横島と小竜姫は、唇を離すと手をつないだまま物陰から離れた。フロアには暖房が入っていたが、それ以上に暖かいものが胸の奥に灯っていて、とても気持ちがよかった。
その後は普通にミニボーリングや卓球をしたのだが、横島がルールを知っている遊具をおおむね遊び倒した頃には時計の短針が真上を向く時刻になっていた。
ちなみに対戦型の遊具はほとんど横島の負けという結果になっている。1階にあるゲームなら圧勝できるのだけれど……。
もっとも相手は剣の達人、運動神経も抜群なのだからそれはやむを得ないことだ。だから横島は負けても悔しくは……あったが、何かでリベンジしたいと思うほどではなかった。
「それじゃ小竜姫さま、そろそろお昼にしません? 4階がレストラン街になってますんで」
ちなみに3階はスロットなどメダルゲームのフロアである。ギャンブルではないから未成年でもできるが、横島も小竜姫もそういうものに興味はなかった。
「へえ、そんなものまであるんですか?」
「ええ、小さい店がいくつか並んでるだけですけど」
というわけで2人は4階に上ってどの店にするか物色し始めたが、選考基準として「肉や魚はダメ」というのがあるので意外と難しい。ハンバーガーショップは当然ダメだし、ラーメンも鶏ガラや豚骨や鰹節などがよく使われているので避けた方が無難である。
考えた末、横島は端の方にあった喫茶店を指さした。
「すいません、気を使わせてしまって」
小竜姫が済まなさそうに詫びてきたが、横島は何も気にしていなかった。料理の質について言えばどの店でも大差ないし。
さいわい席は半分くらい空いていて、2人は待たされることもなく2人用の席に座ることができた。横島はカレーライス、小竜姫はサンドイッチを注文する。
「何だか……とっても美味しいです」
半分ほど食べた辺りで、小竜姫がぽつりと呟いた。
味付け自体は何の変哲もないありきたりのものだったが、好きな人と2人きりでデート中というシチュエーションが最上級の調味料になっていたから。
雑誌でそういう記事を読んだこともあったが、ただのノロケ話ではなかったようだ。まあ彼女の場合は、「初めての」という1回きりの特殊効果がついていたせいかも知れないけれど。
「……そうですね」
横島も同じ気持ちだったが、彼はデート自体は初めてではないので心理的に余裕があった。こういう時にぜひやりたいベタ甘イベントが頭に浮かぶくらいには。
自分も小竜姫もあらかた食べ終わった頃を見計らってウェイトレスを呼び、オレンジジュースを1つだけ注文する。
「……?」
小竜姫は不思議そうに横島の顔をみつめていたが、あえて何も言わなかった。飲み物を追加するなら相方の希望も聞くのが普通だと思うのだが、ワリカンだからといってこちらの注文は放置するというほど彼も無神経な男じゃないし、何か考えがあるのだろうと思い直したのだ。
やがて2人が食べ終わるのとほぼ同時に、問題のオレンジジュースが運ばれてきた。横島はそれをテーブルの真ん中に置くと、ストローを2本出して1本を小竜姫の方に突き出した。
「……?」
小竜姫はそれでも彼の意図が読み取れなかったのだが、横島はむしろそれこそ予想通りという感じで(彼主観では)キザっぽい笑みを浮かべる。
「1杯のジュースをストロー2本でいっしょに飲むんですよ。喫茶店に入った恋人同士はみんなやるんです。
いわばデートの王道、いや帝道とでも言いましょーか」
「えええっ!?」
小竜姫は真っ赤になってうろたえた。そんなことをしたら顔と顔がくっつきそうなほど近づいてしまうし、自分たちがデート中だと周囲に丸分かりではないか。
しかしそれはそれで興味はあるし、すげなく断ってしまうのも義理悪い。
「しょ、しょーがないですね。この店を選んだのは横島さんですし、少しだけ付き合ってあげます」
