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「『神々の迷惑な戦い』第十話(GS+聖闘士星矢)」

あらすじキミヒコ (2008-04-07 21:49)
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「ふうっ……」
「あたしたちの仕事は、これで終了だな」

 弓かおりと一文字魔理の前には、呪縛ロープでがんじがらめに縛られたテティスが転がっていた。
 ここは、海底神殿と呼ばれるエリアの、中央の広場である。ここで人魚姫(マーメイド)のテティスの足止めをすること、それが二人の任務だったのだが、見事、遂行したのだ。
 そして、仲間のGSたちは今頃、おキヌ救出のために、七本の柱を壊そうと頑張っているはずだった。

「あいつらなら大丈夫だろう……」
「そうですわね。
 美神おねーさまなら、
 どんな敵でも、サクッとやっつけてくれますわ」

 一文字の言う『あいつら』とは、おそらく、弓と一文字のボーイフレンドのことだ。それを分かっていながらも、弓は、気付かぬフリをする。
 しかし、彼女は知らない。『美神おねーさま』は、敵を倒すどころか、今、悪夢の中を彷徨っているのだ。悪霊茂流田に取り憑かれたカノンの魔拳によって……。


    第十話 ポセイドン編(その五)


「あ……あのさ、横島クン。
 私、もう今はあんまり覚えてないんだけど……。
 大昔、私……あんたのことを……」
「あ……あの、前世のことなら……
 俺も多少は……」

 都心の道路で、美神は、愛車のコブラを走らせていた。助手席には、横島が乗っている。

(何これ……!?
 これは……南極での戦いの後の一コマじゃない!!)

 普通に横島と会話しながらも、美神は、内心では驚いていた。
 まるで時間を遡ったかのようなのだ。
 普通ならば『ありえない!』と言いたくなるシチュエーションだが、美神令子は時間移動能力者だ。中世での事件では、敵の雷撃攻撃を受けて、時間を逆行したこともある。

(まさか……また!?)

 海将軍(ジェネラル)の一人、海龍(シードラゴン)のカノンから正体不明の攻撃を受けたことまでは覚えている。あれが雷や電撃の類なら、過去へ跳んだとしても不思議ではない。時間移動能力は小竜姫に封印してもらったはずだが、プロテクトを破るほど強力だったのだろう。

(でも……なんで、この時代へ!?)

 美神は、おキヌを助け出すために戦っていたはずなのだ。おキヌが誘拐される直前へ逆行するならば、さらわれるのを防ぐという意味もあろう。しかし、今さら、アシュタロスとの戦いの最中に戻ったところで……。

(あ、そういうことか……)

 美神は、気付いた。
 この車中の会話は、一つの大きなターニングポイントになり得るのだ。
 この先、横島はルシオラと幸せな日々を過ごし、だが、アシュタロスの再侵攻により、悲劇的な結末を迎える。ボロボロに傷ついた横島に対して、美神は、ルシオラが蘇る可能性を提示した。それが、彼女なりの慰めだったのだ。
 一方、おキヌは、そんな理屈ではなく、

「小竜姫さまたちも一生懸命考えてくれてます。
 きっとなんとかなりますよ……!」

 とだけ言って、横島の手を優しく握った。
 横島への好意の表し方が違っていた二人は、慰め方のアプローチも異なっていたのだ。
 そして、美神の方法は、横島の頭には届いたのかもしれないが、彼の心には届かなかった。
 彼の心に触れたのは……。おキヌのほうだった。

(おキヌちゃんと横島クンは……
 どんどん仲が縮まっていき……
 そして……とうとう……)

 美神を救うための十二宮の戦いの中で。
 二人の間に、決定的な何かが起こったのだ。
 ただし、横島が鈍感なせいか、まだ二人は恋人同士になっていない。そんな二人を見ていると、なんだかイライラするくらいだ。

(まったく……ある意味、
 あの二人らしいんだけど……。
 ……あれ!?)

 内心で苦笑した美神は、突然、ハッと気がついた。
 今まで考えていたのは、十二宮の戦いの直後の二人だ。
 もしかすると、その後、さらに変化があったのではないか……!?
 ヒントとなるのは、この海底神殿に来たときの横島の言葉だ。

「今回は、おチャラケは無しです!!」

 なんで今まで忘れていたのだろう!
 アシュタロス戦の時期まで逆行したからこそ、思い出した。これは、ルシオラを失った後のバトルで彼が言ったセリフと、そっくりじゃないか!!

(そうか……。
 横島クン……もう『カノジョ持ち』なんだ……)

 海底神殿で横島の言葉を聞いた時、美神は、なぜか胸が痛くなった。だが、その理由も、今ならばハッキリ分かる。横島が、『本来の横島』の言葉ではなく、『カノジョができた横島』の言葉を吐いたからこそ。
 だから、美神は……。

(私……横島クンに惚れてたんだ……。
 それがおキヌちゃんと……
 他ならぬおキヌちゃんと付き合い出したから……
 私ひとりが『三人』から弾き出されちゃったから……。
 ……だから寂しかったんだ)

 全てを悟った美神の視界が、曇り始めた。
 これでは運転できない。
 仕方なく、車を端に寄せてブレーキを踏む。

「……美神さん!?
 どうしたんです、突然泣き出して!?」
「女が泣いてる時には、
 そっとしておくもんよ。
 まったく……。
 本当に女心が読めないやつなのね、あんたって……」

 こんな会話、美神の記憶している歴史にはなかった。
 まだ二人はターニングポイントの中だ。もしも歴史を変えたら、その先の全てが『なかったこと』になってしまう。だが、どうせ変わり始めた歴史ならば、もう、大きく変えてしまっても良いのかもしれない。

「これは……千年分の涙よ……」
「えっ……!?」
「私と横島クンは……
 生まれる前から……
 結ばれる運命だったのよ!?
 それなのに……!!」

 美神は、横島の胸に飛び込み、彼の胸をドンドン叩く。
 素直な美神令子なんて美神令子じゃない。それは自分でも分かっているが、それでも、素直にならなきゃいけない時もあるのだ。

「お願い……。
 今なら……まだ手遅れじゃないわ。
 ……私を選んで。
 ルシオラよりも……
 ずっと前から……私のほうが……。
 私が……一番最初に横島クンのことを……」

 彼の胸に顔をうずめたまま、精一杯の告白をする美神。そんな彼女の背中に横島が手を回し、優しく撫でる。

「美神さん……。
 顔を上げてください……。
 俺も正直な気持ちを言いますから」
「……横島クン!?」

 首だけを起し、美神は、横島を見つめる。横島は、慈愛に満ちた笑みを浮かべていた。

「実は……薄々気付いてました。
 最初に俺を認めて、俺を好きになってくれたのは
 ……ルシオラじゃない。
 それは、俺の身近にいた女性なんです」
「……横島クン!!」

 美神の涙は、いつのまにか止まっていた。一方、横島の表情は全く変わらない。

「一番最初に、俺に惚れてくれた女性。
 そして……
 はっきりと『大好き』とまで言ってくれた女性」
「……え?」

 なんだか雲行きが怪しくなってきた。
 美神が覚えている限り、横島に『大好き』なんて言ったことはない。
 動揺する美神に、横島が、トドメの言葉を突き刺す。

「だから……俺は、おキヌちゃんを選びます!!」

 美神は、まるで電撃を浴びせられたかのような衝撃を受けた。そして、その瞬間、視界が暗転する……。


___________


 チュン、チュン。

 近くの電線に三羽とまっているのだろうか。スズメの鳴き声で、美神は目を覚ました。

「……うーん!?」
「珍しいな、令子ちゃんが寝坊するなんて」

 ドアを開けて入ってきた男性を見て、美神は驚く。

「せん……いや、西条さん!?」
「おいおい、どうしたんだ!?
 ……昔の夢でも見てたのかい!?」

 彼は、頭の薄くなり始めた中年男性だったのだ。その特徴だけで、最初は唐巣神父だと思ってしまったが、よく見ると、西条である。

「……昔の夢!?」
「そうだよ。
 結婚前だろう、僕のことを
 『西条さん』なんて呼んでいたのは!?」
「け……結婚!?」
「なんだ、まだ夢の中なのかい!?
 ……しっかりしたまえ、
 今日は僕たちの息子の結婚式じゃないか!」
「……!!」

 夢か幻か。
 どうやら、ここは、かなり未来の世界のようだ。

(西条さんと私が夫婦……!?
 そして、結婚するような年頃の息子がいる!?)

