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「想い託す可能性へ 〜 さんじゅうさん 〜(GS)」

月夜 (2008-05-06 12:17/2008-05-22 06:16)
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  想い託す可能性へ 〜 さんじゅうさん 〜


 令子達が、小竜姫の回復を待ってから自分達のねぐらに一旦戻った頃。心眼を忠夫の中から取り出す為、地下の斎場へと向かったサクヤヒメと女華姫、ヒャクメに忠夫はいうと……。

 「えーと、サクヤ? どうして俺は縛られてるのかな?」

 そう。彼が言った通り、忠夫は石の台座に大の字に寝かされた状態で手首と足首を縛られていて、その口調には困惑が滲んでいた。

 けれど、言葉はサクヤヒメに問いかけてはいるが、その目は縛った者を睨んでもいた。

 固い石の台座には柔らかな敷物が敷かれていて、短い間ならば石の硬さによる彼の痛みも和らげられるだろう。

 なぜこうなったかというと。

 サクヤヒメに、そこの台に横になって下さいとお願いされた忠夫は、どういう術式を施されるのか解らないものの彼女の言葉に従った。

 そしたら、いきなり手足を拘束されてしまったのだ。嬉々としたヒャクメに。

 「それはですね。今から行う事に、横島殿が抵抗されるかもしれないからです」

 花が綻ぶようなイイ笑顔で、忠夫にとっては冷や汗が出るようなことを言うサクヤヒメ。

 彼女の背後では、ヒャクメは忠夫に睨まれてもニコニコと笑みを浮かべて興味津々で見ているし、女華姫は未だ仏頂面をし続けていてその心内は解らない。

 サクヤヒメのイイ笑顔を伴った言葉とヒャクメの笑みに、忠夫は言い知れない不安が沸き起こるのを抑えられない。

 「い いったい何をするつもりなんだ?」

 「くすくす。 貴方の中から心眼殿を抜き出す作業ですよ? 忘れてもらっては困りますね」

 「いや、俺が訊いているのはその方法なんだけど……」

 「痛いことはありませんから、気を楽にしていて下さいまし」

 具体的な方法は言わず、微笑をさらに深くして忠夫に答えるサクヤヒメは、一歩近付いて彼に覆い被さる様に覗き込む。

 明らかに彼女は、忠夫の怯える様子を楽しんでいる。

 「な なぁ、女華姫? サクヤがなんだか恐いんだけど、止めてくんねーか?」

 「妾に頼られてもな。今のサクヤは、妾でも止めようが無い。すまぬな」

 サクヤヒメにお願いしても埒が明かないと覚り、表情を険しくしている頼れそうな女華姫に忠夫は頼む。けれど女華姫は、忠夫と眼を合わそうとはせずに無常にも彼の懇願を突っぱねた。

 自分の中のモヤモヤが忠夫を見る度に膨れ上がり、それが何なのか解らなくて苛立つ女華姫は、サクヤヒメのやる儀式が彼女の知っている物でもない為に、止めようが無いし止める気も起こらないのだ。

 「恐いとは心外ですねぇー。
 (わが良人の魂に寄り添う無垢なる命よ その裡に内包する我が神気を依代に)
 さぁ、準備は整いました。貴方の中から心眼殿を抜きますよ。
 (ひと時離れ 我が身に移る事を希う)」

