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「二人三脚でやり直そう 〜第六十六話〜(GS)」

いしゅたる (2008-04-11 18:08)
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 ――神界・竜神王宮殿――

「報告書は読ませてもらった」

「はっ……」

 その謁見の間。玉座に座る竜神王は、眼前で跪く小竜姫にそう切り出した。
 彼の横には、天龍も控えている。

「竜族ブラックリストの手配犯メドーサ……これで二度目だな、奴を逃がすのは」

「も、申し訳ありません……」

「そう固くなるな、怒っているわけではない。奴が狡猾過ぎるだけだ」

 竜神王は感心したようにそう言うが、その言葉は裏を返せば、小竜姫では力不足であると言っているも同然――少なくとも小竜姫自身はそう感じ、自身の不甲斐なさを恥じて拳を握り締めた。
 そんな小竜姫の様子に、竜神王はやれやれと肩をすくめる。

「小竜姫、我が問いに答えよ。メドーサの活動拠点は俗界……間違いないな?」

「はっ」

「そしておぬし自身は、200年ほど前に降りたきり、先の天龍の一件まで俗界には降りていなかった……そうだな?」

「はっ」

「メドーサを逃がした二度の事件……そのいずれも、おぬしは俗界で道に迷い、現場への到着に遅れた」

「…………はっ」

 竜神王の質問に、小竜姫はその全てに頷く。最後の質問にだけは、恥じ入った様子で首肯が若干遅れたが。
 そして竜神王は、ふぅっとため息を漏らした。

「……それが直接の原因ではないが、失敗の一要素になっていたのは事実であろうな。戦では、地の利がある方が有利になるのが必定……俗界を活動拠点にしているメドーサの方が有利になるのは、当然のことであろう」

「…………」

「狡猾なメドーサの上を行くには、武、それのみを突き詰めているだけでは難しい。かといって、おぬしの性格では、今更それ以外の手段を得ようなど無理な話。ならばせめて、奴と同じ土俵に立てるよう、『地の利』だけは得られるよう努力してはみぬか?」

「俗界の地理を把握しろ、と……?」

 小竜姫が顔を上げ、竜神王に問う。だが竜神王は、ゆっくりと首を横に振った。

「それだけではない。今の俗界――とりわけ、おぬしの担当する日本は明治維新後の文明開化以降、他国の文化を取り入れ、200年前とはまるで違った姿へと変わっておる。あのデジャブーランドなる娯楽施設など、200年前では考えられぬものであろう。
 ゆえに、俗界の文化、技術、社会情勢……全てを委細漏らさずとまでは言わぬが、最低でもそれらをおおまかに把握できる程度には、学ぶ必要がある。
 たとえば……そうだな。現代の構造物の特徴を理解できれば、道を進む時に何を目印にして進めば良いかもわかる。あるいは、現代の人間がどのような場所に集まるか、どのような場所には集まらぬかがわかれば、周囲に被害の及ばぬ場所に敵をおびき寄せることもできる。……そういうことだ」

「要は、現代の俗界に慣れろ……ということですね?」

「理解が早くて助かる」

 小竜姫のその言葉に、竜神王は満足げに頷いた。

「ならば小竜姫よ。これよりおぬしに下すは、そのための命であると知れ」

「はっ……なんなりと」

 竜神王が命令の前にそう前置くと、小竜姫は再び恭しく頭を下げた。
 そして――竜神王とその脇に控える天龍は、小竜姫の視線が真下に向いたのをいいことに、こっそりと視線を交わしてニヤリと親指を立てた。


   『二人三脚でやり直そう』
      〜第六十六話 高校生日記!【その1】〜


「それじゃ、行ってきまーす」

『行ってらっしゃいませ、おキヌさん』

 制服に着替え、人工幽霊の声に送られながら、おキヌは事務所の玄関から出て行く。
 先日嵐がやってきて、美智恵がれーことただおを連れ、元の時代に帰った。それによってようやっとGS試験後のゴタゴタが全て収束し、横島もおキヌも安心して学校に行けるようになっていた。
 そして今日が、その一日目である。美神が出勤してくるまでの留守番を人工幽霊に任せ、おキヌはうきうきとした気分で事務所を後にした。

