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「想い託す可能性へ 〜 さんじゅうよん 〜前編(GS)」

月夜 (2008-05-25 19:58)
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 想い託す可能性へ 〜 さんじゅうよん 〜 (前編)


 タマモとシロが、おキヌちゃんや横島と一緒に事務所兼住居としているマンションの一室。

 「はぁ……」 「ふぅ……」

 忌御霊に襲撃された時に荒らされたままのリビングを見て、二人はため息を吐いていた。

 「掃除している暇がござらぬなー」

 「そうね。おキヌちゃんが戻るまでは、このままにしておくしかないわ。
 それよりも、文珠の回収忘れが無いようにしないとね。
 多分この後、これ以上に荒らされると思うし」

 「そうでござるな。
 いくら先生の文珠で中を広げたリュックとて、私物全部は入らぬでござるし」

 頭に思い浮かぶ、自分にとっての大切な宝物を全部持っていけないことに、シロは落ち込む。

 彼女が思い浮かべる物の中には、知らない人が見ればガラクタと判断される物もある。

 それだけに、部屋が荒らされた時に乱雑に扱われて、壊されたり捨てられたりするかもしれない。


 ちなみに、文珠によって収納空間が見た目より大幅に拡張されているリュックの容積は、横島が原作中に担いでいたリュックの5倍ほどに設定されている。

 それだけの容積があるリュックに、入りきれないほどにあるシロの私物とはなんなのか知りたいものだ。

 また、このリュックはタマモが思い出した仙術によって、持ち主が日常で垂れ流す霊気を使い維持される仕組みとなっていた。

 ただ、リュックに付与された拡張空間は持ち主が居ない状態だと、拡張した容積を維持できる期間が一ヶ月しか保たないのが、現時点で判明している明確な欠点である。

 閑話休題。


 シロの答えに、ねぐらに戻る前に眠らせておいた人間の襲撃者を思い浮かべたタマモは、苦々しげに表情を歪める。

 彼女は、敵の家捜しが予想出来ているのに、現状では完全に防げないことで苛立っているのだ。

 「ふん……。人のねぐらに土足で踏み込む危険を、嫌というほど味わわせてあげるわよ。
 その為のトラップは、常に置いているんだしね」

 「やるせないでござるよなー」

 「嘆いていても仕方ないわ。ちゃっちゃと済ませるわよ」

 そう言ってタマモは、最初におキヌちゃんの部屋に向かった。

 シロはおキヌちゃんにも懐いているが、あまり彼女の部屋に入ろうとはしない。大概が横島の部屋か自室に居ることが多い。

 それに対してタマモは、おキヌちゃんの部屋に普段から入り浸る事が多かった。

 そういう訳で、おキヌちゃんが大切にしている物を何処にしまっているかなど、タマモは把握しているのだ。

 しばらくして。

 事務所兼住居にある全ての文珠を回収し、おキヌちゃんの大事な物や着替えに加え、カスタムされたネクロマンサーの笛(なんと息を吸った時も音が出るよう、カオスが改造)を入れたリュックと自分のリュックを両手に持つタマモ。