 最後に美神が覚えているのは、横島の衝撃発言だ。
 体に電流を流されたかのようなショックではあったが……。

(まさか……!?
 私は未来へ跳んだというの!?
 ……そんな比喩的な『電撃』で!?)

 美神と西条が結婚する未来。
 横島がおキヌとカップルになった後ならば、それも可能性としては、有り得るだろう。

(今の私には、西条さんは、
 まだ昔の『おにいちゃん』でしかない。
 ……オトコとして意識することはできないわ。
 でも……あの後……
 もし西条さんが、少しずつ、
 私の心の傷を癒してくれたら……
 受け入れる気持ちになるのかもしれないわね)

 そうやって考え込む美神を見て、西条も顔をしかめる。

「令子ちゃん……!?
 ……まさか、今頃になって、
 『やっぱり蛍ちゃんは息子の嫁にふさわしくない』
 とか言い出さないよな!?」
「……!!」

 美神は、言葉を失った。
 蛍ちゃん、それは『いかにも』な名前だ。偶然の一致のはずがない。横島の娘だ!!

(何それ……!?
 横島クンはおキヌちゃんと一緒になって、
 そして、ルシオラが転生したの!?
 ……しかも、私がその『ルシオラ』の姑になるの!?)

 動揺が広がる美神に、西条が覆いかぶさってくる。

「ちょっと……!?」
「……さすがに朝からヤるのは体力的にキツいが、
 令子ちゃんの機嫌を直すには、これしかないからな」
「ちょっ、待っ……」

 美神の唇を、西条が強引に奪う。騒ぐと息子に聞かれてしまうから、口をふさぐのだ。
 しかし、そんな意図など、美神には伝わらない。美神は、ただ、恐怖を感じていた。
 西条は、美神の体を押さえつけながら、同じ手で、美神の体を愛撫する。そして、もう片方の手で、美神のパジャマを脱がせようとしていた。
 彼と長年連れ添った美神であれば、悦びなのだろう。しかし、今の美神にしてみれば、これはレイプされるようなものだ。なにしろ、まだ横島のことをふっ切れておらず、西条を異性として意識することも出来ないのだから。

(やめて……!!
 助けてーッ、横島クンーッ!!)


___________


「……という悪夢を見せてやったのだよ」
「てめえ……なんてことしやがる……。
 精神操作にもほどがあるぞッ!?
 美神さんが俺に惚れていた……!?
 そんな大嘘を頭に叩き込むなんて……
 それだけで精神崩壊するじゃないか!!」

 横島に睨みつけられた茂流田(in カノン)だが、横島の気迫など恐くはない。むしろ、その発言が面白かった。

「はっはっはっは……!!
 ……本当にニブい男だな、君は」
「……な、なに!?」

 茂流田の高笑いは、横島の気勢を削ぐほどの勢いだ。
 そう、本当におかしかったのだ。
 そして、茂流田の頭に、一つのアイデアが浮かぶ。横島を苦しめるには、魔拳など要らない。ただ、真実を伝えればいいのだ。

「……夢を見せてやったのは確かだが、
 それは全て、彼女の深層心理に基づいているのだよ」
「……どういう意味だ!?」
「つまり……。
 彼女が君に惚れているのも事実。
 そして、君と氷室キヌの間が進展していると思って
 モヤモヤしていたのも事実」
「……えっ!?」
「考えてもみたまえ!!
 君の今までにセクハラに、どう彼女は対処してきた!?
 暴力で応じたとはいえ、すぐに回復できる程度だろう!?
 ……君たちならば、それもスキンシップじゃないか!?」

 横島の表情が変わった。何かを考え込んでいるようだ。
 内心でニヤリと笑いながら、茂流田は、話を続ける。

「美神令子は、敵に回したら怖い女性だ。
 攻撃の隙もないはずの相手だ。
 ところが、君は、今までに何度も
 彼女にセクハラを敢行し、何度も成功している」
「『成功』って言っても……」
「程度は問題ではない!!」

 茂流田は、声を張り上げて、キッパリと言い切った。

「大事なのは回数だ。
 あの負けず嫌いの美神令子に、
 何度も勝ってきたということだ……!!
 ……普通ならば起こりえないことだろう!?」
「……まあ、そう言われれば……」

 横島は、いくら美神の弟子とはいえ、まだ高校生の若者だ。今の茂流田相手に舌戦や心理戦でかなうわけもなく、いつのまにか、茂流田の術中に嵌っていた。

「……理由は一つ。
 実は、美神令子は負けていなかった。
 君が成功してきたセクハラは……
 すべて『そこまでなら許すわよ』というラインだったのだ」
「……えっ!? でも、なんで……」
「だから君はニブいと言われるのだ!!
 君に惚れているから許した……
 そうに決まっているじゃないか!!」
「……!!」

 横島の顔が、ゆっくりと美神の方を向く。
 そして、ポツリと一言。

「……やべえ。その通りだ……」

 彼の言葉を聞いて、茂流田は、ほくそ笑む。あと一押しである。

「私が見たのは、美神令子の深層心理だけだが……。
 氷室キヌが君に惚れているのも、
 美神令子の邪推などではなく、
 本当のことなのではないかな?」

 弾かれたかのように、横島が茂流田へと向き直る。
 横島の目は、大きく見開かれていた。そして、納得の表情へと変わっていく。しかし、その顔には、苦悩の色も浮かんでいた。

(見ているだけで面白いな。
 くっくっく……。
 どちらの女性を選ぶんだ……!?
 二人とも大切だから、
 君には決めることなどできないだろう!?
 ……さあ、悩め!! 苦しめ!!)