 ――なにせ、しばらくぶりの学校である。
 久しく顔を合わせていないクラスメイトのことを考えると、自然と笑みがこぼれるのも致し方ない。

「みんな、どうしてるかなぁ……」

 しばらくぶりに自分の顔を見るクラスメイトたちは、一体どんな反応をするか。楽しみであり、反面不安でもあり、その心中は複雑であった。
 だが、足踏みする必要などどこにもない。おキヌは学校に到着するまで、ずっと学校生活のことに思いをめぐらせていた。


 そして、通いなれた通学路を行くこと、数十分。
 おキヌは近付く学校を前に、戻ってきたという感慨が深くなるのを感じ、その表情には自然と笑みが浮かぶ。

 だが――


「…………?」

 学校全体が、その周囲まで含めてざわざわとした独特の喧騒に包まれる、登校時間。周りがにわかに騒がしいのは、いつものことである。
 が――おキヌはそこに、どうにも表現しがたい違和感を感じた。

「……久しぶりだから、この雰囲気を忘れちゃったのかしら?」

 気のせいかもしれない。そんなことを思いながら、校門を通り昇降口で靴を履き替え、教室に向かう。
 やがて目的地である1年B組の教室に辿り着き、おキヌはその前で立ち止まった。
 そして息を大きく吸い込み――

 ――ガラッ。

「おはようございまーす!」

 扉を引くと同時、出来る限り大きな声で挨拶した。


 ――が。


 ざわっ……


「……え?」

 彼女の挨拶に返ってきたのは、困惑を伴った――疑惑の、視線。

(え、えーと……これは?)

 そんな視線に晒されたおキヌは、その場で立ち止まって狼狽する。しばらく見ていなかったクラスメイトがやってきたから――というだけではない、言い表せない違和感が、そこにあった。
 そして、それはここまで感じていた違和感とほぼ同質であり――それを更に強くしたものであった。

「え……あの……?」

「氷室さんっ!」

「ふぇっ!?」

 おキヌが戸惑っていると、すぐ傍の席にいたクラスメイトが、彼女の名を呼びながら迫ってきた。

「休学している間に、GS試験を受けて合格したって……本当?」

 おキヌの目を正面から見据える彼女は、まるで「嘘は許さない」と言わんばかりに真剣な表情になっていた。見れば、周囲のクラスメイトたちもその答えを待っているようで、クラス中の視線がおキヌに集まっている。

「う……」

 そんな視線にたじろぎつつも、おキヌは――

「ほ、本当……です」

 小さく肯定した。
 そして、その瞬間――


「「「「「「「「うっそおおおおお〜っ!?」」」」」」」」

「きゃっ」


 クラス中の驚愕の声が大合唱で響き、おキヌは思わず耳を押さえた。

「マジ!? 氷室さんってトロそうに見えたけど、実は結構凄い子!?」

「美神お姉さまの助手ってのは、伊達じゃなかったってことかしら!?」

「弓さんや愛子ちゃんや一文字の言ってたこと、嘘じゃなかったんだ!」

「それともただ単に運が良かっただけ!?」

「人は見かけによらないものよねーっ!」

「あ、あの……それって……」

 好き勝手に騒ぎ始めるクラスメイトたち。褒めてるんだか貶してるんだかわからないその物言いに、おキヌはこめかみをピクピクと引き攣らせ、控え目に問いかけようとする。
 と――

「……まったく、騒がしいったらありませんわね」

 そんなおキヌの横に、いつの間にかかおりが寄って来ていて、一気に騒がしくなったクラスを冷めた視線で見ながら、そうこぼした。

「弓さん」

「あなたの留守中、クラスのみんなには事情を話しておきましたわ。あまり大騒ぎにならないよう、メドーサのことは伏せておいたのですが……」

「そうだったんですか。ありがとうございます」

 かおりの言葉に、おキヌは礼を言って頭を下げた。
 しかしメドーサのことを抜きにしても、現役の六道女学院生――しかも一年生がGS試験に合格したことは、それだけでも大事件だったらしい。そのことは、目の前の騒動を見れば、一目瞭然だった。

