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「『神々の迷惑な戦い』第十一話(最終話)(GS+聖闘士星矢)」

あらすじキミヒコ (2008-04-11 23:06)
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「……じゃあ、これで話は終わり。
 横島クン、一応言っておくけど、
 公私のケジメはつけなさいよ!?」
「仕事は三人いっしょなんですから、
 事務所でイチャイチャするのはやめましょうね?」
「……は、はい」

 ポセイドン海底神殿の戦いの中で、美神は、深層心理に隠しておいた恋心を自覚することになり、一方、横島も、彼女とおキヌの気持ちを知ってしまう。
 そして、こうして事務所に戻った今、彼の意に添う形で(?)、二人から正式に『両手に花』を認められたのだ。
 『高校を卒業したらおキヌと籍を入れて、美神は内縁の妻とする』という条件付きであるが、横島が反対できる雰囲気でもなかった。

「ふーっ……。
 二人で決めたことを横島クンに伝えただけなのに、
 なんだか疲れたわね……」
「あれーっ!?
 美神さん、緊張してたんですか!?」
「ば、ばか言わないでよ、おキヌちゃん!」

 美神にとっては、千年の想いの成就なのである。だから硬くなるのも当然だったが、素直に認める気にはなれなかった。

(もう……!!
 私……こんなんで本当に
 横島クンと付き合っていけるのかしら?)

 目の前で黙っている横島も、なんだかニヤニヤしている。美神は、自分の顔が赤くなるのを感じた。

「と、ともかく!!
 今日は仕事もないから、
 二人とも、帰っていいわよ!!」

 と、美神が言った瞬間。
 部屋のドアが、バタンと開く。

(シロやタマモが、もう戻ってきたのかしら?)

 美神だけでなく、その場の誰もが、そう考えた。
 しかし、入ってきた人影を見て、三人は硬直してしまう。

『……ヨコシマ!!
 なんで私をおいて、
 一人で戻ってきちゃったの!?』

 可愛らしく頬をふくらませる、女性型魔族。
 それは、どう見てもルシオラだった。


    第十一話 ハーデス編


 美神の事務所で横島たちが慌てていた頃よりも、少し前の時刻。
 成田に到着した飛行機から、一人のドイツ人少女が降り立った。

「この国に、ハーデス様が……」

 とつぶやく少女の名前は、パンドラ。
 彼女は名家の生まれであり、本来ならば幸せな一生を送れたのだろうが、幼い頃に見つけた小箱のせいで人生を大きく狂わされていた。小箱には、冥王ハーデスの側近である二人の神が封印されていたからだ。
 その二神ヒュプノスとタナトスによって、パンドラは、ハーデスの地上代行者にされてしまう。彼ら二神が地上で頑張れば良いのに、二人は、サッサとハーデスの『冥界』奥の楽園へ行ってしまったのだ。
 さらに、ハーデスの魂が、彼女の『弟』として生まれ出た後、彼女の家族も召し使いも、皆、死んでしまった。
 当時、地上に出現したのはハーデスの魂だけだったので、幼いパンドラは、ハーデスの器となる『肉体』を探した。
 それは、今から十三年前の出来事である……。


___________


 ハーデスが宿る先は、この世で最も清らかな心をもつ人間だと言われている。
 見つけだした相手は、パンドラと同じくらいの年齢の幼女だった。

「あれ!?
 『弟』なのに、女のコ!?」

 少し気になった幼女パンドラだが、子供の自分には分からぬ大人の事情なのだろうと考え、話を先に進める。

「おまえは私の弟だ!!
 私のところに来い……!!」
「え〜〜でも〜〜
 おかあさまが〜〜
 『知らない人についていっちゃダメ』って……」

 幼女パンドラは、赤ん坊を抱くような形で、ハーデスの魂をかかえていた。だから、力づくでさらっていくのは難しい。
 しかも、二人の間に、一人の女性が割り込んだ。

「お嬢様を誘拐する気!?
 そんなことされたら、私のママがクビになっちゃう!
 ……お嬢様は、このフミが守るわ!!」

 彼女はメイド服を着ているが、やはり幼女である。
 つまり、現在の状況を通行人視点で見てみると……。

 一人の幼女は、赤ん坊らしきものを抱いているが、泣きもしないし動きもしないし、どうやら本物の赤ちゃんではなさそうだ。
 別の幼女は、お嬢様ルックだが、最初の子供から『弟』と呼びかけられている。男のコ役?
 三人目の幼女は、なぜかメイド服だ。召し使い役?

 ……というわけで、ママゴトをしているようにしか見えない。だから、近くを通りかかる者がいても、微笑ましく眺めるだけで、通り過ぎていった。

「誘拐ではない!!
 その娘は神の肉体として選ばれたのだ。
 ……喜ぶがいい!!」
「神の肉体として……!?
 あんた電波系ね!?」
「ん〜〜むにゃむにゃ〜〜。
 わたし〜〜もう眠いから〜〜
 おうち帰る〜〜!」

 幼女メイドが立ちふさがる以上、下手に奪い合いをしたら、ハーデスの肉体である幼女お嬢様に傷をつけてしまうかもしれない。それを恐れた幼女パンドラは、

「ならば……せめて、
 これをつけておけ……」

 と、星形のペンダントを押し付け、その場をあとにした。
 ペンダントの魔力で、この会合の記憶は、二人の頭の中からは消えている。しかも、これを『ママゴト』だと思っていた大人たちにも、最後に幼女パンドラがプレゼントをして仲良くお別れしたように見えるだろう。


___________


「それなのに……
 まさか、あのペンダントが……」

 空港ロビーを歩きながら十三年前を回想していたパンドラは、ここで、最近の事態について考える。
 ハーデスの配下である冥闘士(スペクター)も復活し、『聖戦』の相手であるアテナも、すでに妙齢の少女へと成長した。いよいよ、『聖戦』が始まるのだ!
 今こそハーデスの肉体奪回の時期と思ったが、パンドラ自身、幼い日の記憶は朧げである。ただし、ペンダントが目印となるのは確実なので、それを探索した結果……。
 ペンダントは、『夢の島』と呼ばれるゴミ埋め立て地にて発見された。いつのまにか捨てられていたのだ。
 これは、パンドラの失態とも言える。だから、みずから日本までやってきたのだった。

「私は、ハーデス様の御体を探すことに専念すれば良い。
 『聖戦』の緒戦は、ラダマンティスたちが
 しっかりやってくれるだろう……」

 パンドラは、冥界三巨頭と呼ばれるラダマンティスに、ギリシアのサンクチュアリ侵攻を任せていた。
 事前の調査によると、現在サンクチュアリの結束は固いらしい。
 しばらく前、悪魔に取り憑かれた黄金聖闘士(ゴールドセイント)がサンクチュアリ乗っ取りを企んだが、その反乱も無事に収束。反乱の首謀者は教皇に化けていたのだが、当時から民衆に対しては善行を施していたということで、外面的には、今でも彼が教皇を演じているそうだ。それが彼の贖罪なのだろう。
 そして、サンクチュアリ内部を実質的に取り仕切るのは、老師と呼ばれる古老のゴールドセイント。前聖戦からの生き残りであり、来るべき『聖戦』に向けていち早く準備していた人物でもある。なんと、神の秘術により今でも若い肉体をキープしているという噂まであるくらいだ。
 そして、アテナと老師の号令のもと、地上の全ての聖闘士(セイント)がサンクチュアリに終結しているそうだ。行方不明だった強力な青銅聖闘士(ブロンズセイント)まで探し出して味方にしたと聞いている。ただし、そのセイントが『今まで活火山のマグマの中で長々と昼寝していた』というのは、さすがに話半分、眉唾だろうとパンドラは思っていた。
 そんなサンクチュアリを襲撃する際には、本来ならば、死んだ聖闘士(セイント)や海闘士(マリーナ)を利用するつもりだったパンドラたち。しかし、予想と違って、最近の戦いでは死人が出ていないので、仕方なく正規のスペクターを攻め込ませている。

