横島はふと体育座りでじっと試合を見つめている雪之丞の姿を目にとめると、その隣に歩いていって自分も腰を下ろした。
「雪之丞、体の感覚はどーだ?」
と訊ねたのは、麻痺ガスの効き目はどのくらい残っているかという意味だ。男の体調を気遣うシュミはないのだが、ブレスの効力を知っておくのは今後のためにも必要である。
横島の性格ならそんな事より女子高生のバトルの方が気にかかるのではないかと思われる向きもあろうが、峯は無地に近いセーターにスラックス、弓は水晶観音の強化服と色気のカケラもない服装をしているのであまり興味がわかないのだ。
弓との間柄のことは聞きたくないのでスルーである。
しかし雪之丞は格下の戦いからでもそれなりに得るものはあると思っているし、その片方は自分の彼女なのだから真面目に観戦している。だから横島の質問をちょっと煩(うるさ)いと思いはしたが、無視するわけにもいかないので顔は向けずに言葉だけで答えてやった。
「……そうだな、脚はまだちょっと痺れてるが上半身はほぼ治ったってところか。おまえのお札がなきゃもうちょいかかったかも知れんが」
「そっか。すると俺の技もそれなりに威力はあるってことだな」
雪之丞はただでさえ霊圧が強い上に魔装の鎧をまとっていたし、肉体的にも強健な成年男子である。それにこれだけ効くのだから、並みの悪霊や妖怪、あるいはクラスの男子どもなら相当な長時間にわたって無力化できることだろう。
「まあな、それは認める。確かに今回は俺の負けだが、しかしおまえの戦法はだいたい分かったからな。次はこーはいかねえぞ」
「まだやる気なのかよ……」
横島は雪之丞の戦闘民族っぷりにあきれたが、自分が言ってどうにかなるものでもないので余計なことは言わなかった。もっともカッコつけてタイマンでやっても無意味なことは分かったので、またやるハメになったら今度はカリンを呼んで「2対1」でやろうと思っていたが。
「それよりおまえも試合見とけ。俺たちよりは弱いが、だからって見る価値もねえってわけじゃねーからな」
「あー」
横島はいかにも気のなさそうな表情で頷いた。
色気のない格闘を観戦するくらいなら、隣に立っているタマモのスカートの中でも覗く方がずっとマシなのだが、さすがにそれは世間体的にまず過ぎる。横島がおとなしく組み手の方に視線を向けると、峯が今まさに剣をふりかざして弓に躍りかかるところだった。いや、切りつけると見せて触手を左右から叩きつける。
「甘い!」
弓の腰を挟み切るように迫った触手を、装甲娘は跳躍して膝を曲げることでかわした。しかしこれだけでは触手に追いかけられて捕まってしまうので、弓はまず右手を突き出して霊波砲を1発放つ。
「くっ!」
それを峯は弓とは逆に体をかがめて避けた。そのまま後足で地面を蹴って、剣で突きを入れようと接近する。だがそこに弓の左手からの霊波弾が襲いかかった。
「―――!」
今度はかわせない。やむを得ず左腕でブロックし、痛みは我慢してさらに踏み込もうとしたが、無事着地した弓も前に出てきたので間合いが必要以上に詰まってしまった。
弓が右手を伸ばして、峯の左腕を掴みにかかる。
「この……!」
峯はとっさに腰ごとひねって左腕を後ろに引き、一連の動作として右手の剣を横に薙いだ。しかし剣は弓の右腕3本でがっちりブロックされ、左腕を掴まれるのは免れたものの代わりに水晶観音の腕で肩口を殴られてしまった。
「痛っ……!」
だがひるんではいられない。峯はとっさに右腕に力をこめ、剣で弓の腕を押すと同時に右に跳んで距離を広げた。
しかし弓は今が好機と見たのか、しつこく前に出て間合いを詰めていく。峯は不自然な跳び方をした直後で体勢が崩れていたが、ふとその視界にカリンの姿が入った。
「……ッ、この! いつまでも調子に乗らないで!」
