「家族か……私が受け取ってもいいモノなのかな?」
「俺はベスパを家族だと思っている……押し付けがましいかも知れないけど……お前にも思って欲しい」
「ありがとうポチ……いや、これから名前で呼んでもいいかな?」
「いいもなにも、お前が呼びたい様に呼んでくれればいい」
「……ありがとうヨコシマ……あれ? なにか忘れてないか?」
「ん? 何をだ?」
「私の事ででちゅか?」
「「パピリオ!?」」
「いいんでち……どうせ私は小さいでちゅから、視界にすら入らないんでちゅよ。更に、小竜姫のおばちゃんも、猿の爺ちゃんも、私がヨコシマとベスパちゃんと一緒に人界に下りる事も許してくれまちぇん……そんな存在感なんでちゅよ……透明なんでちゅ、空気扱いなんでちゅ……末妹の扱いなんてこんなもんでち」
「いや……なんか色々すまん」
「ヨコシマが謝る事ではないでちゅよ……折角ベスパちゃんが来たのに、一言も掛けてくれないヨコシマが謝る必要なんて何処にもないでちゅから」
「パピリオ……ごめん」
「ベスパちゃんも謝る必要ありまちぇん……いつもいつも、アシュ様、姉さん、アシュ様、姉さん……私の事を呼ぶ時は、だいたい怒っている時だけでちゅもん」
「(どうする! 律儀に三角座りをしながらも、きっかりと怨嗟の視線を送っている……こんな暗いパピリオをどうするよ!?)」
「(私に聞くなっ! 私だってこんなパピリオを見るのは初めてだっ!!)」
「いいんでちゅよ……私なんて、所詮サブヒロインにすらなれない存在なんでち。この作者が炉じゃないから駄目なんでちゅよ……けど、炉じゃない作者が、キツネやらイヌは書くのに、何故に蝶は書かないのでちゅかね? 不思議で仕方ありまちぇん」
「(をい! 今、とんでもないメタ発言したぞっ!?)」
「(だから私に聞くなっ!)」
「そもそも同じ炉属性のキツネを優遇し過ぎでちゅ。それともなんでちゅか? 小と中では違うのでちゅか? 更に言えば、普段はクールなのに仲良くなったり、二人っきりになったらデレデレする……通称クーデレの方が炉属性より優っているとでも言うでちゅか? 私はキツネには無い義妹属性もあるのに、なんで駄目なんでちゅかね? 不思議でなりまちぇん」
「(ベスパ! 止めてくれっ!!)」
「(私に振るな! ……それに、何故だかパピリオの気持ちが判らないでもない…)」
「(えぇ~~)」
「やっぱり言葉遣いの問題なんでちゅかね? 書きにくいとか、面倒くさいとか思われているんでちゅかね? ……はっ?! 何をするでちゅか!?」
「「電波を拾い過ぎだっ!」」
「おぉ! いつもは役に立たない鬼門が初めて役に立っている!?」
「「横島、お主と言うヤツは…」」
「それにしても……黒服二人が活躍する……M〇B?」
「ベスパっ! MI〇はヤバイから!! それ以前に、何でそんなに古いの知ってんだよっ!!」
GS美神極楽大作戦!! ~ラ・カンパネラ~
第三章 ~アモソーゾ~
パピリオの電波収集……もとい混乱は、連れて行った鬼門たちと、その上司である小竜姫&猿神に任せて、横島とベスパは妙神山を辞した。その後にパピリオが受けるであろう“教育”に不安を残し……更に、小竜姫の事をおばちゃんと言ってしまったパピリオの今後の生涯に障害が残らないかと、一抹の不安を残しながら。
そして、魔界からの贖罪として受け取ったマンションが、横島の想像では一室だったのだが、一室ではなく一棟であった事実に驚いていたが、それでもベスパと同居せずに済んだ事に安堵していた。
なにせ横島はその本能とも言うべき煩悩が、人間以上魔族未満と言う中途半端な時期にあるにも関わらず、その衝動が異常に高い。
そんな横島が、魅惑的な身体の持ち主であるベスパとの同居が指す意味は……死亡フラグしか立たないだろう。
そんな事は捨て置き……日常は動き出す―――
◆◆◆
「初めての仕事がキツネの保護ね~」
「ヨコシマ、キツネじゃない。金毛白面九尾の妖狐と呼ばれる妖怪の保護だ」
広がる大自然を前に早速緩んでいる横島と、初仕事と言う事もあり、気を引き締めているベスパ。
そんな二人が織り成すアンバランスの所為か、周囲にいる人々に心配を植え付けて、留まる所を知らない。
「横島君、君は本当に…」
そんな横島の駄目っぷりに、勇気をもって突っ込んだのは、この捕り物の責任者でもある西条輝彦だった。