 そう言ってサクヤヒメは、小声で祝詞を唱えながら忠夫に顔を近づけていく。

 「ちょっ、待て! サクヤ! れい も゛ んむぅー!!」

 サクヤヒメは忠夫の制止に構いもせず、彼の唇に接吻した。


 暫くして。

 妙に艶々した雰囲気を放つサクヤヒメとヒャクメが、忠夫が寝かされている石の台座の横に立って、10歳くらいの巫女装束を着た女の子を眺めていた。

 しかも、彼女達の口元からは一条(ひとすじ)の白い液が垂れているのに、その表情は凄く満足そうで気にもしていないらしい。

 それが、依代に心眼を移す儀式の成功に満足しているのか、はたまた別のナニかは――謎だ。

 その女の子は自分の姿がよほど珍しいのか、渡された手鏡で自分の顔を確かめている。

 彼女の顔立ちは、可愛いというよりは綺麗と呼べるものだった。

 子供ながらに切れ長の細目で少々目尻が釣り上がり、頬は子供らしく多少ふっくらとしていて、笑うと愛嬌がありそうだ。

 鼻はそれほど高くはないがスッと通っていて将来の美貌を匂わせる。また、口は下唇がちょっと厚みがあって紅を差すと子供ながらに妖艶さを醸し出しそうだった。

 身長はそんなに高くはなく、130cmほどか。けれど彼女の髪は、主である忠夫の霊力を反映したかのような薄緑色をしていて、ふくらはぎまで先端が伸びていた。

 肌は白磁のように滑らかではあるけれど、彼女が発する雰囲気のおかげか、病弱とは程遠い印象を受ける。

 まさに美少女と言って良い容姿を持った心眼。

 彼女はくるりと回って、自分の動きを確かめようとして――転んだ。

 それはもう見事に顔からべちゃっと。

 彼女は知識として受身は知っており、そのタイミングまでも瞬時に見極めていたけれど身体が反応しなかったのだ。彼女の身体に受身を取るという経験が、まったくこれっぽっちも無かった為に。

 慌てて女の子を立たせて怪我が無いか、確認するサクヤヒメとヒャクメ。

 女の子に怪我が無い事にホッとすると、ヒャクメは上半身だけを肌蹴させて露出している形の良い豊乳の間に埋めるように、女の子を抱き締めた。

 一方、全裸のうえ豊かな双乳にヌラヌラとした粘液を滴らせる片膝立ちのサクヤヒメは、女の子の頭を優しく撫でていた。

 そんな微笑ましくも艶美な光景とは裏腹に、もう一柱の女神はというと……。

 部屋の隅で――サクヤヒメ達が行ったある行為に目を奪われ――神気を渡し過ぎて、真の姿を曝け出していた。

 背の高い身体を目一杯縮こませるようにし、耳まで真っ赤にして顔を覆った指の隙間から忠夫をチラチラ見ている女華姫は、どこか可愛らしかった。

 当の忠夫は、目は虚ろで涙まで流しているのに口元はにやけているという器用な表情で果てていて、女華姫の真の姿に全く気付いた様子も無い。

 しかも彼はいつの間にか全裸にされており、その上半身の所々には赤い小さな痣が出来ていた。

 また下半身は、雄々しく屹立する彼の如意棒を隠す物が何も無く、透明な粘液にヌラヌラと塗(まみ)れていた。

 忠夫が寝ている台座を中心にした部屋の床には、なぜか桜色をした文珠のような物が大量に転がっている。その大量の球体の中には、たった一個だけ真っ黒な球体が混じっているのが気になるところだ。

 他にも、藍色をした文珠と同じ大きさの球体が二十数個あり、別の場所に一塊にされているのが確認できた。

 ここでナニがあったのか? それは別の機会に語ろう。ただ言えるのは、本番(何の?)だけは無かったようである。


 所変わって、こちらは令子たち。

 小周天法によっていくらか回復した小竜姫の転移によって、令子・タマモ・シロは、女性化した人工幽霊一号が管理する事務所内に到着していた。

 『お帰りなさいませ、オーナー。ご無事で何よりです』

 「ただいま、人工幽霊一号。留守中に何か変わった事はあった?」

 令子は天井から聞こえてくる女性の声に顔を向けることなく、来客用に執務机の前に置いている茶色皮の豪華なソファに身を沈めた。

 その対面にはタマモが座り、シロと小竜姫はタマモの後ろに立つ事にしたようだ。

 『5件だけ、美智恵様と唐巣様よりご伝言を預かっております』

 「ママと先生から? 何か新しい動きでもあったのかしらね? 聞かせて」

 除霊に関する依頼は一つも入っておらず、代わりに美智恵と唐巣神父の伝言があったようだ。

 なぜ、今の美神除霊事務所に依頼がほとんどこないのか? それはここ一ヶ月の間、彼女がある目的の為に邁進して片っ端から断っていたからだ。その目的は前話の通りである。

 美神がやった事は思い切り霊能犯罪だ。

 けれど、罠として仕掛けたGS協会からの依頼元をつついても、そこから足取りを追って彼女に辿り着くようなマヌケでは無い。彼女は壊れていながら、冷静に冷酷に罠を張ったのである。

 それにおキヌちゃんと横島は、依頼を受けて赴いた先の除霊対象のランクが急激に上がっていた事を協会に申告してはいなかった。無論、それが美神の仕掛けた罠と知っていながらだ。

