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「光と影のカプリス 第142話(GS)」

クロト (2008-03-19 19:36)
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 しばらくして小竜姫に襟首を引き摺られるようにして居間に戻ってきたヒャクメは、外傷はまったく無かったが見るからにうちひしがれて、今にも白い灰になってしまいそうなほど儚げに感じられた。
 体の傷は小竜姫がヒーリングで治したのだろうが、棒切れなんぞにダメ神認定された心の痛みはすぐには癒えないということか。単に怒れる竜神様がとてつもなく怖かったというだけかも知れないが……。

「うう、小竜姫はやっぱり瘴竜鬼だったのね……あれでどーして堕天せずにいられるのかしら」

 ヒャクメのそんな呟きをタマモの超聴覚はしっかりと捉えていたが、それを告げ口するのはあまりにも哀れなので狐娘は聞かなかったことにしてやった。
 横島もヒャクメにヒーリングをかけてやろうかと一瞬思ったが、彼女の体には傷はないようだし、何より今自分が情けをかけるのはお互いのためにならないような気がしたので黙っていた。
 一方小竜姫はヒャクメを床に横たえると、彼女に向けていたゴビ砂漠のようにドライな視線とは打って変わったにこやかな笑顔を横島たちに披露した。

「それじゃ、ヒャクメはここに寝かせておいて修行を再開しましょう。
 今度はタマモさんも一緒に、敵の攻撃を避ける練習です」

 確かにそろそろ休憩を切り上げる時間になっているし、横島とタマモも霊力を練る修行ばかりでは飽きてくるだろうからこの方針は妥当なものではあるのだが、うなされている友人を平然と放置する辺りが実にシビアだった。

「私が擲箭(てきせん、羽根のないダートのような形の投擲武器)を投げますから、横島さんとタマモさんはそれをかわすなり払い落とすなりして下さい。カリンさんは後ろで、金縛りの術とアポートで矢の回収をお願いします。
 ……横島さんには矢が体に当たった数に応じて罰ゲームをしますから、手抜きしちゃダメですよ?」

 こういう修行は1回きりでは意味がないので普通はここではやらないのだが、横島たちは毎週のように来るから小竜姫もメニューとして組み込めるのである。ただ横島には納得できない部分もあった。

「ちょ、ちょっと小竜姫さま。なんで罰ゲームは俺だけなんですか!?」

 不真面目度ではタマモも似たようなものなのに、なぜ自分だけにそんな罰則を適用するのか。
 しかし小竜姫の回答は、これまた横島には反論の余地がないものであった。

「タマモさんは横島さんほど頑丈じゃないですから。鏃(やじり)をゴム玉に変えた矢でも当たったらそれなりに痛いですから、嫌でも真面目にやると思うんですよ。
 でも横島さんにとってタマモさんがちょっとケガする程度の攻撃なんて蚊が刺したようなものですからね。別の動機を用意しないと真剣にはなれないと思いまして」
「……」

 その正論なのにも程がある主張の前に、横島には無言で頭を垂れる以外の選択肢は残されていなかった。そのまま小竜姫の後ろについてとぼとぼ歩いていく横島の後ろ姿を眺めながら、タマモが小さく呟く。

(ホントによくやるわねぇ……)

 すでに完全竜神化を果たした今、そこまで頑張る必要はないと思うのだが、小竜姫が大幅にレベルアップした以上横島に要求されるハードルも高くなったという事だろうか。しかしそのためだけに、よくこんなハードトレーニングに耐えられるものだ。

(……でもまあ、横島にとっては当たり前のことなのかもね)

 時給255円で命がけの荷物持ちをしていたのは令子を射止めるためだし、その後もGSを続けたのはカリンに生きがいをあげるためだ。もちろん自分のためにも色々してくれた。
 今やっている修行は命の心配はないし、カリンと小竜姫はいろいろ彼の面倒を見てやっているから、横島はむしろそのお返しみたいな気分でいるのかも知れない。

