都内某所のある一軒家の地下室で、アウトロー竜神のメドーサとはぐれ魔族のプロフェッサー・ヌルがTVの臨時ニュースを眺めて愉快げな笑みを浮かべていた。
「クックックッ……あのノスフェラトゥとやら、思ったより派手にやってくれてるようですね。これで当分研究資金には困りません」
と部屋の隅を見やったヌルの視線の先には、札束やら宝石やら美術品やらといった金目の物がうず高く積み上げられていた。
これは彼がつくった人造モンスターの中で外見が人間に似ている者をゾンビに制圧された地域に送り込んで、金を持ってそうな家や会社などから盗んで来させたものである。ヌルもメドーサもあまり目立ちたくない身の上なのだが、今なら火事場泥棒くらいで誰も自分たちに注目はしないだろうし、犯罪の責任は全部ノスフェラトゥに押し付けることができるのだ。
「日本を出るのを遅らせたかいがあったというものですな。いや濡れ手で粟とはまさにこのこと」
ヌルはすっかりご満悦だったが、メドーサはそんな相棒を見て逆につまらなさそうな顔になった。
「でも被害の広がり方がちょっと速すぎだね……これじゃ天龍童子は出て来なくなるかも知れないじゃないか」
メドーサの見立てではノスフェラトゥが復活するのは今月の3日か4日、ちょうど竜神王たちが人界に来る頃になる予定だったのだ。俗界に興味津々な天龍童子が妙神山を抜け出した後でゾンビ騒ぎが起こったら、その混乱に乗じて天龍を暗殺しようという計画なのである。
しかし今日の段階でこんな大騒ぎになっていては、天龍は人界に来ても妙神山からは出ないだろう。いくら何でも修行場の中に乱入するのは無謀だし、これでは肝心の暗殺計画は中止せざるを得ないではないか。
「しかしノスフェラトゥのヤツ、何だってこんなに早く復活したんだろうねぇ……?」
多少目算がずれるのは仕方ないが、5〜6日後になる予定が2日でというのは早すぎると思う。何があったのだろうか?
しかしヌルの方は天龍の件にはあまり関心がないので、受け答えは多少ぞんざいであった。
「まあ、復活してしまったものは仕方ありませんよ。それにまだ天龍童子が出て来ないと決まったわけでなし、もう少し様子を見てはどうですか?」
「……ま、そりゃそうなんだけどね」
メドーサは軽く肩をすくめると、臨時ニュースが終わったのを機に外の空気でも吸おうと部屋を出て行った。
政府当局はめでたいはずの正月に降って湧いた、この異様な大惨事の対応に思いきり頭を悩ませていた。
まず原因がさっぱり分からない。彼らはオカルト関係者ではないため、織田信長と名乗った男が吸血鬼で街を歩いているゾンビはその被害者だなどとは想像できず、おそらくは伝染病か細菌兵器によるものと考えていたが、それはゾンビたちを「病人」だと解釈することでもある。そこでまず原因と対処法を調べるためゾンビを何人か捕獲するよう指令を出したのだが、現場はそんな芸当ができるほど生やさしい状況ではなかった。
ゾンビたちが「病人」つまり生きた人間で、武器を持たず暴徒の類でもないとなれば、動員されてきた機動隊員たちもあまり強力な武器を使うわけにはいかない。しかしゾンビたちはすでにかなりの大群になっており、しかも自分から人の血を求めて襲って来る危険な集団である。その上彼らに咬まれた者もゾンビになってしまうとあっては接近して捕獲するなど論外で、せいぜい放水車やゴムボール弾などで押し返して被害が広がるのを防ぐのが精一杯だった。
ちなみに催涙ガス弾や麻酔銃の類は多少は効くのだが、ゾンビの数に対して弾薬の保有量が少な過ぎたのであまり役に立っていない。
そして何より今が元日の午前中であることと、事件の中心地が都心部であったため人員の召集が遅れており、そのために当局の対策は思うような成果は上げられていなかった。
―――といっても、まだ東京全域が騒乱の渦に巻き込まれてしまったわけではない。都内の有名レストラン「魔法料理 魔鈴」の近辺はまだ平穏で、店もしっかり開いていた。元旦だというのに商売、いや研究熱心なことである。
その魔法料理店のドアの前に、ゴスロリ服を着た少女が現れた。