などともっともらしい逃げ口上を並べつつ、妙に力のこもった手つきでストローが入った紙袋の端を破る小竜姫。
横島は実はけっこう緊張していたりもしたのだが、相手が自分よりあわあわしているのを見ると少し落ち着いて余裕がわいてきた。自分が言い出したことなんだし、きっちり最後までリードしてやるべきであろう。
タイミングを合わせて同時にストローをジュースの中に入れ、これまた同時に口にくわえる。
「……」
ちうーっ、とゆっくりジュースを吸う。しかし横島は飲み物の味より、目の前の婚約者の表情の方がいささか興味深かった。
「小竜姫さま、可愛いっスね」
「ぶふぅっ!?」
小竜姫は思わず噴き出してしまった。ジュースの水面に大波が立って横島の顔面を直撃する。
「ぷ!? つ、冷てぇ!?」
「あああっ、ごめんなさい! よ、横島さんがいきなり変なこと言うものですから。いえ、褒めてくれたことはうれしいんですけどっ!」
小竜姫はもう見苦しいほどに狼狽(ろうばい)してしまったが、とにかくおしぼりをつかんでみずから横島の顔をぬぐいにかかった。
一方横島は片手を上げてそのおしぼりを押さえると、上体を起こして小竜姫の手から顔を離す。自分で顔を拭いてとりあえず落ち着くと、ものすごく居たたまれなさそうな顔つきをしている婚約者に向かって口を開いた。
「あー、いや。小竜姫さまが謝ることないですよ。確かに俺が変なこと言ったからですし。
てゆーか年上のひとに可愛いってゆーのは失礼ですよね。でも俺のボキャブラリーじゃそれしか思いつかなかったんで」
「よ、横島さん!?」
今日の横島はいつものスケベ小僧とは違う。確かに煩悩はたくさんあるが、しかしこの別人なまでのマトモっぷりはどうした事か。小竜姫は驚きのあまり、開いた口が9秒ほどふさがらなかった。
「いや、そこまで驚かんでも……」
小竜姫はその失礼な感想を言葉にはしなかったが、口を開けっ放しにしていたら言っているのと同じである。理性と知識を総動員して「普通の」デートを演出しようと努力していた横島がぶーたれるのは当然のことだろう。
小竜姫はまたあわあわと顔の前で手を振って、
「あああっ、いえ、そーいうわけでは! そ、それより今のでジュースが減っちゃいましたから、もう1杯注文しませんか」
とごまかしたが、結局喫茶店を出るまで横島の顔を正面から見ることはできなかったのだった。
横島と小竜姫は喫茶店を出ると、1階に降りてビデオゲームやら何やらを軽く見物してからアミューズメントパークを後にした。いくら料金が変わらないからといって、初デートがこれだけというのはあまりに風情がなさ過ぎるというものだ。
「つーわけで、映画にでも行きましょう」
「そうですね、この階の遊具はちょっとよく分かりませんし」
2人はあっさり合意に達して、仲睦まじく腕を組んだまま映画館街に移動する。事前に予定を組んであったわけではないので、看板を流し見ながら良さそうなものを探した。
そのいくつも並んでいる看板の中の1枚に、横島が顔を知っている若い女性の写真があった。
「ん、あれは確か……白麗(ハクリー)さんだったな。そっか、日本でも上映されてるのか」
白麗というのは、横島たちが小竜姫の依頼で香港に行った時にエキストラとして参加した映画のヒロインの名前である。現地で人気が出たので、つい最近日本上陸を果たしたのだ。
ちなみに小竜姫はこのとき妙神山で傷の療養をしていたので、横島やエミたちがこの映画に出演していた事は知らない。
「横島さん、あの写真の人を知ってるんですか?」
「え? あ、はい。エキストラで出演しましたんで」
問われた横島が何の気なしにそう答えると、小竜姫は突然両目をキラキラ輝かせ始めた。
「え、横島さんが出演してるんですか? じゃあこれにしましょう。父上にも報告しないといけませんね」
小竜姫は人界の常識にはかなり詳しくなっていたから、映画に出るというのは相当すごいことだという事くらいは知っている。気になるのは当然だった。