想い人の前でブザマな姿は見せられない。峯はカッと目を見開くと、剣を地面に突き立ててそれを支えにドロップキックを繰り出した。
「!?」
あまりに予想外の攻撃で、弓はその蹴りをまともに胸にくらって後ろに尻餅をついてしまった。その隙に峯も姿勢を立て直し、剣を構えて再び仕切り直す。
「……へー、2人とも結構やるなあ」
横島がそう感心したような呟きをもらした。
峯とは林間学校の時に試合したが、触手が変化したことで彼女はかなり強くなっているようだし、それと互角に渡り合っている弓も相当なものである。ぶっちゃけ格闘の「技術」だけなら自分より上のような気がした。
「一応、うちの1年のトップツーですから」
神野が少しだけ誇らしげな顔でそう口を挟む。自分たちより1つ年上なだけなのに性格はともかく戦闘力は一流GSクラス、いや彼が勝手に彼女だと吹聴している女神と同じ竜神のような能力を持った男がチーム仲間を素直に褒めてくれたことを喜んだのだ。まあ今さらといえば今さらだが。
「あ、思い出した。そっか、峯さんのライバルってあの人だったんだ」
とタマモが手を打ったのは、いつだったか峯にクラス対抗戦の話を聞いたことを思い出したからである。なぜ弓があんなに激昂して勝負を挑んだのか不思議だったのだが、これで合点がいった。
「ええ。あの時は3対3だったけど今日は1対1だから、言い訳のしようがない形で勝ち負けが決まるわね」
神野はむろん峯に勝ってほしいのだが、さてどうだろうか。
「…………」
峯が黙ったまま、剣を中段に構えてじりじりと間合いを詰めている。考えなしに突っ込んだら霊波砲で迎撃されるため、一足で飛び込める間合いになるまでは防御や回避が間に合うよう大きな動きは避けているのだろう。
しかも別の細工もしている事はギャラリーには分かるのだが、それはまた仕切り直されるまでは口に出さないのがルールである。
弓は足を止めてじっと間合いの変化を測っていたが、それがある一点に達した瞬間、突然だっと前に出ると同時に両手を前にかざして霊波砲の態勢に入った。
―――そしてその踏み込んだ足が何かに引っかかったと思った瞬間、弓はつんのめって前に転んでしまっていた。顔が下を向いたとき足元に見えたのは、地上10センチほどの位置に横に張られた峯の触手。
「ほほほっ、あなたみたいなお嬢様ぶった人は、こーゆー素朴な手にかかるものなのよね。覚悟ッ!」
峯が会心の笑みを浮かべつつ、エターナルハーツを振り上げて跳躍する。要するに自分に注目させることで足元への注意をおろそかにさせ、その隙を突いて触手で転ばせようという策だった。
お嬢様ぶった人、とは頭はいいが人を見下す傾向がある人物という意味である。そこまで言うと弓に余計なヒントを与えることになるのでそんな表現になったようだ。
「こ、この……!」
転ばされた事とこき下ろされた事の二重の屈辱に頬をひくつかせる弓。それでもとっさに水晶の腕を上げて肩口に落ちてきた剣をブロックする。
と、ガキィン!とガラスが割れるような音とともに、剣を受けた左腕2本がへし折れた。
「な……!?」
さっきは軽く防げたのだが、やはり両手で握って体重も乗った一撃は破壊力が違うようだ。しかしいくら不自然な姿勢だったとはいえ、まさか腕2本を1度に破壊されるとは。
あの剣ちょっと反則じゃないの!?と弓の顔に驚愕と恐怖の色が走ったが、今はそんな物言いをつけている暇はない。必死の形相で体を起こして後ろに跳び退くと同時に、牽制と後方への加速をかねてさっき撃ちそこねていた霊波砲を放つ。
「甘い!」
しかし峯は体をずらして霊波弾の1つをかわし、もう1つは剣の腹で受け止めた。弓は後ろに下がりながらだったから、剣の間合いからは逃げられた代わりに霊波弾のスピードは遅くなっていたので対応するのは比較的容易だったのだ。
はね返った霊波弾が弓の顔面に迫る!
