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「光と影のカプリス 第144話(GS)」

クロト (2008-04-04 19:38/2008-04-04 19:48)
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 横島と雪之丞が同時に駆け出し、一気に間合いが詰まる。互いの顔を見据えて、渾身の右ストレートを繰り出した。
 2人とも普通の人間を思い切り殴ったら即死間違いなしの打撃力を持っているが、横島の頑丈さと雪之丞の防御力はそれこそ人外じみたものなので遠慮する必要はなかったのだ。
 中空で拳が交差し、激しい打撃音が2つ響き渡る。

「んぎゃぁっ!」

 その激突で雪之丞はわずかによろめいただけだが、横島は数メートルほども吹っ飛ばされていた。河原をごろごろと転がって、全身土まみれになってようやく止まる。相打ちのように見えたが、受けたダメージは全然違うようだ。

「っく、痛ってぇ……」

 それでもすぐに上体を起こして、片膝をついた姿勢で唇ににじんだ血を手の甲でぬぐう横島。やはりとんでもないタフさだった。
 2人の霊力はほぼ互角で、腕力は横島の方が上だが腕の突き出し方とか腰の入れ方といった技術面は雪之丞が勝っている。拳そのものは横島の方が硬いから総合的には彼のパンチの方が威力はあるのだが、雪之丞の拳が先に当たったため横島のパンチはほとんど効果を現さなかったのだった。
 もし横島の技が「栄光の手」だったなら剣型に変形できるから逆に一方的にぶっ飛ばすことができたのだが、「竜の手」ではそういう芸当はできないのだ。

「さて……次はどう来る?」

 雪之丞は言わば1点先取といったところだが、油断はまったくしなかった。あの横島がそういつまでもこんなバカ正直なガチンコ勝負を続けてくれるはずがないからだ。ましてや技量で勝る相手に向かって。
 しかし意外にも、横島はまだ拳での戦いに未練があるようだった。

「やるじゃねーか雪之丞。しかし小竜姫さまに授かったこの拳にかけて、次はぜってーまともに入れてやる」

 と例の竜鱗をまとった拳を胸の前にかざしてみせる。雪之丞は少し驚いたが、それはそれで彼の望むところである。

「上等だ、何回でも来やがれ! 正面から受けて立ってやる」

 と改めてファイティングポーズを取る雪之丞。横島はそうと見定めると、特に策を弄することもなく突貫していった。

(ハッ、俺だってそこまで無鉄砲じゃねーぞ!?)

 自分の頑丈さを過信したか、それとも新技を手に入れた嬉しさでトチ狂ったか。と雪之丞は横島を侮ってあえて霊波砲では迎え撃たず彼が格闘の間合いに入ってくるのを待ったが、それはやはり間違いだった。横島はその間合いに入る1歩手前で、大口を開けて思いきりオレンジ色のガスを吐き出してきたのだ!

「チッ!」

 顔の前にぶわっと広がる麻痺ガスに雪之丞は舌打ちしたが、もう遅い。こんな単純な言葉のトリックに引っかかってしまったことを後悔しつつ、とっさに両腕をあげて顔面をかばう雪之丞。腕が痺れることより前が見えなくなったのが痛かった。

「見せてやる、横島の拳をーーーー!!」

 そして雪之丞が横や後ろに飛びのく前に、横島は全力で地を蹴ってガスの中に飛び込んでいた。彼自身はこのガスに耐性があるので、その中で戦っても平気なのだ。
 体ごと叩きつけるようなハンマーフックが雪之丞の胸板を直撃する!

「ぐぅおっ……!」

 もちろんただのパンチではなく、フルパワーの霊力がこめられた強烈な一撃だ。今度は雪之丞の体が宙を舞い、さっきの横島と同じように土の上を転がった。

「うっしゃああっ! 同じ攻撃と思わせてその隙を突く俺の頭脳と度胸の前に、じょしこーせーたちはドッカンじゃー!」

 と横島は何やらたわけた事をほざきつつギャラリーの方に顔を向けたが、女性陣の反応は当然ながらいたって冷めたものだった。

「うわ、えげつな……」
「確かにウソはついてないし、武器とかを使ったわけでもないけど……」

 正面から格闘を挑むと見せかけて目潰しをくらわすなど、あまりにも卑劣なやり方である。以前カリンが「卑怯者が女にもてると思うか?」と言っていたように、弓たちは横島の作戦にドッカンするどころか思い切り反感を抱いていた。
 横島には彼女たちの会話は聞こえていないが、その表情や雰囲気から自分が非難されていると察して、