 それだけおキヌちゃんと横島は、美神令子の許から離れてしまった事を気にしていて彼女を心配していた。

 おキヌちゃん自身が許した以上、美神の霊能犯罪が明るみに出る事はまず無い。なぜなら、彼女と横島が美神を訴えるつもりが無いから。

 閑話休題


 『はい。では、ご連絡が来た順に再生します』

 『○○時○○分。
 令子。サクヤヒメ様から聞いたわ。神族の過激派がそっちに向かったようね。とりあえず付近住民の避難誘導は命じておいたけど、正直効果は薄いわ。流れ弾が飛んでこないよう祈ってるわ』

 『○○時□○分。
 まだ、貴女と人工幽霊一号との連絡がついていないのね。
 こちらに、浅間大社上空で巨大な魔法陣が展開されたとの報告があったわ。経過が知りたいけれど、サクヤヒメ様への連絡が社務所で止められるから、まだ無理みたいね。また連絡するわ』

 『○△時□□分。
 サクヤヒメ様から連絡が来たわ。今、令子が霊力回復の為に寝ているから繋ぐ事は出来ないと。
 それと、過激派の神族は人間に危害が加えられないように結界に閉じ込めていると。
 とりあえずの危機は去ったから、避難命令は解除するわね。
 生きて戻ってきなさい、令子』

 『○□時△△分。
 美神君。今、美智恵君と一緒に横島君の事を世界がどう認知し始めているのか、調べている。
 しかし正直言うと、私は未だ美智恵君の言った事が信じられない気持ちだ。
 だが、彼の功績に世界が注目しないよう注意深く施していた隠蔽工作が、ことごとく消されている事から信じるしかないようだ。
 しかも、消されているのを指摘されてやっと認知できるという、厄介さだ。
 その為だろう。私達の記憶と世界の認識には、かなりのズレが起き始めている。
 また新しい情報が入ったら連絡する』

 『○□時□□分。
 美神君。悪い情報がまた入った。先ほど、横島君のご両親が正体不明の集団に襲われたらしい。ああ、安心して欲しい。二人に怪我は無いそうだ。ご本人達が、直接連絡してきたからね。
 しかしなんだね。彼のご両親は本当に霊能については素人なのかい? 横島君のご両親は、地元のシャーマンと力を合わせてそれらを撃退したらしくて、電話先で大笑いしていたよ。
 あと伝言を頼まれたよ。“近々様子見に、帰国する“だそうだ。その後に”首を洗って待ってなさい“とも言われていたが、何の事か解るかね?
 まぁ、その事はともかく……君が私の所に訪ねた時には、私自身半信半疑だったが認めざるを得ないようだ。
 横島君は、かなりの規模の世界の暗部に狙われ始めている。君らも充分気をつけて欲しい。
 横島君が狙われる事が無くなるように、私も出来る限りの協力をするよ』

 『以上です、オーナー』

 「ありがとう、人工幽霊一号。2件目の先生からの連絡が20分前か。
 それにしても、あの夫婦に喧嘩売った馬鹿が居るのねぇ……。霊能に素人と思って侮っていたのかしらね?
 今のあの二人には無駄なのに。そう思わない? タマモ」

 腕時計で時間を確かめて、ホッとしたような、それでいて脱力したような力の無い笑みを浮かべて、令子はタマモに同意を求めた。

 ただ、唐巣神父の伝言の中の“首を洗って待ってなさい”に、令子を始めとしてタマモとシロの頬にも冷や汗が伝っていた。

 冷や汗の理由は、今回の襲撃に対しての説明を百合子に求められると予測しているから。

 彼女たちが戦々恐々としているのは、忠夫の両親が本当にでたらめの一言に尽きるからだ。

 霊能に素人とは言っても、舅の大樹は素手で悪霊を殴ってダメージを与えるわ。姑の百合子は、美神の握る神通棍へ無意識に怒りで集中した念波を送り、美神の念と合わさって神通棍から放電。周りの電気機器に影響を与えている。

 そんな二人が、使い方を教えてもらった結界符や文珠を使えぬはずが無い。

 現に、10年後のあり得た未来では使えていたのだから。ただし、先ほどの令子の言葉は、現在の百合子・大樹を指した言葉ではない。

 なぜなら、現在の令子にはあの夫婦と交流が全く無いからだ。

 その為、同意を求められたタマモは、なぜその事を令子が知っているのかと怪訝な顔で答える。

 「そうね。お義父さんやお義母さんには、防御だけなら私が作った対霊・対物理用防御結界符や忠夫の文珠とかを渡しているから大丈夫よ。
 私も、伊達に前世の記憶は取り戻していないわ」

