(後編)


 所変わって、こちらは浅間大社。


 本殿の奥の間では、儀式中のおキヌちゃんが一心に地脈から霊力を吸い上げて胎内に送り、ルシオラ復活を頑張っていた。

 彼女の額やコメカミにはとめどなく汗が流れ、形の良いあごからポタポタと胸元へと落ち濡らしていく。

 また、身体からの汗も凄いようで、絹のような素材で出来た白く薄い上衣がピタリと肌に張り付いていた。

 魂の原始回帰を果たしてサクヤヒメと同じ神格を持ったおキヌちゃんは、桜の花びらのような繭から出てきた時、服装も寝巻きから巫女装束のような神衣に変わっている。

 その為、ブラとショーツなどの下着を一つも着けていない彼女は、身体の線をくっきりと浮かび上がらせていたのだ。

 その光景は、ユラリユラリと揺れるろうそくの明かりに照らされ、キラリと汗に光が反射し清楚な雰囲気の中に淫靡な妖しさを含んでいた。

 今の彼女には、外の様子を伺う余裕は全く無い。ひたすらに巨大な地脈から霊力を汲み上げ纏め上げるのみ。

 彼女の胎内にある真っ黒だった文珠は1/3がヒスイ色を取り戻し、裸の女性のフトモモが覗き見る事が出来る。

 突然、ピクッと女性の足指が動く。 しかし、それだけだった。他に動きらしいものは無い。

 ルシオラ復活の時は、刻一刻と近づいていた。


 一方拝殿では、メドーサが部屋の隅の寝床で、その長身を軽く折り曲げた状態で寝かされていた。しかし、彼女が目覚める気配は未だに無い。

 神域の中心に近い為に、魔力の回復が少ないせいだろう。

 その回復を促す為に、サクヤヒメは彼女が横たわる寝床の周りに結界を張って、結界の中の霊力を反転させるように施していた。

 けれど、ルシオラ復活に浅間大社に集まる地脈の霊力を本殿に集めている為、メドーサに向かう霊力は少ない。

 彼女の回復は、現状維持をほんの少し上回る程度にしか進んでいなかった。


 そこに、地下の斎場からサクヤヒメとヒャクメが女の子を連れて現れた。心眼を依代に移す儀式を終えたらしい。

 女の子はヨタヨタと足元が覚束ないらしく、サクヤヒメの緋袴に捕まって歩いていた。

 ただ、そんな状態なのに女の子には焦るというような表情が無く、躓いても軽く口元が引きつるだけなのが気になる所だ。

 その後ろには、女華姫が忠夫の右腕を自分の肩に通して支えながら続くが、彼女の表情は未だに真っ赤で頭からも湯気を出している。

 それでも、恥らいながら忠夫に肩を貸す女華姫は、心根が優しいと判る。

 女華姫に肩を貸してもらっている忠夫はというと―― 呆けていた。

 それはもう見事に、口からエクトプラズムを出すほどに。

 彼は拝殿に入ると女華姫の支えに礼を言うも、心ココにあらずといった風に部屋の隅に行って体操座りで蹲ってしまった。

 心配そうに忠夫を見やるも、女華姫は慰め方も分からない為に立ち尽くすのみ。

 (意に沿わぬ婚(くな)ぎに、動かぬ身体で最後まで抵抗しておったな。さすが、キヌが見初めただけはある)

 ちょっと忠夫の事を勘違いしているけれど。

 サクヤヒメとヒャクメは、忠夫の様子に少しやり過ぎたかとも考え、顔を見合わせる。けれど、儀式の性格上、大量の霊力は必要であり、時間も無い為に強行するしかなかったのだ。

 その事をダシにして悪ふざけが過ぎてしまった事は、否めないけれども。

 本来、良人に奉仕するのが喜びであるサクヤヒメにとっては、今回の儀式は申し訳なさが募る行為でもあった。

 けれど、数千年も良人を待っていたがゆえに、歯止めが利かなくなってしまったのも、また確か。

 良人の今世の名である横島忠夫の同意は得ていないゆえに、最後の一線はかろうじて堪(こら)えたけれど。

 (次ある時は、心通う婚(くな)ぎを……)

