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「GS横島!? 幸福大作戦!! 第三話」

チョーやん (2008-01-08 02:27/2008-01-11 23:44)
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 ザアアアアアアアアアアァァァァァァ………

 外は相変わらず雨が降り続いていた。

 室内にはじっとしていても汗ばむ湿気が漂っており、肌にべた付くシャツが余計に不快感を呼ぶ。

 わずかに西日が差し込む部屋の中を黒皮のズボンに黒の皮ジャン、そしてTシャツまで黒と、
全身黒尽くめの少年らしき人影が辺りを窺っていた。

 その黒一色の中、額に巻いた真っ赤なバンダナがアクセントになっている、
又、手にハメた指なしのグローブには、手の甲とナックルの部分に鈍い銀の光が見えた、
恐らくは、鉄板の様な金属を仕込んでいるのであろう。

 バンダナから頬を伝い汗が流れる…少年は正直な処、羽織ってる皮ジャンを脱ぎたいと思ったが、
これが身を護るのに重要な役割を果たしている以上、そういう訳にもいかなった。

 事実、少年の皮ジャンには所々に金属の光沢が見えるし、
時折見える裏地にも、お経の様な文字が刻まれていた。

 又、穿いているズボンには、膝から脛にかけて覆う黒いプロテクターが装着されていて、
更に足に履いた靴は、これまた頑丈そうなブーツ(コレも恐らく鉄板仕込み)である。

 まるっきり何処ぞの格闘系ゲームキャラの様な出立ちだが、
これが少年の仕事に挑む際のスタイルである。

 薄暗い室内をゆっくりと眺める、どうやらココにはいないようだと判断すると部屋のドアを開け廊下に出る、
ギシ…ギシ…と、不気味な軋みを上げる床を気にすることなく次の部屋へと向かう。

 すると廊下の奥からナニか白いモヤのようなモノが見えた!

「!…先生! こっちです!!」

 それを見た少年――横島が自分の師事する人を呼ぶ、
だがそれは“白いモヤ”の注意も呼び、こちらに近づいてくる。

 横島はそれを見て戦闘の構えを取った。

 その直後、バタバタと廊下の足音が背後から聞こえ、足音の主が横島に声を掛ける。

「よく見つけたね、さ、後は任せて下がっていたまえ」

「先生ぇ……いい加減信用して下さいよ…前衛くらいできますって」

 横島は少々うんざりした声で先生と呼んだ人物――唐巣神父に言う。

「しかしだねぇ…まだ資格も持ってない者にそういう危険な事は…
大体この屋敷の探索だってやらせたくなかったのだよ?」

「先生だって俺の実力は知ってるでしょう? 装備だって充実してきているし…
それに、そこいらの二流三流のGSにも負けない程になってるって言ってくれたのは先生じゃないですか」

「いや、それとこれとはねぇ…「二人共! 来るわよ!!」…っとお!」

 それまで言い合っていた師と弟子の間を割って声と共に炎が白いモヤ――悪霊に向かっていく。

『グギャアアアアアアアア!!』

 叫び声を上げる悪霊…だが消滅するには至らずギロリと炎の投げ付けた相手を見る、、
九房に分かれた金髪を肩までの長さに揃えた小学生高学年くらいの少女――タマモを睨みつける。

「キャッ、お兄ちゃん怖〜〜い♪」

 タマモはわざとらしく聞こえる悲鳴を上げ、横島の後に隠れる。

「お前なぁ…いい加減そのわざとらしぃ真似は止めろといつも…っつか、何時来たんだ?」

 呆れた目線をタマモに向け文句を言う、だが注意は悪霊から逸らしていない、
そして神父に向かって言う。

「俺が動きを止めますから、先生は止めを!」

 そう言うと右手に栄光の手を発動させて、悪霊にかざす。

「栄光の手、第二形体! ≪縛霊糸(ばくれいし)≫!!」

 横島が叫んだと同時に栄光の手の五本の指先が、まるで糸のように伸びいく、
そのまま五本の霊力の糸が悪霊に絡みついていく。

『グウウウウウウウウウウゥゥゥゥ』

 悪霊は唸り声を上げもがくが、その糸は外れそうになかった。

「先生っ!!」

 師を呼んだ時には、すでに祈りの詠唱を終えようとした神父の姿があった。

「――父と子と精霊の名の下に…悪霊よ! 退け!!」

 神父が目の前の空間に描いた五方星に向け、力を込めた右腕を突き出すと、
その突き出した右手の掌から霊力のエネルギーが放出され、悪霊に向かう。

『ギャアアアアアアアアアアアァァァァァァァァ!!!』

 身動きもとれずに直撃を受けた悪霊は絶叫を上げて消滅していった。


 その後、屋敷をくまなく探索しこれ以上の悪霊は存在しないと分かると、浄化の為の御札を貼り、
依頼主――この屋敷(別荘)の持ち主で、悪霊が憑いて困っていたと言う――に報告し、報酬を受け取った。