「これは……やっぱり魔力ですね。店主は人外、それとも魔法使いでしょうか?」
言うまでもなく、ノスフェラトゥの命令で「力ある妖怪」を探していたカーミラである。店の前からでは店主の正体は分からないが、彼の要求は正確には「強い妖力や魔力を持った有血生物」という意味なので、どちらであっても条件は満たされる。
従ってカーミラは店主を捕まえて彼の元に届けねばならない。心底気が進まない様子ながらも、少女はドアを開けて店の中に入って行った。
店内はごく普通のレストランで、特に変わった様子はない。まだ11時過ぎで昼食時ではないからか、さいわい他の客の姿はなかった。
とりあえず席についたカーミラの前のテーブルの上に、黒い猫が飛び乗った。口にメニューをくわえている。
「いらっしゃいませ。メニューをどうぞ」
「……! 使い魔、ですか……」
やはり店主は魔法使いで間違いないようだ。となるとここに来る前に捕えた妖猫と違って単なる力押しではなく、想像外の不思議な術を使ってくる可能性がある。こちらもそれ相応の戦術を採らねばならないだろう。
一方黒猫の方は初めての客が自分を見てあまり驚かなかったことを意外に思ったが、その方が楽なので特に反応はしなかった。
カーミラはメニューを受け取って目を通したが、その間も店主が現れる気配はない。厨房の中にいるのだろうが、いきなり突入するのも不用心なので、まずは様子見ということでサラダセットを注文した。
それを承った黒猫が帰って行くと、今度は入れ違いのような形で腕がついた箒が現れる。こちらは手にお盆を持っていて、どこかぎこちない動作でテーブルの上に水を置いて去って行った。
「……。ここの店主、人間嫌いなんでしょうか?」
客は自分1人なのだから、店主が自分でメニューと水を持って来ればいいものを。最後まで出て来なかったらどうしようかとカーミラはちょっぴり不安になってしまった。
……もっとも魔鈴は決して人間嫌いなのではなく、単に魔法料理店の趣向の1つとして黒猫と箒に応接させているだけの事なのだけれど。
「―――お待ちどうさまっ!」
「……っ!?」
そして料理は驚いたことに、転送か何かの魔法でいきなりテーブルの上に出現してきた。どうやら店主は、あくまでも姿を見せずに済ませるつもりのようである。
カーミラはひょっとしたら店主は自分の目的を察知しているのではないかと危惧したが、しかしこのサラダからは吸血鬼を殺せるほどの毒物の存在は感じない。試しに一口食べてみたが、やはりちゃんとした料理でとても美味しかった。
(やっぱりただの人間嫌い、なのでしょうか……?)
カーミラはどうすればいいか考えこんでしまったが、やはり厨房つまり敵の陣地に踏み込むのは危険だと判断して、ここはいったん店を出ることにした。カーミラはノスフェラトゥに完全に支配されているわけではないので、自分の身が危険だと本心から思ったのであればある程度さからう事もできるのである。
ところがカーミラが食事を終えて支払いをしようとレジに行った時には、いつの間に現れたのか25歳前後の魔女ルックの女性が立っていた。
(……。何て間が悪い)
カーミラは思わず内心で舌打ちした。どうせなら会計も使い魔に任せてしまえば助かったものを、わざわざ餌食になりに出て来るとは。
服装と雰囲気から見るに、女性はやはり魔法使い、いや魔女のようだ。しかし邪悪な感じはまったくなく、むしろいかにも優しげな微笑を浮かべている。
こんな女性を生贄にするのははっきり言って嫌なのだが、こうなってはカーミラは命令に逆らう事はできない。
「ありがとうございます、サラダセットで315円になります」
明るい声でレジを打ったその魔女にカーミラは代金を出すと見せて、素早くその手首をつかんだ。
「……? っく、痛ぁっ!!」
一瞬怪訝顔した魔鈴だが、その直後には激痛に悲鳴をあげていた。少女は見た感じきゃしゃで特に力があるとは思えないのに、その握力はレスラーより強そうなくらいなのだ。
しかも掴まれた手首が痺れて力が入らないではないか。これは毒、それとも魔力!?