しかし横島にとってはあまり自慢できる過去ではないので、
「あー、いえ、そんな大層なモンじゃありませんから。単なる敵役ですし。つか玉竜さまに報告ってのは勘弁して下さい」
どちらかと言えばギャグ役だったのだが、横島もさすがに婚約者にそこまであけすけにはなれなかったらしい。そして見栄を張った報いとして、ますます小竜姫の映画への関心を強めることになってしまった。
「そんなに卑下することないと思いますよ? 敵役も大事なポジションですから」
強いライバルや憎らしい悪役がいてこそ、ヒーローの活躍が際立つというものである。重要性は主人公と同じなのだ。
むろん現実世界では悪役など必要ないのだが。
「あう、わかりました。小竜姫さまがそこまで言うんなら。
でも顔さらして行くのはまずいんで、どっかで帽子とグラサン買わせて下さい」
小竜姫のキラキラ目にこもった決意は固くなる一方で、横島はついに説得を諦めた。しかしいくらギャグ役とはいえ、自分が出演した映画が上映される映画館に素顔で入ったら大騒ぎになりかねないので、多少の変装をさせてもらうことを希望する。
「あ、そうですね。わかりました」
小竜姫もその程度の理屈は分かる。横島の希望通り近くのデパートで安物の帽子とサングラスを購入すると、いよいよ話題の(?)香港映画「GS麗 駆魔大作戦」のチケットを買いに向かうのだった。
席に座ってもやっぱり手はつないだまま、じっと映画を鑑賞する横島と小竜姫。
吹き替え版なので字幕を読む面倒はないが、代わりに俳優の生の声を聞けないのが惜しいところだ。横島やエミたちの声も香港版の時点で中国語で撮り直されてしまっているので、今画面の中で街を歩いているピートの声も実物とは異なる。
「助けてーーー!」
という悲鳴とともに画面にヒロインの白麗が現れ、一面識もないピートの背中に隠れる。横島はこの展開にはいまだに納得できないものがあった。
「他にも通行人はいっぱいおるのに、何でピートに助けを求めるんじゃ? 顔か? やっぱり男は顔だとでも言うのか!?」
客はさほど多くなかったが、それでも場所柄に鑑みて口の中だけでぶつぶつと恨み言をこぼす横島。確かに白麗がピートが霊能者だと気づくのは助けてもらった後のことだから、彼の邪推もあながち間違いではないのかも知れないが……。
「まあまあ横島さん。あれは『お約束』というものなんじゃないですか?」
と小竜姫がこちらもささやき声で煩悩少年をなぐさめる。ここで白麗が冷静にピートの体格や雰囲気を観察して、「あんまり強そうじゃないからパス」と彼をスルーしてしまったら出会いを演出できないではないか。
「いや、そうなんですけどね……」
それでも横島はまだ不機嫌そうにしていたが、その間にも場面は進んで、いよいよ彼が登場するシーンになった。右拳に小竜気(シャオロニックオーラ)を輝かせてピートと対峙した少年の雄姿に、小竜姫も同じくらい目をキラキラキラキラと輝かせる。
「貴様のよーな美形がいるから、こんな富の偏在が起こるんだ。我らしっ○団の怒り、今こそその憎っくきツラがひん曲がるまで叩きこんでやるから覚悟しやがれ!」
……が、その興奮と感動はわずか3秒で冷めてしまった。
「何を言ってるんですか横島さん?」
「うう、あの監督め〜〜〜」
確かに似たようなことを言った覚えはあるが、あれは録音はされないアドリブだったはずだ。婚約者の冷たい視線に横島は悔し涙をちょちょ切らせた。
いや、小竜姫もあれはあくまで役柄上のことだと分かっているとは思うけれど。声も違うし。
もっとも彼は役はギャグでも霊能力は本物だった。「刻んでやる! 俺の、この俺の怒りをッ!!」という叫びとともに、オレンジ色の光が拳から肘、肩にまで広がっていく。
「へえ、やりますねぇ♪」
