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「がんばれ、横島君!! 23ぺーじ目」

灯月 (2008-04-22 00:03/2008-04-25 21:59)
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「畜生! なんでこんなに強いんだよ、この猿!?」

「キキーキ! キキキキキーッ」

「あらぁん、待って〜ん。……うふふ、捕まえたぁ♪」

「は、離せ、この悪魔!! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ??!!」

「陰念、こんなもんでいいかな? 味、ちょっと薄いかも」

「ああ、別にいいんじゃね? 味を気にする奴の方が少ないだろ」

「それもそうか。よし、お前らー飯だぞー。雪、猿ゲーム止めて。勘九郎、ジーク襲わない」

どことも知れない場所。俺たちは何度目かの食事を始めた。


がんばれ、横島君!!〜横島君と妙神山〜


がらり。軽い音をたて、足元が僅か崩れた。
からころからころん……………。
石の欠片が無駄な余韻を残して、遥か眼下へと消えていく。

「……大丈夫?」

「う、うん、なんとか」

背後の壁というか崖に張り付くようにして進む俺の隣。同じ様に恐る恐る歩みを進めるルシオラちゃんが心配そうに。
内心の恐怖を隠し、頷くけれど。
怖いもんは怖いんです!
ルシオラちゃんの後には、さらにパピリオちゃん冥子ちゃん、雪・陰念・勘九郎。
冥子ちゃんだけは蛇の式神にのっているけれど、その他のメンバーは徒歩。
現在地、断崖絶壁の途中みたいな細い細い道?
険しい山の、その頂上を目指す唯一のルート。
妙神山。霊能力者には修行場として有名な場所。
頂上に修行をつけてくれる神様がいる神聖な山。
俺たちは、そこを目指していた。
何でこうなったか? 理由は遡る事一週間前。
学校帰り。拉致られました。六道夫人に。正座させましたが、何か?
素直に謝ったのはいいけど、拉致は犯罪です。
じゃれついてくる式神たちの相手をしながら話を聞けば、なんでも冥子ちゃんの修行に付き合ってほしいという
俺と出会ってからあまりやる気のなかった式神のコントロールや、その他の勉強にも精を出し始めた冥子ちゃん。
その様子を見て、決心したんだと。
冥子ちゃんを妙神山へ修行に行かせる事を。
幸い、コネはある。
だが一人で行かせるには冥子ちゃんはいまだ頼り無く、妙神山への道は険しい。
だから俺に同行してほしい。

「おばさんも〜〜、人の〜親だから〜娘が心配なの〜〜」

拉致るな、他人の子を巻き込むな。
修行に付き合ってくれたら、GS協会に掛け合って俺のGS免許を発行してくれるというが。
それは正直横暴とゆーものじゃないのか?
まずは俺の雇い主に許可を取ってからと、一旦帰ることにしたけれど。
でもなぁ、アシュタロスさんだからなー。
アシュタロスさんに事の次第を報告。
返答は、

「いいじゃないか、行きたまえ」

あ、やっぱりなー。
問題はそこからだった。

「兄さん、それって冥子さんと二人っきり?」

笑顔です。ルシオラちゃん。とっても笑顔です。
ええと、まぁ。ルシオラちゃんも同行する事になり。
雪が自分も行くと喚きだし、何故か勘九郎も来る事になり。なし崩し的に陰念も同行。奴は全てを諦めた目をしていた。
そして妙神山の管理人が龍神族と知ったパピリオちゃんも行きたいと言い出した。
もしかしたら天龍に会えるかもしれない、と。
当然アシュタロスさんは大反対。
ルシオラちゃんには押し切られたが、末っ子に負けるわけにはいかないと、色々な危険性を饒舌に語ったが。

「……家出ちまちゅよ?」

「ごめんなさい」

弱っ!!
こんの、駄目親父。
話の流れでシロも行きたいと言い出したけれど、そっちはポチが担当。
ポチ曰く、拙者に一撃入れることも叶わん小童が何を抜かす。オプション・鼻で笑う。
怒ってポチに突っかかりだしたけれど、妙神山行きは諦めたらしい。
テレサはそもそも修行に興味はなく、家で姫ちゃんの世話でもしてるという。
べスパちゃんもお留守番。

