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「妖と魔と神に愛されし風 第五話(GS)」

J (2008-05-26 02:13)
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人間には大きく分けて二種類いる。

行為の反復や繰り返し文献などを読み、暗唱することで物事を論理的に学習する人間。
そして、経験や実験を通して物事を体感的に学習する人間の二種類がいる。

横島忠夫という人間は圧倒的に後者に分類されることを芦原はすぐに気がついた。

そのため、芦原は難しい論理の説明や講義は殆ど行わず、映像や科学関連の実験を中心に横島に様々な知識を伝えた。
実験などではパピリオとルシオラ。時々、タマモとベスパも加わったため、勉強嫌いの横島でも楽しめるものだった。

横島は細かい原理を理解することはなかったが、こうすればこうなるという事実過程を驚くほど早く覚えた。
さらに、ルシオラという優秀な教師がもう一人いたため、横島は非常に恵まれた環境で学習することができ、師弟関係になってから飛躍的に知識量が増えた。


芦原は横島の柔軟な発想に感心すると同時に、大いに悩まされた。


ある日、芦原はガラパゴス諸島の動物から生物が生存するために様々な進化や交配を得て、それを観察したダーヴィンが進化論を導き出したことを映像とともに教えた。

すると、横島は芦原にとんでもない質問をした。

「じゃあ、人魚って魚と人間が交配したんですか?なんか、イメージぶち壊しなんですけど」

この質問に芦原は答えることができなかった。

子供の純粋な好奇心から発せられる質問は、時として意表を突くものだとつくづく芦原は思い知らされた。

時々、このようなハプニングが起こったが、芦原は横島忠夫という少年にとって理想の教師だった。

博識であり、自分の質問になるべく答えようと努力し、馬鹿な自分でも理解できるように工夫してくれていることを横島は察していた。

だから、思想的な対立や小さなトラブルが起こることがたびたびあったが、芦原と横島の師弟関係は概ね良好だった。


芦原家の長女、芦原ルシオラにとって横島忠夫という存在は非常に眩しい存在だった。


魔族は身体の一部を失っても大概回復できる。

事故で負傷した横島のように一時的に身体機能を喪失し、長期のリハビリを必要とすることはほぼ皆無だ。そんな、魔族からすれば、横島の行為は滑稽に見えただろう。

だが、ルシオラは違った。


ただ、歩く。ただ、走る。


そんな当たり前の行為を成し遂げるために必死に頑張る横島に、ルシオラは何故か魅かれた。

気がつけばルシオラはタマモと同様に、その優しさと強さに魅かれ、可能な限り横島と行動を共にするようになっていた。

そんな日常で、ある時、リハビリセンターのプールに行き、横島の体が傷だらけなのを知り、驚いた。

気になったが、横島に問いただすことができず、タマモに問うと、タマモはルシオラに横島の長いリハビリ生活の全貌を語った。

これはルシオラが横島に一層魅かれる契機になった。

魔族である自分を恐れもせず、自分が教えることを楽しそうに聞いてくれる横島と過ごす時間はルシオラにとって楽しい時間だった。

そんな時間が少しでも多く欲しくて、ルシオラは芦原と百合子の協力のもと横島と同じ学校に通うことにした。

本来ならば、一年とういう寿命で、道具として生を終えるはずだった自分が普通に生きていられる。

その機会を作ってくれた横島はルシオラにとっていつの間にか掛け替えのない存在になっていた。


そんなルシオラにもいくつか悩みがあった。


まず、自分と同様に横島を狙う人間が複数いること。


ライバルの中で最優位はタマモ。横島が他人の助けを必要としていた時に常に傍で支え、過ごした時間が一番長い。さらに、相変わらず狐の姿で同じベッドで寝ている。

二番は幼馴染の夏子という少女。横島が両足を犠牲にして庇った友人であり、ファーストキスを奪った張本人。月に一度必ず手紙を横島に送っている。

それと少人数だが、横島の現地校の同級生たち。横島の性格に魅かれ仲の良い異性は少なくない。


次に困ったことは頭が良すぎること。


海外の多くの国々では日本と違い、飛び級制度が認められている。ルシオラからずれば人間の学問は苦労せずに最優秀の成績を叩きだすことができる。手を抜くこともできるのだが、真面目なルシオラの性格がそれを許さなかった。

