インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始▼レス末

「二人三脚でやり直そう 〜第五十四話〜(GS)」

いしゅたる (2008-01-18 18:06/2008-01-18 21:45)
BACK< >NEXT

「横島さん……雪之丞さん……」

 二人の試合が終わったのを見て、おキヌはキュッと拳を握った。
 敗北した雪之丞は担架で運ばれて行き、横島は――おキヌの方を見て、でこぼこに腫れ上がった真っ赤な顔に、「ニッ」といつものような屈託の無い笑みを浮かべた。
 だが、おキヌは直感で感じ取った。あの笑顔は、何かを隠す笑顔だと。

(私は……何をしているんだろう……)

 彼は無理矢理にでも笑ってくれている。何も心配ないと、必ず助けると言わんばかりに。その気持ちが伝わり、おキヌは胸に心地良い感覚が広がるのを感じ――しかし同時に、彼に何も出来ない自分に対し、悔しさがこみ上げてきた。

(せめてネクロマンサーの笛があれば……)

 と思うが、考えてみれば笛があったからといって何ができるというわけでもない。あの笛による催眠波は試合でも役に立つだろうが、メドーサや勘九郎ぐらいになると効かないだろう。第一、自分の本当の能力を隠すという意味もあり、あの笛の存在は白龍会の誰にも教えていなかったのだ。
 そもそもあれは、この場に持ってきてすらいない。着の身着のまま連れ出され、ほとんどの荷物は白龍会の寄宿舎に置きっぱなしである。
 せめて荷物をまとめる時間さえ与えられれば、その時間を利用して――

(……いえ。きっとそれを見越して、時間を与えなかったんでしょうね……)

 考えれば考えるほど、自分に出来ることがないことを実感し、気持ちが沈んでいく。
 と――

「氷室選手! 氷室選手はいないかね!」

「あ、はい!」

 呼ばれていたのに気付き、おキヌは慌てて返事をし、試合場へと向かって行った。
 その様子を見ていた勘九郎は、ちらりと隣の陰念に視線を向ける。

「……陰念。あの子に対戦相手を再起不能にできると思う?」

「思うわけねーだろ? 性格的にも無理だし、そもそも攻撃力が追いついてない」

「でしょうねぇ」

 即答する陰念に、勘九郎は肩をすくめて同意した。


 ――で。


「しょ……勝者、氷室キヌ……」

 数分後、何故か内股になって股間を押さえた審判が、震える声でおキヌの勝利を告げた。
 そして、その試合場では――

「へーん! 頭にナニか当たっちゃいましたーっ!」

「……………………」

 尻餅をつき頭を押さえて泣いているおキヌと、床に伏した状態で股間を押さえて泡を噴き、ピクピクと痙攣する対戦相手がいた。
 一方、試合場の外でそれを見守っていた陰念と勘九郎は――

「な、なぁ……あれも再起不能にしたうちにカウントされねーかな……」

「む、無理ね……あの方は女性だから、あの痛みはわからないわ……」

 審判と同じく、内股になって股間を押さえ、大量の脂汗を流していた。


 その試合で何が起こったかは――もはや状況から推して知るべしとしか言いようがないが、おキヌの精神衛生上、あえて詳細は秘することとしよう。


   『二人三脚でやり直そう』
      〜第五十四話 誰が為に鐘は鳴る! 二日目・7〜


 ――観客席――

「ふうん。そう」

 席に座っている美神は、携帯電話を耳に当てて、何事か話していた。

「……あら? 何言ってんの? 賭けに負けたのはそっちでしょ? ま、少しぐらいなら依頼料出してやってもいいけどね……あーわかったわかった。負け犬の遠吠え聞いてると頭痛くなるから、ここで切るわね。じゃ、がんばんなさいよー」