 そうサクヤヒメが心に決めた時、拝殿の中心に光が迸った。

 令子たちが戻ってきたのだろうと考え、サクヤヒメはヒャクメと一緒に彼女達が姿を現すのを待った。

 一方女の子はというと、うずくまる忠夫にヨタヨタと近寄って心配そうに彼を覗き込んでいた。


 身嗜みを整え、浅間大社に到着した令子にタマモとシロ。彼女たちは、着地をしくじること無く拝殿の床へと立った。

 しかし小竜姫は、彼女らの後ろにある大量の道具も一緒に転移で持ってきた為に、拝殿の床に手をつき、荒い息を吐いて喘いでいた。

 「ちょっと小竜姫、大丈夫?」

 「ちょ ちょっと 休めば……」

 小竜姫の様子に、心配になったヒャクメが彼女に駆け寄り声を掛けるも、その声に彼女は片手を上げて心配ないという風に言葉少なに返事するだけ。

 「そう? あんまり大丈夫に見えないんだけど……。
 取り合えず、あっちの寝床で休んでいる方が良いのね」

 ヒャクメの言葉に小竜姫は頷いて、部屋の隅に置いてある寝床へヨロヨロと向かった。

 「(ちょっと無理させたかしらね?) んで、ヒャクメ。あれ、どうしたのよ?」

 小竜姫の様子に、令子は冷や汗をかきながらも部屋の隅を指差した。

 そこには、忠夫がナニかをされたのか魂が抜けたように呆けていて、体育座りをしていた。

 「え えーっと……(い 言えない。儀式にかこつけて搾り取ったなんて)」

 忠夫の様子に、ヒャクメは答えることが出来ずに口籠る。バレた時の令子の反応が怖いがゆえに。

 「ねぇサクヤ? 忠夫に何をしたのよ?」

 「横島殿にとって、痛いことはしていないんですけどね。むしろ嬉しいはずなんですけど……うふふふ(同意を得なかった事は、心苦しかったのですけどね)」

 ヒャクメが答えないことに業を煮やした令子は、サクヤヒメに鋭い目で睨みながら訊くがはぐらかされた。けれど、その答えは妖しく笑う彼女によって明白だ。

 令子に対して偽悪的に振舞うのは、サクヤヒメが彼女を対等と認めるがゆえか?

 (搾り取ったってわけね。あの嫌な予感はこれだったか。
 こっちの世界の横島ならどうか知らないけど、私の宿六ならこうなるのは解るわね)

 コメカミに怒りマークを浮かべて、令子はサクヤヒメが何をやったかを悟る。

 忠夫が望まない性交渉を強要されたら、彼が目の前の状態になるという事を令子は改めて知った。

 枝世界が融合する前の義母の百合子と一緒に、忠夫の意識改革してきた成果が出て嬉しいとも思う。

 だから彼女は。

 「忠夫」

 「れ 令子。俺は……(睨んでるというのも違う気がするが? 俺の命、ここで終わるのか?)」

 令子の呼び掛けに正気に戻った忠夫は、反射的に立ち上がって冷や汗を流しながらも、彼女の表情から感情が読めないために言葉が出てこない。

 怯える忠夫に、令子は無表情に彼の両頬に手をそえて……パチギッ!

 「ぐぁっ あむっ んむむ」

 「んふぁ。 これで許したげるわ。けど、次は無いわよっ」

 忠夫の額に頭突きをかましたあと、すぐにキスをして舌を絡め、令子は彼から離れた。

 忠夫は、令子の睨みに額を押えながらコクコク頷く。今は下手に彼女に飛び掛ると、命に関わると本能が告げていたから。

 自分以外の女と肌を重ねるのは悔しい。

 けれど、それが仕方の無い事で忠夫自身が望んだものでないことも解り、令子は自分の中の気持ちに無理矢理折り合いを付けた。

 周りは令子が頭突き一発で終わらせ、しかもキスまでした事で驚いていたけれど。

 忠夫の近くに居た小さな女の子は、驚いた表情で令子を見上げながら腰を抜かしているし。

 (ふんっ。
 好き勝手言ってなさい)

