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「光と影のカプリス 第134話(GS)」

クロト (2008-01-18 18:52)
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「ぐぎぎぎぎ、お、重いぃぃぃ……」

 横島は歯を食いしばって、ガニ股で1歩1歩足裏で床を擦るようにして歩いていた。
 現在彼の体重は約120kg、槍が40kgくらいである。本来の体重は58kgだから、これは普段の彼が100kgの大荷物を担いで歩いているのに等しい。いくら横島が日々の修行やドラゴンのパワーで見た目に似合わぬ体力派の少年になったとはいえ、普通に歩くのは無理だろう。
 令子がこの呪いを受けた時は体重の増加に比例して筋力や頑丈さまで強くなっていたから、体重がトン単位になっても走ることさえできていた。しかしグラヴィトンはその失敗に鑑みて重さだけが増すように呪いを改善しており、またこの「試練」にそぐう形になるよう、まず呪いをかけた瞬間にある程度重くなり、ついで徐々に重くなっていく、という進行方式に改めていたのである。
 その結果が今の横島の苦悶であり、グラヴィトンはそれを眺めて重力を操る魔神としての己の力に満足の笑みを浮かべた。

「くっ、ならば僕のバンパイアミストで……!」

 ピートは手ぶらだから横島よりはマシな状況なのだが、それでも重いことに変わりはない。そこで霧化の術で1人ずつ扉の前まで運んでしまおうと思ったのだが、それはカリンの鋭い声で制止された。

「待てピート殿、それにタマモ殿もだな。体が軽くなる術は使うな……!」

 タマモの変化もピートの霧化も質量保存の法則を超越する大魔術だが、グラヴィトンの呪いはいわば神の力だから、おそらくそれに「上乗せ」する形でかぶさって来るだろうと思ったのだ。つまり下手に軽いものになってしまうと、相対的に呪いによる重さがきつくなるのである。
 たとえるなら、体重100kgの大男が20kgの荷物を運ぶのは簡単だが、30kgの小学生にとっては大仕事になるというところか。ピートは霧になった瞬間、地べたに張りついて動けなくなってしまうと思われた。

「な、何ですって? くくぅ……」

 カリンは細かい理由は説明しなかったが、ピートは彼女の判断力には信頼を置いていたので言われた通り霧化の術を使うのは控えた。空を飛べないことはないがおそろしく疲れそうなので、おとなしく歩いて前に進むことにする。
 その注意を出したカリン自身は、大人の男2人をかかえて飛べるだけのパワーがあるからまだ余裕があった。ここは従順に歩いていくべきか、それとも何らかの策を用いるべきかちょっと頭をひねってみる。
 1番手っ取り早いのは、テレポートで魔神像のそばまで行って叩き壊すという作戦だ。さっき「ボクの呪いで」と言っていたから、グラヴィトンを倒せば体重は元に戻るはずである。
 しかしこれはもし彼にレモのような脱出技を使われたらもうどうしようもない。自分たちはグラヴィトンの逃亡先を探している間に、いや探しに行くこともできずに自重に負けて潰れてしまうだろう。
 実はグラヴィトンにそんな能力はないことは令子の件で明らかなのだが、カリンはそれを知らないし、レモの技を見たばかりなので慎重になっているようだ。

(……まったく、こんな呪いにあっさりかかってしまうとは迂闊だったな)

 しかしそれならそれで他にも手はある。
 たとえばまず1人でゲートの前にテレポートした後、残る9人をアポートで呼び寄せるというのはどうだろうか。グラヴィトンが意図した突破法とは違うだろうから呪いは解いてくれないかも知れないが、元の世界に帰ったら自分が解いてやれる。
 むろん人の手で魔神の呪いを解くのは簡単なことではないのだが、カリン自身も竜神のはしくれだから位負けはしていない。破術で1発というわけにはいかないが、多少の時間をかければ解けなくはなかった。
 もっとも今それをやったらまた呪いをかけ直されるだけなので、元の世界に帰るまではやらない方が良いだろう。

(じゃ、行くか)

