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「ゆうしゃとまおう  成長編  一歩目(GS)」

らいとにんぐ (2008-02-07 19:42/2008-02-09 16:38)
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「あ゛ー……疲れた」

 グッタリとした様子で布団に潜り込む。
 明日は日曜日だからと修行にのめり込みすぎた。

 『霊力』という力がある。
 それは生命の持つ命の力、とも言える。魂からひねり出されるそれを使い切れば死んでしまう力。もっとも、普通は使い切る前に気絶してしまうのだが。
 ともかく、横島忠夫はその霊力を使う練習をしていた。

 夢で見た現実のお陰で微弱ではあるものの、力を使う方法がわかっていたのは幸いだった。

 いざ練習といっても、実際にどうすればいいのか。
 そんな時、子供である横島が一番身近なものであるマンガを参考にするのは当然とも言えた。
 一冊のマンガ。それには霊力の使い方、修行法、取り扱い方、信用出来る人以外にはばらしてはいけない、などいろいろ書いてある。
 特別な力をもった少年少女らが活躍する、ありきたりなマンガだったのだが、その本は偶然なのか、実に的を射た事が書いてあった。

 横島忠夫は後にこのマンガに感謝する。
 彼にとって最大の幸運は、彼がこのマンガを参考にしていたからかも知れないから。


 始めて霊力が出たときは驚きと喜びで興奮した。早速、他にも何かしてみたくなる。
 思い浮かぶのは、夢に出てきた剣と盾と玉。最後の玉はよく分からなかったが、剣と盾はゲームでも良く出てくるものなので、それを参考にして霊力を形にする。
 フワフワとして頼りない力は、柔くて脆くて少しの衝撃にも容易く壊れてしまうような剣の形をとる。

 実に頼りない。だが、そんな物であったとしても興奮は止まらなかった。いや、更に跳ね上がる。
 向上心が鰻登りに上がっていった横島は、着々と力を手に入れていったのであった。


〜1〜


「おーい、横っち!」

「んあ? おー銀ちゃん、どうかしたんか?」

 学校から帰る時、背後から声を掛けられた。親友の銀ちゃん――堂本銀一だ。
 小学生だというのにかなりの美形で、毎日女の子に告白されている。
 横島はそれをうらやんでいたのだが、最近になってパタリと止めてしまっていた。

「どーしたもこーしたもないで。横っち、最近付き合いわるいやろ? 何かあったんか?」

 はっ、となる。
 修行することに夢中で最近は遊んでないことに気付いたのだ。

「あー……ごめん。ちょっと忙しくてな」

 とりあえず誤魔化しておく。

「ふーん……まあええわ。それよか遊びに行かへんか?」

「んー……そうやな。最近銀ちゃんと遊んでなかったしな、どこ行く?」

 わいわいと談笑しながら、途中で女友達の夏子と合流して久し振りに遊んだのだった。

 夕方も遅くなったころ、やっと家に帰ってきた横島。
 ふ、と思いついた。
 親友である銀ちゃんなら、霊力のことを話してもいいのではないだろうか。

 マンガによると、信頼できる人ならば話しても大丈夫らしい。
 今まで親にすら黙ってきた――とはいっても、まだ1ヶ月ほどだが――力の事。
 自分だけが特別な力を持っている。それは実に優越感を与えていた。
 誰かに話したい。誰かに自慢したい。
 そう思うのは自然な流れだった。

 内心で満面の笑みを浮かべ、早速計画を立てる。
 明日にでも教えようか。いや、日常の一コマで済ませてしまうのはもったいない。

 何か、何かイベントでもないだろうか。


 横島はわくわくしてきた。


 いつにしようか。

 計画を実行するのはいつにしようか。

 そうだ。

 もうすぐ夏休み。

 夏休み。

 思いついた。


 “きもだめし”