「い、いーじゃねーかよこれくらい! 俺はこーしてタイマンでやってるだけでも十分……!」

 単に勝てばいいのなら、たとえばカリンに金縛りをやらせて自分は後ろからボコるとか、えげつない手はいくらでもある。それをあえて男らしく1対1で勝負しているというのに、この娘っ子たちはいったい何が不満なのだろうか。顔だったら似たようなものだと思うのだが。
 しかし横島の青年の主張は、雪之丞がむっくりと起き上がる気配で中断させられる事となった。

「……の野郎、やってくれるじゃねーか……!」

 今のは効いた。へこまされた魔装は一応修復したが、体に残ったダメージは浅くない。破術の法には耐えられる自信があったが、この技にはそう何発も耐える事はできないだろう。あの麻痺ガスも、さっきは横島が殴り飛ばしてくれたおかげで浴びた時間が短かったからもう痺れは取れているが、もし何かのはずみで長時間浴び続けるハメになったら指1本動かせなくなりそうな、つまり自分の負けが決定するほどの威力があった。
 ―――だからこそ面白い。

「やっぱり俺の見立ては正しかったな……くくくっ、ゾクゾクしてきたぜ……!」

 もはやただの組み手とは思えない過剰な闘志がこもりまくった眼光で横島を睨みつける雪之丞。まさに手負いの猛獣だったが、むろん横島はこんな危険物とまともにかかわってはいられない。

「じゃ、そゆことで」

 といきなりしゅたっと手を挙げて、対戦相手に背を向ける。雪之丞も弓たちも思わずずっこけたが、横島はそのままさらに半回転して右手を横に振り回した。

「……ッ!?」

 何かを投げるような動作だったが、実際に飛んで来る物は見当たらない。しかしその直後、雪之丞は風船が鼻に当たって割れるような感触を覚えた。
 それだけなら別にどうという事もないが、割れた何かから吹いてきた風が目に入ってはたまらない。

「痛ぅっ!?」

 反射的に目をつぶり、手で顔を覆う雪之丞。そこへ横島が今度は無言で飛びかかる。

「ちぃっ!」

 しかし雪之丞もさる者、2度も似たような手にひっかかりはしなかった。今度はすぐ斜め後ろ上方に飛び上がって難を避ける。逃げられた横島は追いかけはせず、地上にとどまったまま軽く舌打ちして仕切り直しのつもりなのか1歩さがった。

「あれは……空気の弾よね、たぶん」

 遠藤はあれでスカートをめくられた事があるから、技の正体はすぐ想像がついた。確かに有効な使い方だとは思うが、なぜあの男はああもセコい戦い方ばかりするのだろうか。普通に戦っても十分やれると思うのだけれど。

「まあ、横島さんだしね」

 と神野が特に感慨もなさそうな声で相槌を打つ。
 横島とはああいう男だという固定観念がもうできあがっているようだ。この分では横島がどう頑張っても、彼女たちのハートを射止めることは無理そうである。

「この……もう手加減はナシだっ!」

 さすがの雪之丞も、これ以上横島のペースで戦うことに危機感を覚えたようだ。空中で片手を伸ばして、まずは様子見の霊波弾を数発ほどぶっ放す。
 前に組み手をした時に比べると、出力もスピードも明らかに上がっていた。「魔装術の極意」を極めたとは言えないがその境地に片足を突っ込んでいるだけに、単純な霊波攻撃の力も上がっているのだろう。

「はっ、また何とかの1つ覚えかよ!」

 だが横島は恐れなかった。
 あの時の自分は雪之丞の半分強程度の霊圧しかなかったが、いまやほぼ互角にまで成長している。つまり霊波弾を金縛りで止めるのにかかる時間も半分強に短くできるはずだから。

「全部空中で止めてやるぜ! そして今度こそギャラリーのハートをドッカーンと!」

 と左手を剣印(握り拳から人差し指と中指をそろえて立てる)に結んで、まずは最初の弾に突きつける。横島の狙い通り霊波弾は空中でびたりと動きを止め、やがて水が蒸発するように消えていった。
 ……が、うまくいったのはそこまでだった。
 2発目、3発目は何とか止めたものの4発目は間に合わず、肩口に命中して吹き飛ばされて地べたに倒れ伏してしまう。

