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「GS横島!? 幸福大作戦!! 第六話」

チョーやん (2008-02-04 00:59/2008-02-14 23:12)
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『あ〜あ〜〜……そこの工場に立て篭もってる悪霊に告ぐ〜〜
諦めておとなしく成仏しなさ〜〜い』

 おっそろしくやる気の無い声がスピーカーから聞こえてくる。

 しかも、そのスピーカーのマイクを持つのは全身ほぼ黒一色のゴスロリ服を着た美少女である、

「だ、大丈夫なのかね? 君ィ……」

 その少女の後ろからスダレ禿のおっさん――今回のクライアントである――が、心配そうに声を掛ける。

「大丈夫ですよ、あの程度の悪霊ならお兄ちゃ……兄だけでも過剰戦力なんですから…
ですから、私はこうやってあの悪霊の気を逸らしてやるだけでいいんです」

「し、しかしだねぇ『やかましぃ!!』ヒィッ!?」

 少女からそう言われてもまだ不安そうに声を掛けようとしたが、不気味な怒鳴り声に悲鳴を上げる、
見ると、工場の窓から悪霊らしき白い人形の物体が身を乗り出してこちらに叫んでいた。

この工場はワシのだーーーー! 再開発なんぞやらせんぞーーーーーーー!!

「ヒィィィィ……ほ、ホントに大丈夫なのかね……」

「大丈夫ですってば……もう直ぐ片付きますから、安心していて下さい」

 そう言いながらもゴスロリ少女――タマモは『無理かなぁ〜?』と思っていた。

 何しろ、近頃評判の腕利きGSだと言う事で依頼をしたのであろうが、
いざ頼んでみると、GSだと名乗った女性が若過ぎるのも気になった様子であり、
更に、どう見ても中高生にしか見えないアシスタントの二人の姿を見てクライアントは思ったであろう…

 『こりゃ頼む所を間違えたかなぁ〜……』と。

 横島と名乗った兄の方は兎も角、妹だと紹介された少女の方はどう見ても中学生ぐらいである、
しかも兄妹そろって黒一色の服装であり、妹に至っては何かの冗談にしか見えないゴスロリ服……

 クライアント――依頼主が不安になるのも仕方が無いであろう。

 タマモはそんな依頼主の様子を一瞥した後、チラリと工場の方……正確に言えばその屋根の方を見て、
依頼主に安心するようにと微笑み掛ける。

「見ててください、もう直ぐ終わりますから」

 それでも依頼主は不安そうにタマモと工場に視線を行き来させていた。


◆◆◆


ワシが居る限り、この工場を好きにはさせんぞーーーーーー!!

 未だ、外に向かって叫んでいる悪霊……しかし背後から彼の希望を打ち砕く声が聞こえてきた。

「そういう訳にもいかないのよね〜〜。
アンタがココに居ると迷惑する人が居るんだから……
このGS美神令子が……極楽に送ってあげるわ!!」

 後ろを振り返ると、部屋の入り口――扉は既に倒れている――に、若い女性が立っていた、
そして彼にとっては到底承諾出来ない事を堂々と宣言したのである。

お、おのれーーーーーーー!!

 その言葉に逆上して女性――美神に襲い掛かる悪霊。

 だが、その美神はそんな悪霊に対し不敵な笑みを浮かべ、手にした御札――吸引札を構える。

そんなモノでぇ「おっと、後ろがガラ空きだぜ」……なぁっ!?(スガァッ!)ギャアアアア!!

 美神に襲い掛かろうとした悪霊は、背後から唐突に聞こえてきた声に慌てて窓の方を振り向こうとするが、
背中から爆発音と共に激しい痛みを感じて絶叫を上げる。

「ナイスよ、横島クン! ……吸印!!」

ギュワアアアアアアアァァァァァァ……

 スポン! っと、そんな音が聞こえてきそうな勢いで御札の中に吸引されていく悪霊。

「これでよしっと……さて、これで依頼完遂ね、お疲れ様、横島クン」

「お疲れ様です、美神さん……でも、これぐらいのヤツなら俺一人でも十分じゃないッスか?」

 美神の言葉にそう返す横島。

 横島は窓の外から室内の美神を見ていた……横島は栄光の手を左手に発動させ、
それを工場の屋根に引っ掛け、そのまま栄光の手を伸ばして窓の位置まで降りたのである。

 そして美神に気を取られた悪霊の背後からサイキックソーサーを投げ付けたのだ。

 これは悪霊に呼びかけて囮役になったタマモの方に悪霊が向かった場合の対処であると同時に、
美神と挟み撃ちに出来る態勢を取る為でもあったのだが……
 横島の言う通り、この程度の悪霊なら彼一人でも十分過ぎたのだ。

 しかし、横島の言葉に対する美神の返答は……

「まぁ、その通りなんだけどさぁ……偶にはこうやって道具使わないと勘が鈍るからねぇ〜。
それに道具を使えばその分報酬に上乗せできるでしょ♪」

 その美神の言葉に呆れた目線を送る横島…
前半の部分は分かるのだが、後半部分にはとても同意できなかった。
 大体そういった必要経費も含めての依頼料ではないだろうか?
……恐らく美神の事であろうから、依頼主に上手く交渉するつもりなのであろう……

(まったく……こういうガメツイ処はまったく変わらないんだから……この人は、
破魔札じゃなくて吸引札だったのも、証拠を残す為だったみたいだな……)

 そんな横島の内心を知る由も無く、美神は少しだけ真面目な顔をして言葉を続ける。

「それにね、助手とは言えGS免許を持たないアンタ一人を除霊現場に出す訳にはいかないでしょう?」

「そりゃまぁ、そうなんですがね……」

「確かに、アンタの実力は認めるわよ? 実際、戦闘能力だけなら私以上でしょうし、
先生の所で実戦経験も積んでいるし、知識の方もかなりのものでしょうけど……
でもね、それでも規定には従わなければいけないのよ」