「く!」
もはやかわしようはなく、またかわしていたら次の峯の攻撃を防げない。弓はやむを得ず両腕をクロスさせてガードした。
その両手首に峯の触手が巻きつき、思い切り横に引っ張られて十字架のようなポーズにされてしまう。
「取った!」
「なんの!」
勝ったと見た峯が歓喜の声をあげたが、答える弓の声はまだ折れていなかった。霊波砲は別に腕を相手の方に伸ばしてなくても撃てるのだ。
しかしそのために両掌に集めた霊力は、なぜか手の甲の辺りから抜けていってしまった。眼だけを動かして見てみれば、峯の触手の先端がそこに接続されているではないか。
「これが私の触手の新しい力よ。思考波を送って相手の自由を奪うことは出来なくなったけど、代わりに霊気を吸い取ることが出来るようになったのよ」
「なっ!?」
弓の霊波砲はまだ初心者レベルだから、霊気を掌に集めて発射するまでに多少の時間がかかる。まして吸収されながらでは、峯に効くような霊波弾をつくるのは不可能だ。
そうと見定めた峯が無言で剣を腰だめに構えて突っ込む。腹に突きを入れて終わりにするつもりだった。
と、いきなり顔の前にガラス塊のような物が飛んできた。
「痛っ!?」
それはまったくの不意打ちで、おでこの真ん中に思い切りクリーンヒットされてしまった。それで一瞬峯の目がくらんだ隙に、弓が残った水晶の腕で触手を振りほどいて拘束から脱出する。
「くう……いったい何なの!?」
峯が額を手で押さえつつ辺りを見回してみると、足元にガラスの靴のような物が落ちているのに加えて、弓の強化服の右足の部分がなくなっていた。おそらく足首の辺りだけ術を解除して、靴の部分を脱いで蹴り飛ばしたのだろう。なかなか器用な真似をしてくれるではないか。
……間合いが広がってしまった。いい所までいったが、残念ながらまた仕切り直しのようだ。
「ってゆーか、峯さんってカリンさんに憧れてる感じのわりに、やる事は横島さんに似てるよーな」
遠藤がぼそっと小声でつぶやいた。
百合疑惑再燃とまでは言わないが、ぶっちゃけあの態度は令子を「おねーさま」と呼んで偶像視している級友たちより、格の差が小さい分リアルにそっちっぽいのだ。
しかしカリンはああいうセコいというかガキっぽい戦術は使わないだろう。むしろ横島にあの触手がついたらあんな手を使うんじゃないかと思える。
別に悪いとは言わないが、どうせならそちらもカリンを見習えばいいものを、わざわざおバカな本体の方に毒されてしまうとは。
「横島さんってキャラ濃いもんねー。
でもあれが千鶴の本性のような気もするわね。横島さんとケンカばかりしてるのは同族嫌悪とか」
「いや、あれはカリンさんを取り合ってるだけでしょ。こう1番上のお姉ちゃんを取り合う次兄と末妹って感じで」
「ぶっ! そ、それは確かに言えるわね。そーね、横島さんと千鶴が生き別れの兄妹だって言われたら私信じるかも」
「……」
こんなやり取りを聞こえる位置でかわされている横島は、はっきり言ってものすごく居心地が悪い。しかし止めさせるわけにもいかず、とりあえず隣の雪之丞に話しかけてエアーチェンジを試みた。
「雪之丞、どっちが勝つと思う?」
「ん? ああ、そうだな」
雪之丞は相変わらず真面目に観戦していたが、こういう話題は煩がりはしなかった。ただ恋人のことだけに少し心配そうな口調で、