そしてカーミラは魔鈴がとまどっている隙にその背後に回り込み、首の後ろに当て身を入れた。
「うっ! ……っく、あ、あなたはいったい……?」
「……ごめんなさい」
魔鈴は少女がつらそうな顔で謝る声は聞こえたが、その真意までは分からないまま意識を失ってしまった。それを見た黒猫が驚いて、ご主人様に暴力をふるった不埒者を叩きのめそうと跳躍する。
「ま、魔鈴ちゃんに何するニャー!!」
しかし実は黒猫は少女に勝てるとは全然思ってなくて、それでも立場上黙って見逃すわけにはいかないので形式的に飛びかかるポーズを取っただけなのだが、意外なことに少女は黒猫の攻撃をまったくかわそうとせず、彼の爪をまともに頬に受けていた。
もっともほんのちょっとかすり傷がついただけだったけれど……。
「ごめんなさいね。本当に……」
カーミラは片手で魔鈴の体を抱きかかえたまま、改めて謝罪の言葉を口にした。
いま黒猫の攻撃を受けたのは、もちろんわざとである。これからこの魔女は新都庁でえんえん献血させられ続けるのだから、自分も少しは痛い目に遭っておかないと申し訳ないと思ったのだ。
しかし魔女に攻撃を許したら自分が倒されかねないので、かわりに黒猫に引っかかれてやったというわけである。
「……痛い、ですね」
傷口はほんのささいなものだったが、それでもひどくうずいた。だがこれからも、この痛みが消えることはないだろう。
カーミラは呆然と自分を見上げている黒猫から目をそらすと、踵を返して魔法料理店を後にした。
現在ノスフェラトゥの根城となっている新都庁の食堂では、蘭丸の指揮のもとゾンビの料理人たちが熱心にその腕を振るっていた。ノスフェラトゥと、それにカーミラが捕まえてきた妖怪たちに食べさせるためのものである。
壁にはカーミラに捕獲されてきた猫又の女が鉄の鎖で拘束され、料理人たちにレバニラ炒めを無理やり口に押し込まれていた。さらにその右腕には献血に使う注射針が突き刺され、絶え間なく血液を抜き取られている。
「力ある妖怪」の数は少ないので、ノスフェラトゥも1度に血を全部吸って死なせてしまうようなもったいない事はせず、死なない程度にセーブする代わりに、精がつく物をたくさん食べさせて少しでも血が増えるようにしているのだった。
そこにカーミラが魔鈴を抱えて戻ってくると、蘭丸がその姿に気づいて声をかけた。
「ほう、今度は早かったな……む、それは人間ではないか。御館様は人間の血などお求めになってはおらぬぞ」
「……文句があるなら解放してもらって結構ですよ」
当然ながら蘭丸とカーミラは仲が悪いのでカーミラは細かいことは説明してやらなかったが、蘭丸はすぐに魔鈴が魔女であることに気がついた。
「なるほど、人間とはいえ魔力を持っているというわけか……それなら御館様も満足されるだろう。お手柄であった」
「……」
蘭丸は一応カーミラを褒めてやったが、もちろんそれで彼女が喜ぶと思っているわけではない。不機嫌そうに黙りこんだ少女に、今度は魔鈴を猫又と同じように壁に拘束するよう指示した。
「……」
カーミラは相変わらず黙ったまま、気絶したままの魔鈴の手足を壁に取り付けられた拘束具につなぐ。隣の猫又が何か言いたそうに睨みつけてくるのに気づいたが、やはり口は開かず黙々と作業を続けた。
名前は美衣というらしいその猫又がカーミラを睨むだけで口を利かないのは、別に深い事情があるわけではなく単に口の中が食べ物でいっぱいでしゃべれないだけの事である。もっとも美衣が言いたいことがカーミラに分からないはずはなく、少女はつらそうに顔を伏せた。
「……」
そしてカーミラは魔鈴の体の拘束を終えると、逃げるようにして食堂から出て行くのだった。