「ハーデス様……」

 現状を振り返ったパンドラは、心の中でハーデスに感謝する。ハーデスは、魔物の魂を大量に蘇らせていたのだ。しかも、それは『聖戦』のための直接戦力ではない。有力なGSをあぶり出すためだった。パンドラもハーデスも、『現代におけるハーデスの肉体は、強力な霊能力者だ』と考えていたのである。

「今から、この日本で、多くの魔族が復活する。
 ……きっと出てくるだろう、十三年前のあの娘も!!」

 そう信じているパンドラは、都心に向かうため、リムジンバスに乗り込む。


___________


『非常識だー!!
 納得いかーん!!』

 妙神山の門前で、死んだはずの魔族の絶叫が響き渡った。

『……ん?
 やられたかと思ったんだが……』

 再生デミアンは、自分の体を見つめる。本体のカプセルも、それを守る『子供』の肉壁も、どちらも傷ひとつない。

『……まあ、いいや。
 なんだか知らんが、とりあえず……』

 自分と戦っていたはずのワルキューレたちも、ターゲットである美神令子も、この場にはいない。いつのまにか妙神山の中に逃げ込んだというならば、みずから乗り込めばいいのだ。
 そう思って門へ向かい始めた再生デミアンに、制止の声が飛ぶ。

『許可なき者この門をくぐることまかりならん!』
『どうしても中に入りたくば、
 我らを倒してからにしてもらおう!!
 ……しかし!!』
『この「右の鬼門」!』
『そしてこの「左の鬼門」あるかぎり、
 おぬしのような魔族には
 決してこの門、開きはせん!!』

 デミアンが相手だというのに、強気に決まり文句を述べる鬼門たち。だが、もちろん……。

 ぎ〜〜っ。

 いつものように、門は中から開けられる。ただし、出てきたのは、いつもの人ではなかった。

『ここで神族と魔族が争うわけにはいかないでちゅ。
 でも魔族同士なら問題ないんでちゅよ』

 パピリオである。
 現在は小竜姫の弟子である彼女だが、その格好は、アシュタロスの配下として働いていた時と同じだ。パピリオの戦闘スタイルなわけだが、三姉妹登場以前に滅んだデミアンから見れば、奇妙なお子様でしかなかった。

『……ん?
 ガキか……!?』
『ガキにガキって言われたくないでちゅ!!』

 パピリオだけではない。再生デミアンだって、外見は子供なのだ。
 今、妙神山の門前で、子供のケンカが始まる!


___________


(アシュ様ー!!)

 内心で絶叫しながら滅んだベスパだったが、ふと気が付くと、復活していた。

『……変だね?』

 妖蜂が霊体片を集めたのだろう。
 最初はそう思ったのだが、それにしては奇妙なのだ。蜂の巣の中で、エネルギーに応じた大きさで蘇るはずだが、現状は全く違う。東京タワー前の地上で、生前と同じ大きさで蘇生している。

『どうなってるんだい……!?』
『……こういうことさ!』

 つぶやく再生ベスパに、空から返事が降ってきた。ただし、言葉だけではなく、強力な魔力弾も一緒である。

『……おまえは!?』 

 その攻撃をサッとかわした再生ベスパは、空を見上げて驚いた。そこに浮かんでいるのは、自分と瓜二つの姿をした存在なのだ。

『もうアシュ様も滅んだんだ。
 せっかく望みがかなったんだから……
 今さらあんたのような亡霊に出てこられても困るんだよ』
『アシュ様が……滅んだ!?』

 再生ベスパは混乱する。彼女の感覚では、アシュタロスは、今、エネルギー結晶も手に入れて、いよいよ天地創造に着手した頃のはず。負ける理由など皆無のはずだった。

『……そうさ。
 ともに滅ぶことはできなかった私のかわりに、
 せめて、あんただけでも消滅させてやるよ。
 ……再生怪人討伐の許可は降りてるからな』

 そう言いながら、本物のペスパは、地上に降り立った。
 二人のベスパの対決が、今、始まる!


___________


『人間ごときが……下等な虫ケラが
 このあたしに指図すんじゃないよ!』

 毎年GS試験が行われる会館には、霊的エネルギーが蓄積している。その場に、人間から魔物へと転じた悦びの思念が一つ、強烈に焼きつけられていた。
 今、それが実体化し、再生勘九郎となる。

『……あれ?
 みんな、どこ行ったのかしら?』

 再生勘九郎の主観では、GS試験中のはずだった。ミカレイ選手こと美神令子との戦いの途中で正体を現し、メドーサの命令で大暴れ中。それが彼の現状認識なのだが、周囲を見渡しても、誰もいない。敵もいないどころか、メドーサもいない。

『……どういうこと?』

 まさかあれから長い時間が経過しているとは、彼は知らない。この会館は、別のイベントに使われることもあったのだが、今日は、何の予定もなく、だから空っぽだったのだ。
 一人ポツンと立ち尽くす再生勘九郎。だが、ほどなく、若い男女の話し声が外から聞こえてきた。

「信じられませんわ!
 ホテル代も用意せずにデートして、
 そのくせ私と契ろうだなんて……!!」
「おいおい。
 ラブホテルなんかより、ここの方がいいぜ?
 なんたってGS試験が行われる会場だ。
 おまえも将来は受験するだろうしな、
 これも下見ということで……」
「そんな理屈では騙されないわよ!?
 それに私が言う『ホテル』は
 『ラブホテル』のことじゃありません!
 ちゃんとした一流のホテルです!!」
「……無理言うな!
 そんな無駄遣いできるかッ!!」
「無駄とは何よ!?
 女がロマンチックな初体験したいのは常識でしょ!?
 ……サイテー!!」

 どうやら、貧乏男と御令嬢らしきカップルが、ここでヤろうと忍びこむところのようだ。ソーッと扉を開けて入ってきたのは……。

「か、勘九郎!?」
「……なんで魔族がこんなところに!?」

 伊達雪之丞と弓かおりだった。

『あら、雪之丞!!
 ……お連れさんはガールフレンド?
 もうっ、あたしってものがありながら、罪なオトコね』
「……気色悪い冗談かますな!
 マザコン疑惑だけでも十分なんだ、
 ホモ疑惑まで付け足さんでくれ!!」
「マザコンは『疑惑』じゃないでしょ!?
 ……事実ですわ」

 背筋がゾッとする二人だったが、雪之丞は主張すべきことをキチンと主張し、弓は突っ込むべきところを的確に突っ込む。

『……あらあら。
 いい感じの二人ね。
 なんだか妬けちゃうわ』

 再生勘九郎が微笑むが、雪之丞のほうでは、これ以上冗談に付き合うつもりはなかった。
 彼は、真面目な視線で再生勘九郎を睨みつけながら、戦闘に備えてネクタイを緩める。

「……しつこいやつめ。
 『少年まんがって
  強さのインフレ大きいからキライよ』
 じゃなかったのか?
 ……俺もちゃんと『電話すっから』って言ったのに、
 意味が通じねえとはな。
 ああいうのはな、別れ言葉なんだよ」
『……なんのこと?』

 コスモ・プロセッサによる復活後の記憶など当然ないので、再生勘九郎には、雪之丞の言っている意味は分からない。しかし、馴れ合いもここまでなのだとは悟っていた。だから、攻撃の構えを取り始める。
 これに対して、雪之丞も、魔装術を展開した。

「かおり、おまえはそこで見ていろ!
 海底神殿で活躍できなかった分、
 思いっきり暴れてやるぜーッ!!」

 同じ道場で修業した二人が、今、ここで最後の対決を始める!


