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「GS横島!? 幸福大作戦!! 第五話」

チョーやん (2008-01-24 21:07/2008-01-30 18:32)
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 二人が服装を決めてから二日後、神父の運転する車で六道家の屋敷まで来ていた。

 三人の服装はタマモが一昨日に購入した緑のドレス、
首には純白のショールをプレーンに巻いていて可愛らしさを引き立てている。

 兄の横島はタキシード、貸衣装のではあるが以外にピシッと着こなしている。

 唐巣は神父の正装であった、こちらは流石に(元)本職の貫禄である。

 玄関で六道家に仕える家人に招待状を渡し、メイドさんの先導で会場まで案内される。

 流石に六道家の屋敷は広く、ココが本当に東京都内なのか疑ってしまうほどだった。

 案内のメイドさんを先頭に、唐巣神父がその後に続き、
兄妹二人はその神父の少し離れた後ろに並んで着いて行った。

 長い廊下を歩きながら二人は声を抑え、何やら喋っている。

「相変わらず広い屋敷だよなぁ〜…金ってのはある所にはあるもんだ」

「ま、金持ちってのは大抵こんなものよ…何時の時代でもね、
……なんとなくだけど覚えてるわ…」

「ン…そっか…所で今朝お袋と電話してたよな? 今夜の事、なんか言ってたか?」

「うん? …う〜ん…まぁ、失礼のないようにねってさ」

 何やら考えてから答えたような気がするが、横島は特に気にはしなかった、
それでなくてもタマモは両親とよく電話で話しをしていたからである、
恐らくは礼儀作法の話だろうと思ったようだ。

「お兄ちゃんこそ、昨日誰かに電話してたじゃない? 学校で彼女でも出来たの?」

「んな訳ないだろ? …まぁ、一応ココはある意味敵地だからな…それなりの準備は…な」

「ふ〜〜〜〜ん……ま、いいけどね」

 そしてしばしの沈黙の後、タマモが口を開く。

「ねぇ…美神さんのとこ…やっぱ行くの?」

「ン? …まぁ、あの頃の感覚っつーか、ノリって言うかなぁ…悪霊程度ならなんとかなるが、
魔族となるとやっぱガチじゃきついなんてもんじゃないからな〜…」

「それであの反則技を? …なんか今更あんなの習い直した所で、
今のお兄ちゃんには毒にも薬にもならないって思うけど…
それよか普通に修行してた方がいいんじゃない?」

「まぁ確かにな…だけど、魂の結晶を持つ美神さんは魔族に狙われてるからなぁ、
警護の意味もあるし、なによりも人骨温泉の依頼が来るのは間違いないからな、
それに…なんて言うか……やっぱりあの頃のノリが懐かしくてなぁ…」

「……お兄ちゃん…」

「なんだ?」

「そんなに美神さんの丁稚…ううん、あれはもう下男ね、あんなのが楽しかったんだ…」

「……今更あの時給でバイトをするつもりはないぞ? 楽しかったのは確かだが…
そこら辺は上手く交渉するさ、自分を安売りする気はないよ……それとな? タマモ」

「ん?」

「……下男言うな」

「………………」

 この後、会話もなく会場に着くまで沈黙が続いたのである…

 後、いくら小声で話していたとは言え、場所は選ぶべきではないだろうか?


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


                      GS横島!? 幸福大作戦!!
                        第五話『幸福を求めて…』


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 到着したパーティー会場のホールは流石に広かった、高い天井には豪華なシャンデリアがいくつも並び、
並べられたテーブルには、いかにも高そうな食材を使った様々な高級料理が並んでいた。

 だが、会場の大きな扉が開いてまず眼に飛び込んできたのは、会場に居る人の多さだった、
急遽決まったパーティーにも関わらず、著名なGS達やGS協会のお偉方が数多く居た。

 通常新年のパーティー等は、もう少し年明けの忙しさが落ち着いてから行うものである、
実際、例年の六道家の新年パーティーもそのはずであったが、これ程の人数が集まるとは…
改めて六道家の影響力の大きさを物語っていた。

 又、財界人らしき人達が何人も居るのを見て、横島はなるほどと思ったのだ。

 いくら美神がその美貌と派手な除霊スタイルで名前を売っていたとは言え、
独立して僅か数ヶ月で長者番付に載るような有名GSに成れるはずがなかったのだ。

 恐らくは“前も”このパーティーが催され、美神は政財界の大物達の知己を得ていたのであろう、
そして、やはり六道家の後ろ盾が大きなアドバンテージになっていたのは間違いが無かった。

 …まぁ、その分厄介ごとも色々と持ち込まれてしまっていたのだが…
式神の決闘の立会いを頼まれたり、冥子の除霊の相方を頼まれたりと…
美神としては内心断りたかったであろう。

 そんな事を考えながら横島は会場に入る前にタマモに腕を組むように言う、
こういったパーティーでは男性が女性をエスコートするのが常識である、
たとえそれがどの様な関係であれ、こういう場合は妹をエスコートするべきであろう。

「そうなんだ…エヘへ、それじゃ遠慮なく♪」

 そう説明されるとタマモは嬉しそうに腕を組んできた。

 元の時代では、タマモはこういった席に出席するのを面倒臭がっていたので知らなかったようである、
前世で宮廷に居た頃は、その時代の宮廷作法を心得ていたであろうが、今ではほとんど覚えていないのだ。

 だが、タマモが出席を渋っていた本当の理由は…恐らくは面倒臭がっていたのではなく、
『保護妖怪』として好奇の視線に晒されたくなかったのではないだろうか…

 まぁ、流石に現代での挨拶の仕方や、食事の礼儀作法は覚えたようである。

 十年後のタマモは、それこそかつて『傾国の美女』と称されたほどの美貌とスタイルを誇り、
今の幼い姿とは比較にもならない。

 それ故にパーティードレスで着飾れば、さぞかし綺麗だろうと思ったのであろうか、
おキヌがタマモに偶には出席したら? と言った事がある、自分は留守番しているからと…

 そんなおキヌ言葉にタマモは少々憤慨しながらこう言ったのだ。

 『あのねぇ…横島の隣に居るのは私じゃなくておキヌちゃんなのよ? 夫の側に妻が居なくてどうすんのよ』

 そう言って、横島の側からおキヌが離れてはいけないと言い、自分が行く事を拒否した、
そして更に、他の女性が横島の隣に来る事も嫌がって横島にこう言ったのだ。

 『おキヌちゃんを裏切るようなマネをしたら絶対承知しないからね!? その時は祟ってやるんだから…』

 勿論、横島もそんなつもりはまったくないのだが…
美人に頼まれると弱いという事を見抜かれているのだから反論のしようがなかった。

 このようにタマモにとっては、二人が並んで側に居る事が当たり前の事なのであろう、
まるでそれを見守るのが自分の役目と言わんばかりに…

 だが今はおキヌと再会することは叶わず、あの頃の横島を知るのは自分だけである、
そして今の自分は『保護妖怪』ではなく義妹の『横島タマモ』としてココに居るのだ。

 であれば、自分はせいぜい義兄の浮気の虫が騒がないように、
又、女性が近づいてこないようにしっかりと監視するのが役目であろう、
そう考えたタマモはギュッと義兄の左腕にしがみつくように腕を組んだのだった。

