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「『神々の迷惑な戦い』第三話(GS+聖闘士星矢)」

あらすじキミヒコ (2008-03-01 04:22)
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 魔神アシュタロスが滅び、神魔のパワーバランスが崩れた時代。
 そんな中、ギリシアの神々が内輪で争いを始めるらしい。バランス補正にはプラスに働くため、手を出せない神族上層部。しかし、ギリシア神に付き従う人々が死んでいくのは出来るだけ避けたい。
 力のある人間が介入するのはギリギリOKという判断のもと、親交ある神族が美神たちのところへ派遣された。彼らの依頼を快諾し、ギリシアまでやって来た美神と横島。だが、その美神が、アテナと間違われてしまう。
 胸に黄金の矢を受けた美神を助けるためには、十二時間以内に『十二宮』を突破しなければならない!
 第三の宮『双児宮』を師匠ゆずりの悪運……もとい幸運でサッサとクリアした横島だったが、それでも、他の三つでは相当な時間を費やしている。火時計を見ると、残り時間は、すでに九時間となっていた。
 今、彼は、第五の宮『獅子宮』に差し掛かろうとしていた。

「今度はライオンか……」

 ここを守護するは、獅子座(レオ)のアイオリア。ゴールドセイントの中で一、二の屈強を誇るとまで言われる存在である。
 ただでさえ忠誠心の高い彼なのだが、特殊な生い立ちが故に、その忠義をいっそう強く示そうとしているのだ。
 しかし……。残念なことに、忠誠を誓う相手を間違っているのだった。


    第三話 十二宮編(その二)


「ふざけるなー!!
 そんな話が信じられるかっ!?」

 横島は、壁に叩き付けられていた。

「痛っ……。
 せめて最後まで聞いてくれよ……」

 アイオリアと対峙した横島は、まず事情説明を試みたのだ。
 だんだん、セイントの勝負……もといキャラは顔で決まるのだという気分になってきた横島である。
 アイオリアは、二枚目と言えないこともないが、少なくとも美形キャラではない。熱血アニメの主人公タイプだ。横島は、そう判断した。
 だから、かいつまんで最初から語っていったのだ。ところが、十年以上昔にアテナが日本へ脱出した辺りで、なぜかアイオリアは怒り出したのだった。
 そして、立ち上がった横島に向かって、再びアイオリアの攻撃が炸裂する。

「くらえ、獅子の牙を!
 ライトニングボルト!!」
「ぐわっ……!!」

 宮の柱を壊すほどの勢いで、横島は吹き飛ばされてしまう。
 アイオリアは『牙』と言っているが、もちろん、それは比喩でしかない。実際には、凄い速さで殴ってきているだけだ。しかし、横島には、彼の拳が全く見えない。何かピカッと光ったと感じたとたん、もうダメージを受けているのだった。

「また……
 例の超加速もどきかよ!?
 自分たちばっかり……卑怯だぞ!!」

 横島は、金牛宮での戦いを思い出していた。あそこでも、横島は、超加速に苦労したのだ。ゴールドクロスの角を折ったことで通してもらえたが、アルデバランを倒したわけでもないし、彼の超加速に対処できたわけでもない。
 しかも、このアイオリアの超加速……つまり光速拳は、アルデバラン以上だ。横島は、そう感じていた。

「卑怯だと……!?」

 横島の不用意な言葉は、アイオリアをますます怒らせるだけだ。アイオリアにしてみれば、彼が光速拳を使えるのは、それだけコスモを高めているからだった。彼の相手だって、同じようにコスモを高めれば、やはり光の速さで戦えるはずなのだ。

「くやしかったら、おまえもコスモを高めてみろ……!!」

 腹が立っているのに、どこかアドバイスじみた発言をしてしまうアイオリア。兄貴分なキャラなのかもしれない。

「こっちだって霊力は凄いんだぞ!?
 だけど……
 普通、人間には超加速は無理なんだよ!!
 俺にもゴールドクロスがあれば……!!」

 ボロボロの状態で、それでも立ち上がる横島。
 文珠で『黄金』とすれば、自分のクロスもゴールドクロスに生まれかわるかもしれない。そんな考えも一瞬頭に浮かんだが、トライするのは躊躇われた。なにしろ、今のクロスは、ムウにより新生されたボンノウクロスだ。その防御力の高さは、十分体感している。下手な細工でダメにしてしまっては、元も子もない。それが、現時点での彼の結論だった。

