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「魔神様の恋4(GS)」

ラムダ (2008-02-07 22:32/2008-02-07 22:42)
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 町外れの倉庫街。
 私は神通棍を構え、気配を消し、物陰に隠れながら移動する。
「令子……待っていて……」
 私はそう呟くと、また近くの物陰に移動する。
 突然、謎の魔族に襲われ、誘拐された令子を助けるため、気が付けば、私は自宅のマンションを飛び出していた。
 芦原さんが呼び止めた気もしたがよくわからなかった。
 敵の目的も、正体も分からないのは危険なこと。
 でも、飛び出さずにはいられなかった。
 それは、親なら当然のこと。
 自分の子供を助け出すためなら、自分の命など惜しくはない。
 芦原さん……ごめんなさい。
 令子のこと、よろしくお願いします。


 不自然に扉が開けられた倉庫。
 私はそこに飛び込んだ。
「ママ!」
 上の方から私を呼ぶ声がし、そちらを見ると、二階の太い鉄骨に鎖によってがんじがらめにされている令子を見つける。
「令子!」
 私は、令子に向って走り出す。
 そのとき、何かが風を切る音がする。
 私は素早く後ろに飛ぶと、先ほどまでいた場所に何かが飛んできて火花を散らす。
「フフフフ、来たわね。美神美智恵!」
 令子の前に、ボーンテージを着込んだ、ゾクッとするほど美しい女が立ちはだかる。
 女の背中には、蝙蝠のような翼が生え、手には鞭のようなものが握られている。
「あなたが令子を……!」
「そうよ。私の名はリル、サキュバスのリル。貴方を……殺すわ!」
 そういって、リルと名乗るサキュバスは鞭を構える。
「ママ、気をつけて!こいつ……かなり危ないわ!!」
「危ないとは失礼ね……。私はただ愛しているだけよ」
 令子の言葉に、リルは怪しく微笑む。
「何が愛しているよ!こんなに芦原さんの盗撮写真張り巡らしてるのは、危ない奴よ!!」
 令子の言葉に、私はあたりを見回してみる。
 そこには芦原さん、いえ、アシュタロスさんの写真写真写真……。
 笑っているもの、考え事しているもの、部下に指示を出していると思われるもの、ありとあらゆるアシュタロスさんの写真が貼られている。
「こ、これは……」
 異常だ……。
「ウフフ。どう?私のコレクション。ありとあらゆるアシュタロス様の写真。これを見ていると、私、幸せなの。私のためだけに微笑んでくれているアシュタロス様。私だけを見つめてくれているアシュタロス様。私を励ましてくれているアシュタロス様。私をどなってくださっているアシュタロス様……」
 リルはそういって、胸元から一枚のアシュタロスさんの写真を取り出すと、口付けをする。
「私にとって、アシュタロス様が全て……。それを奪い取ろうとする貴様は、消えてしまえ!!」
 リルはそう叫ぶと、二階から飛び降り、鞭を振るってくる。
「ハッ!」
 私はそれをかわすと、ボウガンを取り出し構える。
「あなた……狂ってるわ……」
「狂ってる?私が?アハハハハ……!私は正常よ。いたって正常。狂っているとすれば、貴方と付き合っているアシュタロス様よ!貴方を殺して、アシュタロス様を更正させなくちゃ♪」
 リルはゾクリとするような、妖艶な笑みを浮かべ、鞭を振るってくる。
「ふざけるんじゃないわよ!アシュタロスさんが狂っているわけないじゃない!!」
 私は鞭をかわして、ボウガンを放つ。
「メス猫が!」
 リルはボウガンをかわし、鞭を戻す。
 すると、鞭は鋭い剣に変わる。
「切り刻んでやる!手足の自由を奪って、インキュバスどもの慰め物にしてやる!!」
「かかってきなさい!!」
 私は、神通棍を構える。
 リルの剣と私の神通棍が火花を散らす。
「「くぅううっ!はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
 私の霊力とリルの魔力が火花を散らす。
 火花は次第に大きくなり、次の瞬間、互いにためた霊力と魔力が大爆発を起こす。
「「きゃぁぁぁぁ!!」」
「ママ!!」
 私は倉庫の薄い壁をぶち破って、外に飛ばされた。