___________


『おおっ!!
 こ……このカキ氷はっ……!!』

 名水を使い最高の技術で作った氷と、本物の材料と名人の腕で仕上げたシロップ。その両者を活かしたカキ氷は、究極かつ至高の一品である。それを目にした感激の思念が、北海道に一つ、強烈に残留していた。
 今、それが実体化し、再生雪女となる。

『……どういうことよーッ!?』

 もちろん、ここにカキ氷が用意されたのは、現実には遥か昔である。しかし、彼女の感覚では、目の前にあったはずの究極かつ至高の一品が、突然消えたように見えるのだ。そのギャップに憤る再生雪女の前に、

「やはり出てきたか。
 ……今度は負けないよ」

 唐巣神父が現れた。後ろには、弟子のピートも従えている。
 彼らは、美智恵から、魔物復活の可能性を知らされており、ここで雪女を待っていたのだ。

「雪辱戦ですね!!」
「……そうだ」

 弟子の言葉に頷く唐巣。
 以前に雪女と戦った時のことはハッキリ覚えている。あの時、唐巣は、あっけなく心を凍らされたのだ。

「僕たちは海底神殿では
 活躍できませんでしたから!!
 ……せっかく美智恵さんが
 情報をくれたのですから、今度こそ!!」
「……そっちの『雪辱戦』か」

 ピートの言葉にも一理ある。しかし、唐巣にしてみれば『海底神殿』『美智恵』という二つのキーワードは、思い出してはいけない思い出を引き出すだけだった。

「先生……!?
 顔色が悪いですが……まさか!?
 あの雪女、何も言わずに
 いきなり精神攻撃を!?」
「いや、ちょっと体調が悪いだけだ。
 ……気にしないでくれ」
『何をゴチャゴチャ言っているの?
 私のカキ氷を奪ったのはおまえたちか?
 食べ物の恨みは恐ろしいのよ!!』

 なんだか顔面蒼白な唐巣と、勘違いして激怒している再生雪女。
 そして、かつての美神の戦法を踏襲して、液体窒素を持参してきたピート。
 勝者の分かりきった戦いが、今、始まる!


___________


『ん……!?
 滅ぼされたかと思ったのだが……!?』

 この山には、死に際の強烈な未練が一つ、焼きつけられていた。それは、霊体ミサイルの直撃を株わけにより免れ、末端に細菌弾を受けても生き延びたほど、生への執着が強い魔物だった。
 名を死津喪比女と言う。
 今、その残留思念が実体化したのだが……。
 『死に際』の念であることが、彼女に災いする。日頃は地中深くに隠れている彼女の本体だが、死滅した時には地上に出ていた。だから、実体化した場所も、土の上だった。

『おや……!?
 おまえたちは……!?』

 そして、既にそこには、死津喪比女復活を予想した一隊が集結していた。

「先生の言うとおりだったな……。
 『滅んだ地点ズバリに出現する』という点までも」

 西条率いるオカルトGメン部隊である。

『まさか……その鉄砲は例の……!?』

 ちょっと怯える死津喪比女。彼女を取り囲む面々は、皆、ライフルを構えているのだ。

「もちろん細菌弾だ。
 球根本体をさらしている以上、
 もう枝葉を切り落とす策も使えないだろう!?」

 ニヤリと笑う西条の言葉は、死津喪比女にとっては、死刑宣告だった。
 今、御呂地の山中に、銃声が響き渡る!


___________


「あんた毎日こんな遠くまで来てるの?
 ……そりゃあ横島も疲れるわけだわ」
「いや今日は遠慮してるでござる。
 いつもは、もっと遠方まで行くでござるよ!?」

 少し外で時間をつぶすように美神から言われたシロとタマモ。シロは近場への散歩を提案し、タマモはそれに従ったのだった。
 そして、二人は今、山中の川辺に辿り着いていた。

「ここは……先生と出会った頃に、
 一緒に修業したところでござる」

 感慨深げにつぶやくシロは、水面に視線を向けながら、当時の話をする。
 それは……仇討ちのために里から出てきた、幼い少女の物語。
 ポツリポツリと語る彼女は、いつもの陽気なバカ犬とは違う表情をしていた。だからタマモは、長い話の腰を折ることもなく、聞き役に徹する。

「……そうやって修業をしていたら、
 あそこから犬飼のやつが出てきて……」

 と、シロが木々の間を指し示した時。
 そこに、白い影が浮かび上がった。

「……幽霊でござるか!?」
「こういうときって……
 話題の対象が登場するのが御約束なんじゃない!?」

 ハッとしたように、二人は顔を見合わせる。その間にも、影は、徐々にハッキリした形を取りつつあった。
 かつて、ここに焼きつけられた一つの思念。それが、今、亡霊として現れる!

「シロ!
 拙者のところへ来い!」

 再生犬飼、最初の発言がこれであった。どんな残留思念をもとにしているのか、敢えて言うまい。

「……バカ犬、モテモテじゃないの!?
 あんたが複数から言い寄られるSSって
 ……珍しいんじゃない?」

 タマモは、海底神殿でのシロのバトルを思い出して、つい冷やかしてしまう。
 しかし、その直後、彼女は聞いてしまった。シロの頭のどこかが切れた音を。

 ブチッ!

「ふ……ふざけるなーっ!!」

 一瞬ビビったタマモだったが、シロの怒りの矛先は、犬飼である。シロは、霊波刀を全開にして、再生犬飼に斬り掛かっていく。

「ふん、そんなもの……あれ?」

 妖刀八房で迎撃しようとする犬飼だったが、ふと気が付くと、何も手にしていなかった。それどころか、なんだか体がフワフワしている。

「バカ犬!
 冷静になりなさいッ!!」
「な、なにをするでござる!?」

 タマモが後ろからシロに追いつき、その体を羽交い締めにする。

「よく見なさい!!
 ……あいつは悪霊よ!?」
「……え?」

 タマモの指摘に、惚けたような声で応じたのは、犬飼だった。そう、犬飼自身も気付いていなかったが、この再生犬飼は、実体を伴った魔物ではなく、ただの幽霊だったのだ。
 ここに魂が焼きつけられた時点では、犬飼は、まだフェンリルとなってはいない。人狼とはいえ、まだ人間に近かったのだ。だから、ハーデスの力でも再生犬飼を実体化させることは出来ず、茂流田のように悪霊化したのである。
 そこまでの事情は、この場の誰にも分からない。しかし、ともかくシロは、タマモの言葉で冷静さを取り戻したらしい。シロは一言、

「悪霊であれ何であれ、霊波刀なら斬れるでござる」

 と、つぶやいた。
 もちろん、それはタマモにも分かっている。それでも、戦闘状態に突入する以上は、シロに正確な現状把握をさせたかったのだ。

「父の仇、犬飼!
 今度こそ拙者の手で……」

 言いかけたシロの動きが止まる。いや、シロだけではない。タマモも犬飼も感じ取っていた。
 強力な魔物が一体、ここへ向かっている!
 三人が硬直している間に、森がざわめき始めた。小動物たちも、魔の接近を悟ったらしい。
 そして、現れたのは……。

『誰でもいい!! 肉を喰わせろ!!』

 再生フェンリルだった。どうやら、フェンリルとなった後の残留思念も、別のところで復活していたらしい。しかも、フェンリルはすでに魔物扱いだったようで、再生フェンリルは、キチンと実体化していた。