 この事件が、横島忠夫を形成していく事件に発達したのだ。


〜2〜


「銀ちゃん、きもだめしせーへんか?」

「きもだめし? おもしろそーやなぁ」

 夏休みが始まって3日目。ついに計画を実行するときがきたのである。
 修行の方も、そろそろ一月半。子供なら、余計な欲が出てきてしまうには十分な時間だった。

「ふっふっふ、銀ちゃん、聞いて驚け。俺な、霊能力が使えんねんで!」

「あ? 横っち、暑さでボケたか?」

「なんでやねん!」


 横っちのボケに銀ちゃんが突っ込む。
 それはもう、何年もの間見てきたものだ。
 私が――“夏子”が、何の問題もなく、ただ笑っていられた。


 ――今日までは。


 小さな音と共にそれはうまれた。

「うわー……横っち、ほんまに霊能力が使えたんやな……」

「だから、できるって言ったやろーが」

 横っち、銀ちゃん、夏子。
 三人の幼馴染みが夜遅く、近くの森に来ていた。
 約束通り、きもだめしをするためだ。

 この世界において、霊能力とは実在のものだった。
 オカルトが極度に嫌いという人でもないかぎり、それを認めている。霊も霊能力も実在しているのだ。時たま、ごく普通の人が体験してしまうほどに。
 だが、子供がそれを見ることなど滅多にない。子供がその力を使うなどというのはもっとない。霊能のことなど、精々話しで聞いた程度だ。

 二人は横島が出した霊力の剣――木の枝ほどの強度しかないが――を、目を見開き、手で触ったりして驚いていた。
 本当は触ると危ないのだが、横島の出した剣は強度も低く、刃も無いに等しい物だったため安全である。

「もし悪霊が出てきても、俺がこれで退治してやるからな!」

 驚いている二人に言う。鼻高々だった。

「おお、悪霊が出たら横っちに任せて俺等は逃げよな、夏子」

「うん、そーやな」

「おーい……そりゃないやろ……」

 がっくりと肩を落としている横島を見て笑う二人。いつものように、三人で笑いあえる時。

「まあまあ、ともかく早く行こ!」

 横島の背中をポンポンと叩いて夏子が先頭を行く。彼女は結構強気な少女である。

 きもだめしは、男二人は夏子に付いていく形で始まった。


「……だいぶ奥まできたな」

 ひっそりと静まりかえった森の中。三人は声を潜めて歩いていた。いつの間にか横島が先頭になっている。

「んー……なんも起きひんな」

「いや、起きたら困るんやけど」

 男二人は呑気に話している。もっとも、声は微妙に震えていたが。


 と、そんな時。横島は何かを感じた。

「そ、そろそろ帰ろか」

 先頭を歩いていた横島が突然立ち止まってそう言った。

「何や、恐なったんか?」

「ちゃうわ! 何か、帰った方が良い気がしただけや」

 横島は、何か嫌な予感がした。それは霊感という、霊能者にとっては大事な直感である。だが、このことを知らない横島は、銀一の言った言葉に反応して気のせいだと思ってしまった。強がりだ。

 三人は更に奥に進む。嫌な予感は更に悪化してきていた。

 耐えきれなくなり、ついに横島が再び立ち止まった。
 銀一も、いつもは強気な夏子も、何かを感じたのか黙っている。


「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」


 突然上がった叫び声。これは少なくとも人間の声ではない。

 本能的に恐怖を誘う声に三人は固まってしまった。

 草を掻き分けてくる音。

 ソレが近づいてくる。

 心臓が跳ねる。

 鼓膜が痛くなるほど激しく心臓を叩く。

 そして、


 ソレが姿を現した。


 本物の“悪霊”だ。


〜3〜


「う、あ……ぁ……」

 呻くような声、声も出せずに震える気配。
 横島は自分の後ろにそんな二人を感じた。目の前に現れた悪霊の所為だ。


 恐い。
 逃げたい。
 助けて。


 心臓が破裂しそうだった。
 体中から嫌な汗が滝のように流れ落ちる。
 瞬きをしたら、その瞬間に殺されてしまうような気がした。

 悪霊は品定めするかのようにこちらを睨んでいる。
 突如、悪霊が跳ねた。
 横島を飛び越えて怯える二人に迫ったのだ。二人は動くことも出来ないほど、恐怖に追い詰められていた。