オカルトGメン日本支部長である美神美智恵は、元旦の朝を夫とともに無事迎えたあと、食事の後片付けやら何やらを終えてひと息つこうとTVの電源を入れた瞬間、ぶふーっと思いきり噴き出してしまった。
「ど、どうしたんだい美智恵。いきなり吹き出したりして……」
「き、公彦さん、こ、これ……」
お盆に2人分の湯呑みを載せて現れた夫の公彦に、ぷるぷると震える指でTV画面を指差してみせる。
「ん、何だ、ホラー映画かい? 正月の朝からまた悪趣味な……」
「いえ、違うの、これはこの東京で現在進行中の現実なのよ!」
「な、何だってー!」
公彦は思わずM○R風なびっくり声をあげてしまったが、気を取り直すととりあえず妻の隣に座ってTV画面を注視した。どうやら臨時ニュースで、新宿に吸血ゾンビが現れたという話のようだ。
彼には何がどうしてこんな事が起こったのかさっぱり分からなかったが、美智恵にはむろんすぐ推察がつく。
「令子、ノスフェラトゥの除霊に失敗したのね! 大丈夫かしら……」
吸血鬼やゾンビのことは気にかかるが、娘のことも心配だ。そういえば昨日はあれから連絡がなかったが、もしかして……!?
美智恵があわてて部屋の壁際の電話台に走る。しかし令子の自宅も事務所も携帯電話も応答がなかった。
「ま、まさか……!?」
本格的に娘の身が心配になってきた美智恵だが、次はどうしようかと悩んでいると知らない番号から電話がかかってきた。
政府関係者か何かかと思ったが、受話器からは意外にも、そして幸甚にもちょっとバツ悪そうにしている令子の声が聞こえてきたではないか。
「あ、ママ? 私よ。えっと……あけましておめでと」
「そ、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ? ノスフェラトゥ退治はどうなったの? おキヌちゃんとアンちゃんは? それにあなた今どこにいるの」
「ちょ、ちょっと落ち着いてよママ。私もおキヌちゃんもアンちゃんも無事だから」
うわずった声で矢継ぎ早に質問してくる母に令子は閉口して、とりあえず最も重要と思われることを答えた。すると美智恵も少しは頭が冷めたのか、今度は落ち着いた口調でくわしい説明を求める。
「そうね、とにかくあなたたちが無事で良かったわ。ところでTVは見た? 東京がひどい事になってるんだけど」
「ええ、私もそれでママに連絡入れなきゃって思い出したのよ」
令子たちはノスフェラトゥに吹っ飛ばされたあと、鎧を着ていたおかげで1番ダメージが軽かったアンのおかげで何とか白井総合病院まではたどり着けたが、そこで気が抜けてまた失神してしまったのである。邪悪な魔力波と全身打撲のダメージは令子たちといえどもかなりつらく、そのまま寝込んでしまって意識が戻ったときには朝になっていたというわけだ。
今令子が電話をかけているのは病院の公衆電話からである。携帯電話は吹っ飛ばされた時になくしてしまったので。
「そう……で、ノスフェラトゥってどんなヤツだったの?」
娘が傷を負ってはいるものの深刻な容態ではなさそうだと判断した美智恵は、次の用件として吸血悪魔の特徴と復活した経緯を訊ねた。
もちろん令子もそれはきちんと話すつもりである。ノスフェラトゥと蘭丸とゾンビ犬、それにカーミラのことを思い出せる限りくわしく説明した。
ただし自分が槍を使うのをしぶった事だけは伏せていたけれど……。
美智恵はそれを聞き終わると、ぎゅっと眉をしかめて爪を噛んだ。
「なるほど……それじゃいくらあなたでも無理だったわね。でもこうなったらGメンも出動せざるを得ないわ。だから令子、光秀公の槍をこっちに譲渡しなさい」
「へ? い、いきなり何言い出すのよママ」
唐突に意味不明かつ理不尽な要求を突きつけられた令子が驚きの声をあげたが、美智恵はまったく容赦せずに、その理由をクギを打ち込むような調子で説明しだした。
