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「GS横島!? 幸福大作戦!! 第二話」

チョーやん (2008-01-05 23:48)
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 「ふう…やっぱナマってんなぁ…このくらいで息が上がるとは…」

 まだ日も上がりきらない朝方、横島は朝早くから眼を覚まし、ジャージに着替えて軽いストレッチの後、
ジョギング、腹筋、腕立て伏せ、スクワットと何処のスポーツでもやる基礎のトレーニングを行った。

 だが、やはり未来の自分と…いや、美神の所で荷物持ちとして足腰を鍛えてた頃と比べても
明らかに体力不足であった。

 これを毎日しなければ…いや、メニューをどんどん増やしていかなければ、遠からず来るであろう
アシュタロスとの戦いなどとても覚束ないのである。

 横島はその事に暗澹たる思いであったが、これも自らがしでかした事に対する罰であろう、
そう腹を括ると、とりあえずは朝食を摂る為コンビニに向かった。


◆◆◆


「う〜〜む、やっぱり味気ないなぁ…」

 早朝の公園、そこのベンチでサンドイッチやお握りを、モソモソとほお張る横島。

「確かに一緒に買った栄養ドリンクと合わせれば栄養の摂取は問題ないんだが…」

 やっぱおキヌちゃんの手料理が一番だよなぁ…と、今は会えないであろう妻の有り難味を
過去に戻って二日目で味わうことになる横島であった。

 ――イチドハステタクセニ――

 頭の片隅からそんな声が聞こえた気がして、横島の胸がギシリと痛む。

 確かに一度は彼女と別れる決意を固めた横島だったが、逆行してから虚無感が胸を占めていた時、
カオスからおキヌも着いて来てくれたと聞かされた時は、胸の空洞が彼女への想いでいっぱいに
なっていくのを感じていたのだ…身勝手にも程がある…と自らを罵しる、だが、そんな自分に
着いて来てくれたであろう彼女の為にも、もう絶対に彼女の想いを裏切る訳にはいかないのだ。

 そしてなにより……そう、なによりも自分が彼女を求めてしまっているのだ、最早自分を偽りたくはない…

 叶うことなら今直ぐにでも人骨温泉に行って、彼女に会いたかった…しかし、
恐らく今の彼女は自分を知る前のおキヌちゃんであろう…

 横島にとって今の彼女に会うのは、未来の妻である彼女に対する裏切りになるのではないのか…
今の彼女に対する侮辱ではないのか…そんな思いに囚われているのであった。

 だからと言って、今の彼女がどうでもいいと言う訳ではない、むしろ過去の彼女も好ましいと
思っているくらいなのだ、なにより、今この時も三百年からの孤独を味わっているであろう
彼女を放っておきたくはなかったのだが…

 彼女には会いたい、だが未来の妻である可能性は低い、しかし確かめるには会うしかない、
だからと言って今の彼女が…もはや完全な思考のループ、ジレンマに陥ってしまいそうになる。

 いけない、いけない…と頭を左右に振る、彼女の全てを救ってやりたいなどそれこそ
傲慢極まりない考え方だ、自分は神ではないのだと自らに言い聞かせる。

 なにより自分が美神の所に行けばいずれは会えるのだ、過去と未来、両方の彼女を救う方法などないし
その考え方が彼女を侮辱する事にもなるのだ、今の彼女の想いは彼女のモノなのだから…

 それにしても…元の時代のあの日以来ずっとこんなんだなと、又自嘲する。

 いい加減このネガティブな思考になりやすい最近のこのクセを、なんとかしなければいけない、
そう考えると横島はなるべく前向きに考えようと、サンドイッチの最後の一欠けらを口に放り込んだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


             GS横島!? 幸福大作戦!!
              第二話 『これまでの道、これからの路』


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「さてと…色々と考えたけど、やっぱりココっきゃないんだよなぁ…」

 過去に戻ったのが丁度土曜日だったのが幸いして本日は日曜日、過去の自分なら間違いなくナンパを
しに街にくりだしていたはずである……一度も成功した試しはないのだが……