「ぐおっ、い、痛ぇ……つーか何で……!?」

 ごろごろと転がって5発目を避け、その勢いと飛行能力を使って何とか体を起こす。しかし何故こんなあっさり防御網を突破されてしまったのだろうか?
 答えは簡単、横島とカリンでは霊力の強さは同じでもそれを扱う技量に天地の開きがあるからだ。同じ力で同じ術を使っても、効果は同じではないのである。
 横島はその残酷な事実には思い至らなかったが、自分の術では雪之丞の霊波砲には対抗できないことは理解できた。

「ええい、もーカッコつけるのはやめじゃ! やっぱり俺は俺らしく、セコい手でチクチクやってやる!」

 そのセコい事はもうすでにやっていて、しかもそのせいでギャラリーの評価が芳しくないのだという事実は、むろんとっくの昔に忘却のかなたである。

「ハッ、それでこそおまえだぜ!」

 雪之丞が楽しげな笑みを浮かべ、いよいよお得意の連続霊波砲攻撃に移った。ただし前回と違って同じ場所にはとどまらず、空中を飛び回りながらである。
 射撃のペースは多少落ちるが、反撃は受けにくくなるはずだ。

「どわーーーっ!!」

 思い切り表情をくずして逃げ惑う横島だったが、見た目ほど慌てふためいているわけではない。雪之丞の霊波弾は確かに威力はあるが、小竜姫の投げ矢に比べればかわしやすい攻撃だったから。
 都合9発目の弾をきっと見据えて、右手の裏拳を叩きつけてなぎ払う!

「何ッ!?」

 思わず目を剥いた雪之丞に「うはははは!」と高笑いをかまして、

「ハンズオブドラゴンは防御にも使えるんだよ! 恐れ入ったかバトルジャンキー!」
「むう……」

 雪之丞は横島の馬鹿笑いはスルーしたが、彼の発言自体は無視できなかった。ただ避けるだけではなくあんな受け方もできるとなれば、中途半端な攻撃は通用しそうにないからだ。
 かと言って不用意に近づいたら、今度こそ「金縛りの術+麻痺ガス」という回避不能の凶悪コンボが待っているだろう。
 雪之丞はやたらに動くのは控えて、横島の出方を見ることにした。しかし横島の方も積極的に攻撃する気はないらしく、戦線は睨み合いの状況を呈する。
 そうと気づいた弓が小さく舌打ちした。

「このままじゃまずいわね……雪之丞、どうする気かしら?」
「まずいって何が?」

 耳ざとく訊ねてきた神野に弓はちょっと不機嫌そうに眉根を寄せて、

「魔装術には時間制限があるし、空を飛ぶのは結構霊力を消費するわ。でも横島さんはただ立ってるだけだもの、長期戦になったら明らかに雪之丞が不利だわ」
「なら地上に降りて、魔装術解けばいいんじゃない?」
「それじゃ勝てないから魔装術使ってるんでしょーがっ!」

 神野の発言はクラス対抗戦の出場者、それも優勝チームの者としてはやや軽率で、弓の声が多少荒くなったのは致し方ないといえるだろう。
 神野は恐れ入ったかのように小さく肩をすくめたが、しかし彼女には彼女なりに「軽率」だった理由もあるのだ。

「横島さんってそんなに強いの?」
「……。少なくとも雪之丞はそう思ってるみたいね」

 いや魔装術を使っていなければあの「目潰しパンチ」で終わっていただろうし、弓も神野も横島と素手で格闘して勝てる気はしないのだが、それでも彼の戦い方を見ていると「強者」だとは思えないのだった。
 タマモはこのやり取りを聞いてはいたが、例によって口をはさむ気はない。彼女たちの言い分はもっともだし、横島のことをカッコいいと思われても困るから。
 そして峯は「横島さん早く諦めてカリンさん呼べばいいのに」と相変わらず自分の欲望に正直なことを考えていたが、今それを口に出す気はないようだ。

(……これはやっぱ、ドツキ合いに持ち込むしかなさそーだな)

 むろん雪之丞自身もこのままではジリ貧になることに気づいていて、横島の動きを注視しつつもその攻略法を頭の中でひねっていた。
 殴る蹴るの戦いになれば、横島がいくら器用でも金縛りやブレスは出せないか、出せてもまともに当てる事はできまい。術者タイプとやり合う時の定石でもある。
 ただ問題は、どうやってそこまで近づくかだ。

(……ま、考えるだけ時間の無駄か。俺にはまっすぐ突っ込むしかねえんだし)

 しかし雪之丞は横島ほど多彩な技を持っていないし、性格も良くも悪くも直線的なので、横島のようにうんうん悩んだりせずあっさり地上に降りた。そして一瞬の躊躇もなく、横島めがけて突進する!