 ピッ。

 ほーっほっほっほっ、と高笑いでもしそうな笑みを浮かべ、美神は携帯電話を切った。

「おねーさま、誰からですの?」

 隣のかおりが、通話が終わったタイミングを見計らって美神に訊ねた。

「エミよ。人質の居場所、特定したみたい。これから救出に向かうってさ」

「それでは、もう氷室さんはメドーサの言いなりにならなくても良いということですか?」

「エミがヘマしなければね。……っと、おキヌちゃんの試合が始まったわよ」

 美神がそう言うと、一同は試合へと視線を移す。
 彼女は開始早々に魔装術を展開した。おキヌと対戦相手の攻防が始まり――


 ――やがて、決着は唐突に訪れた。


「…………おキヌちゃん、随分エグい勝ち方したものね」

「ひ、氷室さん、あなたって人は……」

「うわぁ……」

 その勝負の着き方に、揃って何とも言えない顔になる。

「ま、これで横島クンの次の対戦相手がおキヌちゃんに決まっちゃったわけか。戦いづらいでしょうね、あいつには」

「でも、それまでに人質を解放できれば、少なくとも真面目に戦わなけりゃならない理由はなくなるんじゃ?」

「エミの言ってた場所は、往復でもそれなりに時間のかかる場所だったわ。ちょっと厳しいわね」

 魔理の問いに、美神はそう答えた。魔理は「そっか……」とつぶやき、何やら考え込む。

「ま、ここでこうしていても仕方ないわ。今は横島クンと雪之丞が医務室に行ってる頃だし、こっちはこっちの仕事を済ませちゃいましょう」

 言って、美神は三人を促して医務室へと向かった。


 そしてその頃、医務室では――

「あひゃひゃひゃ……く、くすぐったいって、冥子ちゃん」

「だめよ横島くん〜。じっとしてなきゃ〜」

 横島が救護班に参加している冥子の治療を受け、変な声を上げていた。
 ――というのも、その治療法は冥子の操る戌の式神『ショウトラ』が患部を舐めるという、独特の方法だったからだ。
 もっとも、このヒーリングのやり方は人狼や妖狐といった犬神族にとってはポピュラーなものであり、横島は逆行前にはよく受けていたのだが。おもに『横島の一番弟子』を自称する人狼族の少女によって。

(そーいや、あいつ何やってんのかなー。今はまだ、男にしか見えないガキんちょのはずだけど)

 ふと、その人狼族の少女のことを思い出す。
 逆行前は、大怪我を負った後の超回復によって一気に成長したものの、本来の年齢は小学校にも届かない幼児だったはずなのだ。出会うのはまだ先のこととはいえ、彼女の父親の事もあるし、気にならないわけではない。

(……ま、人狼族の隠れ里の場所は知らんし、知ってたとしても俺は里の部外者だからな。のこのこ行っても、話も聞いてもらえずに物騒なことになるのがオチだろ)

 起こる事がわかっている悲劇は回避したいと思うが、自分ではどうしようもないこともある。何でもかんでも割り切るのが良いこととは思わないし、これに関しても割り切りたいとは思わないが、出来る事が何もないという事実は覆せない。それに今は、差し迫った問題が目の前にある。

 と――

「は〜い。終わったわよ〜」

 間延びした声をかけられ、横島は思考に没頭しかけた意識を現実に引き戻した。目の前にいたショウトラが、いつの間にか冥子の横に戻っている。


 ――ふと、気付く。


(……あれ? これってもしかして、冥子ちゃんと二人っきり?)

 隣のベッドに雪之丞がいるとはいえ、彼は絶賛失神中である。3回戦以降はギブアップ無しなわけだから、もっと怪我人が多くてもいいはずなのだが、そういった様子もない。
 それだけ、冥子の――というよりはショウトラの――ヒーリング能力が高いということなのだろうか。ともあれ今、医務室にいるのはこの二人(+α)だけであった。
 そして、改めて冥子を見てみる。ナイチンゲールを髣髴とさせる看護服に身を包んだその姿は、童顔な顔立ちと相まって、かなり可愛らしい。

(冥子ちゃんって、結構可愛いんだよなー……年上とは思えないぐらいに)