「クロスのせいにするなー!!」

 と、アイオリアが叫んだ時。
 まるで横島の願いに呼応したかのように、そこに、一つの奇跡が飛来した。


___________


 飛んできたのは、射手座(サジタリアス)のゴールドクロスだった。
 聖衣箱(クロスボックス)に入った状態なので、横島には、それがゴールドクロスだということが理解できていない。
 それでも、そこには、横島を驚かせる出来事があったのだ。

「お……!?」

 クロスボックスの肩かけ紐に、一人の女性がしがみついていたのである。本来、人間が宮を越えて飛んでくることなど出来ないはずだが、ゴールドクロスは自由に行き来可能というところに、強引な抜け道があったらしい。
 女性は、ペタリと尻餅をつくと同時に、その場に知りあいが……大好きな友人がいることに気がついた。

「あ……!! 横島さん!!」
「お……おキヌちゃん!?」

 彼女は、横島のもとへ駆け寄り、その胸に飛び込んだ。

「うえーん……!! こわかったですぅ……!!」
「おキヌちゃん……!? なんで、ここへ……!?」

 おキヌは、美神と横島が去った後で、アテナと面会していたのだ。星矢に案内してもらったわけで、これで、アテナ配下のブロンズセイントとも面識が出来た。
 アテナやゴールドクロスを囲んで、彼らと談笑していたのだが……。
 突然、クロスが箱ごと動き出し、空へ飛び出したのだ。

「でも……なんでおキヌちゃんが一緒に……!?」
「わかりません……」

 クロスボックスは、垂直に飛び立ったのではなかった。最初、窓に向かって横へ進んだのだ。その際、偶然、箱の肩ひもにおキヌの腕が引っ掛かってしまう。いや、本当に『偶然』だったのか、それともクロスの意志だったのか、おキヌには判断できなかった。

「すごく高いところを、すごい速さで……。
 うっ……うっ……」

 よほど恐かったのだろう。いや、今は安心したからだろうか。おキヌの涙は止まらない。
 かつておキヌは、マリアに抱えられて無茶な飛行もしたことがあるのだが、今回はそれ以上の経験だった。

「おキヌちゃん……」

 彼女の背中に手を回した横島は、優しい口調で、名前を呼ぶ。今出来る慰めは、その程度しかなかった。
 このまま、二人の世界が続けば、それはそれで良い雰囲気なのだが……。
 ここで、黙って話を聞いていたアイオリアが叫び出す。

「どけ、そこの女!!
 これでは手がだせん!!」

 黄金の獅子アイオリアは、正義の志士だ。無益な殺生も好まぬ彼は、女性に向ける拳など持っていなかった。

「おキヌちゃん……危ないから離れて……」
「ダメです……!!」

 横島の言葉を、おキヌはキッパリ否定する。恐くて泣いていた彼女だったが、横島と一緒であるというなら……彼を守るためだというなら、話は別だ。

「あの人……私がいれば攻撃できません!!
 私……横島さんの盾になります!!」

 決然と言いきるおキヌ。もしも、こんな決意のまま攻撃の途中に現れていたら……横島をかばうようにして間に割り込んでいたら、どこぞの誰かのように背中を貫かれていたことだろう。それほどの気持ちが、彼女の言葉から滲み出ていた。
 おキヌが引かぬため、自慢の光速拳も振るえぬアイオリア。膠着状態では横島も困るのだが、先に焦れたのはアイオリアのほうだった。

「ええい面倒!!」

 威嚇のために拳を振り上げる。あくまでも脅かすだけで、本気ではなかったのだが、それでも、この行動が状況を一変させた。
 サジタリアスのクロスボックスから……ゴールドクロスが飛び出したのだ!

