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「二人三脚でやり直そう 〜第六十八話〜(GS)」

いしゅたる (2008-04-25 18:08)
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 ――既に日も落ちた音楽室の中は、喧騒に包まれていた。

「待てや横島ァァァーッ!」

「貴様いったいシャオさんにナニしやがったああーっ!?」

「右も左もわからん転入生をたぶらかしたのか! この外道が!」

「しかも他所の学校の女生徒まで連れ込みやがって! 彼女も毒牙にかけるつもりか!」

「許さんぞこのケダモノがあああーっ!」

「先生はお前を見損なったぞぉぉーっ!」

「この状況のどこにそんな色気があるんじゃ! お前らまとめて眼科行けぇぇーっ!」

「あ、あの、横島さん……それはいいから、降ろしてください……」

 十数名の男子生徒が、走り回るにはいささか手狭な教室の中で、横島を追いかける。逃げる横島の腕の中では、横抱き――まあ要するに『お姫さま抱っこ』をされている小竜姫が、顔を赤くしていた。
 追いかける者の中には教師も混ざってたりするあたり、彼の信用がどの程度のものであるか、容易に想像できよう。しかも、小竜姫が横抱きにされて恥ずかしがっている姿が、その誤解を助長していたりする。

 そして、その一方では――

「友情の合体技!」

「筋肉熱地獄ですジャーッ!」

『んのおおおおーっ! う、美しくない! 美しくなぁーいっ!』

 社交ダンスのように手を握り合い、ステップを踏むタイガーと華。そしてその二人の間にメゾピアノが挟まれており、筋肉のサンドイッチの中で悲鳴を上げていた。
 さらにそれ以外にも――

「ぼ、僕のピアノって、ここまで酷かったのか……」

 全壊して粉々になったガラス窓を前にピートが途方に暮れていたり。

「俺の顔に肘入れるたぁ、いい度胸じゃねーか……」

「ギ、ギブギブ! 事故だ! 不可抗力だ! 俺はただ、あいつらに押されただけだあぁーっ!」

 顔面の中心を赤く腫らした雪之丞が魔装術を纏って陰念にアイアンクローをかましていたり。
 ともあれ、まったく収拾の付きそうにない状況が広がっていた。

「こ、これが除霊……? これが……こんなものが、GS資格取得者の除霊なんですの……!?」

 そんなカオスな状況を前に、かおりは相当のショックを受けたのか、茫然自失といった様子でうわごとのようにつぶやいた。


   『二人三脚でやり直そう』
      〜第六十八話 高校生日記!【その3】〜


 ――さて、なぜこのような状況になったかというと、話は少し遡る。

「ここですのね、あなたたちの学校は」

「まあ、何の変哲もない学校だけど」

 時刻は夕暮れ時。東の空は既に暗く、夜の帳はすぐ近くまで降りてきている。
 確認するように尋ねるかおりに、横島は苦笑しながらそう答えた。彼女が通う六道女学院に比べれば、どこにでもあるような普通の――付け加えるなら貧相な――学校である。

 ちなみに、かおりと一緒に唐巣教会にやってきた愛子は、既に六道女学院に帰っている。かおりが横島たちに同行を申し出た時、愛子は「ごめん、私パス。あいつと話すと疲れるのよ……」とこめかみを押さえて辞退したのだ。
 どうやら彼女にとって、メゾピアノは苦手な相手らしい。

 彼らの目の前の学校では、この時間になってもまだ精力的に活動しているクラブがあった。
 グラウンドはライトに照らされ、陸上部やテニス部が練習していた。体育館や剣道場からも、生徒たちの掛け声と一緒に明かりが漏れていた。
 一同はそんな部活風景を見ながら、部活動という学校のシステムを理解しきれてない小竜姫に説明したり、メゾピアノへの対策を話し合いつつ、校舎へと向かう。


