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「がんばれ、横島君!! 21ぺーじ目」

灯月 (2008-01-23 23:06/2008-01-24 22:18)
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ちぃーちぃーちぃー!

わちゃわちゃわちゃわちゃ走り回るちっこい物体!

ぷぎ〜〜〜!!

突進してくるでっかい茶色いの。

「そっち、そっち行ったでちゅよ!」

「ひひゃあ?! 背中、背中にぃ…!!」

「あいつは任せろ、こいオラァ!!」

走り回るネズミ。駆け回る猪。
追いかけて噛まれて逃げられて体当たりされて。
新年早々、何でこんな事に!?


がんばれ、横島君! 〜横島君と正月騒動〜


元旦です。あけおめです。
年末は戦えなくて拗ねて暴れた雪とか、便乗してアシュタロスさんに迫る勘九郎とかのせいでちょっと大変だったけど。
無事年を越せて嬉しい限りです。
新年の挨拶を終えて、昨年と同じくお節の奪い合い。
やはり同じくパピリオちゃんと雪が。

「その海老はパピリオちゃんが先に目をつけてたんでちゅよー!」

「ふん、早い者勝ちだ!!」

少しは成長しようよ、特に雪。
見た目小学生と同レベルって、情けないぞ。
今年は勘九郎もいるのでアシュタロスさんがやや怯え気味だが、そんな事はどうでもいい。
些細な事だ。
どうせ増えたんだし。色々。
パピリオちゃんの食べこぼしをあさっているでかネズミ、パイパー。
お節の肉――アシュタロスさんが買ってきた高級ハム――を奪い合っている犬、二匹。
ソファに腰掛け、こちらを一瞥した後は正月のスペシャルドラマを興味なさそうに見ているテレサ。
彼女の事をどうしようかと悩んでいる間に、アシュタロスさんはさっさとカオスのじーさんと話し合っていたらしい。
どう話し合ったのか知らないが、彼女はアシュタロスさんが人間社会に溶け込むためにやっている企業で働くことになったのだ。
もちろんテレサは嫌がった。そりゃもう壮絶に。
だが勝てなかった。アシュタロスさんのノリには。
で、仕方なーく決定。
給料の三分の二はカオスのじーさんのとこに行くらしいけど。
そして最後の新入り。死津喪比女ミニ! 通称姫ちゃん。
いやぁ前回拾ったなんか胡桃みたいなやつ、あれ死津喪比女の種だったみたいで。
試しに庭に埋めてみたらちっさい死津喪比女が……。
慌てて鉢植えに植え替えました。また地脈に根を張られたらとんでもない事になる!
日当たりのいい窓辺に鉢を置き、液体肥料を飲んで満足そう。
どーもでかかった頃の記憶が曖昧な様で、細かい事はほとんど思い出せないらしい。良かった。
そんなこんなで一気に賑やかになった芦原家。
去年は色々知り合いも増えて、おかげで年賀状を出す相手も出来て。それなりに年賀状がきて。
子供たちも楽しそうで、そんな子供たちの様子を見てアシュタロスさんも嬉しそう。
去年はなんだかむやみやたらと大変だった。今年は平和な一年になると良いな。
そんな俺のささやかな願いは見事に打ち砕かれるわけですが。
きっかけはTVの生放送。
このくそ寒い中、リポーターがどこぞの神社から中継をしていた。
初詣の客に何を願ったかとかどーでもいいよーな事を聞いている。
まぁ、正月だし。普段お参りなんてしない人も神社に行くわけだし。
賑わって、楽しそうではあった。
それを眺めていたパピリオちゃん。ぽそっと呟く。

「はつもうで……行ってみたいでちゅ」

一度口に出せばもう我慢できなくなったのか、

「行きたいでちゅ行きたいでちゅ! 初詣行きたいでちゅ〜!!」

手足をじたばたさせて暴れだす。
それを必死に宥めるのはアシュタロスさん。
新年は神の気が強くなるので魔族である自分たちには毒だと、もしばれたら大事になると。
おろおろしながらひたすら説得しようとするのだが、末っ子特有の我侭モードに入ったパピリオちゃんに敵うはずも無く。
結局承諾してしまった。
弱いな。父親。
ただし、用意とかあるので行くのは明日。
用意は主にアシュタロスさんと子供たちの魔力や存在そのものを誤魔化すための物、らしい。
パピリオちゃんは今日生きたいと駄々をこねたが、流石にそれは通らなかった。