 尚、横島の装備品や栄光の手については、別の機会に語る。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


                     GS横島!? 幸福大作戦!!
                       第三話『妖怪GSタマモ!?』


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「タマモ……それは俺のだぞ? お行儀が悪い子になりたいのか?」

「成長期の妹に少しぐらい分けてあげようと想う心遣いはないの? お兄ちゃん」

 そう言い合いながらも箸を動かす手は止まることは無く、それどころか互いの箸を牽制し合っているのだ。

 梅雨の湿気が鬱陶しい六月の中旬、横島とタマモは夕食を自宅のボロアパートで摂っていた、
先程終えた除霊の仕事でもそうであったが、その姿はどこの家庭でも見られる仲の良い兄妹に見える、
しかし、この二人は血の繋がった兄妹ではないのだ。

 タマモがこっちに来てからは大変だった…と、その時を思い出したのか、横島はうんざりした顔をする。

 あの後、どうやって過去に来たのか追及した横島はその答えを聞いて唖然としたものだ。

 タマモ曰く――『マリアの中に封じ込めさせてもらっちゃったの』

 つまりは、かつてタマモ自身が殺生石に封じられていた経験(?)を活かし、
マリアの中にあるメタ・ソウルと同調させて封じ込めさせてもらったとの事。

 もっとも、それをやれば元の姿に戻るのに時間が(数十年単位)かかるそうだが…

 そしてカオスがマリアに魂の波動をリンクさせる装置を埋め込み、横島の魂の波動に合わせて、
カオスとマリア、タマモがリンクで同調し、過去へと戻る横島に引っ張ってもらった…
これがタマモの答えだった。

 その答えを聞いて、なんて無茶を…と思ったものであった、成功する保障はなかったしなにより横島自身、
失敗しかけたのだ、そしてこうも思った…何故消滅していく俺を追跡できたのか…と。

 それに対するタマモの答えは『う〜〜ん…説明されたけどよく分かんなかった』だそうである。

 どうやら文珠で若返った時に作った装置らしいのだが…それにしても、マリアの『メタ・ソウル』といい、
件の装置といい…一体どうゆう仕組みになっているのかトコトン聞いてみたい気もするのだが…
恐らく自分の頭では理解不能な数式や専門用語が飛びまくるであろう事は容易に想像できた。

 恐らくあの時カオスに電話口で聴いていれば、その辺りの事を延々と説明されたであろう…

 それにしても、とその時思ったのだったが…『何故、おキヌちゃんも一緒にそうしなかったのか?』…と。

 その問いにタマモは呆れた目線を送ってこう言ったのだ。

 『あのねぇ…装置が発動する際はマリアの側にいなければならないのよ? 
 身体を残して魂だけが逆行するんだからみんなの記憶には残るのよ…
 マリアの側に横たわる老人と若い女性の遺体…残されたみんなはどう思うかしら?』

 タマモのその言葉に横島は心底嫌そうな顔をした、そう、状況だけを見ればまるっきり無理心中だ、
はっきり言って無茶苦茶不愉快である、しかも自分は消えてしまっているのだから尚更だ。

 『それとね、それが主な理由じゃないわ…それはカオスから説明を聞いた後の事なんだから…
 おキヌちゃんはね、横島と同じ方法で着いてきたかったのよ…たとえ自分がみんなから忘れられてもね…
 それにしても横島ってば、ほんっと愛されているわよね〜〜♪』

 途中までは神妙な顔をして話していたタマモだったが、最後にはからかうように茶化したのだった。

 横島はその言葉を軽くあしらったが、内心ではおキヌがそこまで想っててくれた事に深く感激していたのだ、
そして同時に申し訳なくも想う…自分の為に彼女に元の世界を捨てさせたのだと。