「やっぱり峯の方が少し強えみたいだな。それに弓は今の攻防で鎧の腕を折られてるし、このままの流れで行ったら勝てねえ」
「なるほど。でも俺としては長期戦になって鎧ぜんぶ壊されて、ついでに服も痛ぇぇぇ!?」
またアホなことを言い出した横島の手首を雪之丞が無言でひねり上げる。タマモもほんの僅かだが眉をしかめていたから、多分後で何がしかの追及があることだろう。
―――そして弓自身も、長期戦になったら不利なことは理解していた。水晶の腕を折られた事だけではなく、霊波砲を何発も撃ったので霊力が消耗してきているのだ。峯の方は逆に吸い取った霊力を使えるかも知れないし、そろそろケリをつけないと危ない。
チラッと眼だけで横を見て雪之丞が真剣に観戦しているのを確かめると、1歩前に踏み出す―――と見せて、水晶の靴の左足の方も蹴り飛ばした。
「こんなもの!」
しかし間合いがやや離れていたせいもあり、峯の顔を狙ったそれはまたも剣の腹ではじかれていた。だが弓にとってそれは想定内のことで、素早く左斜め前に動いて峯の右斜め前から飛び込む位置に移動する。
剣でまっすぐ突きを入れられたらそれ以上接近はできないが、右からの横薙ぎなら水晶の腕を犠牲にすれば防げる。そこでもう1歩踏み込めば徒手格闘の間合いになるのだ。
「行きます!」
「甘い!」
と峯は言ったが、その攻撃は弓が読んだ通り右からの胴薙ぎだった。これも予想通りそれを受けた水晶の腕は2本とも砕けて折れたが、弓は素早く右手を伸ばして峯の左手首をつかんだ。
「な!? しまっ……!」
まさか水晶の腕は囮だったとは。すでに2本折られているのだから残りの2本は大事にすると踏んでいた峯が一瞬硬直する。
逆に弓にとってはすべて作戦通りの展開で、毛ほどのよどみもなく流れるような動きで左拳を突き出した。
「が……!」
その一撃をまともに頬に受けた峯が苦痛の声をあげる。今の弓の拳はいわばガントレットをつけているようなもので、そのパンチは普通に殴るよりずっと威力があるのだ。
峯の頭が後ろに揺れ、膝の力が抜けてかくんと曲がる。
(いったぁ……このぉ、やってくれたわね!)
それでも闘志は萎えていない峯が最初に思いついた報復案は、崩れると見せかけて股間を蹴り上げることだった。これなら鎧の上からでも相当な打撃を与えられるはずだ。
しかしただの練習試合で、いやカリンが見ているのにそんなえげつない事はしたくない。
だがそれならどうする。弓の水晶の腕は4本とも折ったとはいえ鎧の方はほぼ無傷だから、剣を握った手を押さえられていては圧倒的に不利だ。
(それでも……負けるもんかーーーーっ!!)
心の内で咆哮する峯。そう、この剣にかけて負けられはしないのだ。
しかしそのエターナルハーツを、峯はあえて手から放した。フリーになった右手で弓の右手首をつかみ返す。
「―――ッ、一体何を!?」
さすがに剣を手放すとは思っていなかったのだろう、一瞬弓の動きが止まる。その隙に峯は弓の右手を掴んだまま体ごと後ろに倒れこみ、上体がぐらついて力が抜けた弓の右手から自分の左手をひっぺがすと同時にその腕に体を寄せて、自由になった左腕で姿勢が崩れた弓の顔面に渾身の肘打ちを入れる!
「ぐ……!」
弓の目の前に星が飛び、体ごと後ろによろめいた。しかしむろん峯の反撃はここで終わりではなく、今肘打ちを放った左腕を弓の右腕に巻きつけて肘関節を極めに向かう。少林寺拳法の腕十字固めに近い技のようだ。
(勝った……!)