 そして――そんな一行を、部活動する生徒たちの一部も見ていた。


「おい、あれ……」

 陸上部の一人が、スポーツタオルで汗を拭きながら、横島たちに視線を向ける。周囲にいた部員も、その視線を追って横島たちに気付いた。

「ん? ああ、忘れ物でも取りに戻ってきた生徒……って感じでもないな。何だ?」

「見慣れない制服の女の子もいるな。他校の女子か? なんだあの集団?」

 なにせ、体操着に着替えているわけでもない制服姿のままの生徒が、こんな時間に学校の外から校舎に向かって歩いているのだ。しかも、見慣れない制服の、明らかに他校の生徒と思われる女生徒まで連れているとくれば、どうしたって目立つ。
 そして、そうやって話している陸上部員たちの一人が、集団の一人の正体に気付いた。

「あれって……横島か?」

「え? 横島って……二年の横島?」

 横島は、この学校では悪い意味での有名人である。
 更衣室の覗きは常習犯、ナンパされた女生徒は数知れず。登校している日よりも欠席している日の方が多く、成績も出席日数相応にしかない、あらゆる意味で教師泣かせの問題児であった。一部では、最も退学に近い生徒とも言われているぐらいである。

「っていうか……あのさ、有り得ないって思うの、俺だけか……?」

「ん? どーゆーこった?」

「よく見ろよ」

 その言葉に、横島たちに改めて視線を向ける生徒たち。
 そして――

「……あ! そーか! 横島と一緒にいる連中の中に、女の子がいるんだ! ってかあれ、シャオさんじゃねーか!」

「シャオさんって、横島のクラスに今日転入してきたっていう、噂の美少女留学生か?」

「横島と美少女……しかも、他校の女生徒まで一緒に! 確かに有り得ない組み合わせだ!」

 一人がそれに気付いて声を上げると、他の者たちも伝染したかのように同調し始めた。

「待て待て! 他にも男がいるんだ! きっとそっち目当てだよ! 横島が女の子二人も引っ掛けたなんて、そんな物理法則を無視したことが起きるわけ……」

「って言っても、その他の男って連中も、目つきの悪いのとかチンピラっぽいのとかデカいのだとか女装してたりとか、妙なのしかいないぜ? いくら横島が隣にいるからって、アレはねーだろ?」

 どうやら華は『女装した男』と見られているようである。

「いやよく見ろ。一人だけまともな……っつーか、ブロンドの美形野郎がいる。きっとあれが目当てだ」

「そ、そうか。それはそれで悔しい気がするが、とりあえず納得……ん? でも待てよ? シャオさんって、なんかさっきから横島とばかり喋ってないか? しかもにこやかに」

「ほ、本当だ……」

 そんなことを話している間にも、話題になっている集団は昇降口に入って行って、その姿が見えなくなる。観察対象がなくなった彼らは互いに顔を見合わせ、一体何事かと口々に話し始めた。

 ――まず、それぞれ知る限りの横島についての情報を出し合い。
 そして、彼の行動パターンを推測し。
 横島と同じクラスの男は、シャオ・ロンヒという女生徒の印象を話し。
 それらの材料を全員で吟味し、話し合った結果――


 何も知らない転入生と他校の女生徒は、横島と外道な仲間たちに騙され、これから夜の校舎でピンク色の欲望の生贄にされるところである。


 ――という結論に至った。

「「「「「おのれ横島ァッ! そこまで堕ちたかアァァッ!」」」」」

 正義の怒りに燃えた生徒たちは、まるで測ったように同じタイミングで、異口同音に憤怒の声を上げた。
 今日結成された除霊委員はもとより、音楽室の霊障のことさえ知らないとはいえ――そんな結論を出されるあたり、普段の横島がどんな評価を受けているかが伺えよう。

「よし! 先生に報告に行ってくる! お前らは尾行して様子を見つつ、横島の凶行を阻止するんだ!」

「「「「「応っ!」」」」」

 一人の生徒の指示に、全員が硬い意思を込め、力強く頷いた。


 ――そして、場所は変わり音楽室――

『おや、また来たのかい? 僕の次くらいに美しい少女と僕よりも美しくない男とその他醜き男どもよ』

「「「「「こ、この野郎……!」」」」」

「というか、醜き男どもとは、まさか私も混ざってるのではないでしょうね?」

 教室に入るなり出迎えてきたキザったらしい憎まれ口に、男性陣は揃って額に井桁を浮かべる。その横で、華も「ふしゅるるる〜」と異様な呼吸音を響かせながら、困惑気味につぶやいていた。