 周りのざわめき(タマモとシロ、小竜姫とヒャクメ)に、令子は一抹の寂しさを篭めて一人語つ。

 霊感で解るのだ。自分だけを見てくれる忠夫がもうすぐ居なくなることを。

 だから彼女は、夫に対する気持ちを素直に表していた。愚にもつかない意地を張って一度仲間を失っているだけに、なおさらだった。

 「で? この子が心眼なの? サクヤ」

 「ええ、そうです。その子が心眼殿です」

 騒ぐ小竜姫達に一睨みをくれて、令子は忠夫のスラックスを掴んで立ち上がったまま離さない女の子を見ながらサクヤヒメに訊き、彼女は笑みを絶やさずに頷いた。

 心眼は、先ほどの驚きの表情が幻だったかのように、下から無表情に令子を見上げるだけ。愛想のかけらも無い。

 「ふーん? わたしはもう少し年が上と思っていたんだけど、その姿があんたのデフォなの? 心眼」

 GS試験の時に感じた口調からの印象と目の前の姿が一致せず、令子は眉根を寄せる。

 「今のところ人型を取って楽なのは、この姿の時だからな」

 「今はってことは、成長するってこと?」

 「うむ。ただ、一時間くらいなら肉体的に成長しきったこの姿にも成れるぞ」

 そう言って、心眼は瞳を閉じて念じる。

 すると、彼女の身体は一瞬の閃光の後に大人の姿になっていた。

 (裸!? ってことはっ!)

 その閃光の中に、令子は心眼が裸になったのを細めた目で見た。そこから忠夫が飛びつく事を連想して、袖の中に隠していた神通棍を瞬時に右手に出す。

 光が消えると、そこには見目麗しい女性が立っていた。

 薄緑色の髪をポニーテールに纏め、Eカップはあろうかという双乳を巫女装束の合わせ目から覗かせて。

 年のころは20歳前半だろうか。

 こんな美女がいきなり隣に出現したのだ。忠夫の中の、半覚醒した横島の意識が黙ってはいなかった。

 「うおぉぉ、モロ好みの巫女さーあ゛ぅ゛」 ヅドッ×2 ドキャッ

 真横にいきなり現れた美女に忠夫が抱きつこうとしたところで、当の心眼から顔面にパンチを貰い、令子の神通棍で壁に赤い花を咲かせる。

 「あんまり拝殿の壁を汚さないで下さいね」

 困った顔をしながらも、サクヤヒメは苦笑だけに留める。そろそろ忠夫の奇行にも慣れてきたらしい。

 「主にも困ったものだな。
 それはそうとして、我が取る事の出来る姿はあと二つある」

 壁に張り付く忠夫に、ため息一つだけ吐く心眼。

 今のツープラトン攻撃で忠夫がどうかなるなど、心配もしていないらしい。淡々と話を先に進める。

 「じゃ、それも見せてちょうだい」

 「承知した」

 令子の方も忠夫には一瞥だけをして心眼を促し、彼女は頷いて再び瞳を閉じて念じる。

 すると、今度は淡い薄緑色の光に身体が包まれて、一瞬のうちに一振りの刀に姿を変じて空中に浮いていた。

 どうやら人型の時の閃光は、目晦ましも兼ねているようだ。一瞬の事とはいえ、裸になってしまうからだろう。

 「あら? その姿って、妙神山で忠夫が霊波刀を実体化させた時のじゃないの」

 令子の言う通り、武器化した心眼の姿は尖端から刀身の三分の一が両刃で、そこから鍔元までが片刃になった日本刀だった。しかもその刀身は、薄緑色に透き通っている。

 「うむ。我がこの世で、再び意識を覚醒した時の姿がこれだったのでな。 この姿が一番しっくりくるのだ。
 神剣としての機能は変わらぬがな」

 「なるほど。それじゃ、後一つは?」

 「これだ」

 令子の促しに、心眼は四たび姿を変えた。

 それは朱色のバンダナだった。やはりこの姿は、彼女にとって外せないものなのだろう。

 「これまた懐かしい姿になったわね。でも、それだと防御は低いんじゃないの?」

 「いや、あのGS試験の時とは素材からして違うから、その心配は無い。
 確かに、このバンダナと呼ばれる姿の時は柔らかい印象を与えるだろうが、元の素材は神剣とサクヤヒメ様の神衣だからな。銃弾でも防ぐ事が出来るぞ」

 「なんですって!? それ、本当なの? サクヤ!」

 心眼の言葉に、信じられないという面持ちで令子はサクヤヒメに訊いた。

 「ええ、その通りです。人型を取れるようにする為には必要でしたから」

 心眼を依代に移すその過程で全裸になり、忠夫に迫った事などはおくびにも出さずに答えるサクヤヒメ。

 けれどヒャクメは、小竜姫の傍でハラハラとしながら成り行きを見守っていた。

 (私も便乗した事がバレたら命無いかもぉー!)