___________


(美神さん……おキヌちゃん……)

 茂流田の言葉には、不思議と説得力があった。
 出会って以来、美神とは、独特のスキンシップを続けてきた。それは、常に不変であるかのように思えて、実は、少しずつ変化していたような気がする。

(俺も……きっと
 心のどこかでは理解してたんだろうな。
 美神さんのこと……)

 深層心理の中に気持ちを閉じこめていたのは、美神だけではない。横島も、無意識のうちでは、美神の好意に気付いていたのだ。だから、美神に対しては、いつもいつもセクハラし続けることが出来たのだろう。
 嫌がる相手に対してしたら犯罪になることでも、受け入れてくれる人が相手なら、問題にならないのだ。しかも、美神は、適度に受け入れ適度に拒絶する。その線引きも巧みだったのだ。

(それに、おキヌちゃんのことも……)

 横島は、おキヌの好意はシッカリ認識していた。ただし、それは男女間の『好き』ではなく、むしろ、兄妹のような家族愛だと理解していた。だから、おキヌにはセクハラできなかったのだ。

(でも、違ったんだな。
 おキヌちゃん……
 異性として俺に惚れてくれてたんだ……)

 そのことを、横島も、心の奥底では既に気付いていたのかもしれない。だから、ソロ邸での夜、甘いキッスを交わせたのだろう。

(美神さんとおキヌちゃん……
 二人のうち一人を選ぶなんて、俺にはできない……)

 普通ならば、ここで、悩むはずだ。そして、そんな『普通』を想定していたからこそ、茂流田は、横島を見てニヤニヤしているのだ。
 しかし、茂流田は忘れている。横島が『普通』ではないということを。
 今、横島は、このポイントでは全く悩んでいなかった。

(だから……両手に花!!
 ……俺は二人と付き合う!!)

 即決である。
 それでこそ、横島である。
 ただし、横島は横島なりに、その先を考えて悩んでいたのだ。
 それは……。


___________


(うーん、難しいなあ……。
 美神さんとおキヌちゃん、
 両方と付き合うことは確定としても……
 俺の初体験は、どっちにするべきかなあ?
 年上の美神さんに、やさしくリードしてもらう?
 いや、美神さんって……
 オトコを寄せつけないひとだから、
 きっと処女だよなあ……。
 それなら二人ともテクニックは同じか……。
 うーん……。
 じゃあ問題は、
 どっちがそういうことを気にするか、だな。
 ……。
 おキヌちゃんは結構ロマンチックだから、
 やっぱり『初めてどうし』とか好みそうだな。
 ……。
 でも美神さんもなあ……。
 自分の所有物は自分の所有物ってひとだから、
 やっぱり『お古』じゃなくて『新品』を好むよなあ。
 ……。
 仮に三人でヤり始めたとしても、
 俺の脱童貞の瞬間は、どっちか一人なんだよな。
 ……ん!?
 そうだ、文珠で俺のモノを二本にするというのはどうだ?
 それならば、二人に同時に……
 ……いや、二本にするだなんて、
 想像するだけでも気持ち悪いな。
 これは却下だ。
 ……ん!?
 そうだ、おキヌちゃんに幽体離脱してもらって、
 美神さんの体の中に入ってもらうのはどうだ?
 そうすれば、
 おキヌちゃんの体のバージンは保ったまま、
 二人いっぺんに……。
 いやいや、それでは二人平等じゃないから、
 これも却下だな。
 ……ん!?
 そうだ、文珠で二人の下半身を
 一つに融合してしまうというのはどうだ?
 『同期合体』ならぬ『性器合体』……」

 ここで、横島の背筋に、ゾクリとした感覚が走った。
 ふと見上げると、

「よ・こ・し・ま・さん……!?」

 怒ったような呆れたような表情をした霊体が、プルプルと震えてた。幽体離脱してきたおキヌである。

「あれ……おキヌちゃん!?
 ……声に出てた!?」
「はい、思いっきり」

 久しぶりの対面とは思えぬ会話だが、ある意味、横島らしいかもしれない。

「えーっと……どこから!?」
太字の部分です」
「……。
 ほとんど全部やんけーッ!?」


___________


「ところで……どうなってるんですか?」
「うん、簡単に事情を説明すると……」

 横島は、手短かに述べる。
 裸に見える美神は、実はクロスを着ていること。しかし、敵の攻撃で精神をやられたこと。敵の正体は、悪霊となった茂流田であること。さらに、その茂流田が、一連の騒動を影から操っていたこと。
 一方、そうやって二人が会話している間に、

「……ハッ、いかん!!」

 茂流田が自分を取り戻した。今まで、あまりのバカバカしさに、呆れ返ってポカンとなっていたのだ。

「こうなったらもう
 悪夢だの何だの言ってられん!
 二人まとめて、時の狭間に落ちろ!!」

 茂流田は、カノンの手で、空間に大きな三角形を描き始めた。
 これこそ、カノンの必殺技、ゴールデントライアングルの発動ポーズである。北大西洋にある魔の三角地帯のように、『ゴールデントライアングル』に陥ったら、二度と生還できない。時空震動を引き起こして、敵を時の彼方に跳ばしてしまう、恐ろしい技なのだ。
 ……ということになっているのだが、

「これは……時空震!?」
「だまされるな、おキヌちゃん!!
 カノンという男は、時間移動能力者なんかじゃない。
 兄のサガ同様、精神感応能力者だ!!
 ……これも幻覚なんだ!!」
「くっくっく……。
 そこまで見抜くとは……さすがだな……」

 横島が指摘した通り、この技は、実際に『敵を時の彼方に跳ばす』わけではない。ただ、そういう幻覚を見せるだけだった。

「しかし……
 強力な暗示を伴う幻覚は本物と同じだ!
 ゴールデントライ……
 ……ぐわっ!?」

 カノンの技は、不発に終わる。横島のサイキック・ソーサーに直撃されたのである。

「セイントにしろマリーナにしろ、
 技の仕草が仰々しいから、
 隙が出来るんだよな……」
「……なんのマネだ!?」

 もっともな発言をする横島だったが、カノンから見れば、彼も奇妙なことをしている。クロスを脱ぎ始めているのだ。まるで、脱ぐほどに強くなるという伝説の聖闘士(セイント)のようだ。
 そして、その横では、美神も立ち上がって、クロスを外してヌードになっていた。

「美神令子……!?
 ……復活したのかッ!?」

 叫んでしまった茂流田だが、一瞬の後、真相を察した。
 目の前の『美神令子』は、美神ではない。彼女の精神は破壊されて、虚ろなままだ。そこに幽体おキヌが入り込んで、美神の体を動かしているのだ!


___________


「……気づいたようだな」

 横島が、ニヤリと笑う。今度は、横島が茂流田の表情を読む番だった。
 しかも、今の横島は、かつてないほどに霊力が高まっている。
 茂流田の策が逆効果だったのだ。悩むどころか、『美神とおキヌの両方と付き合う』と決めてしまい、『どちらと初体験をするべきか』という心配までし始めた横島である。霊力の源である煩悩も、異常なほど上昇してしまったのだ。
 さらに……。

「横島さん……」
「……えっ!?」

 おキヌ(in 美神)が、背後から横島をギュッと抱きしめた。
 秘策があるからクロスを脱ぐようにと横島に勧めたのは、おキヌである。この密着こそが、その『秘策』だった。

「おキヌちゃん……!?
 あの……その……胸が……」
「はい……。
 美神さんの豊かな胸の感触……
 存分に味わってください。
 私のじゃないから……
 ちょっと妬いちゃいますけど、でも、
 これも横島さんの霊力を高めるためですから」

 美神の生チチが押し付けられているのだ。Tシャツ越しではあるが、それでも、横島は興奮してしまう。
 肉感的な美神のボディーと、献身的なおキヌの心。
 その両方が横島に伝わり、彼の霊力が、いっそうアップする!!