「けど、氷室さん……これからが大変ですわよ」

「はい?」

 表情を曇らせてそう忠告してくるかおりに、おキヌは意味がわからず首を傾げた。

「このクラスはあなたの人となりを知っていますし、私と愛子さんと一文字さんの口添えもありましたから、おおむね好意的に受け取られてますが……他のクラスはそうはいきません。特に三年生で、GSを目指している生徒からすれば、嫉妬の対象となるでしょう」

 六道女学院霊能科は、その名の通りオカルト関係のことを重点的に教えてはいるものの、別に生徒全てがGSを目指しているわけではない。GS協会の役員を志望している生徒もいれば、オカルトアイテムの製造や販売に携わりたいと思っている生徒もいるし、大学に進んでオカルト関係の研究者になりたいと思っている生徒もいる。
 だが、オカルト業界の花形といえば、間違いなくGSである。当然、それを目指そうとする生徒が一番多い。
 そして、そんな生徒の中には、在学中のGS免許の取得を目指して頑張っている者も少なくない。そんな彼女たちから見た氷室キヌという一年生は、『学校に無断で受験して免許を取得した、生意気でズルい後輩』という認識でほぼ一致していた。

「嫉妬……ですか?」

「ええ」

 現実味が湧かないのか、反芻するようなおキヌの言葉に、かおりは短く頷き――そして、そのまま口を閉ざした。
 かおりは口に出さないが……実のところを言えば、既にそれは形となって現れている。

 ――いわく、担任の男性教諭をたらし込んで、GS試験参加の許可を得た。
 ――いわく、GS協会役員と援助交際をして、見返りにGS資格を要求した。
 ――いわく、試合で当たったバイト先の同僚に、「私のために死んで」と岩で頭を打ちつけ、逆に押し倒された。
 ――エトセトラ、エトセトラ……

 無論のこと、そのほとんどは根も葉もない誹謗中傷である。しかし厄介なことに、それらは上級生を中心にして、まことしやかに囁かれていた。
 もし、こんな噂が本人の耳に入ったら――そう思うと、かおりは口惜しげに唇を噛み締める。

(何も知らないで、いい気なことですわ……)

 胸中で、その噂を流布した者に罵声を浴びせる。

 大勢の人間を人質に取られたおキヌが、どんな思いでGS試験に臨んだか。彼女が取得したGS免許は、その苦悩の果てに『結果として手に入れた』というだけのものでしかない。上級生たちは、それを知ろうともせずに無責任に陰口を叩いているのだ。
 それに対し、事情を知っている六道理事長や鬼道教諭が噂の拡大を防ぐために手を尽くしているらしいが……正直、どこまで効果があるかは疑問である。

 ――それに。

 実のところ言えば、かおりとて霊能の名門『闘龍寺』の跡継ぎというプライドがある。そういった上級生たち同様、おキヌを妬む心がないわけではなかった。
 それゆえに、彼女に出会う前の自分であれば、おそらく陰口を叩く側に回っていたことだろう――それがわかっているからこそ、かおりはそんな自分が恥ずかしくてならない。また、それと同時に、だからこそおキヌに陰口を叩く連中がなおさら我慢ならなかった。

「……弓さん?」

 そんなことを考えながら黙り込んだかおりに、何も知らないおキヌは不審に思ってその顔を覗きこむ。
 そこでかおりは、意識を現実に引き戻した。

「……いえ、なんでもありません。さ、席につきましょう」

「え? は、はい」

 促すかおりに、おキヌは少々戸惑いながらも、素直に従って席に向かう。そんなおキヌに、話を聞こうとクラスメイトたちが次から次へと群がっていった。
 彼女たちの質問攻めに、逐一答えを返しながらゆっくりと席に向かうおキヌ。
 ややあって――