「えぇ、その通りっスね……すみません、生意気言って……」

「別に謝んなくてもいいわよ、アンタ程の実力持ってればそう思うのも無理はないわ、
……さ! 早いとこ戻りましょ? クライアントがヤキモキしてるでしょうし」

 美神のその言葉に横島も「うぃっス」と返事を返す。

 ちなみにその会話の間もずっと屋根からぶら下がったままだった横島は、
そのまま栄光の手を伸ばして下に降りると美神に告げたのだが……

「アラ? それじゃ私も一緒に降りるわね♪」

「へ?」

「そんじゃ、しっかり捕まえててよ?」

「え? ちょ、ちょっと!?」

 横島が美神のその言葉に思いっきり戸惑うが、美神の方はお構いなしに割れた窓の外へと飛び出す。

 即ち横島の方へと……で、ある。

「わわっ!? ちょっと、美神さん? 危ないじゃないですか!?」

 飛び込んできた美神を、慌てて右腕で抱き止めながら美神に注意する。

「あ〜ら、だって表に出るには工場の中を大回りしなけりゃいけないんだもの……
この方が早いし、クライアントにもインパクトある印象を与えられるじゃない?」

「そ、そりゃそうでしょうけど……でも、俺が受けきらなかったらどうするんですか?」

「アラ? アンタならこれくらい受けきると思ったからこそよ? 
そ・れ・と・も、私に抱きつかれるのはそんなに嫌かしら〜?」

 そう言いながら、美神は横島の胸板に顔を埋め、背中に回した両腕に、更に力を込めてしがみ付く。

「い、いえっ! そんなんじゃなくって!!」

(あぁっ!? む、胸があああぁぁぁっ!? や、柔らかい! それに良い匂いが……
……って、違うだろおおおぉぉぉ!! あぁ!? おキヌちゃん、これは違うんやああああああぁぁぁ!!)

 ……横島がこの場に居るはずのない人物に、訳の分からない言い訳をしている一方で、美神は……

(ウフフフ……かなり私の魅力に参ってるわね〜〜。先生の所からの出向とは言っても、
何時でも戻れる契約になっちゃったからねぇ……折角の金儲けの元を逃がす訳にはいかないのよ〜♪)

 等と、かなり打算的な事を考えていたりする……

「さ、横島クン、早いトコ下ろしてね?」

 顔を上げ、いたずらっぽい笑みを浮かべてウィンクする美神。

「う、うぃっス……」

 横島は精神的にかなり疲労しながらも、煩悩だけは高まって栄光の手が更に強固になっていく……
その事に我ながら思う所が色々あったりするのだが、それでも言われた通りに栄光の手を伸ばし、
下へと降りていく。


◆◆◆


「おぉ! すごいですなぁ、まるで映画のワンシーンのようだ」

「え、えぇ……まぁ、当事務所の者にとってあれくらいは……」

「いやいや大したものです、除霊も無事終わったようですし、
流石は噂に違わぬ実力ですなぁ〜」

 と、依頼主は先程までの不安気な様子など欠片もなかったかのように褒め称える。

 確かに、美神の言うように視覚効果はあったようだが……

(美神さん……どういうつもりか大体分かるけどね、お兄ちゃんは渡さないわよ?
……大体お兄ちゃんも何鼻の下伸ばしてんのよ!? ……まったくもう……)

 依頼主の誉め言葉を適当に頷き返しながら、タマモは心中穏やかではなかった。

 そして二人が降りてくる様子を、後頭部に巨大な#(怒り)マークを付けて見ていたのである。

 ……どうあのバカ兄貴にお仕置きしてやろうかしらと考えながら……


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


                    GS横島!? 幸福大作戦!!
                      第六話『それぞれの想い、それぞれの始まり』


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 横島が六道家のパーティーを終えて既に四ヶ月、彼は高校二年生に進級していた。

 その間には様々な事があった……


 まずはドクター・カオスとマリアが来日した事である、
パーティーの翌日にカオスから電話が掛かってきたのだ。

 電話では挨拶程度の会話だけだったが、その翌日には横島のアパートまでやって来ていた、
そしてカオスにこれまでの経緯を話して聞かせたのである。

 カオスに対しての報酬の約束を果たす意味でも、
又、これからの事を相談する意味に置いても話す必要があると考えたからだ。

 その横島の話しに一々頷いて聞いていたカオスだったが、話し終えると……

 『なんじゃ、意外につまらんのう……もうちょっと面白いルートを選択できんかったのか?』

 その言葉に横島は、栄光の手をハリセン状にしてカオスの頭を張り倒していた、
どうもカオスは逆行した者ならではの面白い展開を期待していたようである。

 そんな期待に応えるつもりはない横島は、そうカオスに告げると今後の事について相談しようとしたが…

 『そんなもんはおヌシが決めるべき事じゃワイ……多少の助言くらいはしてやるが、
 基本的な事はおヌシ自身で決めていかねば観察する意味がなかろう?』

 そう言って相談には取り合わなかったのである。

 確かに、カオスがこちらに着いて来た理由は横島を観察し、逆行者の行動を研究する為であるから、
彼の言い分はその意味では正しかったのではあるが……

 しかし、それは少々つれないんじゃないかと横島が言うと。

 『なぁに、助言くらいはしてやると言ったであろう? それにどういう場合におヌシが悩むのか、
 どんな風に考えを決めるのか、そういった事も研究材料になるからのう』

 ……それは結局相談と言うのではないのか? と横島は思ったが、
恐らくはそれがカオスなりの気遣いなのであろう、横島はそう思う事にしたようだ。

 更にカオスは、文珠が出来るようになったと聞くと、それを何個か分けて欲しいと横島に頼んだ。

 何に使うのかと聞くと、≪若≫の文字を入れて全盛期の頃に戻り、除霊道具を作る為だと告げた、
そして、それを幾つか厄珍などに売って資金を作り、マリアの改造費や当座の生活資金にしたいとの事。

 『無論、タダで貰うつもりはないワイ……何割かはおヌシに払うつもりじゃぞ?
 おヌシとてこれからの事を考えれば、資金はいくらあっても邪魔にはなるまい?』

 確かにその通りであるから、横島はそれならと文珠を数個手渡したのだ。

 全盛期のカオスが作り上げた破魔札等の除霊道具と言えば、
中世の頃にタイムスリップした美神自身も絶賛した程の出来である、
間違いなく現行の代物よりも高い値段で売れるであろう。

 こうして横島はカオスという(若い頃に戻れば)頼りになる相談相手を得る事が出来た上に、
通常は取り引きする事が困難な(市場価値が不明である上に、滅多な相手には売れない)文珠を、
資金に換える手段を得る事が出来たのである。

 それから、当面の間は歴史通りの行動を取ること、但し、被害者が出る事件に関しては、
事前になんらかの手を打つ事を確認し、カオスはマリアを伴って何処かへと去って行った。