「な、いきなりかー!?」

 横島はその猪っぷりに驚いたが、それでもすかさず左手を彼の右足に向けて金縛りの術をかける。足を止められた雪之丞は素晴らしい勢いですっ転んだが、むろん地べたに突っ伏してしまうほどのろまではなく、飛行能力を使って空中で停止すると同時に右手を突き出して、溜めてあった霊力を横島の方に叩きつけた。

「のおっ!?」

 顔面めがけて飛んできた霊波弾を横島は超人的な反射でかわしたが、姿勢が崩れたためブレスは吐けなかった。
 横島はその気になれば相手の耳や指を狙って金縛りをかける事もできるのだが、雪之丞は魔装術を使っていて両手も握り締めていたので、今回は残念ながらそういうピンポイント攻撃はやれなかったのである。
 雪之丞は右足にかけられた金縛りを強引にふりほどくと、今度は左手から霊波弾をぶっ放した。

「どわあっ!」

 距離はわずか2メートルほどだったが、横島はそれをもかわした。まさに人外の回避能力だったが、その隙に雪之丞に格闘の間合いまで踏み込まれてしまうのは防げなかった。
 案ずるより産むが易かったか、と雪之丞がニヤリ口元に笑みを浮かべつつ、勢いの乗った右回し蹴りを繰り出す。

「おわっ!」

 横島はとっさに左腕を下げてブロックしたが、魔装をまとった蹴りはさすがに重く、受けた腕がビリッと痺れた。さらに脚を下ろすのに合わせた正拳突きが飛んできて、横島はついに顔面にクリーンヒットをもらってしまった。

「んがっ……!」

 横島はまた吹っ飛ばされたが、雪之丞も今回は逃がさずに追ってくる。しかし横島は頬桁の痛みをこらえつつ、必死で川の中に逃げ込んだ。

「何だ、わざわざ歩きにくい所へ逃げやがって……!?」

 水深は大したことなさそうだが、足がすべったり泥に埋まったりしたら格闘どころではなくなるだろう。どうせなら空に逃げればいいものを、なぜそんな危険な場所に逃げるのか?
 雪之丞はちょっと不審に思ったが、この絶好のチャンスを逃すわけにはいかない。対戦相手を追いかけて、自分も冷たい流水の中に足を踏み入れた。

「どっせーい!」
「何っ!?」

 そこへ横島が手で水をすくって、顔にぶっかけてきた。手ですくったにしてはやけに量が多かったが、こんなものにかまけて追撃を止めるほど雪之丞は甘くない。顔や胸にかかったのを無視して、さらに1歩踏み込んだ。
 そこで吐き出そうとした息が、何かにぶつかって鼻の中に逆流して来ようとは。

「ぷあっ、な、何だ!? げほっ、がは」

 思わず咳き込んでしまったが、その咳すら口の外に出て行かない。どうやらさっきかけられた水が膜になって、顔の下半分にぴったり張り付いているようだ。それが鼻と口をふさいで、呼吸の邪魔をしているのである。

(そう言えばあいつは水も操れるんだったな……それで空を飛ばずにいたのか。
 水深は10センチかそこらだから高波とか水の壁とかは作れんだろーが、顔を覆う膜くらいなら何枚でも作れるからな)

 ようやく横島が今まで地上にいた訳を理解できた雪之丞だが、その時真横から気配が迫るのを感じた。

「さっきのお返しじゃ! ヨコシマ・キーーーック!」
「ぐほぉっ!」

 いきなり腰を蹴っ飛ばされて、雪之丞はもんどりうって倒れた。
 装甲が薄い部分なのでけっこう効いたが、それでも地面を転がっている間に顔をぬぐって水の膜を取り除き、いったん間合いを広げてから立ち上がる。
 さいわい横島は追撃はかけて来ず、川べりに立ちすくんだままだった。やはり水のそばから離れたくないらしい。
 ―――実際は雪之丞の攻撃がそれなりに効いていて、そんな余裕がないだけだったのだが。