「これが……俺たち三人の力を併せた結果!!」
「はい……!!」

 悪霊を浄化するイメージをこめて、横島は文珠を作り出した。
 そして、まぶしいほどに光り輝くそれを、『カノン』へと投げつける。

「うっ、うわーっ!?」

 『カノン』の中の悪霊、茂流田が絶叫する。霊体が崩壊し始めたのだ。

「ちょっと待て!?
 これで終わりか……!?
 ボス戦にしては、あまりにも……」
「バトルがメインじゃないんだ、このSSは」
「横島さん……またそんなメタなことを……」

 おキヌの言葉を聞いて、安心する横島。このツッコミが欲しかったのだ。
 二人は、顔を見合わせて、ニコッとする。
 一方、茂流田は、しぶとく現世に留まっていた。

「おい!? 真相とか聞かなくていいのか……!?
 実は、真の黒幕がいて……」
「……しつこいな」
「じゃあ、トドメは私が……!!
 極楽へ……行かせてあげるっ……!!」

 美神の霊力で鞭化した神通棍が、茂流田に叩き付けられた。
 そこには、強烈な攻撃力とともに、

(こんなことをしたって
 苦しいのは終わらないよ……!
 人を殺したら
 その念があなたの自縛を
 ますます強くするだけなのよっ!?
 だから……
 もう……やめよう。ね?
 ラクになろうよ)

 という慈愛の念もこめられている。
 そんな矛盾した一撃を受けて、

「ギャーッ!?」

 茂流田の悪霊は、ついに、この世から消え去ったのだった。


___________


「……ここは!?」

 体内の悪霊が浄化されたことで、カノンは、自己を取り戻した。

「そうか……そういうことか……」

 朧げだった記憶が、だんだんハッキリしてくる。
 全ては、十三年前の兄弟ゲンカから始まったのだ……。


___________


 十三年前のサンクチュアリにて。

「……ふざけるな!!」

 兄サガの拳が、カノンを叩きのめす。
 カノンが、アテナ殺害を提案したからだ。

「アテナも殺し、教皇も殺し……
 そして兄さんが……サンクチュアリを支配する。
 それでいいじゃないか……」

 口元の血を手で拭いながら、カノンは不敵に笑ってみせる。彼は、ちっちゃな頃から悪ガキで、十五歳の今では、兄から『不良』と呼ばれていた。
 だが、カノンは悟っていた。実は、悪ぶっているカノンよりも、兄サガのほうが、よっぽど邪悪なのだ。何かに取り憑かれているとしか思えないくらいだ。
 だから、今も、大逆を勧めたのだが……。

「チッ……。
 まだ善人づらする気かよ……」
「……何が言いたい!?」

 サガの目が怪しく光る。サガも気付いたのだ、カノンには正体がバレている可能性を。

「……そうか。ならば……!
 ギャラクシアンエクスプロージョン!!」
「ちょ、おまっ!?
 実の弟に向かって何すんだ!?」
「問答無用!!
 ……アナザーディメンション!!」
「ええい、ならば、こちらも!!
 ゴールデントライアングル!!」
「幻朧魔皇拳!!」
「幻朧拳!!」

 と、壮絶な応酬の末。
 負けたのは、カノンだった。
 そして彼は、スニオン岬の岩牢に閉じこめられてしまう。

だぜーっ!!」

 泣き叫ぶ彼の言葉は、濁点がついてしまう程だった。
 なにしろ、そこは、脱出不可能な牢獄なのだ。神話の時代には、アテナの敵が閉じこめられていたという伝説もあるくらいだった。
 しかも、潮が満ちてくると、牢内も海水でいっぱいになる。
 こんなところで、どうやって生き抜けというのだ……!?
 毎日毎日死にかけるカノンだったが、そのたびに力強いコスモが降り注ぎ、死の淵から戻ることができた。十日ほど、そんな生活を続けた後。

「俺を助けてくれているのは……もしかして……!?」

 カノンは、コスモの源を探し始めた。それは常に二方向からやって来るため、探索は容易ではなかったが、そのうち一つを探り出すことは出来た。

「……これは!?」

 コスモに導かれるまま壁の一部を破壊したカノンは、三叉の鉾を発見する。
 その形状、そして、貼られている一枚の封印から、カノンは察した。

「海皇ポセイドンの鉾……!!
 俺は……ポセイドン様に助けられていたのか!?」

 もともとカノンは、悪ガキぶっていたに過ぎない。根は善良な少年だったのだ。そんな彼の心の中を、清らかな衝撃が駆け抜けた。カノン改心の瞬間である。

「命を救われた以上……
 わが命をもって尽くします……」

 三叉の鉾を引き抜くカノン。長き時の間に弱っていた封印は、強力なコスモを持つカノンの手で、とうとう破られたのだ。だが、

「……あれ!? またピンチ!?」

 鉾の抜けた跡から、急激に海水が吹き上がる。
 叩き付けられたカノンは、意識を失い……。
 目覚めた時には、海底神殿に来ていた。
 閑散とした地。
 そこで彼は、ジェネラルとポセイドンの鱗衣(スケイル)を発見する。しかも、怪しげな壷もあった。
 その壷の封印を剥がしたカノンは、ついに、ポセイドンと対面する。

『戯れに命を救ってみれば……余の眠りを妨げるとは……』
「……お許し下さい!! 地上では、今……」

 カノンは、アテナが降臨したことを告げた。理由もなく地上に降臨するはずもなく、これは聖戦の前触れなのだということも。

『ふむ……。しかし、おかしいな……!?』

 ポセイドンも、聖戦が避けられないことには賛同する。ただし、その相手が自分だとは思えない。自分がアテナと争ったのは、もはや遥か昔なのだ。前回の聖戦でアテナと戦ったのは……。

『……そういうことか』

 ポセイドンは、冷ややかな視線をカノンに向ける。

『赤子として地上に降りたアテナが成長するまで、
 余は、もうしばらく眠るとしよう。
 それまでは、おまえが余の代理として、采配を振るうが良い。
 ところで……おまえは誰だ!?』
「……!!」

 ポセイドンに問われて、言葉に詰まるカノン。本来ならば『ジェミニのカノン』と名乗るべきだが、この成り行きでは、そうもいかない。
 そんなカノンに、スケイルの一つが語りかけてきた。

『あたしじゃないからね……!?
 間違っても、アンタは
 「シードラゴンのカノン」じゃないからね!?
 べっ、別にアンタに着て欲しいなんて思ってないからね!?』

 もしかすると、それは幻聴だったのかもしれない。
 いや、本当に声がしたのだとしても、その言葉を文字どおり受け取るべきだったのかもしれない。
 しかし、カノンは、それを逆説的に受け入れたのだった。

「……シードラゴンのカノンでございます」
『そうか……。
 シードラゴンよ、気をつけることだな。
 聖戦の相手はアテナだが、
 しかし、真の敵はアテナではない。
 余が寝ている間……しっかり頼むぞ!!』

 と言い残して、ポセイドンは、スーッと消えていった。地上へ行き、人間の体内で眠りにつくのだ。
 それ以来、カノンは頑張ってきた。ただひたすら、ポセイドンのポセイドンによるポセイドンのための世界が来ることを信じて。
 最初は孤独だったカノンだが、ポセイドンの意志に導かれるように、続々と海闘士(マリーナ)も終結し始めた。
 そして……。

「聖戦の準備も整った。
 アテナも成長し、ポセイドン様の
 ヨリシロのジュリアン様も大きくなられた。
 ……そろそろ起きていただかないと!!」

 と、カノンが決意したとき。
 彼の体内に、悪霊が入り込んだのだった。


___________


「……という事情だったのだ」

 ようやく、カノンの長話が終わった。
 横島とおキヌにしてみれば、そんな背景などどうでもよいのだが、遠い目で語り出したカノンを止められなかったのである。
 しかし、彼の次の言葉は、二人の関心をひきつけた。