「ああっ!!」
「えっ!?」
「なにーっ!?」

 サジタリアスのクロスパーツが、空中で分解する。
 そして!!
 ……それは、おキヌの身をまとった。


___________


 おキヌは、清純派美少女という称号を横島から密かに与えられたほどの女性である。そんな可愛らしい女の子が黄金の鎧に彩られた姿は、それだけで惚れ惚れするような光景だった。
 しかも、サジタリアスクロスのヘッドパーツは、無粋なヘルメットなどではない。額の辺りが中心のチョコンとした部品だ。それは、おキヌの特徴的な前髪を可憐に強調する。さらに、背中には羽根のようなパーツがあるせいで、まるで天使のようにも見えてしまうのだった。

「クロスさんが……私に!?」
「……!
 な……なぜだーっ!?」
「ああっ、おキヌちゃん!!
 急いで顔を隠すんだ!!
 あいつのほう見ちゃダメだ!!
 俺のほうに向けてくれ……!!」

 横島が何やら絶叫しているが……。

 念のために、ここで一言。
 おキヌちゃんはセイントではありません。だから素顔を見られても大丈夫です。


___________


 ボンノウクロスを着た横島。
 サジタリアスクロスに包まれたおキヌ。
 そんな二人を前にして、アイオリアがガクッと膝をついた。

「えっ!? おい……!?」
「どうしたんです、突然……!?」

 攻撃したわけでもないのだ。二人は拍子抜けするが、アイオリアは、もはや敵ではなかった。

「ヨコシマとやら……
 おまえの言うことを信じよう……」

 アイオリアはサジタリアスのクロスから、兄アイオロスの意志を……魂を感じ取ったのだった。
 十三年前、逆賊として討たれた兄アイオロス。
 反逆者の弟として、アイオリアは、幼少時から冷たい視線を向けられてきた。だからこそ、アテナや教皇に対して、いっそうの忠義を示してきたのだ。
 しかし、本当は、兄は逆賊どころか、一人でアテナを守り抜いた真のセイントだったのだ!
 最初に横島から聞いた話は、それを意味していた。
 信じたい気持ちはあった。ただし、信じてしまうならば、自分の十三年間は大きな間違いだったということになるのだ。
 教皇こそ元凶であり、ここにアテナはいないというのであれば、自分は、悪の親玉と、いもしない存在に忠誠を誓ってきたことになるのだ。
 だから、信じたくない気持ちもあった。
 その両者の板挟みで、攻撃を始めてしまったアイオリア。だが、こうして直接、兄の魂が彼を諭しに来た以上……。もはや真実は明白だった。

「あれっ!? ……クロスさん!?」
「えっ!? おキヌちゃん!?」

 アイオリアが納得したのを感じて、サジタリアスクロスが、おキヌの身から離れた。オブジェ形態に戻ってから、箱ごと空へと飛んでいく。それは、本来の居場所である人馬宮へと向かっていた。
 こうして、獅子宮でのバトルは終了したのだった。


___________


「その女……こちらで面倒みようか?」

 おキヌを連れていては、横島としても足手まといになるだろう。アイオリアは、そう思って提案する。獅子宮の近くには、女性を休ませても大丈夫そうな寝所もあるのだ。
 だが、

「ふざけるなーっ!!
 おキヌちゃんは俺んだっ!!
 おまえなんかには譲らんぞー!!」
「バカものー!!
 そういう意味ではないわ!!」

 あいかわらずの横島である。
 そして、アイオリアの言葉を横島が勘違いしたように、横島の発言を誤解した乙女が一人。

「横島さん……!!」

 ウットリした表情で、おキヌが横島を眺めている。
 彼女は以前に、

「この世の女は全部オレのじゃーっ!!」

 というセリフも耳にしているのだが、幸か不幸か、ケロッと忘れていた。


___________


「ごめん……な……さい……!!
 もう……走れま……せん……」

 おキヌが、息を切らしながら膝をつく。
 今、横島とおキヌは、次の宮へ向かって階段を駆け上がっているところだった。

「やっぱり……おキヌちゃんには無理か……」

 第一の宮を越えた後にも、『俺以外には、走り抜けられない』と思った横島だ。おキヌが音をあげることは、予想の範疇だった。

「ごめんなさい……。
 私……足手まといになっちゃって……」

 おキヌは、ふと、幽霊時代のことを思い出す。そして、人間になって横島たちのもとに復帰した直後のことも。あのときも、足手まといだと感じたのだ……。
 しかし、おキヌが回想に浸る暇などなかった。横島が、スーッと手を差し伸べたのだ。