 そうと決まれば善は急げである。カリンは精神を集中してテレポートの体勢に入ったが、それを発動させる直前に後ろから弱々しいうめき声が聞こえた。

「あう゛う゛う゛う゛、重いぃぃぃ……」

 タマモである。この呪いは被害者自身の霊力をエネルギー源にしているので、一行の中で最大の霊力を持つタマモは呪いの進行が1番早いのだった。そのわりに体重や筋力は低いから、何とか立ってはいるものの、もう足を前に出すのも困難な状況に陥っているのだ。
 カリンは狐娘の「もう限界です」と言わんばかりの様相を見て真っ青にあおざめた。

「いかん、このままいくと歩くどころか骨が折れるぞ……やむを得ん!」

 とタマモのそばに駆け寄り、念をかけて呪いを自分自身に転移させる。その直後、渾身の腕力で狐娘を愛子の方に放り投げた。

「愛子殿、タマモ殿を異界空間の中へ!」
「え、ええ!」

 愛子も横島と同じく本体と幽体両方重くなっていたのだが、足を妖怪モードにして歩いていた本体の方は舌を伸ばすくらいの余裕はあった。何とかタマモを無事異界空間に収納することに成功する。
 それで狐娘は救われたのだが、2人分の呪いを受けることになったカリンの方は無残だった。タマモを投げ終えた直後、あまりの重さでバランスを崩して倒れこんでしまう。
 腕が重くて受身を取るのも間に合わず、腰を床に強打した。

「ぐっ! うぐ、これだけ重いと痛いな……すまん横島」

 いくら他に方法がなかったとはいえ、カリンが自分を犠牲にすることは横島に痛みを強いることでもあるのだ。横島は声で事情が分かったからか、それともしゃべる余裕もないからか何も言わなかったが、影法師としては心が重い。
 いま増えた体重それ自体は横島のダメージにはならないのが救いではあるけれど……。
 一方グラヴィトンの方もカリンが何をやったのかは当然わかっていたが、意地の悪そうな笑みを浮かべているだけで制裁措置は取らなかった。タマモには手を出せなくなったが、その分をカリンが引き受けているのだから、むしろその自己犠牲の精神を称えてやってもいいくらいである。
 といって逆に救済措置を取るほど心優しくもないわけだが。この辺りは神とはいえ、「魔」がつくだけのことはあった。

「……。私たちは自分で歩くしかないみたいね」

 タマモが愛子の机の中に放り込まれるのを見ていた遠藤が、ちょっと羨ましそうな顔で呟いた。しかしカリンがただ起き上がるだけの動作に腕や脚をがくがく震わせているのを見れば、とても「私もリタイアしたい」なんてわがままは言えない。

「もう100キロくらいは増えてるのかしら……? くっそー、乙女のデリカシーを何だと思ってるのよ」

 峯は腹立たしげにそう相槌を打ったが、直接攻撃に出るわけにはいかなかった。触手はたぶん届くだろうし、遠藤のキョンシーの札も重くなっていなかったが、あの重くて堅そうな石像を壊せるほどの破壊力はないのだ。下手に怒らせて呪いをパワーアップされたらたまったものではない。

「てゆーか……少し助けて……」

 神野は六女組の中では1番体力が劣るようで、そろそろ泣きが入り始めていた。一応部屋の真ん中辺りまで来たのだが、体重は増える一方なので先に進むにつれて厳しくなるのだ。
 もちろんその哀願に応じる者は誰もいないのだけれど。

「あの、カリンさん、大丈夫……?」

 と愛子がようやく立ち上がったカリンに心配そうに声をかける。2人分の呪いをかぶっている影法師娘は相当つらそうだったが、それでも笑顔をつくって、

「ああ、何とかな。しかしこれじゃテレポートは無理だな……」

 体があまりに重たすぎて、不慣れなテレポートで運ぶ自信がないのだ。今も脚の力と飛行能力を併用して、やっと前に進んでいるくらいなのだから。

「試練にしてはタチが悪すぎるから、ちょっとクレームをつけたいところなんだがな。しかしどのみち今刺激するのは得策じゃないし、普通に歩いていくしかないか……」
「どうして得策じゃないんですか?」