と小竜姫が今度は感嘆の声をあげる。画面の中の横島はオーラを右腕全体にまとわせたまま、獣のように俊敏な動きで格闘を演じているのだ。
ちなみに席に座っている方の横島は肉体が幽体化しているので、霊波攻撃をする時にわざわざオーラをまとう必要はない。むろん竜気を拳に集めればそれだけ威力は増すけれど。
そしてついにその怒りをこめた一撃がピートの顔面にヒットした。
「おっしゃあ!」
「……あれ、本気で殴ってません?」
思わずガッツポーズを決めた横島に、小竜姫が微妙にひきつった顔で突っ込みを入れる。武道の達人である彼女の眼には、画面の中の横島のパンチは自分が教えた正拳突きを「全力で」放ったものだと認識できていたのだ。むろんフィルムの切り貼りとかをしていなければの話だが。
しかし横島は涼しい顔で、
「迫真の演技でしょう? でも大丈夫ですよ、オーラの方は『少しだけ』手加減しましたんで」
「……」
小竜姫はかくんと肩を落として、返事の言葉も思いつかなかった。この男は自分はともかく、「傾国の美女」と「快感フィードバック娘」を左右に侍らせているのだから女に不自由してはいないだろうに。いやあの頃は独り身だったからモテる男に嫉妬するのはやむを得ないのかも知れないが、それにしても……。
そしてシーンがまた変わり、覚醒した白麗が霊剣を振るって雪之丞扮する刺客ヤンを倒す場面が映し出された。前半の山場の1つである。
「あら、あれはデザイアブリンガーですか……懐かしいですね」
「ああ、あの時はカリンが乳を……がはごほ」
「……」
横島は台詞の途中で咳払いしてごまかしたが、ここまで聞けば小竜姫はあのシーンの舞台裏で何が行われていたか想像がつく。さっき横島が「玉竜さまに報告ってのは勘弁して下さい」と言っていたが、確かに父にこんなことは話せない。
で、次は当然白麗とピートが横島に再戦を挑む場面である。横島は苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、さすがに「帰りましょう」とは言えなかった。
「さっきはよくもやってくれましたね。でも今度は油断しませんよ?」
「うるへー。しっ○の神に成り代わって、今度こそ貴様に神罰を下してくれる」
画面の中のピートは微妙にさっきより気合が入っているように見えたが、横島は逆に少々腰が引けていた。理由はいうまでもないであろう。
「いきますよ。武羅怒式除霊術、越頭霊撃蹴ーーー!」
「ゴキブリのよーに逃げーる!」
ピートが素早いステップから跳躍し、オーバーヘッドキックで横島の脳天を奇襲する。だが横島はすばやく地に伏せてそれをかわすとそれこそゴキブリのように地を這ってピートの間合いから離れ、白麗の正面からルパ○ダイブを敢行した。
「綺麗なおねーさん、ずっと前から愛してましたーー!」
「だからそーゆーことをするなって言ってんでしょっ!」
白麗が霊剣を真っ向から振り下ろして横島の体当たり(?)を迎撃する。かわしようがないタイミングだったが、しかし横島は空中で体をひねってぎりぎりでその斬撃を回避した。
「し、死ぬかと思った……」
「というか、おとなしく死になさい!」
「いやじゃーっ!」
横島はぶざまな悲鳴をあげつつも、覚醒したはずの白麗の第2撃、ついでピートが放った霊波砲をもかわしてその懐にもぐりこみ、小竜気をこめた肘打ちを鳩尾に突き入れた。ギャグ役ながらも、強さは中ボスくらいの扱いになっているようだ。
「……。横島さんらしい戦い方ですねぇ……」
「……あうあう」
小竜姫の乾いた声に、横島は一言も反論できなかった。彼も男だから多少のヒーロー願望はあるのだが、画面上で戦っている彼の姿はどう見てもヒーローとは程遠いギャグキャラなのだ。自分の動きや台詞を第三者として眺めていると、そのくつがえしようのない事実が改めて重く胸にのしかかってくる。