「おキヌちゃんは……
 大事なヒーリング要員だよ」

 横島が『ヒーリング要員』なんて無機的な言葉を使うのは、半分は照れ隠しなのだろう。おキヌは、そう思った。同時に、自分でも役に立つのだという自信も、少しだけ出てくる。

「ほら、ここのバトルって、
 シャレになんねーレベルだろ?
 今までも……
 『おキヌちゃんがいてくれたらなあ』
 ……なんて思ってたんだ」
「横島さん……!!」

 思わず横島に抱きついてしまうおキヌ。意外なことに、横島は、彼女をそのまま、すくいあげた。

「え……!?」
「俺がおキヌちゃんを運ぶ……!!
 大丈夫、いつも美神さんに
 重たい荷物持たされてるから、
 こういうのは平気!!
 ……そのかわり、おキヌちゃんは、
 宮と宮の間で……
 俺をヒーリングしてくれ!! ……な!?」
「……はい!!」

 おキヌをお姫様だっこした状態で、横島は走り出す。

(横島さん……!!)

 おキヌは幸せであった。
 そして、密着した彼女の体を感じて、横島も幸せだ。

(これ……思ったより……いいかも!?)

 もちろん、彼の霊力もアップしていた。


___________


「おキヌちゃんは、
 ここで待っててくれ!!」

 第六の宮『処女宮』。その入り口を前にして、横島は、おキヌを下ろした。

「中の番人をやっつけて、
 無事に通れるようになったら戻ってくるから!!」

 明るく言い残して、横島は、処女宮に入っていく。内心では、これまで以上の強敵を相手にする覚悟をしていた。
 アイオリアが別れ際に教えてくれたからだ。
 処女宮の守護者は、乙女座(バルゴ)のシャカ。『もっとも神に近い男』とまで言われるゴールドセイントだ。

(まあ……神さまって言っても色々いるが……)

 横島は、知りあいの神族を思い浮かべる。
 ヒャクメ、小竜姫、斉天大聖……。
 斉天大聖レベルの人間がいるとは考えられないが、あのアイオリアの口振りからすると、少なくともヒャクメのようなフレンドリーな『神』ではなかろう。
 アイオリア自身は、横島についていくことは出来なかった。自分の守護する宮で、アテナがサンクチュアリに来るのを待つ。アテナ直々の沙汰を待つ。それがアイオリアの決断だった。だから、せめてもの助けとして、シャカの情報を伝えていた。

「シャカの目を開かせるな!」

 目を閉じることで、日頃からコスモを高めているシャカ。開眼した際には、その爆発的なコスモが攻撃に回されるのだ。
 ただし、アイオリアとて、シャカの多彩な技の一つ一つを具体的に知るわけではない。
 例えば、『六道輪廻(りくどうりんね)』。これは、精神感応を応用した強力な幻覚攻撃である。地獄界や修羅界など、六つの恐ろしい世界の幻覚を見せるのだ。これを食らうと、その中の一つに一生捕われてしまい、精神が崩壊するという。
 また、強大な霊力をぶつけてくる奥義もある。それは、『天舞宝輪』。網膜、鼓膜、味蕾などに霊波を直接あてることで、視覚、聴覚、味覚など、五感を奪ってしまうのだ。

(要するに……
 『私は目を開けると霊力が上がります』
 って自己暗示をかけてる霊能力者なんだよな!?
 ……目が閉じているうちに速攻で倒すしかねえ!!
 ちくしょう、
 『処女宮』なんて思わせぶりな名前のくせに……)