(……竜モード使えりゃ楽なんだけどなぁ)

 横島は内心でそんな慨嘆(がいたん)をもらしていた。
 タマモは変化の術を使うと体重もその姿に見合ったものに変わるが、この法則は横島と小竜姫にも当てはまる。小竜姫は角モードでは100グラムそこそこだが、竜モードになると80トンにもなるのだ。彼女が普段人間の姿でいるのは、巨体が日常生活に不便だからというのに加えて、重くて消耗が大きいからでもある。
 横島の竜モードは9匹の竜が合体したような形だからやたら重く、現在は約800キロだ。この圧倒的なウェイト差の前では、雪之丞がいかに霊的格闘術の粋をつくしても無意味だろう。
 ―――しかし使えないものの事をあれこれ考えていても仕方ない。横島は竜モードの事を頭から振り払って、対戦相手の動きに神経を集中した。
 雪之丞はさすがに懲りたのか、右拳を鼻の前にかざすような構えを取っている。これでは目や鼻を狙った奇襲は不可能だ。
 しかしそれならそれで作戦はある。横島はわずかに宙に浮いて川面の上に立つような位置に動くと、その水を使って周りに濃い霧をわき上がらせた。

「……! 何だ……!?」

 横島の体が霧の中に隠れていくのを見つめながら雪之丞が呆然と呟く。確かにあれなら安易な攻撃はできないが、向こうからもこちらは見えなくなるはずだ。いったいどういうつもりなのだろうか。

(やっぱり……奇襲狙いか?)

 どうせ横島のことだから、前の時のような高速走法でいきなり霧の中から飛び出して来るとか、そういう不意打ち的な策を考えているに違いない。雪之丞はとりあえず数歩さがって間合いを広げ、用心深く横島の出方を窺った。

「…………」

 すでに横幅7〜8メートルにもなった霧のカーテンを油断なく見据える雪之丞だったが、横島がそこから出て来る気配はない。しかし不意に、真後ろから何かが吹き付けられるのを感じた。

「こ、これは横島のガス!? しまった……!」

 いつの間に背後に回られていたのか。雪之丞はとっさに前に跳ぼうとしたが、一瞬早く下半身にもう一息吹きかけられて脚が完全に動かなくなってしまった。

「どんな気分だ? 雪之丞」
「くっ、くそ……て、てめぇいつの間に……!?」

 後ろからぽんと肩に手を置いてきた横島に雪之丞がくやしげにそう訊ねると、煩悩少年はにまーっと人の悪そうな笑みを浮かべて、

「あの霧は囮だよ。おまえがあれを見てる隙に、俺はおまえに見えないよう地面の上を這って飛ぶよーな感じで離脱したんだ。で、思い切り大回りしてこーしてバックを取ったってわけさ」

 雪之丞の注意を前方に集中させておいて、気配を消して後ろから近づいたというわけである。むろんギャラリーからは丸見えだったが、彼女たちもこれを教えて勝負に水を差すほど無思慮ではない。

「おまえに対する慈悲の気持ちはまったくねえ……てめえを可哀そうとはまったく思わねえ。
 とゆーわけで、このままナブって始末してくれる」

 どこぞのスタ○ド使いと似たような、しかしまったく趣旨が違う台詞をほざきつつ横島が右拳を振り上げる。どうやら雪之丞が女子高生4人とつるんでいた事をまだ根に持っているようだ。

「思いなさいよーーーーっ!」
「へぐっ!?」

 しかし彼氏の危機と見て突っ込んできた弓の、わざわざ水晶観音をまとってのフルパワーパンチによって横島はまたも吹っ飛ばされ、彼の天誅は残念ながら未遂に終わったのだった。


 ―――つづく。

 うーん、こんな決着で雪之丞は納得するのだろうかw
 あと文中で竜モードの体重について書いてますが、小竜姫さまの竜モードの体重は、体長9メートル体重250キロのアナコンダが体長60メートルになった場合よりやや重めに、横島君の竜モードは1匹当たりはそれより細身なのが9匹合体したものとして計算しています。
 では第143話のレス返しを。

○DDH182さん
 はじめまして、こんな長い話なのに新しくレス下さる方がみえて嬉しいです。
 横島君ってやっぱりこんなヤツですよねぇw

○遊鬼さん
 GMにとってはゲリラなんぞ驚くに値しないのでしょうw
 ユッキーは単独ならシリアス系なんですが、横島君と絡んだらギャグに落とされるのは必然でしょうな。
 横島君は……そういうヤツですからw