 滞在先が決まれば直ぐに連絡すると告げていったから、
恐らくは元の時代に住んでいた幸福荘ではないであろう。

 横島としては他の逆行者の事を聞きたかったのだが、いずれ分かると言うだけで取り合わなかったのだ。

 ……ただ、別れ際にタマモと外で何やら話しをしていて、何かを手渡していたのが気になってはいたが……

 結局タマモは、何を渡されたのか口を濁すだけで答えてはくれなかった。


 尚、横島もカオスも元の時代であれだけ赤貧に喘いでいたというのに、
何故文珠を金銭に換えられる先ほどの方法を思い付かなかったのか悔しがった事は完全に余談である。

 更にどうでもいい事ではあるが、ハリセン状にした栄光の手の名称は、
栄光の手“第一形体”霊波刀≪ハリセン型突っ込みクン壱号なんでやねんバージョン≫である、
……ハリセン型や壱号とかと言う事は、他にもあるのであろうが……それこそ本当にどうでもいい事である。


 次にタマモの進路問題であったが、結局六道女学院は選ばず、自宅近くの中学に通う事にしたようだ。

 理由は幾つかあるが、先も言った様に自宅に近かった事と、六道家の過度の干渉を避ける為、
そして最大の理由は、女学院の中等部には以下の校則が明記されていたからである。

 ・『当校の在校生はGSにアルバイト等で雇われる事、乃至はそれに準ずる行為を原則として禁止とする。
  又、特別の許可無く霊障、霊害に対しての除霊行為、もしくはそれに準ずる行為も全面的に禁じる』

 以上、その校則に明記された文章の一部を抜粋した一文である。(一応、パンフレットを渡されていた)

 この校則がある理由は言うまでも無く、十分な知識や力量の無い中学生の生徒が、
危険を伴う除霊を行なったりすると、大怪我や最悪の場合死に至る可能性が高いからである。

 まさに霊能科のある六道女学院ならではの校則であろう。

 しかし、それがタマモの女学院を入学しなかった理由になってしまったのだから皮肉なモノである。

 勿論、高校生になれば基本的に許可はされる。

 この場合は学校、保護者、そしてアルバイト先のGS、この三者の合意が必要なのだが、
学校側は授業では教え切れない実戦的な除霊現場を体験する事を推奨しているし、
GS側では一般人よりも知識や霊能力がある学院の生徒を助手に欲している、
そして保護者側はそのアルバイトがダメだと言うのならば最初から霊能科に入学などさせてはいない。

 学校側がアルバイト先のGSに問題があると判断するか、GS側がその生徒の力量に疑問を感じるか、
保護者側がそのGSの除霊内容が危険過ぎると思うか、それらが無い限り許可されない事は無いのだが、
まだ中学生のタマモにはそんな許可など下りはしないのだ。

 無論、校則内に『原則として』とか『特別の許可』と書かれているから、
全くダメと言う訳ではないであろう。

 しかしその許可を貰おうとすれば、理事長を務める六道夫人が必ず関わってくるのは間違いない、
そうなれば夫人の思惑はどうであれ、六道家に借りを作る形になるのは必定である。

 そうなるのを避けたいタマモとしては、普通の学校を選ぶのは当然と言える、
そもそも義兄の横島も普通の高校なのである、必ずしも学院に入学しなければならない必要性はないのだ。

 只、おキヌが再び学院に通う可能性を考えればフォローする事が難しくなるのが唯一の懸念なのだが……

 だが、それを言ってしまえば横島も同じであるし、文珠を渡していれば十分フォロー出来るであろう、
第一、おキヌも元の時代では名の知れたネクロマンサーとして活躍していたのだ、
フォローの必要が無い所か、逆にフォローされる可能性すらあった。

 以上、諸々の理由により普通の中学に通っているタマモであったが……
その中学が横島のかつての母校であったのは偶然であろうか?


 ちなみにタマモは唐巣神父からアルバイト料を貰ってはいない。
 これは小学生の時もそうだったが、基本的に中学生は特別の事情が無いとアルバイトの許可は下りない、
勿論タマモにはその『特別の事情』があるのだが……学校側に無用な警戒感を与えたくなかったのだ。

 これは『タマモが社会に受け入れられる為』としては矛盾しているようだが、
教師達は兎も角、まだ十分な知識や判断力があるとは言えない中学の生徒達に知られたくは無かった。

 無論、イジメや疎外感など意に介するタマモではないが、
どんな偶然からそれが取り返しのつかない事態に繋がるか分からなかったのだ、
六道夫人もその辺りを考えて学院への入学を勧めたのであろうが、
そうするくらいならば、最初から学校側に知らせなければいいのである。

 無論、万一の事態も考えられるが、タマモ自身はその時はその時と割り切っているようだ。

 タマモが社会に受け入れられるようにするのは、GSとして活動してからでも遅くはない、
前にも述べたが、支援してくれる必要があるのは『理解ある周囲の大人達』であって、
知識や判断力があるとは言えない未熟な同年代の生徒ではないのである。

 勿論、唐巣神父としてはタマモにもアルバイト料を払ってやりたかったのであるが、
あくまでも『お手伝い』である以上、給料を払う訳にはいかなかった、
だからその分、横島には二人分のつもりで相場以上に支払っていたのだ。

 横島自身、その事が分かっているから何も言わずに受け取っていたのだった。


 そして最後に美神除霊事務所への出向である。

 どうその事を神父に切り出そうか考えていた横島だったが、美神の方から打診があったのだ、
横島としては渡りに船であるのだが、神父としては正直承諾したくなかったようだ。

 神父自身、美神の性格は知り尽くしており、彼女の金銭に対する執着心が横島やタマモに対し、
どんな悪影響を及ぼすか分からなかったのだ。

 それにタマモの事情もある。
 六道家のパーティーでは、タマモが『九尾の狐』であるかもしれない事は話してはいなかった、
只、タマモの事情の『表向きの理由』を夫人が利用しようとしたと告げただけである、
まだ十分理解し合った訳ではない彼女達に対し、余計な先入観を与えたくなかったのだ。

 勿論、証拠などないのだが、横島の様子を見るにどうやら事実であろうと考えていた。

 神父としては折を見て話そうと思っているのである。

 そう考えて最初は断わろうと考えていた。

 神父としては余所様の子供を預かっている以上、
滅多な所に出向させる訳にはいかなかったのだから当然である。

 だが、横島の方からも別のGSの下で除霊を経験したいと言われ、
幅広く体験を重ねるのもタマモの為になると告げられては、神父としても考えない訳にはいかなかった。

 そこで神父は妥協案として、とりあえずは一年間の契約にする事、
但し、何時でも解約できる事、そして当たり前の事ではあるが兄妹の安全には十分に配慮する事、
待遇面では自分の所よりも悪化させない事、危険度が大きい除霊依頼の場合は必ず自分に連絡する事等、
それらの事項を契約の際に明記するよう美神に告げたのである。