 そんな兄妹の様子を微笑まし気に見ていた神父であったが、
いつまでも会場の入り口に居る訳にもいかず、まずは六道夫人の姿を探した。

 こういった席に招待された側は、会場に到着したら真っ先に招待主に挨拶をしなければならない、
だがそれほど探し回る必要もなかった、会場の真ん中辺りに人の輪が出来ており、
その中に夫人の姿が見えたのだ、そして他の招待客相手に朗らかに談笑していた。

 神父は二人を連れると、夫人に挨拶する為にその輪の中に入っていった。

「遅れて申し訳ありません六道夫人、この度はご招待頂き有難う御座います」

「あら〜唐巣く〜〜ん、お久しぶりね〜、いいのよ〜〜まだ始まったばかりだから〜〜」

 神父の挨拶に間延びした口調で返す六道夫人、
その姿はきっちりとした和服姿でニコニコと笑顔を振りまいている。

 そして神父の後ろに控えていた二人も夫人にそれぞれ挨拶をする。

「お初に御眼にかかります六道夫人、横島忠夫と申します、
この度はおれ…いえ、私共にも招待状を頂き有難う御座います」

「妹のタマモと申します、本日はお招きに与り真に有難う御座います」

 横島は右手を胸に添えて深く会釈し、タマモはドレスのスカート部分を両手で広げ腰を落として会釈する、
挨拶の言葉といい、そのしぐさといい、中々堂にいっており、周りの招待客達も「ほぉ…」と感心する。

 なにしろ二人は高校生と小学生か中学生にしか見えないのであるから無理もない、
始めて見る顔ぶれだが、中々礼儀正しい子供達だと思っているようだ。

 そしてその挨拶を受けた夫人も満面に笑みを浮かべ、二人に挨拶を返す。

「まぁまぁ、なんて礼儀正しいの〜、貴方達が唐巣くんの所にいる横島くんとタマモちゃんね〜、
初めまして〜、来てくれて嬉しいわ〜〜ゆっくりしてらっしゃいね〜〜」

「はい、有難う御座います……所で私の姉弟子である美神令子さんはどちらに?」

 夫人の言葉に一応は恐縮してみせる横島、そして美神が何処に居るのかを尋ねた。

「あらあら、そんなに畏まらなくてもいいのよ〜〜、もっと普通に喋ってくれて構わないから〜
……え〜〜と〜令子ちゃんは〜……あぁ、居た居た、令子ちゃ〜〜〜〜ん!」

 と、まるで子供のように大きな声で美神を呼ぶ夫人、
横島としては別に呼んで貰う必要はなかったのだが…

「あの…別に呼ばなくてもいいですよ、こちらから行きますから…」

「あらいいのよ〜〜、唐巣くんも居るんだからまとめて挨拶したほうがいいでしょう〜〜?」

 夫人の言葉に神父も苦笑する、タマモもやれやれと言った感じだ。

「おばさまぁ…そんな大声で呼ばなくても聞こえますから…って、唐巣先生!」

 新たに聞こえてきた声のする方向を見る。

(! …美神さん…それと後に居る二人は…まさか!?)

 横島は少なからず驚いていた。

 そこには紫のドレスを着た美神令子がこっちに向かってきていたが、
更に後からは二人の女性が着いて来ているのが見えたからだ、
一人はココに居ても不思議はないが、もう一人は…

「やぁ美神クン、久しぶりだねぇ、元気そうでなによりだ」

「先生こそお久しぶりです…でも先生は頭の方が更に後退されましたねぇ〜」

「君ね……久々に会った師匠にそういう事言うかね…」

 美神の、そのあまりと言えばあまりの言葉にどんよりとした顔になる神父…
そんな神父の心情を余所に、美神の後ろから来た二人の女性が声を掛ける。

「令子の言う事は気にしない方がいいワケ、でも、ホントにお久しぶりです、唐巣神父」

「唐巣さ〜ん、お久しぶりです〜〜」

 そう言いながら声を掛けてきたのは小笠原エミと六道冥子であった、
エミは浅黒い肌がよく映える真紅のドレス、冥子は純白のドレスだった、
二人共彼女達らしい装いである。

(冥子ちゃんは兎も角…エミさんまで一緒に居たとはな…
確かに考えてみれば不思議はないんだけど…それにしても…)