 丁度自分の時とは逆だな…と思った、状況は違えど彼女は世界と自分とを天秤に掛け、
自分を選んでくれたのだ……それにひきかえ自分は……

 彼女の為と思って実行した事だったが…自分自身認めたくないのだが、
おキヌの為と偽って自分の為に実行したのではないかと…
あんな事になってしまい、そこから逃げる為にしたのではないのかと…

 そこまで考えた瞬間、パンッ! と渇いた音がして視界が右を向く、
更に左頬にはジンジンとした痛みと一緒に熱を帯びてくるのを感じた、
そしてタマモが右腕を振り切った姿勢でこちらを睨んでいる。


―――タマモに引っ叩かれた―――


 横島がそう理解した瞬間、タマモは両手で襟首を掴み、引っ張り上げ――ようとして身長差でできず、
引き寄せる形になったものの、それにかまわずタマモは叫んだのだった。

 『…いい加減にしなさいよね!! アンタが何を考えてるか大体想像つくけどさ…
何の為に私達が着いて来たと思ってんの!? 自惚れんじゃないわよ!!!

 そう叫んだタマモの眼には涙が浮かんでおり、今まで見たことも無い形相で横島を睨みつけていた。

 そして呆然としたままの横島にかまわずタマモは掴んでいた手を離し、
前傾姿勢のままの横島の身体にそっと両腕を回して抱きつき、
そのまま横島の胸に顔を埋めた。

 『アンタがそんなんだから…おキヌちゃんが苦労するんじゃない…アンタがそんなんだから…
 放っておけないんじゃない…もう…自分を責めないでよ…いい加減自分を……許しなさいよ…』

 横島の胸の中でしゃくりを上げながら囁くように言うタマモ……すすり泣く彼女の言葉を受け、
ようやく自分を取り戻した横島は、タマモの両肩に手を置き…静かに抱き締める。

 『ごめんよタマモ…そして…ありがとう…』そう言いながらタマモの細い身体をギュッと抱き締める…
その瞳には先程までの自虐的な雰囲気はなく、感謝と慈しみの色が浮かんでいた。

 しばらくはそのままの姿勢で抱き合っていたが、やがてタマモが泣き止むとそっと身体を離した。

 まだ少ししゃくりを上げているタマモだったが、眼を赤く腫らした彼女に横島は、すまなかったなと詫びる。

 『か、勘違いしないでよね!? アンタが何時まで経ってもウジウジしてるからよ!!
 そ、それにねぇ…アンタが…横島がこのままじゃ、おキヌちゃんが可哀想じゃない…』

 前半は赤く腫らした瞳以上に顔を真っ赤にして声を上げ、後半はつぶやくように顔を俯かせて言う。

 そんなタマモの様子を慈愛の眼で見つめていた横島だったが、ふと気になった事を聞いた。

 『タマモは何故そこまでして着いて来てくれたのか?』と…恐らくは恋愛感情ではあるまい…
それは横島もなんとなく理解できていた…それではなんであろうか?
これも恐らくではあるが仲間意識…もっと言えば家族に対する感情に近いのではないのか?
そう横島は考えていた、だが、それだけにしては……

 『あ・の・ね! さっきも言ったでしょ? 放っておけないって…それにね、横島やおキヌちゃんが居ない
 世界なんて私には意味がないの…忘れたの? なんで横島の事務所に着いて来たのか…』

 あぁ…そうだったなと、タマモの言葉にそう返した横島であった。


 それからが大変だった、タマモの処遇をどうするかである、
まさか唐巣神父に『金毛白面九尾の狐』が甦ったなど言える訳がなかった、
幸い妖狐は他にも存在しておりそれを保護したと言えばいいであろうが…

 タマモは、過去に来て直ぐに殺生石の中の自分と融合し、その場で復活できたと言う、
東京の横島の家までは、狐の姿で列車やトラック等に便乗してやっと東京まで来たとの事。
 だが、狐の姿のままだったので近所の野良犬から追い掛け回されてしまい、
ようやく横島のアパートまで着いてから幻術で野良犬を撒いたと語った。