「ひっ……!」

 引きつった声が上がる。夏子のものだ。


「う、あ、ぁあ……!」

 正直に言おう。

「た、助け……」

 横島忠夫が最初に考えたのは、二人をおいて逃げることだった。

「横、っち……」

 恐くて恐くて、霊能力の神秘に興奮して忘れていたモノを思い出した。

「助けて……」

 夢で見た魔王という名の“恐怖”。


「う、ぅあああアああああああああアアアああアああああああああアアアアアアアアアアアアアああああああっ!!!」


 そう、自分はその恐怖を打ち倒す為に力を求めたのだ。
 こんな、“恐怖”の1%も、爪の垢ほどの力もない敵に――


「負けられるかぁっ!!!」


 無我夢中で霊力の剣を振るう。
 剣と言うよりも棒だ。
 それが相手にダメージを与えているのかなど、サッパリわからない。
 ただ、一度でも止まってしまったら終わりのような気がする。
 だから、止まらない。
 切って、きって、キッテ、斬りまくる。
 当然、悪霊も反撃をしてくる。
 腐ったような身体。その身体にくっついている手の先にある爪。
 ひび割れて汚れていて、所々欠けている。だが鋭い。
 顔を、脇を、腕を、足を、背中、腹。様々なところを傷つけられる。
 勢い余って転んで擦り傷や、摩擦によって生まれた火傷。
 自分で負ってしまった怪我。敵にやられた怪我。
 痛い。けど、極度の緊張と興奮の所為で、何も感じない。
 ただ、無心に。斬って、切って、きって、キッテキッテキッテキッテキッテキッテキッテキッテキッテキッテキッテキッテキッテキッテキッテキッテキッテキッテキッテキッテキッテキッテキッテキッテキッテキッテキッテキッテキッテキッテキッテキッテキッテキッテキッテキッテ


 悪霊が消えた。

 倒した。
 そう、倒した。
 小さな小さな、始まりの勝利。

「は、はは、ははは」

 悪霊は随分と弱くて、駆けだしたばかりのへなちょこな自分でも倒せるほどでしかなかった。命の危機で霊力が一段と発揮されたからかも知れない。
 何にしろ、自分は倒したのだ。

 体中に切り傷とか、擦り傷とか、火傷とか、怪我をして血が出ていたけど。
 血まみれに見えても、見た目ほど怪我はたいしたこと無かった。
 痛さも我慢出来る。


「や、やったぞ……! 銀ちゃん、夏子。俺――」

 振り向いたそこには、恐怖の眼差しで見つめる二人がいた。
 恐怖に震え、涙を堪えた瞳で、横島を見ていた。


「「 ぅ、ぁ……化け、物……っ! 」」


 これが、横島忠夫の本当の始まり。


____________________

あ〜と〜が〜き〜

 量はこれで大丈夫……だと思いたい。


以下レス返しです。


>芝京さん

 末永く(続けば)よろしくお願いします。


>菅根さん

 プロローグなので、量は大目に見てください。すいません。


>Tシローさん

 今回からはちゃんとした量になっている(たぶん)ので、これからもよろしくお願いします。


>はに丸さん

 逆行というよりも、未来予知による再構成とでもいうのでしょうか。
 そんな感じです。


>TMさん

 これから成長していく横島君。
 どうぞよろしく。


>星の影さん

 一応予知のつもりです。今のところは。
 パワーバランスは崩れないように調整するつもりですが……た、たぶん大丈夫でしょ。……たぶん。
 一人称は……そう言われると気になるな……
 まあ、とりあえずこのままにしておきます。
 アドバイス、ありがとうございます。

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