 横島のそんな内心を余所に唐巣神父は二人に挨拶を返す。

「やぁ、二人共久しぶりだね、しばらく見ない内にまた綺麗になったようだね」

 神父の言葉にエミは、神父もお上手になりましたねと言い、
冥子はエヘへ〜と喜ぶ、二人共まんざらではないようである。

 一方の美神はかなり憮然とした顔である、
二人を誉めて弟子には一言もないのかと言わんばかりだ。

 …先程の発言を忘れてその態度はどうかと思うのだが…

 横島とタマモはそんな彼等の様子を窺っていたが、
そろそろ自分達を紹介して欲しいと思って師に声を掛ける。

「唐巣先生…よろしいですか?」

「あぁ、そうだったね横島クン…三人とも紹介す「きゃ〜〜!かわいい〜〜〜!!」るよ…って」

 自分の弟子とその妹を紹介しようとしたが、冥子の声に遮られる、
そして冥子はタマモに向かって駆け寄り、いきなり抱き締めたのだ。

「ムギュ…え、ちょ…あ、あの〜〜…」

「いやぁ〜〜ん、かわいいの〜〜〜♪」

 突然の事にタマモはアタフタと身をよじらせ、冥子はそれには構わず頬ずりまでしている。

「ちょっと冥子、落ち着きなさいよ…その子が困ってるじゃない…」

「まったくなワケ…あれで私達より年上だなんて思えないワケ…」

 そんな冥子の様子に呆れた声で言う美神とエミ…なに気にこういう処では気が合うようである。

「まぁ冥子ったら、はしたないですよ〜? …私もしたかったのにぃ…」

「冥子クン…落ち着きたまえ、タマモ君が困ってるじゃないか…これじゃ紹介ができないよ?」

 母親と神父の言葉にようやく落ち着いたのか、冥子が身体を離す、
もっとも母親の方は後半になにやらつぶやいたようではあるが…

「ごめんなさいね〜〜貴女があんまりかわいいからつい〜〜」

「い、いえ……え、と、お気になさらず…」

 タマモはかろうじてそう言ったが、冥子のいきなりな行動に戸惑いを隠せなかった、
タマモも自分の容姿に関しては十分以上に自覚しており、初対面の人がどんな反応をするのか、
どういう言葉を掛けてくるか等、それらの対応が十分に出来る自信があったのだ。

 だが、流石に公衆の面前でいきなり抱き付かれるとは思わなかったのである、
これが危ない趣味のおっさん辺りなら股間を蹴り上げてやった所であろうが…

「ハハ…まぁ、それくらいにして紹介しようかね、美神クン…それとエミ君に冥子クンも、
去年の春から私の所に弟子入りしている、横島クンとその妹のタマモ君だよ」

「…初めまして、横島忠夫です、美神さんの事は唐巣先生から聞いております、
妹共々よろしくお願いします」

「え、と…妹のタマモです、唐巣先生の所でお世話になっております、
これから色々お世話になる事が多いでしょうが、どうかよろしくお願いします」

 二人は神父の紹介でそれぞれ自己紹介したが、横島は内心の想いを抑えるのに必死だった。

(み、美神さん…十年経っても変わらないと思っていたけど…やっぱり若いなぁ…
それにエミさんも冥子ちゃんもやっぱ…なんて言うか初々しい感じだよなぁ…)

 ここの所ずっとシリアスモードで煩悩を抑えていた所為か、久しく忘れかけていた衝動が疼いてくる、
なにしろ元の時代で分かれてきたはずの彼女達が、十年前の姿でそこに居るのだから無理もなかった。

 更に冥子は兎も角、美神とエミのドレスはそれぞれ胸元が大きく開いており、
自慢のプロポーションが強調されるようなデザインであった。

 そしてそんな義兄の様子に敏感に反応したのが隣に居る義妹であった。

(…ムッ! こっちに来てからそういう反応は見せなかったくせに!!)

 ムギュッ!

「いでっ! …って、なにするんだよ!?」

「別に? 誰かさんが鼻の下伸ばしてるからじゃないの?
…まったく、ちょっと綺麗な人を見るとこれなんだから…」

 横島は脇腹をつねられて思わずタマモに文句を言うが、そう返されてしまい内心ギクリとしたのだった、
何しろ、妖狐の鋭敏な感覚に加えて乙女の勘まであるのだ、誤魔化し様がないのである。

「…お、おい、誰が鼻の下伸ばしてるって?」

 それでもなんとか言い訳しようとしたが…

「あ〜〜ら、言わなきゃ分かんないかしら? お・に・い・ちゃ・ん?」

 妹のその言葉に何も言えなくなる兄…その微笑ましい光景に周囲には笑いが漏れていく。

「フフフ、焼き餅焼きの妹さんが居ると大変ね…私の事は知っているようだけど、
一応自己紹介するわね、美神令子よ、今度事務所を開く事になったわ、よろしくね?」

「私は〜六道冥子よ〜〜よろしくね〜〜横島くんにタマモちゃ〜ん♪」

「私は小笠原エミよ、令子と同じく今度事務所を開くことになったの、よろしくなワケ、
それにしてもオタク達って仲が良いワケ…似てないようだけど義理の兄妹なワケ?」

 三人がそれぞれ自己紹介をする、そしてエミの質問に横島が答える。

「ええ、ある事情で両親が引き取りまして…でも実の妹と想っていますよ」

 そう答えた横島は、隣でそっぽを向いている妹の頭を撫でる、
撫でられた妹はその言葉と撫でられる感触に「う〜〜…」と唸って赤くなっていた。

 その様子に周囲は再び笑いに誘われたのだった。

 こうして六道家におけるファーストコンタクトは、朗らかな雰囲気で迎えたのであった。


◆◆◆


「へぇ? 今年から中学に上がるんだ」

「はい、お兄ちゃんと一緒に除霊の仕事を手伝ってますが、勉強の方はあんまり…」

「まぁ、GSは学歴に左右される職業じゃないけど、基礎くらいはちゃんと勉強しといた方がいいワケ、
私みたいに後から苦労するハメにならないようにね?」

「でも〜〜タマモちゃんの歳でもう除霊の現場に出てるなんてすごいわ〜〜
私なんてもう怖くて怖くて〜〜」

「…やっぱりその生まれの所為なの? GSを目指すって」

「えぇ…生まれ持った力を恨んでも仕方がないですから…それに、
引き取ってくれたお父さんやお母さんの為にも、お兄ちゃんと一緒に頑張るつもりです」

「いい心がけなワケ、前向きに考えないと人生損するワケ、 
何か困ったことがあったらいつでもウチに相談しに来てもいいわよ?」

「はい、有難う御座います」

「アラ? エミの所に行ってもこの娘の為にはなんないわよ、私の所にしときなさいな、
なにしろ弟弟子の妹なんだしね、私の方が頼りになるわよ?」

「なんですって!? 令子…アンタとは一度きっちり話をしておく必要があるみたいね…」

「フ〜〜〜ン? 何の話をするつもり? GS試験で私が主席を取った時の話かしらぁ?」

「……令子…アンタ喧嘩売ってるワケ?」

「ふ、二人とも〜〜喧嘩はダメよ〜〜〜」

「え、え、え〜〜〜と……」

 バチバチと火花を散らす二人に冥子は慌てて止めようとし、タマモは戸惑ってしまっている。

 今、彼等は会場の奥にある談話室で会話をしていた、パーティーもつつがなく終わり、
さて帰ろうかと思っていた神父達三人を、六道夫人が呼び止めたのである。

 美神の独立に伴うGSの正式資格免許の許可等、書類上の手続きをついでに終わらせておきたいとの事、
それに、これから独立する彼女等と会場では出来なかった話を一緒にしてもおきたいと告げたのだ。