 なんで俺の部屋のカギが開けられたんだ? と横島が聴くと、タマモはいたずらっぽい笑みを浮かべ、
ポケットから取り出したのは、奇妙に曲がりくねったハリガネであった…

 何処でそんな技を…と疲れたように聴くと、今度は小悪魔的な笑みでこう答えたのだった。

 『いい女には秘密の一つや二つはあるもんよ♪』

 そう言ったタマモの顔は素敵に魔的であった。


「隙あり!!」

「…ぬおっ! っく、しまった…」

「へへぇ、考え事なんてしてるからよ♪」

 タマモの言う通り、再会した二ヶ月前の事を思い出していた為、オカズをとられてしまったのだ。

「お兄ちゃんの事だから、又心配事でもしてたんでしょ?…何を考えてたの?」

「…お前から『お兄ちゃん』と呼ばれる破目になった時のことだよ…」

「あぁ、お養父さんと、お養母さんがこっちに来た時の事ね……やっぱりそんなに嫌だった?」

 タマモは不安気にそう言った…お箸の先を銜えて上目遣いに横島を見る。

 横島はそれを受けて「ぐはぁっ!」と声を上げ、そして「萌えちゃダメだ、萌えちゃだめだ、萌えちゃ…」と、
うわ言のようにそう繰り返してしまっていた…その間にタマモからもう一つオカズを盗られているのだが…

「いや! そんな事はないぞ? ただなぁ…タマモが俺の義妹になる切欠になった言葉がな…」

「あぁ…あのこと?」

「そうだ、まさかタマモがあぁいう事を言い出すとはな…」

「いいじゃないの、元の時代じゃ私はお兄ちゃんの『保護妖怪』だったんだから…
従業員として扱って貰っていたけど…やっぱりちゃんと自分で生きて行きたかったし」

 タマモのその言葉に横島も頷く、そう、タマモが『保護妖怪』として認識されGSに保護されている間は良い、
だが、横島達のように理解あるGSにこれからも保護されるという保障はないのだ。

 それ故にこそタマモは欲しがったのだ、自分の足で生きて行く為の証明が…
本来、妖狐は本能的に力の強い者(権力者等)に保護を求める傾向にあるのだが、
今のこの時代、もはやそれは当てはまらなくなっていたのだ、
だからこそ横島が自分の処遇を考えている時に希望したのだった。


 曰く――『私もGSになりたい』――と…


 それを聞いた横島は最初何を言われたのか分からない様子だったが、
その後タマモの考えを聞いて『なるほど…』と思ったのだ。

 元の時代でもそのことで頭を悩ませていた横島だったが、それが叶えばその問題は解決するのだ。

 だがそれを実現する為にはいくつかの障害を乗り越えなければならない。

 第一に戸籍、人間社会でこれがなければまともな職業には就けないのだ、
無論、裏の仕事というのもあるが、そんな物にタマモを就けさせたくなかった。

 第二にタマモが“妖怪として認識”されるのを避けなければならない、
人間社会で一度そう認識されてしまったら、払拭するのは不可能に近い、
所詮、人間は人間以外の者を排斥したがる傾向にあるのだ。

 第三にタマモの事情を理解し支援してくれる大人の存在、
これは無論タマモがGSとして続けて行く為には、周囲の理解が必要なのである、
周囲の大人達がタマモを受け入れ、応援してくれれば更にその輪が広がるのだ、
そしてそれはタマモが社会に受け入れられる事に繋がっていく事になる。

 第一の問題は置いておくとして、第二と第三の問題は密接に繋がっている、
だが横島はそれについてはそれほど心配していなかった、
横島の知るGSや関係者達は皆、理解ある人達ばかりなのだ、
第一印象さえ間違えなければそれほど問題ではないであろう…無論油断は禁物だが。

 第二の問題の解決策としてタマモを“妖怪の先祖帰り”とすれば問題ないであろう、
なにしろ平安最強の陰陽師として有名な安倍晴明の母親も、元は妖狐だと言われているのだ、
だが、これは第一の問題をクリアする上で密接に関わってくるのだが…


 そこまで考えていた横島は…『やっぱ親父達に頼むしかないか…』と眉をしかめて電話の受話器を取る、
どの道、神父に語った話の口裏を合わせる必要もあるのだ、背に腹は換えられないであろう。

 そこからが更に大変だったのだ、なにしろ親には内緒でGSの弟子入りを決めて、
尚且つGSになる事とタマモの戸籍まで頼んだのだから。

 電話口では散々母親の百合子に怒鳴られ、父親の大樹からは呆れた声で説教されたのだ、
そしてタマモの事を頼む時、両親は『一度会ってから判断する』と言い、一時帰国する事を告げたのだった。