 ……ここまで師匠に信用されていない弟子というのも、珍しいと言えば珍しい……

 当然、美神としては面白くなかった。

 下手な一般人や、実戦経験がほとんどないであろう学院の生徒よりも信用出来ると考えていたし、
姉弟子として、弟弟子がどれだけ出来るのか見て見たいとも思っていた。

 何より、タマモの事を応援したいと思ったのは嘘偽りない事実である。

 それなのに師から信用していないと言われたも同然な契約内容なのだから憤慨するのも当然である。

 ……まぁ、普段の彼女の言動を考えれば当たり前なのだが……

 だが流石に美神と言えど、師に面と向かって逆らう訳にもいかず、
結局は師の言う通りに契約する事にした。

 なにより、弟弟子やタマモの前で余りみっともない所を見せたくは無かったのだ。

 契約の内容は、給料等の待遇面はほとんどが唐巣神父の場合と同じで、前記した内容に加えて、
契約期間は冬休みが明けてから本年度中の間とし、更新したい場合はその時に相談する事、
新たに従業員を雇うのは自由であるが、横島兄妹の事情を十分考慮する事等と定められた。

 この契約の内容は美神としては許容範囲内だったのだが……
横島とタマモにとっては驚天動地の内容であった。

 何しろ『あの』美神が自分達に相場以上の給料を払うと言うのだから当然であろう、
元の時代、正式に正社員として雇われていた時は兎も角、丁稚時代の額とは比較にもならなかったのだ。

 どれだけの金額なのかは恐ろしくて明記できないが、250円の十倍処ではないとだけ明記しておく……

 尚、最初に支払われた給料の金額を見て、横島が血涙を流し、タマモがそんな兄の肩をそっと叩き、
兄もその妹の様子を見て、お互いを慰め合ったのは兄妹だけの秘密であった……


 それは兎も角、美神としては横島とタマモの実力を見て見たかったので、
雇う前にどれだけの霊能力を持っているか見せて欲しいと二人に告げたのだ。

 まず、タマモが狐火と幻覚能力を見せた。

 最大限に放てば広範囲に周囲を燃やし尽くせる狐火と、様々な場面で応用が効く幻覚能力を見た美神は、
タマモだけでも十分に元が取れると喜ぶと同時に、その能力の大きさに驚愕したのである。

 身体能力も妖狐であるだけに、人間のそれを大きく超えており、特に身の軽さは特筆モノである。

 一っ飛びでビルの二階分に相当する木の枝まで跳び付いたのを見た時は、
これなら前線に出しても大丈夫だと判断したのだが、流石に(この時は)小学生を前に出す訳にはいかず、
美神の後方から狐火と幻覚の援護攻撃を行なうようにタマモに告げたのだ。

 そう聞いたタマモは最後にポンッと子狐の姿になり、美神の足元に擦り寄って見せた。

 見た瞬間は眼を見開き驚いた美神だが、それがタマモなりの了承したと言う合図だと気付くと、
微笑みながらタマモを抱き上げ、その背中を撫でたのである。

 中々に微笑ましい光景で、元の時代の初対面の時を知る横島としては感無量であった。


 次に横島の番であったのだが……

 美神はそこで姉弟子として、又、美神家の女としてのプライドを大きく揺さぶられる事になる。

 横島としてはまだ文珠の事を話すのは時期尚早と思い、栄光の手も“第四形体”までに止める事にした。

 まずはサイキックソーサーである。

 六角形のそのソーサー(盾)は、投げ付けて投擲武器として使う事が出来、
複数展開して多数の敵にも投げ付けられると聞いたときは、これだけでも凄いと思ったのだが、
更に貫通力を高めた形にも出来ると横島が告げたのだ。

 ≪サイキックジャベリン≫と名付けられたこの形体は、岩を貫通し、その直後に内部で爆発したのだ。
(使用目的としては、米軍のバ○カーバスターに近い)

 記述するのが遅れたが、能力を見せる為に場所は郊外の人気の無い川原である。

 横島は両手を上に掲げ、その上に槍型にしたサイキックソーサーを展開して見せたのだ。
(イメージとしては、超人○ックの光の槍? しかも劇場板?)

 他にもハニカム(蜂の巣)状に繋げて、壁の様に展開したサイキックウォール(A○フィールド?)、
同じ様にドーム型に展開したサイキックバリア(某研究所のバリア?)と、複数の人数を護る事が出来、
防御面でも十分活用出来ると分かり、タマモと合わせてお買い得だと内心喜んだのだが……


 それも横島が数々の栄光の手の形体を見せるまでである。


 腕に発動させ、伸ばしたりして離れた場所にある物を掴む事が出来る“第零形体”は、
手を貫手の形にして相手を貫く事も出来た。

 様々な武器の形に出来る“第一形体”は横島の近接戦闘能力の高さも同時に見せ付けられた。

 より細く、より長く、そしてより強固に伸ばす事を目的とした“第二形体”は、
糸状に伸ばして相手の動きを封じ、更に限界まで細くすると切断する事も出来た。
(斬○線? もしくは単分子ワ○ヤー?)

 遠距離攻撃手段として、サイキックソーサー以上の威力を見せる“第三形体”は、
連射は効かないものの、ソーサーよりも遥かに正確に、より遠くの目標を狙い撃つ事が出来た。
 又、広範囲に放射出来る所も見せたのだ(サ○コガ○ダムの拡散メ○粒子砲?)。


 ここまでで既に美神の顔色は喜ぶ処か、青ざめていたのだが……


 最後に見せた“第四形体”は、これまで両腕に展開して見せたのとは大きく違い、
なんと両足に展開して見せたのだ。

 そしてその栄光の足の唯一の業≪韋駄天足≫

 これは韋駄天の持つ特技≪超加速≫をイメージして名付けられたのだが、
実際は文珠でも使わない限りそんな技が出来るはずもなかった。

 実際に出来たのは瞬間的かつ短距離の、それも直線的な移動のみであった。

 距離にして約10m程だが、ほとんど瞬間移動したかのようなその動きは、
古来より言い伝えられし神業≪縮地≫そのものであった。

 『瞬間的に地脈を縮めた』と言われるその神業は、古来より武道の一つの極致とまで言われ、
実際に出来た者など居ないとまで言われているのだ。

  だが、横島が言うには他の形体とは相性が悪く、特に“第三形体”とは最悪だとの事、
同時に制御するのが難しく“第一形体”の幾つかの霊波刀ぐらいしか合わせる技がなかったのだと言う。

 しかし、それを眼の前で見せられた美神の心情はいかほどであっただろうか?

 なんと言う霊力! それを活かしきる霊能力の才能!! そして武術の天賦の才!!!