「だってほら、パパ一人にすると何しでかすか分からないっていうか、世界の迷惑っていうか……」

そう、遠い目をするべスパちゃんに、俺は何と声をかければ良かったのだろうか?
てな訳で、冥子ちゃん含め七名で妙神山を目指す事になった。
あ、ルシオラちゃんたちは魔族だとばれないように、念入りに気配を封印している。
麓までは六道家所有のヘリで送ってもらい、そこからは徒歩。
なんでも張られている結界のせいで、ヘリなどは計器が狂い辿り着けないらしい。
流石神のおわす山。
でも唯一のルートがこれ…。正直きつ過ぎます。
途中、最後尾の勘九郎が目の前を歩く陰念を襲いかけたり、うっかり下を見てしまった冥子ちゃんが暴走しそうになったけど。
なんとか、なんとか頂上に辿り着けました!
目の前にあるのは、両開きの大きな門。門に張り付く鬼の顔、脇には頭の無い石造。

「いかにもって感じだね」

「冥子〜、帰りたくなってきたわ〜〜」

「冥子さん、しっかり。せっかく来たんだから」

「おら、さっさと行こうぜ」

言って、雪が門に手をかけたその時。

「無礼者がー!!」

門の顔が、喋った。

「あら、面白いわね」

「これどーなってるでちゅか?」

「……少しは驚いてやれ」

反応が淡白だな、勘九郎。パピリオちゃんもだけど。ついでにそれは追い討ちだぞ、陰念。

「わ、我らはこの門を守る鬼!」

「許可なき者我らをくぐる事まかりならん!」

「この右の門!」

「そしてこの左の門がある限り!」

「「お主らのような未熟者には決してこの門開きはせん!!」」

おお、見事な口上。
でもなぁ、相手は選んだ方が良いぞ?

「ふ、ふぅ、ふぇぇぇえええええええん!!」

「泣いちゃダメでちゅよ、冥子ちゃん」

「冥子ちゃん、ほら大丈夫だから、ね?」

慰める俺たちの横。影から出てきた式神たちが思い思いに門の顔に攻撃を加えている。
待つこと五分。冥子ちゃんも泣き止んで式神たちも収まった。

「で、えーとなんだって?」

「だからぁ! わしらを倒さんとこの門は開かんと!」

「言っておるだろうがぁ! 我ら鬼門は決してこの…」

「あら、お客様ですか?」

ぎー。

「「「「「「「あ、開いた(でちゅ)」」」」」」」

五秒と経たずに開いたな。
門の中から顔をのぞかせたのは、小竜姫さん。ああ、そっかそう言や管理人やってると言ってたな。
あまりの事に鬼門たちがしくしく泣きながら抗議の声。

「しょ、小竜姫様ぁ!?」

「困ります、我らにも役目というものが!!」

「かたい事を。滅多に人が訪ねて来なくて私も退屈していたんですよ?」

悪びれた風もなく笑い、それで一体どんな人が来たのかと、俺たちに向き直り――

「お久しぶりです、小竜姫さん」

「小竜姫様〜、冥子〜修行に来ました〜〜」

「…………………」

ぎぎぃ、ばたん。

「えっ? 閉じたわよ、兄さん!?」

「戻った、戻ったでちゅ?!」

「おいこら、出て来い!!」

「「小竜姫様ぁ! 一体どうなされたのです!?」」

笑顔のまま巻き戻しのごとく門の中に戻った小竜姫さん。
ドンドンと門を叩き呼びかけるが、返事は無い。
呼びかけて呼びかけて、そろそろ疲れた。
天岩戸かこれは。
叩き続けた甲斐あってか、ようやくおずおずと小竜姫さんが姿を現した。