 まぁ、あれだけ下心丸見え…と言うか、本能丸出しのやり方では女性が引いてしまうのは当たり前である、
そんな自分のかつての行状を省みて思う…あれはもはや若さとかの問題ではなかろうと…

 振り返って今の自分の事を思う、確かに昔に比べれば随分と落ち着いてしまっている…
まぁ、色々あった所為なのも確かだが、枯れてしまった訳でもない。

 事実、美人を見れば思わず目が行くし、お近づきになりたいとも思う、だが、思わず飛び掛るほどの
衝動が湧いてこないのだ、なにより自分には最愛の妻が居るのだから…

 そこまで考えてふと思う、なるほど…この頃の自分は愛情に飢えていたのではないかと、
勿論、本能的な衝動もあっただろうが、何より人を愛する事、愛される事を知らなかったのではないのか…
 なにしろあの両親である、自分を愛してくれていたのは間違いないだろうが、その表現方法が
あまりにも世間一般のそれとかけ離れていたのも原因の一つではないだろうか。

 無論、両親の所為にするつもりはない、多分に影響を受けたのは事実だが、基本的に女好きなのは
間違いの無い事実なのだ、そしてそれが自分であり、これからも変えるつもりなどない。

 言わば今の自分は、やっと世間並みな男になったと言えるのである、勿論煩悩もあるが
それを抑える術はあるし、様々な経験が自分を客観的に見られるようにしてくれたのだ。
 まぁ、もっとも普段抑えている分、未来では夫婦の夜の営みで爆発させていたのだが…
防音仕様になっているはずなのにタマモから『安眠妨害よ…』と言われたものだった。


――――――――閑話休題


 物思いに耽っていた頭を上げ、目の前の建物を見る。

 その建物は、良く言えば趣のある、悪く言えば廃屋寸前の建物――唐巣神父の教会であった。

 あれから散々考えたのだが、今の自分を受け入れてくれて、尚且つ美神とも繋がりを持つことができ、
ある程度、六道家やエミ、オカルトGメンとの接触が図れる場所、それがココなのだ。

 エミはこの頃事務所を構えていたのかはっきりしない上に『1.25倍酷い』と彼自身が評した所である。

 オカルトGメンは西条が来るまでは日本支部など存在していないし、なにより国際機関である、
政府や国家間のイザコザに巻き込まれるのはゴメンだし、第一まだ高校を卒業していないのだ。

 六道家は…最初から選択肢には入れていなかった、未来では独立して結婚した自分とは
良好とも言える関係を築く事が出来たが、この時点での接触は面倒事(主に冥子)を
押し付けられるのが目に見えており、取り込まれるのは御免被りたかったのである。

 確かに六道家の後ろ盾は強力であり、魅力的でもあるのだが、行動の全てが向こうの
都合によって振り回される破目になるのは目に見えていた。

 まぁ、ある程度の接触は必要であろうが、それも加減を間違えれば取り込まれかねないのである、
その為にも自分が何処かに所属している必要があったのだ。

 そして今現在、美神は何処にいたのか…神父に弟子入りしていた彼女であったが、高校を卒業して
GS試験に合格した後、冥子に気に入られてしまい、六道家に研修の名目で二年間居たとの事、
未来での酒の席で美神と飲んだ際に聞かされた事ではあったが――美神曰く、
『自分の人生で最も忍耐を強いられた最悪の二年間だったわ…』だそうである。