(……ま、丁稚奉公はムダな努力だったみたいだけど)

 給料の額は会社での地位、つまり令子からの評価そのものだ。時給255円なんて最低賃金以下の待遇を受け入れているようでは、「対等の」恋人になんてなれるはずがない。現にタダスケも令子とくっつくのに10年もかかっていた。
 まああの頃の横島がそんな高賃金を勝ち取れるわけがないし、美神事務所時代に令子やキヌとくっつかなかったからこそ、今こうして生涯を託するに足る伴侶になってもらえたわけなのだが。
 もちろんただ一方的に依存するだけの関係をつくる気はない、それ相応の代価は払うつもりだ。具体的には……Hは代価にしたくないから、お揚げとか?

「……タマモ殿、どうかしたか?」
「へ? あ、ううん、ちょっと考えごとしてたから」

 不意に横から声をかけられてはっと我に返ったタマモは、あわてて前をいく2人を追いかけて歩を早めるのだった。


「じゃ、いきますよ2人とも」

 例の異界空間の闘技場の端に立った小竜姫が、いっそのんびりしたと言っていいような緊張感のない声で修行開始の合図をする。
 その右手が軽く揺れたと思った直後、横島の顔にすごい速さの矢が飛んで来た!

「をぅっ!?」

 持ち前の反射神経でとっさに首を傾けてかわす横島。矢はその頬をわずかにかすめて彼の後ろに消え、いやカリンが金縛りの術を使うまでもなく矢柄を片手でつかんで、そのまま回収用のざるに放り投げた。

「び、びっくりした……何だ今の」
「よくかわしましたね。でも修行はこれからですから、気を抜いてはいけませんよ」

 再び小竜姫の右手がふっと翻り、2本の矢が同時に襲って来る。横島はすばやく右足を引き、半身になることでその矢に空を切らせた。
 どうやら少しは霊的格闘の「技術」も上達しているらしい。

「へえ、やるじゃない横島」

 その横島らしからぬワザ師ぶりにタマモが賛嘆の声をあげたが、その台詞を言い終えた瞬間に矢が膝に当たってよろめいてしまった。

「痛っ!? って、きゃあ」

 幸い横島が金縛りの術をかけてくれたので転ばずに済んだし、過保護にも自動再生のお裾分けを送ってくれたから膝の痛みもすぐに消えたが、しかしこの修行は思ったより厳しいものみたいだった。

「あ、ありがと……でも今投げられたのほとんど分からなかったわ。ハーピーより手ごわいかも」

 矢弾のスピード自体はハーピーのフェザーブレットの方が勝っていたが、彼女は殺気丸出しの上思い切り腕を振り回して投げていた。しかし小竜姫は殺気など全然ないし、投げるのもモーションが小さいスナップスローなので気配を読めないのである。

「そだな……さすがは小竜姫さまってところか」

 横島が畏怖を含んだ声でそう答えた直後、次の矢がその鼻先をかすめて飛んで行った。びっくりしてそちらを向いた横島に、小竜姫が指を立ててたしなめる。

「話をするのも助け合うのもいいですけど、敵から目をそらすのはダメですよ?」

 もっともな注意である。横島は小竜姫の正面に立つ形で構え直し、タマモはその斜め後ろでわずかに腰を落とした。飛び道具を使う相手に対しては、これが1番妥当な陣形であろう。
 いったん仕切り直したところで、小竜姫が再び矢を投げて来た。その鋭すぎる投擲の前では横タマの俄かづくりの陣形など毛ほどの役にも立たず、2人は不恰好に体を曲げて逃げ回った。

(しかし逃げてるばっかじゃ面白くねーよなぁ)

 横島にもプライドのカケラくらいはあったらしく、頭の片隅でそんなことを考えていた。反撃を禁止はされなかったから、何とか小竜姫のスキを見つけて、文字通りせめて一矢を報いたいものである。そして運良くそれが命中したら、小竜姫も罰ゲームということで裸エプロンとかバニーさんの格好をしてもらうのもいいかも知れない。
 ちなみにメイドさんご奉仕が案に上がらなかったのは、小竜姫は師匠つまり目上なので、「奉仕してもらう」相手ではないからという意外にきまじめな理由からだったりする。

(おおっ、これはいいかも? よっしゃ、やったるぜー!)