 これが霊能力に目覚めて、一年にもならない少年なのであろうか?

 美神の心には激しい嫉妬の感情が色濃く渦巻き始めていたのだが、
苦笑しながらこちらに歩いてきた横島の様子を見て、そんな思いも一瞬忘れて横島に尋ねたのである。

 『ちょっと……どうしたのよ? その怪我』

 確かに横島の全身はあちこちが擦り切れ、ボロボロになっていた、
流石に霊力の篭った霊衣であるジャケットやズボンはほとんど無事だが、
それ以外のバンダナや肌の露出した部分には細かい傷が無数に出来ていたのだ。

 特に顔には幾筋もの傷が出来ており、そこから流れ出た血がそれぞれの傷口から合わさって、
まるで血の川の様に額から首筋にかけて流れていたのだ。

 横島は苦笑したまま先程の技を使うとどうしてもこうなるのだと告げた、
加速した際に発生するカマイタチ(真空刃)で出来た傷であるとの事。

 『……大丈夫なの? 結構出血してるけど……』

 意外にもと言ったら失礼であろうが、美神はその横島の様子を気遣って尋ねた。

 『大丈夫よ美神さん、お兄ちゃんが修行中に怪我をするのは何時もの事だから……
 それに切れたのは皮膚の表面だけだから、これくらいは私が舐めれば直ぐに治るわ』

 と、何時の間にか側まで来ていたタマモが兄の代わりに答えていた、
そして言った通りに腕や顔を舐め始める、
横島はくすぐったそうにしているが、おとなしくタマモのされるがままになっていた。

 するとみるみる内に流れた血と一緒に傷が消えていったのである。

 美神が、これが幾度目になるか分からない驚きの表情になると、タマモが言葉を続けた。

 『言うのを忘れていたけど、犬族の妖怪は傷を舐めて治すヒーリング能力があるの。
 だから怪我した時はいつでも言ってね? 美神さん』

 そう言って兄の治療の続きを始めるタマモは、くすぐったくて身動ぎする兄を叱りながら舐め続ける、
その様子には淫靡さは感じられず、むしろじゃれついているようにしか見えなかった。

 なんと言うか、お互いを気遣い合う家族のような“ほんわか”とした空気までも感じられ、
美神は我知らずに微笑んでいた。

 気が付くと、先程まで感じていた嫉妬の感情も何時の間にか消え失せていた、
そして治療が終わり、妹に礼を言う横島に尋ねたのである。

 『ねぇ……その歳でそこまでの霊能力を持って怖いと思った事はないの?
 大き過ぎる力は身を滅ぼしかねないし、他人に利用されかねないわよ?
 ……例えばこの私に……とかね……』

 美神自身、何故こんな事を尋ねてしまったのかは分からなかった……
だが、この兄妹がこれから体験していくであろう様々な事に思いを馳せずにはいられなかったのである。

 『私もお兄ちゃんも大き過ぎる力が危険だって事は十分自覚しているわ。
 でも、だからと言って産まれ持った力を忌むべきものとするつもりはないし、
 ましてや振り回されるつもりもないわ。怖いとか怖くないとか思う前に、
 まずは自分の力を知る為に修行して、そして使いこなせる様にならなきゃ意味が無いと思うの』

 美神の問い掛けにタマモがそう答え、側に居た横島も妹の言葉に大きく頷いた、
そして、他人に利用されない為にも強くならなければならないと美神に告げた、
それは霊能力だけではなく、他の技術や経験、知識や判断力、更には狡猾さや用心深さも必要だと言う。

 そして人の輪……人脈もその人が持つ立派な力だと告げた、更にはそれらを駆使する構想力も……

 そしてそれらを養う為にも様々な経験を積まなければならない、
だからこそ美神の誘いに応えたのだと告げた。

 横島達としては他にも思惑があるのだが、美神の疑問に応える為にそう告げたのだ、
何より、その言葉自体に嘘偽りはまったく無かったのだから……

 そして『それに……』と言葉を続けて横島はタマモと眼を見合わせてから声を揃えて美神にこう告げた。

 『『美神さんって、悪い人には見えなかったから』』……と。

 美神は二人揃って真っ直ぐな眼で言われて心を震わせていた、
何が自分をここまで信用してもらえる要素となったかは分からないが、
二人の信用に自分は応えなければならないと、理性ではなく心で悟ったのだ。

 そう、美神も基本的に悪い人間ではない、確かに金銭が絡むとどうしてもそっちに引っ張られてしまうが、
困っている人を無条件に見放せるほど非情ではないのだ。

 ……ただし、意地っ張りな性格な為か、その表現方法はどうしても素直ではなかったのだが……

 そしてこの時取った行動も素直な物ではなかった、それも二人が驚愕する形で……である。

 『フ〜〜ン? まぁ、そういう事にしといてあげるわ……それとね? 私は美神令子よ!
 貴方達に負けるつもりはないわ! ……それとビシバシこき使ってやるつもりだから覚悟しときなさいよ?』

 そんな美神の言葉に、横島は彼女らしいと思いつつ『お手柔らかに願います』と微笑みながら告げる。

 だが、その後に美神が取った行動は……

 『フフ……そう固くならなくてもいいわ、これから一緒にやっていくんだしね?』

 そう言いながら横島に歩み寄って、その左腕を掴むと抱き寄せたのである。

 横島はその美神の行動と腕に当たる柔らかな感触にアタフタとし始め、
タマモは大きく眼を見開き、継いで文句を言おうと口を開こうとしたが、
美神は右腕で横島を抱えたまま、左腕でタマモを抱き寄せたのである。

 『大丈夫よ? 別にタマモちゃんからお兄ちゃんを取り上げるつもりはないから、
 それに今も言ったけど一緒にやっていく仲間なんだから、仲良くしましょ?』

 そう言って右目をウィンクさせ、抱き寄せた左腕でタマモの金髪のナインテールを優しく撫でたのだ。

 一方のタマモは身長差の為、美神の豊満な胸に顔を埋める形になってしまい、
恥ずかし気に顔を赤らめ、胸の谷間から上目づかいに美神を見上げた。

 『う〜〜〜ん……やっぱり可愛いーーーーー♪』

 そう言うと美神は横島から腕を離し、タマモを両手で抱き締めてしまった。

 どうやらタマモの仕草が美神の心にヒットしたようである。

 横島はそんな美神の様子に呆然としながら『美神さんってこういう性格だっけ?』と思った、
元の時代とはあまりにも違うタマモとの接し方に疑問を持ったのだが、
思えば、かつて美智恵が幼い頃の美神を伴ってタイムポーテーションして来た際に、
その幼い頃の自分があまりにも可愛くて抱き締めていたのを思い出していた。