『……ん?
 なんで俺がもう一人いるんだ!?』
「……よくわからんが、俺は幽霊らしい」

 食欲で復活したフェンリルと性欲で復活した犬飼とが、お互いに見つめ合いながら、言葉を交わす。さすがは自分同士、それ以上語る必要はなかった。色っぽくはないが、目と目で通じあう、そういう仲なのだ。
 無言で頷きあった後、幽霊犬飼は、再生フェンリルの中へと吸い込まれていく。若いシロタマに古い奴だと馬鹿にされたわけでもないし、真夜中トイレに恐くて行けないほど弱い幽霊でもないのだが、実体を持たぬまま頑張るのはナンセンスなのだ。

「むむ!
 そちらが合体するなら、こっちだって……」
「ちょっとシロ!?
 なに言い出すの!?」

 ちょっと百合な想像をしてしまい腰が引けるタマモだったが、それは勘違い。

「カモーン! ウルフ・クロース!!」
「なんだ、そういう意味か。
 ……って、来るわけないでしょ!?」

 胸を撫で下ろしながら、タマモが突っ込んだ。だが、

「うわっ!? ホントに来た!?」
「こら、バカ犬!!
 あんたが驚くな!!」

 さすがのクロスだけあって、忠犬の精神が刷り込まれているようだ。遠くから飛来したクロスが、シロの体を覆う。

 かしゃーん。かしゃーん。かしゃーん……。

 例によって例のごとく変形し、シロの外見は、再び、アルテミスシロ中学生バージョン となった!

「これで女神様の力が使えるでござる!!
 犬飼、覚悟ーッ!!」

 余裕のある表情で突撃するシロを見て、タマモは嘆く。

(はあ……。
 バカ犬ったら、落ち着いたどころか、
 調子に乗ってるんじゃないの!?
 ……これじゃ、また私が
 幻術でサポートしないとダメかしら!?)


___________


『貴様だ……!!
 貴様を先に殺しておくべきだった!!』

 その想いの強さゆえ。
 コギャルメドーサは、ここで復活した。
 大気圏突入直前の戦闘を繰り広げた、この宇宙空間で。

『あれ?
 あいつらどこだーッ!?』

 再生コギャルメドーサの主観では、目の前に、横島や美神の乗る宇宙船があったはずなのだ。それが、いつのまにか消えている。

『また貴様の手品か、横島ーッ!!』

 横島が文珠で何かしたのだ。再生コギャルメドーサは、そう考える。
 もしかしたら、目には見えないだけで、まだ、その辺にいるのかもしれない。

『どこに隠れた……!?』

 再生コギャルメドーサは、魔力波を適当にめくら撃ちした。その反動で、彼女の体が少しだけ動く。

『……おっ!?』

 それは、地球から離れる方向だった。
 残留思念が焼きつけられた時間と場所に恵まれており、彼女は、大気圏突入を免れるところで実体化していたのだ。
 さすがに、再生コギャルメドーサも気がつく。下手に動くと、重力の井戸に吸い込まれかねない。そうなったら、摩擦熱でアウトだ。
 しかし、宇宙を長距離移動するほどのエネルギーは、残念ながらなかった。宇宙船なしでは、地球に戻ることも、月まで到達することも出来ない。永遠にその中間をさまようのだ。

『うーん……どうしたものかねえ……』

 腕を組んで片手を顎にあてながら、再生コギャルメドーサは、考える。
 考えて、考えて、考えて……。
 考えてもどうしようもないので、そのうち、彼女は考えるのをやめた。


___________


 一方、美神除霊事務所では、ルシオラの登場で、その場の時間が凍りついていた。
 ようやく硬直がとけた横島は、素直につぶやいてしまう。

「えーっと……修羅場!?」

 三人の女性の視線が、いっせいに横島を貫く。

(私たち捨てるつもりじゃないでしょうね!?
 ……今さら遅いわよ!?)

 と、美神の目は主張しているようだ。

(ルシオラさん復活なんて、幻です!
 偉い人には、わからんのです!
 でも横島さんなら、わかってくれますよね!?
 ……ね!?)

 おキヌのまなざしは、そう懇願している。
 そして、ルシオラの瞳には、

(『修羅場』ってどういう意味!?
 なんで美神さんやおキヌちゃんが
 こんな表情してるのよ!?
 ヨコシマ、まさか……)

 という疑念が浮かんでいた。
 三女性の目力に負け、冷や汗をタラタラこぼしながら、横島が後ずさりする。

「いや……あの……その……」

 しかし、一つの声が、横島を救った。

『美神オーナー、御客様です。
 仕事の依頼のようですが……!?』

 仕事ということで美神が態度を切り替え、つられて他の二人も一時的に気持ちを収める。
 そこへ入ってきた依頼客は、外国人美少女。紫がかった黒髪にあわせたのだろうか、服も深い紫色のワンピース。高貴な色のはずの紫だが、彼女が身にまとうと、なぜか妖しく見える。

(おおっ!?
 きれいなネーチャン!!
 いや、しかし……)

 彼女の妖艶さに、いつものセクハラ挨拶をしそうになる横島だったが、さすがに思いとどまった。ここでそんな行動に出たら、鎮火したばかりの熱々の地に油を撒くようなものだ。

「パンドラと言います。
 実は、生き別れの妹を探して頂きたくて……」

 そう言いながら、女性は、ソファに腰を下ろした。外見のイメージとは裏腹に、豪快な大股びらきで座り込む。ワンピースの下部は丈の長いスカートなので、もちろん中身は見えないのだが、これはこれで刺激的だ。

(……くそうっ!!)

 だが、状況が状況なだけに、じっと耐える横島。
 なお、パンドラのほうには、男を誘惑する意図など全くない。幼き頃に家族も召し使いも全て失い、死の城と化した屋敷で一人暮らしをしてきたゆえ、礼儀作法を知らないだけだった。


___________


「……おかしな話ね!?」

 パンドラが帰っていった後、美神は、少し考えてしまう。
 幼い頃に離ればなれになった妹を探して欲しい。そんな依頼を、警察や私立探偵ではなく除霊事務所に持ち込むのが、まず、奇妙だ。パンドラは、

「妹は霊能力者のはずですから、
 あなたの知りあいの中にいるかもしれません。
 そう思って、こちらに来たのですが……!?」

 と説明していたが、どうも胡散臭い。名前も分からないほど小さい頃に別れたと言い張るくせに、『霊能力者』『間延びした口調』『この世で最も清らかな心をもつ』など、妙に細かい情報も提示したからだ。

『美神オーナー。
 しばらく前に、
 オーナーの御友人の一人に、
 「世界で一番心が清らか」と
 言ったことがあるのですが……』

 考え込んでいた美神に、人工幽霊が声をかけた。いつもは会話にも口を挟まぬ彼だが、さすがに、第三話に描かれた伏線など読者も覚えていないと危惧したようだ。

「ああ……大丈夫よ。
 間延びした口調の女性霊能力者というだけで、
 一人、心当りがあるから」

 美神の言葉に、横島とおキヌが頷く。ルシオラまで頷いている。

「でもねえ!?
 そんなわけないのよ……」

 皆が頭に思い浮かべた人物は、六道冥子だった。しかし彼女は、式神使いの才能から考えても、六道家の実の娘のはず。これが養女であるなら、誰かの『生き別れの妹』だとしても不思議はないのだが……。
 そう考えたからこそ、美神は、パンドラには冥子の名前を告げていない。見当もつかないような顔をしておいたのだ。

「もしかして、パンドラさんって……
 小さい頃に六道家を飛び出した人なのでは!?」

 ここで、おキヌが新説を唱え始めた。
 パンドラも実は六道家の娘であり、本来ならば、式神たちも彼女のものになるはずだった。しかし、小さい頃から式神使いになるために厳しい英才教育をされて、それが嫌で家を飛び出してしまった。六道家では、そんな過去は隠すつもりで、だから突然お姉さんが登場する。
 ……という想像である。
 この説に横島が食いついた。

「そうそう!
 それで、実は冥子ちゃんのピンチを
 いつも影から見守っていて……」
「そうですね!
 だから、美神さんのような友人が
 たくさんいることも知っていて……。
 でも、そんな友情の力に頼ってGSをやるのは危険だから、
 ここで真の友情の力を説くために出現したんです……!!」

 横島とおキヌが二人で話をふくらませていくが、

「あんたたち……漫画の読み過ぎ」

 美神、バッサリこれを切り捨てる。
 実は、この時、横島は、

(そんなこと言わずに、
 もっと議論しましょうよ……。
 せっかく雰囲気が落ち着いたんスから!)

