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「妖と魔と神に愛されし風 第六話(GS)」

J (2008-05-30 00:38/2008-05-30 06:57)
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芦原は手元の報告書に書かれた内容に眉を顰めた。

芦原の数少ない部下のうちデミアン、ベルゼブルの二人が離反し、他の七十二柱の陣営に入った。簡潔にそう記載されていた。
元々、信頼できるような人材ではなかったが、戦闘能力は決して低くなかったために芦原にとって痛手だった。
溜息をつくと土偶羅にこう命じた。

「メドーサとハーピーに南極拠点に向うよう指示しろ、私も今から行く」

「はっ!」

芦原が南極拠点に着くとすでに部下の二人はそこにいた。

普段と異なる芦原の姿と雰囲気に戸惑った二人だが、芦原は視線で付いてくるよう促し、数多く存在する部屋の一つの扉を開けた。
そこには、光る卵が無数に鎮座していた。


宇宙の卵。芦原優太郎が生み出した最高傑作の一つ。


様々な色の光を発し薄暗い部屋をぼんやりと照らしていた。
幻想的で魔王の拠点とは思えないほど美しい光景だった。

「アシュ様。これは一体?」

「綺麗じゃん!」

朗々と芦原は宇宙の卵の原理の説明を始めた。
二人は黙って芦原を見つめ、説明を聞いていた。


もし、この部屋がもう少し明るく、芦原が説明に集中していなかったら、二人の目が潤んでいて、頬が朱を帯びていたのに芦原は気がついただろう。


芦原が魔王アシュタロスであった頃は、威圧感しか周囲には感じさせていなかった。
しかし、芦原優太郎となった今、その芸術品のような顔にカリスマ性、知性、刃物のような鋭さを醸し出していた。
実際、芦原優太郎になってから町を歩くだけで多くの女性の視線を集めていた。

ただ、知識としてそのような感情を認識していても経験のない芦原はその意味を理解していなかった。

長い説明を終えた芦原はこう切り出した。

「このことを君たちに話、見せたのは私からの信頼の証だと受け取って欲しい。デミアンとベルゼブルが欠けた今、私は君たちの力を必要としている」

「はい!どこまでもお供しますアシュ様!」

「あたいも!」

「感謝する。具体的な指示はその書類に記載されている。それでは、健闘を祈る!」

親しげに微笑む芦原に二人は赤面したが、慌てて書類の束に視線を落としたため、芦原がそのことに気がつくことはなかった。

普段と違う部下たちの対応に怪訝そうな表情を見せたが、芦原は自分の仕事を思い出し、部屋を後にした。

芦原が通路を歩いていると土偶羅が月から通信が入っている旨を伝えた。
モニターに向き合った芦原はスクリーンに映っている相手に対し、柔らかい笑みを浮かべた。

「ご用件は何かな?月神族の姫君」

芦原が見つめるモニターには気品を感じさせる美貌を持ち、長い髪を腰まで伸ばした女性。

月神族の姫、迦具夜姫が映し出されていた。

モニターの背後には芦原を食い入るように見つめている大勢の月神族が映っていたが、芦原の意識から遮断されていた。

「お久しぶりですね。芦原様。あなたが依頼された件ですが受け入れ態勢が整いました」

「それはどうも。こちらも契約を履行させていただくとしましょう」

芦原が新しい地位を得てから求めたのは、魔界にも神界にも所属しない勢力だった。そして、地球から遠く離れた月神族にそれなりの見返りと引き換えに協力を求めた。

半神半魔の芦原に協力するのに否定的な意見が多かったが、そのカリスマ性に魅かれたのと芦原の計画が無事成功した場合得られる利益を考慮した結果、月神族は妥協した。

迦具夜姫や月警官の間に芦原の写真が出回っていたことがある程度影響した可能性があるが………。

「土偶羅。許可が下りた。完成しているヒドラを全て月に輸送しろ」

「はっ。かしこまりました」

指示を出した後、月側と経過確認をし、今後の協力体制の保証を約束し、通信を終えた。

計画の進展と通常業務の仕事を終えた芦原は今日、新しい住人を迎えることになっている横島家はどうなっただろうかと思い、通信機に手を伸ばした。


ある所に一人の女の子がいました。
その女の子の家はとてもお金持ちでした。おもちゃもお菓子もたくさんあってお金で買える物はなんでも貰えました。
女の子には十二匹のお友達がいました。でも、学校には一人もお友達がいませんでした。みんな女の子の十二匹のお友達を見ると「バケモノ」と言いました。
女の子はとっても悲しい気持ちになりました。
ある日、女の子はお母さんが誰かと知らない太ったおじさんと「けっこん」について話しているのを聞きました。
女の子は賢かったので「けっこん」がどういうことか知っていました。
女の子は知らない太ったおじさんとは「けっこん」したくないと思いました。
女の子は一生懸命考えました。そして、一つの答えを出しました。