 頭の上に「?」マークを浮かべて見つめ返す彼女に対し、そんなことを思う。
 心優しくて大人しい、深窓の令嬢。年上なのに年下にしか見えない無邪気な笑顔がチャームポイント。加えて人懐っこくてガードが緩いとくれば、横島的にはポイントが高い。
 もっとも、彼女と『お近付き』になる上での唯一にして最大の難関である、あの爆弾テロのごとき暴走癖さえなければ、の話だが。

(とはいえこの状況、滅多に無い好感度を上げるチャンスか!? おキヌちゃんのことも気になるが、やっぱり俺の霊力源は煩悩なわけだし……ここは一つ、霊力回復とか気力回復とか精力充実とかその辺の意味も込めて男一匹横島忠夫、愛と正義のためという大義名分の元、今こそ眼前の浮沈要塞を攻略すべく行動を開始するのが最善と思われっ!」

「?」

 だんだんと妄想が暴走していく横島。いつも通り、脳内妄想が口から駄々漏れになっているのにも気付かない。しかしそれを聞く冥子の方は、意味がわかってないのか、きょとんと可愛らしく小首を傾げるばかりだった。
 そして止める者が周囲にいない横島は――

「とゆーわけで冥子ちゃ――」

 コンッ、コンッ。

「は〜い〜?」

「へぶっ」

 飛び掛かったその瞬間、冥子が医務室の扉を叩くノックの音に反応し、席を立った。彼女をハグしようとした横島の腕は虚しく空を切り、そのままベタンと墜落して床とキスをしてしまう。
 ――もっとも、いきなり抱き付くなどという行為に走れば、好感度が上がるどころかプッツンから病院行きのコンボが発生するのは明白なので、これはこれで横島は命を拾ったと言えるのだが。

『…………阿呆が』

 心眼の呆れ声も、横島の耳には入らない。彼は顔をさすりながら起き上がり、冥子との(失敗するのが確実だった)逢瀬を邪魔した者を一目見んと、不機嫌な面構えになって顔を上げる。

 が――


「あのー……ここに、横島って選手がいると思うんやけど……」


 聞こえてきたのは、女の声。美神でもかおりでも魔理でも愛子でもない、昔懐かしい関西弁。しかも自分を探しているときた。その事実に、急降下していた横島の機嫌は一転、急上昇した。

「うん〜。横「はいっ! 横島ならここにいますっ! ボクに何か御用でしょーかおねーさん!」島くんならいるわよ〜」

 一瞬で冥子の横まで移動し、彼女が答えるより早く身を乗り出す。ただ、冥子はそれにも構わず、マイペースに返答していたが。
 そして、横島は自分に用があるというその女性の姿を見た。

 ――彼女は、白いブラウスにデニムのプリーツスカートという、シンプルな服装だった。
 体型はグラマーと言えるほどではなく、かといって貧相と言えるものでもなく、ややスリムではあるが平均的なものだった。肉付きは若干控え目だが、それが却って健康的な若々しさを醸し出している。服装の飾り気の無さも、逆にある意味で、その若々しさにマッチしていた。
 ――そう。背伸びしない等身大のスタイルという意味で。そこには、大人の女性とはまた違った魅力を感じられた。
 そして、その細い肢体の上にある顔は、間違いなく美少女と呼べるものであった。リボンで結ったポニーテールという髪型も、最近あまり見なくなったこともあり、ポイントが高い。横島が思わず、内心で「Sランク!」と喝采してしまうほどである。

 と――

「横島……?」

 眼前の美少女は、横島の顔を見るなり、戸惑ったような――それでいて、何か懐かしいものを見るような顔になって、横島の名を呼んだ。
 その様子に、口説きの台詞を吐こうとした横島は、その言葉を寸前で飲み込んだ。

「え、ええと……ど、どちら様で……?」

「……ほんまに、ウチのこと忘れてまったんか?」

 少し悲しそうに、横島を上目遣いで見上げる美少女。
 ……ただしよく見てみると、その手が「ギリ」と音を立てそうな程、固く握られているのだが……横島は気付かない。
 その美少女の表情に、横島が「うっ……」と鼻白んでいると――彼女はおもむろに、自分の髪を結っているリボンに手をかけ、シュル、と音を立ててほどいた。
 パサリ、と長い髪が波打って垂れ下がる。ストレートロングになった彼女の顔を見ると――