 更には、歳の離れた妹のひのめも眼に入れても痛くないほど可愛がっていたのだ。

 美神も基本的に可愛いモノ好きなのだ、それが元の時代では友好的とは言えない初対面であったし、
タマモはタマモで一歩引いた立場で接していた為、素っ気無いとも言える対応の仕方になったのであろう。
 初対面の第一印象がどれだけ大事なのか、横島は改めて思い知らされたのである。

 ひとしきりタマモを可愛がった後、美神はふと思った事を口にした。

 『ねぇ? どうして二人共そんなに頑張るの? それだけの才能があるなら、
 適当にやっててもそれなりのGSに成れるし、それこそ目立たずにやっていけるじゃない?』

 そう、確かにそうした方が目立つことも無く、狙われる事もないのだが、
これから起こる事を知っている者としては、目立たずにやって行ける程甘くはないと思っていた。

 確かに目立たないようにカモフラージュする方法ならいくらでもあるし、いざとなれば文珠がある、
それ故にその点に関してはさほど心配してはいなかったが、さりとて楽観視もしていなかった。

 だからこそ、人の輪……つまりは人脈が大事だと言いながらも、
六道家との接触は最小限に止めようとしたのだ。

 ……まぁ、どの辺りのラインまでにするか、その見極めが難しいのだが……

 美神に問われた横島とタマモであるが、二人共今一度視線を合わせると頷きあい、
美神に向かって再び声を揃えて言ったのである。

 ――『『それは、幸せになる為(よ)です』』

 それは美神の問い掛けに合った回答とは言えなかったが、
美神はその二人の様子を見て納得してしまった。

 そう、納得いかない事はとことん問い詰めなければ気が済まない性格の彼女が……である。

 まるでジグソーパズルの足りないピースが見つかり、完成してしまったかのように、
彼等の答えが美神の心の空いた部分にストンと収まってしまったのだ。

 そして同時に美神は思った。

 (この二人……何か大きな秘密を抱えてるんじゃないかしら? 滅多な相手には言えない程の……)

 その考えは理性からではなく、美神お得意の直感であった。

 だが、その後に彼女が考えていたのは……

 (……ふ〜〜ん……ってぇことは……それを知るには親密になっといた方がいい……か、
 無理矢理問い詰めたって良い結果が得られる訳でもないし、この二人に嫌われたくはないしね。
 ……こうして見ると横島クンって結構いい男よね? そりゃあ美形って程でもないけど、
 大人っぽい雰囲気だし、実力は十分過ぎるし、性格も良いし、礼儀正しいし、妹は可愛いし……
 ……なんだ、かなりお買い得じゃない♪ 年下ってのがネックだけど狙ってみようかしら?
 ま、タマモちゃんが監視しているみたいだからあまり大っぴらにはできないけどね。
 それに、なによりもこの二人が居れば私の事務所は大成功間違いなしじゃない! ウフフ……
 まずは大人の魅力で離れられないようにしなけりゃねぇ〜。横島クン……に・が・さ・な・い・わ・よ〜?)

 美神が何やらフムフムと考え事をしているようだと思ったら、
急に獲物を狙う肉食獣の様な眼で横島を見たのである。

 ゾクゥっと横島の背中に悪寒が走り、身体をビクンと硬直させてしまった、
タマモも、美神のその目線が何を意味するのか正確に読み取っていた。

 (……マズイわねぇ〜、これは大誤算だったわ……美神さんって元の時代じゃ、お兄ちゃんに対しては、
 なんだか割り切った感じだったのに……兎に角、おキヌちゃんが来るまで私が何とかしないと……)

 タマモが自分の迂闊さを悔やむのも無理はなかった、
何しろタマモはアシュタロス戦以前の美神の事務所の様子を知らないのだ。

 あの戦い以前に美神は、横島に対して好意を持つ場面を度々見せていたのである、
当の横島はそれには気付かなかったようだが、一緒に居たおキヌは当然気付いていた。

 しかし、あの戦い以降は横島に対する感情は割り切ってしまった様子である、
だからこそ、あの時の横島の慟哭を見ても、
横島に対する気持ちを変えたりはしなかったおキヌに美神はエールを送り続けたのだ、
ずっと支えてあげるように……ずっと側に居るように……と。

 そしてその想いがようやく実り、横島の独立、更には結婚へと続いていくのだが……
それらの物語は別の機会に語られる事になるであろう……


 兎も角、タマモとしては油断しないように監視するしか方法がなかった、
だが、雌豹のように眼を光らせる美神と、まるっきり蛇に睨まれたカエルのように固まった兄を見て、
これから起こる事が前途多難であると感じ、盛大に溜息を吐くタマモであった……


◆◆◆


「さて……確かそろそろだと思うがなぁ……」

「……おキヌちゃんね?」

「あぁ、たぶん今日か明日辺りだったと思う。地獄岳の人骨温泉ホテルから除霊依頼が来るのは……」

「……ねぇ? やっぱり会いに行かなくてよかったの?
死津喪比女の事だって先になんとかしといた方が良かったんじゃない?」

「確かにそうだが、今現在の死津喪比女がどんな状態でいるか分からないし、
下手に調べようとしてヤツを刺激でもすれば、今のおキヌちゃんにどんな影響があるのか……
下手をすればあの装置に強制的に取り込まれ、訳も分からない内に、
あの導師から霊体ミサイルになるのを強制される可能性だってゼロとは言えない。
確かに地脈から切り離されていない今ならば、ヤツの力だって大した事はないだろうが……
でも、調べるにせよ殲滅するにせよ、どのみち元の時代のおキヌちゃんの協力が必要なんだ。
……霊体ミサイルなんかにさせない為にも絶対に……」

 横島はそう長々と妹に語った。
 そしてタマモは改めて認識したのだ、横島がどれだけおキヌの現状に心を痛めているのか、
横島がどれだけ死津喪比女を倒す為に、万が一の事態でも起こさないように考えているのか、
そしておキヌの身に危害が及ばないようにする為、どれだけ努力してきたのか……

 タマモは改めて身を引き締め直した、そう、絶対に失敗は許されないのだ……
横島も思い出していた、おキヌが霊体ミサイルとなって死津喪比女に特攻した時の事を……
あの時の絶望感、喪失感は筆舌に尽くし難かった。
 それに匹敵する出来事と言えば、ルシオラを失った時ぐらいである、
おキヌの場合はその後に復活できたものの、そうでなかったらルシオラの場合と同じく、
哀しみの慟哭を上げていたであろう事は間違いなかったのだ。