 と考えていたりする。
 修羅場発言やルシオラの件をうやむやにするために、何でもいいから話を続けていたいのだ。失言はともかく、ルシオラに関しては『うやむや』には出来ないのだが、そこまで頭は回っていない。
 そして、

「とりあえず……これは、
 また後で考えるとして。
 ……話を戻しましょうか!?」

 美神のバックにブリザードが吹きそうになった瞬間。

 プルルルルルルルッ。

 近くにいた美神が、受話器をとった。

「……ああ、ママ。
 今ちょっと取りこんでるんだけど……。
 えっ……!?
 日本中で魔物が復活!?」


___________


『やっぱり間違いないのね』

 ヒャクメがつぶやく。
 自慢の百の感覚器官とトランクから伸ばしたコードでルシオラを調べた結果、彼女は、ハッキリと確信を持ったのだった。

『美智恵さんの予想どおりだわ。
 このルシオラさんは、ニセモノなのねー!』
「はあ!?」
「……えっ!?」
「どういうことっスか!?」

 無言で納得した表情をする美智恵とは対照的に、美神・おキヌ・横島の三人は、驚きの声を上げた。ルシオラ当人は、ショックで声も出ないらしい。
 一同は、今、オカルトGメンビルの一室にいる。電話で状況を話し合う中で、ルシオラを検査するべきだと見解が一致、わざわざヒャクメにも来てもらったのだった。

『今の彼女は純粋な魔族じゃなくて、
 神気が混じってるのねー』
「……冥王ハーデスの神気ですね!?」

 説明を補足するヒャクメに対して、美智恵が、聞き返す形で『ハーデス』の名前を出す。
 残念ながらヒャクメには、そこまで断定することは出来なかった。しかし、美智恵がその名を告げたことで、美神は、事態を理解する。

「焼きつけられた魂を……
 ハーデスが無理に実体化させてるのね」

 その言葉で、横島も真相に気がついた。だから彼は、悲しげな表情でルシオラに尋ねる。

「ルシオラ……。
 事務所に来る直前、何をしていた!?」
『何って……二人で夕陽を見てたじゃない!?
 ……ねえ「ニセモノ」って、どういう意味!?
 ちゃんと説明してよ、ヨコシマ!』

 取り乱しながらも、質問に答えるルシオラ。
 一方、横島は、彼女の返事から、『今のルシオラは、二人が甘い生活を送っていた時期のルシオラだ』と悟ってしまった。そんな彼女に真実を伝えるべきかどうか悩む彼の横で、

「あなたは……
 強い残留思念から生まれた
 魔物の幽霊のようなものです。
 本物のあなたは……もう、
 この世にいないのよ」
「……!?」

 美智恵が、ズバリと事実を告げる。さらに、小さく震えているルシオラに対して、分厚いファイルを差し出した。

「オカルトGメンに保存されている公式リポートです。
 これを読めば『本物のあなた』が
 どのように生き、どのように死んだか
 ……よくわかるはずだわ」


___________


 ルシオラの目の前には、『リポート288〜349』と書かれた一冊のファイルが置かれている。
 そして、今、この部屋にはルシオラしかいない。
 公式リポートを読む邪魔にならないよう、敢えて、彼女一人にしてくれたのだ。
 しかし、いくら魔族とはいえ、

「おまえはすでに死んでいる」

 と聞かされた以上、ルシオラの心の中は穏やかではなかった。嵐や大波で荒れ狂っていながら、それでいて、何も出来ないような脱力感もある。
 しばらくは、ただ、ジッと座っていた。

『ヨコシマ……』

 無音の室内が嫌になり、無意識で開いた口からこぼれたのは、愛しい男性の名前。
 その名が、彼女の力を、少しだけ回復させる。
 ルシオラは、ファイルに手を伸ばして、それを読み始めた……。


___________


 ルシオラがリポートを読んでいる間、美神・横島・おキヌの三人は、別室で待機していた。
 三人それぞれバラバラの椅子に座り、何か考え込んでいる。
 神魔上層部にも報告する必要があるのだろう、ヒャクメは、サッサと帰っていった。だから、この部屋にいるのは、三人以外では、美智恵だけだ。
 ヒャクメのように心を覗けるわけではないが、それでも美智恵は、三人の表情を読もうとする。若者の顔を順々に見渡すうちに、娘の美神と目が合ってしまった。
 険しい表情のまま、美神のほうから口を開く。

「……で、ルシオラが自分の現状を理解したとして。
 その後は……どうするの!?」
「そうねえ……」

 とりあえずは曖昧な返答をした美智恵だったが、二人の会話を聞きつけて、横島がハッとする。

「まさか……!?
 悪霊として除霊処分……!?」

 横島とて、ルシオラに対してどう接するか、心を決めたわけではない。だからこそ色々と考えてしまうのだが、それは『復活したルシオラが、身近にいる』という前提の上だ。今の今まで、処分される可能性は考慮していなかったが、美智恵が口ごもったことで、突然、その可能性に思い至ったのだった。

「そんな……!!
 悪意はないんスから
 殺す必要なんて……!!」
「横島さん、落ち着いてください!」

 ガタッと椅子から立ち上がる横島に、おキヌが駆け寄ってなだめる。
 一方、慰め役はおキヌに任せたかのように、美神は動かない。
 そんな娘を見て内心でため息をつく美智恵だが、それを顔には全く出さなかった。

「安心しなさい、横島クン。
 ハーデスに操られている可能性もゼロじゃないけど
 ……あの様子なら大丈夫でしょう。
 だから、しばらくは令子のところにおいて
 様子を見るという形になると思うわ」
「はあっ!?
 なに勝手に決めてるのよ!?」
「あら、アシュタロスの一件のときも
 そうしたじゃないの!?」
「あの時と今とじゃ状況が違うわ!
 うちには、シロもタマモもいるのよ!?
 ムツゴロウ王国じゃないんだから……」

 そうやって言い合いながら、美智恵は、スーッと美神に近づく。そして、耳元でソッとささやいた。

「……しっかり見張っておくべきでしょう?
 ようやく付き合い出したのに、
 元カノにとられちゃうわよ?」
「ちょっと、ママったら……!」

 美智恵としては、状況を利用して、軽くハッパをかけただけだ。だが、まだ横島の恋人になった実感のない美神は、これだけで少し赤くなってしまう。
 続いて美智恵は、横島の方に向き直り、

「横島クン。
 本物のルシオラは、将来、
 あなたの子供として生まれてくるのよね!?
 だから、ニセモノのルシオラに手出しちゃ駄目よ。
 ……そんなことしたら、近親相姦よ」

 と、釘をさした。
 ルシオラの転生は確定事項ではないが、そこは敢えてスルーした上で、美智恵は続ける。

「『両手に花』までは許しても
 『ハーレム』は許しませんからね?
 ……あなたの義母の一人として」

 三人で付き合っていくという関係の異常性は、美智恵だって理解している。三人の絆の深さゆえに、美神もおキヌも決心したのだろう。だからこそ、他の女性を割り込ませるわけにはいかない。美智恵は、そう思っていた。