 ――フラッシュバック――


 夕日で赤く染まった屋上。
 フェンスの傍で寄り添い並ぶ、二人のクラスメイト。
 片方は自分の親友。
 そして、長い髪を風になびかせた、もう片方は――


「あ……!」

 カチリと何かが嵌ったような錯覚と共に、横島はようやく思い出した。
 忘れようもない。彼女の名は――

「な、夏――」

 ――と、言いかけたその時。

 自分のことを思い出した様子の横島に対し、彼女はニッコリと微笑み――

「思い出した? じゃ、挨拶代わりに、六年間溜まりに溜まってたモン受け取ってもらおか?」

「へ?」

 と、唐突に言い出し、意味を汲み取り損ねた横島は間抜けな声を漏らした。

 ――そして――


「なあ――」


 彼女は右腕を振り上げ――


「――よ」


 裾を肩までまくって――


「こ」


 右足を大きく後ろに引き――


「し」


 大きく振りかぶり――


「むぁぁぁぁぁっ!」


 気合一閃。絶叫と共に振り回されたその細腕は、まるでそれが斧であるかのような錯覚を見せる。


 ドゲシッ!

「のべつっ!?」


 美少女――夏子の怒りを始めとして長年鬱屈させていた諸々の感情を足しっぱなしにして文珠並に凝縮した渾身のアックスボンバーがクリティカルヒット。意味不明の悲鳴を上げた横島は、そのまま医務室の壁画と化した。

「あら〜大変〜」

 言葉とは裏腹にまったく緊張感のない様子で横島に駆け寄る冥子を。それを横目で見ながら、夏子はパンパンと手をはたいた。
 そして彼女はおもむろに人差し指を天井に向け――


「イチバァーンッ!」


 などと声高に叫んだ。


 ――ちなみに、廊下では。

「……南無」

「あら、近畿クンじゃない。何やってんの?」

「あ、美神さん」

 横島の受難に手を合わせて拝んでいた銀一に、美神がきょとんとした様子で背後から声をかけていた。


 ―― 一方その頃――

「顔は好みなんだけど……残念ねぇ」

 試合場の方では、3回戦第14試合が始まろうとしていた。
 そこに立つのは勘九郎。彼は、目の前で構える対戦相手の容貌を見て、ぺろりと唇を舐めた。
 そして――

「試合開始!」

「うおおおおっ!」

 審判の声が響くと同時、相手は攻撃すべく吶喊してくる。
 それを正面に見据え、勘九郎は不敵な笑みを浮かべた。

「こっちも命令なんで、悪く思わないでよね。大丈夫、殺しはしないわ……あなたイイ男だから、チャクラをズタズタに引き裂くだけで終わらしてア・ゲ・ル♪」

 そう言って、勘九郎は無造作に相手に向かって手をかざし――


 ズドムッ!


 その手から放たれた霊波砲が相手の体を貫き、背後の結界にまでその余波を響かせた。

「がっ……!?」

 対戦相手はその一撃で意識を刈り取られ、床に伏せる。
 驚くべきは、攻撃が体を貫いたというのに、外傷がいくつかの裂傷だけで済んでいるというところだろう。しかし霊視を行ってみれば、全身の霊力の流れがズタズタに引き裂かれているのがわかる。
 外傷を与えず、内部にダメージを与える――まるで浸透勁のようなその霊波砲は、並の腕前で出来ることではない。

「あら……ちょっと外傷が残っちゃったわね。こういうの、やっぱ難しいわぁ」

 しかしそれをした当人は、不満そうに唇を尖らすだけであった。


 ――ノルマ達成まで、あと5人――


「へぇ……横島クンの小学校の頃の……」

「夏子です。よろしゅう」

 目を回してベッドの上で伸びている横島の横で、美神が医務室に備え付けてある丸椅子に腰掛け、目を丸くして夏子を見た。
 対する夏子の方は、美神とは反対側で同じく丸椅子に座っており、ちょっと不機嫌そうなジト目で美神を見ていた。

 対面するその二人の心境といえば――

(横島クンの小学校って、確か大阪だったわよね……関西弁喋ってるし、じゃあこの子もあっちの? でもなんで東京にいるのかしら……ってか、なんか私を警戒してない?)