そもそも、この仕事を横島に斡旋したのが西条が所属するオカルトGメン。日本政府からの要請で、最近転生が確認された傾国の大妖怪、金毛白面九尾の妖狐の排除命令が出された。
しかし、オカルトGメンが九尾の狐の伝承を調べれば、九尾の狐が悪さをした事はあくまで迷信である可能性が高く、排除命令よりも保護をし、『人間は味方』であると言う認識を与えた方がむしろ安全である。と政府に具申し、その申し出を受け入れさせた。
そしてその任を、人界において関東守護者の立場に抜擢され、更に、神魔両最高指導者から、その存在を超法的に不干渉であるとの後押しも受けている横島に託した。
「んだよ西条……俺の無知はお前だって知ってんだろ?」
「知ってはいたが、よもや九尾の狐すら知らないとは思わなかっただけだ」
「言ってろ! 俺は美人以外の事を覚える脳は持っちゃいねぇ」
ベスパの方に視線を向けて偉ぶる横島。
そんな美人の代名詞的な表現をされたベスパは、褒められ慣れていない所為か顔を赤らめ、横島が魔族になっても腐れ縁が切れていなかった西条に至っては、諦めにも似た表情を浮かべて横島の言葉に、深い深いため息を吐きながら、頭を垂れる他無かった。
「横島君、九尾の狐ってのはね……凄い美人なのよ?」
そんな横島に唯一言葉を掛けれたのは、オカルトGメンの嘱託顧問である美神美智恵だった。
先月頃、出産を済ませたばかりなのだが、それでも仕事が仕事だけに、産後の身体をおして横島達のアドバイザー的な立場をとっていた。
そんな美智恵にガンを飛ばしているベスパは、『褒められて嬉しかったのに……水を差すとは何事か? ぁぁ?!』と言う気持ちと、単純な相性が悪さ……更に、先の大戦の時の船上での戦いが関係しているのだろう。
「西条! その九尾の美人は何処にいるんだ!? 早速救出して我が家で保護しようじゃないかっ!!」
西条とベスパがこけた。
美智恵は横島の言葉を予想していたのだろう、微笑みを浮かべていた。
「駄目よ横島君、相手は生き物なんだから、扱いには十分に気をつけないと」
「美人の姉ちゃんの扱いなら任せて下さいっ! 経験の無さは若さでカバーしますからっ!!」
「何を若さでカバーするつもりだいヨコシマ?」
「言ってもいいが……これは18禁じゃな」
殴られた。
「まぁ、冗談はさておき……本当に何処にいるんだ?」
ベスパに、えもいわれぬ笑顔で殴られて、大きめなタンコブを作りながらも仕事モードに移行したのか、真面目な表情を浮かべている。
結構大きいタンコブさえなければ、それなにり格好良いのに――台無しだ。
「どこまで本気かは知らないが、我々の調査ではこの森の何処かに潜伏しているらしい」
「らしいってなんだよ?」
「我々も少ない人員を割いて隈なく探したさ……しかし相手は妖怪、更に言えば転生まもない子供だ。ある程度、行動原理が解る相手ならまだしも、子供の所為か、警戒心が強すぎて不可能だった」
オカルトGメンの慢性的な問題点が浮き彫りになってしまったからか、ため息交じりに愚痴ともとれる言葉で報告書を読み上げる西条。
オカルトGメンは慢性的な人材不足、それも異常なまでの人材不足。公務員=安定した職業ではあるのだが、オカルトに関係する仕事としては給料が少ない。
一般的な公務員等と比べると、危険手当等々含めてかなりの給料ではあるのだが、それでも一般GSの見習いの方が遥かに給料が良い……勿論、横島の元上司のGS見習いは除外する。
そんな、危険な仕事なのに相場より安い給料で仕事をする人物など、西条の様に、『貴族の務め』と称して、社会奉仕に興味がある人物か、美智恵の様に、『正義の味方』に憧れている人物か……その数は少ない。
閑話休題。
「……西条よ。今、とんでもない事を聞いたぞ?」
「何がだい? 君の文珠を使えば、探索など片手で出来るだろ?」
「そんな事じゃねぇ! お前が言った最後辺りの言葉を良く思い出してみろっ!!」
横島の血の涙を流さんばかりの憤怒に、自分の言葉の最後辺りを省みる西条――
――行動原理が解る相手ならまだしも、子供の所為か、警戒心が強すぎて不可能だった――
――子供の所為か、警戒心が強すぎて不可能だった――
――子供の所為か――
――子供――
「そこかぁぁ!!」
「そこじゃぁぁ!!」
西条の叫びに叫びで応える横島――本当に台無しだ。