 そして、二年間の契約――これも何時の間にかそうなっていたとの事――が切れて、
晴れて独立する事ができた時は、心底ホッとしたそうである。

 それを聞かされた横島は、六道家に取り込まれる危険性を改めて思い知った、
どうやら美神のあの性格は六道家に居た時の反動もあったようである。

 もっとも、その時の美神は『エミも一緒だった事』を触れなかったのであったが…


「(コンコンコン)すみません、唐巣神父はご在宅でしょうか?」

 いつまでも他人の家の前で物思いに耽る訳にもいかないな…と思いながら、とりあえずは
教会の玄関をノックする、すると少し間を置いて玄関のドアが開いた。

「(ガチャ)やぁ、お待たせしたね、父の家にようこそ…悩み事の相談かね?」

 現れた唐巣神父は相変わらず人好きのする笑みを浮かべており、横島を見てそう話しかけた、
どうやら高校生の制服を着た彼を見て、除霊の依頼などではないと思ったようだ。

「えぇっと…初めまして、唐巣神父でいらっしゃいますね? GSの…俺は横島忠夫と言います、
実は神父に折り入ってお頼みしたい事があるのですが…」

「私にかね? まぁ、とりあえず中にお上がりなさい、話はそこで聞きましょう」

 横島は出来るだけ初対面を装い、神父に話しかける、神父もそんな横島の様子に訝しげな
表情を見せたが、それも一瞬のことで直ぐに笑みを浮かべると教会の中へと誘う。


◆◆◆


「弟子入り…かね? この私に? …しかし…GSと言うのはだね…」

「えぇ分かっております、GSがいかに危険な職業だという事は…これでも何体かの悪霊を
自力で祓った事がありますので…「君がかね?」…ハイ、それでこれまでの事をお話します」

 神父は目の前の少年が弟子入りを希望していると聞くとGSの危険性を説こうとしたが、
悪霊を祓ったと言う少年の言葉に思わず身を乗り出した。

「ふむ…まずは君の話を聞こう…あぁ、まだお茶も出してなかったね、ちょっと待っててくれたまえ」

「いえ、お構いなく」

 横島はそう言ったが、神父は遠慮しなくてもいいんだよと言うと、紅茶を入れて持ってきてくれた、
神父は安物の紅茶だがねと言って差し出す、横島も恐縮して薦められた紅茶を啜る。

「それでお話の内容なんですが…」

 一服して少し間を置くと、横島はこれまでの経緯を話し出した。

 無論それは神父に雇ってもらう為にでっち上げた偽りの経緯なのだが…

 まず自分が高校に入学するまでは普通の学生だった事、両親が会社の都合で海外に居る事、
一人暮らしをしている事など、そこまでは事実であったが、そこからは偽りのストーリーを語った。

 ある日の帰宅する際の出来事、一人暮らしの気楽さでつい帰りが遅くなった事、近道をした路地裏で
突然悪霊に襲われた事、このままでは殺られると思った時に右手から何かが出てきた事、
思わずソレを投げつけたら悪霊が消えてしまった事を語り、神父の目の前で右手の手の平を見せる。

「これがその時に出来たヤツです、俺はサイキックソーサーと名づけましたけど」

「……ほぉ、これは…しかし君はこれまで霊能力とは無縁だったのだね?」

「はい、ですが…親が親でしたので…多分その遺伝を受けたのではないかと…」

「ご両親も霊能者なのかね?」

「いいえ、違います…ですが、親父は素手で悪霊を殴り飛ばしたことがあると言っていましたし、
お袋はお袋で、霊能者の霊力と気合だけで張り合った事があるそうで…」

 ちなみにコレは本当の事である、但し未来で聞かされた話しであったが…美神の所でアルバイトを
していた時、日本に帰って来た際に同じ事をした両親であったが、それよりも前から似た様な事を
してきたと、ナルニアでの出張を終えて帰国した両親から酒の席で聞かされたのだった。

 こりゃ後で親父達と口裏を合わせる必要があるな…と、この話を考えた際にやっておけばよかったと
思ったが…まぁ、これは後でも出来るからと思い直して神父の言葉を待った。

「…なんとまぁ、君の話が本当ならとんでもないご両親だが…それでGSになろうと思ったのかね?」

「えっと…まぁ、実はお恥ずかしい話ですが、コレが出来た後は…その…正直有頂天になってまして…」

 と、恥かし気な表情を見せながら更に話を続けた。

 これで自分もヒーローになれると思ってしまった自分は、他にも何か出来ないのか独自に特訓して
栄光の手と名づけた光る手が出来たのですっかり舞い上がってしまい、道端で見かけた悪霊(浮幽霊)を
片っ端から祓っていたと語った。