○cpyさん
 横島神社、建ててもらうのはわりと簡単なんですよね。何しろ「本当に雨を呼べる竜神」ですから。ただ菅原道真公と違って参拝者に何しでかすか分かりませんので、やはり阻止されて良かったというべきでしょうなw
 横島VSユッキーは第95話でやってますが、今回もこんなんでした(ぉ
>カリン
 そうなんですよねぇ、すっかり毒されてしまって(涙)。

○星の影さん
 横島君はまともに格闘なんかしちゃったら勝ち目ないでしょうけど、やっぱりそんなことはしないヤツでした。小竜姫さまへの報告はどっちみちしないと思いますがw
>女性諸君
 横島君はあくまで「人外」キラーなので、人間の女の子からはこんな扱いしかしてもらえないのですw
 九頭竜見せても幻術だとか思うかも知れませんな(酷)。

○KOS-MOSさん
>カリン
 最初期のころが懐かしいです(ぉ
>勝負
 横島君ももう少しマトモにやればもっとモテるんですがねぃ。

○ばーばろさん
>カリン
 もう恋人ですから、たまにはこんな事もあると思うのですよー。
>ヨコシマ家
 日本一常識外れな一家ですからねぇ。冷静に見るととんでもないですな。
>いまさらカッコいいトコを見せたところで
 完全にダメと分かるまでは諦めないですよ横島君はー。
 原作で令子さんを追いかけてた執念に比べれば軽いものです!
>マヌケな決着
 いくら頭を使うようになっても横島君ですからねぇ。今回もセコいことばかりやってます。
 ユッキーも難儀なヤツをライバル認定しちゃったものですな。
>4号
 いあ、それはそうなんですがーww

○Tシローさん
 は、横島家のラヴっぷりは筆者も書いてて羨ましくなるほどです(ぇ
 ユッキーはやっとこさ念願を果たせたわけですが、今回もやっぱり納得はいかないかも知れませんw
>竜神化
 結果だけを見ればまさに雲の上の人ですよね。
 九頭竜見せても妖怪扱いがいい所のような気もしますが(酷)。

○スカートメックリンガーさん
 むう、何のネタなのか分かりませぬが今回はちゃんとバトりましたのでー。
>とことん極端な男です
 何しろあの両親の息子ですからねぇ。普通の評価を受ける方がむしろ不思議だと思うのですよ(ぉ

○紅さん
>普通にたたかっとるw
 化けの皮はすぐに剥がれてしまいましたがw

○whiteangelさん
 横島君はやっぱりヒレツな戦法ばかりでした。
>性欲神
 彼が性欲神になったらそれこそ日本の危機ではw

○山瀬竜さん
>ゲリラ
 はい、横島君にとっては両親の在日期間が短くなってラッキーなのか、雪之丞と組み手するハメになって不幸なのか微妙なところでありますw
>横島vs雪之丞
 本文で書きましたけど、破壊力は横島君の方が上なんですよね。それを当てる技術では負けてますがw
 あと防御力は雪之丞が上、耐久力は横島君が大幅に上ってところでしょうかw
 麻痺ガスはご想像通り横島君自身には効きませんです。ヒドラや九頭竜が自分の毒で死なないのと同じですな。なので仰る通り、えげつない使い方しまくりでしたw
 男らしくガチで戦う横島君なんて偽者ですし<マテ

○読石さん
>カリンさんの横島君教育術
 は、まさにそうなのですよー。正確に読み取っていただけて嬉しいです。
>ユッキー
 そうですね、霊力に差がついたら金縛り1発で終わっちゃいますし。
 再戦を挑むなら早いうちがいいのですが、横島君はもう受けないだろうなぁw
>竜形態に部分変化
 横島君っていろいろ器用ですからねぇ。こういう事もやろうと思えばすぐできるようになると思うのですよー。
>触手プレイ
 うーん、頭だけ九頭竜化というのはむちゃくちゃ見栄え悪いんですよね(^^;
>真銀手甲
 はい、元が心眼の代わりみたいなポジションでしたからねぇ。
 何か別の物に代替わりということも考えてはいるんですが。