 そんなことを考えながら突入したのだが……。


___________


「うわーっ!!
 最初から目を開けてるーっ!?」

 そこには、パッチリ両目を開いた男が立っていた。
 もう……横島としては、泣きわめくしかない。

「話が違うーっ!!
 なんでーっ!?」
「ふざけた男だな……君は」

 涙や鼻水で汚れた横島も、シャカから見れば擬態でしかなかった。
 シャカは、横島と美神がサンクチュアリに来たときの異常な霊力を、ハッキリ覚えているのだ。同期合体という詳細までは分からぬが、横島の霊力……コスモが、あの中に含まれていたことを、シャカは正しく理解していた。
 同期合体の際には、横島の霊波長は、美神のものに極力近づけている。それが『同期』合体である。だから、これまでのゴールドセイントは、横島が合体していたことなど全く気付かなかった。
 だが、しかし。
 シャカだけは、霊波長が変わっているにも関わらず、真実の一端を悟ることが出来たのだ。『もっとも神に近い男』という称号は、ダテではなかった。
 そして、それだけ高く横島を評価したからこそ、奥義を出し惜しみする気もなかった。

「天舞宝輪!!」

 いきなりである。

「まずは視覚!!」
「……えっ!? おい……!?」

 突然何も見えなくなって、横島が焦る。

(暗闇にされた……!?
 いや、そんなもんじゃねーぞ!!)

 だが、それに対応する間もなく。

「続いて……聴覚!!」

 今度は、耳が聞こえなくなった。

(こりゃヤバい!!
 ……こいつ、マジだ!!)

 しかも、聴覚を奪われたということは、今後せっかく技名を叫んでもらっても、こちらには分からないのだ。

(こりゃあかん!!
 文珠、出ろ!!)

 ここへ来るまでに、おキヌとの密着のおかげで、霊力そのものは高まっていた。だから、アッサリ文珠は出せた。だが、目が見えないせいか、あるいは気持ちが焦っているせいか、せっかくの文珠をコロンと落としてしまう。

(ちくしょう、もう一回!!
 今度は……二つ!!)

 一つ落としてもいいように、二つ同時に出す。今度は、二つとも手の中に留まった。

(よし……!!
 両方とも『治』だ……!!)

 贅沢かもしれないが、同じ文字をこめる。そして、一つは目に、もう一つは耳に押し付けた。

「……はあっ。
 なんとか……元に戻ったな」

 文珠はイメージである。一つで両目が、もう一つで両耳が完治した。

「私の奥義が効かないとは……!!
 では、これはどうかな!?
 六道輪廻……!!」

 今度は精神攻撃である。


___________


「……えっ!?
 ここは……どこ!?
 どうなってんの!?」

 攻撃を食らった瞬間、周りの景色が一変した。
 どこかの河原である。だが、川の水は、どう見ても水の色ではない。空も、どんよりという言葉では表現できないほど、不気味な空気だった。
 そして……。自分の口から出た声で、横島は、もう一つの変化に気付いた。

「……子供になってるーっ!?」

 今の横島は、幼児になっていた。ふと見ると、手の中に赤ん坊を抱えている。

「赤ちゃん持った子供……!?
 で……、この赤ちゃんは誰!?」

 いぶかしげに赤ん坊の顔をのぞきこんだ横島は、心臓が止まりそうになった。
 金属っぽいバイザーと二本の触覚をもった赤ん坊……。

『それは君の娘だ……!!
 いや……娘であり、かつ恋人なのかな!?
 今の君ならば、あまり年の差もないだろう?』

 どこかから、シャカの声が聞こえてくる。
 それに驚いたのだろうか、赤ん坊が突然泣き出した。
 そして、泣き声に合わせるかのように、地面が……世界が揺れ始める。

「おい……!?」

 動揺するが、それも一瞬。横島は子供をあやすのは得意なのだ。彼女を泣き止ます努力を始めたのだが……。
 いくら頑張っても、泣き続けるだけだった。いや、むしろ、泣き声は大きくなっていく。そして、世界の崩壊も進み、大地も大きく割け始めた。