 要するに手続き云々は口実で、彼等と雑談がしたかったようだ。

 何より、美神達三人もタマモの事を気に入ったようである(特に冥子)、
GSの先輩として、又、同じ女性としてタマモの事を応援したくなったようだ。

 既に横島とタマモの事情は説明済みで、先祖返りで妖怪化してしまった(と言う事にしている)タマモが、
引き取ってくれた両親や、兄の為に頑張ろうとする姿が彼女達の心の琴線に触れたようである。


「あらあら…相変わらず仲が良いわね〜〜」

「まぁ、喧嘩するほど…とは言いますがねぇ…それよりも、
彼女達がタマモ君を気に入ってくれたようでなによりです」

「えぇ、本当に…タマモがGSとして社会に受け入れられる為には、周囲の理解と協力が必要ですから」

 キャイキャイと騒ぐ彼女達の声をドア越しに聞きながら、夫人は別室で師弟二人と会話をしていた、
こういった手続きを見ておくのもGSの勉強の為と横島が同席したのである。

「処で、横島く〜〜ん? その事なんだけど〜…タマモちゃんをウチの学校に入学させてみない〜?」

「ウチの…と言いますと、六道女学院ですか?」

「そ〜よ〜、学院には〜中等部があるから〜GSを目指すタマモちゃんの為にも良いと思うんだけど〜〜」

「それは有り難いお話ですが……それを決めるのは私ではありませんよ、
タマモの人生はタマモ自身が決めるべきです、私はその手助けをしてるだけですよ」

 そう言いながら、横島はようやく本題に入ったなと思っていた、
恐らくタマモの件は口実で、本命は自分を取り込む事だと判断したのだ。

 まぁ、タマモの事も口実だけじゃなく、本当に手助けをしたいと思っているであろうが…

 神父の言葉ではないが、夫人も悪い人ではない、むしろ善人の部類に入る、
だが、その思惑にはどうしても打算が入るのだ、それは冥子を見ていると良く分かる。

 なにしろ初代からして“アレ”である、無意識の内から他人に頼る事を、
遺伝子レベルで刷り込まれているのであろう。

 それは“前”の体験で嫌というほど分かっている。

 なにしろ、あの六道家の試練とやらを何の相談もなしに自分達まで巻き込んだのだ、
相談もなく人に頼る事が悪い事だと思わなければ出来ない事である。

 そして冥子のプッツン…あれは周りがフォローしてくれているから深刻になっていないだけである、
下手をすれば、大量殺戮、大量破壊になりかねないのだ(殺戮は兎も角、破壊はしているが…)。

 下手に刺激すればプッツンに巻き込まれるという恐怖と、六道家の強大さへの畏怖、
これがあるからこそ他人は頼られても断れない状況を生んでいるのだ。

 それが当人たちからすれば『みんな良い人ね〜』などと本気で思っているから始末が悪い。

 冥子はプッツンさせる事が悪い事だと理解はしていても、自覚はしていないであろう、
そうであればもっと努力しているはずである。

 夫人は夫人で娘よりは経験を積んだ分マシになっているが、その分どうすれば他人に頼れるか、
どうすれば断れないように出来るのか“知っている”のだ。

 はっきり言って、娘より性質が悪いと言える。

 だが、そんな横島の思惑を余所に、夫人は不思議そうに尋ねてくる。

「ん〜〜〜…でも〜タマモちゃんはまだ小学生でしょう〜?
兄である貴方から言って貰えたほうが良いと思うんだけど〜…」

「確かにそうかもしれませんが…小学生とは言え、妹は聡い子です、
自分で進む道は自分で決めるでしょう、もし女学院への入学を自分で決めたのなら、
私はそれを全力で応援するだけです、夫人のご助力が無くてもね…」

 横島は、暗に夫人の口添えなど必要ないと言ったのである。

 その言葉に隣に居た神父が息を呑む…直接的な言葉ではないにしても、
六道家の力など必要ないと言ったも同然であるから当然であろう。

「よ、横島クン…そんな言い方は「唐巣くんは黙っててね〜〜」…ふ、夫人…」

 たしなめようとした神父の言葉を遮り、夫人が神父を黙らせる、
神父はなんとか穏便に済ませようとしているのだが、
夫人の視線がそれを許さないように見つめている。

 埒が明かないと判断した夫人は、別の手段からアプローチを掛けてきた。

「ねぇ、横島く〜ん? 当家では全国の霊的磁場の高い場所にはそれぞれ監視網を設けているの、
その中の一つに那須温泉郷にある殺生石と言う場所があるんだけど…ご存知かしら〜?」

「!…えぇ、知ってますよ…確か『金毛白面九尾の狐』が封じられた場所で有名ですから…
ですが、それがどうかしたのですか?」

 横島は自分自身を誉めたかった、なにしろその言葉に表向きはまったく無表情で通し、
尚且つ、不思議そうな顔で尋ね返す事が出来たのだから…

 だが、これで夫人の情報に九尾の狐が復活した可能性があるという事を知っていると示唆されたのだ、
しかしそれならそれで、こちらも腹を括る事が出来る…

 横島は腹を決めた。

「えぇ、去年の春頃かしら〜…その殺生石から漏れていた妖気が〜
ほとんど感じられなくなったって報告があったのよ〜〜
もしかしたら九尾の狐が復活したかもしれないわね〜〜」

「ほぉ…去年の春と言えば家にタマモが養女として迎えられた時期と同じですねぇ…
つまり夫人は家のタマモがそうじゃないかと仰るのですか?
タマモの履歴には、施設に居た事になってるはずですが…」

「そうなんだけど〜…でも不思議よね〜、その施設にはタマモちゃんが居たという書類はあったけど、
周辺の住人からは、そんな子が居たなんて証言は得られなかったらしいの〜」

 このやり取りに神父が再び息を呑む…もし、夫人の言葉通りだとしたら……と。

 だが、神父としては今更タマモに対する見かたを変えるつもりはなかった、
以前は『傾国の妖(あやかし)』と言われ、忌むべき存在として扱われていたが、
近年の調べでは、九尾の狐は単に権力者の庇護を求めただけであり、
国が滅びる直接の原因になった訳ではないと言われているからである。