「新しい年になって初めて詣でるから初詣と言うのだよ。
明日行っても何の問題も無いから、安心したまえ、我が娘よ」

「むぅ〜。わかりまちた。
でも、嘘ついたら歯磨きした後の口の中にミカンを詰め込みまちゅからね!」

「どーゆー嫌がらせだねパピリオ!?」

どこで覚えたのパピリオちゃん? そしてなぜ皆俺を見る?
俺はそんな事教えてません。
そして、次の日。
いい具合に晴天。女の子たちは思い思いにお洒落して。
テレサもいつもの服の上に黒いロングコート。真冬にノースリーブは不自然すぎるので着せたのだ。
んで、芦原家の庭。でっかい虫みたいな乗り物――逆天号に乗りこんだ。
以前、人狼の里から帰ってくるのに乗ったあれだ。
俺、アシュタロスさん、子供たち、雪、陰念、勘九郎、犬二匹、テレサ。
このメンバー、流石に車に収まらないから。
迷彩と言うのか、周りから見えないようにしてGO!
空からの眺めはなかなかでした。
行く先は東京都内の神社ではない。都内の神社仏閣は原因不明の崩壊をとげている。
教会も全滅だったようで、この前会った唐巣神父が全てを呪い殺すような眼で泣いていた。
程なくして逆天号が降り立ったのは山に近い、人気の無い寂れた神社。
まぁこんな面子、人に見られたらちょっとなぁ。
パピリオちゃんはきょろきょろ周囲を見渡して、おもむろに、

「屋台がないでちゅ! 活気が無いでちゅ!」

アシュタロスさんの腹に拳を埋めた。

「っげばら!?」

悶絶する雇い主は放置して、ほっぺを膨らましている末っ子の頭にぽんと手を置く。

「そっか、パピリオちゃんもっと賑やかな所に行きたかったんだね?」

「だってTVであんなにいっぱい人がいたのに…。やっぱりパパは駄目でちゅ。駄目でちゅね」

あ、二回言った。仕方ないなぁ。
撫で撫でしつつ来年はちゃんと賑やかなトコに行こうねーと、微笑みかければ憮然とした表情ながらも頷いてくれた。

「今日の所はここで我慢してあげまちゅ! 何やってるんでちゅか、さっさとお参りしまちゅよパパ!」

案外ダメージがでかかったらしい、まだちょっとふらふらしているアシュタロスさんを引きずるようにして、境内に続く階段を勢いよく上り始めた。
階段を上りきった境内。予想通り寂れ放題。
あ、年取った神主さんが辛うじて生息してる。
思い思いに賽銭を投げたり手を合わせたりしている皆に、ぎょっとした様子。
……初詣に来るとは思ってなかったんだな?
ああ、熱心にお守りとはおみくじとか勧めだしたよ。全部古びてるけど。

「やった、大吉よ! パピリオとベスパは?」

「パピリオちゃんは小吉でちゅよー。つまんないでちゅ」

「えと、中吉。何事もほどほどにって…大した内容じゃ無いわね」

はしゃぐ三姉妹を、アシュタロスさんが気の毒な程激写しているのは正直引く。
賽銭を投げ俺も適当に、今年はまともな平和な一年を過ごせますように!と、強く強く手を合わせてみたりして。
そしてなにやら真剣な顔で手を合わせていた陰念を誘って、くじを引いてみた。
結果、吉。波乱万丈。待て、その一言か。
陰念の方は…? 覗き込めば、おみくじ片手に硬直した姿。
手元のおみくじ、大凶。希望を捨てるな。
……何も言わずにその肩に手を置く事しか出来なかった。
正月早々憂鬱な。
他の皆は何しているのかと思ってみれば、勘九郎はちらちらとこちらを窺いつつ雪をその腕に捕らえ。テレサは周囲を散策している。
人型で着物姿のポチは新鮮な空気を思う存分味わい、その懐から顔だけ出したシロが遠吠えのつもりだろう可愛く鳴いた。
アシュタロスさんは家内安全などの、よくあるお守りを大量に購入している。
いいのか、それで? あんた魔神だろ。
まぁ本人が幸せそうだから。放っておこう。あれは。