「……あの時はホント、大変だったよなぁ…お袋からはいきなりぶん殴られるし、
親父は親父でタマモにいきなり抱きつくし…直後にシバかれてたけど」

「あら? 良いご両親じゃない? 元の時代でもそうだったけど、
私の事を気に入ってくれたし」

「そりゃそうだけどさぁ…俺がGSを目指すのを説得するのは骨が折れたよ…
あのお袋に睨まれた時は内心ビクビクもんだったさ…」

「いいじゃない、結局認めてくれたんだから…それにしてもさぁ…」

「なんだ?」

「私の事を紹介する時に『野犬に襲われてた所を助けたら、狐の妖怪だった』ってのはないんじゃないの?」

「しょうがないだろ? それが一番無難なんだから…でも、お前が妹になるとはなぁ…」

「まぁだ言ってる、そんなに気に入らなかったの?」

「そうじゃないさ、ただ、俺の知らない内にそう決まっちまったのがなぁ…」

「アラ? それこそ一番無難じゃないの、お母さんも『娘が欲しかったのよ』って喜んでたし」

「……親父の方がもっと喜んでたがな…俺に向かって『お前はもういらんぞ』なんて言いやがるし…」

 横島はその時の事を思い出し、憮然とした顔をする…
間違っても、実の息子に言う台詞じゃないだろうと思うのだ。

まぁ、父親なりの愛情表現なのだろうが…
やっぱり何かが間違ってると思う横島だった。

 結局タマモは、日本のとある施設から引き取った孤児ということにしたのだ、
先祖帰りで狐憑きになり、妖狐と同じ能力を持った為に預けられたということにしたらしい。

 日本では色々と不都合があるのでは? と思った横島だが、
母の百合子が、勤めていた会社に根回しをしてもらったとの事…
どうやったのかは気になるが、聞かない方がいいと判断したのだった。

 そして色々と手続きが終わった後、両親からはこのアパートを引っ越さないかと言われた、
しかしココを出れば小鳩一家との接点が無くなるし、そうなれば貧乏神に憑かれたままになるのだ。

 接触を図る方法もないではないが、やはり不自然にならない方がいいと判断したのだ。

 引っ越しを断る横島に、両親は訝しげな表情をした、思えば帰国して再会した時…いや、
電話で話しを聞いた時から思っていたのだが、息子の変わり様に驚くと同時に訝しく思っていたのだ。

 一応は息子から神父に語ったと言うのと同じ内容の話しを聞かされたのだが…
神父同様、この両親も急に男の表情(かお)になったこの息子に対して思ったのだ、
間違いなく語った話以上の事が息子の身に起きたのだと…

 いつもの息子であれば百合子の一睨みで震え上がり、聞かれないことまで喋るのだが、
驚いた事に『どういう事なの?』と意味を込めて睨み付けた百合子の視線を受け流したのだ。

 そして驚いた表情の二人に横島はこう言った。

 『いつか必ず話すから今は待っていて欲しい』と…

 いつのも百合子であれば、そんな息子の言葉など戯言として切って捨てたであろうが、
真剣な面差しの息子の、その大人びた物腰と雰囲気、そして男としての表情(かお)…

 両親共、しばらくはそんな息子の顔を見ていたが、やがて何かを察したのだろう…
大樹は息子の肩を叩き『分かった…』と一言だけ言って息子を見やり、
百合子は『ちゃんと話すのよ?』と睨みつけて言ったが、やがてフッと表情を笑顔に変えた。

 そして二人共、なにかあったら何時でも連絡しなさいと言ってくれたのだ。

 横島はそんな両親の心遣いの深く感謝した、
そして今は語ることが出来ない事を心の中で詫びたのだった。

 そんな横島に、後で親子三人の様子を窺っていたタマモが、横島の前に回ってこう宣言した。

 『これからよろしくね? お兄ちゃん!』

 その言葉に思わず硬直してしまった横島…

 一方のタマモは悪戯が成功した子供のように笑い、
両親はそんな二人の様子を朗らかに見守るのだった。

 それから新しく一家となった四人は、唐巣神父の教会を訪れた、
タマモを紹介し、事情を説明して子供達をよろしくお願いしますと頼んだのだ。

 タマモの戸籍を取得すると同時に、タマモには小学校に通えるように手配した両親は、
学校に通う事を渋るタマモに『コレもGSになって社会に受け入れられる為』と説得し、
息子にはタマモの養育費等も振り込むと伝えた。

