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「スランプ・オーバーズ!33 (GS+オリジナル)」

竜の庵 (2008-01-16 21:35)
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 「先生。WGCA−JAPANから書類が届いてます」


 オカルトGメンの仕事は多岐に渡る。
 単にオカルト事件だけを扱えばいいと言うものではなく、犯罪の未然抑止という警察の本来あるべき形での活動も不可欠だった。
 大きな事件の前後には必ず小さな事件も起こる。それは更なる大きな事件への前触れ、巨悪に寄り添う小悪党の悪あがきに過ぎないケース等、どちらにせよ看過出来ない。
 魔填楼事件は大きく捉えれば発生地域、規模共に過去最大級の大犯罪ではあるが、個々の魔填楼商品が起こす事件の規模は小さく、それが逆に捜査の足枷となっていた。


 「西条君、今日は本部に詰めてるの? だったら私、少し現場の方に出たいんだけど」

 「はい、分かりました。魔填楼の足取りについて、ドクター・カオスが解析したものらしいですよ、これ」

 「ドクター・カオス…? …イマイチ信用出来ないわね、そのソースは」


 大量の書類に埋もれるオカルトGメン本部・所長室では、そう言ってジト目の美神美智恵が西条の持つ紙切れを凝視していた。
 日本オカルトGメンのツートップ状態である彼女らは、人員層の薄さとも相まって、どちらかは本部にいなければ的確な指示の出せない状況に陥っていた。
 事件は魔填楼関連のものだけではない。それこそ街角で浮遊霊を見かけた程度の通報、息子が悪霊に取り憑かれたと泣き叫ぶ訴え、俺は死んで神の座を得るんだ等訳の分からない雑報…
 事がオカルトであるだけに、民間から上がってくる情報も混沌としている。
 WGCAの日本上陸で、多少は事件発生数も減ってはきたが、まだ劇的にオカルト事件数は変わっていない。モンスター企業の上陸によって変化が現れたのは、他でもない既存GS達だけなのかも知れなかった。


 「………西条君、地図を。その辺に埋まってると思うから」

 「埋まって…」


 美智恵の曖昧な指示に従って西条が堆い書類の束を掻き分けると、関東一円の地図が出てきた。この混沌のどこに何が埋まっているのか把握するくらいなら、最初から整理を徹底すればいいのに、と声に出さず思う西条である。
 書類を見ながら渡された地図に赤ペンでチェックを入れていく美智恵。疲れのうっすらと見える表情に、じわじわと堪え切れない笑みが刻まれていく。


 「…なるほど、ね。帳の設置地域だけじゃない。事件の発生頻度と検挙数の齟齬…へえ、あのカオスさんがこれほど総合的な推理を? …そう、そうね。情報量が桁違いなら確かにこうなる」

 「先生?」

 「西条君。関西方面に散ってる捜査員を全部こっちに回すよう手配して。向こうの線は無いわ」

 「信用出来ないのではなかったのですか?」

 「ロディマス所長のお墨付きだしね。それに、データもきちんとしてる…ドクター・カオス、いつからこんな地味な仕事が出来るようになったのかしら?」


 書類には最初に陰陽の帳が発見されてから現在までの総位置情報や、数百件に登る魔填楼関連事件の詳細な分析結果、それにカオス自らの見解が乱暴な字体で添えられていた。
 忙殺状態のオカGだけでは、ここまで緻密な事件解析は行えない。だからこそGS協会やWGCAに応援を募っているのだが、魔王カオスを擁するWGCAの反応は早すぎる。
 時間をかければ同様の結果はオカGでも出せるだろうが、この迅速な対応は有難かった。


 「これ、協力してくれるGS、皆のところにも回しておいて。情報は共有しないとね」

 「宜しいのですか?」

 「西条君さっきから語尾がハテナマークばっかよー? せっかく事件解決の糸口になるデータが揃ったんだから、もっと喜びなさいな」

 「楽天的な見方は危険だと、貴女に教わってきたんですがね…」


 西条の愚痴に、美智恵は苦笑して書類の山を見渡す。カオスからのデータ提供で、ここにある大半の資料がシュレッダー行きとなった。大分空気も良くなるだろう。
 美智恵は数時間座りっぱなしだった椅子から腰を浮かせ、大きく伸びをして息をついた。どんな形にせよ光明は光明。見通しは良い。