「兄さん、少し散歩しましょ」

にこり。ぼんやり立っている俺にルシオラちゃん。
快く承諾し、手を繋いでゆっくり歩く。
敷地は意外と広く、やや高台にあるため景色も良いので散歩には丁度いい。
他愛ない事を話して、笑いあって。
もう俺とほとんど変わらないくらいに成長したその姿に感動を覚え。
のほほんとした空気。乱入するは金切り声!
社の前。皆の元へと戻ってみれば、なんかいた。
でっかいの。全身から淡く放つ光は霊力のそれ。ふかふかな毛皮に包まれたっぽく見える体。
突き出した鼻。口からは上へと伸びる冗談みたいな牙。
猪だ。誰がどう見ても猪だ。
漫画みたいにデフォルメされているが間違いない。
鈴の付いた紅白の首輪がちょっとおしゃれ。

「なんでちゅか、このでっかいのは!?」

「ちょ、鼻を押し付けるな! 匂いを嗅ぐんじゃない!!」

一体何が気になるのか、パピリオちゃんとテレサに迫ってしきりに鼻を鳴らしている。
悪い気配は感じないし、敵意も無いようで。下手に刺激しないよう全員が遠巻きにしている。

「何だ、あれ?」

「ほう、あれは干支だね。しかし猪は去年の干支だろうに。年神はどうしたのだね?」

漏らした俺の疑問、答えたのはアシュタロスさん。

「干支、ですか?」

「ふむ。その年その年の守り神なのだがね。今年はネズミ年だからいるとしたらネズミのはずだが。
手違いでもあったかね」

言いつつ、自分でも首を傾げる。
守り神って、神様なのかあれって?
いまだ二人に擦り寄る?猪に視線を移し緩く笑う。
微笑ましい事は微笑ましいが、神の威厳とかは感じんなぁ。
あ、アシュタロスさん記念とばかりに写真取り始めた。

「パパ〜! そんな事してる暇あったら、たーすーけーるーでーちゅー!!」

叫ぶパピリオちゃんに心底残念そうに眉根を下げる雇い主。
あんたなぁ。そんなだから我が子からも信用をなくしていくんだよ。
明らかに渋々と言った様子で、猪に歩み寄ろうとするアシュタロスさん。
その背にタックルかます何かが現れたのは、その直後!
げべし!

「おぐぅ?!」

いい所にヒットしたらしく、うめいて膝をつく。

「何だね、一体!?」

アシュタロスさんが振り向いて、そこにいたのはネズミ。
大きさはパイパーくらいか。猪と同じように全身が発光し、紅白の首輪をつけている。
もしやこいつも干支か?
とりあえず。ネズミに視線を合わせる為しゃがんで、聞いた。

「お前、今年の守り神のネズミの干支か?」

ちぃ。
小さく鳴いて、肯定の意を返す。
抱き上げて、猪の所へ。

「ああ、もう。ほらパピリオちゃんもテレサも嫌がってるからやめなさい。
人の嫌がることはしない。な?」

ぷーぎー……。
そう頭を撫でてやると落ち着いたのか、二人から身を離して大人しく俺の隣に腰を下ろした。

「な、なんで横島の言う事には素直に従うのさ!?」

納得出来ない! 声高に叫ぶテレサに、俺を除く全員が顔を見合わせ言い放つ。

「だって兄さんだし」

「当然と言えば当然の結果よね」

「ああ、横島だしな」

「横島だものねぇ。仕方がないわ」

「当たり前だろ、横島なんだぞ?」

「納得する以外ないぞ、拙者のように。考えたら負けだ」

「世の中そーゆーものなんでちゅよ!」

「はっはっはっ。それが横島君というものだよ!」

なんか、えらい言われ様やなぁ。俺。
あ、テレサが頭抱えて吼えてる。
手の中のネズミと傍らの猪。のどを撫でてやりつつ年神はどうしたのかと聞いてみても、首を振るだけ。
ご利益があるからと、大人しくなった猪やネズミを代わる代わる撫でる子供たち。ついでに勘九郎。
いや、お前にご利益なぞいらんだろ。これ以上手に負えなくなっても困るし。
陰念、お前は積極的に撫でとけ。今年も大変そうだから。
シロも恐る恐ると言った様子で猪の周りをうろついていた。
ちなみに、枯れ木のような神主のじ−さんは猪が出現した時点でとっくに気絶してる。
一般人にはショックが強すぎたようだ。
じーさんを邪魔にならないように隅っこにのけて、アシュタロスさんが気付いた。
何か、神族が近付いて来ていると。
そうして――のそっと。神々しさもありがたさも何にも無く。
白い髭の、杖を持ったじーさんが現れた。
肩には今年の西暦が書かれたたすきをかけている。
もしかして…いや絶対に。