 正直な処を言えば、両親は息子共々一緒にナルニアに着いて来て欲しかったのだが、
息子の決意と、娘となったタマモの希望を聞き、今の息子なら大丈夫だろうと諦めていた。

 一方、子供二人を預かる形となった唐巣神父は横島夫妻の願いを聴き、
日本での息子達二人の保護者になることを快く承諾したのだ。

 タマモの事情を聞いた時は驚きを隠せない様子だったが、これも主の導きと思い、
タマモが人間社会に受け入れられるよう協力を惜しまないと宣言してくれたのだ。


 そこまで思い返していた横島は、自分がいかに恵まれているのかを再度実感していた、
元の時代の彼等を思い、深く詫びると共に二度と過ちを繰り返さないと改めて誓うのだった。

「なぁ? タマモ…」

「ほぇ? …ンク…なぁに?」

 横島の呼びかけに、口に含んでいたモノを飲み込んで聞き返す。

「俺って…ほんっとに何も分かっちゃいなかったんだなぁ…」

「……何の事を言ってるか分かんないけど、お兄ちゃんのバカさ加減なんて今更じゃない?」

「ひっでぇなぁ…これでも反省してるんだぜ?」

「どうだか……お兄ちゃんのソレは筋金入りなんだから…だからみんなが心配するのよ…」

 タマモのその言い様に横島は「ハハ…」と乾いた笑いをこぼしたが、
ふとその言葉が気になって、タマモに尋ねた。

「なぁ…タマモ…」

「…今度はナニよ?」

「もうお前達以外にこっちに来た者は居ないだろうな?」

 横島のその問いに一瞬だけハッとした表情をしたが、直ぐに思わし気な笑みを浮かべた。

「ウフフ……さぁね♪」

「さぁねって……まさか他にも!?」

「秘密よ、まぁ、居るかどうかはその内分かるんじゃない?」

「……オイ……」

 タマモのその思わせぶりな態度に、横島も流石に剣呑な顔をする。

「そんな顔したってダメよ、仮にそうだとしてもお兄ちゃんに文句を言う資格があると思ってんの?」

 そう言い返されて、横島は「う……」と言って俯く、痛い所を突かれたのだ。

「さっ、そんな事よりさっさと食べちゃって? 片付かないんだから」

 タマモはそう言うと食事を再開するのだった、横島も納得がいかない顔をしていたが、
義妹のその様子に何を聴いても無駄だろうと夕食の残りをかきこんだ。


 カチャカチャと台所から皿を洗う音が聞こえてくる、横島は寝そべってTVを観るとはなしに見ていた。

 最近では慣れてきたものの、家事をするタマモに大きな違和感を覚えていたものだった。

 先程の言葉は聞き捨てならないのだが、問い詰めた処で話はするまい…
それ処か逆撃を食らうのがオチだろう、いずれは分かるのであろうから。

 とりあえずはその事を頭の片隅に追いやり、改めて台所のタマモを見やる。

 タマモが家事をすると言い出したのは両親が帰国してきた時に、
夕食を何処かで摂ろうと大樹が言った時だった。

 家族になった記念に私に作らせてと、親になったばかりの両親に言い出した時は、
横島は『天変地異の前触れか!?』と思ったものだったのだ。

 それほどに元の時代では家事等しなかったのだ、もっともそれは横島も同様だったが…
何しろ、家事の一切を取り仕切っていたおキヌが極めて優秀な家事万能者であったからだ。

 流石に部屋や事務所の片付け等は手伝っていたのだが、
それ以上は手を出す余地が無いほどであった。

 故にこそ、そんな事を言い出したタマモにこっそりと『大丈夫なのか?』と聴いたのだ。

 その問い掛けにタマモは『おキヌちゃんから一通りは仕込まれた』との事。

 実は横島も気が付いていなかったのだが、元の時代でも時々タマモが食事を作っていたのだ、
おキヌに仕込まれたとは言え、タマモが作ったとは思えない程に遜色がない出来であり、
何も知らずに『今日も美味しいよ』と幸せそうに言う横島に、おキヌとこっそり笑い合ったのだ。

 正直、何時バレるかとも思っていたのだが、一向に気付かない横島に、
いつかはバラしてその事をおキヌと笑ってやろうと思っていたとの事だった。

 その時の夕食は家族四人で囲む初めての一家団欒であった、
両親はタマモの夕食の出来栄えに驚いてそれぞれこう口にした、
百合子からは『これなら何時でもお嫁に行ける』と絶賛し、
大樹からは『忠夫に食わせてやるのがもったいない』と言い、
百合子の言葉に『絶対に嫁にはやらんぞ!!』とまで言い出したのだ。