 インドや中国に居た当時の感情を抜いた、妖術や体術など技術のみの記憶取り戻しをとある物と数個の文珠を使って行ったタマモは、多くの妖術を思い出していた。――もちろんその際は横島と二人っきりで、彼女縁(ゆかり)の三国を周っている――

 ただその大半の妖術は、転生をして3年近くの身体では発動できないものがほとんどで、文珠の助けがあって発動させても次の日から数日は霊体痛に悩まされる物ばかりだった。

 その霊体痛にもめげずに作り上げた防御結界符は、忠夫の<護>文珠よりも持続時間が遥かに長く(一回の発動で10日は保つ)、ロケットランチャー10発の同時直撃を受けてもびくともしない代物だった。

 それを彼女は三ヶ月前から毎月2枚ずつ生産――文珠の助けがあってもこれが精一杯――して、ナルニアの両親に送っているのだ。タマモがいかに忠夫の両親を慕っているかが判ろうというものだ。

 「あの二人に対しては、心配するだけ損だわ。いざとなったら、字が篭めてある文珠<転>と<移>を2人手を繋いで使って帰ってくるだろうしね」

 「どうして美神がその事を知っているのよ?」

 さっきから疑問に思っていた事を、令子を睨みながらタマモは訊いた。

 彼女は、令子がどこかで両親を監視でもしていたのかと、疑念を持ったのだ。

 二つの枝世界が融合したと聞かされていても、タマモにとっては実感の無い事だけにその事に思い至らないようだった。

 「やっぱりできるんだ?
 もうあり得ない未来だけど、私と忠夫が夫婦だった枝世界でも同じ事をしていたしね」

 令子はタマモに両肩をすくめながら答えた。無意識に、忠夫と夫婦だった時の事を口にしていたのを苦笑しながら。

 「まぁ良いわ(そう言えばそうだったわね)。それより、困ったわ。
 お義母さん達にも手が伸びたって事は、私達の事務所にも来ている可能性は高いわね」

 タマモは、令子の答えに納得して頷いたあと、自分達のねぐらが襲われているか監視されているかのどちらかだろうと推測した。

 これでは、シャワーを浴びたり武器や着替えを取りに戻る事が出来ない。

 「人工幽霊一号。この事務所も同じように監視されてる?」

 『いいえ。私が感知できる範囲では、そのような気配はありません。旦那様の事務所の方も調べてみますか?』

 タマモの懸念に、こっちは監視されてはいないだろうなと推測しながら令子は訊いたが、案の定、人工幽霊一号の答えは令子の推測通りだった。

 けれど、思わぬ言葉の爆弾が彼女から飛んできた。

 「(あっちゃー、ミスったわ。口止め忘れてた。こりゃ、来るわね) ええ、お願い」

 令子がそう言ったとたん、彼女の霊力が人工幽霊一号に吸い取られだした。

 普段の管理維持程度なら、令子が日常生活で身体から放射する霊波だけで済む。だが、今回のような彼女の走査能力を全開にする時は、やはりそれだけでは霊力が足らない。

 だから人工幽霊一号は、オーナーである令子の許可を求めたのだ。

 「ちょっと美神? 人工幽霊一号が言った“旦那様”って誰よ!?」

 『横島忠夫様ですよ。オーナーと同じ、私が御仕えする方ではないですか』

 何を当たり前のことを訊いているのだろう? そんな感じで令子に代わって答える人工幽霊一号。

 その間にも、淡々とタマモ達のねぐらである事務所周辺を走査していた。

 その気になれば、半径50kmの範囲で霊波や電波などを含む電磁波を走査できるのだから、彼女はたいしたものである。それだけ令子の霊力に負担が掛かるけれど。

 ちなみに横島の事務所は、令子の事務所から100mと離れていない。

 その事が娘の意固地に拍車を掛けると解ってはいても、美智恵が娘の傍に横島を置いておきたいと願っていた為に。

 「ちょっ! ふがっ」 「タマモ、説明するからおとなしくしてっ」

 天井に向かって怒りの声を上げようとしたタマモを、令子は瞬時に目の前に座る彼女に飛び掛り、口を塞ぎながら抱きこんで小さな声で話しかけた。

 人工幽霊一号の性別が知らないうちに変わっていたなど、彼女が知らなくとも別に周りに害は無い。むしろ彼女に知られると後々説明が厄介だし、知られて動揺されては今は問題がありすぎる。