○Fberuaryさん
>ゲリラ
 まあ犬に噛まれたとでも思うしかなさそうですねー(酷)。
>VS雪之丞
 しょせんは横島君ですから、すぐ本性出して卑怯な戦闘スタイルに戻っちゃいました。彼がカッコ良く勝つには、もっと格下の相手を探さないとダメですねw
>カリン
 うーん、たった一言でもインパクトって出るものなんですね。
>VS怪獣軍団
 そこまで動員しますかw
 確かにここの姫様は雄々しく成長してますけれどーw

○さんステップさん
 横島君は生き方自体が安直ですからねぇ(酷)。
>嫉妬
 世界中の女の子は自分の物だとか妄想してるやつですからw
 それに自分も級友にそっち関係でいじめられてますし(第54話、第108話など)、同じことしたくなるのではないでしょうか。
>セクハラなくなったら
 そんな横島は(以下略)。

○XINNさん
>我が身を餌にして本体を完璧にコントロール
 はい、カリンは宇宙一汚らわしい男を立派に育てるために、自らを生贄にささげている健気な少女なのですw
>vsゲリラ
 あの両親のことですから、そのくらいのことは当然のようにやっちゃうでしょうねぇ。あのゲリラも事前の調査が足りませんでしたなw
>竜魔人
 横島君ですからあんな風に格好良くはなりません。どっちかというとリザードマン(トカゲ人間)ですな(酷)。
>ユッキー
 霊気のヨロイがより硬くなったので、破術には耐えられるつもりでいたのですよー。
 目潰しや窒息攻撃は防げませんでしたけどw

○れじぇむさん
 確かに竜モード出せば楽勝なんですけど、押しつぶしたら本当にユッキー死んじゃいますからw

○内海一弘さん
 おねだり……いいですよねぇヾ(´ー`)ノ
 夫妻はあさってになったら何事もなかったかのように帰国してくる事でしょう。
>ユッキーとの実力差
 GS試験会場みたいな場所だったらユッキーが勝ってたかも知れませんです。

○ハルにゃんさん
 実家暮らしですかー。生活費節約できて良いですよね<マテ
 仰る通り今の横島君と雪之丞はまさに互角……しかし汚さの差で横島君に軍配が上がりました(酷)。
>父様母様
 心配なんてするだけ無駄ですよねぇw
>峯さん
 むう、そこまで気に入っていただけてるとわ。
 弓さんなら相手として適役ですねぇ。プロットができたら書くかも知れませぬー。当人はカリンとやりたがるような気もしますがw

○風来人さん
>ナルニア支社
 治安はかなり悪そうですからねぇ。もしかして専務は大樹を亡き者にするつもりで飛ばしたのかも知れませんな。
 でもあのゲリラも人質が外部と電話するのを許したりとか、逆襲されて日本まで拉致されたりとか、案外牧歌的なところもあるような気もしますw
>カリン
 世界で1番横島君のことを知ってる女ですから、アプローチの仕方も常に的確なのです!
>宿題に追われ〜〜〜
 そうですねぇ。えろい事ばかりしてるよりはマジメで良いですけどw
>横島家
 ありがとうございますー。他所では不幸が多い横島君ですが、たまにはこんな生活があってもいいと思うのですよー。

○滑稽さん
 最近甘めが多かったですが、今回のバトル分で中和して下さいませ(ぉ
>普段は真面目
 横島君にそんな演技力(ぉ)が身についたら、うーん、あけすけさが無くなったということでかえってモテなくなるかも知れませんなw

○UEPONさん
 うーん、確かにいつになったら新年になるのか、横島君たちの生活が濃すぎて見込みがつきません(ぉ
 組み手が終わってもすぐ帰りはしないでしょうし。
>カリン
 横島君と接する人外は変わっていくものですからねぇ。
>ゲリラ
 うーん、あのナイフは「父帰る」の時点で持ってたものですから、今回のはまた別の組織かと思われます。ナルニアって本当に治安悪いですな(^^;
>美女かそーでないかだけを気にするのが横島君
 そこはそれ、彼も奥さんズの教育でちょっとは成長したのでありましょう。
>「おばあさんになっちゃった女の子にそれまでと変わらず接する」
 というかこれは↑と矛盾してるような気が(^^;
 まあ横島君は相手が歳とっても露骨に冷たく当たるような事はしないでしょうけど、女性側としては彼と2人きりならともかく、若いままのタマモ達がいっしょだとやはりつらいと思うのですよ。
 横島君もそういう点に配慮して……いや、そこまでいったら偽者か(ぉ

   ではまた。

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