「美人の姉ちゃんの捜索ならまだしも、なんで子供を捜さなきゃならんのだ?」
「……源氏物語」
「隊長―――別に俺が保護してしまっても構わんのだろう?」
美智恵が呟いた言葉に、鋼を思わせる背中で応える横島。
再び西条とベスパがこけた。
「よ、横島君……君と言う人間は…」
「西条……お前だって解らんでもないだろう?」
「……まぁ、光の君は他人には思えないしね…」
藤壺とか若紫とか――尊敬する女性とかその娘とか――西条も案外俗物だった。
一方、ベスパは横島と西条のやり取りが解らないのか、美智恵に教授願うか微妙に悩んでいた事を書き残しておきたい。
「雑談も済んだ事だし……お願いね横島君――多分、自衛隊も動いているから」
「そう…ですか」
関東守護者と言っても、魔族である横島と、その部下のベスパが来たから自衛隊もまた動いた――そう考えるに十分な力を横島は持っている。
幾ら魔族になりきれていないと言っても、その力は人間と時と比べると非常に大きいモノになっていた。
霊力の単位である、マイトで数えると神族調査官であるヒャクメより上。魔族としては下級魔族程度だが、人間の柔軟な思考と、人間以上の力。更には、まだまだ成長する横島は、それだけで脅威と判断されても仕方ない。
そんな自分の所為で、九尾の狐にあらぬ被害を与えてしまうかも知れない。それが子供であるなら尚更、横島の思考には慙愧の念すら浮かぶ。
たかが子供、されど傾国の大妖怪――日本政府の恐れや焦りも理解出来るし、そんな、自分の所為で、要らぬとばっちりを受ける九尾の狐の事を思うと……奥歯の軋む音が嫌に大きく聞こえた。
「私もなんとか手を打ったんだけど……流石に内閣をボロボロにする訳にもいかなかったし、これが限界だったわ」
「なんの話ですかっ!」
「貴方のお母さんだって手伝ってくれたのよ?」
「俺はなにも聞いてませんっ!」
結構な覚悟を決めた横島だったが、杞憂に終りそうだ。
◆◆◆
「ベスパ、そっちはどうだ?」
『駄目だね……反応なし』
「文珠の方はどうだ?」
『ん? それは大丈夫、まだまだ持つよ……けど、それの所為かもね。一文字じゃ探し難いのかも知れない』
「やっぱり本命は俺か……それじゃ適当に散策でもしててくれ」
『解った』
二手に分かれて九尾の狐を捜索していた横島とベスパ。
通信鬼での通話通りに、ベスパに文珠の≪探≫を渡して捜索させているが、やはり≪探≫≪索≫の方が効果が高い。
しかし、ベスパに二文字の制御は不可能。文珠の生成が可能な人物は三世界広しと言えども横島一人。例外として、雷と学問の神、菅原道真も生成出来るが、それは≪雷≫の文珠のみ。
更に二文字の同時使用に至っては、横島以外に誰も出来ない。これも例外として二人で分担すれば、二文字の効果を出す事は可能だが、一人で二文字以上のキーワードを扱えるのは横島以外に存在しない。
「……はぁ、自衛隊の奴等は撒いたけど……ったく、こんな広い森の中で狐一匹探すのって面倒臭過ぎるだろう…」
愚痴を吐きながらも、仕事をサボればそれだけで給料が下がってしまう事が脳裏に浮かぶ……美神の所で働いていた時に比べると、格段に給料は上がったが、それでも今月は厳しかった。
ベスパの為に買い揃えた服やら家具やら化粧品等々。更に、自分の為用のAV機器と、それと同じ名を冠するビデオとDVDの数々。ブルーレイディスクは地上波放送が終ってからでも遅くないと思ったので購入は先延ばしにしていた。
閑話休題。
「キツネ~、出て来いキツネ~。お前の好きな油揚げを用意すんぞ~」
そんな誰も引っ掛からない言葉で、九尾の狐を油断させていると思っている横島は、本命である≪探≫≪索≫の文珠で方向ぐらいまでは、おぼろげに位置を指してくれる文珠が示す方向に歩いてゆく。
「ん~、結構近くまで来てる筈なんだけどな…」
幾分歩いた横島だったが、周囲になにかモヤが掛かった様な違和感を覚えて歩みを止めて、周囲を警戒し始め――
【……シマ】
――心が塗りつぶされた。
【ヨコシマ…】
「ルシ…オラ…」
忘れるつもりもなければ、忘れる筈もない。
横島が一生愛すると誓ったルシオラの声が――横島の名を呼ぶ彼女の声が、横島の心を塗りつぶしてゆく。
か細い声なのに、横島の耳にはっきりと聞こえる声で、悲しみにも似た声色で横島の名を呼ぶ彼女は……あまりにも残酷だった。