 ヒャクメが小竜姫の傍にいるのは、彼女の消耗が激しいのを心配しての事もあるが、少しでも令子から離れておきたかったのもあった。

 忠夫に対しての想いは本物だけど、やった方法が方法だけに令子の怒りが怖いらしい。

 「そうなの? まぁいいわ。
 ところで心眼。アンタの事でちょっと訊きたい事があるんだけど?」

 「なんだ?」

 ヒャクメの様子に気付く事もなく令子はサクヤヒメの言葉に頷くと、空中に浮くバンダナの姿をした心眼に話しかけた。

 心眼は、バンダナに出した一つ目の瞳をわずかに細めて、何を訊かれるのかと構える。

 「アンタが復活した経緯を教えて。
 わたしが事務所へ戻る前の小竜姫の言葉が引っ掛ってるのよ。
 天竜の竜気を珠にしたっていうのがね」

 「えぁ! それはっ!」

 令子の言葉に小竜姫はうろたえて、寝床から身体を起こして心眼に向かって話すなと睨む。

 彼女が睨むだけしかしないのは、竜気がかなり減っていてへばっているからだ。

 「あんな風に小竜姫は話すつもりは無いでしょうから、アンタに訊いてるの。
 アンタの正体。
 もしかして――龍珠じゃないの?」

 「ふむ…(さてどう答えたものか。人型に成れば表情が読まれるゆえ、今の姿は好都合であるが……答えぬわけにもいくまいな)」

 人型の時の自分の無表情振りが解っていないらしい心眼は、無用の心配をしつつ令子の質問に答えることにした。

 「確かに我は、美神の予想通り天龍皇太子の龍珠だ。二つの枝世界とも、あのGS試験で心格を宿した依代を失い、主の中でその残滓が眠っておったに過ぎぬがな」

 「そっか(これでずっと疑問に思ってた事が、説明できたわね)。
 ルシオラを失ったこっちの横島クンが、その直前に受けたべスパの妖毒で即死しなかったのはあんたのおかげね?」

 あの大戦の後、情報を整理していた美神令子は不思議に思った事があった。

 それは、こちらの枝世界でアシュタロスにパワーアップされたベスパの一撃を受けて、横島が即死していなかった事である。

 最初は防御霊力が高くなっていたからと思っていたが、ベスパの供述とかから考えるとルシオラが霊基構造を彼に移す前に、ベスパの妖毒で死んでいるはずという結論にどうしても達してしまうのだ。

 いくら宇宙意思の後押しがあって横島の延命が成されているとしても、それを成す要因がなければ達成はされない。

 それがずっと引っ掛っていた美神は、心眼こそがその要因だと閃いた。

 けれどこの説は確証も無く、無意味に横島を更に悲しませるだけだったので、美神は彼女の心の中にそっとしまう事にしていたようだ。

 その答えが得られる機会が思いも掛けずに来て、融合して記憶を引き継いでいた令子は、意識せずに心眼に確かめていた。

 「そうだ。それでも蛍魔の助力が無ければ主は死んでいたのも確かだ。
 我はそのまま主に吸収されるはずだったのだが、もう一人の主と融合した際にそちらに引っ付いていた我と融合し、かろうじて心格と呼べる意識を復活させる事が出来た。
 しかし、主の霊力が現時点の極限近くまで高まらなければ、我は己を自覚できなかったのだ」

 「ああ、だからか。
 老師との模擬戦の前に、どっかで感じたような気配があったのは」

 いつの間に令子の隣に戻っていたのか、心眼の言葉に忠夫がポンッと手を叩いて納得した。

 「うむ。あの時は言葉を念に乗せる事も出来なかったが、成長したおヌシをこの目で見る事が出来て嬉しかったぞ」

 バンダナの瞳を細めて、嬉しそうに心眼は答える。

 「んじゃ、パピリオやヒャクメの念話の時や二度目のエクスプロージョン・ダーツの照準付けの時もお前のおかげなんか?(バンダナじゃ味気無いなー。人型になれば良いのに)」