 そしてある日の夕方、とある公園に一人で遊んでいた子供の側に悪霊(と思い込んだ)が居るのを見て
襲われると思い、早速祓ってやろうとしたら、その子供がその霊を庇って立ち塞がったと言う。

「ホントに調子こいていたんですよ…俺って…その幽霊が子供の母親の霊で、病気で死んだ後も、
残された子供が気がかりで成仏できなかったそうです」

 そして『母ちゃんをいじめないで!』と泣きじゃくる子供に戸惑い、どうしたらいいのか分からずにいると、
その母親の霊が進み出て、死んだ後も未練がましく成仏しなかった自分が悪いのだと言って、
横島に自分を祓うよう頭を下げて頼んだとの事である。

「……それで、どうしたのかね?」

「……散々悩みましたが…結局は祓うことにしました…この栄光の手で…」

 そう言って右腕に栄光の手を発動させる、それを見た神父は大きく眼を見開き、
この少年の才能の大きさに驚く。

 その後は出来るだけ優しく祓おうとすると、子供からは止めてくれと泣き声でせがまれてしまい、
結局は母親から説得されるまで待った後、除霊したのだと言う。

「あの後はもう…その子からは『母ちゃんを返せ!』って泣かれて…」

 どうしたらいいのか分からず棒立ちになってると、その子の父親が迎えにきてくれて、その父親に
事情を説明すると『ありがとうございました』と礼を言われたと語る。

「正直、その父親からも責められると思いましたが…ホントに自分が何も分かっていないガキだと
思い知らされて…それで、GSの事を勉強したりしました」

 そう語る横島の顔には自虐の色が浮かんでおり、神父に話の信憑性を持たせたのである。

 ちなみにこの話も実話であり、未来で知り合いになったGSから聞かされた話しである。

 自分がGSを志す切欠になった話として丁度よかった為に神父に語ったのであるが、
正直、その知り合いのGSを侮辱し、目の前の神父を二重に偽ってしまう話になってしまい、
心中、複雑な思いに囚われたのだった。

 それから横島はGSに関してその法律の事も調べたとの事。

 超常現象関連法――通称『GS法』と呼ばれるその法律には無許可で霊障、霊害を祓い
報酬を受け取ってはいけないと書かれており、GSになる為には現役のGSに師事し
GSの免許を取得した上で、師事したGSの認可を受けなければならないとの事である。

 そしてGSを調べた際に、著名なGSの事を知り、人格、能力共に一流と名高い神父の名を聞き、
その人ならばと決意し、弟子として雇ってもらいたいと思いココに来たのだと、話を締めくくった。

 そこまで話を聞き、神父は困った様な表情を浮かべた。

「君の話は分かったが……正直な所、ウチには君を雇うほどの余裕がなくてね…お恥ずかしい
限りなんだが…他のGSの所に紹介状を書くからそっちに「唐巣神父」…なにかね?」

「失礼ながら神父の事も調べさせて頂きました、ご不快に思われるでしょうが…ご容赦下さい、
神父が除霊を行っても貧しい人達からは報酬を受け取らないそうですね? 成功すれば
高所得が約束されているGSの中でも神父のなさりようはご立派だと思いますが…」

「…言いたい事は分かるがねぇ…曲がりなりにも神聖な力を金儲けの為に使いたくはないのだよ」

「えぇ、そんな神父だからこそ師事したいと思ったのです、しかし…
失礼ながら神父はすでに教会からは破門されてると聞きましたが?」

「…そこまで知っているのかね…まぁ、その通りだがね、しかし私は自分のした事を後悔はしていないよ、
たとえ破門されても私の心は主たる神に捧げているつもりなのだからね」

「…ご不快な思いをさせて申し訳ありません…「いや、気にしなくてもいいよ」…ハイ、有難う御座います、
それで…神父のお気遣いに甘えるようで恐縮ですが、言わせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 横島の言葉に神父は「あぁ、勿論かまわないよ」と答え、ここが勝負処だなと横島は思った。