「そんなに落ち込まないで下さい。どんな戦い方だろうと、横島さんは私の勇者さまですから」
さすがに可哀そうに思ったのか、小竜姫が少年の手をきゅっと握り直してそう慰める。横島は落ち込んだ原因も元々ささいなことだったからすぐ立ち直って、
「はい、ありがとうございます。やっぱ小竜姫さまは俺の女神さまですね」
「も、もう横島さんたら」
上映中だからお互いささやき声でのやりとりだったが、小竜姫は横島のいつにない口上手っぷりに頬を赤くして顔を伏せた。だがその直後、そのこめかみにぴしっと鋭く井桁が走る。
なぜなら画面の中の横島が振り回した手が、白麗のスカートの膝上20センチの辺りをばっさり横一文字に切り裂いたからだ。スカートが切れたところからずるりと垂れ下がり、香港映画界No1スターの白い太腿があらわになる。
「おおっ!?」
それと同時に観客席の所々から小さな歓声が上がった。
実はこの場面、この映画における好評シーンの1つであったりするのだ。白麗も太腿くらい他所では出しているのだが、この映画ではロングスカートとパンツルックばかりだったので意外性が受けたらしい。
そしてその直後、白麗の太腿に目を奪われた横島が2人がかりでボコられるシーンではおかしげな笑声がひびいた。
「横島さん、あれは演技じゃないですよねぇ……?」
婚約者の不埒な行いに腹を立てたのか、小竜姫の女らしい手が横島の無骨な手をぎりぎりぎりと締め上げる。横島は悲鳴を押し殺しつつ、必死の形相で弁解を始めた。
「た、確かに演技じゃないですけど、でもあれはマジで事故です! NGカットになるはずだったんですけど、監督が勝手に」
「へええ……」
小竜姫は横島の言い分をあまり信用していない様子だったが、しかしあの時点では小竜姫自身もタマモもカリンも彼の恋人ではなかったのだから、他の女性に目を向けたというだけの理由では咎められない。スカートを切ったのが事故だったと主張されれば、今後は気をつけるようにとしか言えないのだ。
小竜姫が横島の手を締め上げていた指の力を抜くと、煩悩少年がほっと安堵の息をついた。
「うう、俺が何したっちゅーんじゃ。あの監督め〜〜〜」
ようやく解放された左手をさすりながら痛そうに呟くが、まあ自業自得というものであろう。
しかし画面の中の横島が退場してしまえばあとは普通の(?)オカルトアクションドラマなので、席に座っている横島も安心して画面を眺めることができたのだった。
2人が映画館から出て来たころには、もう日が西に傾きかけていた。冬の昼は短いのだ。
「横島さんが出てたシーンはあれでしたけど、なかなか面白い映画でしたね。ピートさんやエミさんたちもけっこう活躍してましたし、何だか不思議な気分がしました」
「……そうっスね」
横島の相槌がなおざりなのは、別に小竜姫からの評価が低かったからではない。スタッフロールに自分の名前も出ていたので、冬休み明けに級友どもが何か言ってくるのではないかと少し不安になったのだ。名前が出ていては「よく似た別人」という言い訳が通用しないから。
(ま、あの扱いなら誰も嫉妬はせんだろ。今悩んでも仕方ないしな)
しかしすぐその思考を放棄して、小竜姫の方に向き直る。
「で、これからどーします? 何時ぐらいに帰ればいいかにもよるんですけど」
すると小竜姫は腕時計を見てちょっと名残惜しそうな顔をした。
「いえ、もう帰りましょう。夕食の支度もありますし、いつまでも横島さんを独り占めしてたら悪いですから」
今から別の場所に遊びに行くとなると、夕食もどこかの店で2人で食べるという事になるだろう。そこまで引っ張るのはタマモとカリンに申し訳ないと思ったのだ。
横島もこう言われたら従うしかない。ただそこで一瞬少年の顔に翳(かげ)がさしたのを小竜姫は見落とさなかった。
「あ、いえ、デートがつまらなかったというわけじゃありませんよ?