オオキク ナラナカッタラ 「ケッコン」 シナクテイイ。


その日から、体は大きくなっても女の子の心は子供のままでした。
可愛らしい顔はいつもニコニコ笑っているのに、子どものままの心は泣いていました。
でも、十二匹のお友達がいつもいてくれたので我慢できました。
そのまま時間だけがすぎ、女の子は中学二年生になりました。
同級生が女の子にこう言いました。「バケモノを飼っている人形」と


女の子が気がつくといろんなモノが壊れていました。


それが原因で女の子はお家を離れることになりました。
遠いニュージーランドのお母さんのお友達のお家に預けられることになりました。
女の子はそこで頭の上に狐を乗せた不思議な男の子に会いました。

「サンチラは巻きつくな!ショウトラは舐めるな!ハイラは人の頭の上をタマモと取り合うな!アンチラは肩から降りろ!残りの奴は噛むのをやめてくれ!!」

男の子は女の子の大切なお友達を「バケモノ」と呼びませんでした。
とっても仲が良さそうでした。しばらくすると騒ぎは収まりました。
男の子の周りにいる人達も女の子のお友達を「バケモノ」と呼びませんでした。

「初めまして、横島忠夫です」

「私は〜冥子〜よろしくね〜」

女の子は目の前の不思議な男の子となら大きくなって「けっこん」してもいいかなと思いました。


六道冥子が横島家の居候になってから、数カ月が過ぎた。
その間に様々な事件が起こった。

冥子の暴走に戦闘能力がメンバーの中で一番低い横島だけが巻き込まれ、ボロボロになる。
「働かざる者食うべからず」を原則にしている横島家で冥子の殺人料理を横島が試食し、昇天寸前にまで追い込まれる。
式神が遊びのつもりで横島に攻撃し、死にかける。
冥子の「たーちゃんと将来結婚する!」発言にパピリオとルシオラとタマモが不機嫌になり、横島が胃に穴が空きそうな経験をする。


被害がたった一人の人間に集中していたが、それはお約束という物だろう。


一方、横島が知らない方面では芦原が着々と計画を進めていた。

ヒドラによるエネルギー転送は無事終了し、月神族との関係は良好、部下たちも順調に与えられた課題を終わらせていった。

芦原も横島も多忙だったが、今まで続けてきた日常は守った。

そして、横島はみごと一学年上に飛び級を果たした。本来なら小学6年生だが、今年から冥子と同じ現地のハイスクールに通うことになった。

が、ルシオラとの約束は果たされなかった。

なぜなら、ルシオラは横島よりもう一年上に飛び級してしまったからである。

横島はそのことを通学路で愚痴っていた。

「ちくしょう!あともう少しでルシオラに追いつけたのに!」

「ふふっ。まだまだ甘いわよ。でも、これ以上上には行かないから大丈夫よ。ちゃんと約束は守ってあげる。でも、高校卒業まで待ってね」

歓喜の叫びをあげようとした横島だったが、頭の上にタマモがいることを思い出した。
いつもならこの辺りで横島を焼くのだが、何を思ったのかいきなり人型になった。
そして、自分より遙かに小さいルシオラと冥子の胸を鼻で笑い、横島を後ろから抱きすくめスタイル抜群の体を擦りつけた。