 除霊用の武器や、そのほかに数日分の着替えを詰めたリュックと自分のリュック二つを担ぎ、竹刀袋に入れられた刀と思われる物を持つシロ。

 着替えも済ませた二人は、玄関を出て部屋を振り返る。

 彼女達の胸中には、ねぐらに対する少しの未練と理不尽な人間の思惑により壊される日常を思って、憤りがこみ上げていた。

 でも、その怒りを素直に出す事が出来ない。それをしたら、横島やおキヌちゃんに迷惑が掛かってしまう。

 「理不尽よね」 「理不尽でござるな」

 「でも、忠夫(先生)の居ない世界は嫌(でござる)」

 二人にとっての必要な世界。

 それは、極論すれば心身ともに許した横島忠夫が傍に一緒に居ること。家族を優しく包み込んでくれるおキヌちゃんが居ること。

 でも現在は、その彼がこの世界から失われている。取り戻すには、彼が愛した女が復活しないといけないらしい。

 「ルシオラ殿か……複雑でござるな」

 「会ってから考えるわ。今はあの横島の中に居る、私達の忠夫を甦らせないとね」

 「そうでござるな」

 二人は顔を見合わせて同時に頷くと、ねぐらを後にした。

 彼女達はもう振り返らない。自分達の男を取り戻して前に進む為に。


 タマモとシロが、ねぐらを後にしてから40分後。

 無粋にも家捜しを行う為に横島の事務所に突入した不法侵入者たちは、その報いを己の身体で支払わされていた。

 その不届き者達は、事前に令子によって予告されていた美智恵の捕縛手配により、全員が捕らえられる事となる。

 ただ逮捕された者達は、タマモ達が仕掛けていた数々の罠によって、その後の平穏な生活が望めないようにされていたらしい。

 どんな事をされていたのか? 例を挙げると。

 ある者は股間が練りワサビまみれにされてモヒカン。
 ご丁寧にも、毛が無い所は青剃りまでされて軽い火傷により、毛根は死滅。

 またある者は逆さまに吊り下げられ、毛髪は焼けてアフロ。
 幻術にでも掛かったのか恐怖の表情を浮かべ、そいつ自身の出した白いモノに塗れていて、近くには霊波を放つ赤玉がコロリ。打ち止めにされたのだろう。

 と、いうありさまが他にも20人ほど。それぞれやはり悲惨な状態で、のちに解った事だが全員不能にされていたそうだ。

 突入した西条達オカルトGメンの職員は、その光景に思わず頭と股間を押えたという。

 「男として、ああはなりたくないなぁ……」

 その光景を見て顔を青褪めさせた西条はぽつりと感想を漏らし、その場に居た男たち全員が頷いたそうな。


 さて、タマモ達がねぐらから着替えなどを取りに戻っている間、令子と小竜姫は事務所の地下にある武器庫から道具を選び出していた。

 令子が道具を選び出し、小竜姫が執務室へ運び出す運搬係りである。

 「あのー、美神さん? こんなに大量に道具が必要なんですか?」

 小竜姫がそう尋ねるのも無理はない。

 執務室と武器庫を何度か往復したとはいえ、彼女が今まで運び出したのは以下の物だからだ。

 グレネードランチャー2基に対神族・魔族用の榴弾30発(近接信管により粉末状の精霊石が散布され、起爆用精霊石で連鎖爆発。霊磁場攪拌が高められている)。
 パンツァーファウスト3 10本(弾体部は、射出後に翼を広げロケット噴進をする自動追尾式。弾頭は5cm大の精霊石を使用)。
 手榴弾30個(内訳は通常弾5個。音響弾10個。閃光弾15個)。
 破魔札200枚(一千万円のお札10枚。五百万円のお札20枚。百万円のお札100枚。全て結界用に転用可)。
 吸引型封印札30枚(一枚二百万円)。
 結界構築用お札20枚(一枚一千万円。構築次第で、小竜姫クラスの神族・魔族を30分くらい足止めできる)。
 霊体ボーガン2丁(破魔矢20本。ほか、現地調達予定)。
 簡易結界用ロープ10本(現地で強化予定)。
 呪縛ロープ20本(現地で強化予定)。
 美神令子用にカスタムされた神通棍3本。