 そのやりとりを聞いていたキヌが不思議そうな顔で訊ねると、カリンはやや憮然とした表情を見せてきた。

「ああ、さっきの人形みたいに空蝉(うつせみ)の術でも使われたらなす術がないからな。少なくとも全員扉の前につくまではおとなしくしてるべきだと思うんだ」
「いえ、あのひとはそんなことできませんけど?」
「……は!?」

 なぜか断定形で返事をよこしてきたキヌの顔を、カリンは思わずまじまじと見つめてしまった。

「どうしてそんな事が分かるんだ?」
「だって美神さん、あのひとに『話し合い』で呪いを解いてもらったそうですから」

 とキヌは令子の世間体に配慮して言葉を慎重に選びつつ、博物館の件を「かいつまんで」カリンに話してやった。長話している場合じゃないからかなりはしょった説明だったが、この少女ならきちんと理解してくれるだろう。
 話が終わるとカリンはやれやれと天を仰ぐような仕草をして、

「そうか、私の心配は杞憂だったということか……本当にパンドジニウムだな」

 キヌの話によれば、グラヴィトンは空蝉の術どころか自力で歩くことすら出来ないというのだ。それならこんなに重たくなる前に、さっき考えた通り彼の目の前にテレポートして令子と同じように脅かすか、いっそのこと叩き壊してやれば今頃この「試練」は終わっていたことだろう。
 後の祭りとはこの事だったが、しかしこの情報は非常に有益だ。試練を突破するしないに関わらず、あの石像を破壊し得る力を示してやれば呪いを解いてもらえるという事実が判明したのだから。
 問題は今の状況でその力をどうやって示すかという事なのだけれど……。


 横島は槍を杖代わりにして、相変わらず一行の先頭を歩いていた。槍の穂先の辺りを肩にかつぎ、石突きを斜めに床に下ろすのである。重くなった足でこれを蹴れば前に進むという寸法だ。これはこれで面倒だったが、少なくとも普通にかかえて行くよりはずっと楽だった。
 そんな横島に、その斜め後ろに続いていた魔鈴が申し訳なさそうに声をかける。その口調がやや間延び気味だったのは、あごも重たくなっているのだから仕方ないことだろう。

「横島さん、大丈夫ですか?」

 彼がかついでいる槍は、今や鉄どころか金より重たそうなのだ。もともと引率者である自分に寄こされたカギであるその槍を横島が運んでいることに、魔鈴は胸がキリキリ締めつけられるような罪悪感を覚えていた。
 かといって、運搬役を交代すると言い出せるほどの体力はない。

「すいません、私がもっと体を鍛えてたら少しは代わってあげられるんですけど……。
 助けてもらった上に荷物運びまでしてもらって、本当に何てお礼言っていいか……」

 それは魔鈴の衷心(ちゅうしん)からの言葉だったが、横島はむしろ返事に困るといった風に苦笑した。

「あー、いや。マッチョな魔鈴さんなんて見たくないんで、鍛えるのはほどほどでいいっスから。
 それにこーゆーのは慣れてますんで大丈夫です」
「横島さん……」

 横島の健気さに魔鈴は思わず涙腺を緩ませた。こんなふがいない自分に対して、何と心やさしい少年であろうか。
 横島としては実はこういう感傷的な展開は苦手だし、現実問題として魔鈴がもう50kgくらいにはなってそうな槍を運ぶのは無理だから、ちょっと空気を軽くしようと思って言っただけの台詞に過ぎないのだが、どうやら当人が思った以上の効果を発揮したようである。
 しかし魔鈴と横島では年齢差も大きいので、これだけのことで魔鈴が横島に惚れるというような事はありえない、というかこのやりとりを聞いていたカリンの機嫌の悪化度の方が著しかったりするのだけれど。

「でも正直言ってかなりツラいのは確かっスね……」

 煩悩足りないし、と横島は魔鈴には聞こえない程度の小声で呟いた。
 横島はうかつにも先頭を歩いているので、視界内に女性の姿がないのだ。これがもし魔鈴の後ろであったなら、ミニスカサンタルック美女の尻や太腿を思う存分鑑賞できたというのに。

(いや、今からでも遅くねーよな。ペース下げて魔鈴さんに先に行ってもらうか!?)