『おや……? よく見れば人数が増えてるね。こちらも美しいお嬢さんだが、しかし残念だね。やはり僕には及ばない』

「……愛子さんが来たくないって言ってた理由が、わかった気がしますわ……」

 一連のナルシス全開な台詞に、かおりもこめかみに指を当て、ぴくぴくと額に血管を浮かび上がらせている。

『それで? 君たちは僕を追っ払いに来たんだろう? 何をするつもりなのか、見せてもらおーじゃないか。ま、どーせ無理だろうけどね!』

 自信満々に言い放ち、高笑いを上げるメゾピアノ。その眼前に、ピートがずいっと出た。

「美神さんのヒントの意味は、相手の土俵に上がって勝負しろ……そういうことです。ですから、今から僕がピアノを弾きます」

「けっ。美形サマはピアノもお上手でよーございましたな」

「陰念……ひがむのはみっともないですよ」

 メゾピアノに勝負を挑むピートの後ろで、陰念が小声でひがんだ。それを聞きとがめた華が、同じく小声でたしなめる。

「……荒んでんなー」

『お前も昔同じことを言ってたんだがな』

 対し、ピートのピアノの腕前を知っている横島は、別段羨ましいとも思えずに苦笑している。昔の自分を棚に上げたその態度に、心眼のツッコミが入った。

『ほう? ピアノの腕で僕に挑戦とはねー。おもしろい! やってもらおーじゃないか!』

 そんな外野を気にした様子もなく、相手であるメゾピアノは、受ける気満々であった。
 ピートは「よし!」と指を鳴らしながら、ピアノの前に座る。

「それじゃ打ち合わせ通り、ピートがメゾピアノを追い出したら、即行で捕まえるぞ。準備しとけ」

「はっ! 言われなくても!」

 横島の指示に、雪之丞が獰猛な笑みを浮かべながら全身の霊力を高め、他の者も戦闘準備に入る。
 そして、全員の準備が整ったのを見計らい――ピートは、その指を鍵盤の上に乗せた。


 一方その頃、廊下では――

「奴らが行ったのは音楽室だ」

「よし! みんな、行くぞ!」

「横島……犯罪に手を染めるなんて、明日は職員会議ものだ……!」

 先行して尾行していた連中からの連絡を受け、呼びつけた教師を伴った後続の生徒たちが、音楽室を目指していた。
 横島たち一行を目撃していた陸上部の生徒だけではない。どこからか話を聞きつけてきた他の部の生徒たちも、何人か一緒になっていた。テニス部や剣道部の連中も混ざっており、それぞれ手に得物を持ってたりするので、物騒と言えば物騒である。
 ちなみに同行している教師は、陸上部の顧問であり、横島のクラスの担任ではない。しかも彼は、音楽室の霊障のことは、まだ知らされていなかったりする。
 もしこの場に、霊障の解決を依頼した音楽教師や担任教師がいれば、少しは話は違ってきたのだろうが。