「ええっと、修行にきたんですよね? 修行ですよね、それ以外ではありませんよね?」

その通りですと頷くが。なんでそんなに視線が泳いでるんですか、小竜姫さん。

「わかりました。ではさっさと修行をつけてさくさくと春風のごとく爽やかに速やかにとっとと帰っていただきましょう!」

良い笑顔ですけど、とっととって…。
俺たちを促して門の中へと入ろうとすれば、咎める様な鬼門たち。

「いけません! このような者どもを気安く通すなど!!」

「そうですぞ、小竜姫様! 規則どおりに試すべきです!!」

口を揃えて言い募る鬼門に、小竜姫さんはちょっと困った顔をして。

「仕方がありませんね。まぁ無駄だとは思いますが……いいでしょう。貴方たちの気の済むようになさい」

なんか言い方が引っかかりますよ? 小竜姫さん。
とりあえず、小竜姫さんの一言で中に入るための試験――鬼門との戦闘が行われる事になった。
結果。分かりきっていると思われるので割愛。
ぷすぷす煙を吹いたボロボロの何かが二つ転がってた事だけ、記しておこう。
中に入って、広い和室に通された。極普通の畳敷きの部屋。
大きい卓袱台を挟んで向かい合う。
ルシオラちゃんは小竜姫さんの頭からつま先まで観察するように眺め、冥子ちゃんはいつものおっとりした口調でマイペースに話しかけ、パピリオちゃんは天龍がいないのかと繰り返し問うている。
横から紫色の肌の男が茶を差し出した。
魔界からの人材交流で派遣された留学生で、ジークフリードというらしい。
魔族と聞いて雪は目を爛々と輝かせ、勘九郎は別の意味で目を爛々と輝かせ。陰念は死んだ魚の目をしていた。

「はい〜小竜姫様〜〜、お母様からの〜お手紙よ〜〜〜」

差し出された真っ白な封筒。中から引っ張り出した紙には流れるような達筆。

「……分かりました。冥子さんの修行は主に精神を鍛えるものですね」

苦い顔をして読み終えて、ふむ、と考えるそぶり。
脇で雪たちがジークとなにやら話し込んでいる。
勘九郎の視線の行方がかなりやばいが大人しくしているので、放っておく。

「ええと、パピリオさんでしたね? 殿下はとても高貴な身。おいそれと下界に来る事は出来ません。
一応ここに貴方が着ている事はお知らせしますが…あまり期待はしないで下さいね」

「わかったでちゅ! ありがとうでちゅ!!」

小竜姫さんの言葉に、ぱぁっと顔を輝かせるパピリオちゃん。良かったね。

「それでは冥子さんの修行についてですが、まずは着替えを――」

「おい横島。ここにサインだ。ほら早く」

「なんだよ、今話中だぞ。ったく、コレで良いか?」

さらさらと書いて、気付く。あれ? 今のは何だ?

「ウルトラスペシャルデンジャラス&ハード修行コース、契約完了だな!!」

待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!

「待て待て待て!! ちょ、何だそれは!?」

「え、この妙神山で一番きつい修行ですが? 雪之丞さんたちが所望しまして。横島さんも受けられるのでしょう?」

なんでさも不思議そうに尋ねてくるかな、ジーク?
さっきなにやら話してたのは、コレか!!
陰念は!? 俺が視線を向けた先。諦めろ、と。如実に語る陰念と目が合った。

「そうですか。横島さんも受けられるのですか。わかりました、では皆さん着替えを」

当たり前のように話を進めないで下さい小竜姫さん! なんでさっきから視線を合わそうとしないんですか!?
えー、仕方が無いので、諦めました。
修行といえど、神との契約。破ってはならないらしい。
んで、ルシオラちゃんとパピリオちゃんを除いて全員カンフー映画に出てきそうな修行着姿に。
雪に合う男物のサイズがなくて、ちょっと大きめを着たのが勘九郎の乙女心をついて大変だった。
冥子ちゃんの修行は小竜姫さんが担当。ウルトラスペシャル以下略は上司が担当。
二人だけを残すことに不安が…。

「大丈夫、ルシオラちゃん?」

「ええ、大丈夫よ忠夫さん。勝ってるから

「は? 何が?」

「勝ってるから。向こうは成長期が終わってるけど、私はまだだもの。だから、大丈夫よ」

力強く微笑んで、言い切られる。
だからナニが勝ってるのルシオラちゃん?

「ほ、ほほぉう。それは聞き捨てなりませんね」

にこり。真っ直ぐルシオラちゃんを見据え、微笑む。が、目が笑ってない。
二人の間に不穏な空気!! 嗚呼、冥子ちゃんが怯えてる。
ジークが引きつった様子で、小竜姫さんに声をかけた。よ、勇者!