 素晴らしいアイデアだったが、しかしこれを実行するのはすでに時期を逸しているような気がした。なぜなら彼の後ろにいる女性陣は(ピートのことはどうでもいい)かなりへばっているのがその雰囲気だけで明らかに分かるのだ。ここでペースダウンして彼女たちの前進の邪魔をするというのはちょっと気が咎める。
 それに1番つらそうにしているカリンにこれ以上余計な心労をかけるのはさすがに心苦しかった。

(てゆーか何でこんな目に遭わにゃならんのだ? ただ通らせてもらうだけでこんなハードな試練、妙神山でもやらんだろ)

 そう思うと今さらながらにだんだん腹が立ってくる。自分やピートや峯辺りならともかく、タマモやキヌや魔鈴にまでこんな事をやらせるのはどう考えても行きすぎだろう。しかしあの石像の楽しそうなニヤケ面を見る限り、単なる口頭でのお願いで呪いを解いてくれるとは思えなかった。

(……ん、待てよ。この重さが呪いだっていうんなら、あの石像をぶっ壊せば解けるよな……ちょーど今手甲はめてるし)

 とついに戦う決意を固めた横島だったが、グラヴィトンまではまだ7メートルほどある。今の状況で一足飛びに躍りかかるのは無理だった。
 ちなみに横島はさっきのカリンとキヌの会話は聞いていない。だから空蝉の術に関する考察はしていないのだが、さいわいキヌが言った通りグラヴィトンは脱出用の術は持っていないので問題はなかった。

(……で、どーやってぶっ壊す?)

 水や風で壊せるとは思えないし、破術で祓える相手でもないだろう。下手に時間をかけるのは危険だし、やはり真銀手甲に体重をかけてぶん殴るのが最も有効だと思われた。
 しかし普通に歩いてそこまで行くくらいなら、おとなしく扉まで行って試練を果たした方がよっぽど安全で確実である。だってその頃には魔鈴たちも扉近くまで到達しているだろうから。

(だよなあ……うーん、やっぱケンカはやめとくか?)

 といきなりヘタレなオチになりかけた横島だったが、ここで煩悩少年はまるでこの場をクリアするためにつくられたかのような、まことに都合の良い秘密兵器の存在を思い出した。そう、ついさっき爆誕した新生竜珠である。
 横島は右手の上に出したそれを高くかかげ、後ろにいる仲間たちに渾身での協力を求めて叫んだ。

「みんな、俺に煩悩をわけてくれ!!」
「アホかーーーーっ!!!」

 だがその呼びかけで最初に届いたのは、峯の触手による腰部への殴打だった。ただでさえ相撲取りのように重たくされて気が立っていたところへしょうもないボケをかまされたので、つい反射的に突っ込みを入れてしまったのである。

「い、痛ぇ!? 何すんじゃいきなり、危ねえだろが」

 予期してなかった痛みのためバランスを崩し、片膝をついてしまった横島が怒りの声をあげた。せっかくまじめに戦おうと思っていたのになぜ邪魔する!?
 峯も「危ない」と言われて自分の行為の迂闊さを理解した。

「ああっ、ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」

 と珍しく素直に横島に謝ったのは、彼も現在大増量中だからである。さいわい何ともなかったようだが、今のは膝の骨が割れていてもおかしくはなかったのだ。峯は竜珠の機能をちゃんと聞いていたのだから、横島が何をもくろんでいたのか察して当然の立場だったから尚更である。

「あー、何とかな……でも立てねぇ……!」

 こっそりポーカーフェイスで煩悩を送ってくれた女性が何人かいたから霊力は十分上がっていたが、それと同時に呪いの方も進んでいたので横島は体が重くて立ち上がれないのだった。
 横島もこの呪いの原理を知っていたら別の方法を考えていただろうが、残念ながらそこまでは聞いていないから仕方がない。せめて美女が扉の前でスト○ップをしてくれるといったサービスがあれば元気も湧いてくるのだが……。
 しかしここで、横島家の頭脳担当が鋭い声で作戦を指南してきた。