 これだけでも普段の除霊ならオーバーキルの装備だが、神族や魔族を相手取るには心許無いのも確かである。

 ただ、これら全てを浅間大社に運ばされるのかと思うと、小竜姫はゲンナリとするのだ。

 「神族や魔族相手には目晦ましにしかならないけどね。備えあればという奴よ(変ねー、どこにやったけ?)」

 「はぁ……」

 ごそごそと武器庫の奥で何かを探しているらしい令子の声に、小竜姫は諦めたような気の無い声で答えた。

 そんなやり取りをしながらも、令子はいくつかの鍵のかかる戸棚を開け閉めする。

 「あー、やっとあった」

 ようやく目当ての物を見つけたのか、そう言って武器庫の奥から令子は出てきた。

 その手にもっているのは、見た目何の変哲も無い一升の酒が入る黒い大徳利だ。

 けれど診る者が診れば、徳利の表面にびっしりとこまかい呪文が書き込まれて、中身を封印しているのが解るだろう。

 「それって、なんですか?」

 「んー。まぁすぐに判るわよ(本音を引出す霊薬だけどねー)」

 妙に強力な霊的封印が施された大徳利に、疑問を持つ小竜姫。

 その質問をはぐらかして、令子は武器庫を出ると扉を閉めて鍵を掛けた。

 こんな物をなぜ令子が持っているのか聞いてみたいが、怖い答えが返ってきそうだ。

 「そんなことより、そろそろタマモ達が戻ってくる頃よ。
 私は隣のママの所に行くけど、小竜姫はどうする? やる事無ければ、先にお風呂に入っておけば?」

 「そうですねぇ。では、お言葉に甘えて先に頂きます」

 大徳利の首に巻きついた紐を肩に通して担ぎ、階段を上りながら令子は小竜姫に湯浴みを奨める。

 小竜姫はちょっと考えると、その奨めに従うことにしたようだ。やる事が無いのは確かだし。

 「ん、分かった。お風呂の場所は分かる?」

 「ええ、以前にも使わせて頂きましたし」

 「それじゃ、留守番頼むわね。
 人工幽霊一号。ちょっと隣に出掛けてくるわ。タマモ達に訊かれたら、そう伝えておいて」

 『承りました、オーナー。
 小竜姫様。お湯は沸いておりますので、いつでもどうぞ』

 「ありがとうございます」

 小竜姫は、人工幽霊一号の心配りに微笑んでお礼を言った。

 「あ、小竜姫。着替えはどうするの?」

 「そういえば……こちらに持ってきていませんし、どうしましょう?」

 執務室の扉の前で振り向いた令子の問い掛けに、小竜姫は困ったように答える。

 「んー。ブラは仕方ないとしても、ショーツは私のが穿けないこともないでしょ。
 いいわ、ついてきて。確かシルクの新品があったはず」

 「うう〜、背に腹は代えられません」

 令子の言葉に涙目になりながら、小竜姫は彼女の後に付いていった。その背中には哀愁が漂っていて物悲しい。


 令子が隣のビルのオカルトGメンにいる美智恵に、昨夜から続く浅間大社での事件の顛末を報告している間、小竜姫は湯浴みを済ませていた。

 『小竜姫様。タマモさん逹がお戻りになりました』

 「そうですか。
 では、私も美神さんの所に行きますので、タマモさんとシロさんに湯浴みを奨めてあげて下さい」

 『承りました』

 人工幽霊一号の承諾に、もんぺのような着物を着ながら小竜姫は頷く。

 (うぅ〜。予備のサラシを持ってきておけば……)

 さすがに脱いだサラシをまた着ける気にはなれず、しかたなくバスタオルを巻いて代用とした。

 ただ、代用のバスタオルはサラシのように長くはない為に、何回も巻くことにより締め付けて胸を固定することができず、小竜姫は心許なく落ち着かない。

 反面、本来のボリュームを取り戻した彼女の双乳は、普段よりも着物を押し上げていたけれど。

 神剣を吊る紅白の組み紐を腰と左肩に通し、最後に神剣を左腰に佩いて小竜姫は着替えを終えた。

 「(胸が固定されないから動き難いですねぇ) 人工幽霊一号さん。タマモさん達は執務室ですか?」

 『はい。そちらにお通ししています。
 ただ、シロさんは荷物を置いてすぐに散歩に出掛けられました。
 お引止めしたのですけど、タマモさんにも押し切られまして』

 浴室を出ながらたゆたゆと動く胸を気にする小竜姫の質問に、人工幽霊一号は困惑した調子で答えてきた。

 (何かあったのでしょうか?)