 更に言えば、これまでずっと一緒に戦ってきた仲間である。

 何より神父の眼から見て、タマモが邪悪な妖怪であるなどとは見えなかったのだ。

 その事を主張しようと思ったのだが、神父の右手に何かが触れる感触がある。

 見ると、横島の左手が神父の右手に重ねられており、横島の顔を見ると、
何らかの決意を込めた眼で神父の顔を見ていたのだ。

 ここは自分に任せて欲しい…彼の眼からはそんな言葉が聞こえたような気がした…

「…なるほど、つまりタマモに関する書類は全部偽造であり、
私達の一家がそれを隠している…と、そう仰りたいんですね?」

「ん〜〜そうはっきりと言う訳じゃ「夫人!」…なにかしら〜?」

「もし、その全てが夫人の仰る通りだとして…それがどうしたと言うのですか?」

「え? え〜〜とぉ…」

「私はタマモが可愛いと思っていますよ…妹として、かけがえの無い家族としてね…
そして私は家族の為ならなんだってしますよ…そう、なんだってね……」

 横島はそう言うと眼を細めて一瞬だけ殺気を込める…


(!! な、なにっ?! この殺気は!? …隣の部屋から?)

(えっ!? なに今の!?)

(あれ〜〜? みんな急に黙ちゃって…どうしたのかしら〜? 
…なんだか嫌な感じがしたけど…その所為なのかしら〜〜?
影の中のみんな(式神)も怖がっちゃってるし〜〜…)

(……お兄ちゃん…始めたみたいね…でも、この場でだなんて急過ぎない?
フォローする私の身にもなって欲しいわ…)

 エミ、美神、冥子、タマモが隣室に発生した殺気にそれぞれ反応する。

 何しろ十年もの間、悪霊だけでなく凶悪な妖怪、時には魔族をも相手にしてきた横島である、
そんじょそこらのGSとは実戦経験の密度と豊富さは比べ物にならないのだ。

 そんな彼が放つ殺気はほんの一瞬とは言え、まだあまり実戦の経験があるとは言えない彼女達にも、
十分察知できる代物だった…若干一名だけ呑気な人がいるが、気にしないほうがいいであろう…

 流石に社会の裏側を見てきたエミは真っ先に反応できたようではあるが…


 そしてそんな殺気に直接晒された二人は…

(くっ……ほんの一瞬なのに…しかもこちらに向けられた訳ではないのに…なんて殺気だ…
しかもこの殺気…夫人に向けられては…いない?)

(な、なんなの〜〜? この歳でこれだけの殺気を放てるなんて〜…でも〜…これは〜〜?)

 神父も夫人も驚くと同時に訝しくも思った。

 何しろ横島から放たれた殺気は、夫人に対してではなかったからである。

 そして横島の視線の先は、夫人の後ろ……室内に居る、自分達三人以外の人物…あれは……


(…周りに居る護衛は…6…いや7人か……どうやら一人離れたようだな…よし…)

 横島は殺気に反応し、隠れていた夫人の護衛達の数を確認する…
そして自分の思惑通りに進んでいるようだと判断した。

 そして、二人の様子や、隣室に居る彼女達の反応を余所に横島は言葉を続ける。

「…夫人、私は別に六道家と事を構えるつもりはありませんよ? 
ご助力して頂く事自体はありがたいんですが…
その代わりに、あれしろこれしろと言われるのは勘弁願いたいですしね…
何しろ、姉弟子という前例がありますから…
なにより自分の人生は自分で決めるべき事です…それに……」

「…それに?」

「援助とか助力と言った事は、ある程度の信頼関係にある者同士がする事です、
…札束で顔を叩かれたり…上からの目線で頭を撫でられたり…弱みを握ったり…
そんな事で出来上がった関係が果たして本当の信頼関係にあると言えますか?」

「そんなつもりじゃ〜……」

「えぇ、夫人はあぁ言う事を言えば、おとなしく言う事を聞くと思っただけでしょうが…
そういうのを普通、脅迫と言うんです…それではとても信頼関係なんて築けませんよ?」

 横島のその言葉に夫人は俯く…恐らく今までこんな事を言われた事はないのであろう…
六道家の当主にそんな事を言える者など居なかったのだから無理もない。

 夫人も言われてみて、それが脅迫である事を自覚していなかった事に気付く。

「……そうね〜…その通りね〜〜…ごめんなさいね〜〜? 私はただ〜……」

「えぇ…分かっています、美神さん達が独立すればココから出て行くわけですから…
だから他に冥子さんのフォローをしてくれる人を探していただけなんですよね?
タマモの事は別にして、私を取り込みたかった…恐らくは私共の事は既に調査済みなのでしょう?」

「えぇ〜そうよ〜、唐巣クンの所に弟子入りした貴方の事は、ココ数ヶ月間の事も含めて調査していたの〜、
…貴方の歳に似合わない程の霊能力、判断力、人格とかもねぇ〜…だから貴方なら〜って思ったの〜」

「…申し訳ありませんが、私にはするべき事があります…今は申し上げる事が出来ませんが…
ですからご期待に応える事は出来ません…まぁ、ある程度のフォローは出来ますが、それだけです、
私としては六道家とは良い関係でいたいと思っていますので…」

「分かったわ〜〜、でも〜いざと言う時は頼らせてもらっていいかしら〜〜?
…勿論、貸し借りとかは無しに、こちらも貴方達の事は応援するわ〜〜」

「…そうですね、当面の間はそれで良いと思いますが…」

「えぇ〜、分かっているわ〜…信頼関係を築くにはお互いの相互理解と多少の時間が必要…でしょう〜?」

「それさえ分かって頂けるなら、私から申し上げる事はありません…それと、先程は大変失礼致しました、
…私も少々興奮したようです、すみませんが化粧室をお借りできますか? 頭を冷やしてきますので…」

「いいえ〜失礼な事をしたのはこっちも同じだから気にしないでね〜?
…それとフミさ〜ん? ちょっと横島くんを案内してさしあげて〜」

 どうやら穏便に話しが終わりそうだと、それまで黙って二人のやり取りを見ていた神父もホッとしていたが、
夫人の最後の言葉にギョッとした表情で凍りつく。

「ありがとうございます…それではお願いします」

「ハイ…こちらです、どうぞ…」

 神父の様子を余所に、横島はそれまで夫人の後ろに控えていたメイド頭のフミに案内を頼み、
フミも表面上は無表情に案内に発つ。


「……六道夫人…よろしいのですか?」

 部屋から出る二人を見送った後、それまで表情を凍らせていた唐巣神父がそう夫人に声を掛ける。

「えぇ〜…きっと大丈夫よ〜、横島くんならね〜〜…それよりも〜、
隣でヤキモキしているあの子達に説明してあげなきゃね〜〜」

 夫人のその言葉に頷きながら、神父は横島の事を考えていた。

(横島クン…君が何を目的にしているのかは分からないが…夫人の言う通り大丈夫だと信じているよ?)