 急に闘志がわいてきた。らんらんと輝き始めた両目がかっと霊気を放ち、タマモの胸元に飛んで来た矢を空中で停止させる。それを右手で掴んで思い切り振り上げた。
 その反撃を阻止するかのように飛んで来た次の矢を体を振ってかわし、それとひとつの動作として腕を振って矢を投げる!

「なっ!?」

 その動きの速さとテクニカルさに小竜姫は度肝を抜かれた。もしこれが素手での組み手であったなら、みごとに一本を取られていただろう。
 しかし幸運にも、今回の修行は飛び道具によるものだった。横島の動きがどれほど奇抜でも、飛んでくる矢の軌道は真っ直ぐである。
 小竜姫はその矢を片手の指2本ではさみ止めると、そのまま手首をひねって矢を投げ返した。

「おおっ!?」

 やはり小竜姫は武神だけあって、矢を投げ返すという趣旨は同じでもやり方が自分と違って洗練されている。横島が一瞬そんな感想をいだいた時には、その矢は彼の額にぱこーんとクリーンヒットしていた。

「いつつ……や、やっぱし小竜姫さまに反撃しよーなんて無謀でしたね」

 横島が分に過ぎたことを考えてしまった気恥ずかしさをごまかすように乾いた笑みを浮かべたが、それに答える小竜姫の笑顔はまことにうるわしいものであった。

「いえ、今の動きはかなり良かったですよ。いつもああいう風にできるようになれば、私やカリンさんから一本取るのもそんなに難しくないと思います」

 そしておだてられると調子に乗るのが横島クオリティ。

「マ、マジっスか? それじゃこー、小竜姫さまの攻撃をかわしてカウンターで乳にさわるとか、そーゆーこともできるよーになったりします!?」
「……なると思いますけど、やったら怒りますからね?」
「私も怒るからな」
「……」

 そしてすぐ怒られてヘコむのも横島クオリティであった。しかしこの2人より不真面目な上、実際に被害をこうむる可能性が低いもう1人の少女はいたって気楽な口調で、

「でも今のはちょっとカッコ良かったわよ。かばってくれたのも嬉しかったし」

 頼んだわけでも避けられなかったわけでもないし、横島は自分を助けるのが主目的だったのではない事も分かっていたが、彼が自分にスキができるのもいとわずに助けてくれたのは事実であり、それには礼を言っておくべきだと思ったのだ。
 すると横島はまた舞い上がって、

「ん、そーか? まあ確かに俺にしちゃファインプレーだったからな。惚れ直したりしちゃったか?」
「へ? あ、うん、あのデートのときからずっと惚れっ放しだけど……」

 恋人の唐突な放言にタマモは素直にそう答えてやったが、その直後横島の側頭部にものすごいスピードの矢がぶち当たった。どうやら小竜姫は、横タマが修行中にストロベリってるのがお気に召さなかったようだ。
 まあ考えてみれば当然の反応である。タマモは痛みに頭をかかえてうずくまる恋人の情けない、というか面白い姿を見下ろして、

(ま、こーゆーヤツだから私も肩肘張らないでいられるんだけど……)

 と複雑な表情でひとりごちるのだった。


 その翌日の2時ごろ、横島たちは妙神山を辞して家に帰ることになった。
 門の前まで見送りに立った小竜姫が、少しだけ寂しそうな顔で目の前の婚約者に話しかける。
 ちなみにヒャクメは駄神鞭のダメージから回復した後速攻で神界に帰ったので、この場に現れるどころかカリンのスクリーン投影や解析能力のことなどは聞いていない。