 戦闘の最中に起こった数々の不思議な事を思い浮かべ、忠夫は空中に浮くバンダナに訊く。一部、こっちの枝世界の横島の思考が混ざったようだが。

 「そうだ。
 あの時は、サクヤヒメ様の神気がニニギノミコト様の計らいによって、おヌシの中に取り込まれていたからな。
 おかげで、我がこの枝世界に定着するのが助けられた。
 また、最初の敵神族への攻撃時に小竜姫様がおヌシに竜気を注いだことによって、夢うつつながら意識が覚醒されたのだ。
 それまでは、おヌシの霊力が最大にならないと意識が覚醒しなかったからな。
 しかしこの時点では、まだ完全な復活ではなかった」

 「それはそうでしょうね。
 そういう復活の仕方ならば、名前を呼ばれない限りこの枝世界に完全に定着はしないわ。
 個を認識させるには、その枝世界に属する意識体によって固有名詞で認識されないといけないからね」

 「その通りだ美神」

 「あれ? でも心眼の名前を呼ぶ前に、お前はあんとき俺に話しかけてきたよな?」

 令子と心眼の説明に、タマモを救う直前の状況を思い出しながら、忠夫は彼女に確かめる。

 「それは、おヌシが敵の攻撃を回避できない危機的状況で、声に出さずに心の底から我に呼び掛けたからな。
 あれのおかげで、おヌシに対して念話による呼び掛けが出来るようになった。
 その後は実際に声に出して我を呼んでくれたからな。それでこの枝世界に完全に定着できたのだ」

 「そっか」 「なるほどね」

 忠夫と令子は、心眼の言葉にそれぞれ納得できたようだ。

 復活の経緯を話し終えた心眼は、バンダナの姿から女の子の姿に変わると、トコトコと忠夫に歩み寄って彼のスラックスを掴む。

 「どうした、心眼?」

 「まだ、この身で動く事に慣れていないのだ。許せ」

 思い通りに動かない身体で恥ずかしいのだろう。心眼は赤い顔でそっぽを向いて、忠夫の問いに答える。

 それにしてはさっき、大人の姿で忠夫の顔面に見事に腰の入ったパンチをお見舞いしていたけれど。それに、先ほどまでの無表情っぷりが嘘のようだ。

 これも忠夫のギャグ補正の恩恵か?

 「それは構わんけどな。
 と、腹減ったな。とりあえず飯にしないか?」

 腹をなで摩りながら、忠夫は全員を見渡して提案した。散々サクヤヒメとヒャクメに搾り取られていたから、忠夫は当然のごとく腹が減っていた。

 特にたんぱく質と亜鉛の補充を、彼の身体が求めているのだ。

 霊力は逆に満タンになっていたけれど。

 「そうですね。お神酒も用意しております。今宵は存分に、疲れを癒して下さい」

 忠夫の提案に、サクヤヒメは朝に令子たちを案内した飯場へと全員を誘う。

 忠夫は心眼と手を繋いで彼女の歩みを助けながら、サクヤヒメに続いた。

 その二人の様子を羨ましそうに見ながらシロが続き、タマモはそんなシロを無表情に見ながら続く。

 今のシロは下手にからかえない。そのせいで、タマモのフラストレーションは溜まる一方だった。

 小竜姫は、令子に天龍皇太子の龍珠のことが知られてしまった事で、彼女がどういう反応をするかが読めずに不安になりながら続き、ヒャクメはニコニコと表情を笑みに緩めて続く。

 (横島さんの文珠の新しい生成の仕方も判ったし。
 サクヤヒメ様のおかげで、心眼を依代へ移す儀式の追求もされなかったし。
 嬉しいのねー)

 (ヒャクメの様子がおかしいわね? まぁいいわ。この霊薬で吐かせるだけよ)

 持ってきた道具の中から出した大徳利を肩に担いで、令子は最後尾から全員の後に続いて拝殿を出て行った。


 ご機嫌なヒャクメをよそに、波乱含みの宴が幕を開けようとしていた。


   ―― おまけ ――


 「み 右の……」

 「な なんだ左の」

 「なぜに我らは、ワルキューレ殿のシゴキを受けているのであろうな?」

 「分からぬ。
 斉天大聖様に最後まで抵抗していたあの輩に、師事する事を許して頂こうとしただけなのにな」

 鬼門の二人は、あの見渡す限り地平線が見える空間で、ワルキューレのシゴキを受けて地面に転り涙を流していた。

 「どうしたーっ! さっさと立たんかっ!
 泣けるだけの余力が残っているなら、向かってこんかーっ!」

 ワルキューレは、ボソボソと喋りながら泣く鬼門達の脇腹を蹴り上げる!