 そして彼らは、さほど時間をかけることなく音楽室前に辿り着き、先行していた生徒たちと合流した。

「おお、来たか」

「中はどうなってる?」

「横島はたまに勘がいいから覗いてはいないが……聞き耳を立てた限り、中で誰か待ち構えていたようだ」

「まだ仲間がいたってのか……!」

 先行していた生徒の報告に、聞いた方の生徒がいきり立つ。

「こうしちゃいられん、すぐに突入だ! このままだと、音楽室が海産物の匂いで満たされてしまうぞ!」

「ちょっと待て……」

 音楽室に突入しようとする彼を、他の一人が遮った。

「どうした!」

「しっ! 静かに……何か聞こえないか?」

 問い質す声にも焦りが滲んでいたが、問われた方は口に人差し指を当てて沈黙を指示するジェスチャーをすると、全員が素直に従って耳をそばだてる。
 すると――

「……なんだこの音?」

「これはもしかして、ピア……ノ……なのか?」

 音楽室の中から楽器のものらしき音が聞こえ、揃って怪訝そうな顔になる。楽器の特定に自信がなさそうなのは、ピアノにしては妙な感じがするからだ。

「……なんだ? この不思議な音は……」

 一人が疑問を口にした――その時。


 ――想像を絶する怪音波が、校舎全体を震わせた――


 夜の廊下に、気を失った生徒たちと教師一人が死屍累々と倒れ込んでいる。

「う……」

 その中のうち一人が、うめき声を上げて目を覚ます。
 彼はゆっくりと起き上がり、いまだジンジンと痛む耳を押さえながら、周囲を見回した。

「い、一体何が……俺、気を失ってたのか……?」

 そうつぶやくうち、一人、また一人と起き上がる。そして、廊下に風が入り込み、彼らの体を冷やした。
 誰か窓を開けたのか? 疑問に思った彼らは廊下の窓に視線を送り――そして絶句する。窓が一枚残らず、全て割れていたのだ。

「こ、こりゃ……いったい、誰が……!?」

「それよりも、音楽室の中はどうした!?」

 一同が驚く中、響いた言葉に全員の視線が音楽室の扉に向く。
 そして騒ぐのをやめ、耳をそばだててみると――


『おーい。起きてくださいよー』

『う、んん……』

 聞こえてくるのは、男の声と女のうめき。男の方は聞き慣れた横島の声、女は――シャオだろうか?

『う……横島さん……? も、もしかして私、気を失ってましたか……?』

『うん、まあ、ちょっとだけ』

『す、凄かったですね……まさか、この私が気絶するほどとは……』

『初めてなんだから、しゃーないっスよ。大丈夫ですか?』

『……まだ、ちょっと痛いです……』


(((((こ、これは……!?)))))

 ――「凄かった」「気絶するほど」「初めて」「痛い」――

 短いやり取りの中で出てきた言葉――その数々によって、生徒たちの脳内で繰り広げられた想像は、ある一つの結論へと到着する。
 すなわち――


(((((既にコトが終わってたーっ!?)))))


 何たる失態。自分たちは、そこまで長く気絶していたというのか。
 実際はほんの十数秒程度だったのだが、一度意識を手放した彼らには、目が覚めるまでどれほど時間が経っていたかの自覚はない。
 そんな彼らの顔が一様に真っ赤に染まってたのは、果たして憤怒のせいか、それとも別のナニかのせいか――中には前かがみになる者もいたりする。
 まあ実際は、横島の気遣いに答えるシャオ――小竜姫の『痛い』発言は、耳を押さえてのものだったわけだが。
 しかし、中を覗けばすぐわかるようなそんな簡単な事実も、突然の怪音波とアレな妄想によってなかばパニック状態に陥っていた彼らには、気付く様子もない。

 ――やがて――


「これはもう……悔しいが、現行犯ってことになるのかね」


 一人がまるで夢遊病者かのように、ゆらりとした動作で一歩踏み出した。

「そのようだな……」

「どうやら横島は、俺たちより先に、大人への階段を二段飛ばしで駆け上がったようだ……」

「しかも相手はとびきりの美少女……横島のくせに生意気だなんてレベルじゃねーぞ……」

「俺なんてもう、魔法使いになっちまったってのに……ちくしょう……っ!」

 それに続き、他の者たちも幽鬼のようなおどろおどろしい声音を出し、音楽室に向かい一歩踏み出す。
 中でも陸上部の顧問(32)がなにげに凄いことをカミングアウトしてくれたが、幸いと言うべきか何と言うか、ツッコミを入れる者はいない。
 ついでに言えば、中で『それよりもメゾピアノが逃げるぞ! 捕まえろ!』『いっけね、一瞬意識が飛んでたぜ……おりゃあっ! 覚悟しやがれ!』『タイガー! 早乙女! 打ち合わせ通りにな!』『ううっ、出番があるのは嬉しいんジャけど、これは……』『気乗りしませんが……ふしゅるるる〜……』などという複数の声が聞こえていたのだが、それも彼らが聞いた様子はない。