「お疲れさまでした。次はいつ来られますか?」
「そうですね。前にも話しましたけど明日には親父とお袋が来ますし、学校の宿題もありますんで、たぶん10日の土曜日になると思います」
「そうですか……ちょっと寂しいですけど仕方ありませんね。
 ……っと、そうそう。言い忘れてましたけど、人界でお正月を過ごされるんでしたら初詣には行かないようにして下さいね」
「へ、何でですか?」

 と横島は間抜け顔で聞き返してしまったが、すぐその理由は推察できた。
 見ず知らずの竜神がいきなり初詣なぞに現れたらその神社に住む神様も驚くだろうし、ましてその竜神が小銭を放って「今年も可愛い女の子たちと仲良くできますように」なんてお祈りをかまして来たら対応に困るだろう。いや同じ竜神の王族である小竜姫に通報するに違いない。
 よけいな災厄を招かずに済んだことを、横島は己の悪運に感謝した。

「どうしても行くんでしたら、その前に私に知らせて下さい。話を通しておきますから」
「はい、わざわざすいません。
 それじゃ、そろそろ行きますんで」
「はい、お気をつけて」
「はい、小竜姫さまもお元気で」
「それでは小竜姫殿、よいお年を」
「それじゃ」

 というわけで横島とカリンとタマモは、一応は鬼門にも挨拶してから東京に帰って行った。
 しかしアパートが間近になったところで進路を変え、学校の屋上に着地する。机妖怪の愛子に話すことがあるからだった。
 もう暗くなっていたから校庭には誰もいない。しかし一応カリンとタマモはセーラー服に着替えて校舎の中に入る。
 教室に行ってみたが、愛子の机はなかった。外出しているのかと思ったが、タマモの超嗅覚で図書室にいることが判明する。

「愛子、いるか?」

 横島がいかにも彼らしい暢気そうな声とともに扉を開けて中に入ると、本を読んでいた机娘がはっと驚いて顔を上げた。

「よ、横島君!? それにカリンさんとタマモちゃんも……!?
 もしかして私に会いに来てくれたの? それとも宿題写しに来たとか?」

 ついでひどく嬉しそうな顔になったかと思うと、少し呆れたような、それでも満更でもなさそうな表情でいるのは、彼女は校内に他の生徒や教師がいない間は孤独だからだ。慣れてはいるがやっぱり寂しいから、友達が来てくれるのはとても嬉しかった。

「会いに来たっつーか、ちょっと話すことがあってな。
 明日は親父とお袋が来るから、もう暗いけど今日話しておこうと思って」
「そんなに急ぐ用事なの?」

 きょとんと首をかしげた愛子に、横島は小さく苦笑を浮かべてみせた。

「そーゆーわけじゃねーけど、親父たちと騒いでたら忘れちまいそーだから」
「……何よそれ」

 愛子はますますあきれたが、せっかく来てくれたのを邪険に扱うこともない。顔と気分を落ち着かせて、横島に続きを促した。

「で、お話って何?」
「あー、ちょっと待ってくれ。人に聞かれるとマズいから、できたらおまえの机の中で話したいんだが」
「そんなにヤバい話なの?」

 この部屋に他に人がいないのは明らかなのに、それでも安心ならないとは。どんな危ない秘密を聞かされるのかと愛子は恐怖に近い感情すら抱いたが、拒むわけにもいかない。頷いて引き出しから舌を伸ばし、3人を机の中の学校に案内した。
 いつか横島を連れ込んだ教室に移動して、以前のままに残っている机と椅子を指さして座るよう勧める。
 しかし横島は椅子に座ろうとはせず、腕組みして机と机の間をうろうろと往復するばかりだった。話をどう切り出していいか悩んでいるようだ。
 しかしついに方針が決まったらしく、机に座った愛子の正面に立って口を開く。