「TV見たなら分かってるでしょうけど、機動隊はすでに出動してるし、Gメンも今から動くわ。でも今はあなたが除霊責任者だから、それにかかった経費はあなたの負担になるのよ。たとえるなら、山で遭難した人を捜索するのにかかった費用を当人に請求するみたいなものね」
むろん美智恵と令子たちが口を拭っていればGメンと機動隊の負担になるのだが、美智恵はそんな悪行を見逃す気はない。後でバレたら大変なことになるし、第一そんなことを許す方が娘のためにならないから。
ちなみに令子にはゾンビ騒ぎで出た被害そのものを弁償する義務はない。それはノスフェラトゥが働いた悪事であって、その罪まで個々のGSにかぶせていたらそのリスクの分、ただでさえ高い除霊料金の相場がまた上がってしまうからだ。あるいはそういう危険性のある仕事は誰も受けなくなって、被害が放置されるハメになるだろう。
もっとも故意や重過失があった場合は例外だし、社会的な批判とかはまた別だけれど。
「でも今槍をこっちに譲れば、つまり仕事をGメン所管にすればこの先の経費はこっちで持つことになるわ。機動隊の経費は時間外手当と燃料・弾薬代だけだけど、Gメンは精霊石弾バズーカも破魔札マシンガンも遠慮なく使うから、450億円超えるかも知れないわね」
つまり美智恵は槍を譲った方がお得だと令子を説得しているのである。話がここまで大きくなった以上個人GSではなくGメンの仕事にするべきだから、娘がもっとも敏感に反応するだろうお金の面で攻めているのであった。
「ぐ、ぐぎぎぎぎぎぎ……」
受話器の向こうで令子が頭から黒煙をあげて葛藤している姿を美智恵はありありと幻視できたが、特に情けはかけなかった。親として、時には娘に厳しく接しなければいけないこともあるのだ。
もっとももし令子が最初から槍を使っていれば少なくともカーミラは連れ去られずに済んでいたという事実を美智恵が知ったら、厳しさが当社比200%増しくらいにはなるだろうが……。
「……。えっと、経費が450億円切ったら余った分は返してくれたりするかしら……?」
「……バカにしてるの?」
娘のすがるような声を、母は一刀両断で切り捨てた。
不足が出ても追加請求はしないのだから、逆に余っても返すことはない。仕事を「丸ごと」引き受けるというのはそういうことだ。
「あう゛う゛う゛う゛う゛う゛……」
いよいよ追い詰められた令子は焦燥のあまり獣のような唸り声をあげたが、しかしケガのため今すぐ動くことができないので、もはや自分が依頼を果たすとは言えなくなっていた。
「わ、わかったわよぅ……渡せばいいんでしょ渡せば……」
とついにすべてを諦め、敗北宣言を行う令子。童女のようにぐすぐす泣きながら電話口にたたずむその姿は、人によっては萌えるものがあるかも知れない。
が、むろん美智恵はその対象外である。
「やっと決心してくれたわね。それじゃすぐに正式な書類を持って行くから、その時に槍も引き取らせてもらうわ。
それと今すぐじゃなくていいけど、体が治ったらこっちに来なさい。その方が後で体裁がよくなるから。
それじゃ忙しくなるから、また後でね」
とあえて事務的に用件だけ告げて電話を切る。
なぜなら娘は450億円を失った悲しみを怒りに変えて、必ず立ち直るであろうことを知っていたから。槍が彼女を選んだのは、その闘志こそが吸血悪魔を倒す最終兵器になると見込んだからに違いないと、美智恵は霊能者の直感で見抜いていたのだ。
こうして、オカルトGメンも本格的に動き出すことになった。
「―――って、いくら元旦だからってこれは少な過ぎじゃないかしら……?」