 そうしてお互い気持ちを引き締め合うと、出勤の為にアパートの外に出る。

「ねぇ? 偶には後ろに乗っけてくれない?」

「ダメだ、大体狐の姿になれば俺の懐に入れるんだからそれでいいだろう?
それに今の俺じゃ二人乗りは道交法違反だ」

「むぅ……道交法なんて日本で一番守られてない法律なのにぃ〜」

「だからと言って、堂々と破る訳にはいかないだろ? ホラ、早くしないとどやされるぞ?」

「むぅ〜〜〜……(ポンッ)……キュ〜ン」

「おし、そんじゃ行くぞ? (ブオォォォォン)おっし、今日も快調だな」

 二人が何の会話をしているかと言えば、そもそもは横島がバイクの免許を取得し、
念願の中型バイクを購入したからである。

 そう、今年に入って変わった事はもう一つあったのだ。

 元の時代、丁稚だった時はその移動手段が極めて限られていた、
大人になって経済的に余裕が出てから自動車の免許は取ったが、
バイクはもう今更だと思い、自動二輪の免許は取らなかったのだ。

 だからこそ、今度はこの機会に必ず取得しておこうと思っていたのだ。
 十分な額の給料のおかげで前年の末頃には新車の、
それもチューンナップされた代物を買える代金が溜まっていたのだが、
修行を優先させていた為、とりあえずメーカーに注文だけ出しておいた。
 そして春休みが始まる前までに普通自動二輪の免許を取得し、
注文していたバイクが届くのを心待ちにしていたのだ。

―――スズキSV400S

 市販されるスポーツ/レプリカタイプの中型バイクの中でも、そのスタイリッシュなフォルムと、
女性でも扱える操縦性と安定性の良さで知られる人気バイクである。

 横島が購入した車体にはブラックメタリックのカラーボディにシルバーメタリックのラインが走り、
所々に『YOKOSIMA』のログが白抜きの文字で描かれおり、
エンジンも足回りもこれでもかと言うくらいにチューンナップされていたのだ。

 ちなみに購入価格は400万を超える……通常価格なら60万ちょいである……
だが、通常価格のおよそ7倍の値段を掛けただけの事はある、
流石にあまりにもピーキーなチューンはしない様に言ってあったが、
その加速率、高速時の安定性は通常のバイクとは比較にならなかった。

 三学期の終業式三日前に納車され、それ以来出勤する際はこのバイクで通勤していた。

 ちなみに二人乗りする為には、免許取得後一年経たないといけないから、
タマモを後ろに乗せる訳にはいかなかったのだ……まぁ、緊急時には仕方が無いかもしれないが、
それ以外の場合にはなるべく違反したくはなかったのである。

 ちなみにもう一つ言うと、ドクター・カオスからは指定した口座に、既にかなりの金額(数千万単位)を
振り込んでもらってはいるが、これも緊急時や纏まったお金が必要な場合以外には使うつもりはなかった。

 何より、初めて購入する自分のバイクは自分で稼いだお金で買いたかったのだ、
確かにカオスからのお金も自分で稼いだお金だと言えなくもないだろうが、
一度社会人として働いていた身としては、やはり労働の対価としてのお金に尊いモノを感じていたのである。

 ここら辺はいわゆる、男の甲斐性と言うかプライドと言うべきだろうか?


 それは兎も角、二月中旬にカオスから連絡があった、
このアパートからそう離れてはいない場所で、売りに出されていた別荘を買い取ったとの事。

 早速行って見ると確かに自宅からそう離れておらず、電車で数駅程の所であり、
バイクでも10分程のその別荘は中々に大きな屋敷で、既に地下室には研究室を設けており、
屋敷の周囲にはかなり強力な結界も貼られてあったのだ。

 部屋数も多く、カオスとマリアが二人で住むには大き過ぎる気がしたが、
カオスからはココを横島達や他のGS達の集会場にしてもかまわないと言ってくれたし、
マリアからも、どうせなら一緒に住まないかとも言われたので、
小鳩一家の件が片付いたらそれもいいかな? と兄妹揃ってそう思い始めていた。


―――閑話休題


◆◆◆


「温泉……ですか?」

「ええ、そうよ♪ 人骨温泉ホテルって所に幽霊が出るそうだから除霊して欲しいんだって。
まぁ、特に危害を加えるような悪霊って程のモノじゃないそうだけど……
ホテル側としちゃ死活問題だしねぇ〜。それにそこの宿泊料も依頼料に入ってるし、
パッパと済ませちゃって美味しい御飯を食べて、温泉にゆったりと浸かりましょ?」

(温泉に宿とくれば……ムフフ〜……最近ちょっとマンネリな責め方だったしねぇ〜)

 出勤してきた早々、美神が横島にそう伝える。

 美神としてはお気楽なその言葉通り、温泉旅行気分を満喫したいようであるし、
それにこの機会に、横島に対しもう一押しするつもりのようだが……

「あ、それって楽しみ〜〜。私は温泉に行ったことってないから……」

 と、横合いからタマモが美神と横島の視線の間に入るようにしながらそう言う。

(ぜ〜〜〜ったい、二人っきりにはさせないからね? 美神さん……)

「アラ、そうなの? 雪景色の山の風景を見ながらの温泉っていいわよ〜♪
一緒に入ってみない? 結構ハマるかもよ?」

(う〜〜〜ん……やっぱタマモちゃんはそう来たか……ま、いっか♪
妹と温泉入るみたいで楽しそうだし、チャンスはまだまだあるし)

 と、外見は穏やかに話す二人であったが……、
お互いの内心はかなり必死なタマモに、かなり余裕な美神とまったく正反対だったりする。

(お〜〜〜い……なんか俺って置いてきぼりにされてないか〜?)

 なんとな〜く二人の板挟みになってるような気がしないでもない横島であったが、
それでもいよいよおキヌと再会出来ると思うと、その心は既に地獄岳のあの場所へと飛んでいたのだった。


(いよいよ……いよいよだ! 必ず助けるからな? おキヌちゃん!!)