「あ、あの皆さんの修行はどう……」

「師匠の所へは貴方が案内なさい!!」

「はいぃ?!」

鋭く飛んだ声に、小さな悲鳴。
ルシオラちゃんをその場に残す事に、先ほどとはまた別の不安を抱きつつ、ジークに背を押され足早に去る。
どうかパピリオちゃんと冥子ちゃんが無事でありますように!
ジークに連れて行かれたのは、六角形の暗い一室。人数分のイスが置いてある。

「それでは皆さん、座って下さい。椅子に腰掛けたら気分を楽にして下さいね」

言われるままに、腰を下ろし――視界が一変。

「な、何だここは!?」

「中華風ね。どうなってるのかしら?」

「瞬間移動装置か?」

昔風の中華な装飾が施された建物にいた。
ジークの案内で景色――どこまでも雄大な大自然――の見える渡り廊下を歩き、辿り着いたのは道場と一体化した建築物。

「斉天大聖老師、失礼します!」

そう言った視線の先、猿がいた。
ゲームしてる。あ、眼鏡かけてる。

「……老師?」

「老師です」

思いっきり疑っている俺に、それでもジークは涼しい顔で頷いた。
そんなやり取りを無視して、猿…いやいや老師は雪をゲームの相手に指名。

「…猿だろ、アレ」

「顔は年寄りって感じね。でもお洋服着てて可愛いわ」

「ジーク説明」

「老師は猿神です。神界屈指の実力者、斉天大聖老師です!」

ちなみに、老師は現在プレイ中の格闘ゲームにはまって三日間ぶっ通しでやりこんでいるとか。
あー、なんていうかどんな凄い修行かと思ったらこれは…一気に気が抜けたぞ。
ふと勘九郎と陰念の様子を窺えば。
陰念は勘九郎から徐々に距離を取り出し、勘九郎はにんまりと微笑んで?ジークの方へとにじり寄っている。
後五分も経たぬうちに確実に起きる惨劇を思って、俺は一人黙祷を捧げた。

ここへきて、早三ヶ月。慣れました。
さっすが、俺。順応能力高いなー。
雪はほぼ毎日老師のゲームの相手をさせられている。対パピリオちゃんで鍛えられた雪が敵わないとは、やるな猿。
勘九郎はほぼ毎日ジ−クを追い掛け回している。魔族としての本気で迎え撃ってるのに、勘九郎に勝てないのはなぜだろう。
陰念はなんというか穏やかな顔になっている。雪は老師に、勘九郎はジークに。それぞれ構っているから平和なんだろう。良い事だ。
俺といえば、放っておけばいつまでもゲームを止めない雪と老師を叱り付け、ジークの精神が本気で耐えられなくなってきたら勘九郎をしばき倒し。
そして陰念に手伝ってもらいつつ家事をこなす。
平和だ。実に平和だ。
アシュタロスさんのいない世界とは、こうも穏やかなんだなーと実感する。
それでも初めのうちはかなり焦ったのだ。
こんな所に何日もいるわけにはいかないと。
だって残してきたルシオラちゃんが! 小竜姫さんとの間に見えたあの火花…。パピリオちゃんも冥子ちゃんも心配だし。
アシュタロスさんをいつまでもべスパちゃん一人で抑えるのは無理だろうし。
そんなわけで内心慌てていた俺を、魔眼が落ち着かせた。

[心配すんなよ、兄弟。この空間は特殊なもんだ。ネタばらしする気はねーから細かい説明は省くけどよー。
この空間内ならどれだけ時間が過ぎても平気だぜ。だからまぁゆっくりしとけ]

そう言われて、納得した。魔眼が俺を騙す理由は無いし。
コレといった修行もなく、とにかく思い思いにだらだらと過ごす日々。
食事の後のデザートは桃。周りに生えてる木からもいだばかりの新鮮なのやつ。
嗚呼、甘い。美味い。
雪は俺と桃を食い。陰念は縁側で日向ぼっこ。猿はゲームで疲れた目を休ませて。ジークは精神安定の写経。勘九郎はそんなジークを母のような目で見守って。
そんなだらけた時間の中、突然雪が切れた。

「やってられるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 俺は修行しにきたんだよ! 猿とゲームやる為にきたんじゃねぇ!!!」

「落ち着け、雪! いくらやってもゲームで勝てないからって暴れんな!!」

「ちがぁぁぁぁぁぁぁうぅぅっ!!」

叫んだ雪を止めようと、その体を押さえつけて。
瞬間――体が奇妙な軋みを上げる。世界が歪んだ。

「ま、よく持った方かのぉ?」

猿が、今までキーキーと喚くしかなった老師が、喋った!?
空間は歪み収縮し、そして俺たちは元の場所へと戻っていた。
イスに座ったままの状態。一歩も動いていない。
一瞬後、中空から現れた老師が言う。
先ほどまでの空間は老師と魂を繋げその精神エネルギーを大量に受け超加速状態にあったのだと。
過負荷から開放された今俺たちの魂は一時的に出力が増している、その隙に己の潜在能力を引き出せと。
でなければ死ぬ。
……嫌な脅し文句だな。本気っぽいし。
ああ、雪が滅茶苦茶嬉しそうだ。
そして通されたのは、今目の前にいる老師には小さすぎる石のステージがぽつんとある、どこまでも続く荒野。ストーンサークルがいいアクセント!

「でかい…」

「あれとやるのか」

「へ、面白ぇ!」

「う〜ん、もう少しスマートなら好みかも」

老師を見上げて、うめきをもらす。
お前の懐はどれだけ広いんだよ、勘九郎!?
ちなみに、今の老師の姿は十メートルは越す巨大な猿某有名ゴリラ映画も真っ青状態。
それが棍を持ち立ちはだかっている。
そういや斉天大聖て孫悟空のことだったよーな。実在したんだ、わーい。
は、いやいや現実逃避してる場合じゃない! これは……本気でいかんと、死ぬ。
すでに雪と勘九郎は魔装術を発動させ、老師の姿を油断なく見据えている。
俺と陰念も戦闘態勢。神様とやりあった事なんてないけれど、放たれる威圧感で今にも押し潰されそうだ。

タン!!

棍が、石の舞台を打つ。その音を確認すると同時、老師の姿が一瞬で掻き消える!

「は、速い!!」

反応するより先、爆風!? いや、老師がこっちに突進していた!!

「うわぁ!!?」

「ぐお!!」

避けたというよりも、吹っ飛ばされただけ。
勘九郎は着地したばかりの老師に鋭く飛び掛る、が、棍の一閃。まるで虫の様に薙ぎ払われた。

「きゃ?! ……骨は、折れてないわね」

倒れたまま冷静に言うけれど、起き上がれない時点で骨が折れていようがいまいが同じだろう。

「うおりゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ポチとの戦いで進化した魔装術の全力でもって攻撃を仕掛ける雪。しかし、大きさと実力が違いすぎて、勘九郎同様相手になっていない。
戦闘が始まってまだ五分と経っていないのに、もう皆ボロボロ。満身創痍。

「おい、大丈夫か?」

吹っ飛ばされた雪を受け止めた陰念、顔は老師に向けたまま。声だけを俺へと向けるけど。

「いや、無理っぽい気がするぞ。これは」

「だよなぁ」

正直な感想に苦笑いで答える。
陰念に支えられたまま、雪がぶつぶつと何事かを呟いていた。

「誓ったんだ、俺は…ママに。年も取れず…………強くなるって……!!」

断片的で良く聞き取れないが、こいつの根本はやはり母親か。
ここまで絶望的な実力差のある相手とやるのは初めてで、どうしたら良いのか、まったく分からん。

[兄弟、俺も手を貸すから諦めんな。それに、周りに陰念たちがいるんだぜ?
少しくらい頼っても罰はあたらねーさ]

魔眼。でも勝ち目零っぽいんだけど。これ。

[ま、勝つのは無理だな。絶対無理! けどまぁ、このまま大人しくやられるタマじゃねーだろ?]

はっきり言うな。
うん、でもちょっとは楽になったぞ。サンキュー魔眼。

[そんじゃ、やるか兄弟?]