 「忙しくなるわよこれから。でもこういう忙しさはいいわね。ゴールが見えてるのって素敵ー♪」

 「最初からゴールは見えてましたよ。伝馬業天の逮捕というゴールは」

 「ノリ悪いわね、西条君…六道さんに負けてから機嫌悪いんじゃないの?」

 「自分も妙神山に登ろうかと思ってますよ、全く…ま、今の状況で戦線離脱したら先生が過労死してしまいますから。この事件が片付いたらまた考えます」

 「全部終わったらまずは祝杯よ? シロちゃんも取り戻して、全員でね」

 「彼女は…」

 「分かってます。人間を傷つけてしまった妖怪を、元通りの鞘に納める事は難しいわ。でも、悪いのはその人間…の筈だし。私の権限をフルに使って交渉するくらいはいいでしょ?」


 犬塚シロと思しき人狼が、各地で帳の撤去作業員を襲っているのは、もう業界内で周知の事実になりつつあった。死者や重傷者こそ出ていないが、既に警察は捕縛が困難な場合の『処分』も視野に入れている。
 美神が危惧したとおり、人狼族全体に対して、という乱暴なものだ。


 「………恐らく、伝馬は彼女を囮にしているのでしょうね。目立つ風貌のシロ君なら印象に残り易い。あざとい男だ」

 「こんな事をしたら、人狼族以外の種族にまで敵意を向ける人間が現れるわよ。私達も正念場ね」


 危険なウィルスに感染した家畜を厩舎ごと処分するように、決定は為されるだろう。それを防げるのは、双方の立場から物事を推し量れるオカルトGメンしかいない。


 「さ、仕事仕事! 西条君、しばらくは眠れないかもよ!」

 「もー既に二日は寝てませんよ…」


 げっそりと頬のこけた西条は、精力に満ちた上司を恨みありげに見やるのだった。


               スランプ・オーバーズ! 33

                    「蟲動」


 ガルーダ騒動の翌日。
 美神除霊事務所には、更なる来客があった。

 「お邪魔しまーすっ」

 挨拶もそこそこに居間のソファに腰掛け、大きなトランクを膝の上で開いたのは、美神とも昵懇の仲である神族…好奇心旺盛で趣味と実益を兼ねた仕事で毎日をエンジョイしているヒャクメであった。

 「テーブルとかそっちのドアとか、また壊れてますね? 前は六道さんが暴れて壊したって聞いたけど」

 「ほっといて。それより、昨日頼んだことの調べはついたの?」

 「はいはい。でも昨日はびっくりしましたよ。下界から直接妙神山に念話飛ばすなんて」

 天華をアンテナ及びブースター代わりに用いて、美神は昨日妙神山へ連絡を取っていた。
 流石に強靭な結界内に住む小竜姫へダイレクトにコンタクトする事は出来ないので、年がら年中暇そうに修行場正門に張り付いてる鬼門へ高出力の念話をぶち込んだ訳だが。

 「お仕事にはプライド持ってそうな美神さんが、私に助けを求めるなんてねー…」

 「今回は特別よ。身内が巻き込まれてるんだもの、なりふり構って後手に回るなんて醜態、見せられないわ」

 どっかり、としかめっ面をしながらヒャクメの正面に美神も座る。台所ではおキヌがお茶を淹れているようで、ショウチリの声も聞こえていた。

 「私も本来なら人間同士のごたごたにはノータッチなんですけど、小竜姫やんちゃ事件の犯人なんでしょう? その魔填楼ってのが」

 「おキヌちゃんに聞いたわ。全くあの子…下手に心配かけないように黙ってたなんて…というか暴走状態の小竜姫を冥子が抑えたって? 化けるのも限度があるわよ…」

 妙神山で起きた出来事の一部始終を、昨夜美神はおキヌとショウチリから聞き込んでいた。
 冥子と心眼『ころめ』の話から、小竜姫を襲った悲劇、おキヌが小竜姫から聞いた犯人の姿も。

 「神族にちょっかい出したのが、魔填楼の運の尽きよ…くっくっく…小竜姫の看病でまともに調査出来てなかったけど、これで大義名分は完璧。神族調査官として、きっちり落とし前はつけてやるのね!」