 小竜姫も困惑した表情で執務室に向かいながら、シロの行動の意味が読めずに考え込む。

 小竜姫が湯浴みを行う前と違い、執務室のドアは開けられたままになっていた。

 「あれ? 着替えにもう少し時間が掛かるかもと思ってたのに。
 それじゃ、私もお風呂入ろうっと」

 小竜姫が部屋に入ってきたのに気付くと、タマモが手に提げたリュックを軽く掲げて言う。

 (あら? わざと明るく振舞っているような?)

 タマモの様子が変な事やシロのことが気になり、心配した小竜姫は横を通る彼女に尋ねた。

 「タマモさん。シロさんや貴女に何かあったんですか?」

 「ん……。人間達の愚かしさに腹が立つだけよ」

 タマモは不愉快な気分を隠しもせずに小竜姫の質問に答えるが、全部を言う気はないようだ。

 そのままヒラヒラと手を振って、部屋を出て行った。

 「(心配ではありますけど、今はそっとしておくしかないようですね) 人工幽霊一号さん。後を頼みますね」

 『はい。いってらっしゃいませ』

 後ろ髪を引かれる思いだけど事務所内でやる事も無いので、小竜姫は留守番とタマモ達の事を頼むと、事務所を出て隣のオカルトGメンに向かった。

 「(本当は、一度妙神山に戻って着替えを取ってきたいんですけどねー) すみません。妙神山の小竜姫ですが、美智恵さんに取り次いで頂けますか?」

 その事も令子と話す為に、小竜姫は隣のビルに入って受付の女性に取次ぎを頼んでいた。


 (小竜姫に下界の事を言っても、今は仕方ないしなー)

 衣服を脱ぎながら、タマモは先ほどの小竜姫とのやり取りを思い浮かべる。

 妙神山からほとんど出ない竜女神の世間知らずを責める気はない。かつて、転生したての自分もそうだったのだから。

 共通認識が無い状態で、つっ込んだ話し合いをするのは時間の無駄と知るタマモ。

 けれど。

 (小竜姫には後で謝っとこ)

 小竜姫に非は無いのに、苛立ちを抑えきれずに素っ気無い態度を取ってしまった自分を恥じる。

 タマモは下着まで全部脱いでカゴに入れると、籐のタンスから清潔なバスタオルを取り出して洗濯ロープに掛けた。

 (まずは厄払いよっ)

 カラカラと戸を開けて浴室に入りながら、気合を入れる。

 今まで起こった出来事を頭の中で整理して、何が起きても対応できるよう心構えるために。

 スリガラスの戸が閉められてすぐ、シャワーの音が浴室から響きだした。

 人工幽霊一号が管理する古い洋館である美神令子の事務所は、日本人貴族の館の常で浴室の中はかなり広い。

 令子が引っ越してきた最初の頃は、除霊に赴く前に彼女が禊(みそぎ)をする為と彼女自身の霊力を高めるように、結界札を浴室内の四方と天井に張って一種の霊場を構築していた。

 その後、おキヌちゃんが生き返った頃から彼女も浴室の霊場を令子は使える様にし、タマモやシロが居候し始めた頃には所員全員(驚いた事に横島も)が使えるようにした経緯があった。

 おキヌちゃん達がこの事務所を出て行く前は、彼女達もこの浴室で朝は霊力を高める為に。

 夜は生物的にも女性は陰の気が溜まり易いので、一日の厄払いも兼ねて入浴をしていたものだ。

 その広い浴室に、今入っているのはタマモだけ。

 シロはというと、胸の中に溜まった不愉快感を少しでも発散したい為に、全速力の散歩に出かけていた。念の為、人間の敵に見つからないように補充した<隠>文珠を飲み込んで。