デートはすごく楽しかったですから。ですからほら、こうして早めに切り上げておけば次も快く送り出してもらえると思いまして」
と横島への配慮なのか先輩への気遣いなのか黒いたくらみなのか判別しがたいフォローを入れる。横島は小さく苦笑して、
「あはは、そうですね。俺も楽しかったですから、これからも2人でデートしたいですし。
……それじゃカリンにタマモと荷物を回収してもらうんで、どっか人目につかない所に行きましょう」
「……??」
意味不明な発言に小竜姫は目をぱちくりさせたが、横島はそれには構わず、小竜姫の手を取って路地裏に移動した。
カリンを呼び出して竜珠と携帯電話を手渡す。
「デートはうまくいったみたいだな。何よりだ」
カリンが2人の顔をちらっと一瞥してそんなことを言った。
カリンは横島の記憶を持っているから、デートの経過の一部始終を知っている。だがそれを言うとプライバシーの侵害になってしまうので、2人の表情を見て察したというそぶりで二言だけの感想を述べたのだ。
初々しく頬を染める2人にくすっと口元を緩めつつ、携帯電話を開いて通話キーを押す。そしてごく短いやり取りが終わったきっかり10秒後、リュックと箒を持ったタマモが3人の目の前に出現した。
「―――ッ!? こ、これは……!?」
「この前習得した新技だ。くわしいことは妙神山で説明するから早く行こう」
まだアポートのことを聞いていなかった小竜姫がびっくりして目を剥いたが、カリンは場所柄を考慮したのか、この場で説明しようとはしなかった。
確かに狭い路地裏で長話をするのも何なので小竜姫は追及をやめ、横島たちに手をつなぐように指示する。
「……じゃ、行きますよ」
という小竜姫の合図の声と同時に、4人の姿はぬぐったように消え去った。
―――つづく。
アクシデントのネタを考えてはみたんですが、小竜姫さまが一緒だとまともな障害にならないので断念しましたorz
2人が見た映画ですが、GSのSSで映画というと「踊るGS」が定番ぽいので、あえてこちらを使いました。ちゃんと原作で吹き替え版が東京で上映されてますし。ただタイトルが原作に出てませんので、14巻の「香港編8」の扉絵から取らさせていただきました。収録の方は第29話でやっておりますのでw
ではレス返しを。
○アラヤさん
はい、手に入れるのが難しいものほどゲットした時の感慨も深いのですよー。
ゲットできる保証は全然ないわけですが<マテ
>ラブラブ
筆者もほしいですヾ(´ー`)ノ
○滑稽さん
今回は甘味だけでなくおバカ分も混ぜてみました(ぉ
しかし次回はどうなることやら。
○影法師さん
横島君にしては珍しく、最後まで理性を保って踏ん張りました。まあ夜になったら(中略)でしょうけど(^^;
○cpyさん
お褒めいただきありがとうございますー。これだからバカップルは困りますよねぇ。
>エロなしの小竜姫と甘いのはこれが初かな?
はい、えろが先行してる不届きな関係でしたw
○星の影さん
お褒めいただきありがとうございますー。今回の横島君はけっこう頑張りましたw
>小竜姫さまの服
そうですね。白麗さんのような服では動きにくいですし、あまり似合わなさそうです。
>ダーツ
そうなんですよねぇ。これならメドーサの霊波砲とも互角以上に渡り合えますし、横島君なかなか良いこと言いました。
ちなみに弓矢の方は「遠くからの狙撃」を意図したもので、接近戦で使うという考えはありませんでした。
>横島ファミリー〜〜〜
確かに4人そろうと近接格闘、遠距離攻撃、味方援護に敵撹乱、索敵・分析・高速移動・治療に煩悩全開(竜気共鳴版)と何でもできますからねぇ。いつの間にこんなに成長してしまったんでしょう(ぉ
○紅さん
甘々ばかりが続くのも何なので、今回は横島君らしくおバカ分も投入してみました。
○ばーばろさん
お褒めいただきありがとうございます。やはり初デートは初々しいのが良いと思うのですよー。
朧と神無も出してやりたいんですが、前回と今回は小竜姫様とのデートのお話なので割愛になってしまったのです(o_ _)o
>「仏の顔も三度まで」
>ヨコシマには不幸をっ
ちょっと軽めですが、ちゃんとお仕置きは入りましたのでw
しかし横島君が本格的に不幸になると小竜姫さまも一緒に不幸になってしまうので、というかそんなことは小竜姫さまがさせないのですよー。
>さぁ、目指せ216回っ
ネタと気力が続く限りがんばりますので、今後ともよろしくですm(_ _)m
>黒タイツ
筆者的には穿く人次第ですなぁ(ぉ
○whiteangelさん
今回もラヴを撒き散らしまくりです。困ったものです。
しかしようやく妙神山に引き揚げてくれたので、これ以上周りに砂糖を吐かせることはないでしょう。