「遠回しな説明は面倒だからストレートに話すぞ。ついこの前のことなんだが、俺は人間やめて竜神になったんだ」
「………………は? 何の冗談?」

 たっぷり10秒ほど沈黙した後、愛子はジト目でそんな答えを返した。どうやら彼の台詞を全く信じてないようだ。
 しかし横島はこういう反応はもう慣れていたからめげることもなく、

「いや、マジだって。俺が前から小竜姫さまと同じオーラを使えてたのは知ってるだろ? それを極めて俺自身がドラゴンにクラスチェンジしたってわけだ」

 とパンドジニウムでピートにした説明を繰り返す。

「本当は卒業まで黙ってるつもりだったけど、パンドジニウムでピートにバレたんでな。おまえにだけ隠してるのも何だから、こーして話しに来たんだよ」
「……」

 横島の話は筋は通っていたが、愛子はまだ信じなかった。ウソを言っているようには見えないし、カリンとタマモも一緒なんだからただのジョークではないのだろうが、あまりに非現実的な話なので素直に受け取れないのである。
 3人の中では1番人格的に信用できるカリンに目を向けて証言を求めた。

「ああ、横島が言っていることは本当だぞ。こんなこと冗談で言っても間抜けなだけだろう?」
「そーねぇ……でも横島君が竜神様っていうのが疑わしいのよ。ぬら○ひょんとか色情霊になったっていうんならすぐ信じるんだけど」
「待てやコラ!」

 横島は激怒した。必ずこの青春妖怪を押し倒、もとい自分のすごさを理解させてやらねばならぬと決意した。

「いいだろう、そこまでゆーなら証拠を見せてやろうじゃねーか。驚きのあまりその机ごと後ろに転んで、白いパンツを衆目にさらすがいい」
「……ひっぱたくわよ? とゆーか見たの?」

 愛子が真っ赤になってスカートの裾を握り締めたが、横島はどこ吹く風といった様子で、

「いや、適当に言ってみただけ」
「……」

 愛子は本気で拳を握り締めたが、横島はその修正兵器から逃げるように教室の真ん中辺りに移動した。

「じゃ、行くぞ。だあっ!」

 横島が机の上に立って息吹とともに気合をこめる。その全身が一瞬ブレて風船のようにふくらんだかと思うと、次の瞬間には体長7.5メートルほどもある9つ首の空飛ぶドラゴンが出現していた!
 天井や机にぶつからないよう体をくねくねと折り曲げているが、それがまた巨体感を際立たせている。

「きゃああっ!?」

 文字通り爬虫類じみた9対の巨眼にくわっと睨みつけられ、愛子は横島に予告されたように後ろに転んでしまった。もしカリンが背中をささえてくれなかったら、そのまま頭を床にぶつけていただろう。

「あ、何で止めるんだカリン。もしかしたら本当にパンツ見えたかも知れんのに」
「だから止めたんだ……というか、いくら本体じゃなくても頭を打つのは良くないだろう」

 そんなやりとりの間も、愛子は呆然として口をぱくぱくさせていた。GSとして活動しているピートですら腰を抜かしていたのだから、精神面は普通の女子高生とそう変わらない愛子では気絶しなかっただけマシというべきだろう。
 横島はそんな愛子の様子を見て十分目的を遂げたと思ったのか、人間の姿に戻ると少女の前に移動して思い切り踏んぞり返った。

「どーだ、これでこの横島のすごさが分かっただろ?」
「そーね、変なこと言ってごめん」

 と愛子は素直に謝罪した。いくら荒唐無稽(こうとうむけい)な話だったとはいえ、本当のことを話していたのを疑ったりちゃかしたりしてしまったのだ。それは反省すべきだろう。
 しかしこの煩悩少年が竜神様だとは。初めて会った時は霊能力1つなかったというのに、人は変われば変わるものだ。頭の中身はあまり変わってなさそうだけど。

「……あ、もしかして妙神神社のこととか小竜姫さまと付き合ってるって話もこれと関係あったりするの?」
「まーな。もちろんトップシークレットだから、絶対人には話すなよ」
「うん、わかってる」