「お姉さんが練習させてあげようか?」

横島の耳元に口をよせ、甘い笑みを浮かべながらタマモはこう呟いた。

横島はトマトのように赤くなり思わず YES PLEASE!! と頷きかけたが、前方から放たれる絶対零度の視線により強制的に正気に戻らされた。

「ヨコシマ。好きにしていいわよ。命の保証はできないけど」

黒すぎる笑みを浮かべたルシオラがにこやかに断言した。その手には、いつの間にか巨大なハンマーが握られていた。

「たーちゃん〜。これ外すね〜。みんな〜たーちゃんと〜遊びたいって〜」

ルシオラが作成し、霊力の放出量を常に一定量に抑える効果を持ち、暴走を抑える役割を務めているブレスレットに据わった目で手を掛けている冥子がそこにいた。

「私の忠夫は俗に言うナイチチ、洗濯板、no breast, no bosom. 要は、貧乳には興味ないの」

やたらと「私の」を強調し、胸をぐっと横島に押し付け、タマモは炎にガソリンを注いだ。

南半球特有の色とりどりの鳥たちが突然の気温変化を警戒し、周辺の木々から飛び立ち、庭で放し飼いにされている犬は慌てて非難し、横島の足元の芝生の色が変色した。

「ヨコシマそれ本当?」

「たーちゃん?」

底冷えするような声が周囲に響いた。横島はタマモの腕の中ガクガク震えていた。

「あら!忠夫ったら。そんなに興奮しちゃって♪」

さらに気温が下がり、周囲から完全に生物の気配が喪失した。
南極でもこれほどの冷たさはないだろう。


胸が大きほうが好きだと言えば目の前の二人に殺させる。スレンダーが好きだと言えば姉に殺させる。何も言わないか、両方と言えば三人に殺させる。


横島は天に助けを求めた。そして、天は横島に助けを与えた。


高速で落下する緑色の弾丸という形で。


「ヨコシマ。お弁当忘れたでちゅよ。あれ?ヨコシマ?なんで口から泡吹いて痙攣しているんでちゅか?なんかだんだん冷たくなってまちゅけど?」

パピリオのタックルは正確に横島の鳩尾を打ち抜き、その意識を刈り取った。
大ダメージを受けたのにもかかわらず横島の顔は安堵していた。


その様子を呆れた表情でパピリオを追ってきたベスパは見ていた。

「あの馬鹿弟子は相変わらず鈍い。アシュ様も想像以上に鈍感で私の思いに一向に気が付いてくださらないし」

パピリオと違い芦原をパパなど呼ばないのはベスパなりのアピールのつもりだった。
だが、本人はまったくその思いを理解していない。
周囲からの多すぎるほどの好意の視線にもまったく気がついた様子はなかった。

ふと、ベスパはある怖い想像をした。

「横島があんなに鈍いのはアシュ様の性格に感化されたからなのか?」

考えてみれば横島はだんだん自分の創造主であり、思い人の性格を取り入れて来ている。
恋愛方面で影響をうけても不自然ではない。

「いや、あいつの性格は元々だ!アシュ様は関係ない!」

そう自分に言い聞かせたもののベスパは自分の中の不安を拭いきることはできなかった。


ルシオラがパピリオに鉄拳制裁を下した音が、全員の遅刻確定を暗示するように、虚しく周囲に響き渡った。


あとがき


第五話のあとがきで実施させていただいたアンケートですが、規定を読み直した結果、禁止されていました。 

読者の皆様、管理人の方に迷惑をおかけしましたことを心よりお詫び申し上げます。

いままで記入された内容は参考資料として利用させていたただきます。


なお今回、ダーク表記を入れるべきかかなり迷ったのですが最後が明るかったので通常と同様にさせていただきました。

芦原と横島、この二人は合計でいったい何人の女性を獲得できるのでしょうか? 

作者もわかりません。ただ、タマモを中心とする横島争奪戦が始まりました。今後の展開をおもしろい物にしていきたいです。


さて、お詫びとお礼もかねて初めてのレス返しです。

○薄赤球体様

毎回楽しみにしていただけるのは非常にありがたいです。
今後ともがんばりますので時折批評していただければと思います。

○葉っぱの河流れ様

私の処女作に非常に高い評価をありがとうございます。
このような評価にはまだまだ足りませんが、これから目指したいと思います。

○Tシロー様

アンケートに関するご指摘本当にありがとうございました。
Tシロー様のご指摘がなければ規定違反行為に気がつくことはありませんでした。
ありがとうございました。

○セロ様

初めての感想ありがとうございました。

どのような感想でも作者にとっては嬉しいです。
今後もよろしくお願いします

○光と闇様

感想ありがとうございました。
ご指摘どおりですね(笑)

○茶翅様

原作のキャラクターは全員出す予定です。気長にお待ちいただければと思います。

○紅蓮様

この作品が紅蓮様の日常を少しでも楽しいものにできたなら書いた意味があると思えました。
温かい感想ありがとうございました。

○トッチー様

ご投票に影が薄い虎も喜んでいると思います。

○にょふ様

私が個人的に尊敬しているSS書きの方からコメントをいただけて非常に嬉しいです。いつも作品を楽しく読ませていただいてます。
アンケートに関するご指摘ありがとうございました。

○lonely hunter様

毎回の感想ありがとうございます。

○dai様

楽しんで読んでいただけているようで光栄です。
今後もよろしくお願いします。

○ルシファー様

少しづつ技も増やして行きたいと思っています。
今後もよろしくお願いします

○DOM様

オリジナルキャラクターは複数出す予定です。
DOM様の前の感想にご返事できず申し訳ありません。
キャラクターは世界の都市伝説や民話を参考にする予定です。

○葛葉稲荷の狐様

楽しんでいただけたのなら何よりです。
時々読み続けていることを教えていただければと思います。


以上でレス返しは終了です。

来週は多忙なため更新できない可能性が高いです。ご了承ください。

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