「あんたが年神か?」

俺の問い。じーさんは至極簡単に頷いた。

「さようじゃ。連れが迷惑かけたのう。
少し目を放した隙に逃げてしまって。探しておったんじゃ」

「あのぉ、どうして猪までいるんですか。今年の干支はネズミでしょ?」

「いやー実はのう、最近足腰が弱くなって。猪に乗せてもらっておったんじゃよ」

ルシオラちゃんに聞かれて、あっけらかんと答える年神。
いーのか、そんな事に干支を使って?

「本当にすまんのう。
さ、帰るぞお前たち」

言って差し伸べた手は、見事なまでに無視された。
顔どころか体全体をそむけると言う形で。
うわぁ。懐かれてないな年神。
えぇ〜っと、どしようか。
俺の腕の中。大人しくしていたネズミを年神に渡そうとすれば。
ちぃ〜?! ちぃちぃちぃ!!
激しく抗議の声を上げ、年神の手にこれでもかって程きつく噛み付いた!

「うぎゃ!!」

「あ、こら! そんな事したら駄目だろ」

め!と語気を強めれば、途端しゅんとして落としくなるけれど。
あ、年神落ち込んだ。
なにやらぶつぶつ言ってる年神をアシュタロスさんが宥めにかかる。珍しい。

「まぁまぁ。きっと興奮しているだけだ。すぐに落ち着くだろう。それに子供たちも喜んで……」

いつものように、無駄に爽やかな笑顔。ぽんぽん干支二匹の頭を叩いて、紡いだ言葉はけれど結局最後まで言い切ることは叶わなかった。
異変が、起こる。
突然、大人しくなっていたはずの干支が猛りきった声を上げたのだ!
いや、声ではなく――咆哮か。
見かけはともかく、流石は神の端くれ。
それだけで、大気が震えた。
……ッギン!!
微妙に焦点の合わない目に宿る、燃え立つような怖い色。
ネズミは俺の腕から飛び出し、猪は牛のように前脚で土を掻く動作。
なんか、これは……。

「やばい、よな?」

俺の乾いた呟きに、傍にいたルシオラちゃんと陰念がやや強張った顔で頷いて。
あ、雪が楽しそうな顔してる。暴れられそうな空気には敏感だな、お前。

ぷぅ〜ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!

高々と、天に向かい咆哮し。
突進してきた!
おわ、やば!
咄嗟にルシオラちゃんを庇い、地に伏せる。
猪は己の進行方向から外れたものには興味が無いのか、それとも視界に入らなかっただけなのか。
とにかく俺とルシオラちゃんはすっぱりスルー。
ちょうど俺の背後、やや離れたところに立っていた雪目掛けて突っ込んでゆく。
もちろん、雪はすでに臨戦態勢。迎え撃つ気満々。
魔装術こそ発動していないものの、体にまとう霊気は半端ではない。
がっちりと、真正面から猪の飢餓を受け止め、不敵に笑う。
ずりずり。僅かずつだが踏ん張った足が後ろに下がり、けれどそれ以上下がる前に雪は己の両腕にさらに霊力を込め。

「ぅおらぁ!!」

柔道だとか柔術だとか。そんな感じにぶん投げた。
ずずぅん! 重い音を響かせ猪の巨体が地面に投げ出される。
それを好機と見て取ったか、年神のじーさん。

「さぁ、そのまま大人しくわしとともに……!」

っんば! べち!! ぺしゃ……。

飛び掛ったものの、予想通り素早く体勢を立て直した猪の一撃で軽く沈んだ。
役に立たんなぁ、この神様。

「きゃ〜?! ちょ、離れなさい!」

悲鳴。振り向けばべスパちゃんにネズミがたかっている。
もちろん干支のネズミだ。
肩に頭に胸に足に腰に。
ちぃちぃ鳴きながら自由自在に駆け巡っていた。

「うわわ、べスパちゃん!?」

慌ててネズミを捕まえようとしたけれど、上手くいかずにするりと手の隙間から逃げ出してしまう。
そしてそのまま近くにいたテレサの体を登り始める。

「登るな! 私は山じゃない!!」

身をよじりネズミを引き剥がそうとするけれど、体の小ささとすばしっこさでネズミに敵うわけがない。
テレサの腕もすり抜けて縦横無尽に人だろうとどこだろうと、走り回る。
猪の方もまったく収まっていない。
あ、陰念が踏みつけられた。雪が突っ込んでいった。
年神のじーさんも再び――何故かマタドール姿で――挑んだが、やっぱり撃沈。
弱い。
地に伏せ、よよよ…と泣いてしまっている。