 一方の神父は横島の少年らしからぬ礼儀正しさに感心すると同時に、訝しくも思った、
少年の話では、ついこの間までヒーローに憧れる少年らしい事をしていたと語った、
だが、たったあれだけの体験でここまで変われるものだろうかと。

 目の前にいる横島と名乗る少年からは年齢不相応の大人びた…
もっと言えば自分と同年代の落ち着いた物腰を感じていたのである。

 そしてこうも思った、この少年の語った話には偽りはないようだが、全てを語った訳でもないようだ…と。

 そんな神父の内心をよそに、横島は口を開く。

「神父…神父のなさりようは人として尊敬に値するものだと思います、
ですが神父はGSでもあるのです、他のGSの方々からすれば、
神父のなさりようは商法で言うダンピング行為にあたるのではないですか?」

 横島のその言葉に神父は「むうぅ…」と唸る、実際GS協会からは幾度と無く注意を受けていたのだ、
しかし、神父の受ける除霊依頼のほとんどが、他のGSが依頼を受けたがらない低所得者層からであり、
神父の人徳と人柄もあって、協会でもあまり強くは言えなかったようではあるのだが…

「実際、企業や高所得者からも依頼を受けることもあるのでしょう? そういった方々からは
正規の依頼料を受け取ってもかまないのではないですか?」

「…むぅ……しかしだねぇ……」

「えぇ、神父のおっしゃりたい事も分かります、ですから貧しい方々からは今まで通りにして
企業からの依頼は正規の料金で受けて、万が一の時の為に蓄えて置いてはいかがですか?」

「万が一の時の…かね?」

「はい、お金が全てを解決できるとは言いませんが、それでもお金はあるに越した事はありません、
神父のご家族や親しい友人の人達の為に使うという方法があるのではありませんか?
そして余ったお金は何処かに寄付でもすればいいのです、それに…神父が企業からお金を
受け取らなかったとしても、そのお金が善意の為に使われるわけではありませんから…」

 そう、企業が資金を使うのはあくまで企業の為にである、勿論、慈善事業に投資する企業もあるだろうが
基本的に企業のお金が貧しい人や立場の弱い人達の為に使われる事はほとんど無いのである。

「ふう…わかったよ、それでそのお金から君への給料も出せるという訳だね?」

「それだけではなく、神父の為にでもあります…失礼ながらこの教会も補修が必要なのでは?」

「ハハッ…分かってはいたんだけどねぇ…」

「すみません、生意気を言いまして…」

「いや、構わないよ、それにそんなに畏まった言い方じゃなくて、もっと砕けた言い方で構わないよ、
これから共に戦う仲間だからね」

 そう言った神父の表情は、まさしく慈愛と慈善に富んだ神父の鑑とも言える微笑であった。

「えっ、そ、それじゃぁ…」

「まぁ、しばらくはろくな給金も払えないけど、これからよろしく頼むよ」

「は、ハイ! よろしくお願いします!!」

 横島はその言葉に頭を深々と下げるのだった、そんな横島に神父も苦笑し。

「あぁ、ほらほら…そんなに畏まらなくてもいいって言ったよね?」

「あ…ハイ、いえ…ウィっす!」

「うんうん、その調子だよ、それじゃ今日の所はもう帰りたまえ、明日学校が終わったら来るといいよ」

「うっス…あ、これ俺の連絡先です、それじゃぁ…えっと、お疲れ様でした」

「あぁ、君も気を付けて帰りなさい」

 横島は神父のその言葉に軽く頭を下げ、神父の教会を出て家路へと帰って行った。

 そんな横島の後姿を見ながら神父は…

「横島君…いつか君が全てを話してくれる日が来るのを待っているよ?」

 そうつぶやく神父の眼には、深い慈しみの光が宿っていた。


◆◆◆


 帰宅途中の横島は、昼食を摂る為に自宅近くのハンバーガーショップに立ち寄っていた。

 「ふぅ……」

 すでにセットメニューを食べ終えていた横島は、神父との会話を思い返していた。

「神父の所で雇ってもらえたのはいいけど…なんだか神父を利用してるみたいだ…
いや、瑞から見れば利用しているな…やっぱ」

 そうつぶやいて店舗の窓から外を見る、外は春の陽気が溢れているのだが、
横島の心情はその春のうららかさとは無縁であった。

(兎に角これでGSとしての路が開けた訳だが…神父にはいつか…いや、みんなにも
本当の事を話さなければいけないよな…そしてルシオラ…もしお前が帰って来たのなら…)