「待って、氷室さん」

 静かな、だがよく通る声で、かおりが引き止めた。おキヌは足を止め、かおりの方に振り向く。

「はい?」

「氷室さん……よろしければ今日の3時限目の除霊実習、私と一手お相手していただけませんか? 鬼道先生には話を通しておきますから」

「え……?」

 一体何を考えているのか――かおりの突然の申し出に、おキヌは即答できずに戸惑った声を出した。
 そして、そんな彼女らの始終を――

「……………………」

 机の上に足を投げ出している魔理は、何を言うでもなく、冷めた目で見ていた。
 彼女はちらりと横に視線を向ける。そちらには、おキヌの帰還に真っ先に「青春だわ!」と言いそうな教室常駐の友人の席があったのだが、何故かこの時に限っていなかった。


 一方その頃――横島はといえば。

「ふ……学校か……久しぶりだぜ」

 本人はキザに決めているつもりなのだろう。校門の前、まったく似合ってないすまし顔で校舎を見上げ、ニヒルにつぶやいた。
 そんな横島を、周囲の生徒たちは「横島……!?」「横島クンだわ……!」などと珍獣を見るような目で見て、にわかにざわついていた。

「な、なんでいるんだよあいつ……!」

「無謀にもGS試験を受けて、女性受験者にチカンを働いて逮捕されたはずじゃ……?」

「え? 私は試合中の事故で死んだって聞いたわよ?」

「じゃ、じゃああいつは幽霊……!? 化けて出てきたのか!」

「大変! GSを呼ばなきゃ!」

「何好き勝手ぬかしとんじゃい! 俺はちゃんと生きとるわ!」

 小声でひそひそと話す声もしっかりと聞いていた横島は、反射的に叫んだ。

「じゃ、なんで今まで来なかったんだよ。GS試験からそれなりに時間経ってるはずだろ?」

 そんな横島に、周囲にいた生徒の一人が尋ねてくる。ちょうどクラスメイトでもあるので、横島の事情には他のクラスの生徒より多少程度には通じていた。

「ニュース見てる奴なら知ってるだろーけど、試験でちょっとあってな。その事後処理に加えて、事務所で色々とゴタゴタがあったんで、学校来る暇なかったんだよ」

「ほー。なんかいっぱしの社会人っぽい理由じゃん。お前本当に横島か?」

「じゃかしいわい」

 その憎まれ口に、額に井桁を浮かべて返す。

「で、結局どうだったんだ?」

「どうだったって?」

「試験だよ。受けたんだろ? 合格まであとどんぐらい足りなかった?」

「落ちてるのを前提に話すんじゃねーよ。ちゃんと合格したよ。今は見習いGSだ」

「「「「「「「「なんだとぉっ!?」」」」」」」」

「うおっ!? なんだお前ら?」

 横島の返答に、話している相手のクラスメイトのみならず、周囲にいた他の生徒たちも一緒になって横島に詰め寄った。

「マジでか!? マジでお前、合格したのか!?」

「見習いってことは、近い将来にはちゃんとしたGSになれるってことよね!?」

「じゃあ、億万長者に片足突っ込んでるってこと!?」

「今のうちに落とせば玉の輿!?」

「え……」

 横島でさえ思わず引くほどの勢いで詰め寄るギャラリー、主に女生徒。瞳が$マークにギラギラと輝いている彼女らに詰め寄られた横島は、気圧されて言葉に詰まった。


 ――間。


「…………でも横島クンじゃねー」

 一拍置き、一人が正気に返ってぽつりとこぼした。

「きっと見習いから脱しないうちに、最初の除霊で死んじゃうわよ」

「危険すぎる賭けよねー」

 それに同調し、周囲の女生徒も一気に熱が冷めたようである。好き勝手言って、散り散りに去っていく。

「……こ、こいつら……」

「ま、現実はこんなもんだ」

 ピキピキと井桁を増やす横島の後ろから、クラスメイトが同情した表情で、ポンとその肩を叩いた。


 その後、彼と連れ立って教室へと向かった。
 横島は教室に着くと、ガラッとおもむろに扉を開け――

「よーっす」

「横島……!?」

「横島クンだわ……!」

「な、なんでいるんだよあいつ……! 無謀にもGS試験を受けて、女性受験者にチカ「そのネタはもーえーっちゅーんじゃ!」……ちっ」

 校門前そのままのやり取りが繰り返されそうになり、横島が思わず声を荒げた。台詞を遮られたクラスメイトは、悔しそうに舌打ちする。
 横島はそのまま自分の席に座ると、唐突に視界に影が差した。見上げてみると、巨漢のクラスメイトの姿。