【なんで……なんで私じゃなかったの…】
「あ…あぁ…」
【どうして……ねぇ……どうしてよ……ヨコシマ…】
ルシオラの声はゆっくりと横島を蝕む。
「違う……違う…」
否定しても否定しきれない。
これは幻だ。そう理解出来た横島だったが、それ以上に心が死にそうになる。たとえ、あの時の決断が間違っていないと思っても、ルシオラの声で否定されたら…。
【私じゃなくても良かったから?】
「違う…」
姿を現せたルシオラの偽物に心が奪われて――
【私より、美神さんの方が良かったから?】
「違う…」
心を奪われたから、心が壊れそうになって――
【私を―――愛してなかったから?】
「あ…」
――全てが砕け散った。
「おい……そこに居るんだろ?」
誰かが見せたルシオラの幻を、憤怒を帯びた霊圧で吹き飛ばし、その幻を見せたモノを破壊し尽したい衝動に駆られながらも、冷徹に、冷静に……幻の主に声を掛ける。
「なんで…」
出てきたのは金色の髪が印象的な少女。その瞳に写るのは、純然たる疑問。
彼女は今まで自らの幻術に自信を持っていた。それがものの数秒で霧散してしまった事に対する疑問と――
「大事な人からの拒絶を破れるのよ…」
――その疑問で埋め尽くされていた。
「ありえないからだ」
「ありえないって……そんなこと無い! あの幻は、人の心の影を映し出す幻術なのに!」
「それでもだ……お前が見せたルシオラは……嘘を言ったから」
静かに、そして表情という表情を捨てて、その少女に近づく横島。
先程浮かべた憤怒も、先程感じた憎悪も、先程思い知らされた悲愴も――全て捨てたかの様な表情で。
「嘘って……あの幻術が嘘をつく訳ないっ!」
横島の無色の表情にか、少女は恐怖し、怯え、自分の最期を悟った。
「ルシオラはな……最高にいい女ってのはな……愛した男を疑うなんて、そんな陳腐な事しねえんだよ」
横島の手が少女にせまり――
「……なんで…」
――頭を撫でた。
「正直……俺はお前を殺そうとした」
「……私も殺されると思った」
「けどな……嘘でも……嘘だったとしても……もう一度逢えたから」
だから感謝している。
言葉に出さずとも、少女には伝わっていた。
慈しむかの様な掌の暖かさと、色の消えていた横島の表情に、悲しみが彩られ――喜びで満ち溢れていた。
それは決して喜ぶ訳でもなく、それは決して悲しむ訳でもなく――ひたすらに、複雑に、絶望と切望に――逢えた事に感謝していた。
「……ごめん……ごめんなさい…」
そんな暖かさを感じた少女は、その大きな瞳に涙をためて謝罪する。
決して穢してはならない、その大事な心を穢してしまった懺悔と、その咎を包み込む程の優しさを持つ横島の手に触れて。
「いいんだよ謝らなくて……俺は感謝してるから」
「ごめんなさい……ごめんなさい…」
知らなかったから、怖かったから、平穏に暮らしたかったから。
だから少女は横島に幻を見せた。
周囲に大勢の武装した人間を見たから怖くて。そこに人ではあり得ない程の力を秘めた横島とベスパが来たから怯えて。そして、姿を隠しているのに、それでも近づいてくる横島を見たから恐れて……だから幻術を使って追い返そうとした。
「泣かないでくれ……俺はお前に感謝してるんだから……そんな顔されたら、俺はどうしていいか判らなくなる」
優しく全てを包み込む様に――痛い程に抱きしめて。
少女の懺悔が終わるまで。
少女の涙が消えるまで。
少女の寂しさを。
少女の孤独を。
その全てを――優しさが少女の全てを包み込んだ。
◆◆◆
「ねぇ……私はこれからどうなるの?」
「そうだな……家に来るか? 幸い部屋はまだあるし」
あの後、少女は横島の胸の中で泣き続け、横島もまた、それを享受していた。
横島が貰った全ての人の優しさを、この少女にも分け与えるかの様に優しく、少女の顔に涙の跡を残さぬ様に力強く。
「いいの?」
「いいもなにも、お前に決定権がある」
「本当にいいの? 私は妖怪なのよ?」
少女の名はタマモ……横島が保護すべき金毛白面九尾の妖狐だった。
「それだったら俺は魔族だ。成り立てだけど」
「そうなの?」
「そうだ」
「……そっか」
二人は手を繋いで森を歩く。
少しくすぐったい様な感覚と、手の平から伝わる暖かさ。
沈黙すら嬉しくて、たゆたう空気にその身を任せる。