峯が心の中でそう勝利を確信する。
確かにこれが極まれば弓もギブアップせざるを得なかっただろうが、しかし不幸なことに峯はさっき顔を殴られたダメージがまだ抜け切っておらず、しかも水晶のガントレットは普通の服より滑りやすかったために、弓の右手首をつかんで彼女の体が流れるのを押さえていた峯の右手はつるりとすっぽ抜けてしまった。
「え゛!?」
当然弓の肘を極めることには失敗し、装甲娘の体はそのまま後ろに流れていく。そしてさらに間が悪いことに、その右手のガントレットの爪が峯のセーターの襟元にひっかかっていた。
びりびりびりぃーーーーっ!!
弓が地面に尻餅をつくのとほぼ同時に、峯のセーターも肩口からへその辺りまで裂けてはらりとめくれ落ちる。
ピンクのスポーツブラがあらわになった峯の悲鳴が青い空に響き渡った。
「…………勝負あり、だな。弓殿の勝ちだ」
カリンがやれやれとため息をつきながら、試合終了と弓の勝利を宣告する。弓はまだやれるが峯は横島や雪之丞の前でこれ以上まともに戦うのは無理だろうから、ここは弓の勝ちということで終わりにするのが妥当だろう。
峯が破れたセーターを左手で押さえながら苦笑して、
「はい、これじゃさすがにもう無理です。すいません、せっかく武器を貸していただいたのに」
弓に勝ったら記念&ご褒美として剣を本当にもらってしまおうと思っていたが、こんな間の抜けた負け方をしてしまってはワガママは言えない。峯は右手でエターナルハーツを拾うと、ちょっと名残り惜しそうな顔つきながらも素直にカリンに差し出した。弓がセーターに指をかけたのはわざとではないと思っているのか、彼女に腹を立てているような様子はない。
影法師娘は剣はもちろん返してもらったが、峯の健闘をたたえてやる事は忘れなかった。
「いや、峯殿はよくがんばったと思うぞ。霊的格闘に関節技を使うのはどうかと思うが、触手はうまく使いこなしていたしな」
剣の扱いには難があったが、それは素人なのだから仕方ない。それより峯がガントレットで殴られてなお即座に反撃できたのは自分にいい所を見せるためだったに違いないのだから、せめてその気持ちは伝わったというメッセージくらいは出してやりたかったのだ。
「……そうだな、この剣は私の体の一部だからあげるわけにはいかないが、敢闘賞として今度会う時に何かプレゼントでもしよう。期待しててくれ」
「ほ、ホントですか!?」
峯は弓の前だから一応おとなしくしているが、内心はもう踊り出さんばかりだったりする。カリンは微妙に自分の発言を後悔しつつも、
「ああ、もちろんだ」
と請け負ってやった。しかし峯に何かあげるからには横島にも沙汰なしでは済ませられないし、影法師業というのもなかなか大変なものである。
「……弓殿のことはよく知らないから講評とかはしない。じゃ、最後は礼かな」
「……え?」
カリンは自分を霊能者として評価するような言動は特にとっていない弓のことをあれこれあげつらうような事は避けたのだが、弓は逆にそれが意外だったらしく一瞬ポカンと口を開けた。もしかしたら自分も何かもらえると思っていたのかも知れない。
「……あ、は、はい」
しかしすぐに立ち直って、当然ながらまだセーターを手で押さえたままの峯の正面に移動する。
「ま、まあ、何といいますか……形の上では私の勝ちになりましたけど、でもこれで私の方が上だとかいうつもりはありませんから。決着は次の機会につけましょう」
弓が峯の服を破ったのはあくまでも事故である。実は結構ダーティな所もある彼女だが、男がいる場所でそんなマネをするほど腐ってはいない。だからそんなアクシデントで拾った勝利で自分の優位を主張するつもりはなかった。
「……そうね」
峯が言葉少なに頷いて同意を示す。そして「ありがとうございました」と互いに礼をして2人の試合は終了した。
「さすがはドジっ娘千鶴ちゃん、ナイスプレーだったぞ! 君の雄姿はバッチリ心のHDDに保存させてもらったから、とりあえずいい勝負を見せてもらったお礼にお茶でも飲みに行こーか」
どうやら峯のセーターがはだける所をしっかり見ていたらしく、峯が観客席に戻ると横島が満面の笑顔でその右手を取ってきた。