おう。反撃してみるか!
続く激しい攻防。いや、それは一方的な攻撃。
それでも雪も勘九郎も陰念も、まだその目に闘志を宿している。
一番近くにいた勘九郎、伝えたのは簡単な事。作戦とも呼べないもの。
それでも勘九郎は、頷いた。
カマだけどこーゆー時は頼りになるなぁ。
老師が、棍を振り上げる。それが振り下ろされるその刹那!
踏み出した足元、右足の真下。出現させる。
魔眼が霊力を集中し、俺が形を造り出した巨大なサイキック・ソーサー。
特大ソーサーは次の瞬間大爆発を起こした!

「ぐぬぅ!?」

虚を突かれ、一呼吸程度老師の動きが止まる。止まるだけで充分。
左足。そのひざを狙い背後から勘九郎が迫り。

「行っけぇぇぇぇぇぇぇ!!」

陰念の装魔拳が雪を乗せ、老師目掛けて放たれた!

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

雪の咆哮。両手のナックルが応えるように光を宿す。
その姿が、変わる。
より鋭利に、よりシャープに!
ナックルは鋭さを増し、頭の触覚は細く長く背になびく。
顔は目を除いて黒いマスクが覆い隠す。かかとには鳥の蹴爪のような鋭い突起。
左足ひざを、後ろから斬りつけようとした勘九郎にも変化。
爪は鋭くく、角は長く。手足に洗練された籠手のような防具。
全体が微妙に女性っぽいフォルムになったのは、危機感からくる目の錯覚だ!
これが、老師の言ってた潜在能力の開放?
ああ、呆けてる場合じゃない。
俺も闘わないと!!
ハンズ・オブ・ガーディアンを発動。
援護のために新しい魔装拳を発動させた陰念。
頷きあって駆け出して、異変。
びきりびきりと、硬質な音。
陰念の魔装拳が、不恰好なほどとげとげしていたそのデザインがすっきりスリムに。
今までは収束し切れなかった霊気が僅かばかりもれていたのだが、それもなくなる。
足にも似たようなデザインの鎧がまとわりついていた。
そして俺の左腕。発動した『手』。
全霊力を集中したため、バチバチと爆ぜる様な脈打つような、音がする。
それが、ぎちりと一瞬うなり。肘までだった力が肩までに広がった。
暴走かと思ったが、違う。
肩までを黒いレザーのようなものが覆い、左腕全体が以前よりずっと収束された霊気の鎧を纏わせる。
一番の特徴は以前は魔眼が現れていた甲を中心に、奇妙なラインが走っていること。
思わず動きが止まる。
けれど――

[兄弟、右!!]

魔眼の声に反応するには遅すぎた。
巨体が消える。瞬時にして、振るわれた棍。
俺たち四人を平等にぶっ飛ばす!
地面に叩きつけられる。息が止まる。視界が真っ黒だ。どこが痛いのかも分からない。
本気でシャレにならん。
ポチと戦ったときもヤバかったげ、それ以上。比べものにならない。
ていうか、せっかくパワーアップしたのに!

[兄弟、しっかりしろ! マジで死ぬぞホントに死ぬぞ!? 蛍の嬢ちゃんを遺して逝く気か!!]

嗚呼、そうだ。ルシオラちゃん。俺に何かあったら泣く。絶対泣く。
ルシオラちゃんだけでなくべスパちゃんもパピリオちゃんも。
でもルシオラちゃんに泣いて欲しくない。彼女が泣くのは一番嫌だ。
笑顔が可愛いんだ。ちょっと怖いときもあるけど、それをひっくるめて可愛いんだ。

「……う、ぐ…うぅ!」

朦朧とした意識。立ち上がろうして出来ない。
魔眼が何か言ったような気がする。聞き取れない。嗚呼、左手が、熱い。
薄く開けた視界の端で、陰念や雪それに勘九郎がもがいていた様な気がした。
ああ、いかん。意識が保てない。死ぬ。ルシ…オラちゃん……。
闇に飲まれる意識の中、左手が、なんだかひどく熱かった。


気が付いたのは、夕暮れ時。
かすむ頭を振って、寝かされていた布団から上体を起こす。
大丈夫ですか?と、ジークがお茶を差し出してきた。
それを一口飲んで、口を潤す。

「ああ、まだちょっとぼーっとするけど…。他の奴らは?」

「勘九郎さんと雪之丞さんは異界空間の修行場で老師に稽古をつけてもらっています。
陰念さんは先ほど目を覚まされて、外の空気を吸いにいきました」

「そっか。あれ、えと修行――老師との修行は結局どうなった?」

[それなら問題ナッシング! しっかりきっちり能力覚醒したから大丈夫だぜ!!]