 シロが文珠を使ったのは、普通に市販されている隠行符だと自動車の運転手や普通の通行人など、関係のない人々まで彼女を認識できなくなるので危ないからだろう。

 タマモは幾条(いくすじ)もの細い水流に身体をさらし、全身の泡を洗い流す流れる水の感触を楽しむ。

 彼女の肩から流れ落ちる水流の一条は、Dカップにもうすぐ届くほどのCカップに育った表面を滑り、ツンと上向いたやや赤みを帯びている頂を伝い落ちる。

 その柔らかくも弾む二つの果実を伝い落ちた水流は、可愛いおへそを通って真っ白い下腹を通り過ぎると、魅惑のデルタ地帯へと向かっていく。

 そのデルタ地帯では金色の淡い下草が水に濡れて肌に張り付き、秘所の合わせ目の頂にある敏感な宝石が水に濡れて魅惑に彩られていた。

 (今はねぐらの事より、この後の事よね。
 美神が、ルシオラという女が甦る前に、私達の気持ちを固めさせるつもりなのは解る。
 あと、小竜姫やヒャクメの想いの強さを測ることも想定しているはず。
 判らないのがサクヤヒメのことよね。おキヌちゃんと魂を同じくする神族だけど、なんか気が抜けないし、落ち着けないのよね)

 タマモは、腕を交互に撫でてお湯で洗い清めながら考えを進めていく。

 霊場の効果で、昨夜からの戦闘で彼女の身体に溜まっていた穢れが浄化されて純粋な霊力になり、彼女の霊力に還元されていく。

 (忠夫に対して、おキヌちゃんと同じような感情を持っている事は判るんだけど……。なんかおキヌちゃんみたいに安心できない。
 なんでだろ? 忠夫が奪われる? ……違うわね。これはそんな予感じゃないわ。どちらかと言うと――私達が取り込まれそう?
 なんかこの予感、うまく説明できないわね。でも、警戒しておくに越したことはないわ)

 一つの結論に達したタマモはシャワーを止めると、髪から滴る水滴をはじく為に3〜4回ブルブルっと身体を震わせた。

 霊気を纏わせた九房の長い金髪は、彼女の身体を叩くことなく水滴を飛ばす。

 ある程度の水滴を飛ばしたタマモは、浴室の戸をカラカラと開けて脱衣場に出ると、洗濯ロープに掛けてあったバスタオルを身体に巻いた。

 「こういう時、長い髪ってメンドイのよね」

 そんなことを言いながら、腕や手の水滴を身体に巻いたバスタオルで拭ったタマモは、もう一枚のタオルを藤で出来た箪笥(たんす)から出して髪に宛がう。

 ある程度髪の水分をタオルに吸わせたタマモは、そのタオルをカゴに放り込むと洗面台の傍に置いていたポーチの中からいくつかの化粧品を取り出して、洗面台に置いた。

 この化粧品。妖狐であるタマモの鼻でさえ薄く感じるほどの匂いしかない物だった。

 この化粧品の元になる発明をしていたのは、今はボケ老人(若返っておるわい!)――失礼。ボケ始める前のカオスだ。

 現代社会では、タマモやシロなど獣族の妖怪にとって都市部の匂いというものは、凶悪なモノになっていた。

 なかば無意識になるほどに意識して嗅覚を遮断しておかないと、彼女達は街の中を歩く事さえ困難になるのだ。

 その点を考慮した人工幽霊一号は、屋根裏部屋への換気を特に神経質にしていたくらいだった。住民に快適な住環境を整えるのは、その時の彼にとっては当たり前であったけれど。

 ただ、美神やおキヌちゃんが使う化粧品が放つ匂いに、タマモとシロは閉口しつつも家主や台所を預かっている者ということで我慢していた。

 ただし美神はさておいて、おキヌちゃんの名誉の為に言っておくが、彼女の化粧品は一般に出回っている物よりは匂いが抑えられている物である。

 けれど、やはりねぐらに居る時だけはストレス無く過ごしたいと、ある日タマモは美神に訴えた。

 最初美神は面倒臭そうに聞いていたが、タマモの話の中に女性にとって無視できない匂いに関してお金に結びつくものがある事に気付き、考え込みだしたことで事態は動き出す。

 美神はカオスと交渉し、彼の発明の中に似たような物――中世の女性は匂いをことのほか気にしていたから――を強制的に思い出させた後、試作品を製薬会社などに売り込んだのである。