美智恵は夫に車を出してもらって白井総合病院への道を急ぎつつ、その車内で携帯電話を使って知り合いのGSに連絡をとっていた。ところがそれで渡りをつけることができたのは、伊達雪之丞ただ1人だったのだ。
令子とキヌとアンは除外するとして、横島と魔鈴はなぜか電話に出なかった。唐巣とピートはブラドー島に行っているが、彼らも携帯電話は持っていない模様である。冥子はハワイに旅行中だそうで、一応連絡はつけてくれると言うがいつ帰って来られるかは不明だった。エミは依頼するだけムダだろうから電話していない。
ノスフェラトゥの居場所は不明だが、光秀の槍があれば突き止めることは可能だ。しかし彼が織田信長だというのなら本能寺の変の教訓で身辺の警護には十分な用心をしているはずで、たった2人で乗り込むのは狂気の沙汰というべきだろう。
(ここは人数が集まるのを待つべきね。夜ならブラドーさんも動けるし、それまでは情報収集に徹しましょう)
美智恵は心の中でそんなことを呟くと、病院に到着した車から降りて令子たちが入院している部屋に駆け出して行くのだった。
―――つづく。
美智恵さんが事件のことを知るのが遅いですが、これは本文にある通り政府当局が事件を霊障と思わなかったため彼女に連絡しなかったからであります。
当局のこの判断は原作通りなんですが、でもこの直後に某宗教の総本山が「信長」をノスフェラトゥと断定して5千万ドルもの賞金を出してるんですよねぇ。どう考えても早すぎじゃないかと(ぉ
ただこのSSではGメン日本支部がすでにあるので、賞金は出ませんです。
あと被害の弁償云々の話は独自解釈ですが、原作では劇場版でも死津喪編でも霊団話でもアシュ編でもそういう話は出て来ないので、こんな所だろうと推測しました。
ではレス返しを。
○Tシローさん
>一歩前進?
あの理不尽な両親も、これで少しは横島君にやさしくなる……かなぁ(ぉ
>微妙にうっかりしてる横島
情にほだされたり強気な女性に引きずられたりして、ずるずる事件の中心に巻き込まれそうな気配が濃厚ですよねぇw
○遊鬼さん
いえいえ、お気になさらず。
横島君は今回は出ませんでしたorz
タマモや両親が留守番なのは仕方ありませんのですー。バ○オハ○ードの中に連れて行くなんて論外ですし。小竜姫さまはメドさんが出て来たら参戦できるのですが……。
横島君の巻き込まれっぷりとか愛子の運命とかは先をお待ち下さいませー。
○メルマック星人さん
は、小竜姫さまについてはその通りでありますー。
朧と神無は確かに影薄かったですねぇ……うぅ、これもみな筆者の不徳の致すところでorz これを機に出番が増えたりとか横島君に落とされたりとかするかどうかは先をお待ち下さいませです。まあそれもおっしゃる通り、横島君が強敵たちの餌食にならなければの話なのですがーw
>あまいろのあくま
実は原作通り入院しておりました。
彼女は横島君をポイ捨てになんてしませんですよー。せっかくの優秀な丁稚、できるだけ長く効果的に使った方が経済的じゃないですか(酷)。
>大樹
百合子がすぐそばで見張ってますからねぇ。いかな浮気王でも無茶はしない……と思うのですが(ぉ
○チョーやんさん
横島君は女の子助けたらさっさと妙神山に帰っちゃいかねませんからねぇ。首から下は優秀なんですが、彼の参戦で事態が好転するかどうかは実に微妙な線ですなw
美神さんには……会う気はなくても捕まるかも知れませんなぁ。親の方は早くも探し始めてますしw
>愛子とか月の2人とか
そんな、一応原作キャラなのにw
>も、もう少しお待ちを……orz
がむばって下さいねぇ。
○紅さん
横島君がカーミラと会ってしまったら、確かにいろんな理由で流血シーンが予想されますなぁw
横島ファミリーはあくまで「目立ってはいけない」だけですので!