「あなたの実母は『両手に花』も
 許さないかもしれないけど……」
「……!!」

 横島の顔色が変わった。絶望という字が浮かんでいる。

「あなたが、二人を誠実に愛して、
 決して浮気しないというなら……。
 百合子さん説得には、私も力を貸しましょう」
「……!!」

 また横島の表情が変化した。今度は希望である。
 そんな彼を見て、美智恵は思う。

(さすがに百合子さんの名前は効果あるわね。
 これだけ言っておけば、もう大丈夫でしょう)


___________


 一方、ひとり読書に励むルシオラ部屋。
 なぜかリポートはコミック形式で書かれていたので、全部読み終わるのに、さほど時間はかからなかった。
 リポートの始まりは、魔族三姉妹が雪之丞たちを襲撃したところだ。アシュタロスとの長期戦を経て、ルシオラが子供として復活する可能性を知った横島が美神に飛びかかる場面で終わっている。

『……ヨコシマらしいわね』

 最後のシーンではクスッともしたが、あらためて全てを振り返ってみると、とても笑える内容ではなかった。
 パピリオの鱗粉攻撃と、ベスパからの一撃。横島は、二度も死の淵をさまよっているのだ。しかも後者は、ルシオラと横島の意思疎通がねじれた結果である。
 ルシオラは、あらためて、その部分のファイルを開いてみた。
 美神の魂をゲットしてしまったアシュタロスを何とかするのは、やはり横島しかいない。そう思って、横島を美神救出へと向かわせ、ルシオラ自身は死ぬ気でベスパと対峙。しかし、ルシオラを死なせられない横島は、二人の戦いに乱入、致命傷を負う。そんな彼を助けるために、今度はルシオラが、命を投げ出す。
 お互いに、相手を救うためには、自分の命はどうなってもいいのだ。

『でも、それは「自分の命」だからなのね……』

 その後、横島は、アシュタロスから、ルシオラを復活させるプランを提示される。仲間や全てを犠牲にすることが条件だったが、もちろん、それを受け入れる横島ではなかった。

『それでこそ……私が惚れたヨコシマだわ』

 恋人は大切であるが、だからといって、それが全てではない。恋人が出来たからといって、価値観が曇るような男ではないのだ。

『そして、そんなヨコシマと付き合ったから……
 短い期間だったけど、私も成長できたのね』

 リポートにもルシオラの記憶にもあるように、基地で横島と過ごしていた頃のルシオラは、

『どうせ私たちすぐに消滅するんじゃない……!!
 だったら!!
 ホレた男と結ばれて終わるのも悪くないわ!!』

 と言うほど、想い詰めていたのだ。
 ところが、同じルシオラが、例のベスパとの戦いの頃には、

『私、おまえが好きよ。
 だから……
 おまえの住む世界、守りたいの』

 というように、横島と結ばれることではなく、世界を救うことを第一に考えている。しかも、リポートに描かれている当時のルシオラ……『おまえは美神さんのところに行ってあげて!』と言っているルシオラの表情は、妙に清々しかった。
 これは、今のルシオラ……東京タワーデート時点から復活したルシオラには、頭では理解できるものの、実感は出来ない。今のルシオラの中には、横島との幸せを最優先したい気持ちがある。
 しかし、それではいけないのだ。そんな自分では、彼のそばに居続けることは出来ない。
 そう思って、ルシオラは決意する。

『だから、私も……』

 そして内線電話に手をのばした。


___________


「ルシオラ……?」

 横島が、ルシオラのいる部屋に入ってくる。一人で来て欲しいと内線で呼び出されたからだ。
 優しい笑顔で彼を出迎えたルシオラは、ズバリと要点を口にする。

『ヨコシマは、どうしたいの?』
「どうって……何が? 何を?」
『私たちの関係のことよ』

 これは、横島にとっては難しい質問だった。
 ルシオラが死んだ直後は落ち込んでいた横島だが、その後、何とか、ふっ切ることが出来たのだ。すでに、ルシオラのことは、将来生まれてくる娘として愛する気持ちになっていた。だからこそ美神やおキヌと付き合い始めることも可能なのだが、そんな今になって、ラブラブだった時期のルシオラが復活してきたのである。もう『あなたの来るのが遅すぎたのよ。なぜ、なぜ今になって現れたの?』と言いたいくらいの心境である。
 それでも……。
 ルシオラを『娘』ではなく『恋人』として愛するのは、難しいかもしれないが不可能ではない。この世界がルシオラの犠牲の上で成り立っていると思う横島だからこそ、ルシオラの気持ちが最優先だと考えてしまう。

「ルシオラ……今のおまえは
 東京タワーで夕陽を見た頃のルシオラなんだよな?
 だから……ルシオラが、
 その頃のような関係を望むというなら……」
『無理しないで』

 横島の言葉は、ルシオラに遮られた。

『私は……
 ヨコシマがどうしたいのかを聞いたのよ!?
 おまえの気持ちを知りたかったのよ!?
 それなのに……。
 そんな苦しそうな表情で
 「付き合おう」なんて言われても
 ……ウンとは言えないわ』
「ルシオラ……」
『私への負い目なんでしょう?
 ただそれだけで……
 美神さんやおキヌちゃんを裏切るつもり?
 でも……自分の心まで裏切らないで!
 私……
 私に本気じゃないヨコシマとは付き合えないわ』


___________


『……というわけで私は
 「娘」というポジションに納得することにしました』

 美神やおキヌも部屋に呼んで、ルシオラが宣言する。
 女のバトルも覚悟していた美神にしてみれば、やや拍子抜けする言葉でもあった。

(だけど今はそれで良いとしても
 将来ホントに転生体が子供して生まれてきたら
 ……どうするつもりかしら?
 あるいは、子供に転生なんかしなかった場合は?)

 美神は、そこまで考えてしまう。だから、これは一時的休戦にすぎないのだと受け止めていた。
 一方、おキヌは、ルシオラの表情から、恒久的な決意を読み取っていた。

(今回は千年も待ってたひとにゆずってあげる)

 と、顔に書いてある気がするのだ。
 しかし、これはこれで、おキヌとしては微妙な心境になってしまう。

(ルシオラさん……。
 私のこと、無視しないでくださいね!?)


___________


 ともかくも、ルシオラを事務所メンバーに加えることにして、四人で帰る美神たち。
 すでに夜になっており、事務所には、シロやタマモも戻っていた。
 来客も一人いたのだが、まずはシロが、

「先生……!!」

 嬉しそうにシッポを振りながら、横島に飛びつく。報告したいことがあるのだ。

「拙者、犬飼を倒したでござる!!」
「……私の助けがあったからじゃない」

 タマモのつぶやきに、シロがキッと反応する。

「助けじゃないでござる!!
 タマモは邪魔しただけでござる!!」
「はあ!?
 あんた何言ってるの!?
 あれは……」
「二人とも黙りなさいッ!!
 詳しいことは後で聞くから!」

 言い合いを止めたのは、美神の一喝だった。
 御客様の前で見苦しい姿を披露したくない。
 ……なんて気持ちからではない。今いる『御客様』は、そんなに気を遣う必要もない相手だ。ただし、その用件は重いだろうと想像がつく。
 今、ソファに座っている客は、小竜姫なのだ。

(やっぱり……例の『聖戦』関連なんでしょうね)

 前々回に小竜姫が来たのはセイントの内乱の際で、前回は、ポセイドン戦の件だった。ルシオラの復活も考慮すれば、今回はハーデスの話だと容易に推測できる。

(お金はガッポリもらわないとね)

 小竜姫の依頼は、いつも金払いが良い。だが、美神は、ポセイドン戦では金銭的に不満が残った。大事なおキヌがエラい目にあったというのに、その賠償金をどこからも貰えなかったからだ。
 ポセイドンが取り憑いていたジュリアン・ソロに当時の記憶がない以上、ソロ家に請求するわけにはいかない。小竜姫から十分な依頼料は受け取ったものの、それでも、釈然としない気持ちが残っていたのだ。
 美神は、ポセイドン戦のおかげで、お金よりも大切な『恋人』を獲得している。だから実は、心の奥底では、おつりが出るくらいに満足していた。しかし、それを認めるほど素直になれない美神でもあるのだ。
 一方、美神の隣にいる横島は、

(ハーデスの件だよな!?)