 「げふぅ」 「ごふぅ」

 ゴロゴロと転がって、脇腹の痛みを紛らわそうとする鬼門たち。

 その様子を、ワルキューレは腕を組んでイライラとしながら眺める。

 (くそうっ。上層部の命令が下りてこん! こうしている間にも、横島が襲われているというのに!!)

 パピリオが横島についていった事で、横島忠夫に付ける魔族側の護衛に変更が掛かるかもしれず、ワルキューレは苛立っていた。

 それが職務に忠実な為なのか、乙女心によるものなのかは解らない。けれど、とばっちりを受けている鬼門たちには合掌するしかない。

 (パピリオは、ヨコシマの役に立ってるかねぇ? 早く会いたいね)

 苛立ちを紛らわす為に暴れる上司を見ながら、べスパはストーンヘンジの柱に身を預けていた。

 こちらはこちらで頭の触角をピコピコ揺らしながら重たげな双乳を腕を組んで支え、妹がちゃんと横島の役に立っているかだけを案じていて、止める気は無いらしい。

 鬼門たちのサンドバック状態は、まだまだ続くようだ。

 「ちょっ、待てぇ!」

 「わしらこのままじゃ、死んでしまう!」

 「無駄口叩けるなら、向かってこんかぁ!」

 ワルキューレの霊波砲が数発放たれて地面をえぐり、鬼門たちを空高く吹っ飛ばした!

 「ぎょえー!」 「うきょーっ!」

 ま、死にはしないだろう。

 老師はその時、妙神山に湧く霊泉に浸かりながら、最後まで抵抗していたあの神族と一献やっていたそうな。


   続く


 おはようございます、月夜です。想い託す可能性へ 〜 さんじゅうよん 〜(後編)をお届けします。
 前・後編にする必要ないんじゃ? と、いうのはご勘弁のほどを(^^ゞ 心眼の4変化を強調したかった為に、別けたような物ですから^^
 けれど、私は展開が予測され易いんでしょうねー。心眼が一時的に大人の姿になれる事も見透かされていました><
 見透かされても、よっぽどではない限り替える事はありませんけど^^
 それはさておき、さぁ〜て次回は女達の本音バトルっ。どうなりますやら。

 では、レス返しです。

 〜読石さま〜
 いつもレスの書き込み、有難うございます。
>一番気になったのは……
 私の作品では、魔族正規軍の情報部しか持っていない装備とほぼ同じ機能を、文珠とタマモの仙術で作りました。ただ、こちらも量産は出来ません。タマモがドーピングを行い、霊体痛を覚悟して仙術を行使しなければなりませんので(^^ゞ
>詰め込んだまま期間が過ぎたら……
 入れる物が、高価な物が多い除霊道具ばかりなので、一気に飛び出すだけです。それはもう、辺り一面って感じで(笑)
>小竜姫さまのたゆたゆ(!?)……
 なんだかとっても可愛そうな表現ばかりなので、私の物語では「脱いだら凄いの」に、なって貰いました。以前、私の物語内にてひんぬーで彼女のお見合いが潰れたというエピソードがありましたが、彼女の場合、疑惑を晴らす為に脱いだりしませんし(笑)
 あと、シロの入浴シーンは本当は無かったんです。理由は色気が無いから(笑) でも、色気が無いならないで書き様はあると思いなおして、書いたら結構面白い文章になりました(^^ゞ
>カオスは本と凄い物簡単に創ってますね
 彼はあれです。中世時代でもカオスフライヤーを着陸させようとして、自爆させていますからね(笑) そういう小ボケと、彼にとって取るに足らないと思われた発明への思い込みが、お金に結びつかなかったのだと思います。
 まぁ、彼の発明をお金に変える才気があるパトロンが、居なかったのもあるでしょうけど(笑)
 今回のお話も、楽しんで頂けたら幸いです。