(横島の上司って、こないイケイケ女やったんか……あかん、スタイル完全に負けとるやん。なんや知らんけど、めっちゃ悔しいわ……ああもう! 横島の奴、なんでこない女の下で……このアホンダラが!)

 ――とまあ、だいたいこんな感じである。
 冥子以外の周囲の人物たちは、夏子が美神に向ける一方的な緊張感を感じ取り、どうすれば良いか困惑している様子であった。

(え、ええっと、銀一さん、これは一体どういう状況ですの?)

(あー……まあ端的に言うと、夏子は横っちに会いに遠路はるばる大阪から来たんやけど……)

(それってもしかして……青春? 青春なの!?)

(いや意味わからんって。けどたぶん、そっちが考えてる通りなんやないかな)

(わかりませんわね……彼のどこがそんなに良いのでしょうか?)

(そこはほら、傍にいれば良くわかるってことなんじゃないの? まさしく青春群像劇によくあるパターンねっ!)

(……その辺はノーコメントで)

(冥子よくわかんな〜い)

 隅っこの方に寄ってひそひそと話す一同。銀一としては、愛子の言葉が意外と的を射ていたので頷きたかったところだが、それをするのは男として少々腹立たしいので、返答は拒否しておいた。
 そしてそんな一同を横目に、美神は「何やってんだか……」と少々呆れた顔になっていた。

 一方夏子の方は、美神に――というより主にその豊満なスタイルに対して――敵愾心を抱いていると同時、目の前で気を失っている横島に対し、悔恨の念に囚われていた。

(……はぁ〜。にしても、いきなしアレはなかったわぁ〜……気絶させてどないすんねんって。これじゃ、起きるまで話せへんやん。なんでウチ、あないなコトしてもーたんやろ……)

 本当は、ただ再会して話したいだけだったのだ。六年間会えなかった間にあった、色々なことを。
 そして最後に、「ウチ、実は昔、アンタのこと好きやったんよ」と言い、おそらく呆然とするだろう横島のアホ面に「ばーか」とデコピンの一つもお見舞いしてやって、初恋にケリをつけて帰るつもりだった。
 それが、いざ実際に会ってみたらどうだろう。話したかったことが全て吹っ飛び、代わりに心に浮上してきたのは、自分でも正体のよくわからない、煮えたぎるようなフツフツとした怒り。
 自分のことをすぐに思い出してもらえなかった? そんなものはきっかけに過ぎない。ただ彼女は、激情に流されるままに横島を力の限りドツいてしまい――結果、今に至るというわけである。

 そして彼が伸びてしまった後で当初の予定を思い出せば、そりゃ後悔の一つもする。

「それにしても、医務室に来て気を失うとはね……そんだけ、雪之丞のラッシュが効いていたってことかしら。むしろ、あれだけの攻撃を受けたんだから、試合中に気を失わなかっただけ大したもんだけど」

「…………」

 そんな夏子の心中など知らない美神は、横島の容態を見てそうつぶやいた。その言葉に夏子は、明後日の方向に視線を向けた。
 言えない。とどめを刺したのが自分のアックスボンバーだったなんて。

 が――

「ああ、それやったら夏――」

「しゃらっぷ!」

「へぐっ!?」

 うっかり口を滑らそうとした銀一に、夏子はとっさに自分の靴を投げつける。いらんことバラそうとした不埒者の脳天にヒットした靴は、跳ね返ってそのまま夏子の手に戻った。

「ふんっ」

「……なんか、手馴れてるわね……」

 鼻で息を吐いて、靴を履き直す夏子。その一連の動作に、美神は後頭部にでっかい汗を浮かべてぽつりとこぼした。

「関西人ですから、ツッコミ得意なんです」

「…………」

 そう言う夏子の言葉の方こそ、ツッコミどころ満載だった。今のがツッコミだったのかという疑問と、関西人=ツッコミ得意という図式に対する疑問、どちらを先に口にしようか、美神は判断に困った。