問いに答えたのは魔眼。
そーなのか、大丈夫なのか?
ジークも修行は成功だと、横で言っているから。そうなんだろう。いや死に掛けたけど。

[ああ、平気だっつてんだろ。ほれ、手の中見てみな兄弟]

言われるまま何故か握りっぱなしだった左手を広出ると、そこに五つの珠。
ビー球よりちょっと大きいくらいか。綺麗だなー。

[そいつは文珠ってんだよ、兄弟。かなり使い勝手の良い霊具だぜ! ま、使い方はおいおい教えてやるさ]

へぇ、コレって俺が作ったのか? なんだか凄いな。
そういえば、ルシオラちゃんはどうしただろうか?
修行を始める前の状況を思い出して、嫌な汗が背中を伝う。
ジークに礼を言って、ふらりと外へ出た。
居住区になっている一角なのか、のどかな庭が広がっている。
庭に立ち尽くしているのは陰念。俺の姿を認めて、軽く手を上げた。俺もそれに手を上げることで返し、歩き出す。
おそらく修行用のスペース。広場のような所では、パピリオちゃんと天龍が遊んでいた。
そーかそーか、会えたんだ。良かった。
なんだか嬉しくなって足取りも軽くなる。
前方からこちらに向かってくる人影。ルシオラちゃんだ!

「に…忠夫さん!? もう起きて大丈夫なの!」

駆け寄って、心配そうに眉根を寄せる。

「うん、平気だよ。ごめんね、心配かけて。
その、ええと…ルシオラちゃん?」

「うん? どうしたの」

こちらを見上げるルシオラちゃんに、見かけた時から覚えた疑問を、ためらいがちに聞いてみた。

「……なんで修行着なの?」

そう、何故か修行着。あのカンフー的衣装。
ルシオラちゃんは俺の前、くるりんと回って見せて。
似合う?と首を傾げる。
いや、似合うけど。新鮮だし、凄く可愛いんだけど。
なんで?

「ん〜、ちょっとね? でも大丈夫よ、勝ったから! 小竜姫さんには勝ったから!!」

拳をぐぐいっと握り締め、明後日の方向を見据え不敵に笑うルシオラちゃん。
だからそれはナニがどう勝ったの?!
聞かない事にした。なんか、ちょっと怖いから。
それはさて置き。
冥子ちゃんの修行はどうなったのか聞けば、小竜姫さんがしっかりつけてくれていると言う。

「修行の内容は分からないけど、精神鍛錬用の部屋があるからそこでって言ってたわ」

暇になったルシオラちゃんは周囲の散策をしていたのだと、笑った。
冥子ちゃんの修行が終わるまで待たなければならないし、どのみち今日は帰れないだろう。
完璧に日が暮れれば真っ暗で。その状態であの険しい道を降りたら、確実に死ぬ。
ルシオラちゃんと散歩を楽しみつつ、冥子ちゃんが修行しているという部屋の前まできてみた。
両開きの扉。しっかり閉じられ、開く気配はなく、中からは物音一つ聞こえない。
しばらく待ってみたけれど、結局、その日扉が開くことはなった。
はい、妙神山お泊り決定。
小竜姫さんの上司の老師がOK出したから、問題は無いだろう。
パピリオちゃんも天龍もまだ一緒にいられるとはしゃいでいるし。
あ、パピリオちゃんの方が背が伸びてる。
成長の早いパピリオちゃんと成長の遅い龍神族の天龍では、やはり差がついてしまうのだろう。
それを指摘すれば、半泣きで斬りかかって来た。やっぱ気にしてたのか。
パピリオちゃんがお姉さんぶって慰める。いいなぁ、仲良しで。
皆――マイナス冥子ちゃん、小竜姫さん――と、楽しく合宿気分で一晩過ごし。
勘九郎の暴走は老師が止めてくれました。ありがとう、流石神!!
翌朝、ようやく門が開き、一体どんな修行だったのか冥子ちゃんがボロボロになって出てきた。