 「冥子も心眼との別れがキツかったの分かるけどさ、もう少し詳しく教えてくれててもいいじゃないの…水臭いったらないわ」

 「聞いてますか美神さん!? 私のやる気に溢れる打倒宣言っ!?」

 「あーはいはいだから昨日言ったことは出来てるのかって聞いてんのよ」

 「どーしてこんな扱いなの私…」

 しくしくと涙を流しながら、ヒャクメはトランクからレポート用紙の束を取り出し、ガムテープで補修されているテーブルに載せた。

 「半日程度じゃこのくらいしか調べられなかったけど、概ね分かったのね」

 「魔填楼の潜伏先も?」

 「いいえ。相手も馬鹿じゃないですね。巧みに霊気の痕跡を消して姿を隠してます。ダミーっぽいものもばら撒いて足取りを追えなくしてる…これはどう考えても、私対策!!」

 何故か自慢げに胸を叩くヒャクメの鼻息は荒い。自分が有能であると認識されていることが嬉しいらしかった。美神の目は淡白だ。

 「で?」

 「ううう…私じゃなくても、神族の追跡をかわすための方策を取ってますー…」

 「まあ、当然か。で?」

 「小竜姫の背中に貼ってあった呪符の残骸から霊気的特長を割り出して、私が心眼全開で捜索中なのね。…アシュタロスの時みたいに、世界中の『目』を使わせてもらえれば楽なんですけど」

 「日本国内って絞られてるんだから、必要ないでしょ? 頑張んなさいよ」

 アシュタロス事変の際、ヒャクメは世界中の人工衛星やレーダー設備を経由して心眼の索敵範囲を広げ、アシュタロス一味のアジトを探した事があった。

 「いっぺんに日本全土を見渡すような真似は出来ませんよう…」

 ヒャクメの心眼は霊視は無論の事、いわゆる透視や過去視といった瞳術系霊能力の集大成のようなものだ。情報戦が物を言う現代において、彼女の力を欲しがる人間は多いだろう。

 「いつまでに分かるのよ」

 「今日明日には分かりますよ。まあ、しょせん対神族用の仕掛けといっても、地上で手に入るクラスの霊波迷彩設備には限界があります。このヒャクメ様にかかれば一目瞭然なのね!」

 他愛も無い見落としや単純なポカさえ失くせば、ヒャクメの情報処理能力に隙は無くなる。見落としやポカさえ失くせば、の話で非現実的だが。
 だが、こうしたヒャクメの性格そのものが、一つの安全装置となって働いているのは間違いない。もし美神にヒャクメ並みの心眼が備わっていたらと考えると…その恐ろしさが実感出来る。
 うふふー、と愛嬌のある笑みを浮かべるヒャクメを尻目に、美神はレポートを手にして真剣に内容を眼で追っていく。
 昨日、美神が念話で鬼門と接触し、小竜姫を通じてヒャクメに頼んだのは大別して三つの事だ。魔填楼の所在を一つ目として、もう二つ。

 「………陰陽の帳の秘密、これは本当?」

 「絶対一度は疑うんですよねこのひとは…うう…信用無いのね…」

 全国各地に確認されている、用途不明の誘霊結界『陰陽の帳』。魔填楼印の発生装置で稼動している事から、意味の在り処を巡ってオカルトGメンでも喧々囂々の議論が為されている。
 二種類の結界内部に選別した霊を閉じ込める特殊な閉鎖型結界で、オカルト犯罪で用いられるケースには、悪霊を目標地点で暴れさせるための仕掛け等がよく見られる。
 だが、魔填楼が仕掛けた箇所は寂れた廃工場だとか閉鎖した遊園地、動物園跡地といった人のいない地点ばかりで、意図が掴めないでいた。しかも、何故か結界内部には一匹だけ誘霊基準とは異なる強い妖怪が放置されていたりする。
 魔填楼独自の改造が施された帳の意味を解読できれば、今後の動きも読めるだろうというのが、対策本部の見方だった。

 「美神さんも察しがついているように、この結界は実験装置です。レポートの最後の方に場所は書きましたけど、まだ未撤去の帳が複数あって、私はそこをじっくり霊視したんですけど」