○KOS-MOSさん
今のところ横島君たちはノスフェラトゥの目的は知らないわけですが、こんな状況になったらやっぱりずるずると深みに引きずられそうであります。
横島君はカーミラはともかく蘭丸とは絶対会いたくないでしょうけど、横島君ですからねぇw
○凛さん
月神族はたぶんOKでしょうな。ノスフェラトゥは太陽も十字架もニンニクもまるで平気な怪物ですし。
横島君と愛子とカーミラが出会えるかどうかは次回をお待ち下さいませー。
○ncroさん
横島君とカリンが小竜姫様の装具で一発解決なんてしちゃったら面白くないですからねぇ。そこまでやったらいろいろ目をつけられそうですし。
陰でこそこそフラグゲットにいそしむのではないでしょうか<マテ
○whiteangelさん
300話ですか、えらく遠い目標を示されてしまいましたなぁ。まさに○坂のごとくw
>本人(本竜?)聴いたら〜〜〜
今の横島君とは格が違いすぎますからねぇ。たぶん取って喰われてしまうでしょうなw
○ふぁるさん
>バハム○トやリヴァイアサ○の方が〜〜〜
こっちは首の数が普通に1つですからねぇ。びっくり度も9分の1とはいかなくても、3分の1くらいにはなるのではないでしょうかw
なお横島君の九頭竜は「大蛇」じゃなくて「竜」ですので、角が生えてたり足があったりといくらかの違いがありますです。
>タマモ
ありがとうございますー。横島君たちはともかく、タマモは普通に話をしてるだけじゃ退屈すると思うのですよ。
正月から大豆料理の番組が放映されるものかどうかは筆者は知りませんけれど(ぉ
>横島
すいません、彼の活躍は次回をお待ち下さいませー。
>否や
はい、「いなや」と読んで、不承知とか異議とかいう意味であります。
○XINNさん
横島君の体質と筆者のHNには何の関わりもありませんですよ?w
大樹と百合子は「煩悩」2文字は小竜姫さまのご自筆ということは知らないわけですが、知ったら知ったでまた面白いことになりそうですねぇw
>下界の騒動に巻き込まれるはめに…
今は自分から首突っ込んだ形ですが、横島君のことですからきっと望んだ以上の面倒事をかぶってくれることでしょう。
まあ彼がいなくても美智恵さんがいますから、東京がぜんぶ死都になることはないでしょうけど(^^;
>フラグ強化イベント
愛子とか美衣さんとか魔鈴さんとか朧とか神無とかカーミラとか、何か今回立てられそうな人物が多すぎます(ぉ
もちろん実際にどれだけ立つかは別なのですがーw
>ならば今後は日通いも可能ですなぁ
修行場の結界の中はともかく、鬼門の外ならバッチリですな。
あ、もしかして小竜姫さまはこれを狙って竜珠強化をもちかけたのかも。
○山瀬竜さん
やー、あれをほのぼのと思っていただけるとは恐縮であります。確かに下界と比べれば平和そのものなんですがー。
親父とお袋はおっしゃる通りですねぇ。力では超えていても、頭の中身はとてもとてもw
>NHKの集金人
どう考えても料金より経費の方が大きいような気がしますが、きっと来てることでしょうw
今の小竜姫さまは下界のことも色々知っていますから、たぶん律儀に払っているのではないかと。
>小竜姫様の特性『ドジっ娘』も上がってしまうのかです
何を仰いますやら、今の小竜姫さまにそんな特性はまったく残ってませんですよー。
「ヒャクメ様」と言い間違えられたのではないでしょうかw
彼女が竜珠を使えたら、ダ女神属性も大幅アップしてたところなんですが(酷)。
>メドーサの暗躍と絡めて警備の強化等を具申するという方法
なるほど、確かに今の小竜姫さまならそのくらいの事は考えそうですねぇ。むしろお子様なんか連れて来るなとw
メドさん自身がすでに心配しておりますが、その辺りは先をお待ち下さいませー。
○風来人さん
>もはやお揚げと関係ねぇ
一般人の目にはそう見えても、求道者にとっては新たな閃きの材料になるものがあるんですよ、きっとw
>凛明様
メドさんは自分が目立たないよう慎重に行動してますからねぇ。
尻尾をつかむのはなかなか難しそうです。
>ゲーマー猿
たぶん31日の夜は、小竜姫さまはTVに接続してあるゲーム機をぜんぶ外して屋根裏にでも隠してたことでしょう。
不真面目な上司を持つと大変ですなw
○Februaryさん
は、ようやく横島君出陣となりましたが、でも今回は顔も見せてませんorz
次回は必ずや……。
姫様は黒くなったんじゃないですよー、あくまでも横島君を想う愛の力がなせる業ですからw
>標的とかフラグとか
次回はいろいろありそうですー!