「わー!? 大丈夫、冥子ちゃん!?」

「横島く〜〜ん、小竜姫様が〜小竜姫様が〜! 冥子〜怖かったぁ〜〜〜!」

ぎゅむっと抱きついてくる。
後ろで小竜姫さんが情けないですねーと笑っている。物凄く晴れやかに。
修行は成功らしいのであえてそこには触れず、お礼を言って妙神山を後にする。
勘九郎が名残惜しそうな視線をジークに向けたけれど、無理やり引きずりました。どこまで被害を増やす気だ!
ほら、ジーク怯えてるから!!
パピリオちゃんと天龍は前と同じ。指きりをした。

「今度は、余の方からパピリオに会いに行くのじゃ。だから待っておれ!」

「わかったでちゅよ、天ちゃん。……絶対でちゅよ?」

「うむ、余は嘘はつかぬ!!」

嗚呼、ホントかわいいなぁ。
見送る天龍に向かい、パピリオちゃんは何度も何度も手を振っていた。

「良かったね、パピリオちゃん」

「はいでちゅ! 今度は天ちゃんが来るのを待ちまちゅよ」

満面の笑み。思わず頭を撫で撫で。
冥子ちゃんと軽い挨拶を済ませて、家に帰る。
あー、やっと落ち着ける。
隣でルシオラちゃんがパパが何もしてないと良いけどと、思案顔。
いやまったくだ。大丈夫かなー?
家に戻れば、何故か痛いほどの静寂。
気配はあるけど、話し声はもちろん物音すらしないのはなぜだ?
全員顔を見合わせて、とりあえずリビングへ。
明かりのついていない、暗いそこにはべスパちゃんが一人だけ。
疲れた顔でソファにかけていた。

「あ、べスパちゃん? その、ただいま」

「え、ああお帰り、兄さん姉さん」

声をかけて、ようやくこちらに気付いたらしく。はぁっとため息。
……アシュタロスさんが何かやっちゃったか!? この反応。

「べスパちゃん、アシュ様はどこかしらー?」

勘九郎の問い。べスパちゃんは、無言で庭を指す。
あ、なんかヤな予感。
重い足取りで庭に向かえば、そこで展開されている光景にすっ転びそうになった。

「…どこかの原住民っぽいな」

陰念の呟き。的を得ている。
アレだ、縄でぐるぐる巻きにされて木に吊るされてました。白目むいたアシュタロスさんが。
その周りを囲むのはハニワ兵。姫ちゃんが液体肥料片手に笑ってる。
焚き火があったら完璧だ。何が、とは聞かないでくれ。

「パパ、今度は何をしたのっ?!」

涙目になったルシオラちゃんが、俺たちの気持ちを代弁してくれた。
ホンットーにこのおっさん、何をやらかした!!

「――べスパちゃん、ご苦労様」

きっと俺たちの留守中壮絶な戦いを繰り広げたであろうべスパちゃんに、それ以外かける言葉が見付からなかった。
霊力のパワーアップよりも、雇い主をどうにかする方が大切だよね。


しばらくは、アシュタロスさんの躾に重点を置こう! そう心に決めたあるうららかな春の日のこと。


続く


後書きと言う名の言い訳
はい、とゆーわけで文珠獲得。ついでに『手』もぱわーあっぷです。
戦闘シーンと覚醒シーンが物凄く気に入らなくて書き直し。でも書き直しても気に入らない! 仕方ないのでそのまま…。
他にも新技とか使わせたかったのですが、無理でした。これから出していこう。
ルシオラちゃんはアシュ様の前では兄さん呼びです。知られたら暴走するので。
次回はおそらく本家が襲来しまっす! さぁ、無事ですむのか横島君!むしろアシュ様!!
では、ここまで読んでくださった皆さんありがとうございます!!

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