 そのため令子は、自身が声をひそめて話す事で人工幽霊一号が聞こうとしない性質を利用する事にした。

 いきなり押し倒されたタマモは瞬間的に暴れようとしたが、有無を言わさない令子の低く押し殺した声音にしぶしぶおとなしくする。けれど、その双眸はきつく令子を睨んでいた。

 シロはというと、小竜姫に右肩を掴まれて止められていた。思わぬ制止に足だけが前に行こうとしてしまい、シロはバランスを取る為にしゃがもうとした。

 しかし、掴まれた肩で吊るされたようになり、痛みに顔を顰めながら何とか元の場所に戻って小竜姫を睨んだ。

 睨まれた小竜姫は、右手の人差し指を立てながら唇に当ててタマモ達を見るように無言で促した。

 それを見たシロはしぶしぶと従う。彼女の右肩はまだ掴まれていて、痛い為に。

 「(どういうことっ、美神!)」

 「枝世界融合は理解しているわね? その影響が人工幽霊一号にも出ているの。タマモの記憶の中で、人工幽霊一号の性別ってなんになっている?」

 「何の事を訊いてっ「いいから答えてっ」 ……印象としては女よ。昔からそうだったじゃない」

 タマモの怒りの双眸を令子は気にも留めず、どうやって説明しようかと瞬時に理路を構築し、有無を言わさずに自分の質問に答えさせる。

 タマモに対して上からモノを言うような口調にならないのは、令子が彼女を認めているからだろう。

 「やっぱりか。その認識は、多分昨日からのはずよ。と、言っても、それ以前からの認識も変えられているだろうから、後でおキヌちゃんに訊くと良いわ。
 いい? 二つの枝世界が融合をする前は、どちらの枝世界でも人工幽霊一号は男よりの思考だったのよ」

 「むぐっ!(なんですって!)」

 令子の言葉に驚きの声を上げようとしたタマモは、再び令子の手によって口を塞がれた。

 内心の驚きを鎮め、おとなしくする事を令子に目で訴えるタマモ。

 彼女は、何回も口を塞がれるような状態になるなんて無様な真似は避けたいし、追及するのは説明を聞いた後が効率的と自分に言い聞かせていた。

 その様子にタマモが落ち着いたのを見てとった令子は、手を離して続きを話し始める。

 「どうもね、融合を果たしたこの世界は少なくない歪みが出ているようなのよ。
 彼女のようにあまり影響の無い歪みから、人的被害が出ている歪みまでね。
 勘違いはしないでよ? わたしだって歪み全てを把握しているわけじゃないからね。
 けれど、これが現実。嘘だと思うなら、さっきも言ったようにおキヌちゃんに儀式が終わった後に訊いてみると良いわ。
 それか、そこの小竜姫にね」

 おキヌちゃんと小竜姫、どちらも嘘をつくのが苦手と令子の周りでは知られている。令子から説明されるよりは、タマモ達も納得するだろう。

 「なんで小竜姫がその事を知っているのよ」

 令子の手がタマモの口から退いたのを機に、タマモは納得がいかないという風に彼女と同じくほとんど声を出さずに尋ねた。

 「彼女が、枝世界融合前の二つの枝世界での記憶を持っているからよ。
 他にも、妙神山のハヌマンやヒャクメが同じく二つの枝世界の記憶を持ってるわ」

 「小竜姫殿。美神殿が言った事は本当でござるか?」

 令子とタマモのほとんど声にならない会話を注意深く聞いていたシロは、自分の右側にに立っている小竜姫に話しかけた。

 ちなみに人工幽霊一号は、オーナーである令子がひそひそ話を始めた時点で、部屋の中の聴覚感度を故意に落としている。以前、母親の美智恵に告げ口された事があり、令子は人工幽霊一号をこっぴどく叱った事があるからだ。