「ハァハァ……、一体……美智恵さんはどこだ!」
 私は、あの手紙に記されていた倉庫街まで来た。
 しかし、人間の体というのは不便なものだとつくづく感じる。
 この程度の距離、魔神ならば一瞬で移動できるのに、人間だとタクシーに乗ったり走ったりで、かなりの時間がかかってしまった。
「二人とも無事ならいいが……」
 私は額に浮かんだ汗をぬぐうと、あたりを見回す。
 そのとき、目の前の倉庫の壁をぶち破り、何かが私の前に転がってくる。
「くっ!うぅ……」
 それは美智恵さんだった。
「美智恵さん!」
 私はとっさに駆け寄り、抱えあげる。
「あ、芦原さん……」
 美智恵さんはよろよろと立ち上がり、神通棍を構える。
「大丈夫かね!」
「ええ、腕も、足も動くから、一応は……ね」
 そういって微笑んで見せる。
「私も手伝おう」
 私はポケットからレザーグローブを取り出し、装着する。
 これは魔神としての力を封じられても、悪霊や下級魔族と戦える程度の力を引き出すことが出来るグローブだ。
 私は拳を構え、美智恵さんの前に立つが、それを彼女が制する。
「芦原さん、悪いけどこれは女同士の戦いよ」
 倉庫の中から、一人の女性が現れる。
 それと同時に感じる魔力。
 ……サキュバスか……。
 しかし、どこかで見たことがある……。


 これは夢?
 いえ、現実だわ!
 ああ!目の前に愛しい私のアシュタロス様が!!
 人間に擬態していても、全く衰えない美しさ!私を見つめ下さる冷たい視線!
 あぁ!私は、リルはあなたのその視線だけで、果ててしまいそうです!!
「アシュタロス様……」
 私は呟くようにいう。
「ああ、愛しのアシュタロス様!今、リルがその美神美智恵の魔手から開放して差し上げますわ!!」
 アシュタロス様がそこにいる。アシュタロス様が私を見てくださっている。
 それだけで私は無限の力を手に入れられる!!
「受けなさい!美神美智恵!!アシュタロス様から受けた愛の力を!!!受けなさい、シンフォニーオブディストラクション!!!!」
 私は美智恵に向って、全魔力をこめて、アシュタロス様の愛を受けた鞭を振るう!


 全魔力がこめられた鞭!
 全てを破壊しながら私に迫る。これはちょっとまずいかも!
 そのとき、私の持つ神通棍に芦原さんの手が添えられる。
「いいかね、私の力と美智恵さんの力。両方を同調させれば防げる可能性がある。ただ、寸分の狂いもなくあわせる必要がある。出来るかね?」
「……やってみるわ」
 私は、芦原さんに向けて微笑む。
「さ、いくよ。順番は逆だが……夫婦そろっての初めての共同作業だ!」
「ええ!」
 芦原さんの顔が微妙に赤かった。
「おおおお!!」
 芦原さんの霊力、いえ、魔力が上がり始める。
 私もそれに合わせて、霊力を上昇させる。
 神通棍の輝きが増す。
「「でりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」
 私たちは、神通棍を思いっきり振るった。
 そこから衝撃波みたいなものが発せられ、まっすぐリルに向っていく!


 なぜ?
 なぜ?
 なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ!?
 なぜ、アシュタロス様はそのメス猫に力を貸すの!?
 なぜ、アシュタロス様は私の愛に気付いてくれないの!?
 貴方への愛は、私が一番なのに!!
 貴方への思いは、誰にも負けないのに!!
 貴方が死ねといえば、私はいつでも喜んで首を跳ねるのに!!
 貴方が殺せといえば、神魔両指導者でさえ殺せるのに!!
 なのに!
 なのに!!
 なのになのになのになのになのに……
「なのになぜそのメス猫の味方をぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
 私の鞭は、二人が振るった衝撃波にかき消され、私は光に包まれた。


 そこには、ボロボロになったリルが倒れていた。
「ママッ!」
「令子ッ!」
 芦原さんによって解放された令子が私に抱きつく。
「うっ…うう……」
 リルが倒れながら、涙を流す。
「私は、ずっとアシュタロス様が好きだった……。ずっと、ずっと……」
 そういってリルが目を押さえる。
「……思い出したよ。君は五年程前から、私の宮殿に仕えてきたサキュバスではないかね」
 リルは黙って頷いた。


 五年前、私は知り合いの口利きで、アシュタロス様の宮殿に仕えました。
 しかし、新人で雑用ばかりを押し付けられ、なれない仕事で、色々ミスをして落ち込んでいました。
 ある時、上司からの命令で大量の資料を運んでいるとき、一人の人物とぶつかってしまいました。
 私は、謝りながら書類を拾っていると、その人も手伝ってくれたんです。
「君一人で、これだけの書類を運ぶのは大変だろう。私も手伝うよ」
 その人はそういって、一緒に運んでくれたんです。
 それが、アシュタロス様でした。
 アシュタロス様は、一緒に書類を運んでくれたばかりか、私の上司に
「いくら新人とはいえ、彼女一人にこれだけの書類を運ばせるとは何事か!貴様も同じ苦労を味わってみろ!!」
 そう怒鳴りつけてくださいました。
 そのときから、私はアシュタロス様に惹かれていたのです。
 でも、私はサキュバス。
 魔神からすれば、我々夜魔族など、身分が違いすぎます。リリス様のように絶大なる魔力を持っていれば別ですが、私は普通程度の魔力。
 だから、ずっと慕うだけ、遠くから眺めるだけ。そう心に決めていたんです。
 そんなときでした。
 アシュタロス様が、人間の女性に惚れ、魔神としての力を封じて人間界に向ったと聞いたのは……。
 私は憤りました。
 身分の違いから、告白も出来ずにいたのに、人間の、それも子持ちの女性に惹かれたと聞いて、私の中で何かが切れてしまったんです。
 アシュタロス様に出会ったのは、私が先なのに!人間の寿命はたかだか八十年、それに比べて、私たちはほぼ無限。同じ時間を生きられるのに、なぜ、人間のように一時しか一緒にいられないものに惹かれたのかと……。
 だから…だから……!!