『どうやら……君には
 彼女を止めることはできないようだな』

 再び、シャカの声が投げかけられた。

『あきらめて……ここに捨ててしまったらどうかな?』
「ふ……ふざけるな!!」
「おぎゃあーっ、おぎゃあーっ!!」

 怒りで横島が絶叫すると、赤ん坊も大声で泣く。

『ほーら早く手放さないと……世界が崩壊するぞ!?
 ただし……ここに幼子を放置したら
 ひとりでは生きられまい……』

 横島の足下まで、亀裂が伸びて来た。

『このまま世界を崩壊させるか……
 赤ん坊を捨てて進むか……
 選びたまえ……!!』


___________


「横島さん……遅いなあ。
 大丈夫かな!?」

 一人寂しく、おキヌは、横島を待っていた。
 彼が入っていった時、火時計には、八つの炎が浮かんでいた。今は、それが七つになっている。つまり、すでに一時間が経過しているのだ。

「さすがに心配だわ……。
 ヒーリングもしてあげたいし……」

 おキヌは、宮に足を踏み入れた。
 すると……。
 そこで見たものは、隅で丸まっている横島。膝を抱えながら、何かブツブツつぶやいている。

「横島さん……!?
 これは、いったい……」

 慌てて駆け寄ったおキヌ。近づいたことで、彼の独り言も聞こえるようになった。

「ル……
 ルシ……オ……ラ……」

 おキヌの背筋が凍った。
 そんな彼女に、この状況を作り出した男が声をかける。

「その男は……もう廃人だ」

 ゆっくりとおキヌが振り返る。

「何をしたんですか!?
 ……ひどい!!」

 キッとした視線を向けたおキヌ。
 質問の形ではあったが、答は必要なかった。
 具体的にされたことは分からないとしても、精神を傷つけられたことは確かだからだ。それも、横島の口から出ている言葉から判断するに、絶対不可侵な領域に触れられたのだ。

(許さない……!!)

 そう思うおキヌだが、彼女に戦闘力はない。そこに無字の文珠が一つ転がっていることに気付いたが、それでも……。

(そうだ……!!)

 彼女は、現状での正しい使い方を閃き、また、文珠があることに感謝した。

(私の霊力で足りるかどうか不安だけど……。
 でも……お願い!!
 横島さん!!
 これで……この一時間の出来事を『忘』れて!!)


___________


「あれっ!? おキヌちゃん……!?」
「横島さん……!!」

 意識を取り戻した横島は、そこにおキヌがいることに……そして彼女の大げさな喜びように驚いた。
 彼女は、横島に飛びかかってきて、ギューッと強く抱きしめたのである。よく見ると、おキヌは、目に涙まで浮かべていた。

「横島さん……
 もう回復しないんじゃないかと……」
「それより……なんでここへ?」
「ごめんなさい……
 一時間待っても戻ってこなかったから
 来ちゃいました……」

 一時間も眠っていたと告げられ、横島が気を引きしめる。時間がないのだ!

「はっきりとは覚えちゃいないが……
 なんかトンデモナイことされたって記憶はあるぜ……」

 おキヌを離し、横島が立ち上がる。
 やはり、おキヌの力では完全に記憶を消し去るのは無理だった。
 横島としては、頭が変になるほどの悪夢を見せつけられたような感じがするのだ。しかし、幸いなことに、具体的な内容は忘れていた。ルシオラに関する思い出で攻められたことだけは、記憶から抜け落ちたのだ。

「あんた、スゲー奴のようだな……!!
 まさか人間相手に、これをやるとはな……」

 無言で二人を眺めていたシャカにも、横島の霊力……コスモが燃え上がるのはハッキリわかった。

「この男……やはりセブンセンシズに目覚めている!?」

 シャカの言葉は無視して、横島は文珠を出す。
 今度は『模』だ。
 もし美神がいれば、見たことあったのだろう。しかし、それは彼女が送り込まれた異空間の中でのお芝居。現実の横島にとって、人間相手に『模』を使うのは初めてだった。

「いくぜー!!」
「なにっ……!?
 ゴールドクロスを……コピーした!?」

 シャカの目の前には、首から下をシャカそっくりにした横島が立っていた。

「違うぜ、あんた自身をコピーしたんだ!!」

 だから、横島には、シャカの頭の中も読めた。

「あんた……
 自分のことを正義のセイントだと思ってるな!?
 ……けっ、騙されてるくせに!!
 『世界の真理は無常』……?
 そういう難しいことはわからんが……。
 『完全な悪も完全な正義も存在しない』……?
 ああ、それなら賛成できる。
 妖怪や魔物だって本質は『悪』かもしれんが、
 いい奴もたくさんいるからな!!
 だが……『わたしがみた教皇は正義だ』だと!?
 そりゃあ、おかしい!!
 それに……
 おまえから見て俺は『邪(よこしま)』!?
 バカ野郎、それは名前だーっ!!」

