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「魔神様の恋3(GS)」

ラムダ (2008-02-06 22:39/2008-02-07 12:32)
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 魔界のとある一軒家。
 レンガ作りで、少々みすぼらしい感じがする。
 あたりは木々が鬱蒼と茂り、ただでさえ薄暗い闇で包まれている魔界で、さらに闇に包まれている。
 その家の中に、一人の女性がいる。
 卵形の顔に少々釣り目気味な切れ長の目、すっと通った鼻筋、赤いルージュが引かれた唇。
 黒い髪を腰まで伸ばし、扇情的な服を着込み、背中からは蝙蝠のような羽が生えている。
「はぁ、アシュタロス様……」
 女性がベットに仰向けに寝そべり、目を閉じながら、ため息混じりに呟くように言う。
「貴方の笑顔は、まるで太陽のよう。貴方の声はセイレーンより美しい。貴方のそのたくましい腕は、雷神トールに勝るとも劣らない……」
 女性はうっとりとしながら、目を開け天井を見上げる。
 そこには魔神アシュタロスの等身大の全身写真。
 だが、天井だけではない。
 壁にも、窓にも、枕にも、布団にも、ありとあらゆるところにアシュタロスの写真が張ってあるのだ。
「私はこんなにも貴方のことを愛しているのに……。貴方は魔神、私は一介のサキュバス。身分の違いから結ばれない定め……。だから私は遠くから貴方を見つめて過ごすだけ、こうして写真を眺めて過ごすだけ。そう、私はこうして偲ぶだけ……。だけど、いつか貴方は私に気付いてくれる。そう信じていた……」
 彼女はそういうと、おもむろに立ち上がり机に向うと、一枚の写真をつまみ上げる。
 そこに映っているのは、美神美智恵であった。
「な・の・に!美神美智恵!!人間のクセにアシュタロス様をたぶらかしたメス猫!!」
 彼女はそう叫ぶと、写真を握りつぶす。
「あの笑顔は私だけのもの!あの声は私だけのもの!あの腕は私を抱きしめるためのもの!あの厚い胸板は私の顔を埋めるためのもの!!」
 握る手に力が入る。
「許しはしない……。私のアシュタロス様をたぶらかす者は例えリリス様でも許さない!殺してやる……。殺してやるわ!!フ、フフ、フフフ、フフフフフフフ……」
 握りつぶした写真が自然と燃え上がる。
「あちっ!あちちちち!!」
 彼女が急いで台所に向ったのはいうまでもない……。


 夜のマンションの屋上で、あたいは星を見上げて横になる。
「ふあぁ〜、ヒマじゃん……」
 あたいはハーピー。
 かつて、美神美智恵を始末しようとして、逆に対魔族退魔護符により時空間に飛ばされた。
 何とか自力で、シャバに戻ればアシュタロス様の宮殿だった。
 そこでアシュタロス様に拾われ、部下となったわけだけど……。
「かつてあたいを封じた奴の子供の護衛なんて、気に入らないじゃん……。まぁ、拾われた恩があるけど……」
 あたいはそう呟くと、また一つあくびをする。
「…ヒマ……眠い……」
 まぶたが重くなってくる。
 そのとき、とてつもない殺気が近付いてくる。
 あたいはとっさに立ち上がり、羽を構える。
 煌々と輝く満月に、蝙蝠のような翼を広げた人の影が映る。
「何者じゃん!」
「……メス鳥、邪魔をする気?」
 月明かりに映し出されたのは、女のあたいでもゾクッとするくらい綺麗な女。
 姿と魔力からサキュバス……。
「どきなさい……」
 それだけいうと、その女は右手にもった鞭のようなものを振るう。
「チィ!フェザー・ブレット!!」
 あたいはバックステップをして鞭をかわすと同時に、羽を投げつける。
「そんなもの、私には効かない!」
 女は鞭を素早く戻すとフェザー・ブレットを弾く。
「なら、これはどうじゃん!フェザー・ブレット・バースト!!」
 今度は三枚の羽を立て続けに投げる。
 いくら鞭を振るう速度が速くても、高速の羽を三枚弾くのは至難の技のはず!
「舐めないで欲しいわね!メス鳥!!」
 そう叫んだ次の瞬間、女の持っていた鞭が短くなり剣になる。
「そんなのありぃぃ!」
「今度はこっちからいくわよ!デス・ラプソディー!!」
 女が剣を鞭に変化させ、振り回しながら、猛スピードで突っ込んでくる。
「や、ヤバイじゃん!!」
 あたいは翼を広げると、急上昇するが、それを追いかけるように女も迫ってくる。
「逃げても無駄よ。メス鳥……」
 女の振るう鞭があたいに絡まる。
「グッ!」
 鞭だと思っていたその武器は、所々に金属のとげのようなものが付いている。
 これが縮めたときに剣になった正体!
「フフフ。捕まえたわ、メス鳥ちゃん♪そしてさようなら♪エターナル……レクイエム」
 女のゾクッとするような妖艶な笑みと甘い声でのささやき。
 次の瞬間、あたいの体中を襲う激痛。
 あたいはそこで記憶を失った。