 と考えて、身構えている。
 横島にとって重要なのは、ルシオラがハーデスの力で復活したということだ。ハーデスを倒したり封印したりしたら、ルシオラが消えてしまう。それが心配なのだ。
 そんな二人の横で、おキヌは、

(ワイワイガヤガヤできる雰囲気じゃないですね。
 邪魔にならないようにしなくちゃ……)

 と、部屋の空気を察していた。だから、気をきかせる。

「えーっと……。
 シロちゃんたちは、
 ルシオラさんとは初対面よね?
 紹介するわね……」

 シロもタマモも、ルシオラを知らない。しかし、これからルシオラも事務所に居候する以上、それなりの顔合わせは必要だ。そんな名目で、三人を別室へ連れて行く。
 これで、部屋に残されたのは、美神・横島・小竜姫の三人。
 対面に二人が座るのを待ってから、小竜姫が口を開いた。

『御存知かもしれませんが……。
 ハーデスが動き始めました。
 各地で魔物を復活させ、
 地上を騒がせているのです』

 美神と横島が頷くのを見て、小竜姫は、説明を続ける。
 確認できただけでも、再生デミアン・再生ベスパ・再生勘九郎・再生雪女・再生死津喪比女が出現したが、それぞれ、パピリオ・ベスパ・雪之丞・唐巣とピート・西条に倒されたということ。
 ギリシアでは、ハーデス配下のスペクターとアテナ配下のセイントが激戦を繰り広げたということ。

「……で?
 私たちに何をさせたいの?
 前々回のパターン!?
 それとも……前回のパターン!?」

 ギリシアまで乗り込み、スペクターとセイントに死者が出ないようにするのか。
 あるいは、元凶であるハーデスを直接叩けというのか。
 そのどちらかであろうと美神は考えたのだが……。

『いいえ』

 小竜姫は、首を大きく横に振った。

『私は「仕事を頼む」なんて言ってませんよ!?』
「……は?」
「じゃあ、何しに来たんスか!?」
『聖戦終了の報告です』

 全く予想外の言葉が、小竜姫の口から出てきた。

『たしかに、まだ、どこかで
 暴れている再生魔族はいるかもしれません。
 でも「聖戦」そのものは終わったんです。
 ……つい先ほど、ハーデスの自滅という形で』

 そして、小竜姫は語り出す……。


___________


 今日の夕方の出来事である。

「次は……ここだな」

 美神除霊事務所をあとにしたパンドラは、資料と地図を手に、六道家を目指していた。
 実は、美神に『妹』探しを依頼したのは、半分は口実。依頼という形で若い女性GSと接触するのが、真の目的だったのだ。
 魔物の大量復活に応じて、無名だが力ある女性GSも出てくるだろう。しかし、有名どころは、パンドラみずから出向いて対面すれば良いのである。いくら幼い日の記憶が不確かとはいえ、直接顔を合わせれば分かるという自信はあった。
 現代の日本で、年齢的に可能性がある一流GSは、美神令子・六道冥子・小笠原エミの三人だ。日本に来たばかりで少し時差ボケ気味なパンドラだが、この三人のところくらい、今日だけで回れると思っていた。

「……大きな屋敷だな」

 六道家の前まで来たパンドラは、昔の記憶を少し思い出した。ハーデスの器となるべき女性は、お嬢様っぽい雰囲気をただよわせていたのだ。

「では……六道冥子こそが!」

 探し求めていた女性に、ようやく出会える。なんだか胸がドキドキしてきたパンドラの耳に、邸内の庭を駆け回る女性の声が聞こえてきた。

「今日も〜〜みんなで鬼ごっこね〜〜!!」
「お許し下さい、お嬢様!!
 こう毎日毎日では、私の身が保ちません!」
「イオくんも〜〜式神使っていいから〜〜」
「何度も言っているように、
 あれは式神じゃないんですよ……」

 会話の内容はともかくとして、その独特の口調には、ハッキリと聞き覚えがあった。
 間違いない!
 やはり、六道冥子の肉体こそ、目当ての物だったのだ!!

「ついに見つけました……!!
 早く来てください、
 ハーデス様ーッ!!」

 顔に愉悦の色まで浮かべながら、パンドラが咆哮する。
 その叫びに応じて、やってきたのは……。

「ちょっと署まで来てもらおうか!?」

 近くの警察官だった。
 金持ちの屋敷の門前で絶叫していたのだから、パンドラが不審者扱いされたのも無理はない。

「えっ!?
 何……!? どういうこと……!?
 ワタシ、ニホンゴ、ワカリマセン」
「急に片言になってもダメだぞ。
 さっきまで普通に日本語喋ってたじゃないか」
「ワタシ、ホントニ、ガイコクジンナンデスヨ!?」
「騙されんぞ。
 表記はカタカナでも、
 発音は流暢な日本語じゃないか」

 そうやってパンドラが連行されていった後。
 日も沈んですっかり暗くなってから、ハーデスの魂が、ようやく、その地に到着していた。

『……ん?
 パンドラはどこだ……!?
 それと……余の肉体は!?』

 魂だけなので、邸内に入り込むのも簡単である。勝手に探し回るハーデスは、いまだに庭で遊んでいる二人組を見つけた。

「イオくん〜〜ずるい〜〜!
 逃げちゃいや〜〜!!」
「無理を言わないでください!
 これ、鬼ごっこですから!!
 しかも、つかまったら式神の一斉攻撃ですから!!
 ……逃げるのも当たり前です!」

 御令嬢と従者の、軽い戯れである。馬になりなさいと言われないだけ、まだマシである。

『ふむ……これが
 日本名物のバカップルというものか……』 

 ちょっと勘違いしながら、ハーデスは若い男女を眺める。異形の生き物も周囲を飛び回っているが、若さ故の何とやらだと思って、普通に認めていた。
 そうやって見ているうちに、男が異形の生き物たちに捕まって、ボコボコにされてしまう。すると、女は、男を膝枕しつつ、異形の中の一匹に、男の顔をなめさせ始めた。

『……なんだかマニアックなスキンシップだな!?』

 と、もはやデバガメ状態のハーデスがつぶやいた時。
 その一匹以外の異形たちが、女の影の中にスーッと引っ込んだのだ。

『なるほど……。
 さすがは余の肉体!!
 アクセス方法まで用意されているとは!!』

 ハーデスが覗きをしていたのは、冥子が『器』であることを確かめるためだ。近くから観察することで、式神を操る霊力も感じ、また、純真無垢な精神の片鱗も見せてもらった。

『その肉体……余のものとなるのだ……!!』

 やや危険な発言をしつつ、冥子の影へと潜り込むハーデス。冥子の体を求めて、影の中を徘徊する。
 ここで冥子が体をビクンとでもさせれば微エロなのだが、あいにく彼女は、全く気がつきもしない。
 そして、ハーデスは、

『あれ……!?
 影と肉体……つながってない!?』

 何かおかしいと勘づき、影から出ようとするが、時すでに遅し。
 ……もう出られなくなっていた。


___________


『……というわけで、
 ハーデスは冥子さんの式神の一つになりました』

 小竜姫が話を締めくくる。
 聞いている二人は、目が点になっていた。

「……出られなくなったんじゃないの?」

 口を開いた美神は、それでも冷静に、ポイントとなる点を質問した。
 冥子の影の中に閉じこめられるのと、式神として使役されるのは、似ているようで大きく違うのだ。
 かつて冥子の影に閉じこめられた横島が、隣で黙って頷いていた。
 二人を見て苦笑しながら、小竜姫は説明する。