○ばーばろさん
正月特番については気にしてはいけません(ぉぃ
タマモンがこれを見ようとしてたのは、もしかしたら凄いのが出るかも知れないという射幸心からのことではないでしょうか。
>気持ちは理解るよ、ヨコシマ。。。
あははー、確かにその通りですねぇ。
まあ横島君のことですし、触手プレイの味を知ったら2度とそんな戯言は言わなくなることでしょう。何しろ1度に9人はともかく、3人くらいは相手できるわけですから。
ヤらせてくれればの話ですがー!
>ヨコシマ参戦
どう転んでもロクなことにならないのは間違いなさそうですねぇ、奥さんズにとってw
○読石さん
>両親
むしろあの程度の驚き方ですんだ方がすごいかと。
筆者なら腰抜かしてます(^^;
>映画のチャンネルにしたのか?とか誤解しかねませんな
公彦さんはしっかり映画だと勘違いしてくれましたw
>横島君
3人助けてそのまま帰れるなんて、GSのSSでそんな都合のいい話はないですものねぇ<マテ
○食欲魔人さん
>テレビ
映画ならいいんですが、思いっきり現実ですからねぇ……。
横島家のメンツは平気ですが、普通の子どもとかはヤバそうですな(^^;
>フラグ乱立
本当に乱立しそうでピンチであります。
○トトロさん
はい、小竜姫さまは短期間で異様なほどに成長なされました。
お菓子つくりはあれです、彼氏に食べてもらうために勉強したのでありましょう。
>やはり横島〜〜〜
それはもう、横島君ですからw
○星の影さん
すいません、今回も早いです。
暇な時にでも読んで下さいー。
横島君が巻き込まれるのは確定でしょうな。すでに美女が2人も囚われてますし。
さすがにノスフェラトゥと出会ったら逃げ出しそうですけどw
○神乃飛鳥さん
はじめまして、今後ともよろしくお願いします。
お詳しいですね。おっしゃる通り、もともとバハ○ートは竜じゃありませんし、リヴァ○アサンは神の敵なんですよねぇ。
ここの横島君は見習じゃなくて本免許持ちなんですが、GS諦めて良かったかも知れませんw
○ハルにゃんさん
お仕事大変なようですが、強く生きて下さいねぇヾ(´ー`)ノ
しかもメイドガイが放送してないとは残念でしたねぇ……。
不二子さんはあれでしょう、名前もですがやることが日曜朝10時という時間帯的にちょっと(ぉ
>妙神山
はい、下界の騒乱ぶりとの対比を楽しんでいただければ。
両親についてはまさにその通りでございますーw
>全てを守りきろうなんて滑稽そのもの
そう、そうなんですよー。だからこそ横島君は美女美少女だけを守ろうとしてるわけです<マテれ
>タマモ
はい、何しろ師匠は伝説を受け継いだ方ですから、そう簡単にすべてを学び取れるはずがないのですよー。
>フラグ
このままいくと美衣さんばかりか魔鈴さんまで立っちゃいそうな勢いです。奥さんズぴんち!?
ではまた。