「横島、今だ! 破術で魔鈴殿にかかってる呪いを破れ!」
「なぬ!?」

 横島にはなぜカリンがわざわざ魔鈴を指名したのか分からなかったが、理由は簡単である。最後に彼女に花を持たせようと思ったのと、それができる武器を魔鈴が持っていたからだ。呪いを解くのに時間がかからないのであれば、それをためらう理由はない。
 しかし横島が落とそうとしている相手だと知っていてこういう気遣いをする辺り、何だかんだ言ってカリンもけっこう甘かった。

「今のおまえの霊力なら力技で破れる。急げ!」
「わ、わかった。……霊気の流れを散らしめよ、鋭ッ!」

 横島が集められるだけの霊力を右手に集め、剣印(握り拳から人差し指と中指をそろえて立てる)を結んで術のパワーを魔鈴に叩きつけるようにして放出する!

「……! か、体が軽くなった……!?」

 体の中で何かがはじけるような感触のあと、魔鈴の体重はこの部屋に入る前のそれに戻っていた。どうやらカリンの見立て通り、横島の術でも魔神の呪いを解けたようだ。
 そしてもちろん、魔鈴はなぜ横島とカリンがあえて自分を選んだのか分からないほど間抜けではない。ベルトに差していた短剣を鞘から引き抜いて、魔神に戦いを挑んだ。

「いくら元の世界に帰るための試練とはいえ、女の子の体重を弄ぶなんて許せません。ちょっと反省してもらいます!」

 すると持ち主の戦意に感応してか、はたまた横島の術で受けた竜神の神通力によってか、剣がものすごい閃光を放ち始めた。魔鈴がその青い輝きに引っ張られるようにして、魔神像めがけて跳躍する。

「なっ、ボクの呪いが人間に何の触媒もなしに破られるなんて!?」

 グラヴィトンは驚愕したが、事実は事実である。いや彼には横島が竜神だと見抜くほどの眼力がなかっただけの事なのだが。
 あわててもう1度呪いをかけ直そうとしたが、今度はカリンの術で迎撃されて効果を発揮する前に打ち消されてしまった。
 その間に魔鈴がグラヴィトンの目の前にまで到達する。
 いまや彼女の精神は森の奥の静かな湖のごとく澄み切って、魔神像のどこを突けば倒せるか当然のように理解していた。すなわち1つ眼の真ん中か、胸の真ん中にある紋章である。そこにこの青い短剣の切っ先を押し込めば、グラヴィトンは確実にこの世から消えうせるだろう。
 もっとも魔鈴は横島より温厚なので、問答無用で殺してしまう事にはためらいがあった。その一瞬の躊躇(ちゅうちょ)の間に、グラヴィトンがあわてて命乞いを始める。

「ま、待てっ、落ちついてくれ! 呪いはすぐ解く……いや、前より1キロ軽くするからっ!」

 もともとグラヴィトンは横島たちを殺すつもりはなかった。彼らに恨みはないし、最初に言った通り「試練」なのだから、突破を諦めて部屋を出て行くというのなら呪いは解いてやる気でいたのだ。なのに殺しに来られてはたまらない。

「……本当ですか?」

 油断なく短剣を石像の胸元に突きつけつつ、微妙に期待がこもった表情で訊ねる魔鈴。するとグラヴィトンはキヌの方に目を向けて、

「あの子に聞いてみて! 1度やったことがあるから……!」

 どうやらキヌのことも覚えていたらしい。おそらく「1キロ軽くする」という交換条件もそれで思い出したのだろう。
 魔鈴がキヌの方に顔を向けると、キヌはしゃべるのもつらそうな様子ではあったが何とか気力を振り絞って、魔神像の期待通りの回答をよこしてきた。