「……あ、ベスパに連絡しねぇと駄目じゃないか」
「ベスパって?」
「うん、俺の義妹かな? お前が見せてくれた……ルシオラの妹だ」
「家族…なの?」
「そうだ、大事な家族だ」
横島の嬉しそうな顔を見て、タマモの表情が曇る。
自分はそれを穢してしまったから。
決して踏み込めないと思ったから。
手を繋いで、傍に居る筈の横島が――急に遠くに居ると感じたから。
「……そんな顔すんなって」
タマモの沈んだ表情を見た横島は、ギュッと握る手の力を強める。
「でも…」
それでもタマモの表情は晴れない。
「デモもストライキもねえって……俺で良かったら、この手を離さないから」
「……駄目よ……私はあんたの…」
穢したから、大事なモノを穢してしまった自分には、その暖かさは心から欲しても、これ以上は欲せない。
タマモは頭を振り、繋いでいた手の暖かさの最後を感じて、沈んだ……泣き顔にすら見える表情を浮かべていた。
「それは違う……言ったろ、俺はお前に感謝してる」
「……」
「それに……孤独は辛いだけだ」
横島は自分に向けられた優しさを思い出す。母に、父に、師に、友に――自分がヒトで無くなっても、その関係を続けてくれた喜び。
もし、自分一人だったら、今の様な明るさなど持てなかっただろうと思えた。
だからこそ、タマモにも――孤独しか知らず、その寂しさの空しさを知らないタマモにも、優しさを向けられる喜びを知って欲しかった。
慰めや同情、哀れみ等の感情は、浮かぶ隙間が見当たらない。
ただ知って欲しかったから、ただ向けられる優しさの暖かさを知って欲しかったから、無償の好意が……涙が出るほど嬉しい事を知っていたから、だから横島は訴える様に、囁く様に掴んだ手を優しく包み込んだ。
「……ありが……とう」
優しく包まれた手を握り返して、もう孤独は嫌だと。
一人でいる辛さを知ったら、もう一人で居るのは嫌だと。
それを教えてくれた横島に、優しさを向けてくれた横島に。
求める様に、縋る様に……自分の存在を求めた。
「お前は今日から横島タマモ……うん、俺も忠夫だから丁度いいな」
「横島タマモ……それが私の名前?」
「そうだ、よろしくなタマモ」
「……うん!」
タマモの顔に浮かぶ笑顔。
泣き顔なのに綺麗で。
壊れそうなのに眩しくて。
儚げなのに嬉しそうで。
その美しさを――二度と涙で濡らさぬ様に。
その眩しさを――自分の弱さで壊さぬ様に。
その嬉しさを――決して誰にも奪われぬ様に。
横島は、心の中で誓いを立てて―――殴られた。
ベスパに。
「連絡もせずになにしてんだよっ!」
殺傷能力十分なナッコーで。
勝手に仕事を終らせて、その連絡もなく。更に、勝手に家族を増やしていた横島に鉄拳制裁。
それは、先程自分を綺麗だと褒めた横島が、そのベクトルとは別の存在であるタマモと手を繋ぎ、あまつさえ微笑み合っていたところを見てしまい、淡い嫉妬を浮かべたのかも知れないが、それはベスパにも解らない。
西条に。
「まったく……君と言う男は…」
霊剣ジャスティスで抜き打ち一閃。
タマモを見て、将来有望な美少女であった事実に、光源氏を地で往くかも知れない横島に、少しの憧憬と少しの嫉妬……それを隠す為の、ちょっと真面目な仮面を被って。
美智恵に。
「……はぁ」
仕事ぐらいは真面目にして欲しいと思っていた所に、保護対象である九尾の狐と仲良く手を繋いで帰ってきた横島に、軽いお説教の意味でのデコピャン。
ついでに、横島に想いを寄せる、我が娘の事を考えると先が思いやられる……と考えていたかは美智恵以外に知り得ない。
あとがき(オチが強引やん…)
プロットでは、軽く流すつもりでしたが、書き上げてみると一話分にまでなりました……そんな事よりも! メインヒロイン&その妹の扱いがあんまりだっ!! ……後、タマモが結構素直なのは、横島君を認めているのと、自衛隊に追いかけられて怪我をしていないからです。
この作品以外に拙僧の駄文をご存知ない方へ、冒頭のパピリオの電波説明……拙僧はこれ以前に短編をこのサイトに投稿しております。その駄文の中に『愛のゆめ』と言う作品があります。そして、そのヒロインがタマモでありましたのでキツネ贔屓と、更にその蛇足にシロも登場しましたのでイヌ(オオカミ?)も贔屓していると……拙僧は炉ではありません……ほ、本当ですよ?