 そこまで考えた横島は、そこで慌てたように首を振る。

(ったく、又これだよ…ホントに直さなければなぁ…小鳩ちゃんの言葉じゃないけど、
明るく前向きに…だよな、そうだろ? 小鳩ちゃん…)

 たとえ貧乏神に憑かれても、決して後ろ向きな事は言わなかった女性の事を思い返す。

 元の時代…未来では、小鳩は横島の結婚を心から祝福してくれたのだ、おキヌと同じく
自分に好意を寄せてくれた彼女には申し訳なく思っていたのだが…

『そんな顔しちゃいけませんよ? おめでたい日なんですから…小鳩は大丈夫です、
横島さんと出会えた事が小鳩にとってはとても幸せな事なんですから…ですから…
自分に出会った事が小鳩にとっての不幸だなんて思わないでくださいね?』

 そう言って微笑んだ彼女の笑顔は…まるで本物のお日様のように眩しく、とても綺麗だった。

 それを見た横島は、自分がなんと傲慢で愚かしい事を思ったのだろうと自らを罵ったのである、
たとえ他人から見て、その人が不幸に見えても、本人にとっては幸せである事もあるのだ。

(そうだよな、幸福って人から与えられるんじゃなくて、自分で見つけるものなんだよな、
そしてそれを教えてくれたのが小鳩ちゃんで、幸福そのものがおキヌちゃんだったんだ)

 そう考えた横島は、二度と自ら犯した過ちを繰り返すまいと心に誓ったのだ。

「幸福……か」

 そうつぶやいて再び窓の外を見る、その瞳には先ほどまでとは違った柔らかなモノがあった。


(……ん?)

 不意に視線を感じて店内を見渡す、いくつかの席から視線を感じたのだが、
横島が眼を向けるとそこに居た客が慌てて顔を背けるが見えた。

(な、なんだ…?)

 そこに居た客は皆、女子中学生か、女子高校生の今の自分と同年代の少女達で、
先程から窓際に居る横島に視線を送っていたのだ。

(なんだ? 俺の顔に何か付いてるのか?)

 そう考えて顔を右手で撫でる横島であったが…実の処、店内に居た彼女達は横島の同年代とは思えぬ
大人びた雰囲気を感じ、彼に対して好奇の視線を送っていたのだ。

 横島も元の時代であればその視線の意味を察する事ができたであろうが…今の自分はGSとして
世間にもかなり名を馳せていた『GS横島』ではなく、霊力はあるものの未だ見習いにもなっていない、
貧弱なボーヤの一高校生だと自覚しているのだ。

 『もっと別な面も自覚すればいいのに…』と、ココに某狐っ娘が居ればそう評したであろうが…

(なんだか妙な感じだなぁ…出るか)

 そう思って店を出た横島であったが、その後姿に残念そうな視線が送られていたのには気付かなかった。


◆◆◆


 自宅へと歩いて行く横島、まだ昼過ぎではあったが一旦帰宅してこれからの事を検討するつもりであった。

(…検討した後は霊力アップのトレーニングをして…基礎体力の訓練メニューも考えなきゃな…)

 どうやらこれからの一年間は、これの繰り返しになりそうだと思わず暗澹たる気分になるのだが、
今朝の想いと先程の店での誓いを思い出し、気合を込めて自宅まで駆け足で戻っていくのだった。


(ん? …なんだか野良犬が多いな…)

 自宅まで近づいてもう直ぐの所で足を止める、そう、確かに野犬の姿がチラホラと見えるのだ、
そして何かを探すようにしているみたいだったが…横島が野良犬にうろつかれては早朝の
トレーニングの邪魔にもなるからと霊力を込めて睨みつける、シロもそうであったが、
犬族はこういう感覚には敏感であるからだ。

(シロが聞いたら『犬ではござらん! 狼でござる!』と言っただろうなぁ…)

 すごすごと退散していく野犬を見ながらそう思っていると、自宅のアパートが見えた、
そして玄関のカギを開けようとして…

(!!……開いている…カギは掛けたはずだが……!!……誰か…居る!)