「はい、美神さんはちゃんと軽くしてもらってましたけど……」


「……………………………………」


 交渉が成立した。


 横島たちは約束通り呪いを解いてもらったあと、ゲートを通って無事元の世界の魔鈴の店に帰ることに成功した。ゲートは魔鈴の店の窓というより愛子の異界空間へ通じる暗いフィールドのような感じだったが、無事帰れたという事実の前ではどうでも良いことである。
 これでお開きかなと横島は思ったが、なぜか人間の女性陣は当然のように魔鈴を先頭にして彼女の私室に消えて行って―――5分ほどして戻って来たときには全員が喜色を満面に浮かべていた。それはもう異世界での危険な戦いのこととかパンドジニウムの謎のこととかなどきれいさっぱり全部忘れた、というくらいに。
 峯と神野と遠藤に至っては、お互いにハイタッチして喜びを分かち合っているほどの浮かれようである。

「……体重が1キロ軽くなるのってそんなに嬉しいことなんか?」
「私に聞かれてもな……」

 その光景を不思議そうに眺めていた横島がカリンに訊ねてみたが、影法師娘の方もよく分からない様子だった。カリンも若い女だが体重はゼロで不変なので、女性の体重に向けるこだわりは推察はできても実感はできないのである。

「ま、あれも青春なんじゃない?」

 といつもの台詞を述べている愛子自身も、机の付喪神ゆえ体重に変動はないからかあまり関心はない様子だった。タマモとピートもどうでもよさそうな顔をしている。
 ちなみに人外組の体重は元のままである。呪い、いや祝福というべきなのかも知れないが、望んでもいない軽量化のためにあんな怪しい魔神の力を受け入れる気にはならなかったのだ。

(……。「炎の狐」の話をする予定だったけど、そーゆー雰囲気じゃねーよな)

 と横島が心の中で呟く。まあそんなに急ぐ話じゃないし、また次の機会にしてもいいだろう。いやそうすれば客として以外に会う口実になるというものだ。
 などと横島がまた不埒なことを考えているうちに、魔鈴たちはダイエット成功のお祝いを切り上げて人外組の方に集まってきた。

「―――みなさん、今日は私の不手際で迷惑かけて本当に申し訳ありませんでした。さいわいみんな無事でしたけれど、ずいぶん危険な目に遭わせてしまって慙愧(ざんき)の念にたえません」

 深々と頭を下げる魔鈴。今回の異世界旅行はトータルでいえば良いことの方が多かったとはいえ、こうしてきちんと礼儀は守る辺り、やはり一人前の社会人であった。
 それを横島が先刻のようになだめて頭を上げさせる。実際霊能部組に今魔鈴を咎めるような性格の者はいないし、六女組も超レアな体験をさせてもらった上1kgもダイエットできたのだから文句はなかった。

「ありがとうございます。それじゃまた何か企画があったらご利用下さいね。今度は普通に料理でサービスさせていただきますから」

 というわけで、いろいろと奇想天外だったクリスマスパーティもようやく散会となったのだった。


 ―――つづく。

 合コン編が都合16話……香港編が9話でフェンリル編が11話だったというのに長かったですねぇ(ぉ
 横島君の体格はザンス編で出てるんですが、172センチで58キロってかなり痩せ型ですよねぇ。うーん。
 あと本文中でカリンがタマモの呪いを転移させてますが、これは原作香港編で唐巣が土角結界を自分に集中させたようなものだと思って下さいませー。
 それと一区切りついたところで、第124話以降で能力が変わったキャラのステータスを出しておきます。

○横島忠夫
 霊圧 :110マイト
 スキル:神通力(天候操作、飛行、お裾分け機能つきリジェネレーション)、竜珠(霊的特性強化)、麻痺ガスのブレス、煩悩全開(通常版及び竜気共鳴版)、陰陽術(金縛りの術、破術の法、霊能アイテム作成)、霊的格闘(三流)、復活(ギャグ)、人外キラー、悪運、商才
 霊的特性:煩悩魔竜
 補足 :九頭竜の姿に自由に変身することができます。また軽めながら妙神山の地脈に括られており、日本国内では常時霊力の供給を受けられます。身体的にも原作3巻で吸血鬼になった時と同じくらい強靭です。