「ルシオラは凄いよな〜。このままいけば二、三年早く高校卒業できるってさ」

ルシオラも学校生活に不満があるわけではないが、横島が居てこそ意味があるものだと認識していた。

「ヨコシマも頑張ればできるわよ。私が教えるから一緒に来て」

「俺は馬鹿だしな〜。できればいいけど」

「そうね。じゃあ、ヨコシマが私と一緒に飛び級して、高校を卒業できたらご褒美をあげる」

「何?」

「ワ・タ・シ❤」

「OK!!約束だぞ!」

ルシオラの爆弾発言を受け入れたことにより、頭の上に乗っていたタマモにこんがり焼かれた横島を笑いながら見つつ。とりあえず、妹よりも発育の悪い体とライバル達をどうしなくては、と思いため息をついた。


芦原ベスパは当初、横島に接するのに対し、否定的だった。


人間の霊力は魔族の力に比べるとあまりにも脆弱だ。伸びるにしろ、高が知れている。そういう固定観念があった。

それでも、創造主である芦原の依頼を中途半端に終わらせるようなことは、ベスパの忠誠心と芦原を慕う思いが許さなかった。

だが、ベスパは己の創造主が認めた、横島忠夫という人間の器の認識が誤っていたことを思い知らされた。

恐ろしく諦めが悪く、なんとか現状を打破しようと創意工夫する。

横島のこの姿勢は、純粋なパワータイプのベスパには無いものであり、参考になる物だった。

横島に教えることで自分の欠点を把握できることに気がついたベスパは、積極的に芦原と横島の教育に携わるようになった。

ただ、大きな問題があった。

元々、学者系統だった芦原にとって学問を教えることはそれほど困難ではなかったが、戦闘技術に関して教えられることはそう多くはなかった。 ベスパも三姉妹の中ではもっとも戦闘能力に優れているが、いささか経験不足だった。

だから、二人は教えられるいくつかの重要な基礎をしっかりと横島に叩き込んだ。


少ない容量をどう効率良く使うか。力で勝てない相手にどう対抗するか。

容量で勝てないなら効率で勝てばいい。力で勝てないなら速さで勝てばいい。


これが、横島に、芦原とベスパが一番初めに教えたことだった。

この教えにより、横島の脚部が完治し、霊能力に目覚め、横島が最初に覚えたのは機動系の能力だった。これにより、パワータイプのベスパとは異なる方向に横島は進むことになった。


「かかってきな!このシスコン野郎!」


「重度のファザコンのおまえにだけは言われたくないわ!」


対照的なタイプの仲の良い喧嘩仲間であり、師弟。これが横島とベスパの関係だった。


芦原パピリオと横島の関係は極めて単純。

血は繋がってないが、面倒見の良い兄と甘えん坊の妹。

パピリオが暇な時の大半は横島が遊び相手になっていた。

横島はパピリオの要望にはできるだけ答えていたが、甘やかすだけでなく、叱る時は叱っていた。
パピリオも自分に非がある時は、理解するのに時間が掛るもののきちんと謝るようになっていた。

だが、一つだけパピリオにはどうしても譲れない行動があった。それは愛のタックルだった。

その小さな身体のどこにそれほどの力があるんだ?と思わずつっこみを入れたくなるほど鮮やかにタックルで横島を吹き飛ばす。
パピリオが横島と対面する度に見られる光景だった。


幼い身体で懸命に喜びを表現し、人生を謳歌する。これが、パピリオの在り方だった。


一方、横島の姉になったタマモだが、日常生活はほとんど変わらなかった。


本来の姿である狐形態で弟と寝床を共にし、その温もりと匂いに包まれ、眠る。

毎朝ランニングに出て行く弟が、自分を起こさないようにそっとタマモを胸から下ろす瞬間を寝ぼけた頭で楽しむ。

人型で家族と朝食を取り、再び狐の姿で弟の頭の上に乗り、登校する。

授業中は律義に耳だけ傾け、弟の膝の感触を楽しむ。

学校が終われば再び頭の上に移動し、その体制を維持。

タマモの母親となった百合子がタマモも学校に行くように勧めたが、タマモは常に横島と授業を聞いていたため、いきなり高学年に編入させられると困るという理由で通信制の学校に行くことを希望した。