 こんな事が公になったら横島は学校どころか人里にはいられなくなるだろう。それでも教えてくれたのだから、その信頼には応えねばなるまい。

「ところでさっき『それを極めて』って言ってたわよね。とゆーことは事故とかじゃなくて、自分の意志で修行して竜神様になったってこと?」
「ん? そうだよ。いろいろ迷ったけど、人間として生きるよりずっと長くハーレムライフを楽しめるからな」
「………………ハーレム?」

 あまりにも横島らし過ぎる動機に愛子は激しく肩を落としたが、「ハーレム」という単語に少し引っかかりを感じた。彼がタマモと小竜姫と二股かけていることは知っているが、それなら「二股ライフ」とか「両手に花」と表現するんじゃないだろうか。

「もしかして横島君、タマモちゃんと小竜姫さま以外にも彼女がいるの?」
「……!?」

 その鋭い指摘に横島はびくりと身をすくめた。愛子は自分が「二股」かけている事を知っていると承知していたからつい「ハーレム」なんて言葉を出してしまったのだが、それがまさかこんな追及になって返ってくるなんて!
 ここで「いや、いねーよ」なんて嘘を平然とつけるほど横島は世慣れていない。びしりと石像のように硬直してしまったが、これで状況証拠は十分である。
 カリンとタマモは苦虫を噛み潰したような顔で状況の推移をみつめていた。

「どーやら居るみたいねぇ……で、どこの誰なの?」

 すでに1度お仕置きを済ませているからか、愛子の口調に嫌悪や怒りの色はなかった。どちらかというと友人の恋バナに興味津々な普通の女子高生といった風情である。
 横島としては愛子が本気で咎め立てしてくるならちょっと対応を考えねばならないところだったが、こういう態度で来るならそれほど悩むこともない。
 それでも相手が相手だけにかなりためらいがちな動作で、愛子の斜め後ろにいるカリンの顔を指さした。

「……へ、ホントに!?」

 付喪神歴32年の愛子もこれには驚いたらしく、目をまん丸にして影法師娘の顔を穴が開くほど凝視する。いくら横島が煩悩野郎とはいえ自分の一部を彼女にしたがるとは、いやそれをこの真面目な少女が受け入れるなどと、やはり世界は神秘と謎に満ちている。
 実は告白したのはカリンの方なのだが、さすがにそこまでの超展開は想像しなかったようだ。
 そのカリンは心底苦り切ったような顔つきで、

「……本当だ。ただこれはピート殿も知らないことだから、絶対に口外しないようにしてほしい」
「……そうね」

 どんな経過でこの2人がくっつくハメになったのか、愛子は激しく知りたいのだが今それを追及するのはとても悪いことのような気がしたので止めておいた。

「こんなことクラスの男子にバレたらどーなるか、簡単に予想がつくものねぇ……何てゆーか、同情するわ」
「……」

 横島たちは非常にきまりの悪い思いをしたが、どう答えていいか分からなかったので沈黙を守った。
 しかし愛子は自分の発言で空気が重くなったことにちょっと気が咎めたのか、

「それはそーと、こんな大変な秘密をわざわざ教えてくれてありがとう。誰かにバラすなんてマネ絶対にしないから、これからもよろしくね」

 とほがらかに笑ってみせる。むろん秘密を知ったこと自体が嬉しいのではなく、横島たちが自分をそれに値する仲間だと認めてくれていることが、黙っていたら涙が出そうなほど心にしみたのだ。半年ちょっと前までは目についた学生をさらっては洗脳してニセの学園生活にふけっていた自分が、これほどの信頼を寄せてもらえるようになるなんて。
 横島は愛子の反応が思ったより好意的だったことに安心して、リュックの中から紙袋とペットボトルを取り出した。