○カリン
 霊圧 :横島と同じ
 スキル:ブレス(火炎、熱線ビーム)、霊視(一流、ただし視界範囲内のみ。映像として投影できる)、テレポート(帰還/視界範囲内、他人を同伴できる)、アポート(在り処、居場所を認識できるモノ)、超加速(共鳴中のみ)、陰陽術(横島と同じ)、剣術(一流)
 霊的特性:星竜
 補足 :人間の姿と竜の姿を自由に使い分けられます。竜の姿になると飛行速度やブレスの威力など身体能力が向上しますが、サイズが大きくてパワーも強い分消耗も大きくなります。

○愛子
 霊圧 :50マイト
 スキル:引き出しの中の学校、幽体離脱(本体から5メートル離れるごとにパワー半減)
 霊的特性:結界師

○峯千鶴
 霊圧 :75マイト
 スキル:霊体の赤い触手、霊的格闘(二流)、視聴覚(二流)
 霊的特性:格闘タイプ

 ではレス返しを。

○チョーやんさん
 レモは元が美神さんとはいえ、実物ではありませんからねぇ。ラスボスまでは張れませんでした。
 そこへいくとグラヴィトンは本物の魔神ですからねぃ。しかも「神像」でしたから。まあ結局はヘタレなんですけどw
 ピートはそれなりに実力者だと思うのですよー。今回は一転して某虎なみの影の薄さでしたがw
>レモの台詞
 はい、どうぞご自由にお使い下さいませ。

○Tシローさん
 減量成功というのはパワーアップになるんでしょうかねぇ?(ぉ
 グラヴィトンも失敗を糧にして成長していたのですが、今回は相手が悪かったようです。
>横島は竜神化がばれずに最後までいけるのか?
 グラヴィトンに見る目がなかったおかげでセーフでした。

○KOS-MOSさん
>レモ
 今度出て来たらその時こそ横島君敗北の日になりそうですなw
>グラヴィトン
 あの呪い、描写をよく見ると本当にすごい効果なんですよねぇ。今回はアレンジを加えてましたが、やはり自分が動けないのが敗因でした。
>天叢々剣
 神格といいますか煩悩格といいますかw
 確かにこんなものが横島君の手に渡ったら色々と大変ですね。

○HALさん
 最初から何も考えず突撃してれば、仰る通り簡単に攻略できたんですが、そううまくは行かないのがドジ城効果というやつで。
>ラスボス攻略後
 グラヴィトンのおかげで和気藹々のうちに締めまで行けました(ぉ

○風来人さん
>ピート
 せっかく来たんですから、見せ場の1つもないと哀れですからねぇ。そのぶん今回は極薄ですが(酷)。
>レモ
 や、創造主らしいと感じていただけて満足でありますー。
>グラヴィトン
 とっさに「1キロ軽くする」なんて台詞が出る辺り、意外と機転が利くんですよね彼。
>黒幕
 下の方のレスにありますが、美神さん被害者同盟の根城だったというのが真相みたいです(ぉ
>カオス
 そんな本当のことをw

○紅さん
 グラヴィトンは自分で動ければすごく強いんですがねぃ……(つД;)

○ばーばろさん
>本格ボクシングマンガ
 むしろ某千年不敗の流派の漫画のボクシング編を参考にしたなんてことは内緒です。
>モガちゃん
 おお、話が通じててよかったですー。
 グラヴィトンはみなさま意外だったみたいですなv
>点数稼ぎ
 今回もやってますが、そろそろ奥さんズの不興を買いそうですw
>カリンたんの体重
 増えるというか、呪いで上乗せされてるような感じだと思っていただければ。

○Februaryさん
 ねぎらいのお言葉ありがとうございますー。
>共鳴超加速
 いあ、グラヴィトンの呪いに対してそれは危険すぎるかと。
 やった瞬間に横島とカリンが床に埋まっちゃいそうであります。
>彼女ならラスボスも支配しかねんと思うのですよ
 うーん、そう考えるとボスになってても不思議じゃないような気が<マテ

○鋼鉄の騎士さん
 レモを令子さんまんまだと思っていただけて良かったです(ぉ
 ピートはユッキーに勝つにはただ霊力上げればいいという物じゃないと思ったんじゃないでしょうか。というか波動拳はすでに会得してますし、竜巻旋風脚は空飛べるから素でできますしねぇ。となると次はやはり瞬獄殺ですな<マテ