(まったく……おキヌちゃんを絶対に助けなけりゃいけないってのに……
その前に美神さんをどうにかしなければねぇ……あ〜頭痛いわ……)

(ウフフ〜……タマモちゃんは大分くだけて来たけど、横島クンがまだまだなのよねぇ。
開放的な雰囲気で、もう少し親密になってみるのもいいかも〜♪)

三者三様の思いはどの方向に向かっているのか……

それぞれの思惑を乗せて、舞台は一つの山場を迎えようとしていた。


 続く


 おまけ

 ※:このお話は、横島とタマモが兄妹になったばかりの頃の、日常の極一部を描いたものであり、
  本編とは一切関係はありません、又、登場するキャラクター名も何処かで見たと思うかも知れませんが、
  それは読者の皆様方の気の所為であります(爆)、では、おまけではありますがお楽しみ下さい。


 【タマモンのショート劇場】


カタカタ……カチッカチッ……カタカタカタ……カチッ……

「なぁ……さっきから何やってるんだ? そのパソコン、この間ネットに繋いだばかりだろ?」

「ん? ネットゲームだよ♪ この頃のネトゲも結構面白いわね〜」

「ネトゲって……この頃からあったっけか? つーかタマモってそういうのやってたのか……」

「うん、まぁ確かに画像も操作性も元の時代よりも稚拙だけど、
元々ネトゲの一番の楽しさはゲームの中で出会う人達と会話する事だから気にならないわ」

「へぇ〜? ……って、それがお前のキャラか? “KONKON”って又安直な……」

「いいじゃない、分かりやすいでしょ? それにこの名前のおかげで仲良くなれた人が居るんだし」

「へぇ? それってどんな人なんだ?」

「それは……(ポンッ)……あっ、噂をすれば今INしてきたわ、この人よ」

「どれどれ……“KONAKONA”? 成る程、名前が似てるから親しくなったのか」

「そうよ〜すごいレベル高い人なのに、すっごい親切に教えてくれたわ♪
同じ女の子で、今年高校に入学したんだって」

「へぇ〜? 俺と同い年か……って、女の子でゲームする子って結構居るんだな……」

「そうね、結構居るみたいよ? ……あ、これって……ねぇ、お兄ちゃん? ちょっとこれ見て」

「ん? ……『チョココロネってさ、どっちが頭でどっちが尻尾だと思う?』……って、
パンに頭も尻尾もないと思うがなぁ……まぁ、とりあえずチョコの見える方じゃないか?」

「そっか、じゃ、そう書くね……(カタカタカタ……)」

「しっかし、確かに女の子の話題だな……所でタマモ……」

「ん?」

「お前の名前、コンコンって意味なら“CONCON”じゃねーのか?」

「……いいのよ、本人が分かってれば……」

「……そっか……」


 曖昧3セ○チ?


 以上【たま☆すた劇場】【タマモンのショート劇場】でした。


 後書き

 どうも、第六話お送りしますチョーやんです。

 ちょっと最後のおまけがふざけ過ぎかと思いましたが、いかがでしたでしょうか? 元ネタがなんであるか
皆様はお気付きでしょうが、あくまでもネット上の会話だけで本編にも一切登場させるつもりはありませんし、
声はおろか、そのキャラの描写すら出すつもりはありませんけど……やっぱり元ネタ表記は要りますかね?
本編には関係無いおまけなんですが、要るようでしたらご指摘願います、修正しておきますので。

 それと、『年代が違わくね?』と突っ込み入れられる前に言い訳しますが、
これは「そういや逆行してからの最初の一年間の日常ってほとんど書いてないな〜」とそう思って、
即興で書いただけのおまけであり、フィクションとしてお目溢しして頂ければ幸いです。(^^;

 さて、本編の方ですが……

 美神さん!? あんたキャラが変わりすぎ!! っつか、お前誰じゃああああああぁぁぁ!?

 ……ハイ、すみません……何故かあの様なキャラになってしまいました……
どうして分からないんですが……どうしてでしょう? (ォィ)

 それとかな〜〜り設定を詰め込み過ぎてしまいました、おかげでまぁ読み難い事読み難い事……(汗)
ホントはかなり削りたかったんですが、それだと読者置いてきぼりの「はぁ?」な展開になりかねないので、
致し方なくこのようなお話の内容になってしまいました、改めて自分が未熟だと思い知らされます。(涙)

 それと六道女学院中等部の校則ですが、あれは完全にオリジナルです、
実際、中学生を実戦の場に出すとは思えませんでしたのであのように設定しました。

 それとバイクに関してですが、私はバイクには詳しくありません、
知人に聞いたり、ネットで色々調べましたが……結局よく分からずにあの様な描写になりました。
 詳しい方から見れば「なんだそりゃ?」な内容でしょうから、詳しい方はお教え願えませんでしょうか?
今後の参考にしていきたいと思いますのでよろしくお願いします。

 それと最後に、横島がかなり強すぎるんじゃないかと思われるでしょうが、
あれでもメドーサ辺りには単独で正面からでは勝てません、霊力の絶対量が違いすぎますので……
文珠と併用出来れば分かりませんが、『超加速』を先に使われでもしたらそれまでです。
 まぁ、そうならないよう色々と細工をすると思いますが、それは今後の展開をお待ち下さい。

 さて、色々と言い訳してしまいましたが、気になる点、おかしい所がありましたら、
遠慮なくご意見、ご指摘、突っ込み等をお願い致します。。

 次回はいよいよおキヌちゃんの登場です!

 では、レス返しです。

●紅様
  はい、夫人は結局あのようなキャラにしました、おキヌちゃん救出は次回をお待ち下さい。

●白川正様
  すみません、混乱させていまいまいた……この作品は基本シリアス、所々にギャグと言う形にして、
 あまり暗くならないようにして行きたいと思っておりますのでお見捨て無きよう願います。(^^;

●雲海様
  そう言って頂けると書いた甲斐があります! 本当に有難う御座います。(^^
 和馬氏については今後登場する機会はあまりありませんが、結構重要な役処のキャラですので、
 今後の展開をお楽しみ下さい。

●月夜様
  はい、タマモに関しては結局本文の通りです。
 それと文法に関しましては私もかなり調べたつもりだったのですが……
 どうも正しい覚え方をしなかったようで、かなり勘違いしておりました、ご指摘して頂き有難う御座います。
 今回はご指摘通りに色々と修正してみましたが、まだおかしい所がありましたら遠慮なくご指摘願います。

●クロト様
  思い出と言うモノは時と共にどうしても美化されていくモノですw
 当時は辛くても思い返せばいい思い出ってありますよね?(マテ
 死津喪比女に関しては今回横島が語った通りです、彼にしてみれば失敗は許されない訳ですから。
 それからレモの台詞にあった『下男』って言葉が気に入ったので拝借させてもらいました。(^^;
 それと誤字についてのご指摘有難う御座います、修正しておきましたので、今後もよろしくお願いします。

●ながお様
  いえいえ、凹む所かむしろ有り難いと思っております、今回のお話も気になる点がありましたら、
 どうか容赦なくズバリと指摘して下さって結構であります、今後もよろしくお願い致します。


 レス返し終了です、では次回の第七話でお会いしましょう。

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