 中世時代を生きていたカオスが発明した物は、ただ匂いを消すだけという当時の彼にとってはあまり価値を見出せず、貴族のご夫人方に頼まれて手慰みに作ったに過ぎない物だった。

 当時のカオスはまだボケが始まってもいなかったので、犯罪に使われる可能性も考慮し、ある中和剤を使うと逆に犯罪に使った人間の匂いが強烈になる特性(呪い?)も持たされていた。

 製薬会社は、美神が持ち込んだ試作品が当時の市場が求めている物ではないだけに、その効果の程を見極める事が出来ていなかった。

 その為に最初に売り出されたのは化粧品ではなく、臭いを抑えるという事でデオドラント製品になり、それもそんなに製造されはしなかった。

 ここでポイントだったのは、美神があえて試作品を化粧品として売り込んだ事だった。彼女が気付いた事。それは女性が汗の臭いを過剰なまでに気にする風潮にあった事だった。

 美神の予想通り、現代の女性はこのデオドラント製品に飛びつく。

 まず飛びついたのは、女性スポーツ選手だった。彼女たちは日常的に汗を流し、汗の臭いを気にしていたから。

 これが口コミで広まっていき、スポーツ選手の姉や妹などの女子校生に伝わった所で爆発的に広まった。

 そこから派生して、部屋の消臭などでも使われだして瞬く間に世間に広まっていった。

 爆発的に売れ出したことで、そのマージンを受け取った美神はホクホク顔になり、なんとカオスも家賃の支払いに困る事が無くなったのである。

 けれど、やはり若い時のカオスが危惧した通り、犯罪に使う者が現れた。

 しかし、こっそりと警察関係者に中和剤が売られていた為に、逆に証拠として上がり易くもなっていたのだ。

 なぜなら、この中和剤が使われると犯人をどこまでも追い、犯人の放つ臭気が周りの人間に耐え難くなるからだ。その為に中和剤は、一般には出回る事がないものになった。

 つまり何が言いたいかというと。

 「街が放つ臭気が減ったし私達でもおしゃれに使えるんだけど、Gメンに協力する時は閉口する臭いなのよねぇ」

 タマモやシロにとっては、一長一短の代物であるということ。

 霊的な犯罪捜査に協力する事が多々ある彼女達は、中和剤が使われた時の耐え難い臭いが物凄く辛いのだ。

 それでもまぁ、このデオドラント製品が爆発的に売れたおかげで、都市が放つ悪臭が抑えられているのは確かなこと。

 獣族の妖怪にとって、この世界での最近の都市が過ごし易くなっているのは間違いないことだった。

 「さて、そろそろシロが戻ってくるかな?」

 ねぐらから持ってきた下着(なんと上下共に青と白の横ストライプ!)を着け、黒いオーバーニーのストッキングを穿き、薄黄色のワンピース(スカートは膝丈)を着るタマモ。

 九房になっている髪の根元辺りに、朱塗りのたたんだ扇を小さくしたような髪飾りを最後に挿すと、タマモは脱衣場を出て行った。

 「お? あがったでござるな。では拙者も風呂を頂くでござる」

 「あんた、いつもの入り方をするの?」

 「そうでござるよ?」

 タマモの質問に、何を今更なという顔で答えるシロ。

 その答えにタマモは軽く溜息を吐く。もう少し、女としての自覚を持って欲しいと思うから。

 「(シロにとっては合理的なんだろうけど) そう。とりあえずお湯は抜いているからね」

 「かたじけないでござる」

 全速力の散歩から帰ってきていたシロは、タマモが室内に入ってきた事で汗を流す為に浴室へ向かった。

 タマモが嘆息する、シロの入浴の仕方とは?