 「よからぬ企みってのは、人気の無い場所でするもんだけどさ…面白みの無い奴ね」

 「本来の発動術式に加えて、独自の呪式が組み込まれてました。帳に呼び込んだ霊を、内部に一体だけ放り込んである別の存在に『馴染ませる』邪法です」

 美神は驚くでもなく、ただひたりと冷笑を浮かべた。心底から軽蔑した、と言わんばかりの仕草だ。ヒャクメも呆れ気味にため息をつく。

 「要するに、霊団の凝縮変異実験場…それらしく言うと、そんな感じの結界ですね」

 吐息混じりの台詞に、美神は沈黙で答えた。対処無し、とばかりに。
 こちらが静かになるのを待っていたのか、おキヌがお茶と茶菓子を盆に携えて現れた。ショウチリのためか、お茶とは合いそうもない一口チョコも用意してある。

 「はいどうぞ、ヒャクメ様」

 「ありがとおキヌちゃん。…上の子達、ぐっすりねー」

 「昨日いっぱい暴れてくれましたから…タマモちゃんの怪我ももう大丈夫です」

 「修行の成果、出たわね。おめでと」

 妙神山での小竜姫暴走事件以降、反動で動けない管理人に代わって、おキヌの修行を見たのは誰あろうヒャクメであった。
 彼女は以前にもおキヌに自らの心眼を一つ分け与え、特訓を施した経緯もあるので、おキヌ的には異論は無かった。
 神域にせよネクロマンサーにせよ…おキヌの能力は誰かに教わる、という事が極めて難しい分野の力だ。逆に言えば、基礎を煮詰めて行けば行くほどその能力は拡がりが持てることにも繋がる。
 場を支配する彼女の霊能力は応用力が桁違いな分、制御にも熟練を要する。ヒャクメ監督の下で、霊力の作用状況を緻密にデータ取りし、分析して修正を施す地道な作業は確実におキヌの力となっていった。

 「小竜姫様とヒャクメ様のお陰です」

 「うむ。組み手でキヌがヒャクメをぶん投げたのもいい思い出じゃな?」

 「えっと…まるで虹のように綺麗な弧を描いておりましたよ?」

 「慰めないで! 出来なくていい部署の人なのっ!」

 とは言っても、最低限の体術訓練は小竜姫にやらされていた。神族の嗜みとして、体を鍛えておくのは必要だと説得されて。渋々納得してから数日間、ヒャクメは全身の筋肉痛が取れなかった。

 「無駄話はいいから。続けて」

 「あ、ごめんなさい。私たちも同席していいですよね?」

 「静かにしててよ」

 お茶を配り終えたおキヌとショウチリも、ソファに座った。ショウは当然のようにおキヌの膝の上だ。

 「気を取り直して、と。帳の実験が何を意味しているのか…魔填楼がオカルトショップであることを鑑みると見当はつきますね。強力で従順な心霊兵器の開発…もう一つ、安上がりに、というプラス要素もありますけど」

 「はん…やってることはまんま南部グループと一緒じゃない? 手段が違うだけよ」

 「周囲の雑霊を集めるだけで、通常兵器では太刀打ち出来ない魔物を作れるとなったら、飛びつく相手は多いでしょうね」

 元々の地盤がしっかりしていた南部グループならばともかく、オカルトで一山当てようと考えるなら相応の予算が必要となる。
 魔填楼の商売はそうした輩の足元に付け込む商業倫理の風上にも置けない方法ではあるが、ある意味合理的で需要も多い。
 どこの世界でも、安価で効果の高い品物には市場が活性化する。中身が何であろうと、だ。

 「目玉商品の開発でもしてるつもりなのかしら、伝馬ってジジイ」

 レポートをおキヌに渡しながら、美神は言った。ハイリスクハイリターンが当たり前のこの業界で、こんな目立つ仕掛けをしていく魔填楼にはほとほと呆れ果ててしまう。
 厄珍堂の仕事っぷりを知っている分、その思いはひとしおだ。