 〜ソウシさま〜
 いつもレスの書き込み、有難うございます。
>シロの大切なものっていったい?
 大半が横島から貰った物ですね。他にも散歩中に拾った物とか、横島とのゴニョゴニョとか。ドッグフードは、その最たる物ですね。後は父親と母親の位牌もかな。
>タマモがDに近いCとは
 高校生くらいの身長になってますので、やっぱりいたる所育っているようです。
 今回のお話も、楽しんで頂けたら幸いです。


 〜あらすじキミヒコさま〜
 いつもレスの書き込み、有難うございます。
>シロの入浴方法の説明に……
 こう棚から牡丹餅的な部分で褒められると面映いです(^^ゞ シロの入浴シーンはあまりにも色気が無かったので、最初は一行だったんです。割愛するって感じで。
 ただ、色気が無いなら無いで書こうと思い至ったら、ああいう文章になってうれしい誤算でした♪
>不法侵入者たちの描写……
 表現のさじ加減が難しいですね>< むー、どこで表現をぼかせば良かったのやら。火傷による毛根消滅を消せば良かったかも? 赤玉コロリは外せませんけど(笑)
>もう少し物語としての起伏が欲しかった
 まぁ、令子さんの入浴シーンを省いた時点で言われるかなーとは思っていました。ちゃっちゃか先に進めようという私の焦りですね。
 今回のお話である後編が、納得されるものであれば幸いです。


 〜星の影さま〜
 いつもレスの書き込み、有難うございます。
>今回はニューヨークとか心理描写とか
 お忙しい中の書き込みありがとうございます。何か思うことや気になる事がありましたら、お時間ある中でよろしければ修正という形ででも感想を頂けたらとも思います。
>何よりも…タマモの胸(ry)
 もうちょっと詳しく描写しておけば良かったかな? とも思っていましたが、気に入って頂いたようで何よりです(笑) ナニを挟めるまでには育ってます(爆
 今回のお話も、楽しめる物であれば幸いです。


 〜いしゅたるさま〜
 NT看板の作者様に感想を頂けるとは嬉しい限りです。感想有難うございます。
>私の作品にレスしていただいてるので……
 レス不精で申し訳ありません。毎回の更新を楽しみにして、読ませて頂いてます。週間での更新は大変とは思いますが、お身体にはお気をつけ下さい。
>「もったいない」の一言に尽きます
 そう言って頂けるだけでも嬉しいです。書き始めた頃は何が悪いかも解っていませんでした。登場人物の掛け合いで状況を説明できれば一番良かったと、今では思います。天孫降臨や三柱の御子神の事も充分な説明になってませんでしたし。
>一時期更新に間が空いた時に……
 私自身が原稿データ忘れて出張してしまい、書く事が出来なかった時期ですね(^^ゞ 言い訳にしかならないので、当時はぼかしていましたけど>< あれで、一ヶ月以上空ける事がダメなんだという事が解りました。
>サクヤなどが唱える祝詞なんかは
 祝詞については結構四苦八苦してます(^^ゞ 大祓えの祝詞なんて覚えきれません>< 苦労している所で褒めて頂けると嬉しいです。
>40時間も経過してない……
 たった2日の出来事を3年も書いてる私。ダメダメですね>< けれど二つの枝世界が融合した経緯や、女性陣の心情を描写しているとこれくらいにはなってしまいました。それについては誇りたいです。まだ幾人かの登場人物が、記号となっている感も否めませんけど。
 ルシオラ復活の部分は、ご期待に副えるよう頑張ります^^
>ぶっちゃけ、それだけの話でしたね
 小竜姫様とタマモの入浴シーンが書きたいが為のお話です! と、胸を張って言えます(^_-)-☆ たゆたゆの小竜姫様が居ても良いと思うのですよ♪
>映像付きじゃないことを残念
 本当にそう思います(>_<) 絵心が無いのが悔しいです(/_;) 
>市販していいのそれ!?
 隠行符一枚の値段が5百万。しかも霊能力がないと発動できませんから、一般の方々には無理ではないかと(^^ゞ あ、でも。もぐりのGSでは可能なのか。そこまでは考えていませんでした。どうするかな……。良い案が浮かばない>< 良い案が浮かべば修正します(^^ゞ
 今回のお話も、楽しんで頂けたら幸いです。

 次回は女だらけの宴会です。令子さんが持ち込んだ霊薬もあって、波乱必至。お届けできるのは6月の中旬以降になります。
 では、次回投稿まで失礼致します。

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