「ポセイドン様は、話せばわかってくださる御方だ。
 ……私が直訴すれば、
 メインブレドウィナも開けてくださるだろう」
「……!!」
「ホントか!?」

 言葉も出ないおキヌとは対照的に、横島は、カノンの肩をガッシリつかむ。

「それじゃ、今すぐ行ってくれ!!
 ……たぶんアイザックたちも、
 ポセイドンの玉座を目指しているはずだ!!」
「……アイザックが!?」

 横島は、アイザックから聞いた話を説明し、さらに、文珠でもう一人ジェネラルを説得する計画についても語る。順調に進んでいれば、二人のジェネラルがポセイドンのもとへ向かっている頃だ。

「そうか……アイザックが……」

 カノンも助けたい。しかし、場合によっては、カノンごと悪霊を。
 そんなアイザックの気持ちを知り、カノンは、目頭が熱くなる。

「おい……!?
 ひたってないで、早く……」
「そ、そうだな。
 メインブレドウィナのことは、私にまかせたまえ!!
 だが……」

 カノンは、美神に視線を向けた。
 すでにおキヌは体から抜け出しており、美神は、再び丸くなってブツブツつぶやいている。

「ああ、美神さんのことなら大丈夫。
 ……魂をバラバラにされても
 復活した人だからな!!」
「私たちで何とかしますから!!」

 横島とおキヌの表情は、自信ありげだ。それに背中を押されるように、カノンは走り出した。


___________


 こうして、多くの者がポセイドンの居城を目指す中。
 最初に到着したのは、タマモだった。

「……あんたがポセイドンね!?」

 タマモは、ポセイドン軍と和解しつつある現状を知らない。だから、戦う気満々で、ここへ来ていた。
 しかし、いざポセイドンの前に立つと、体がガタガタ震え始める。
 武者震いではない。全身の細胞が、悲鳴をあげているのだ。

(……なによ、この神気!?
 ヒャクメや小竜姫とはケタ違いじゃないの!?)

 タマモは知らないが、まだポセイドンは、ジュリアンの体の中で半分眠っている。それでも、目の前の『ポセイドン』は、強烈な神気を全身から発しているのだった。

「おまえは……人間ではないな。
 ……誰だ!?」
「……フン!!
 あんたなんか、恐くないわよ!?
 ……ホントはちょっと恐いけど、それは、
 あんたが槍っぽいもの持ってるからよ!?
 ……ただ、それだけよ!?」

 タマモは、精一杯の強がりを見せる。
 ポセイドンを畏れているわけじゃない。あの武器が恐ろしいだけだ。
 そう自分に言い聞かせるのだが、足は、自然と後ずさりしている。
 今、彼女の頭の中では、二人のチビタマモがケンカしていた。

「こんな奴と戦えないわよ!!
 逃げなくちゃ!!」
「何言ってるの!!
 そんなことしたら、金毛白面九尾の名が泣くわ!
 逃げちゃダメよ!!」
「逃げなくちゃ、逃げなくちゃ、逃げなくちゃ……」
「逃げちゃダメよ、逃げちゃダメよ、逃げちゃダメよ……」

 だが、その勝敗が決する前に。

「……答えよ!!」

 『ポセイドン』の眼光に射すくめられただけで、タマモは弾き飛ばされてしまう。

「……くっ。
 こうなったら……ヨコシマの助けを借りるわ。
 おいで!! 子ギツネのクロス!!」

 横島のことを『ヨコシマ』と呼んだ自覚もないまま、タマモは、背中のリュックに呼びかけた。
 小狐の彫像が飛び出し、小さなパーツへと分解。

 キューッ、キューッ、キューン……。

 奇妙な音を立てながら、タマモの体を覆っていく。
 これが、横島とムウによって用意された、タマモ用クロスだ。ゴールドにもシルバーにもブロンズにも『小狐星座』のセイントはいないため、小狐星座をイメージしている。もちろん、車に変形したりはしない。

「……これで本当に、あんたなんか恐くないわよ!?」
「生意気な……」

 『ポセイドン』が囁くと同時に、強烈な霊的プレッシャーが、タマモを襲う。
 しかし、今回は、その場に踏みとどまることができた。

「……何これ!?
 ホントに効果あるじゃない!?」
『……当然だ』

 驚くタマモを、さらに驚かせた声。それは、クロスから聞こえてきていた。

「……あんた!?」
『我はおぬしを守る鎧であると同時に、
 おぬしを導く存在でもある。
 ……さあ!!
 霊力を集中させろ!!
 我をまとった今ならば、
 忘れていた能力も蘇るであろう!!』

 クロスは説明する。
 九尾の狐であるタマモには、尾から分身を作り出す能力があるはずなのだ、と。

「ないわよ、そんな能力。
 あんた、出てくる作品間違えてるんじゃない!?」
『……。
 いや、ある!!
 我が「ある」というからには、あるのだ!
 我を信じて、霊力を集中させろ!!』
「でも、今の私、人間形態だからシッポないわよ!?」
『……。
 いや、ある!!
 実際の尾はなくとも、髪が九つに分かれているではないか!?
 そのナインテールから、それぞれ分身が出せるはずだ!!
 我を信じて、霊力を集中させろ!!』
「……はい、はい」

 クロスとの問答が面倒になったタマモは、もう素直に従うことにした。
 タマモ自身は気付いていないが、実は、この会話の間にリラックスすることが出来て、もうポセイドンへの畏怖の念も消えている。
 一方、『ポセイドン』も、

「ふむ。
 余が寝ている間に、
 人間は面白いものを作り出したのだな」

 と、タマモとクロスとのやりとりを、興味深そうに眺めていた。この『クロス』が純正のアテナ軍のものではないと見抜いたからこそ、余裕もあったのだ。
 そして……。

『ほら、見ろ!!』
「ふーん……。
 信じてみるものねえ……」

 タマモの両横には、分身タマモがズラリと並んでいた。

「……で!?
 この九人と一緒に戦えというの!?」
『……何を野蛮な!!』

 少しはクロスを信じる気になったタマモだが、彼女の言葉は、アッサリ却下されてしまう。

「……じゃあ何!?」
『これで本体のおぬしを含めて十人となった。
 しかし全ておぬしだから、
 この十人と付き合うのは、
 おぬし一人と付き合うのと同じ。
 ……浮気にはならないのだ!!
 これでおぬしは、
 おぬしを愛する男性が現れた際、
 なんの問題もなく11ピー……』

 ガシャン!!

 タマモは、クロスを脱ぎ捨てる。

『なんということを……!!
 我は画期的な愛のクロスだというのに!!』
「ハーレム作るためのクロスなんて誰が着るか!!」

 と叫びながら、思いっきりクロスを蹴飛ばすタマモ。それは、一直線に飛んでいき……。

 ゴツン!!

 『ポセイドン』にぶつかった。

「……あ」

 一滴の冷や汗を流しながら、タマモは『ポセイドン』を見つめた。
 不思議なことに、先ほどまでの強力な神気は消え去っている。まるで、中のポセイドンは消え去り、ジュリアンという一人の人間に戻ったかのようだ。

「……あれ!?
 クロスぶつけただけで、やっつけちゃった!?」

 と、口にした瞬間。
 今までとは比較にならないほどの霊的圧力が、『ポセイドン』から溢れ出した!