最近、考えるのが億劫になってきた副題の意味を
アモソーゾ――愛情に満ちて
これを書いてて、絶対可憐チルドレンの名前のつけ方が今更ながら気付きました……本当に今更です。
次回、日常です……か? (いや! 聞かれてもっ!)
レス返し! 考え、書くのが楽しいです!
Tシロー様
確かに、ベスパの顔を殴る横島君はらしくありません、プロットでは一方的に殴られる設定でしたが、リテイクを繰り返す内に、横島君にも魔族的な部分も欲しくなったので……これでお互いに発散させたつもりです……後は日常を横島君と過ごすベスパが、何気ない優しさを持つ横島君に惹かれていく様を表現出来る様頑張って参ります。
夕方の河原で殴り合う不良たち>……おぉ、夕陽(ルシオラ)が後ろの方で見詰めていた……その背景は素敵です。
斯様に素敵な場面を背景にかけない私の作品ではありますが、それでも読んで頂けますと嬉しい限りでございます。
lonely hunter様
軽い雨ではございましたが、これで横島君とベスパが一歩近づいたと思います。これからベスパの気持ちが横島君の何気ない優しさによって動いていく……ってな具合に続けて行きたいと思います。
小竜姫さまは……これから登場自体少ないと思います。私は小竜姫さまが好きなんですが……それをこの作品に反映させるかは別の問題ですので…。
斯様に偏愛甚だしい私の作品ではございますが、それでも読んで頂けますと嬉しい限りでございます。
J様
心理描写は……これからもっと組み込まないといけません……あぁ、大変っス。
斯様な駄作でも一応はラブコメ仕様なので、今回の様にふざけつつ、ベスパの愛らしい姿を表現して行きたいと思います。
未だに作品にムラッ気がありますが、それでも読んで頂けますと嬉しい限りでございます。
粗鉄様
小竜姫さまはそんな事……言いそうで仕方ありません。若く明るい小竜姫さまは、恋愛に疎く、嫉妬心もそれ相応に高いと考えて書いています……私の妄想ですが。
これからは、嫉妬に狂って自分から逆鱗を触る様な小竜姫さまは登場いたしませんが、それでも読んで頂けますと嬉しい限りでございます。
Unknown様
美人の姉ちゃんであるベスパを殴る横島君は、確かに違和感バリバリです。それでも、分かり合う為に泥臭い事も……と思い書きました。
パピリオにつきましては、冒頭にも書きました通り、素で忘れてました(汗)。
これからもパピリオのスタンスは変わりませんが、それでも読んで頂けますと嬉しい限りでございます。
猫人間ののん様
横島君とベスパの殴り合いは……短編でしたら、互いに傷を舐めあう内に堕ちてゆく……と、ダークに纏める事も考えていましたが、それではあまりにも救いがありませんでしたので、中編にして幸せな風景を書ければと思い、これを書き始めました。
本編につきましては、私も、これから前に進むだけだと考えていたのですが、サブヒロインも必要かな? と言う、私の寄り道好きな悪癖が鎌首をもたげてしまいました。それでもタマモが横島君と一緒にいる所為で、ベスパが感じた淡い嫉妬も表現出来ましたので、一歩前進? と考えています……ベスパ自身は理解していませんが。
未だにベスパの愛らしい姿は、嫉妬以外に書けてはいませんが、それでも読んで頂けますと嬉しい限りでございます。