 何か屋上が騒がしい。
「令子お姉ちゃん、今度はこれ読んで欲しいでちゅ」
 今日はママと芦原さん、二人きりでデート。
 そのため、芦原さんの三人娘は私が預かる事になった。
 あの不良に絡まれた翌日、芦原さんが実は魔神で、ママに一目ぼれしたこと、別にこの世界を征服する意思はないこと、三人の娘も人間に擬態している魔族だということを教えられた。
 最初は魔族、それも魔神って聞いてびっくり、しかもママに一目ぼれしたって聞いてさらにびっくりした。
 でもま、そんなに悪い人じゃないし、本当に人間界を征服するつもりもなさそうだし、何よりママを大切に思ってくれているようだから、私は了承した。
「早く読むでちゅ!」
「あーはいはい……」
 お風呂から上がってきたばかりの末っ子のパピリオちゃんが、絵本を持ってくる。
 この本……さっき読んだ本じゃん……。
「パピリオ、迷惑掛けちゃダメよ」
「わかってるでちゅ!」
 長女のルシオラちゃんは、しっかり者で姉妹の面倒も良く見ている。
 小さい子供があまり好きじゃない私には、この子の存在は実にありがたい。
 ルシオラちゃんがベスパちゃんの髪の毛をタオルで拭いている。
「お姉ちゃん、テレビみたい……」
「令子お姉ちゃんに聞いてごらん?」
 トコトコとベスパちゃんが私に近付いてきて、クイクイと服を引っ張る。
「テレビ見ていい?」
「いいわよ」
「ありがと」
 ベスパちゃんがちょこんと頭を下げて、テレビのスイッチを入れる。
 ベスパちゃんは人見知りで無口だけど、仕草の一つ一つが可愛くて、時々ぎゅーって抱きしめたくなる。
 テレビのスイッチを入れると、今女の子達の間で大人気のアニメのテーマ曲が流れる。
「パピもみるでちゅ!」
 私の膝の上に座っていたパピリオちゃんが飛び降り、ベスパちゃんの隣に座る。
「ふぅ〜」
 私はため息を付くと、ソファーにもたれかかる。
「ごめんなさい、パピリオが迷惑かけて」
 そういって、ルシオラちゃんがジュースを持ってきてくれる。
「あ、ありがと。まぁ、これから家族になるわけだから、こういうことも日常茶飯事になるのよねぇ〜」
「そうですね」
 私の言葉にルシオラちゃんがクスクスと笑う。
「ねぇ?もう少し砕けて話してもいいんじゃない?な〜んか硬いわよ?」
「そ、そうですか?」
「ほら、その口調が固いって」
「そ、それじゃ……お姉ちゃん」
 ルシオラちゃんが顔を赤らめて、上目遣いで私を見てくる。
「可愛い!!」
「うわっ!ちょ、ちょっとお姉ちゃん!!」
 ルシオラちゃんの仕草の可愛さに思わず抱きついてしまった。
 そのとき、何処からともなくやさしい感じの、ゆっくりとしたテンポの曲が流れてくる。
「……あれ、眠いでちゅ……」
「私も……」
 そういうとベスパちゃんとパピリオちゃんがくたっと倒れて寝てしまった。
「ちょっと二人とも……」
 私は二人に近付く。
「お姉ちゃん……おかしいよ。この眠気……こんなに、いきなり……」
 そういってルシオラちゃんもくたっと倒れる。
「一体…どうして……」
 私にも激しい眠気が襲ってくる。
「これは……」
「……サドンノクターン。いかがかしら、私の調べは?」
 強烈な眠気に襲われる私の前に、扇情的な服を着て、背中から蝙蝠のような翼を生やした女性がいた。
「あ…なた……は?」
「フフフ、私はリル。サキュバスのリルよ。おやすみなさい、美神令子……」
 そこで私は記憶を失った。