「タイガー?」

「おはようですジャ、横島サン。久しぶりですケンノー」

「そーいやGS試験の2回戦で当たって以来だったか。一週間程度しか経ってないはずなんだが、なんだか4ヶ月も会ってない気がするぞ?」

「そーゆー危険な発言はやめた方がいいですジャ……」

 横島の台詞に、タイガーは冷や汗を垂らす。

「それよりも横島サン、いいタイミングで来ましたノー」

「いいタイミング?」

「ちょうど今日、転入生が来るらしいですジャ」

「転入生……ああ、ピートか」

 タイガーの報告に思い当たり、横島は苦笑する。そういえば逆行前、ピートが志望するオカルトGメンへの就職資格には高卒資格が必要であり、それで横島のクラスへと編入してきたのだ。
 その時期が、確かGS試験終了後――つまり今である。
 彼が来ることによって女子の人気は独り占めにされることになり、それは横島としてはヒッジョーに気に食わないものであったが……彼がその女子から貰う手作り弁当は、横島とタイガーにとって貴重なタンパク源になっていたため、全面的に忌避するつもりにもなれない。
 正直言えば心中複雑であったが、横島は深く悩まず「ま、いいか」と思考を放棄する。

「横島サン、知ってたんですカイノー?」

「ん、まあな」

「じゃ、あとの四人が誰かも知ってるんですカイノー?」

「…………四人?」

 タイガーの問いに、横島は眉根を寄せた。この時期に来る転入生といえば、ピート以外に思い当たらない。

「横島サンも知らないんですカイノー? 今日の転入生は、一年に二人、このクラスに三人の五人らしいですジャ」

「随分多いな……ってか、そんなに転入生来たら、普通は複数のクラスに振り分けるんじゃねーの?」

「ワッシもよくわからんですケン。でも噂では、五人全員オカルト関係者らしいですジャ」

 横島の疑問に、タイガーも理解不能とばかりに首を捻った。
 が――

『……なるほどな』

 そこで、今まで黙ってた心眼が言葉を発した。

「心眼?」

『要するに、面倒ごとは一箇所に集中させようということだ。学校側はオカルトとは無縁のはずだから、深くは考えておらんだろうが……まあ、我々にとっても好都合と言えるな』

「どーゆーこった?」

『霊的存在が集まった場所は霊力の溜まり場になる――ということは聞いた覚えがあろう。それだけのオカルト関係者がこの学校に集まれば、霊障も起こりやすくなる。有事の際に対処可能な人員が一つの場所に集中していれば、それだけ召集も容易だ』

「あ、なるほどね」

 ようやく合点がいったようで、横島は左の手の平を上に向け、その上に右の拳をポンッと落とした。
 と――

「おらー、席につけー。ホームルーム始めるぞー」

 やる気のない声が教室の入り口から聞こえてきた。
 明らかに高校生ではない中年の声――担任の男性教諭である。その声を合図に、クラスメイトたちはめいめいに自分の席に戻っていった。
 担任が教壇に立ち、点呼を始める。横島がいることに一瞬だけ珍しそうな顔をしたが、それだけであった。

「うーっし。今日は珍しく横島がいるようだな。こういう日にクラスが全員揃ってるのはちょうどいい。聞いてる奴もいるとは思うが、今日は転入生が三人いる。入っていーぞー」

 そう言って、担任は教室の外に向かって呼びかけた。クラス中の視線が、閉められた扉へと集中する。

 そして――扉がゆっくりと開き、そこから転入生が入ってきた。


 ――ピシリ。


 その三人を見た瞬間、横島が固まった。
 そんな横島に構わず、三人は壇上に上がった。彼らの姿を見て、男子も女子も色めき立つ。
 彼らは担任に促され、一人ずつ黒板に自分の名を書き、自己紹介を始めた。