 そんな両親の反応を余所に、横島は内心の動揺を抑えようと必死だった、
確かに元の時代では微妙な味の違いに気が付いていたのだが、
毎日作っていれば誤差の範囲と思い、特に気にしていなかったのだ。

 何しろ、タマモが食事を作るというイメージが湧かなかったのだから無理はなかった。

 だが、横島としては愛する妻の作る料理と違う事に気付けなかったのは、
夫としてかなりショックな事であった。

 そんな思いが顔に出ていたのか、夕食が終わり、両親が予約していたホテルに向かった後、
それを玄関で見送ったタマモが横島にこう尋ねたのである。

 『私…余計な事をしちゃったかな?』

 申し訳なさそうなタマモの様子に、横島も表情を和らげて『そんな事はないよ』と頭を撫でたのだ。

 タマモは悪くは無い、ただ、自分が迂闊だっただけだと、自嘲気味にそう言う横島に、
『ほら! 又自分を責めてる!!』と撫でられながら膨れっ面になったタマモの様子を見て、
苦笑しながらそっとタマモを抱き寄せた。

 それから少し驚いた顔になったタマモに、責めてる訳じゃないよと言い、
撫でる手を止めることなく続けてこうも言ったのだ。

 『タマモ…ありがとうな…』と。

 『べ、別によこし…お兄ちゃんの為にした訳じゃないんだからね?
 ただ、私だってやる時はやれるんだって証明したかっただけなんだから…』

 横島の言葉にそっぽを向いてそう言ったタマモだったが、抱き寄せられた身を離す事はなく、
又、撫でられる手も払いのける事はなかった。


 ――そっぽを向いた為、耳が真っ赤になってる事がバレバレだったのは横島だけの秘密だった――


 その事を思い出し、思わず笑みがこぼれる横島だったが…
不意に視線を感じ、台所に眼を戻すとタマモがこちらを見ていた。

「何よ? ニヤニヤ笑っちゃって…又スケベな事でも考えてたんでしょ?」

「そんなんじゃないよ……ただ…」

 最初に出会った頃とは随分変わったんだなと、そう告げる横島にタマモもこう言い返した。

「なぁ〜〜によっ…お兄ちゃんだって随分変わったじゃない、
以前はあんな真っ黒な服なんて着なかったでしょ?」

「変わった訳じゃないさ…あれは…戒めだよ」

「……戒め?」

「そう戒め……あ、勘違いするなよ? 別に深い意味はないんだ、ただ、
二度と過ちを繰り返さない為の戒めなんだ、言わば誓いみたいなもんかな?」

 そう言う横島の顔には、今まで陰鬱になりがちだった彼とは違った表情が浮かんでいた。

 それを見たタマモはちょっと以外そうな顔をし、やがて何かを思いつくと横島にこう告げたのだ。

「ね? 明日も除霊の仕事が入ってたでしょ? 私はちょっと遅れてくるからね」

「ん? どうかしたのか?」

「いいから、楽しみに待っててね♪」

 そう言ったタマモの顔は…まるっきり見た目の年齢相応の無邪気な笑顔になっていた。


◆◆◆


 翌日、予定されていた除霊現場に到着した唐巣神父と横島の師弟二人は、
遅れてやってきたタマモを見た瞬間……思考が完全停止していた。

「あ〜〜……た、タマモさん……その格好は一体ナンデセウカ?」

 なんとか自分を取り戻した二人の内、義兄である横島が尋ねた、
……もっとも語尾が片言になってしまったのだったが……

 一方尋ねられたタマモは、よくぞ聴いてくれましたと言わんばかりにこう言ったのだ。

「エヘへ〜〜♪ 似合うでしょ? お兄ちゃんとお揃いの色にしたの、
これからはこの格好で除霊手伝うからよろしくね? お・に・い・ちゃ・ん♪」

 そう、確かに色は横島と同じく黒一色だったのだが、その姿はフリルがふんだんに使われており、
くるりと回るとヒラヒラのスカートがフワッと舞う服装だったのだ。

それは所謂――ゴスシックロリータ――通称『ゴスロリ』と言われる服だったのだ。

 一方の横島は義妹からそう宣言されても口をパクパクと動かすばかりで何も言えなかったのだ。

 そしてそれを見ていた唐巣神父はと言うと……

 ハラハラと落ちる数本の髪の毛を見て思わずこうつぶやいたのだった。


――「おぉ……“髪”よ……」――


 つぶやいたはずなのに神父の言葉はやけに空へと響いたのだった。


 続く


 後書き