『冥子さんのコントロールのもと、
 一時的に外に出ることは可能なようです。
 だから……式神扱いなのです』
「冥子の霊能力が凄いのは分かってたけど
 ……神さま制御しちゃうほど大きかったの!?」
『ハーデスは特別なんです。
 ヒャクメたちの調べで分かったのですが……』

 神魔上層部では、冥子の肉体がハーデスの器として選ばれたことまで、調べあげていた。だから冥子とハーデスには、特別な相性があるらしい。ハーデスの不幸は、冥子に式神使いという特殊な能力があったことなのだ。
 その説明で一応は納得する美神だったが、横島は、一つの可能性に思い当たった。

「ちょっと待ってください!?
 もし冥子ちゃんがコントロールを失ったら、
 式神ハーデスは……!?」

 三人の頭に浮かんだキーワード、それは『暴走』。

『えーっと……。
 暴走しそうになったら
 ……うまく止めてくださいね?』
「むちゃ言わんでください!!」
「あんた神さまでしょ!?
 なんとかしなさいよ!!」

 冷や汗を流しながら言葉をぶつけあう三人であった。


___________


『あ、ひとつ言い忘れていました。
 アテナは神さま辞めましたから』
「……は!?」

 しばらく不毛な言い争いをした後、小竜姫が話題を切り替えた。
 聖戦終了に関する大事な点である。
 ポセイドン相手でもハーデス相手でも、アテナ沙織は、役に立たなかったと自覚していたらしい。しかし、駄女神という愛称も自分には似合わない。そう思って、みずから神の地位を返上したのだ。
 神魔上層部も了承し、今夜から沙織は、『人間』に変わっている。

『……というわけで、
 ポセイドン・ハーデス・アテナと、
 神族の勢力はそれなりに削れました。
 これで今回の「聖戦」は終了となったのです』

 一見、理屈は通っているようだが、美神には疑問が残った。

「こんなんでバランス補正されたの?
 ギリシア神話の神々って他にもいるんじゃない?」
「そうっスよ!?
 邪神エリスとか太陽神アベルとか
 全能の神ゼウスとか……!?」

 横島も、美神に追従する。なんだか列挙した神々の名前が偏っているようだが、気のせいかもしれない。

『うーん……私たちも心配なんですが、
 一応、「上」がそう判断したので……』
「『上』って、神魔上層部のことよね?
 まさかダメなss書きが
 続編や映画版まで手を広げる度胸が無いから、
 ハーデス編で終わりってオチじゃないわよね?」
『は……!?』
「まあいいわ、今の一言は忘れて」
「さすが、美神さんっスね。
 アシュタロスとの戦いの後で
 ギリギリの発言をしただけあって、
 今回も……」


___________


「……そんな話だったんですか?
 美神さん、それは
 ギリギリじゃなくてアウトですよ!?」

 横島と美神から話を聞いたおキヌは、苦笑してしまう。
 小竜姫が帰った後、彼らは六人での夕食をすませた。それから、シロ・タマモ・ルシオラは、今夜から三人で使う屋根裏部屋へサッサと上がった。だから、ここで食後のティータイムを楽しんでいるのは、美神・横島・おキヌの恋人トリオである。
 しかし、『恋人トリオ』と言っても、愛を語らうわけではない。話題にしていたのは、小竜姫の聖戦終了報告だった。

「……まあ、それはともかくとして。
 明日から忙しくなるわよ!?」

 聖戦が終わったとはいえ、ハーデスが滅亡したわけではない以上、地上に復活した魔物は、消えはしない。ルシオラのように悪意のないものは残しておけるが、悪い魔族は、各個撃破する必要があるのだ。何人かは既に倒されているが、まだ生き残りも大勢いるはず。ただし、こちらからボランティアで倒しに行かずとも、それぞれ『仕事』として舞い込んでくるだろうと、美神は予測していた。


___________


「……これでいいんスかね!?」
「なに言ってるの!?
 ……ほら、動きなさい!
 モタモタしてると遅れるわよ!!」

 ルシオラが来た激動の一日から、すでに数日が過ぎている。
 美神の推測どおり、あれ以来、じゃんじゃん依頼が入っていた。
 今夜も、チンケな魔物退治のため、新宿副都心に来ている。ただし、私鉄沿線を少し歩いた辺りなので、都心とは言えないくらい閑散としていた。また、地形も平坦ではなく、起伏が激しい場所だ。
 なお、今夜の敵は小物のようだが、それでも、フルメンバーで対処している。六人を二人ずつに分けて、三チームで行動しているのだ。
 美神と横島は、これから、坂を上るところだった。坂の上に、シロ・タマモのチームが東側から、ルシオラ・おキヌ部隊が西側から、それぞれターゲットを追い込む予定である。
 それまでに、もう少し上の地点までは行っておく必要があった。

「まだ『聖戦』のこと考えてるのね!?
 バッカねー横島クン!!
 そんなに色々心配してちゃ、
 仕事も人生も楽しめないじゃん!!」

 結局、『聖戦』を通じて、美神たち三人は、親友から恋人に変わったのだ。さらに、美神除霊事務所にも、ルシオラという強力なメンバーが加わった。考えようによっては、いいこと尽くめである。

「結果が良ければ、それでいいじゃない。
 私たちの信条は…… 現世利益最優先!!

 そう宣言した美神は、神通棍を握りしめて、走り始めた。彼女に遅れないよう、横島も後ろからついていく。

(そうだよな……。
 とりあえず、今は目先の仕事!!)

 横島は、チラッと横の石碑に目をやり、この坂の名前を確認した。

「たしかに、
 急がないと間に合わないっスね。
 なにしろ……
 俺たちは二人とも、
 まだ登り始めたばかりっスから!
 この果てしない『自井江須坂』を……!!」


(神々の迷惑な戦い・完)


______________________
______________________


 この作品に最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
 冥子をハーデスの肉体役に設定した時点で、式神エンドは決めていました。ですから、ハーデス編の長短は、ハーデスと冥子がいつ出会うかにかかっていたのです。再生魔族という設定を出した以上、話を長々とふくらませるのは簡単なのですが、ここで敢えて終わりとしました。もったいないオバケが出そうな状態で終わらせてこそ、車田作品とのクロスオーバーになると思ったからです。なにしろ、私は「リアルタイムで読んだ車田作品は『男坂』『聖闘士星矢』『SILENT KNIGHT翔』」という世代です。あの最終回の衝撃を少しでも再現しようという試みでした。
 そんな結末にあわせる形で、提示したそれぞれの戦いも、詳細を書かずに終わらせました。『星矢』でも冥界編では、名乗りすらせずに死んだ冥闘士もいましたし、いつのまにか冥闘士は全滅していた感じでした。そうした部分も意識した上での『詳細を書かず』です。
 なお、この『神々の迷惑な戦い』という作品は、昼寝中に見た夢をベースにしています。当時、初めてのGS二次創作長編の最終回近辺を書いていた時期であり、書き疲れて昼寝したという状況だったので、夢の中でも『GS』ばかり考えていたのでしょう。ただし『星矢』がどこから湧いてきたのかは、自分でも分かりません。そんな朧げな夢から飛び出した作品が、完結までこぎ着けたこと、嬉しく思っています。
 このサイトに投稿させていただく長編は、次もクロスオーバーになりそうです。しかし、今度はクロス先のキャラクターも大勢出す予定なので、よろず掲示板のほうに投稿する予定でいます。そちらで私の作品を見かけたときには、よろしくお願いします。
 最後もう一度。本当にありがとうございました。
 

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