 「(横島さんのご両親が帰ってくるならご挨拶しなくてはっ。あ、でも。人間の作法なんてあまり知らないし、どうしたら……) はい? な 何がでしょうか、シロさん?」

 シロがおとなしくしたので掴んでいた左手を緩め、ボーっと何かを考え込んでいた小竜姫は、ハッと我に返ると慌てて聞き返した。

 「これは失礼した。美神殿が今しがた小竜姫殿やヒャクメ殿、ハヌマン殿というのはどなたか判らぬでござるが、二つの世界の記憶を持っていると言われたでござる」

 「ええ、確かにその通りです。それがどうかされましたか?」

 小竜姫の答えにタマモとシロは驚いた。

 彼女が嘘を言っているようには感じない。何を当たり前な事を? と、いう感じだ。

 ならばなぜ、自分達にはそういう記憶がないのか? タマモとシロは、そう疑問に思った。

 その事を訊こうと、タマモが口を開こうとした時。

 『走査完了しました、オーナー。
 旦那様の事務所を中心にした半径500mの円内に、12名の霊波迷彩スーツを着た人間と思われる熱パターンを感知。
 他に私を中心として半径50kmを走査しました。結果、2グループ4台の車が、旦那様の事務所へ向かうルートを取っていると予測されます。
 到達予想時間は20分弱。地図に出します』

 いきなり壁の本棚が左右に動くと、その背後に隠れていた四角に縁取られた額縁の絵がいきなり事務所を中心とした詳細図に切り替わり、12個の小さい点と2つの二周り大きな赤い点が点った。

 「ありがとう、人工幽霊一号。
 さて、時間は無いわね。タマモ、シロ。この増援が来る前に、待機している12名を騙すわよ」

 人工幽霊一号の報告に“息つく暇も無いわねっ”と、嘆息してすぐに頭を切り替え、令子はタマモから離れてソファに身体を沈めると、急いでタマモ達に彼女達の準備を促した。

 「まぁ、時間も無いし従ってあげるわ。殺さないのは解るけど、眠らせるだけ?」

 令子が退いて身体を起こしたタマモは、乱れた髪を手串で軽く整えると隣に座る彼女に問いかけた。

 「それだけじゃないわ。ちゃんと監視をしていたと嘘の記憶を植えつけるの。あとは増援が来る前に、自分で起きる催眠を仕掛けておくのよ」

 「なるほどね(私とシロを、人間の敵として認識させない為には仕方ないわね)。
 シロ、敵の位置は覚えた?」

 「大丈夫でござる。5分でケリをつけるでござるよ」

 タマモの質問に、シロは狩りを始める狼のように静かに気配を隠し始めて、獰猛な笑顔で答えた。

 半径500m以内に散らばった12人の敵を5分で眠らせるとは、凄いものだ。

 彼女の自信は、自分のテリトリー内でならば故意に消された匂い等を嗅ぎ慣れた匂いから探し出すなど、造作も無い事だからだろう。

 「ねぐらに戻ったら、あんたらの武器と数日分の着替え。あと文珠は全て回収しておきなさい」

 「もちろんよ。それじゃ、15分くらいで戻ってくるわ。その間、お湯を張っておいてね、人工幽霊一号」

 『承知致しましたわ。
 タマモさん、シロさん、お気をつけていってらっしゃいませ』

 人工幽霊一号がそう言ってドアを開けたとたん、疾風が舞った。

 当然二人の姿はどこにも無かった。

 「さてと、こっちも準備しなくちゃね。
 人工幽霊一号。そいつらの動きを見張りながら、ここにちょっかい掛けてくる奴らが居ないか警戒していて。もちろん、熱源による人数確認なんてさせないでね」

 令子はソファから立ち上がると、今後の行動を考えて必要な物を頭の中でピックアップしながら人工幽霊に指示を出す。

 『了解しましたわ、オーナー』

 「それじゃ小竜姫。わたし達は武器庫から得物を補充するわよ。ついてきて」

 「美神さん。タマモさんとシロさんだけで大丈夫なんですか?」

 二人だけで行かせた事を心配する小竜姫は、未だ開け放されていたドアに目を向けながら令子に確認した。

 「自分達のテリトリーで好き勝手させるほど、あの子らは野生を失ってはいないわよ。だから心配要らないわ。
 それよりも。今のわたしは、この2年の間で横島クンと疎遠になっていると敵は思っているはず。
 その証拠に、ここは監視対象になってないみたいだしね。この状況を利用しない手は無いわ」