「ピエトロ・ド・ブラドーです。ピートと呼んでください」

 一人は、予想した通りにピートだった。これはまだいい。女生徒が皆揃って黄色い声を上げているのが、横島としては少々気に食わないが。

 そして二人目――

「……人呼んで伊達雪之丞」

 これは予想していなかった。
 だが彼は逆行前と違って逃亡はせず、唐巣神父の下でピートと共に修行に励んでいる。横島と同年代でもあったことだし、ピートの入学に合わせて一緒に転入してくるのは、不思議なことではなかった。

 だが――三人目。

 その人物は、赤毛の映える可憐な女生徒だった。しかも、横島にも見覚えがあるどころの話ではない。見覚えなど、あってありまくる顔であった。
 しかし横島にとって彼女は、予想外という言葉すら飛び越え、発想さえも出来るはずがない人物であった。
 彼女は黒板に自分の名前を書き込み、くるりと紺色のスカートを翻して振り向く。

「中国から留学してきたシャオ・ロンヒです。シャオでもロンヒでも、お好きなようにお呼びください」

 最後に「よろしくお願いします」と言って、礼儀正しくペコリと頭を下げる。
 凛としたその立ち居振る舞いに、男子は「うおおおおーっ!」と興奮した様子で雄叫びを上げた。中には天に拳を突き上げている者もいる。
 そんな『シャオ・ロンヒ』なる女生徒の背後にある黒板――そこに書かれている文字は。


 どっからどー見ても『小竜姫』としか見えなかった。


『これは……一体どういうわけだ?』

 角こそないが、間違いなく小竜姫本人としか思えないその女生徒を前に、さすがの心眼も戸惑いを隠せない様子であった。

「……俺が知るか。だけど、一つだけわかったことはある」

『ほう……何がわかったのだ?』

「それはな……」

 横島はそこで一旦言葉を切り、右手をグッと握った。
 そして――


「セーラー服の小竜姫さまはめっちゃ萌えるということだ」

『お前に聞いた私が馬鹿だった』


 おもいっきりシリアス顔でくだらないことを言い出す横島に、心眼は即座に自分の言動を後悔した。


 一方その頃、竜神王宮殿では――

「横島忠夫のクラスへの小竜姫の編入、確認しました」

「封印の方はどうじゃ?」

「問題ありません。今の小竜姫の力は、普通の人間と同程度です」

 小竜姫の編入を千里眼を使って確認していた調査官が、確認した内容を逐一竜神王に報告する。
 その報告を受けた竜神王は、満足げに頷いた。

「ならば、魔界側に気取られる心配もいらぬな。このデタントのご時世、いらぬ疑惑は持たれぬに限る。……ご苦労じゃった」

「はっ。……ならやんなきゃいいのに……

「何か言ったか?」

「いいえっ!」

 調査官がぼそりと呟いた本音には、幸いにも竜神王の耳にははっきりと届いてなかったらしい。その否定の言葉に、竜神王はさして気にした様子もなく、早々に興味を失って隣の天龍へと視線を向けた。

「計画は予定通りに始まったぞ」

「あとは小竜姫次第でございますな、父上」

「うむ」

 頷き合う親子。父親のその手には、CDのパッケージらしきプラスチックのケースがあった。
 それにちらりと視線を向け、竜神王は低く笑い出す。

「くく……思春期の少年少女が通う『学校』なる特殊空間……その中で育まれる甘酸っぱいロマンスは、確実に小竜姫と横島の距離を縮めてくれるであろう。そして小竜姫が横島を篭絡した暁には――」

「横島は、晴れて余の臣下として、我が一族に名を連ねる権利を得ることとなりましょう」

 竜神王の台詞を、天龍が待ちきれないとばかりに勝手に続けた。期待のあまり、その瞳はキラキラと輝いている。

「うむ。あの堅物の小竜姫も『色』を知る良い機会となるであろうし、これぞまさしく一石二鳥。地の利うんぬんは、単なる建前に過ぎぬわ。
 ククッ……さあ横島よ。おぬしが夢見る女神の愛情は、もはやすぐ傍まで来ておる。おぬしが望めば、それはいつでもその手に収まろうぞ……!