「……まさか、これが……」

 吹き飛ばされたタマモは、その圧力で壁に押し付けられたまま動けない。
 そして、ジュリアンの口から、ポセイドンの言葉が漏れる。

『余の眠りを妨げる者は……誰だ!?』

 ポセイドンが完全に覚醒したのだ!


___________


 その少し前、北大西洋の柱の前にて。
 横島とおキヌは、崩壊した美神の精神をサルベージしようと奮闘していた。
 今の美神は、裸のまま丸くなって座り込んでいる。
 その傍らで、横島は片膝をつき、おキヌはプカプカ浮いていた。

「……こういう時は、やっぱり、
 キスで目覚めるのが定番かな!?」
「……ダメですよ、横島さん!!」

 横島の提案を、おキヌがバッサリ却下する。ヤキモチもあるが、それだけではない。美神と横島は唇を重ねたことはないはずだから、二人の初めてのキスは、ちゃんと意識がある時にするべきだ。美神の立場を想像して、そう考えたのである。

「横島さんと美神さんだったら、
 キスよりも、むしろ……」
「いつものセクハラ……かな!?」

 おキヌが頷くのを確認してから、横島は、美神の背後に回り、抱きついた。

(こんな感じで後ろから……
 美神さんのチチ揉んだこともあったよな)

 横島は、おキヌが事務所に来たばかりの頃を思い出しながら、腕を動かす。
 体育座りの姿勢のため、現在、美神の豊満のバストはフトモモで潰される形になっている。その間に、横島は両手を潜り込ませたのだ。

 グニュ。

(やっぱり気持ちええなあ……)

 感触を満喫しながら揉みしだく横島だが、現状を忘れているわけではない。

「……まだ足りないみたいだな!?」
「でも、さすがに……
 これ以上のセクハラはしてないですよね!?」

 やんわりと、横島の暴走を制止するおキヌ。
 横島は横島で、考えてみる。『セクハラ』という形で日常を喚起させる以外にも、何か方法があったはずだ。

(そうだ……!!
 前に魂が崩壊した時には……!!)

 思い出した横島は、美神の生チチを揉みながら、大きな声で叫んだ。

「このシリコン胸ーッ!!」
「悪質なデマを流すんじゃないッ!!」

 美神令子、復活である!


___________


「普通なら……
 『うわーん、横島クンーッ!!
  会いたかったよ〜〜』
 って言って、俺の胸に
 飛び込んでくる場面じゃないんスか!?」
「……私がそんなことするわけないでしょ!?」
「まーまー。
 横島さんも美神さんも……
 これでこそ、いつも通りじゃないですか」
「おキヌちゃんの『まーまー』も遅いよ!!」

 横島は、腫れた頬を、おキヌに見せつける。
 苦笑するおキヌだったが、内心では幸せだった。
 横島と美神の過激なスキンシップ。その横でプカプカ浮いているおキヌ。これこそ、三人の原点なのだ。
 なお、オブジェ形態に戻ったクロスから美神の衣類が吐き出されており、美神は、いつものボディコン姿に戻っている。これも『原点』である。

「さあ、私が復活したからには……
 今度は、おキヌちゃんの番ね!!
 おキヌちゃんの体、取り戻しに行くわよ!!」
「……ういっス!!」
「はい!!」

 美神たち三人も、ポセインドンの玉座に向かって駆け出した。


___________


「……どういうワケ!?
 このプレッシャー……
 アシュタロス並みじゃないの!!」

 ちょうどポセイドンが覚醒した直後に、エミたち六人は、玉座の間に到着してしまった。エミの声を耳にして、ポセイドンが、ゆっくりと振り返る。

『また乱入者か……』
「きゃーっ!?」
「うわーっ!?」

 ポセイドンが一睨みしただけで、エミもピートもタイガーも貴鬼(きき)も、弾き飛ばされた。
 ソレントとアイザックだけが、かろうじて、その場に留まっている。スケイルに守られただけではなく、平伏した姿勢も幸いしたのかもしれない。

「ポセイドン様……!!」
「聞いていただきたいことが……」
『おまえたち……
 スケイルをまとっているからには
 余の臣下のはずだが……!?
 なぜ、この無礼者たちと結託しておるのだーッ!!』

 二人は懇願するが、ポセイドンは聞いてくれない。怒らせてしまったようで、ポセイドンの気迫が激しくなった。
 その時。

「……お待ちください!!」
『ほう……。
 おまえは、たしか……』

 シードラゴンのカノンが、ここに辿り着いたのだった。


___________


 ポセイドンにとって、シードラゴンのカノンは特別だ。アテナの封印からポセイドンを解放したのはカノンであり、ポセイドンが全権を委任した相手もカノンだからだ。ポセイドンがジュリアンの中で眠っている間にやってきたマリーナとは、格が違うのだ。
 だからポセイドンは、現状を説明するカノンに、耳を傾けた。

『そういうことか……』

 事情を理解したポセイドンは、メインブレドウィナの方角へと視線を向ける。
 ただ、それだけで。

 ザバーッ!!

 大量の水の溢れ出す音が、一同の耳に届いた。

「……え!? 今の音って……!?」
『そうだ。
 メインブレドウィナを開けた。
 中の娘も、まだ息はあるはずだ』

 エミ・ピート・タイガーの三人が、メインブレドウィナへと駆け寄る。
 大柱の前に、確かに、おキヌが吐き出されていた。

「……しっかりするワケ!!」

 抱き起こすエミだが、すぐに気が付いた。
 おキヌの体には、魂が入っていない!!

「幽体離脱ですね」

 ピートがつぶやく。ポセイドンの玉座では存在感がなかった彼だが、あの場には、美形は空気と化すという御約束があったのかもしれない。なお、タイガーも存在感ゼロだったが、それは、まあいつものことだ。

「あのコったら……!!
 いったい、どこをうろついてるワケ!?」

 と、エミがつぶやいた時。

「ここでーす!!」

 美神や横島とともに、幽体おキヌがやってきた。


___________


「ただいま……!!
 美神さん、横島さん……!!」

 こうして、無事、おキヌは救出された。
 なお、ポセイドンは、まだジュリアンの体に入ったままである。今、その周りに集まっているのは、三人のジェネラルと貴鬼に加えて、美神・横島・おキヌ・エミ・タイガー・ピートの六人だった。

『シードラゴンから話は聞いたが、
 おまえたちの側からの話も聞きたい』
「そうねえ……。
 ちょっと長くなるけど……
 アシュタロスって知ってる!?」

 ポセイドンに促され、美神は、今回の『聖戦』の意味からキチンと説明する。

『そうか……。
 色々と済まなかったな』

 長い話を聞き終えて、ポセイドンは、美神たちに頭を下げた。

「ポセイドン様……!!」
「悪いのは私です。
 ポセイドン様は……」

 慌てる三人のジェネラル。特に、悪霊に取り憑かれていたカノンは、責任は自分にあると主張したいようだ。
 しかし、ポセイドンは、これをキッパリと切り捨てた。

『臣下の責任を取るのも王の努めだ。
 余がみずからアテナの壷に戻るから、
 これ以上、シードラゴンたちを責めないでくれ」
「……!!」
「……えっ!? でも……」