 横島は、彼らしくもなく、一気にまくしたてた。
 そして、おキヌのほうを振り返り、小声でささやく。

「おキヌちゃん……。
 もし俺がおかしくなったら、
 叩いても何してもいいから、
 正気に戻してくれよな!?」
「えっ……!?」

 強敵を『模』倣すれば、相手と同じ能力が得られる。ただし、相手に与えたダメージは自分にも跳ね返るため、パワー対パワーの戦いでは使えない。
 だが、精神攻撃というのであれば……!!
 相手にとってはイヤな幻覚でも、自分にはそれほどでもない悪夢であるなら!!

「こんどは……おまえが幻を見る番だ!!
 六道輪廻……!!」


___________


「ここは……!?」

 シャカは小さな子供になっていた。
 目の前には仏像がある。

「この仏像は……!!」

 それは、幼き日々に、問答の相手をしてくれた仏像。

「人々は……まるで苦しみや悲しみを
 味わうために生まれてきたかのようだ……」

 かつての疑問を、再び口にしてしまうシャカ。
 仏像は、苦しみがあれば喜びもあるのだと諭す。
 ただし美しい花も最後には散ってしまうように、常に流動しているのが万物の理。人生も同じであり、それこそが『無情』なのだ。

「しかし……
 最後には死んでしまう以上……
 やはり最終的には悲しみが支配する……
 全てが無にされる……」

 これに対しても、仏像はシャカを諭す。
 シャカは大事なことを忘れているのだ、と。
 死は終わりではなく、始まりでもあるのだ。

「阿頼耶識……」

 と、シャカがつぶやいた時……。


___________


「夢……か!?」

 シャカの意識は、現実の処女宮に戻ってきた。
 そこには、もう横島もおキヌもいない。

「六道輪廻で落とされた先が、あそことは……。
 今回の戦いには関係ないとはいえ……。
 フフフ……。
 私は悟り足りなかったということか!?
 ……あのヨコシマという男に諭されたのか」

 最初から最後まで、シャカは、横島を過大評価したままだったのかもしれない。


___________


「よかったんでしょうか……!?
 あのまま放置して来ちゃいましたけど……」

 横島の腕の中で、処女宮を振り返るおキヌ。
 二人は、今、第七の宮『天秤宮』へ向かって走っていた。前回同様『お姫様だっこ』状態である。

「大丈夫だろ?
 精神的には強そうな奴だったし。
 まあ、帰りにもう一度様子を見よう」

 おキヌちゃんは優しいなと思いながら、横島が語りかけた。

「……はい!!
 それより……。
 今度は、私をおいてかないで下さいね!?
 さっきみたいなことあったら……嫌ですから」

 おキヌは、精神崩壊の件まで含めて、そう言っている。
 もちろん、詳細を忘れた横島には、彼女の真意は伝わらない。ただ、時間を浪費したことを示しているのだと思っていた。

「ああ……!!
 この先は……ずっと一緒だ!!
 横で見守っててくれ!!」
「はいっ!!」

 横島の『ずっと一緒』という言葉が嬉しくて、おキヌは、笑顔で強く返事する。彼女のことだから、横島が意図した以上の意味で受けとってしまったのだろう。

「……見えてきたぞ!!」

 そして、二人は天秤宮に突入した!!