 まず湯船の1/3にお湯を張り、湯船の外にシャワーを出しっぱなしにする。

 次に、湯船の中にボディーソープを流し込んで泡立て、おもむろに精霊石のネックレスを外して飛び込み、身体を洗うというもの。

 彼女がこういう入り方をするのは、人型の時の長い銀髪を洗うのが苦手だかららしい。

 ポンポンと、汗を吸ったシャツやズボン・下着をカゴへ投げ入れたシロは、いつもの風呂の入り方で湯船に飛び込んで汗を流す。

 (ココの風呂は、本当に気持ち良いでござるなー。胸に溜まった暗い感情も消えるし)

 子狼の姿で、泡立ったお湯をバチャバチャやりながら、シロは思う。

 自分達のねぐらにも、これがあれば良いのにと。

 (こんなものでござるな。 とうっ。で、ござる)

 ある程度、自分の身体を泡立てて湯船の底などで擦り終えたシロは、泡を洗い落とすべく湯船の底から飛び出した。

 ズルッ 「きゃいん(きょ、今日は失敗でござったか)」

 たま〜に、湯船から出るときに肉球が泡で滑ってコケるのはご愛嬌。

 出しっ放しのシャワーで泡を流し落とし、水がこないところでブルブルブルブルっと水滴を飛ばすと、器用に口でネックレスを空中に飛ばし首に掛けた。

 とたんに人型に戻るシロ。

 湯船のお湯を抜いて、シャワーで泡をすべて流し終えたシロは、栓を捻って水を止めて浴室を出た。

 (髪が重いでござるが、先生が好きでござるからなー)

 籐のタンスからバスタオルを出して銀髪の水分を丁寧に取りながら、本当は切りたいと思うシロ。

 戦闘中など、この長い髪ではどうしても身体がわずかにブレる。なので、シロはいささか煩わしく思っているようだ。

 タマモのように、身体にバスタオルを巻くなどはせずにシロは身体の水分を拭き終えると、リュックから着替えを取り出す。

 柄が全く無いスポーツブラとお尻をすっぽり包むショーツ(しっぽの辺りに穴!)を着けると、彼女は次に取り掛かる。

 ベージュの袖なしチューブトップを頭からかぶって着ると、長い銀髪を引っ張り出す。すると、みごとな銀髪がフワッと広がってすぐに落ち着いた。

 次は下だ。ジーンズの半ズボン(両足の付け根でカット。モチロンしっぽ部分を出す為に穴が開いている)を穿いて、最後に薄緑色のスケスケの上着を羽織る。

 「うむ。浴衣も良いでござるが、やはり洋装も捨てたものではないでござる」

 洗面台の鏡に映る自分を確かめて、先生に喜んでもらえる服装におかしな所がない事を見て取ったシロは頷く。

 (ん? 美神殿と小竜姫殿が戻られたか?)

 わずかに開いていた窓から令子達の匂いを嗅ぎ取ったシロは、ゆっくりとリュック片手にリビングへと戻っていった。


 暫くして、リビングで寛いでいたタマモやシロと合流し、入浴や着替えをして準備を整えた令子は、小竜姫の転移によって浅間大社へと向かっていった。

 (ううー、私は籠屋じゃないのにー! はうぅ  疲れました……)

 大量の道具と一緒に浅間大社へと転移を行った為に、元から回復しきっていなかった小竜姫は、竜気をかなり使ってしまい、へばってしまったらしい。


     続く


 こんにちは月夜です。想い託す可能性へ 〜 さんじゅうよん 〜 前編を、ここにお届けです。
 小竜姫様とタマモとシロの入浴姿が書きたいが為の今回のお話。蛇足とは解っているのですが、自分的に外せませんでした。

 では、レス返しです。

 〜読石さま〜
 いつもレスを書いて頂いて有難うございます。
>遂に心眼が肉体を……
 彼女が女の子というのはずっと頭にあったんですけど、式神にするのはありきたりだしと考えていたらこうなりました(^^ゞ
>横島君に美味しくいただかれる為
 これは後編をご覧になれば、より納得される事と願いたいですね(笑)彼のストライクゾーンは前代未聞にしてやりたいです(フフフ
>そしてヒャクメとサクヤヒメの……
 早めに番外編を書き上げて、ナニがあったのかをお知らせしたいのですけど、本編が落ち着きません>< ほぼ書き上がっているのに(笑)
>人工幽霊一号は女性人格に……
 この辺は枝世界融合の影響で、戸籍も女性になっていると思いたいんですが、どうなんでしょう? これをネタに番外編が一つ書けそうではありますけど。
 今回のお話も楽しんで頂ければ幸いです。