 そして、先頭の一人が音楽室の扉に手をかけ――


「「「「「よぉ〜こぉ〜しぃ〜むぁああああ〜っ!」」」」」


 ―― 一斉に雪崩れ込んだ。


 そういうわけで――冒頭の展開に繋がったわけである。

「どうですか! 運動による筋肉の熱エネルギー!」

『あっ、熱いぃぃぃ!』

「そして熱き魂の爽やかな香り!」

『くっ……くさいぃぃぃ!』

「「さらに男に挟まれる精神的苦痛!」」

『うおおおおーっ! 嫌だああああーっ!』

「って、私は女です!」

 ピートのピアノ……というか怪音波に、たまらず出てきてしまったメゾピアノ。それをすかさず、華とタイガーの巨漢コンビが挟み込み、メゾピアノは(主に精神的に)大ダメージを受けてる真っ最中であった。
 はっきり言って、度を越えた悪質な嫌がらせレベルとしか言いようのない除霊である。霊能力もへったくれもない。
 しかも彼らの周囲では、横島と小竜姫が何を勘違いされたのか大勢の生徒――中には教師も混じってる――から追いかけられていたり、何がどーなったか知らないが、雪之丞が陰念にアイアンクローかましてたり。
 そんな光景を見るかおりは、放心したように口を半開きにし、ブツブツと何かをつぶやいている。

「じょ、除霊というのは……もっと厳粛で……神秘的で……」

 彼女としては、期待していた除霊風景を見られなかったことを差し引いても、こんな現状は見るに耐えられないものだったのだろう。その顔は真っ青であった。

 やがて――

『イ・ヤ・DAAAAAAAAAーッ!』

 身も世もない悲鳴を上げ、メゾピアノがスゥッと消滅していった。あまりと言えばあんまりな最期だったが、これはこれで除霊は終わったということになる。
 それを見送ったタイガーと華は、「フンッ!」と鼻息荒く気合を吐き出し、互いに拳を合わせて勝利を喜んだ。

「み、美神おねーさまのような華麗な除霊なんて、しょせん見習い程度じゃ無理ってことなんでしょうか……?」

 ――たぶん、それ以前の問題である。


「どーでもいーから、落ち着いて話聞けやあああーっ!」

「「「「「問・答・無・用!」」」」」

 ……除霊が終わっても、騒ぎはまだ収まらないようだった。


 ――その後、除霊が終わった帰り道。

「はぁ〜……GS資格を持つ人の除霊が、まさかあんな無様なものになるとは……」

 唐巣教会へと向かう道のりを歩きながら、かおりは頬に手を当てて幻滅したと言わんばかりにため息をついた。

「うっせぇ。俺だってもっとちゃんと暴れられる除霊の方が良かったぜ」

「あなたはそっち方面しか取り得がなさそうですわね。今日は役に立ってませんでしたし」

「んだと?」

 不完全燃焼とばかりに返す雪之丞に、かおりは自身の不満をぶつけるように返した。その言葉に、雪之丞はまなじりを吊り上げる。

「まあまあ。そうピリピリしないで。除霊は悪霊との戦いばかりじゃないんですから、こういうことだってありますよ」

 ピートはそんな二人の間に入り、少々戸惑いながらもやんわりとなだめる。雪之丞とかおりはピートを挟んで少し睨み合い――そして、先に視線を逸らしたのはかおりであった。
 彼女はばつが悪そうに、「はぁ」と先ほどとは違った意味のため息をつく。

「……すみませんでした。どうやら、八つ当たりになってしまったようですわね……そんなつもりはなかったのですが」

「お、おう……」

 意外と素直に謝ったかおりに、雪之丞は戸惑いつつも頷く。そんな二人の様子を見て、ピートはクスッと苦笑を漏らした。

「ところで、なんで俺たちと一緒に来てるんだ? やっぱ横島が言ってた通り、ピート目当てか?」

「え……? あの……本当にそうなんですか? できればそういうのは控えてもらえると、助かるんですが……横島さんが『やっぱ男は顔なのかーっ!』って騒ぐのを宥めるのって、結構苦労するんですよ」