___________


 一方、ギリシアから遠く離れた日本では……。
 無人の美神除霊事務所を、小笠原エミが訪れようとしていた。
 建物が見えて来たところで、そこから友人が出てくるのが目に入る。

「あれっ、冥子じゃないの!?」
「あ、エミちゃん〜〜!!」

 それは、美神の親友の一人、六道冥子。ちょっと天然ボケな、お嬢様GSである。

「冥子の霊感にも引っ掛かったってワケ!?」

 アシュタロスの事件の後、強力な魔物や妖怪はすっかりおとなしくなってしまった。必然的に、仕事も小さなものばかりとなる。そんな御時世なのに、何か大金になる仕事が美神のところに来ている……。
 エミは、そんな気がしたから、ここへ来たのだ。

「そこまで大きな仕事なら、令子の手には負えないワケ。
 今までだって……
 香港の事件にしろ、アシュタロスの時にしろ、
 最後には私たちが協力したんだから!!」

 こういう言い方ならば、エミのプライドが傷つかない形で、仕事に混ぜてもらえるはず。
 冥子まで来ているということは、ますます可能性が高まったのだが、どうやら冥子の目的は違うようだった。

「え〜〜!?
 私はただ遊びに来ただけよ〜〜。
 仕事がないなら〜〜
 平和で〜〜いいじゃない〜〜!?」

 あっけらかんとした冥子。そんな彼女を見て、冥子は心底からお嬢様なのだと、エミは再認識する。
 そこへ、金持ちではないGSが一人、通りかかった。

「おっ!?
 お二人さんも来ているということは……
 やっぱり美神の大将、なにかやってるんだな!?」

 伊達雪之丞である。正式なGS免許はないはずだが、それでも、若手ではトップレベルの実力を持つ。マザコンなのとバトルジャンキーなのが玉に瑕な男だ。

「またスゲー戦いが始まったような気がして、
 来てみたんだが……」

 彼は彼なりに、エミとは違う意味で、何か察したらしい。

「令子ちゃんなら〜〜留守よ〜〜!?
 誰もいないの〜〜」

 この言葉を聞いて、エミと雪之丞がハッとする。やはり美神は、大きな仕事に出かけていて、強力な敵を相手にしているのだ。
 一方、そんな二人の心中とは裏腹に、冥子はノンビリしていた。

「いいじゃない〜〜。
 次の機会に混ぜてもらえば〜〜!?」

 そして、自分のことを語りはじめた。
 人はいなかったが、留守番をしていた人工幽霊を相手に、ここで楽しくおしゃべりをしていたそうだ。
 しかし、こんな話、エミも雪之丞も真剣に聞くわけがなかった。

「ちょっと〜〜!?
 二人とも〜〜聞いてる〜〜!?」

 冥子は、ちょっとプンプン状態だ。ぜひ言っておきたいポイントがあるからだ。

「冥子ね〜〜
 『世界で一番心が清らかな人間』
 って言われちゃったの〜〜!!」
「はあ……!?」

 呆れるエミと雪之丞。
 確かに、冥子は、傲慢でもないし、お金に汚いわけでもない。ハンサムに弱いわけでもないし、戦闘狂でもない。しかし、だからと言って『世界で一番心が清らかな人間』とは、いかがなものか。どういう会話の流れだったか知らないが、これは言い過ぎである。

「そんなふうに天然ボケを表現するのって
 はじめて聞いたワケ……」
「学のない俺が言うのもなんだが……。
 『名は体を表す』って言うだろ!?
 あんたの名前は『冥子』なんだぜ!?
 それで『心が清らか』はヘンだろう……」
「ひど〜〜い!!」

 冗談で話をまとめてしまう三人であったが……。
 この雪之丞の発言には、彼自身も意図していない深い意味があった。
 しかし、その意味に気付く者は、まだ誰もいない……。


(第四話に続く)


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 こんにちは。
 この第三話だけ読むと、『聖闘士星矢』の世界の中で横島が戦っているように見えるかもしれませんが、これは『GS美神』の世界です(詳しくは、第一話を御参照ください)。
 第二話でいただいたコメントを考慮して、少し文体を自分本来のものに戻したつもりですが、変化はあったでしょうか。
 さて、今回はシャカの代表的な技を『GS美神』の用語で説明してみました。「なるほど」と笑っていただけるか「ふざけるな」とお叱りを受けるか……。馬鹿にしたと思われないことを祈っています。
 また、ポセインドン編から本格参加させるつもりだったおキヌちゃんを、早くも投入してしまいました。黄金の鎧をまとったおキヌちゃん、いかがだったでしょうか。少なくとも私自身は萌えました(笑)。
 では、次回もよろしくお願いします。
 

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