さすがに左手をセーターからひっぺがす程の強引なセクハラはしなかったが、それでも峯が許容できる発言と行為ではない。
「記憶を失えぇーーーーっ!!」
両手がふさがっている峯が窮余の策として、思い切り勢いをつけた頭突きを横島の鼻っ柱にぶちかます。煩悩少年はたまらず顔を押さえてうずくまったが、すぐに復活して憤慨の声をあげた。
「な、何すんじゃいきなり! 別に何も悪いことしてねーだろが」
手を握ってお茶に誘ったくらいで鼻に頭突きはやり過ぎだろう。自分でなかったら傷害になってるところだ。
横島がそう文句を言うと、峯はフンと鼻で哂った。
「横島さんだからしたんです。それよりさっきの試合のことは全部忘れて下さいね」
横島の台詞を細かく分析すれば、彼が自分の下着姿を見たことは明白である。横島のせいではない事は分かっているが、見たことをこんなに喜んで表明してくるようではやはりセクハラとして処罰が必要だと思ったのだ。
それはそうと、横島がこんな要求を受け入れるはずはない。
「だが断る!」
「その台詞は前に聞きましたからもーいいです。それと横島さんはもっとデリカシーって言葉を覚えないと、いくら強くなってもモテない君のままですよ?」
「大きなお世話じゃ! あんたこそすぐ暴力振るうクセ治さねーと彼氏、いや彼女できねーぞ」
「余計なお世話です! あとそれは横島さんだからだってさっき言ったでしょう」
「…………」
弓は横島と峯の口ゲンカをあきれ切った表情で流し見つつも、タマモにもらった治癒札と絆創膏(ばんそうこう)を顔に貼り付けていたが、ふと気になって隣に座っている雪之丞の方に顔を向けた。
「……あなたは何も見てないでしょうね?」
「……お、おう、もちろんだ」
そう答えた雪之丞の視線は微妙に泳いでいたが、弓はあえて追及しなかった。見たからどうこうと言うのでなければ、それ以上問い詰めても意味のない事だから。
「―――さすがは千鶴、私たちに出来ないことを平然とやってくれるわね。そこに痺れる憧れるー!」
「六女のドジ史がまた1ページってところかしら?」
「どやかましい!!」
そして今度は神野と遠藤にまでからかわれて、峯は心の底から絶叫するのだった。
―――つづく。
ドジっ娘っていいですよねー(酷)。
ではレス返しを。
○ベルルン&モリリンさん
初めまして、今後ともよろしくお願いします。
六女組も100%真っ正直というわけではないんですが、やはり令子さんや横島君と比べるのは酷かとw
それに彼女たちはまだ1年生ですからねぇ。あと2年3ヶ月でいろいろ学んで一人前になっていくのでありましょう。
○凛さん
このSSは横島君幸せ物語な上にアシュ編がないので、確かにダラダラっぽい所があるのは否めませんな(ぉ
一応近いうちにフェンリル編みたいなマジバトル話に入る予定ではあるんですが。
>結末
確かに横島君の成長も完成してきましたし、将来設計もできちゃいましたからねぇ。しかしまだメドさんとの決着がついてないので、今しばらくは終われません。
その「しばらく」が具体的にどれくらいなのかは筆者にも分かりませんが(ぉ
○遊鬼さん
そういえば横島君以外でカップルできてるのは雪之丞と弓だけなんですよねこのSS(w
弓嬢は素直といいますか、追い詰められて泣きが入っただけといいますかw でも同級生に冷やかされるほど丸くなったのは良いことだと思うんですよー。
彼女の戦い方はそんな感じですねー。まあその雪之丞に教えを受けたわけですし。
○ばーばろさん
>性剣
カリンは横島君の記憶を持ってる存在ですから、そのくらいの判断は容易につくのですよーw
>ヨコシマが見せたレベル
確かに横島君単体で魔装術使いと同格ですから、カリン込みなら人外レベルに見えるでしょうねぇ。しかし原作では文珠を会得してなお何の特別視もされなかった男ですから、ここでの扱いはむしろ良すぎかも知れません(酷)。
仰る通り奥さんズの教育で性格がちょっとはマシになってると考えれば順当なんですがw
>「ヨコシマが能力ほど認められていない」
そうでなきゃ横島君とは認めません!