「…………違います」

 雪之丞とピートの言葉に、かおりは疲れたように眉間に寄った皺を揉みながら、否定の言葉を口にした。
 校門前で解散する際、ピートと雪之丞に付いて行くと言って横島が騒ぎ出したのは、記憶に新しい。

(まったく……氷室さんは、あんなののどこがいいんでしょうか……)

 友人の感性に疑問を抱きつつ、かおりはピートではなく雪之丞の方に視線を向ける。

「私が用があるのは、ピートさんではなく雪之丞さん、あなたですわ」

「俺?」

「ええ。今日唐巣教会を訪ねたのも、本来それが目的でしたから……単刀直入にお頼みしますが、私と一手お相手していただけませんでしょうか?」

 かおりのその言葉に、雪之丞の足が止まり、他の二人の足も止まる。雪之丞はスイッチが入れ代わったかのように、すぅっと視線が鋭くなって表情が変わった。

「ほぅ……つまり、俺と一戦やりてぇってのか?」

「はい」

「胸を借りるつもりだってんなら、あまり期待すんなよ。こっちだって修行中の身だし、戦うとなったら、女だからって手加減しきれる自信はねぇ」

「望むところです。むしろ手加減なんてして欲しくありませんわ」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 二人の間の雰囲気が剣呑なものになってきたので、ピートが慌ててて待ったをかけた。

「弓さん、いきなりどうしたっていうんですか!? 組手を申し込むにしても、相手が悪いですよ! 雪之丞みたいな乱暴者じゃ、怪我じゃ済まないかもしれませんよ!?」

「乱暴者で悪かったな……」

 ピートの言葉に、雪之丞は憮然としてつぶやく。しかしその不満の声も聞いた様子もなく、かおりはピートに視線を向けた。

「お気遣いありがとうございます。ですが、私にとっては雪之丞さんが一番なのです。私より上を行く実力者で、私のスタイルに最も近いのは、知っている限りでは彼一人なのですから」

「だからって……」

「いいじゃねーかよ、ピート」

 なおも渋るピートの肩を押しのけ、雪之丞が前に出た。

「おおかた、勘九郎と戦った時のことを気にしてんだろうが……あれは相手が悪かっただけとはいえ、俺だってその気持ちはわかる。いいぜ、相手してやるよ」

「ありがとうございます」

 不敵に笑って承諾する雪之丞に、かおりはぺこりと頭を下げた。そんな二人の様子を見て、ピートは困ったようにポリポリと後頭部を掻く。

「はぁ……しょうがないか。でも雪之丞、女性にはあまり傷をつけてやらないでくださいよ?」

「そりゃ保証できないな……とにかく、帰るか。組手はいつやる?」

「できれば今日にでも」

「よっしゃ」

 雪之丞の問いに対して返されたかおりの言葉に、雪之丞は手の平に拳を打ち付けて気合を入れ、それを承諾の代わりとした。
 三人は再び歩き出し、唐巣教会へと向かう――


「……ところで、飯食ってからでいいか?」

「構いませんわ」

 盛大に鳴る雪之丞の腹の虫を耳に、かおりはため息と共に頷いた。


 ――おまけ――


 それからしばらく後、六道女学院でのおキヌに関する黒い噂は、次第に鳴りを潜めていった。
 そして、それと前後して、上級生を中心に「青春」を連呼する生徒が何人か見られるようになったが――その関連性は定かではない。