 そう言って、令子は自分の執務机に歩み寄る。

 武器庫の鍵を取る為と、机の引き出しの裏にいつでも発動できるように貼り付けてある強力な防御結界札をを取る為に。

 自分の家だからという無意識の安心もあったのだろう。だから令子は、それに気付かなかった。

 「とりあえず、当面はココとサクヤの“ズルッ” へ? ちょ!? うきゃっ! 痛(いった)ぁー!?」

 「だ 大丈夫ですかっ? 美神さんっ。    あら?」

 いきなり何かに足を取られるかのようにすっ転んだ令子に、小竜姫は駆け寄って背中を助け起こしながら怪我は無いかと彼女の腰辺りを見て、視界のはしに何かが転がってくるのに気付いた。

 どうやら令子をすっ転ばしたモノが、壁に当たって戻ってきたらしい。

 「これは…文珠? どうしてこんな所に転がって?」

 ひょいっと文珠を拾った小竜姫は、不思議そうに小首を傾げた。

 「えっ? 文珠!?  (それはあの時のっ)!!!!」

 小竜姫の言葉に彼女の手元を見た令子は、座ったまま腰の痛みを我慢して振り返った状態で硬直した。

 そこには<戻>と字が浮かび上がった文珠が。

 「み 美神さん? 顔が真っ青ですよ! どうされました!?」

 自分の手元にある文珠を凝視しながら青褪める令子を、小竜姫はただ事じゃないと感じて少量の竜気を流し込みながら彼女の鎮静を図った。

 その甲斐があったのか、瞳に力が戻ってきた令子は一度目を閉じると、深呼吸を一回だけして立ち上がった。けれど、まとう雰囲気はいつもの彼女らしくはなく、弱々しい。

 「心配掛けてごめん、小竜姫。もう大丈夫よ。イツツ…腰はまだ痛いけどね。
 とりあえず、それ渡して」

 小竜姫は、腰を摩りながら苦笑いする令子の表情と霊波を診て大丈夫と判断したのか、彼女に無言で文珠を手渡した。

 「ありがと。――この文珠はね、わたしの罪の証なのよ。女華姫がわたしを嫌う原因のね」

 物問いたげな目をしながらも、質問をしてこないで心配する小竜姫に申し訳なさを感じたのか、令子は文珠を見つめながら答えた。

 「そうですか。
 何があったかは存じませんが、話せるようになったらお話下さいね」

 「助かるわ。とりあえず、あの子らが戻ってくる前にわたし達の準備を済ませておかないとね」

 令子は心配する小竜姫に礼を言うと、執務机から鍵と防御結界札を取り出して、そのまま地下の武器庫に向かう為にドアをくぐる。

 その後ろを、心配そうな顔をしながら小竜姫はついていった。

 『(オーナーを止める事が出来なかった私も、同罪ですわ。オーナーを取り巻く皆様。
 どうか…どうかオーナーを責めないでくださいませ)』

 涙を流せぬわが身をもどかしく思いながら、人工幽霊一号は与えられた命令を忠実にこなしていく。壊れていく主を止められなかった事を悔やみながら。


    続く


 こんにちは、月夜です。想い託す可能性へ 〜 さんじゅうさん 〜をお届け致します。
 今回は今後の展開で重要なイベントが同時期に重なり、とりあえず忠夫サイドは後日に番外編で書こうと決めました。
 その時に、心眼がどうやって復活したのかを書こうと思います。
 また、文珠のような色付きの珠が一杯出てますが、あんまり意味は無いです。霊具には違いありませんけど。
 さて、令子さんの方はちょっとした伏線を出したりで、あまり進みませんでした。
 次話では全員合流して、女達の恋話追求合戦が始まる予定です。

 では、レス返しです。

 〜ソウシさま〜
 いつもご感想を書いて頂いて有難うございます。時々そのものズバリを当てられ焦ったりしてますけど(^^ゞ レスが貰えると嬉しいので、私の事は気にせずにまた頂けたらと思っています。
>まさかのメイド化!?
 えー、外見10歳の女の子にそんな事をさせると思いますか?  まさにその通りです! 心眼の経験値(なんの?)が溜まってからだから、いつになるかは判りませんけど(^^ゞ
>ヒャクメがよく役立ってるな
 能力的には有能なのに、軽い性格で損をしちゃうヒャクメですからねー。でも私がギャグを書けないせいで、彼女の有能な部分が前面に出てきているみたいです。今回のお話で、サクヤヒメに便乗して彼女は何かやってますけど(^^ゞ
>女華姫の衝撃イベント
 慧眼に感服します。けれど、忠夫は女華姫の真の姿は見ずに意識を手放しました。
>天&パピの二次……
 私はFateクロスは一度も読んだ事がないので、私の記憶に無いのも納得です。やっぱり自分で書くしかないですね。
 今回の話も楽しんで頂けることを願っています。