 果たして夫人の言葉や、神父の思いは何を意味しているのか…


◆◆◆


「……こちらで御座います…」

「ありがとうございます、わざわざすみません…
ですが、随分離れた所にあるんですねぇ?」

「………………」

 横島の言葉にフミは沈黙する…そう、普通パーティーの会場になるような場所や、
談話室、客室等からはトイレは隣接しているか、近い場所にあるものだが…
フミが案内した場所は先程の談話室からかなり離れた所だったのだ。

「…もうお互い化かし合いは止めって事ですか? 
…先程の部屋の周りに居た夫人の護衛の方から、
貴女の“本当の雇い主”に報告が行っているでしょうしね…」

「……!!」

 横島のその言葉に、フミの体がピクリと反応した瞬間…

 ギィンンッ!!

 突如として甲高い金属音が廊下に鳴り響いた!

「…いきなりですねぇ…危ないじゃないですか?」

「…貴方は…危険過ぎます…」

 お互いの顔が至近の距離にある…横島がおどけたように話し掛け、フミが無表情にそう返す…
その顔からは先程までの作られた笑みが完全に消えていた。

 今の二人の状態は、いわゆる『鍔迫り合い』である。

 何処から取り出したのか、フミが小太刀を逆手に持ち、横島に向かって横薙に斬り付け、
横島は瞬間的に発動させた霊波刀で受け止めていたのだ。

「それで俺を排除しようってか? 俺の師匠達にはどう説明するつもりなんだ?」

「……………」

 最早敬語ではなく、彼は普段通りの言葉で尋ねる。

 その疑問にフミは無言で返す…

「………シッ!!」

「っとぉ!!」

 フミはそれまで力押しで小太刀を押していたが、ビクともしない横島の様子に戦法を切り替えた、
急に小太刀を引き、前につんのめりの体勢になった横島の頭に向けて回し蹴りを放ったのだ。

 だが、横島も両膝を曲げて後に姿勢を反らして蹴りを避ける(マト○クス避け?)。

(おぉ〜〜絶景かな…ってか?)

 体を後に反らしながらも顔はフミの方を見る…フミは蹴りを放って大きく足を振り上げた状態…
当然スカートは大きく捲り上がる…スカートが捲り上がると…その先は言わなくても分かるであろう…

(それにしても黒とは思わなかったなぁ…てっきり白かピンクかと思ったが…)

 蹴りを避けた反動で後ろにバク転した後、
斬撃や回し蹴りといった攻撃を回避しながらそんな事を考える横島…

 何の事かはあえて言わないが…顔だけは真剣に闘いながら、頭ではそんな事を思う辺り、
かなり昔の状態に戻ってきたようである…美神達と再会したのが切っ掛けになったのだろうか?

(…どうやら他の護衛達は仕掛けてこないようだな…)

 横島はフミの攻撃を捌きながら周りの反応を確認する。

 一方のフミは防ぐだけで一向に攻撃してこない横島に声を掛ける。

「……何故反撃しないのですか?」

「俺にはアンタと闘う理由が無いからな…それとも本気になった方がいいのか?」

「!!…バカに…しないで下さい!」

 ガキィィン!!

 横島の返答に激高したのか、フミの斬撃が多少大降りになる。

 その攻撃に対して、横島も霊波刀をフミと同じ様に逆手に発動させた右手で受け止めた。

「…ここまでだな…」

「!……クッ…」

 横島のその言葉に視線を下に向けた後、悔しそうに唇を噛むフミ…

 そう、横島の左手にも右手と同じ様に発動させた霊波刀がフミの右脇腹に添えるように当たっていたのだ。

「栄光の手、“第一形体”…霊破刀≪双破刃(そうはじん)≫…」

 横島はそうつぶやく…≪双破刃≫とは、フミが持つ小太刀と同じ長さの霊波刀であり、
それを両手に発動させた形体の事である(イメージで言うなら、る○に剣○の四○森蒼○?)。

 その≪双破刃≫を発動させ、両腕をクロスさせた体勢でフミの斬撃を受け止め、反撃したのだ。


 説明が遅れたが、栄光の手“第一形体”とは、言わずと知れた霊波刀であり、
全形体中、最もバリエーションに富む形体である。

 元々が霊気の固まりであるだけに、剣や刀の形だけではなく、
槍や斧と言った古今東西の武器の形体にも出来るのである。

 更に、神父の業の習得によりこれまで出来なかった武器の形体も出来るようになったのだが…
それについては今後語られるであろう。

 ちなみに他の形体と区別する為に、栄光の手の篭手状態は“第零(ゼロ)形体”と呼称している。


――――閑話休題


「どうする? まだ続けるのかい?」

「グゥ………」

 横島はフミにそう語り掛けるが、当のフミは口惜し気な表情のまま、どうする事も出来なかった。

 そのままの状態で固まってしまった二人だが、そこに第三者の声が聞こえてきたのである。

「そこまでだよ…フミ君」

「!!…お館様!」

 その声に思わず反応し、素早くバックステップで横島から離れて声を掛けてきた人物の前に立ち、
横島からその人物を護るように身構える。

「…ようやくお出ましですね…」

「君の覚悟…それと実力の程は見せてもらったよ、若いのに大した者だ」

 横島は発動させていた霊波刀を消して構えを解いた、そして新たに表れたその人物と相対する。

「お褒めに与り恐縮です…お初に御目にかかります、横島忠夫です、
……六道財閥総帥…六道和馬(かずま)様でいらっしゃいますね?」

 横島は一見礼儀正しく、しかし心の構えは解かないままその人物――和馬にそう尋ねた。

「総帥とは言っても私は入り婿の身でね、お飾りの総帥だよ…
六道家の当主は家内だからね、そう固くなる必要はないよ」

 和馬は一見、人好きするような微笑を湛えており、その姿は渋い紺色のスーツをピシッと着こなし、
頭髪は綺麗にオールバックで固め、口元にはこれ又綺麗に整えられた口髭を蓄えている。