>なして弓さんと峯さんが戦ってるの???
それはもう、峯さんがドジっ娘だからに決まってるじゃないですか(酷)。
でもこの2人は横島君に乳さわらせる事はないと思うですよ。峯さんはカリンにならさわらせそうですけど(ぉ
○滑稽さん
>やはり人外娘補正が入らないと彼がいい目に逢うことはないのでしょうか
まさにその通りであります(酷)。
>横島君がいつ竜神化した自分の正体を人間仲間ズにバラして「しまう」のか
最大機密扱いではありますけど、横島君ですからねぇ。きっと思わぬミスでバラしてくれると信じてます<マテ
○whiteangelさん
弓さんは割とマトモなんですが、峯さんは女版横島なのでこんな戦い方になりました。
それでもドジっ娘でなければ勝てたんですがー(^^;
○紅さん
>峯の横島君化
はい、友人たちにもそう認識されるようになってきましたw
○Tシローさん
確かに横島君ほど厄介な男はそうはいないでしょうねぇ。
ただ彼の小学生時代、モテてはいてもその気持ちをきちんと表してくれた子はいなかったようで、本当に厄介なヤツですな。横島君の手綱をきっちり取って欲しいという話は賛成ですがーw
弓VS峯はこんな結末になりました。どじっ娘ということで勘弁してやって下さい(ぉ
○炎さん
お久しぶりですー。また気が向いたら何か書いて下さると嬉しいです。
年を越すのはホントにいつになることやら(^^;
○星の影さん
は、気がついたら総話数150を越えてました(^^;
この際なので行ける所まで行っちゃいますですよー。ネタはまだ色々ありますし。
>カリン
恋人になっちゃったくらいですからねぇ……orz
○内海一弘さん
弓と峯はもともとライバル関係ですからねぇ。挑発もされましたしw
>攻略法
むしろユッキーにはそれしかないと言いますかw
>性剣
即興でこんな単語が出る所が峯さんなのです。
○チョーやんさん
峯さんはカリンと会える機会が少ないので、一緒にいる間は弓さんなんか相手にしてる暇はないのですよー。多分この程度のことでは懲りないと思いますw
○山瀬竜さん
は、峯さんも弓さんも好きなヒトの前ってことで気合入っておりましたが、勝負を決めたのはやはり峯さんのどじっ娘属性でありました。失言だけで済んでれば勝てたのですがー。
まあ彼女は大勢にモテたがるタイプではないですし、お目当てのヒトは横島君にメロメロなわけですから、横島君に似るのは案外良いことかも知れませんですな(ぇ
>戦力分析
峯さんは横島君と違って普通に戦っても強いんですが、それでもセコい手を使うのはやはり彼に毒されたのかも知れませんw
>六女組の評価
なるほどー、そういう展開もアリかも知れませんねぇ。ただ現状では六女組は横島君と小竜姫さまが本当にくっついてるとは信じてないのがネックですな。
いやそれを信じさせれば神様を射止めた男として株価急上昇、でも神様と恋の勝負はできないから結局撤退、という横島君らしい運命になって面白いかも(酷)。
○Februaryさん
新技お披露目会はこんな結末になりました。このSSはこういう物語なので(ぉ
>それがあったら横島じゃ
ヒドスw
>言い切ったよこの娘
興味量1000万分の1ですからw
しかし確かに弓さんにとってはその方が幸せでしょうなw
>己の百合道を性剣で貫くんだ
はい、まさにその剣の柄で(以下検閲により削除)。
>「ニヨニヨ」
いあ、これはわざとであります。
あえて言うなら、遠藤さんが「らき○た」を読んでたと思っていただければ<マテ
○XINNさん
脱衣はしませんでしたけど、破衣はしてしまいました。
審判が横島君だったらギブアップは認めなかったでしょうねぇ。
>流石に身持ちが堅いですなぁ
は、これも愛の表れでありますー。
>名付けのセンスも横島並?