 リルはただただ、涙を流していた。
「辛かったのね……」
 私には呟くしかなかった。
 その時芦原さんがかがむ。
「君の事は覚えている。私も覚えている。何名か入った新人の中でもいつもがんばっていたことを覚えているよ。……私は身分の違いなどは気にしない方だ。もし、美智恵さんと出会う前に、君に告白されていたら、君を好きになっていただろう。だが、今は美智恵さんしか見えないんだ。……すまない」
 芦原さんは本当に申し訳なさそうに、頭を下げる。
 私がリルと同じ立場だったらどうだろうか?
 告白できず、遠くからしか見ることが出来ない苛立ち、そんなときに現れる恋人。
 思いの深さもあるかもしれないけど、気が狂ってしまうかもしれない。
 その時、私の頭の中にあることがひらめいた。
「ねぇ、リル?私が死んだ後、芦原さんを貴方に譲るわ」
「「「は?」」」
 私の言葉に、全員の目が点になる。
「だって、人間精々長生きしても百年くらいでしょ?私は、私が生きている間、芦原さんがいてくれればいいわ。その後は、魔界に戻ろうが、人間界で暮らそうが、私はかまわないわ。だから、ね。リル、私が生きている間は、芦原さんの隣は譲らない。でも、死んだ後なら別にかまわないわ……」
「美智恵さん!これからっていうときに、縁起でもない!!」
「そうよ!ママ!!」
「シャラップ!!」
 文句をいってくる令子と芦原さんを一喝する。
「これはもう決めたこと!それに、同じ男の人に惚れた者同士の協定よ」
「美神美智恵……。ありがとう……」
 私の言葉にリルが立ち上がり、顔をうつむかせる。
「でも今すぐがいい!ここで死ねぇい!!」
「「「何も分かってねぇよ!この女!!」」」
 私たちとリルの追いかけっこは、朝日が昇るまで続いた。


 その頃、リタイヤしたハーピーに代わり、美神家で芦原三人娘の面倒……もとい護衛をすることになったメドーサは……。
「ハピはまだ寝ないでちゅ!!」
 そういって、テレビの前を陣取るパピリオ。
 時間は夜の十時を回ったところで、良い子はそろそろ寝る時間……。
「いいから寝な!クソがき!あたしは、ここにある高級ブランデーを飲みながら、ドラマが見たいんだよ!!」
「パピは深夜アニメが見たいでちゅ!オバチャンは我慢するでちゅ!!」
「お、オバチャンだと!!」
「そうでちゅ。誰が見てもオバチャンでちゅ!その大きなおっぱいも補正下着でよせてあげてるんでちゅ!!」
「このマセガキがぁ!」
「なんでちゅかぁ!!」
 パピリオと同じレベルで争うメドーサ。まるでパピリオが二人のよう。
 その片隅のソファーで、喧騒をものともせずぐっすり眠るベスパ。
「は、はは……。誰でもいいから早く帰ってきて、収拾つけてよ……」
 いくらしっかり者のルシオラであっても、こればかりはムリだった……。


あとがき
 一晩寝たら、熱が収まったラムダです。
 さてさて、何とかアブナイ人編終わりました。本当は、凄いダークな終わりにしようかと思ったんですが、この方がGSらしくてよろしいかと……。
 それにしても、意外と人気が高いなぁベスパ(笑
 それではレス返しを


怒羅さん
>トレンディドラマだと思っていたら、彼女の登場でいきなり昼ドラになりましたよ。
 自分も最初はトレンディドラマ風を目指していたんですよ。それが書いている間に……。ま、まぁこういうのはよくあることですよね!

ただ今弾切れ中さん
>いやはや、中々面白い設定で堪能しました。
 お褒めの言葉、ありがとうございます。これからもがんばりますので、よろしくお願いします。

北条ヤスナリさん
>美智恵さんと令子さんと三姉妹に怪我をさせないようにくれぐれも注意して、美智恵さんとクソ魔神の仲を引き裂くんだ!ヽ(`Д´)ノ
 残念!引き裂けませんでした!!彼らの中はそう簡単に切れませんよ!!
>こう胸の奥からふつふつと熱い情念が湧いてくるのはボクだけでしょうか?(#´・ω・`)
 自分も、他の作品を読んでいてたまにそうなることがあります。

紅蓮さん
>べスパちゃんに萌えです。
 この作品でベスパは萌え担当です(オイ

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