 第三話をお送りします。

 タマモンがすっかりヒロインの立ち位置に就いちゃってます。

 違和感を覚えた方もいらっしゃるかと思いますが、これが私なりに考えた『十年後のタマモ』です。
時に猫の様に甘え、時に小悪魔の様に謀り、そして時にはダメな男を叱咤する…
私にとって十年間の現代社会に馴染んで行ったタマモがどう変わっていくのかを考えていました。

 そしてこれが私なりに出した『答え』なんです。

 ……まぁ、偉そうに言いましたが、要するに『良い女になったタマモ』を書きたかっただけなんです(苦笑)
ですが…まぁ、まだまだ『照れ』が抜け切らない幼い感じにもなっていますけど(汗)

 皆様にとっての『十年後のタマモ像』と合致しているかどうかは分かりませんが、
気に入って頂ければ幸いです。

 さて、前回のレスで『神父への説得』の件で幾人かの方から指摘されましたが……正直、
情けないと思っております、いくつかの他の方のSSで神父への説得のシーンを読んだ事がありますが、
件のシーンを書いた時、なるべく同じにはならないように気を付けたつもりではありましたが…
なんとか変えようとしたのですが、変に不自然な内容になってしまい…泣く泣く書き直しました。
 結局他のSSと似たような内容になってしまい、
自分の文才の無さを改めて思い知る事になってしまいました。

 読まれた読者様の中にはご不快と失望を覚えた方もいらっしゃるかと存じます、ですが、
なんとかこの事を糧に精進していく所存でありますので皆様のご理解を頂きたく思います。

 甚だ手前勝手ではありますが、この未熟なSS書きをご支援して頂きますよう、よろしくお願い致します。

 言い訳ばかりの後書きとなってしまい申し訳なく思うばかりです。
第四話でお会い致しましょう。(尚、次回より勝手ながら更新は遅れます)

 ではレス返しです。

●星海様
  感想有難うございます、私ももうちょっと突っ込ませようかと思いましたが、
 神父の人柄ならば、まずは様子を見て、迷うようなら助言を与える人ではないかと思いこうなりました。
 今回は神父との絡みがあまりありませんでしたが、今後どう神父が動くのか…ご期待下さい。

●ながお様
  二話連続のご感想有難うございます、ルシオラの件ですがそう言って頂けると嬉しいです、
 今回タマモが来た理由を書きましたが…無理があるかな? と思いましたがいかがでしたでしょうか?

●クジラ様
  感想有難う御座います。
 え? えぇと…プチハーレムですか? 私のタマモ像が後書きの通りなのでどうなるかは…(汗)

●tomo様
  はい、ご指摘の通り似た様な文章になってしまい申し訳ありません、詳しくは後書きを参照の程を。

●葛葉稲荷の狐様
  ハッ! そう言って頂ければ嬉しく思います、今後ともご支援を頂ければ幸いです。

●いしゅたる様
  ココの横島君とおキヌちゃんは『何時まで経っても新婚気分の抜けない超ドバカップル』なんです(笑)
 それとお気遣い有難う御座います、ご指摘通り次回からは更新速度が落ちますが、
 なんとか完結させる所存ですので、これからもよろしくご指導願います。

●白川正様
  はい、ご指摘通りなんとか別の展開を考えましたが…結果は後書き通りになってしまいました、
 ココの横島が幸福になれるかどうか見守っていて下さい、感想有難う御座いました。

●紅様
  タマモンが登場して雰囲気が明るくなってきました、ご期待に添えられるかどうかは分かりませんが、
 これからも見て頂ければ幸いです。

●zendaman様
  女っ気に妹属性(+ゴスロリ)を追加しましたが、いかがでしたでしょうか? 楽しんで頂ければ幸いです。

●クロト様
  見に来て頂いて有難う御座います! 完結目指して頑張りたいと思います。
 改行の点ですが、今回は原稿のワードの仕様を変えてみましたがいかがでしょうか?
 つたないSSですがこれからもよろしくご指導願います。
  >もしかして横キヌ純愛物と見せてペドフィ(以下検閲により削除)
  それは筆者にも分かりませんw(ぉぃ

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