○通りすがりのヘタレさん
 ねぎらいのお言葉ありがとうございますー。いろいろと意表をつけたようで嬉しいです(ぉ
 グラヴィトンは原作だと「質量」を増やしてるとしか思えないんですよねぇ。「地球から受ける重力」が増してるだけだったら令子さんはあんな目に遭って生きてられるはずないですし。
 どじっ娘(ぇ)聖地の正体は上記を参照して下さい<マテ
 グラヴィトンがあえてカギを渡したのは、彼が言った通り試練だからでありますよー。モチーフ的に渡させたかったというのもありますが(謎)。

○遊鬼さん
>モガちゃん
 楽屋ネタをバラしますと、グラヴィトンが先だとカリンが躊躇なくテレポートで攻撃しに行っちゃいますので、まず先にレモの脱出芸を見せて攻撃をためらうようにしておく必要があったのですよー。
 よってレモが先ということに。
>グラヴィトン
 本人は戦う気はなかったんですが、やはり女性の体重をいじくるのは問題がありましたw

○cpyさん
 仰る通りグラヴィトンの能力は女性には痛烈でしたが、それゆえに自分の墓穴を掘りましたw
 ジョジョはいいですよねぇ。物語も面白いですがネタの宝庫です。

○whiteangelさん
 グラヴィトンは自分がかけた呪いはすぐ消せるようですから、その手はおそらく通用しないと思われますー。いやもしかしたらドジかまして自滅してくれるかも知れませんけど(ぉ

○アラヤさん
 横島君は今回も魔鈴さんに好感度を植え付けてます。そのうち奥さんズにしばかれそうですけどw
>天叢々剣
 しょせんドジ城製で横島君用の武器ですからw

○ロイさん
 グラヴィトンは自分では動けないので、仰る通り直接攻撃はないわけですが、自分への攻撃さえ防いでいれば、「呪い殺す」ことはできるのでありますよー。
>アポート
 その通りなのですが、戦場がドジ城だったのが災いしました(酷)。
>魔鈴さん
 今回は落とし切れませんでしたが、まだ機会はありますのでー!

○読石さん
>レモ
 そうですねぇ。元が令子さんだけに、下男の一党に不意打ちなんてセコいマネはできなかったんでしょうな。惜しいところでした(何が)。
>神父
 カミの愛があらんことを祈るばかりですヾ(´ー`)ノ
>ここの城主
 上記を参照して下さいませー(ぉぃ

○山瀬竜さん
>レモ
 さすがにヘタレとはいえ神様が控えていては真打にはなれませんでした。しかし10対1にしては頑張ったのではないかと。
>グラヴィトン
 ああ、そんな感じしますねぇw
 一応横島君の行動が勝因になった……のでしょうか(ぉ
>魔鈴さん
 かなり評価上がってますな。しかし仰る通り、今1歩が足りませんでしたけど。
 4号さん計画の成功率はネタバレ禁止であります。

○いりあすさん
>実は美神令子被害者同盟の根城だったのね
 おお、いい観点ですな。それでいきましょう<マテ
 いあ、コンセプト的にオリジナルの敵は出しづらいのでどうしてもこういう事に(^^;
>重くなって落ち込んでる女の子を優しく慰める
 ここの横島君は邪なのでこっちぽいですが、世の中そこまで甘くはありませんでしたw
>美神さんの姿をしたチョコレートゴーレム
 そういえばそんなのも居ましたねぇ。まさに対横島用決戦兵器w

○UEPONさん
>おキヌちゃん
 確かに恋愛にはそういう面もあると思いますが、問題はライバルが神様だという事なんですよねぇ。略奪愛をしかけるには相手が悪すぎるので、よほどのことがないとフラグ復活は難しそうですorz
>ええと、解消? 蓄積ではw
 うぐぅ、そんな本当のことをはっきりと(ぉ
>人工幽霊壱号の試験みたいな展開になりましたね〜
 ああ、そういえば彼も似たようなことやってましたねぇ。
 しかし最後の「歳を取る」試験は何のためにあったのか未だによく分かりませんです。

   ではまた。

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