○山瀬竜さん
お褒めいただきありがとうございますー。今回も小竜姫さま分の続きです。多少おバカ風味がまじってますがw
しかしそれ以外では横島君かなりまともにやっておるわけで、仰る通り大樹っぽくなっておりますな。
>横島君みたいなタイプは女性に磨かれて映えるようになる〜〜〜
確かにそうですねぇ。その鍛えてくれた人と結婚するという点も同じですし。ここの横島君は相手が3人なんですがw
でもそうなると魔鈴さんに魔法教えてもらうのは奥さんズにとって非常にマズいような。
>トラブル
邪魔者は出せませんでしたが、過去の失敗を出してみましたw
○遊鬼さん
はい、横島君も普段凛々しい小竜姫さまの意外な可愛らしさにメロメロです。映画の選択は間違いだったかも知れませんけどw
>ダーツ
もともと武器ですからねぃ。まじめな武神の小竜姫さまとしては致し方ないことかと。
○通りすがりのヘタレさん
横島君は今回も初々しく頑張りました。その分はじけた時が恐ろしいですがー。しかし本当に幸せ者ですねぃ。
>ダーツ
まじめな小竜姫さまだけに、宿敵のことは頭から離れないのではないでしょうか。
○Februaryさん
今回の横島君はあんまり羨ましくないような気もします……後半はw
GMより恐いお仕置きなんて筆者には考えつかないので、もしあったら教えて下さい(ぉ
>今宵の姫様
そりゃもう、間違いなくピンクるでしょうねぇ……はぅ。
>だが、それが良い!!ww
そんな発言聞かれたら仏罰下りますよ!?w
>メド姐さん
決着の時が先送りになればなるほどひどい事になりそうな(ぉ
○Tシローさん
横島君は文字通り神様に愛された男ですから、天罰もなかなか下ってくれません。
でも横島君のことですから、そのうち面白い事件に巻き込まれてくれることと思います(酷)。
○読石さん
>カリンもタマモさんも良い女ですな
オペレーションRのときは抵抗してましたが、今は4人で家族ですから!
なので小竜姫さまも気配りをしておりますです。
>美衣さん
その辺りの事情は再登場の時をお待ち下さいませー。
>「シメサバ」って名前
ああ、その発想はなかったですねぇ。そういう事にします<マテ
○KOS-MOSさん
毎度お褒めいただきありがとうございますー。
横島君は余計なことを口走ったせいでロマンス展開に失敗しましたw
○XINNさん
横島君に人誅を下すときは、周囲に奥さんズの姿がない時を狙って下さいね。危険ですから(ぉ
月の2人組はまたしばらく出番なさそうです。今のカリンでは月まではちょっと行けませんが、将来的には恒星間飛行も可能になる予定であります。本編で書かれることはないでしょうけどー(ぉ
○ロイさん
アクシデントはこのくらいしか起こりませんでしたー(o_ _)o
妙神山で事件ってのもなさそうなので、仰る通りイベントは下山後になりそうですね。大樹来日とか(ぇ
>こういった日常の一コマもいいですね!!
は、筆者も好きであります。
○れじぇむさん
ここの横島君は普通に空を飛べる上に肉体が幽体化してるので、大気圏突破は何も問題ないんですよねぇ。時間かけてゆっくり降りて来ればそれで済んでしまうわけで、まことに困ったものです(何が)。しかし朧と神無といっしょに月に行くというのは良いかも知れませんな。
>カリンの進化
外見はあんまり変わらない予定ですが、中に人が乗れるようになるかも知れませんです。メフィストみたいな感じで。
○チョーやんさん
楽しんでいただけたようで幸甚であります。
今回の後半は横島節なので、そちらで治療を試みて下さいませ(ぉ
壷というと……イフリートですか?<マテ
○鋼鉄の騎士さん
小竜姫さまがすごい勢いで進化してるので、メドさんは早く決着つけに来ないとヤバそうですなw
>横島のクラスメート
しっ○団というか、鉄の掟がすでに発動しておりますw
○風来人さん
>フルボッコ
横島君は希望的な観測をしておりますが、新学期が楽しみですなw
>シメサバ丸
ご理解いただけてよかったですー。逆に美衣さんが妖刀の影響で人殺しをしてしまったという見方もあるのですが、その辺は彼女の再登場をお待ち下さいませ。
>ルシと小竜姫さまの巨乳に対する嫉妬をみるのは好きですw
ちょ、仏罰下りますよ?ww
○UEPONさん
>カリンとタマモとのデート
本編で書いたのはデジャヴーランドでの話1回きりですね。確かにカップルとしてのデートは書いてませんなorz
>「人のためならず」
はい、本来の意味の方です。タマモもずいぶん知識が増えました。
>普通にキスできてますね〜
邪魔が入ったら小竜姫さまが可哀そうですからー。
ではまた。