 これぞ名付けて、『どきどき☆スクールライフ大作戦』! 余には見えるぞ、『伝承の木』の下での告白エンディングが……ッ!」

「何がどーなればそーなるのかサッパリわかりませんが、完璧な作戦であることは伝わってきますぞ父上ッ!」

「そーだろそーであろう! ワッハッハッハッ!」

 得意げにと高笑いをする竜神王と、そんな父親に憧憬の眼差しを向ける天龍。
 そんな竜神王の手にあるCDケースには『ゲームステーション2専用ソフト どきどき☆メモリーズ2』とタイトルが振ってあり、黒マジックの手書きで『斉』と書かれてあった。

「……あのー……陛下、殿下……」

 そんなどこかイっちゃった様子の親子に、傍にいた調査官は遠慮がちに声をかける。

「ハッハッハッ……ん? なんじゃ?」

「言いにくいのですが……横島忠夫の学校には、『伝承の木』なんてありませんけど……」

「「なんじゃとおっ!?」」

「め、目を剥いて迫られても困るのねーっ!」

 顔のサイズを縦横10割増しにして詰め寄ってきた竜神王と天龍に、その調査官は思わず地の口調に戻って悲鳴を上げた。


「……ところで、『ろーらく』ってどんな意味じゃ?」

「殿下はまだ知らないでいいのねー」


 ――おまけ――


 横島の教室で小竜姫たちが自己紹介し、竜神王親子が馬鹿やってるその頃、一年の教室では。

「……陰念と呼んでくれりゃ、それでいい」

「早乙女華です。よろしくお願いします。ふしゅるるるる〜……」

「「「「「「「「「「……………………」」」」」」」」」」

 異様な風体の転入生二人を前に、クラスの全員が見事に固まっていた。

「というか、私と同い年だったのですか?」

「そりゃお互い様だ!」

 …………このクラスには「頑張れ」としか言いようがないだろう。


 ――あとがき――

 小竜姫さまを女子大生と表現しているSSは多いですが、童顔な小竜姫さまは高校生でも十分通用すると思います。
 むしろあの体型なら中g(仏罰

 ぐ、ぐふ……レ、レス返しを……


○1. 117さん
 いや、私もデレデートを書きたかったのは山々でしたが、いかんせん尺が……締めの話を前後編に分けてダラダラやるってのもなんですし(^^;
 給料問題の方も、一捻りというか何と言うか……アレは横キヌのデートの裏話的なやつでしたので、別に奇をてらう必要がなかったから捻らなかっただけでして。まあそれで物足りなさを感じさせてしまったのは、私の不手際なんでしょうけど(汗

○2. チョーやんさん
 はう。やっぱりそう思いましたか……どーも私の横島は、おキヌちゃんの前だと、他の場面よりカッコ良くなりやすいんですよねぇ……気をつけないと。
 ってか、しばらく見ないと思ったらそんな理由でしたかっ!Σ(・ω・ノ)ノ 書き溜めてたものが消えたら、そりゃ気力も萎えますよね……でもモチベーションが戻りつつあるとのことで、何よりです。チョーやんさんのご帰還、お待ちしております♪

○3. ミアフさん
 いやいや、3歳の時の記憶なんて、普通に忘れてますってw
 ……トラウマの一つや二つ、残ってるかもしれませんが(ぉ

○4. 山の影さん
 横キヌは二人揃ってこの話の柱ですからね。これからも協力プレイで頑張ってもらいます♪
 除霊委員のポスト愛子は、ご覧の通りのお人がやってきました。予想は……できていたとしたら、凄いと思います(^^;

○5. Tシローさん
 GMsは「それはそれ、これはこれ」って感じで手加減しなかったんじゃないでしょーかw 横島は環境が改善されましたので、Tシローさんの言う通り学校に行く余裕が増えます。その分、原作より学校編が増量予定ですよー♪
 ……完結が更に遠くなるというツッコミは無しの方向で。