「ご冗談を…六道家を裏から支えていらっしゃる総帥のお言葉とは思えません」

「フフ…流石はあの“紅百合”の息子…と言う訳かね…」

(俺が紅百合の息子だって情報をリークしてくれたようだな…流石はクロサキさんだ、
上手く六道財閥の総帥にまで流してくれたな…それにしても、こうして相対しているだけなのに…
相変わらずのプレッシャーだ、流石は六道家を裏から守り続けてきた人だよ…)

 そう、横島は以前から父の部下で、様々な技能を持つ男、クロサキと連絡を取り合っていた、
元の時代でも親交があり、その実力を知っている横島はこの時代でも彼と接触を持っていたのだ。

 クロサキの方でも、横島の父であり上司の大樹から頼まれていたのか、
昨日、連絡を受けた彼は横島からの依頼を快く引き受けていたのだ。

 横島は元の時代、六道家の真の実力者である和馬氏と親交を持つ機会を得ており、
そのおかげで良好な関係を築く事ができたのだ。

 その経験から六道家と真の友好を図る為には彼との接触が必要不可欠と判断していた。

「ええ…貴方とこうして語り合う為に、あえてフミさんに殺気を送りました…
そうすれば本当の雇い主である貴方に連絡が行くと思いましたから…」

「フフ…末恐ろしいな、君は…妻に殺気を放てば護衛の者が護るであろうが、
そうでないなら私に判断を仰ぎに来る…と考えた訳か、
その若さでそれだけの実力と判断力を持つとはね…
それで君は、まんまと引っ張り出された私に何を求めるのかね? 
…どうやら君は何か目的があると見たが…」

「私が貴方に求めるのは、六道家との真の友好です、そして私の目的は……」


◆◆◆


「…まったくおばさまってば…それじゃぁ横島クンが怒るのも無理ないわよ」

「…まったくなワケ、何が起こったかと思ったわよ…」

「もう〜〜お母様ったら〜〜…」

「えぇ〜ほんとうにごめんなさいね〜〜タマモちゃん〜…私が間違っていたわ〜」

「いいえ…もういいですよ? こうして謝って下さいましたし…
それにお兄ちゃんも気にしてないと思います」

 その頃、残された形となった彼女達は夫人から説明を受けていた。

 その説明にそれぞれの反応を返し、夫人はタマモに平謝りに謝った、
タマモの方も夫人に分かって貰えればそれで良かったのである。

 そしてようやく戻ってきた横島と一緒に、神父とタマモは帰路についたのだった。


 長かった一日がようやく終わりを告げようとしている…

 そしてその夜、横島に関係した者達は……


◇◇◇


「……あれで宜しかったのですか? お館様…」

「フフ…構わんよ、彼の眼に嘘はなかったからね、それは君も見ただろう?
それにあの紅百合から私に直接警告があったよ…息子達には手を出すな…とね、
何より見てみたくなったからね…彼が今後どう成長していくのか、
…そしてその目的が叶う日が来るのかをね……」

「そうよね〜私も見て見たいわ〜〜…フミさんもそうでしょう〜?」

「い、いえ…私は別に…」

「ハハハ、フミ君も気になるだろう? 君ほどの使い手があしらわれてしまったんだからね」

「お、お館様!」

「ハハハ…所で冥子と令子クンはもう休んだのかね?」

「あ、ハイ…もう御休みになられました」

「フム…では…君にも頼もうかね、彼がどう動くのか…そしてその真の目的は…
恐らく彼にはまだ隠された真実がありそうだからね」

「…それは私に頼んでいるワケですか?」

「ウム、君自身の眼で彼の事を見極めて欲しいのだ…勿論可能な限りで構わんよ」

「いいえ、総帥や夫人から受けたご恩を返す良い機会なワケ、
まかせて下さい…私も彼が気になりますから…」

「フフ…頼んだよ、エミ君…それにしてもあんな事が目的とはな…」


      ――真実を知ろうとする者達が居る――


◇◇◇


「そう、上手くいったのね…まったくあのバカ息子ってば、詰めが甘いんだから…
私の名前を使うならもっと徹底しなきゃいけないのに…なんで私に頼まないのかしら?
まぁ、いいわ…それにしてもタマモちゃんには苦労を掛けるわね? 
そう?…うん…えぇ…えぇ、それじゃ元気でね? 風邪なんか引かないようにね?」

「…タマモからかい?」

「えぇ、上手くいったそうよ」

「おいおい…それならなんで替わってくれないんだ? 俺だってタマモと話したかったのに…」

「いいじゃないの、いつもアナタばっかり話しているんだから…
それにしてもあのバカ息子は…今度会ったらとっちめてやんなきゃ…」

「まぁいいじゃないか、忠夫にも男の矜持ってもんがあるんだろう」

「そんな物はドブにでも捨てればいいのよ!
大体家族を守るのに手段を選んでいる場合じゃないでしょう?」

「そりゃまぁそうなんだがなぁ…」


      ――家族を守ろうとする者達が居る――


◇◇◇


「横島クン…何があろうとも私は君の味方でいるつもりだよ?
主たる神のご加護が彼等にあらんことを…」


      ――彼等を守らんと、神に誓う者が居る――


◇◇◇


「やれやれ…やっと日本に着いたか…さて、小僧に連絡でもするかのう」

「イエス・ドクター・カオス」

「フフフ…さてさて、あやつがどんな結末を見せてくれるか楽しみじゃわい」


      ――探求の為に観察する者達が居る――


◇◇◇


「さぁ〜て、やっと独立できたんだから稼ぎまくるわよー! 目指すは世界一のGS! そしてお宝よ!!
…あ、まずは荷物持ち雇わなきゃ…う〜〜ん、先生の所の横島クンをなんとか借りられないかしらね…
相当な実力持ってるみたいだし…それに、あの時の殺気…やっぱり気になるわね…」