 ジェネラルたちだけでなく、美神も驚いてしまう。
 彼女は、伝えたはずなのだ。『今回封印されたら二度と出てこれなくなる』という小竜姫の言葉も。
 美神の言いたいことを察したらしく、ポセイドンが微笑んだ。

『……心配するな。
 このポセイドン、完全に封印されるほどヤワではない。
 こうして万全の状態で出て来ることは無理でも、
 力の一端を時々発揮するくらいは出来よう』

 さいわい、海底神殿の七本の柱も、まだ半分近く残っている。それに、メインブレドウィナもあるのだ。それならば、このエリアも維持されるから、壷に入ったまま海の守り神として、ここに残る。
 それが、ポセイドンの意志だった。

「では私も残ります!!」
「……私も!!」
「ポセイドン様……
 ジュリアン様は、どうなさるおつもりで!?」

 即座に決意を伝えたカノンやアイザックとは対照的に、ソレントは、疑問を口にした。

『ふむ……。
 最近の記憶を消した上で、地上に戻そうと思う。
 また体を借りる可能性も、ゼロではないからな』
「でしたら……私は、
 地上でジュリアン様を秘かに警護いたします」
『そうか。
 頼んだぞ、セイレーン。
 ……そして、シードラゴンよ!!』
「はっ!!」

 別れの前に、あらためてカノンに全権委任するポセイドン。

『この騒動を恥じる気があるなら……。
 残ったマリーナたちのこと、よろしく頼む。
 それが償いだと思ってな……』
「はっ!!」

 シュウッ!!

 ポセイドンは、ジュリアンの体から離脱し、メインブレドウィナへ向かう。アテナの壷は、その中にあるのだ。
 これで、ようやく全てが終わった。そんな雰囲気になったところで、おキヌがポツリとつぶやく。

「カノンさん……
 悪霊に取り憑かれちゃったんだから、
 仕方ないですよね……!?」

 一番の被害者であるはずのおキヌだからこそ、許しの言葉を発することが出来るのだ。
 だが、カノンは、大きく首を横に振った。

「いや、私にも非はある。
 せっかくポセイドン様が忠告してくださったのに
 気が付かなかったのだからな……」
「……どういうこと!?」

 リーダーシップをとって、美神が質問する。霊能者独特のカンが『カノンは何か重要なことを知っている』と告げているからだ。

「スニオン岬の岩牢の話を覚えているか!?」

 カノンは、横島とおキヌの方を向きながら、語り始めた。
 美神は、『あとで説明しなさいよ!?』という表情で横島を小突くだけで、口を開かない。

「あそこで私を助けてくれた『力強いコスモ』、
 それは二方向から来ていた。
 ……つまり二人いたのだよ、私を助けてくれた神は。
 最初は、慈悲深いアテナかと思ったが、そうじゃなかった。
 『もう一人の神』は……
 私を利用するために助けただけだったのだ!!
 慈悲深いどころか、むしろ邪悪な神だったのだ!!」
「いけないなァ、神のことを悪く言っては」

 誰かがバカなツッコミを入れて皆にしばき倒されたが、何事もなかったかのように、カノンは話を続ける。

「その『邪悪な神』こそ、
 ポセイドン様が言っていた『真の敵』。
 さらに、悪霊に力を貸していた存在!!
 あの、特殊な『悪霊』を作り上げた神だったんだ」
「悪霊を作り上げた……!?」
「そう。あれは、普通の幽霊なんかではなく、
 空間に焼きつけられた『死の瞬間の強烈な意志』を核として、
 そこに神気を練りこめられたシロモノ。
 だから、このカノンをも自在に操れたのだよ……。
 神の力を借りてる『悪霊』だからな……」

 途中で言葉を挟んでしまった美神だが、今、彼女の頭の中に、一つの名前が浮かび上がってきた。
 ギリシアの神々の中には、空間に焼きつけられた魂の残像を集めて、独自の『冥界』を作っている者がいる。かつてヒャクメは、(もう読者も覚えていないであろう第一話で)そう説明したはずだ。
 その名は……。

「冥王ハーデス……!!」 
「ダメですよ、横島さん……。
 カノンさんに最後まで説明させてあげないと!
 私も気づいちゃったくらいですから、
 皆さん、わかってたんでしょうけど……。
 でも誰も口にしなかったんですから」
「そ、そうよ!!
 空気読みなさい、横島クン!!」

 自分も言いそうだった美神だが、素知らぬ顔で、おキヌに同調するのであった。


___________


 そして、美神たちは海底神殿をあとにする。
 マリーナたちも、残る者は残り、地上へ帰る者は帰る。それぞれ独自の道を進むのだ。
 若干一名、独自の道ではなく、GSたちと行動をともにするジェネラルもいたが、きっと彼の未来は明るいと信じることにしよう。

『バックに冥王ハーデスがついていた以上、この事件は終わっていない』

 それがGSたちの共通認識だったが、今できることは、何もなかったのだ……。


___________


「先生、コーヒーです」
「……ありがとう、西条クン」

 オカルトGメン東京支部。
 ここが、西条や美智恵の職場である。
 海底神殿から戻って以来、美智恵は、上層部に提出する公式リポートを作成しようと苦労していた。
 ポセイドンの一件は、仕事だったわけではないし、一般の人々への影響もなかった。もしもポセイドンが地上侵攻でも始めていれば話は別だったが、全ては、それ以前に片付いたのだ。
 しかし、美智恵は、この事件を上に報告する必要を感じていた。

「ところで……西条クン!?」
「なんでしょう?」

 美智恵の分とは別に、自分用にも一杯のコーヒーを持ってきていた西条。それに口をつけた彼に、美智恵が、素朴な質問を投げかけた。

「雪之丞クンは母親の幻を見せられたそうだけど……
 西条クンは、何でやられたの!?」

 ブーッ!!

 コーヒー吹いた。

「……す、すいません。
 いやあ、覚えてないんですよ。
 しょせん『幻』ですからねえ。
 ははは……」
「そう……!?
 まあ、いいわ」

 美智恵としては、気分転換のつもりで軽くからかっただけだ。しかし、こうもあからさまな反応が返ってくるようでは、二度と話題にしないほうが良さそうだった。
 なにしろ、『プレイポーイ西条、ついに年貢の治め時』というウワサが、こっそりと職場で出回っているくらいなのだ。これで相手が美智恵の娘であれば、皆も『やっぱり』と思うのだが、なんと別の女性である。『手を出してはいけない相手に手を出したのだ』とか、『孕ませてしまったのだ』とか、勝手な憶測が広がっている。
 自分たちも幻惑攻撃を受けたために、美智恵だけは、真相に気付いていた。ちなみに、美智恵と唐巣は、

「精神攻撃には耐えきったのだけど……
 それで弱ったところを、電撃攻撃でやられてねえ。
 やっぱり年かな……」

 と、口裏を合わせてあった。

「じゃあ、先生。
 用事があるので、僕は、もう帰ります」

 西条が逃げるように立ち去る。その後ろ姿を見ながら、美智恵は、思考を戻した。ポセイドン事件の大枠について再考するのだ。

(事件を操っていたのは、
 ハーデスから送り込まれた悪霊……)

 冥王ハーデスのところには、焼きつけられた魂の残像をもとにした疑似幽霊がたくさんいるそうだ。もちろん、魂の焼きつき現象は、ある程度の条件が重ならなければ成立しない。今回の茂流田の場合は、霊的実験施設で死んだことに意味があるのだろう。魂のうちの『強い未練』の要素だけが、その場の霊的属性の影響で、焼きつけられてしまったのだ。
 そして、それを手に入れたハーデスが、悪用した……。

「うーん……」

 デスクワークの場では、美智恵は眼鏡をしている。
 右手でコーヒーカップを持ちながら、左手は、無意識のうちに眼鏡に伸ばしていた。人差し指でツル部分をこめかみに押しあて、中指では、レンズ下を支えている。まるでずり落ちるのを防ぐかのようだが、そんな意図はなく、ただのクセである。

(幽霊……悪霊……)

 何かが気になるのだ。
 今のうちに上層部に進言するべきだと思うのだ。
 ポセイドン事件は、大事件の前兆に過ぎないような気がするのだ。
 しかし、地上に幽霊が大発生したところで、日本に在住している強力なGSの敵ではない……。

(……ん!?
 ちょっと待って……!!)