「ところでもう夜だし、一緒に夕メシ食わねーか? お茶は自販機で買ったやつだけど、この紙袋の中身は小竜姫さま手作りのおにぎりなんだぜ」
「……横島君!」

 その上こんな素敵イベントまで用意していてくれたとは。愛子はぱっと破顔して、横島の首すじに思い切り抱きついたのだった。


 ―――つづく。

 妙神山の2日目の夜ははしょりました。やってることは1日目の夜と変わりませんから、書いても同じような話になっちゃいますので。
 ではレス返しを。

○cpyさん
>修行
 横島君は小竜姫さまとヤるのが目当てなんですけど、それだけで終わってしまったら修行場として問題ですからw
>極限まで体を酷使→回復
 はい、まさに横島君専用のお仕置き、もといトレーニングであります。

○星の影さん
>ヒャクメ
 まさにそうですね、彼女ほど駄女神役がはまってるキャラは他にいません(酷)。
 4号は無理でしょうなぁw
>横島の修行
 ま、これも小竜姫さまと結婚するための試練というやつですな。
>武器の変化
 確かにそうですね。少しずつ成長してることを表現するために小刻みに変えていたのですが、なかなか難しいものです。

○Tシローさん
>原作とあんまり変わんないか
 確かに原作でもギリギリな試練の連続でしたねぇ……なんて哀れな。
>ヒャクメ
 彼女にもいつか報われる日がくるんでしょうかヾ(´ー`)ノ
>原作より爆発力がない
 逆にいえば、文珠がないからこそここまでいろんな技をつけられるというのもあります。
 もっとも文珠は霊能力なので、もし会得したとしても全部カリンに持っていかれてしまうのですがーw
>メドさん
 彼女の場合、風水盤事件を起こした時点で無罪放免はまず有り得ないんですよねぇ……難しい相手であります。

○遊鬼さん
>ほのぼの
 横島君たちのラヴは、修行中でも消えないのです!
>横島君の成長速度
 はい、具体的に表現してみました。
 いつかは野菜王子ぐらいに強くなれるといいですねぃ。
>ヒャクメ様
 今回はダ女神認定されてそのまま退場……次に出す時はいい目を見させてあげたいものです。

○紅さん
>4号
 ヒャクメの参戦は小竜姫さま的に納得しがたいことでしょうからねぇ。
 もう2度と口にはしないことでしょうw
 魔鈴さんはまだ予断できる段階ではないみたいです。
>横島君の回復力
 ただでさえ不死身なのに、シリアス時にも有効な再生能力が付いてますからねぃ。どんだけーって感じですw

○whiteangelさん
>出鱈目な身体
 まさにヒドラ並みです。
 復元能力というか、あの胴着は体の一部なのですよー。
>ヒャクメ
 喉元過ぎれば何とやらを地でいきそうですからねぇ(酷)。

○怒羅さん
 横島君もベ○ータでなかったら、あんなハードな修行やらされずに済んだかも知れないのですが(ぇ
 ヒャクメはもちろん駄神鞭でシバかれましたw

○山瀬竜さん
>カリンの教育方針
 他のメンツがあまり具体的なことを考えてないので、1人でいろいろプランを練っているのですよーw でも仰る通り横島君は女性関係で大化けすることが多いので、たぶん彼女の予想は大きく外れることでしょう。
 こんな変人とやりあうハメになったメドさん達も大変です(ぇ
>奥さん
 横島君のことですから、日本武道館が満員になるくらい増やしたがるかも知れませんしねぇw
>ヒャクメ
 励ましのお言葉痛み入りますww

○チョーやんさん
>先の構想〜〜〜
 よくある事なので(ぇ)、先の話はとりあえずネタ帳に書いておいて、まずは今現在の話に集中するのが良いのではないかと。
>野菜王子
 まさに横島クオリティでありますw
>ヒャクメ
 まあ単なる言い逃れだった可能性もありますが、4号になるのは無理でしょうなw
 婚姻制度はそんな感じですね。
>お揚げコロネ
 むぅ、まさか本当に作る方がいたとは……そういえばチョーやんさんは元ネタが分かる方でしたねぇ(ぉ
 揚げ物はつくった事ないんですが、今度試してみますvv