 「何にせよ、帳の底は見えたわ。このレポート、隣にもコピーして届けてくれる?」

 「あ、では私が」

 「チリは機械に強くなったからな。俺はとんと駄目じゃが」

 未だにテレビの操作が精一杯のショウである。

 「で、最後に頼まれた事ですけど。美神さんに聞いた地域はやはり結界で覆われていて霊視が届きません。でも、結界の一部に綻びがありました。誰かが強制的に侵入した痕跡ですね」

 「そう。思ったとおりね…そこは上の連中と……もうちょい、手駒が必要ね」

 「駒って言ったぞ令子…」

 「あはは…」

 美神の何気ない一言に戦慄を覚えたショウは、冷や汗を滲ませておキヌの腕にしがみ付いた。
 時折顔を出す本性というか本音は、けれどショウやチリを身内と認めているからこそだと、おキヌは思うが。気の置けない仲間にしか見せない顔だ。

 「とりあえずこんな所ですね。お役に立ちましたか?」

 「神族で動けるのって、あんただけ?」

 「へ? 何ですか私だけじゃ不満ですか!?」

 多少の期待感を持って聞いただけに、美神の素っ気無い返事は切ない。一晩でやる仕事量じゃないのにぃぃ、とさめざめ涙を流しながら詰め寄るヒャクメの気持ちも分かる。

 「あーもううるさい! 魔填楼みたいなうざったいのを相手するのよ? 使える戦力総動員してハゲ頭の産毛まで毟り取ってやらなきゃ気が済まないのよ! 小竜姫はどうしたのよ? まだ動けないの?」

 「うううう…小竜姫もほとんど回復してますー…ただ、魔族相手でもないのに小竜姫クラスの神族が下界に降りる事はありませんよう」

 ヒャクメは自分のことを棚に上げて、ハンカチで目元を拭いながら答えた。
 人間の揉め事に不干渉の立場を貫くのは、神族も魔族も同様で当然だ。けれど今回の場合、魔填楼は妙神山修行場の内部に手下を送り込み、管理人である小竜姫を暴走させることに成功している。
 過去数百年に渡って、そんな不祥事は全く無かった。
 …まあ、美神が関わった事例は抜きにして、だが。
 小竜姫自身も不甲斐無さを感じている。が、中級クラスの神族である彼女が直接神罰を与えるのは、余りに過敏すぎる。意趣返しにしても方法は選ぶ必要があった。
 ヒャクメの派遣は、一見スムーズに通ったように見えたが様々な思惑と制約の中で決定したことだった。

 「妙神山を侵された仕返しはきっちりしますよ、この私が! 小竜姫にも頼まれましたし! ああ!! この頼られ感が堪らないのねーっ!!」

 自分の体をかき抱いてはーん、と横島みたいな表情を浮かべるヒャクメ。残念だが誰も見ていなかった。

 「よし、じゃあおキヌちゃんは花戸さんと昨日言った事を進めて。しばらくはこっちにかかりきりになるから、向こう一週間はスケジュール白紙にしといてね。人工幽霊一号! ガルーダ達を起こしてこっちに来させて。ここからはスピード命よ!」

 「あ、はいっ!」

 『既に長男兄弟は目覚めておられます。今、呼びますので』

 ぱたぱたと慌しく動き出し、ソファに取り残されてしまったはーん状態の神族様は、しばしそのままで佇んだ後。

 「…………もう、疲れたのねこんな人生……」

 また、はらはらと涙を零すのであった。


 東京デジャブーランドはデジャブーマウンテンの開園もあって、内外の警備体制がより一層強化されている。
 収容人数が倍に膨れ上がったからといって、不審者が入り込む隙間まで倍増していては元も子もない。
 園内事故数ゼロをモットーに、警備を委託された会社では大人数をそれとなく配備して毎日の夢を守っていた。

 「北地区異常無し。宮田と増本はこのまま外周部の警備に入ります」

 『中央了解。毎晩の花火も流石に飽きたよなー』

 「顔に出すなよ。ここの社長、煩いからな」

 『あいよ。北門付近に不審な影は無し、と。さっさと出て行け』

 「了解」

 一般客に扮した警備員の宮田は、無線を切ると同僚の増本を伴って人波からそっと離れ、スタッフオンリーの入口から外周部へ通じる門を開けた。
 人の歓声が壁の内側からびりびりと伝わってくる。ランドの目玉アトラクションであるグレートウォールマウンテンからは、怒号と悲鳴が。聞き慣れたものである。