 茂流田は人間だったから、焼きつけられた魂が幽霊となったわけだが、これが魔族だったら?
 そもそも魔物なんて幽体が皮をかぶっているようなものだ。魔物の『魂』ならば、ハーデスが少し手を加えるだけで、容易に、実体を伴った存在に出来るだろう。

(……そんな!)

 では、ハーデスが本気になったら、魔物の大量復活も可能なのか!?
 アシュタロスがコスモ・プロセッサで世界中に悪魔を再生させたように……!?

(いや、今度は『世界中』じゃないわ。
 日本に……特に、東京に集中する!!)

 もしもハーデスが、すでに自分の『冥界』にいる疑似幽霊を利用するならば、それがどこに送り込まれるかは分からない。
 しかし、空間に焼き付けられたままの魂を悪用した場合には……!
 これまでは朧げだったから感知されなかったような『魔物の魂』を、今になって、その場で実体化させた場合には……!
 強力な『魔物』は、主に関東で発生することになるだろう。最近滅ぼされた悪魔の多くは、この近辺で活動してきたのだから。

(これは……上を説得しないと!!)


___________


「なんスか、三人で話し合いって……!?」

 美神に呼び出された横島は、事務所の一室に入る。
 わざわざ口にしてしまったが、実は、横島にも分かっていた。
 話題は、三人の今後の関係についてだ。
 海底神殿で二人の気持ちを知ってしまった横島だったが、おキヌからは、

「それについては……
 美神さんも含めて、きちんと話し合いましょう」

 と言われていたのである。
 やや緊張した態度で入室した横島に、

「なーに、そんなに硬くなって?
 横島クンらしくないわよ?
 気をラクにして、座りなさい」

 美神が、対面の椅子を勧めた。おキヌは美神の横に座っているので、横島は、二人の女性と向き合う形になる。

「私もこういうのは苦手だから……
 要点だけ言うわよ!?
 おキヌちゃんが正妻で、私が内縁の妻。
 ……ということに決定したわ」
「……は?」

 『話し合い』に来たはずなのに、着席と同時に決定事項を告げられて、横島は戸惑ってしまう。

「あんたの『両手に花』を認めるなんてシャクだけど……
 でも、おキヌちゃんから奪うわけにもいかないからね」
「私も……横島さんは
 私一人の横島さんでいて欲しいけど
 ……でも相手が美神さんでは、仕方ありませんから」

 わざと厳しい顔をする美神とは対照的に、おキヌは、素直に微笑んでいる。優しく両手を伸ばして、横島の右手に重ねるくらいだった。

「……あれ?
 でも……おキヌちゃんが『正妻』?」

 困惑すべきポイントはそこではないのだが、横島の口からは、そんな言葉しか出てこない。

「うちの親は『内縁』でも理解してくれるだろうけど、
 おキヌちゃんの親御さんは、普通の人たちだからさ。
 ……だから、おキヌちゃんを戸籍上の妻にしないとね」

 なるべく冷静な口調で答える美神に、真っ赤な顔をしたおキヌが続く。

「でも、そのかわり……。
 キスも私が先でしたから……
 あの……その……体の関係は……」
「横島クンの『初めて』は
 私が貰うことになったから。
 ……よろしくね」

 ここで美神も、ポッと頬を染める。
 これは横島のハートを直撃したのだが……。

「……でも、今すぐじゃないからね!?」

 条件反射で飛びかかる横島に、美神のカウンターパンチが炸裂した。
 しかし、床でノビている場合ではない。アッサリ回復した横島は、ここでようやく、肝心の点に思い至った。

「あの……それより……
 いつのまにか『結婚』確定っスか?」
「もちろん、将来の話ですよ!?
 お互いに高校卒業してからだとして……
 二年ちょっと先ですね。へへへ……」
「あんた……
 今さら他のコがいいとか言い出さないでしょうねえ?」

 いつのまにか、美神の手には神通棍が握られていた。
 そんな彼女を見て、横島の頭の中に、包丁を握った母親の姿が浮かぶ。

「な……なに言ってるんスか!?
 美神さんとおキヌちゃんの二人……!!
 とっても……とっても幸せです……」

 少し顔を引きつらせながら、そう答えるしかない横島であった。


___________


 同じ頃。
 夕陽に照らされる東京タワー展望台の上に、ボウーッとした影が、実体を形成しつつあった。
 美智恵の危惧していた事態が始まったのである。
 ここには、一つの魂が、強い想いとともに焼き付けられていた。
 それは、死に際の想いではなく、幸せだった頃の想い。
 だから、彼女は、自分の本体が死んでいることなど知らない。彼女には、焼きつけられた時点までの記憶しかないのだ。

『あれ……
 私……ついさっきまでキスしてたはずなのに?
 どこいっちゃたのかしら、ヨコシマ?』


(第十一話に続く)


______________________
______________________


 こんにちは。
 この第十話だけ読むと、『聖闘士星矢』の世界の中でGSメンバーが戦っているように見えるかもしれませんが、これは『GS美神』の世界です(詳しくは、第一話及び第六話を御参照ください)。
 『星矢』原作では悪役だったポセイドンですが、『星矢』原作の冥界編では、主人公たちに力を貸す場面もあります。しかし、この作品では、味方として『星矢』キャラを出すことはなるべく避けたいので、後々の協力シーンを書くつもりはありません。そのかわりに、もう最初から「実は、結構いい人」として描いてしまいました。
 なお、作中で『アシュタロス並み』と評されているポセイドンですが、その発言者がエミであることに留意していただければ、さいわいです。エミがアシュタロスの実力をどこまで理解しているか、その解釈は読者の皆様それぞれ千差万別だと思いますから、ポセインドンのレベルもそれ次第ということになります。
 横島のカップリングに関しても一言。これまで私が書いてきたGS二次創作の長編や中編では、『誰ともくっつかない』『おキヌと結ばれる』というエンドを既に使っているので、今回は違うものにしようと思い、ここで『両手に花』を確定(?)させました。ただし、横島ぬきで勝手に決められていますが、これは、もう御約束のようなもの。以前の私の作品を読んでおられる方々は、「あらすじキミヒコ、また、やりやがったな」と、どうぞ笑ってください。
 しかも、『両手に花』が決まったかのような時点になって、例の人の復活です。この復活シーンでポセイドン編を締めくくるつもりだったので、今回は、かなり長くなってしまいました。この『復活』の仕組みは、作中で美智恵に推測させた通りです。ですから、ポセイドン編終了とともに、なし崩し的にハーデス編スタートです。次回もよろしくお願いします。
 

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