「…………ま、ここでこうしてても仕方ない、か」

 美神は少し考え、とりあえず夏子のことは後回しにしようと判断する。
 そして、横島の隣のベッドで眠る雪之丞にちらりと視線を移し、夏子へと戻す。

「とりあえず……夏子さん?」

「なんですか?」

「ちょっと目をつぶっててもらいたいんだけど、いいかしら?」

「え? どうしてですか?」

「んー……ま、説明が面倒なことするから、かな。映像的にちょっとショッキングだし。冥子、近畿クン、どっちでもいいから、彼女の目、少し塞いでてくれる?」

 そう言われ、冥子は「え〜? なんで〜?」と疑問顔になり、銀一は「はぁ……」と生返事しながら、夏子の背後に回って目隠しする。

「すまんなぁ、夏子。すぐ終わると思うから」

「ん……なんやねん、もう」

 いきなりのことに夏子は不安になり、思わず不満の声が出る。

「それじゃ、愛子」

「はーい」

 そして彼女の視界が隠されたことを確認した美神は、後ろにいる愛子たちに声をかけた。

「雪之丞には『あなたの保健室』で休んでもらうから、そのつもりでね。彼の尋問には、弓さんと一文字――」

 ――そこで不意に、美神の言葉が途切れた。
 そして彼女は、ちらりと周囲を見回し――

「――そういえば、一文字さんは? ついてきてないの? さっきから姿見えないけど」

「あら? そういえば……」

 そこで一同は、魔理の姿がどこにもないことに気付いた。


 ――会場外、駐車場――

「とゆーことで、今からメドーサに捕らわれている白龍会のジャリどもを助けに行くワケ」

 小笠原エミは、事務所の所有するワンボックスの前で、目の前に並ぶメンバーに向かってそう言い放った。
 彼女の眼前にいるのは――

「が、頑張るですケン!」

 先ほど敗退したばかりのタイガー寅吉。

「報酬はきちんと出るんじゃろうな?」

「家賃滞納・三ヶ月・ピンチです」

 先日逮捕されたのに何故かいるカオスとマリア。

「おキヌちゃんのためなら、頑張るしかないじゃないの」

 そして左腕が完全に元通りになっているテレサがいた。
 更には――

「私も協力できればいいんだけど」

 エミの横で、百合子が残念そうにつぶやいた。
 顔は笑っているものの、残念ながら顔色の悪さは隠しきれていない。息子の方とは違い、すぐに回復できるというわけではないようだ。

「……そんな顔色で来られても困るワケ」

「わかってるわよ。大人しく休んでるわ」

 エミの呆れを含んだ言葉に、あっさりと引き下がる百合子。そしてエミは、改めてタイガーたちに視線を向けた。

「それじゃ行くわよ。皆、車に乗り込むワケ。場所は私が把握してるわ」

 彼女が号令をかけると、四人はぞろぞろと車に乗り込む。
 やがて全員が乗り終わり、扉を閉めようとした――その時。


「待ってくれ!」


 大声で呼びかけられ、エミが閉じかけた運転席のドアから声がした方向を見た。

 そこには――

「アタシも……連れてってくれ……」

 走ってきたのだろうか。息を切らせて懇願する、一文字魔理の姿があった。


 ――おまけ――


 その後も試合は順調に消化され、試験は4回戦へと移行していた。

 第1試合のピートvs陰念戦は、陰念の勝利で終わった。バンパイアハーフという種族的な頑健さを持つピートでも、陰念の魔装術のパワーの前には、いささか分が悪かったようである。
 もっとも、吸血鬼としての能力を使えば有利になれたものだが……ピートは頑なにそれを拒否していた。恥ずべき父が傍にいたのが、彼を意固地にさせていたのかもしれない。それが敗因に繋がったというのだから、皮肉と言うべきか何と言うか。