毒されたのかこれが本性なのか、友人たちの見解も分かれておりますw
ちなみに小竜姫さまの命名センスは、単に横島君に合わせただけみたいです。
>精霊界に煩悩汚染警報発令?
横島君がいくところに美人がいたら必ず発令されるでしょうなw
○ashさん
阿修羅バスターは自分の股間が痛そうなので弓さんはやりませんでしたけど、触手縛りはもうバッチリやりました。むしろヤらいでかー!な勢いで(ぉ
○KOS-MOSさん
毎度お褒めいただきありがとうございますー。
峯さんについてはもう峯さんだからというしか<マテ
戦い方とか負け方とかも(ぉ
○読石さん
>峯さん
ヒドスw
しかし途中がまともだからこそ、最後のドジとの落差が光るという見方もあろうかとw
>弓さん
年齢的に婚約とかはないでしょうけど、両親に紹介はしてるかも知れませんなー。実はクリスマスも一緒でしたし。
>ユッキー
原作の合コン編でもああでしたからねぇ。いわゆるむっつ(以下略)。
○HALさん
確かにここのユッキーは彼女いてバトルの好敵手がいて新規開業の手伝いしてくれる人もいますから、もう欲しいものは全部手に入ったって感じですなー。意外にも(ぇ
>原作より不幸になった人
横島君幸せ物語とはいえ、他の人の不幸の上に立ってという形にはしたくないですからねぇ。おキヌと愛子はハートブレイクしてますが、この2人は原作でもくっついてませんし。
まあ陰念とハーピーは死なせちゃいましたけど。
>出番がなくなった人
キャラみんな出してたら、筆者の筆力では収拾つけられないんですよぅ(泣)。
○ncroさん
>横島君のバカっぷり
いかに神様になったとはいえ、頭の中身と生活環境は変わりませんから、そうそう急に立派になったりはしませんのですよー。
何しろ横島君ですからw
>世間一般の女子高生を〜〜〜
一応一般人を本気で落とすつもりはありませんです。詳しくは第143話をご参照下さいませー。
友達になるのは……難しいところですなw
>「ニヨニヨ」
ご理解いただきありがとうございますー。舞台は確かに1997年ですけど、ギャグとかは現在のネタを入れてもいいと思うのです。
○風来人さん
>あれ?対戦者が変わったのに〜〜〜
何か吹きましたw
今回も峯さんの濃い、いや恋キャラっぷりをお楽しみ下さいませ。
あと一万ペリカは没収ですので(ぉ
>その時に雪之丞の反応があった方が良かったかな
うーん、まったくその通りですね。ご意見ありがとうございます。
次回はちゃんと描きたいと思いますm(_ _)m
○ハルにゃんさん
お仕事が忙しいのでしょうか? お体は大切にして下さいねー。
>カリン
さすがに彼氏兼本体の前で百合な攻撃をされるのは嫌だったんでしょうなw
>千鶴さん
彼女を愛していただけて嬉しいですー。
今回はまさに主役です!
しかしせっかくオーラまでいただいたんですが、ドジっ娘属性のため惜しくも敗北してしまいました。でも代わりに再登場フラグは立てましたのでー。
>雪之丞
けっこうラヴしてますですよー。ジャンキーのくせに(ぉ
>ご両親
次回辺り来られるといいなぁ(^^;
ではまた。