 〜ソウシさま〜
 いつもレスを書いて頂いて有難うございます。
>なにげに番外は18禁?
 はい、その通りです。メインが誰かは……番外編までお待ちを♪
>心眼は横島のロリ属性を……
 今のところ、横島のメイン人格は令子さんの良人ですからねー。事故でパピリオをイかせちゃいましたけど、大ダメージ受けてましたし(笑)ロリになるのかは微妙ですね。あと、ソウシさまのご慧眼には感服するばかりで、ご想像の通り(笑)
 今回のお話も楽しんで頂ければ幸いです。


 〜星の影さま〜
 いつもレスを書いて頂いて有難うございます。
>おおぅ、○○ラですか
 はい♪ 番外編はもう少し詳しく描写してますが、お待ち下さい。ほぼ書き上がってますけど、本編を書き進めますので。
>女華様の正体に……
 気付く前に、心眼の存在を世界に固定させる為、霊力元を吸い取られて果てました(笑)女華姫様には、もうちょっと横島という男を知ってもらうつもりです。
>そして心眼はロリ
 私の作品では、彼女は知識先行の経験無しな女の子です(^_-)-☆ その無駄にある知識で、忠夫を翻弄するでしょう(笑)
>美神サイドでは色々と
 令子さんは何かを企んでいますけど、おぼこい原作美神さんでもないので、性的な事も躊躇しません。今回持ち出した霊薬で、暴露大会になる事請け合いかも?
>番外編は十八禁になる
 はい、確実になります。ほぼ書きあがってもいます。けれど、どの時点で投稿するかが決まってません。本編進まない……。頑張ります。
 今回のお話も楽しんで頂ければ幸いです


 〜エフさま〜
 いつもレスを書いて頂き有難うございます。
>心眼も無事女の子になった……
 身体を動かす経験という物がほぼゼロですが、小竜姫様が鍛えてくれるでしょう。そんな彼女は、竜気をほぼ使い果たしています。これ、重要ですよー(フフフ
>ルシオラ復活も大詰めかな?
 はい。その辺りも早く投稿できるように書き進めてます。けれど、どうしてこう先々のアイデアばかり出てくるんでしょうねぇ。暴露大会を早く書きたいのに><
>そして番外編では……
 ご期待に副えたものである事だけは確かです。ただ私自身、エロにいまひとつ納得できてませんけど(^^ゞ
 今回のお話も楽しんで頂ければ幸いです。


 〜あらすじキミヒコさま〜
 いつもレスを書いて頂いて有難うございます。
>実は一番インパクトがあったのは……
 忠夫達の方は、同時進行的に書いていたものですから、冒頭部分はその名残です(^^ゞ 令子さん達の方を先にしようかとも考えましたが、お話の余韻から考えて、最初に持ってきました。 
>このペースで書き進んで欲しいと願います。
 こう言って頂いているのに、またもや蛇足的な前編。申し訳ないですけど、タマモ達の衣装替えと小竜姫さまの貧乳疑惑払拭に思わず走ってしまいました。後編は今週中には上げられる予定です。
>文章のクセとして時々出てくるパターン……
 ご指摘により、文を追加してみました。主語と述語の間に修飾語が入りまくるクセは中々治りません><
 こういう読み難いことが多々あると思いますが、ご指摘頂けると凄く助かります。
 今回のお話も楽しんで頂ければ幸いです。


 後編の投稿は今週中には出来ると思います。ちょっと私事で、仕事を休んでいますので。頭から仕事を追い出す為にも、こっちに専念します。

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