 〜星の影さま〜
 いつもご感想を書いて頂き有難うございます。
>心眼は是非ロr(ry)
 思い切り見透かされていましたね(^^ゞ でも、心眼はコレだけじゃないんですよ(フフフ)
>特に女華姫が
 彼女にとっては衝撃的な光景だった事でしょう。詳細は番外編で書く事に決めましたけど(^^ゞ
>感想をもっと書きたい……
 時間が無い中で感想を書いて頂いて有難うございます。レスが頂けるだけでも本当に有難いです。
 今回の話も楽しんで頂けることを願っています。


 〜読石さま〜
 いつもご感想を書いて頂き有難うございます。参考になるご意見・ご指摘にいつも助かっています。
>思いっきり霊能犯罪
 まさにその通りなんですが、今回の本文でもある通りおキヌちゃんと横島クンが訴えない限り明るみに出る事はありません。
>心眼が宿る神剣……
 これのイメージは、天地無用!魎皇鬼の樹雷着物の柄とかですね。ちなみに乳白色にしか着色はされていないので、遠目には目立たないでしょう(笑)
>成長するおキヌちゃん
 この事態に関しては、一番のネックはべスパとワルキューレでしょうか。でも、今のおキヌちゃんって国津神で魔性も持っているんですよね。だから一神教で言えば魔族でもあるんですよ。日本だからこそ神様のカテゴリになってますけど^^
>桃色より今後のお話の方が……
 一応、桃色は見送りました。心眼の依代へ移すエピソードでもあったんですが、私自身がちょっと展開の遅さに焦れてしまいました。おかげでワルキューレ達や鬼門達の事も書けていません。
 今回のお話も、楽しまれて頂ければ幸いです。


 〜エフさま〜
 毎回の感想の書き込み有難うございます。
>ルシオラも女同士の話し合いも……
 私自身、自分の作品の展開の遅さに焦れてしまい、半ば強引にお話を先に進める事にしました。構成がおかしくなってしまっているかもしれませんが、桃色部分は番外編で書きます。
>心眼には……
 ご慧眼ですねー(^^ゞ 私自身が単純なのかもしれませんが。この文を見た時、ちょっとびっくりしました(^^ゞ
>原作にないキャラや容姿は……
 全くその通りです。やっぱり私は描写不足が否めません。精進致します。今回、本文中で心眼を描写してみましたが、イメージ的にはホシノルリ嬢が一番近いかと。こういう時は絵心あればなぁと、思ってしまいます。
 今回のお話も楽しんで頂ければ幸いです。


 〜あらすじキミヒコさま〜
 各お話に丁寧な感想を書いて頂き有難うございます。ご指摘やご意見、凄く参考になりました。有難うございます。
>美神の『酷いこと』
 今回もちょっと出ました。詳細は番外編で出そうと考えています。<戻>文珠については、副次的な効果が今回出ました。でも、これだけではないのでご安心を(笑)
>霊力が入らない神剣……
 ヒャクメが傍に居ましたので、鑑定はすぐに終わっちゃいました^^ 
>心眼の神剣化……
 桃色の部分で心眼の復活メカニズムを説明するつもりでしたが、令子さん達と合流した時にでもやってみます。
>今後の展開……
 桃色については、今回具体的な事は全てスルーしました。局部描写あるから15禁になってますけど。
>話が迷走しない形での桃色……
 確かに本編ではメインで描写するのは令子さんが多いのですが、迷走しない形というのが各女性との睦み事を淡白にという事ならご希望には副えないです。理由は30話前編に再度レスを返したとおりです。
 今後の展開で、ご心配を掛けて恐縮です。今回のお話が楽しんで頂けるモノであれば幸いです。


 自分の予想ほど、信用のならない物は無いようです。まぁ、予定していた行事が潰れたりとした事で筆が進んだんですけど。
 次回投稿は、ちょっと予想がつきません。今月中に、もう一話投稿できるよう頑張ります。

 あらすじキミヒコさまのご指摘により、文を修正しました。
 ご助言ありがとうございます(08/5/22)

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