 横島は慎重にドアのノブに手をかけて…右手に栄光の手を発動させ…一気に開いた!

「誰だ!?」

「あ? やっと入ってきた、おかえり〜〜♪」

 お気楽な声で、そう言って部屋の中に居たのは…

「アハ♪ 何間抜けな顔してんのよ…やっとこっちに来れたわ…ね? キツネうどんないの?」

 図々しくもそんな要求をしたのは、過去に置いてきて、今はまだ殺生石に封じられているハズであり。

 かつては『金毛白面九尾の狐』と言われ、金髪のナインテールが眩しいその姿は、初めて会った時より
若干幼く(小学校高学年くらい)なっていた、そして詫びれもせずイタズラが成功した子供のような顔で
横島の顔を見ていたのだった。

「タ、タマモ!?」

「ハァ〜イ♪」

 未来では従業員として一緒に住んでいたタマモであった。


 ――なんだか最初に会った頃よりお子チャマな感じになっているが…気にしたら負けだろうか?――


 続く


 後書き

 第二話をお送り致します、チョーやんです。

 ……ヒロインのはずのおキヌちゃんより先にタマモンを出してしまいました……

 どうすんだよ俺えええええええぇぇぇぇぇ!?!?(七転八倒)

 うぅぅ…だってだって、おキヌちゃんは展開上まだ出番はないし、他の面子も出る予定はないし…

 ぶっちゃけ女ッケが足りなかったんじゃあああああああああぁぁぁぁぁ!!!!(魂の叫び)

 ぜぇぜぇぜぇ……落ち着け俺!

 あ、どうもすみません、取り乱しまして…えぇとココでタマモを登場させたのは横島の精神面が
思ったよりも安定してなかったからです、まぁどっちみち早期に登場させてましたけど、
なんとか持ち直してはいるようですが…タマモンとの掛け合いで暗くなりがちな雰囲気を
払拭させたかったのが本音です……どうにも横島の内面を書いてるとマイナス方面に
引っ張られがちなんですよねぇ…う〜〜む。 (−−;)

 それと、本文にあった美神さん達の境遇(六道家研修)とか、GS法といった法律の事ですが
これはこのSSの独自設定です(まぁ、ありえそうな感じではありましたが…)。

 過去に戻ってまだ二日目ですが、次回からは少々跳ばしていく予定です…正直オリキャラとか
出す構想力も文才もありませんので…(汗)

 では、第三話でお会いしましょう。


 レス返しです。

●いしゅたる様
  ハイ♪ 予測通りタマモンが出ました、どんな掛け合い漫才をするのかお楽しみを。

●紅様
  感想有難う御座います、そう言って頂けると幸いです。
  今は正月休みなのでココまで(できれば明日も)早めの投稿ができましたが、来週からは速度が落ちます、
 なるべく週一程度の投稿ペースにしたいと思っていますのでご期待に添えるよう頑張っていきたいです。

●雲海様
  お気遣い有難う御座います、なるべく期待が持てるようにしていきますのでお見捨てなきよう願います。

●白川正様
  ココの横島君はこんな感じですので、ご期待に添えるかどうかは分かりませんが…
 ルシオラと出会った時はどうするのか…まだ先の話ではありますが、それまでお待ち頂ければ幸いです。

●だぶるそふと様
  感想有難う御座います、おキヌちゃんを出さずにタマモンを先に出してしまいました(汗)
 ですが、必ず近いうちに登場させますのでご期待下さい。

●す様
  はっ! ご期待に添えるよう頑張っていきます、おキヌちゃんの登場は少々お待ちの程を…

以上、レス返しを終わります。
たくさんのご指摘、ご感想をお待ちしております。

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