「今日はとても楽しかったわ」
「私もだよ」
 私と芦原さん……アシュタロスさんとで二人きりのデートをしてきた。
 ルシオラちゃんたちを令子に預けて、映画にいって、ちょっと高級なレストランで食事して……。
 私たちはエレベーターに乗り、部屋のある階のボタンを押す。
「令子、ルシオラちゃんたちと仲良くやっているかしら?」
「大丈夫だよ。子供たちはすぐ打ち解けるものさ」
「そうなんだけど……」
 令子は子供嫌いな面があるから……。
 そんなことを思っているうちに、エレベータは自宅のある階に着いた。
 私たちは腕を組みながら、自室に向う。
「それじゃ、芦原さん」
「ああ、それじゃ」
 玄関前で軽く口付けをして、私は玄関の鍵を開ける。
「ただいま〜」
「ルシオラ、ベスパ、パピリオ〜。帰るぞ」
 二人並んで、リビングに入ってみるとそこにはテレビの前で倒れているベスパちゃんとパピリオちゃん。ソファーのところにはルシオラちゃんが倒れていた。
 そしてわずかに部屋に残っている魔力。
「一体どうしたというんだ!」
 アシュタロスさんは、三人の娘を起こすがいっこうに目覚めない。
 私は部屋全体を見渡す。
 令子が……いない!
「令子!令子いないの!どこなの!!」
 私は部屋中を探すが、何処にもいない。
 令子の部屋にも、トイレにも、お風呂場にも……。
「令子……どこなの……」
 私は呆然とし、崩れ落ちる。
 そこに一枚の紙が舞い落ちる。
 それは手紙だった。

『泥棒猫の美神美智恵へ
貴方の大事な娘さんは預かったわ。返して欲しければ、町外れの倉庫外まで来なさい。
もちろん一人でね。』

 私は自室に戻ると、神通棍と霊体ボウガン、退魔族用退魔護符を持ち出す。
「待っていてね。令子!」
 私はそう呟くと部屋を飛び出していた。


 私は通信鬼を取り出す。
 確か、ハーピーに護衛を頼んでいたはずだが、これはどういうことだ!!
「ハーピー!聞こえるか、ハーピー!!」
『アシュ…様。申し訳……ないじゃん……』
 通信鬼からハーピーの苦しそうな声が聞こえてくる。
『突然…サキュバスが襲ってきて……不覚を…』
「サキュバス……だと」
 サキュバスは、人間の男の精を搾り取るはず。それに、好戦的ではないはず。それがなぜ、ここを……。
 そのとき、ドアを思い切り開ける音がする。
「美智恵さん!!」
 飛び出した彼女は、エレベータに乗り込んだところだった。
 そのとき、私の足元に、一枚の紙切れが落ちているのに気付く。
 私はそれを拾い上げる。
 それは手紙だった。
「令子ちゃんがさらわれた……」
 私の胸に怒りがこみ上げる。
「ハーピー、体は大丈夫か?」
『申し訳…ございません。しばらくは……ムリです』
「わかった」
 私は、通信鬼を操作し、別の部下につなぐ。
『はい』
 通信鬼の向こうから、だるそうな女の声が聞こえる。
「ハーピーがやられた。直ちに彼女を回収し、私の娘達を保護しろ。今すぐに」
『無茶なことをいう雇い主だねぇ。まぁ、了解しましたよ。アシュ様』
「頼むぞ、メドーサ」
 私は手紙を握りつぶすと、美智恵さんと同じく走り出した。


「ウフ、ウフフ、ウフフフフフフフフ……」
 私は気持ち悪い女の笑い声で目を覚ました。
 私は自分の体を見回す。
 太い鉄骨に、鎖でがんじがらめにされていて、身動き一つ取れない。
「あら、お目覚め?」
 一人の女が、椅子から立ち上がり、私に近付く。
 その女は、リルと名乗ったサキュバスだ。
「もうすぐ貴方のお母さんが来るわ。そして、貴方のお母さんは、私にやられるの……。フフ」
 そういってリルは、私に怪しく微笑む。
「ふん!ママはあんたなんかには負けないわよ!!」
「そうかしら?今の私は無敵よ。何せ……」
 リルはそこまでいうと、蛍光灯の電源を入れる。
「アシュタロス様が見つめてくれているから!!」
 明かりによって浮かび上がったのは、芦原さん……いえ、アシュタロスさんの写真。
 それも、一枚や二枚じゃない。
 三百六十度、全方向、全てにアシュタロスさんの写真が貼られている。
 しかも、そのほとんどが盗撮と思われるものばかり。
「ス、ストーカーサキュバス……」
 私は聞こえるか聞こえないかの声で呟くのが精一杯だった。
「この視線の全てが私に力をくれるのよ!あは、あはは、あははははははははは……!!」
 この女……そうとうヤバイわよ、ママ、芦原さん!!


あとがき
 第一話のギャグコメ風味は何処に行ったのかと、作者自身も思う今日この頃です。
 美知恵さんの恋敵、最初から出す予定だったけど……かなり危ない人になっちゃいました……。
 ついでに風邪こじらせて、熱出ちゃいました……。
 お一人お一人にコメントのお返ししようと思いましたが、体がきついんでこの辺で失礼いたします……。

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