もちろん、建前上の理由であり、少しでも弟と一緒にいられる時間を増やすこととルシオラに対する牽制が目的だった。

そうした日常の中で、タマモお姉さまによる教育は着々と進んで行った。

男性のファッション雑誌を購入して来ては好みの服を進める。
女性の褒め方を自分相手に練習させ、お互い赤くなる。
時折、わざと人型でルシオラの前で存分に甘え、その場の空気を十度下げる。


タマモによる逆光源氏物語計画は順調だった。

忠夫は絶対に渡さない。この誓いを胸にタマモは現世を楽しんでいた。


横島忠夫という人間は基本的には女好きでスケベだ。

そして、自分に対する好意に対し、凄まじく鈍い。その一方、他人の悲しみや苦しみ、怒りなどの感情に対し敏感だ。

特異な能力の効果もあり、飛びつくなどの自分のセクハラ行為が他人にとって迷惑な行為であることを理解していたがなんとなくやめられずにいた。

そして、事故で両足の自由を一時的に失い、セクハラ行為は強制的に停止となった。

事故後、横島はリハビリと新しい環境に適応する日々に追われ、煩悩どころではなくなった。

辛い生活の中で横島は両親やタマモ、新しい友人やリハビリセンターの職員の人々がどうしようもない自分を受け入れ、支えてくれることに感謝することを覚えた。このことは横島を大きく変えた。


結局、自分がセクハラをしてまでも欲しかったのは他人の温もりだったのだ。と気がつくことができたのだ。


そんな、ある日、芦原に出会い、夢と目標を見つけ、理想の教師陣を得た。


「Accelerate!」
(加速!)


横島の踵を挟むように小さな六角形が二つ現れた。片足に二つ、両足で合計四つの六角形。

横島が生まれて初めて獲得した霊能力。Accelerate. その名の通り高速移動を可能とする能力。

横島のまた走れるようになりたいという願望がまさに形になったと言える能力。

置かれたコーンの間を縫うように高速で移動。難しいステップも交え、それを繰り返す。

覚えたての頃は制御できず、頻繁に近くの木や塀に激突していたが、今では軽々と細かい動きが可能となった。

しばらくフットワークを繰り返した後、今度は助走をつけ足から霊力を放出。


「Take off!」
(離陸!)


Accelerateを応用し、空中にあたかも地面が存在するかのように走り回れる能力。横島が一番欲した能力。

ある程度の高さまで駆け上がり、下の広大な緑を目に焼き付けた後、能力を解除し、自由落下に身を委ねる。風が通り抜ける音と感覚を満喫し、地面が近くなれば再び能力を解放し、ブレーキをかける。これの繰り返し。

この現象の目撃者からは一時期、怪奇現象か勘違いされ騒がれたが、オープンマインドな人々は害がないとわかるとエンターティンメントとして捉えるようになった。

「よし!準備運動終わり!」


自由落下を繰り返し、満足した横島は芦原とベスパが待っているであろう訓練室へと向かって行った。


基本的な性格に変化はさほどなかったが、少年はたった数カ月で大人に近づいた。


このような横島家と芦原家の平穏な日々は、横島が小学五年生を終えた春休みに、日本の有名私立学校の校舎の一部が原因不明の事由により崩壊したというニュースが報道され、日本から百合子に一つの依頼が届くのと、芦原の部下の編成に変化が起きるまで続いた。


あとがき

この拙い作品も皆様の温かいご支援のおかげでとうとう五話まで進むことができました。

本当にありがとうございます。

今回は横島とその周囲の人々と関係を描いてみましたがいかがでしょうか?

さて、話のシナリオは大方決定したのですがどの順序で進めるべきかという点で悩んでいるのが現状です。

次に出すキャラクターは確定しているのですが……

散々悩んだ結果、小説とは読者の意表を突かなければいけないが、期待を裏切ってはいけない。という結論にいたりました。

そこで、参考意見として下記のキャラクターで皆様が好きな人物をできればコメントを記入するついでに教えていただければと思います。

必ずしもすべての方のリクエストにお答えできるわけではありませんが、今後のストーリー展開を考慮する上で重要な参考資料になりますのでご協力お願いたします。

1.魔界正規軍の大尉
2.神界の覗き魔
3.小王国の王女
4.影の薄い虎
5.オリジナル キャラクター

長々と失礼しました。

では、また次回もよろしくお願いします。

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