「「って、僕(俺)たちの出番、おまけ扱い!?」」

 ……脇役の扱いなどこんなものである。


 ――あとがき――


Q.先生! おキヌちゃんをもっといっぱい書きたいです!
A.書けるところまで物語を進めなさい。

 とゆーわけで、物語的に大した意味のない(酷)ピートvs陰念をおまけでサラリと流し、予定を繰り上げ次回から横島vsおキヌちゃんです。
 一方、雪之丞は愛子の保健室へ。尋問担当はかおりです。美神の予定では魔理も一緒のはずでしたが、彼女は自身で思うところあって、(無断で)人質救出チームに参加を表明。まだ大した出番のない鬼道とタイガーにもスポット当てたいなぁと思いつつ。

 ではレス返しー。


○1. チョーやんさん
 ユッキーはまた後で勝負挑んでくるでしょうねぇ……横島の次の試合は、さっそく次の話でやることになります。こう御期待♪ ちなみにうちのおキヌちゃんの強化は、まだ発展途上です。というか魔装術は、その下準備にしか過ぎないんですよねぇ……w

○2. 白川正さん
 横島らしさを出しながら白熱させるのは苦労しました。百合子さんは……すいません。もう活躍の予定ありませんw 夏子はこんな感じになりましたー。

○3. 月夜さん
 『らしさ』と『熱さ』を両立させるの、結構苦労しました。だって横島の『らしさ』って、『熱さ』とは対極に位置しますからw

○4. レンジさん
 そう言っていただけると凄く嬉しいです♪

○5. Tシローさん
 一歩も譲れない熱い戦い。でも横島はいつも通り。この微妙なさじ加減が苦労したところです。夏子の恋は……はてさて、どうなることやらw

○6. 山の影さん
 折角深読みしてくださったのに残念ですが、プテラノドンXにそんな秘密はありませんw 華は水晶から出してもらえるまで台詞すらありません。幼馴染三人は、こんな結果になっちゃいましたw おキヌちゃんは……夏子と対面するのは試験終了後でしょうねー(遠い目

○7. Februaryさん
 その横島を一撃で沈めた夏子のアックスボンバーでしたw 人質解放チーム、ようやっと動き出しました。次回以降を見守っていてください♪

○8. マンガァさん
 はじめましてー。感想ありがとうです♪ これからも書き続けますので、続き楽しみにしていてください♪

○9. 枝垂桜さん
 おおっ。確かにそういった事態が回避できますね(←そこまで深く考えてなかった)w メドーサが新人を減らす理由は、本当にありきたりで単純な理由です。たぶん、試験終了までにはサラリと出てることでしょうw

○10. 九龍さん
 PCがやられてたんですか? ご愁傷様です(泣) 横島とユッキーの戦いについては、まさしくそんなダメ超人バトルを参考にしていただければ、雰囲気的には一緒かなーとw

○11. とろもろさん
 まあ実のところ、満たせようと満たせまいと、大差ないんですがねーw 夏子も無事横島と出会えましたし、今後に期待してください♪

○12. ながおさん
 今回の夏子は、印象十分だと思いますが、いかがでしたでしょうかw 勝負の結果が今後どう動いていくか、楽しみに見守っててください♪


 レス返し終了ー。では次回、横島vsおキヌちゃん戦でお会いしましょう♪

BACK< >NEXT

△記事頭

▲記事頭


名 前
メール
レ ス
※3KBまで
感想を記入される際には、この注意事項をよく読んでから記入して下さい
疑似タグが使えます、詳しくはこちらの一覧へ
画像投稿する(チェックを入れて送信を押すと画像投稿用のフォーム付きで記事が呼び出されます、投稿にはなりませんので注意)
文字色が選べます   パスワード必須!
     
  cookieを許可(名前、メール、パスワード:30日有効)

記事機能メニュー

記事の修正・削除および続編の投稿ができます
対象記事番号(記事番号0で親記事対象になります、続編投稿の場合不要)
 パスワード
    

PCpylg}Wz O~yz Yahoo yV NTT-X Store

z[y[W NWbgJ[h COiq [ COsI COze