「うう、年神と言えどよる年波には……」

神様にもあるんか年波。いや天竜の事とか考えたらたぶん年は取るんだろうけど。

「ああ、なぜじゃ!? キャサリン、ジョセフィーヌ、なぜわしの言う事を聞かん!!」

「……誰だよキャサリンジョとかセフィーヌって?」

「わしがこっそり付けた干支の名前じゃ。他にもおるぞシルビアに朱美に千恵子にベティに……。
全て、わしの前を通り過ぎて行った女たちの名前じゃ」

いや懐かれてないのってそれが原因じゃねーのか、明らかに。
ふっとか、シニカルに笑って見せても渋くないし。
まぁいい。年神の人間性は置いといて。とにかく現状を何とかしなければ。
このまま放っておいたらこの神社、完膚なきまでに破壊されるし。

「勘九郎、お前なら猪を取り押さえる事くらい出来るだろ?
頼んだぞ」

「頼んだって、横島……。簡単に言ってくれるわねぇ?
何か見返りがあるの?」

「帰りの逆天号の座席はアシュタロスさんの隣だ!」

「のったわ、その話!!」

「のぉぉぉぉぉぉぉぉ?! 待ちたまえ、どうしてそんな重要な事が勝手に本人の了承も無く決定されているのかね!!」

「運命です!!」

「理不尽だあぁぁぁぁぁぁ!!」

はっはっはっ。アシュタロスさんの泣き言なんて関係なく、勘九郎はやる気満々だぁ。
土煙を上げ突進してくる猪の進路上に立ちはだかる。

「さぁ! この胸に飛び込んでいらっしゃい!!」

ぶぎぃぃぃぃぃ??! ききぃぃ! ずだどどどっぺぶちぃどどどどどどっ……!

「あ、すげぇ」

「猪って、直角にも曲がれるんだな」

「初めて知ったな。あ、アシュタロスさん、轢かれた」

某高速のランニングバック並の軌道修正を見せる猪に、自然俺と陰念の口から賞賛の声が漏れる。
逸れた軌道の先、偶然突っ立っていたアシュタロスさんが容赦なく踏み潰されたが、不幸な事故だ。
とにかく、事態が収束する気配は無い。
追いかける勘九郎に対して、本能的に何かを抱いたらしい猪はとにかく前方にあるもの全てを蹴散らして逃げているし。
そんな猪に負けるものかと雪が飛び掛る。
ちょろちょろと走り回るネズミはパピリオちゃんとシロが追いかけ。
ネズミに苛立ちマシンガンの銃口を向けるテレサを、ルシオラちゃんとべスパちゃんが必死に止めている。
手近な岩に座り込み、傍観を決め込んでいるのがポチ。
隅っこにどけておいた神主のじーさんは気が付いたようだが、この光景を見てまたも意識を手放していた。
年神もろくに動けない。

「あー、帰っていいか?」

「逃げるな、横島」

畜生止めるな、陰念。
なんで新年早々こんな目に会わなきゃならんのだ!!
俺が一体何をした!?
叫びたいのをぐっと堪える。
世界は常に理不尽だ。
仕方なく、深く息を吐いて、ポチに視線を合わせる。

「やれ、ポチ」

言われて。
こちらも仕方ないという空気を偽る事無くまとわせて、立ち上がる。
ぶるり。体を震わせたかと思うと、一瞬後に現れるのは漆黒の狼。

おおぉぉぉぉぉぉん……!