○Februaryさん
>修行
 まあ物語の主人公である横島君自身が、Hをしに行ったという認識ですからねぇ。
 溜飲が下がったようで何よりでしたw
>積極的に読んでるから
 まったくその通りですな。本人が自覚してないだけでw

○XINNさん
 H話も堪能していただけたようで嬉しいです。
 2日目夜もやっぱり2人きりだったと思われます。徹夜だったかどうかは知りませんがー(ぉ
>いろいろと疑問ですなぁ
 何をもって健全というかという問題もありますしねぇ。
>竜神の装具をつけて煩悩全開
 確かにカリン&凛明Verとかやれば1千万マイトくらい行きそうですが、そこまでやったらいくら横島君でも死ねますのでw
>130
 そうですねー。史上最低が最も恐ろしいという感じでしょうか。
>煩悩汚染警報発令
 日本と竜神界の未来が本当に心配ですなw

○読石さん
>口移し
 いえ、これはタマモの意向ですのでー。
>15年で130から10万
 いえ、15年後は1万で、10万になるのは生理年齢20歳=150年後なのですが。誤解を招く表現だったでしょうか(^^;
 まあこれでもものすごい成長速度なんですが。
>新技
 はい、そういう認識こそ筆者の願うところです(ぉ
 横島君ってそういうヤツだと思うのですよー。
>365日耐久H
 横島君の一部であるカリンだけはついていけるのですが、他の2人はまさにピンチです。
 がんばってHテクを磨かないといけませんな。

○ばーばろさん
 このSSで横島君が幸せなのは運命なので、ここはぜひ生温かい目で祝福してやって下さいませw
>トイレシーン
 さすがにそれは(^^;
>魔女っ娘お姉さん
 この辺は先をお待ち下さいませー。
>駄神鞭の使い方講座
 このSSでバイオレンス指定はまずいので、あえて省かせていただきました(^^;

○ncroさん
 霊力は成長期を越えたらそれほど強くならなくなると思いますが、何しろ横島君ですから先のことはまったく読めません。もしかすると竜神王より強くなったりして(ぉ
 4人目は……まだ謎であります。

○KOS-MOSさん
 毎度お褒めいただきありがとうございます。今回は嫉妬になるかすっとするか微妙です(^^;
 駄神鞭の効果は本文から適当に想像して下さい<マテ

○内海一弘さん
 小竜姫さまもなるべく早く入籍したいんでしょうねぇ。嫁き遅れ疑惑とかある身ですから(ぉ
 カリンは横島君と同じ成長率があるわけですが、タマモも横島君のそばにいれば前世や前々世をはるかに超えたレベルアップをしそうですな。

○風来人さん
>子羊達
 99%ほどは自業自得という感じですがw
>ものすごいスカートめくり
 小竜姫さまがズボン姿なのが残念です。スカート姿だったら修行の描写もしたんですがー(ぉ
>デレ
 もうラヴが爆発しまくりです。何でこんなにモテるんだろう(ぉ
>霊力の上限
 まあ、横島君ですから!
>カリンの霊視能力を知ったヒャクメの反応
 今回は見る前に帰ってしまいましたが、いつかはつらい現実を知ることになるでしょうなw

○ハルにゃんさん
 激励のお言葉ありがとうございますー。
>妙神山
 命がけの修行場のはずなんですが、横島君にも困ったものですw
>某みずちの子も百人力
 大気中の水分で風呂桶をいっぱいにできる変人ですからねぇ。愛子の荷物も減って一石二鳥ですな。
>ヒャクメ様
 確かに本人は割とオープンな感じがしますけど、相手はそうはいきませんからw

○食欲魔人さん
 うーん、みなさん妙神山がどんな所かお忘れだったようで、良きかな良きかなというところでしょうか(何が)。
 ヒャクメ様もそのうち良いことあるといいですねぇ……。

   ではまた。

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