  ――己の待つ運命に気付かぬままに、気ままに自分に正直に生きようとする者が居る――


◇◇◇


「(チン…)…お兄ちゃん…」

「あぁ、分かってるさ…まったく…又、お袋達に借りを作っちまったか…
名前を借りるだけでも俺としては考え物だったって言うのになぁ…」

「…そんな言い方は…」

「分かってるって、親にとっちゃ子供はいつまでも子供って事さ…」

「もう…そんな事言ってると、お母さんからぶっ飛ばされるわよ?」

「……そんときゃ、その日が俺の命日だよなぁ…」

「もう! …それよりも、いよいよね…」

「あぁ、いよいよだ…おキヌちゃんを助ける為にも…
なによりも俺たちの目的の為にも負けられないな…絶対に」

「フフ…何時の間にかそれが目的になっちゃったわね?」

「あぁ…それがあの時代に残して着ちまったあいつ等へのせめてもの償いさ…
ま、傲慢な考え方だって分かっちゃいるが…でも、それだけにやり遂げないと…な」

「「俺(私)達の目的は…」」


         ――『皆の幸福を…』――


 彼等の物語が今、始まろうとしている


 続く


 後書き

 第五話をお送りします、チョーやんです。

 今回、六道家との決着をつけましたが…夫人がかなりへタレになってしまいましたねぇ…
この人との丁々発止のやり取りを期待していた方には申し訳なかったです…(汗)

 そして今回出てきた六道財閥総帥…冥子の父親でもあるこの方は原作にも登場しましたが、
私の勝手な解釈でほとんど半オリキャラになりました、和馬と言う名前もオリジナルです。

 本文にも書きましたが、六道家は初代からしてアレですからねぇ…
よっぽどしっかりしたお婿さんがいないとあそこまで続かないんじゃないかと…

 それで今回はこのような展開になった訳ですが…どうにも詰め込みすぎた感が否めません…

 これでもかなり削ったんですがねぇ…(冥子とか、横島が談話室に戻ってきた反応とか…)
それでも今回のはワードで160kb以上、テキストで40kb…段々増えていくようです…(^^;

 私が物書きとして成長する為にも皆様からの感想、指摘、突っ込み等は本当に為になります、
たとえそれが単なる罵りや批判であっても、糧になると思っておりますので、
皆様遠慮なく突っ込みを入れて頂きたく存じます。

 前回は試しに注釈を入れてみましたが、どうも逆に説明不足になりそうですので今回は入れませんでした。

 では、次回第六話でお会いしましょう。

 それでは、レス返しです。

●神音様
  レス有難う御座います…えぇと、マシンガンですか? あの形体は連射が利かない事にしています、
 言ってみればボルトアクション式のスナイパーライフルみたいな感じです。

●いしゅたる様
 >タマモの狐火ですが、威力の高いやつを出すのに本当に詠唱が必要なんでしょうか?
  すみません、私の説明不足でした…おっしゃる通り、妖怪であるタマモには必要ありませんが、
 詠唱を行う事で、より集中力を高めて妖力を搾り出す…と言うことにしました。
  そして横島を参考にしたのは、いわゆる『言霊』の効果を狙った部分…と、ご理解して頂ければ幸いです。
 又ご指摘があればお願い致します、有難う御座いました。

●クジラ様
  今回はこの通りになってしまいました、つまり本命は他に居たと言う事で…(^^;
 美神に関しての横島の考え方は本文にある通りです、次回をお待ち下さい。

●FeO様
  初めまして、感想有難う御座います、頑張って完結を目指す所存です。
 >「コブラ」を連想しましたが
  はい、私も最初はそれにしようと思ったんですが…読者の対象年齢を考えて「ロッ○マン」辺りかな…と、
 それと「コブラ」は私も見ていました…それもTV放映時ではなく、コミックに連載していた頃から…(汗)

●白川正様
  はい、弟子入りした理由は本文の通りですが、横島をパワーアップさせる方法を考えていましたので。
 >でもおキヌちゃんに会いに行く程度
  それについては第二話の冒頭にある通り、彼自身もかなり葛藤した末の事でしたので…

●クロト様
  横島が美神の所に行く理由は今回の本文にある通りです、決してマ○な訳では…(^^;
  改行の点はおっしゃる通りです、ご指摘有難う御座いました。

●meo様
 >本家の岩男の様に相手の技を使用できるようになったりするんでしょうか?
  いえいえ、決してそんな事はありません、あれはあくまでイメージですので…(^^;;

●雲海様
  おっしゃる通り、今の横島が美神から学ぶ事はそう多くはありません、
 ですが、やはり時系列を知る為にも美神の所に居た方がいいと判断したためです。
  それと本文にもありますが、横島自身は今更丁稚奉公をする気はありませんので…(^^;
 他にも違和感や指摘したい所がありましたら、遠慮なくご指摘下さい。

●紅様
  はい、ココで文珠が出来ていないと、かなり面倒な事になりそうでしたから…(^^;
 それと第三形体ですが、上記にある通り連射は利きません、どう使いこなしていくかお楽しみを〜。

●隆盛様
  えぇ、私も真面目な横島モノが好きですので。(^^)
 それと差し出がましいと思いますが、他のサイトの作品については書き込まれない方がよろしいかと…

●ながお様
  はい、私も宗教関連に関してはかなり苦慮しました、
 突き詰めてしまうと横島が神父の所で修行する理由が無くなってしまう訳で…(−−;)
  原作にもありましたが、美神が神父の所の家庭菜園でのシーンを見て思いました、
 “あの”美神でも出来るのか…と(無論、内容は違いますが…)、
 どう考えても彼女に信仰心があるとは思えませんでしたので(失敗してしまいましたけど…)。
  勿論『原作がそうだったから…』で全て片付けるつもりはありません、
 原作の設定がどうあれ、自作のSSでそう設定したのなら最後まで責任を取る所存です。
  故に、非難、批判があるのは覚悟して受け止めるつもりでおります。
  今後も違和感や指摘される所があれば、遠慮なくお願い致します。

  尚、タマモに関しては上記のいしゅたる氏のレス返しをご参照下さい、ほぼご指摘の通りです。

●月夜様
  初めまして、感想有難う御座います。
  タマモに関してはあの通りのスタイルですので、今後どう横島が接していくかお楽しみを。
  おキヌちゃんに合いに行かなかった理由は第二話を参照して下さい、
 まぁ、再会した時に彼女がどうするか…たぶん予想されている通りかもしれません。(^^


以上、レス返しでした〜、今回もたくさんのレス有難う御座いました。

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