高々と、朗々と。喉からほとばしる咆哮。
走り回っていたネズミが思わず立ち竦む。
己に牙を向け見せ付ける狼の姿を認め、逃げた。
追いかけていたパピリオちゃんとシロがびっくりするくらいの必死さで。
今までのは二人に合わせたお遊びだと言わんばかりのスピードだ。
けれど、ポチには通じない。
流石というべきか。
ポチのハンティングは凄かった。
常にネズミの動きを先読みし、後方からの追尾にもかかわらずネズミの好きな様には走らせない。
例えば茂みにに逃げこもうとしても、その前に素早く立ち塞がり進路を遮断。
例えば何かに、人に登って逃げようとしても咆哮で怯ませ硬直させる。
パピリオちゃんに抱えられたシロは、酷く悔しそうにそれを眺めていた。
向うでは勘九郎がとうとう猪を捕まえ、逃れようともがくその巨体を易々と押さえ込んでいる。
そこに鬱憤を晴らすかのように、霊力を迸らせて迫る雪。
ポチが計ったようなタイミングで、俺のいる方へ真っ直ぐにネズミを追い立てる。
ちぃ〜!!
高く可愛く鳴くネズミ。その頭上。
すぱーん!
出力を弱めたハンズ・オブ・ガーディアンが命中した。
ち〜ぅ〜。目を回しただけのネズミに安堵の息。
もぐら叩きの要領。通るだろう場所に振り下ろしたのだが、当たって良かった。
と、同時に――どぉん!
大きな音を立て、猪の体がだらりと弛緩する。
雪がへっ!と勝利の笑み。
ふぅ、何とかなったか。
干支が大人しくなった途端活気を取り戻す年神のじーさんに呆れつつ、今度は逃げられないように釘をさす。

「世話になったのう、お前さんたち。
しっかしあれほど暴れると言う事は……お前さんたちの今年の運勢大荒れじゃな☆」

親指立てて、歯を見せキラリ。

「余計なお世話だ、はよ帰れ!!」

「はっはっはっ。人生はいつでも波乱万丈だよ、横島君!!」

「やかましいわ!!」

年神を追いたてアシュタロスさんを殴り飛ばし。そうしてよーやく初事件は幕を閉じたのだった。

と、言うか。散々迷惑をかけといて不吉な言葉を残していくな、年神!


家に帰って、ぐったり。
どうしたのかと、ぽーぽー言いながら見上げてくるハニワ兵に癒される。
留守番ご苦労さんと、頭を撫でてやりつつ苦笑を浮かべる。
出かけている間にハニワ兵たちが晩御飯の準備を済ませてくれていたので、楽だ。
一から造る気力も体力も残っていない。
ちなみに晩飯はすき焼きです。
今日の騒ぎで皆もお腹が減っていたんだろう。あっという間に鍋は空。
造った側としては嬉しい限りだ。
子供たちは仲良くお風呂。
テレサは、心底機嫌悪いんだよ!オーラを全身から発しさっさと部屋へを戻って行った。
男だけが残った空しい空間。
アシュタロスさんは帰りの逆天号で勘九郎に迫られまくったせいで精気が薄く、勘九郎はそんなアシュタロスさんをじっくりたっぷり舐める様に観賞中。
陰念はそちらを全力で見ないフリ。雪は次こそパピリオちゃんに勝つんだと意気込んでゲームの修行。ポチは食後の毛繕い。
ドグラの姿は見えないが、きっとハニワ兵にでも埋められたか吊るされたかしたんだろう。
そんな穏やかな空気の中、思い浮かんだふとした疑問。

「何で、干支はあんな風に暴れだしたんだろうな?」

「ああ、その事かい、横島君」

俺に言葉を返したのは一瞬にして復活したアシュタロスさん。
腰に手を当て立ち上がり、無意味に自信に満ち満ちた顔。

「心当たりがあるんですか、アシュタロスさん」

「勿論だとも。その程度、答えられなくて何が魔神かね!」

魔神云々以前の問題だろ、あんたは。
思ったけれど、アシュタロスさんと違い考えると言う事が出来るので決して口にはしない。

「それで、何であんな事になったんですか?」

「簡単だよ、横島君。我々のせいさ!
私と娘たちは当然として、君たちも人間にしては霊力が高い。それが一箇所に集まればその場所を一種の霊場としてしまう」

「そうなんですか?」

「そーよぉ、知らなかったの?」

驚いた俺に、勘九郎が不思議そうに問いかけた。
う、知らんかった。
横を伺えば、陰念と雪も俺のように首を傾げている。

「まぁ覚えておきたまえ、役に立つだろう。
あの干支はその霊力に惹かれてやってきたんだろうね。そして霊力に当てられある種酔ったのと同じ状態になったのだろうね」

「へぇ、神様でもあるんですね。そんな事」

「神だからこそ、だよ。
ま、君たちの霊力に当てられた上、私が傍にいたからね。うっかり触ってしまったし。その結果暴走、と。
ふむ、参ったね。神の力に当てられて私の魔力も……」