○6. 秋桜さん
 美神が意識を飛ばして言ってた台詞は、実は某アニメのワンシーンから取ってきてたんですが……誰も突っ込んでなかったのが寂しい限りw たぶん秋桜さんも知らないネタですので、言っても仕方ありませんが(^^;
 横島とおキヌちゃんの『友達以上恋人未満』の状態は、王道なのに二次創作だとあまり見ないので、それだけ維持が難しいのかな?と不安だったりします。でも頑張って維持しますので、生暖かい目で見守ってください♪

○7. ワールド ワールド ワールドさん
 ブラドーの割り込みシーンで何を連想したのか、私には予想がつかないので激しく気になりますが……突っ込んだらいけないんでしょうね、きっと(^^; 恐妻百合子が一体何を怒っていたか……それは読者一人一人の妄想にお任せしますw とりあえず、脳内に思い浮かんだ人物の冥福をお祈りくださいw
 栄光の手の新能力は、残念ながら予定してません。伸縮自在の籠手形態と霊波刀形態が使い分けられるので、無理に能力追加する必要がないのですよw

○8. リゲルさん
 むちゃくちゃ初期の設定を覚えていてもらって嬉しいです。確かに横島は今回で借金を返済し終わりましたし、貯金も相当額溜まりましたが、基本的に本人には秘密にされてますので、横島的にはいまだ貧乏なままですw ……でも作者自身がその設定を忘れていたあたり、ひっじょーに恥ずかしいです……(汗
 ちなみにリゲルさんの感想は、実は今回一番嬉しい内容でした。そこまで昔の設定をちゃんと覚えてもらってたということは、それだけよく読んでもらってるということだと思いますので。

○9. いりあすさん
 この作品で美神が横島の拘束時間を長くしようと時給下げてるかどうかってのは、実は百合子は書類上だけでは判断してませんでした。ただ、出会って実物を見た時に、「ピン」となっただけで。だから『女の勘』って表現を入れたんですがねw 美神が横島の給料を受け入れるのは……まあたぶん、平安編以降じゃないでしょうかねーw
 そして横キヌの行く末がどうなるか……それは今後の展開をご覧くださいませ♪

○10. giruさん
 あの出前ラッシュは、きっと横島家108の必殺技の一つなんでしょう!(適当
 ちなみに美神のレース参加は、もうちょっと後になるんじゃないかなーとは思います。でも、原作ではおキヌちゃんと共にヒロインの双璧でしたから、それなりの待遇はしたいですねw

○11. レンジさん
 そりゃもー、一つの大きな区切りとして書いたつもりでしたのでw

○12. Februaryさん
 ブラドーは命令を受けなくても、ちゃんと横キヌのキスを妨害してくれましたよーw ……まあ、美智恵からの要請あっての話ですが(^^; 大樹はまあ、冥福を祈らずともきっと死にはしないでしょうw

○13. あらすじキミヒコさん
 毎度の過分な褒め言葉、ありがとうございます♪ そして言われてみれば、おキヌちゃんは確かにAとBを体験済みですね……でもさすがに、恋人にならないままCは難しいかとw

○14. 内海一弘さん
 残念ながら、美智恵は原作同様に滞在帰還をスルーさせてもらいました。ブラドーは最近、事務所での立ち位置が確定し始めてます。おもに作者の脳内で(ぉ
 れーこちゃんの今後ですが……あの後親なし状態で思春期を過ごすのは変わりないので、たぶん別の美神になる可能性は低いでしょうw 親の望んだ通りに子供が育つわけでもありませんしね。……そーだったら横島があんな大樹似に育つはずもないし。

○15. ながおさん
 やはり、『上手くいかないもどかしさ』というのは恋愛の味を引き立たせる調味料ですよね♪ 友達以上恋人未満の方針に賛成していただいて嬉しいですw
 ……そーいやここって、そーゆーのは少ないですよね。まあ、皆無ってわけじゃないですが。探せば、最近更新したものでもそれなりにありますし。


 レス返し終了ー。では次回、除霊委員発足です。ところで原作を読み返してみると、『今そこにある危機!』の小竜姫さまって、よく見比べれば初登場時よりも胸がしぼんd(ドラゴンブレス
 ……へんじがない。ただのけしずみのようだ。

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