 「じゃ、俺右回りな。お前は左」

 「うっす」

 増本と別れた宮田は、内部とは打って変わって殺風景な外周部をのんびりと歩き出した。
 ランドの外縁は等間隔で非常口が設置してある他、資材の備蓄倉庫、搬入口も設けてある。設備の総括管理を行う地下部分への入口もあり、警備対象としては上位に位置する重要区画だった。

 「………おー。また新しいアトラクションやるんだな」

 毎日警備を行っていると、一般人よりも先にそうした情報を入手する日もある。厳重な緘口令が敷かれているので、他に洩らすと罰金ものなのだが。
 宮田はずらりと並べて置いてある石像群を見上げて、目を細めた。

 「マウンテン側のだろうなこりゃ。ランドとは色が合わねえし」

 ランドのアトラクションはもう飽和状態で、新設するには既存のものを削るしかないという話だ。ランドで最新のアトラクションは美神令子監修のミステリーツアーで、事故後に施設の見直しを行い、再開に漕ぎ付けた。投資額の大きい施設なので、どうあっても回収したいようだ。

 「変なタイミングでもってくるなあ…先月の開園時に間に合わなかったのか」

 昨日の時点では無かったそれらの石像を数えながら、宮田は見回りを続けた。人型に鳥型、狼のような獣型のものもあり、これらが一体どんなアトラクションで使われるのか想像もつかなかった。
 全部で二十四体の石像群は、不気味な存在感を放って宮田の足を早めさせる。

 「…っと、うわこれ何だよ…こういう仕様なのか?」

 が、一体の石像の前で、宮田は眉を顰めて呟いた。

 「悪戯書きか…? でも新しくはないなあ…納入前から書かれてるよな、これ」

 宮田はその人型の石像の胸元に手を当てて首を傾げる。
 自分のような警備員が気にすることではないけれど、それは余りに石像の持つ迫力から浮いていた。


 「………カエル、だよなこの絵」


 その石像の胸元には、黄色いカエルの絵が描かれていた。


 続く


 後書き
 竜の庵です。
 ヒャクメはチート仕様の強さだと、作者は思うのです。特に人間相手では彼女の凄さは際立つかと。
 カオスにヒャクメ、この反則二人組(当SSでは、ですが)が相手では、生半可な仕掛けや罠は通用しそうにありません。パワーバランスが難しい! 頑張れ魔填楼!


 ではレス返しです。


 February様
 おキヌの帰還でようやく半分、といったところです。残りは馬鹿師弟コンビに危うく忘れそうになっていた改修マリア、冥子が卒業してもけっこうな大所帯ですね。
 伝馬翁と美神の対決は…どうしよう。今回、美神の立ち位置が少し微妙なのです。子供のケンカに親が出るような印象に近い。シバキ倒して終わり、なら話は早いのですが。一応シロタマ編でもあるので…決着は、そちらに。
 口止めですよ? 封じたってまた開くかも知れないし。止めというかとどめ?
 ガルーダ同士で話が伝わればいいので、人間に化け直して長兄に抗議する必要はない、と言いたかったのですが分かり辛いですね。失礼しました。
 February様は良い年末年始を過ごされましたか? 作者は寝正月堪能しましたが! 初詣って美味しい?


 月夜様
 明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
 美神の価値観は極めて現実的で打算的で、でも表向きのそうした非情さに徹することが出来ず、ぽろぽろと仲間を思いやる気持ちであるとか、愛情っぽい優しさが見え隠れしてしまうのでは、と。コドモ大人。
 今回、魔填楼の動きはじわじわっとしか出していませんが、逆転! とか痛快! って感じにはならないような…作者的には、詰め将棋な気分で書いているのです。シロの事もあって湿っぽい雰囲気が流れていて、正直早く終わらせたいですよう。


 以上レス返しでした。有難うございます。


 さて次回。魔填楼対GS・GC連合の本格的なバトルが始まります。もうしばらくお付き合い下さい。魔填楼編の後はスピンオフ2の予定です。早く終われっ。


 ではまた。


 最後までお読みいただき、本当に有難うございました!

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