「はぁ〜……」

「愛子さん、どうしたんですか? 随分疲れてるみたいですけど……」

「……おキヌちゃん? いえね、昔自分がやってたことで、しかも理事長の頼みでもあるとはいえ、こういうのって本当にいいのかなーって思って……」

「へ?」

「ううん、なんでもないの。なんでも……」

 関連性は……定かではないったらない。


 ――あとがき――


 今回は超難産でした……というのも前回、『転校生は初日に大騒ぎを起こす』という学園モノのお約束をすっかり忘れてたことに、投稿後になって気付きました。で、それを今回で挽回しようと思ったのですが、なかなか良案が浮かばず、結局こんな形に落ち着いてしまったわけです。完成もかなりギリギリでした……orz
 だったら納得いくまで投稿延ばしたらいいんじゃないの?って意見も出ると思いますが、それをするとまた更新期間が延び延びになって、下手すると更新停止の再来になりそうで怖いのです(^^; 週刊という縛りを自分に課していると、週刊誌の作家さんの苦労の一部でも、わかった気がします……

 ではレス返しー。


○1. 秋桜さん
 日常編は通常編と勝手が違うので、現在手探りで試行錯誤してます。楽しみにしてもらっている以上は、上手くやりたいところなんですがw 竜神親子の悪巧みがどこまで成功するかは、作者自身にもまだわからないです(^^; 華は、おキヌちゃんともっと絡ませたいですね〜。

○2. Tシローさん
 虎の存在感のなさは、作者自身すら忘れるほどで……作中に台詞がないのって、ネタじゃなくて本当に投稿直前で気付いたんですよw でもまあいっかーと思いましたが(ヒド

○3. チョーやんさん
 おキヌちゃんのケアも何も、おキヌちゃん自身気付いてないことだから、ケアの必要さえないでしょうw 幸福大作戦、構想から新しくするというのは作り直しも同然ですね。つらいとは思いますが頑張ってください。応援してますよー♪

○4. 山の影さん
 タイガーが忍者になるには、身軽さが足りなさそうw 雪之丞の転入理由に関しては、彼を愛子の中に入れると決まった時点で既に考えてました。アイデアを思いついた時からどれほど経ったか覚えてませんが、やっと伏線が一つ回収できてホッとしてます♪ ちなみに他作品のネタを引用することは多いですが、クロス自体はしないつもりです。いや、確かにあの漫画とはクロスさせやすそうですけどw
P.S. 華以外のオリキャラは一応何人か予定してますが、まだしばらく後になると思います。それに、出してもサブキャラポジションですし、あまり期待はしない方がいいかも(^^;

○5. あらすじキミヒコさん
 いえいえ。毎度お褒めにあずかり恐縮ですが、私の場合、実はこれ以上時間をかけても大してクォリティ上がらなかったりするんですよねw 創作ってのは不思議なもので、時間をかければ良いものが出来上がるとは限らず、二、三時間程度でぱぱっと適当に上げたものの方がウケが良かったりする時だってあることですし(^^;
 ちなみに『姫ちゃん』『リボン』では、私には該当するものが思い浮かびませんでした……orz

○6. Februaryさん
 現在住宅捜索中の姫ちゃんこと小竜姫。彼女のホームレス生活はいつまで続くのか!? ……いや、そんなに長引かせるつもりはないんですが(^^; タイガーの台詞は、作者も素で忘れてたりしますw 今回はそれなりに台詞ありましたけどw

○7. giruさん
 これでも昔は、7人どころか3人以上の会話でさえ、必ず一人が空気になってしまうほど文章表現が下手糞だったんですけどねー……それが7人書き分けられてたということは、こんな私でも一応成長してるってことなのでしょうか(遠い目
 かおりの未来がどうなるかは、現時点では何も言えませんねーw まあ、原作から逸れすぎてオリキャラ化するって事態は避けたいですので、そんなに心配いらないとは思いますが。

○8. ワールド ワールド ワールドさん
 メドーサは、いじれば面白いキャラだと思いますよ。って、これはキャラ全員にも言えることなんですけど(^^; 私は原作に出てきたキャラで嫌いなキャラはいないので、全員のキャラクター性を存分に引き出せればなーと思ってます。おキヌちゃんはなんだかんだで場数踏んでますから、まあこんなもんじゃないでしょうか?

○9. ながおさん
 すいません、そのキーワードで思い出せるものがありません……orz


 レス返し終了〜。では次回、六十九話でお会いしましょう♪ 次回は魔理のプチ復活編の予定です。

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