ん? ちょっと、待て。今このおっさん、何言った。
自分が傍にいたからとか、触ったからとか。

「アシュタロスさん? もしかしてアシュタロスさんが触らなかったら、干支が暴走する事って…無かったんですか?」

「ああ、その可能性は高いね! 一年の守り神たる干支は流石魔族の気配に敏感だね。
子供たちならいざ知らず、私クラスの存在が傍にいればそりゃあ落ち着かないだろう!
例え力を封印していたとしてやはり何かを嗅ぎ取るものだろうね。もしかしたらあそこにきたのも私が…いた……からって、よ、横島君?」

やっと気付きましたか、アシュタロスさん。
俺が、己をじと〜っと見ているこ事に。
陰念たちはそれぞれ理由をつけて、とっくにリビングから姿を消している。
今ここにいるのは俺とアシュタロスさんとハニワ兵数体。

「ほほぅ。そーですか。アシュタロスさんがうっかり触ったからですか。へーそのせいで俺たちあんな苦労をしたんですねー?」

「い、いや待ちたまえ横島君。確かに私にも非はあるかもしれないが、しかしだね! 偶然の産物と言うものは……」

「わかってたんならどうしてもっと考えて行動しなかったんですか、アシュタロスさん?
どうせ、干支が暴走した理由も帰ってきてからわかったんでしょう?」

俺の言葉。途端ビクリ!大げさに振るえ、視線を泳がせる雇い主。
図星か、やはり。

「自分が何者かって事、す〜っかり忘れてたんでしょう? アシュタロスさん」

一歩踏み出せば一歩下がる。そのまま壁まで追い詰めて。
裏でぽーぽー動いていたハニワ兵から手渡された得物を、軽く一振り。
ブォン!
いい感じの鈍い音。

「えええぇぇぇええ?! え、何? 横島君、何、その……凶悪なキッチン用品!!??」

真っ白になった指で差すのは、俺の手の中しっくり納まるモノ。
俺はソレを視線の高さまで持ってゆき、にこりと笑う。

「見ての通り、スパイク付きフライパンです!」

「それに何の意味がぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ?!!」

フライパンの底、びっちりみっしり三角錐型のステンレス製スパイクが生えている。
以前使用した釘ハンマー同様、ハニワ兵のお手製だ。
グッジョブ! ハニワ兵。
親指を立てればハニワ兵も、短い腕を振るって返す。
心が通じ合うとは、素晴らしい。

「さて、アシュタロスさん? 覚悟はいいですね」

「い、いや、覚悟って覚悟って………ひぃぃぃぃぃぃ!!」

「だ・か・ら、ちゃんと結果を考えて行動しなさい! 過程と結果は繋がってるんですよ!
こんの大馬鹿魔神がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

「ぴぃいぎゃあああああぁぁぁぁぁっぞおうぉぉぉぉぉぉぉぉおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

ホンットーに、学習して下さい。
家族の為にも自分の為にも。そして世界の為にも。
でないと、いい加減見限られますよ?
体液がべっとりと付着し、ぼっこぼこに変形し使い物にならなくなったフライパンをハニワ兵に返し。
俺は一人思うのだった。


後日、初詣に行った神社がTVに映っていた。干支が来たご利益ある神社だと、枯れ木みたいな神主がリポーターに語っている。嗚呼、意外と逞しかったんだな。


続く


後書きという名の言い訳

今回さくさく書けるかと思ったのに、妙に時間が…。某戯言使いの作者の執筆速度が羨ましい…。
最近シリアスばっかだったので今回はシリアス0。そしてGM発動。マザーな横島君は書いてて楽しい。もっと楽しいのはアシュ様の不幸。陰念の不幸には胸が痛みます。雪と勘九郎は…幸せ?
次回、二月です。二月といったらあれです! 乙女の日! つーわけでうらめんですよぅ!!
女の子たちの出番が多いです。野郎ども? 知りません。
それでは、ここまで読んでくださった皆様。ありがとうございます!!

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