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「GS横島!? 幸福大作戦!! プロローグ後編(GS)」

チョーやん (2008-01-02 23:39/2008-01-02 23:47)
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「(ガチャ)た、ただいま〜」

 横島はなるべく明るい声を出しながら留守を預かっていたであろう妻に帰宅を告げる。

 ちなみにこの事務所兼自宅は三階建ての一軒屋であり、横に長い長方形の形をしていて、
一階には事務所があり『横島除霊事務所』の看板が掲げられている、
そして自宅への玄関は事務所脇の階段から上った二階にあった。

 二階と三階は自宅兼従業員宿舎になっていて、二階が横島夫妻、
三階には従業員として妖狐のタマモが住んでいる。

本来なら産まれてくるはずであった子供の為の部屋も用意されていたのであったが…

 ちなみに人狼族のシロは横島の結婚と同時に里に帰っており、ここにはいない…
 尚、シロの事やタマモが従業員として憑いて来た(誤字にあらず)経緯は別の機会に、
横島が独立するに至った経緯は後述するものとする。

――――閑話休題

「おかえりなさい、アナタ」

 パタパタとスリッパの音を立てながら玄関の奥から愛する妻の姿が現れる、その姿を見た瞬間、
夫の胸に先程の激情と共に熱いモノがこみ上げてくるのを感じ、思わず妻を抱きしめていた。

「あ、アナタ…?」

 夫のこの行動に妻の瞳は大きく開いたものの、直ぐに眼を閉じて夫の身体を抱き返す。

「今…帰ったよ……キヌ」

「はい……おかえりなさい、忠夫さん」

 普段の妻――おキヌは、特別な時(主にベッドの上)以外では『アナタ』と呼ぶのだが、
この時は迷わず『忠夫さん』と応えていた。

 堪え切れなかった横島は妻の唇も奪っていた、抱き返していたおキヌも夫の突然の行為に戸惑いを覚えたが、
更に抱きしめる事で夫の行為に応えていた。

 しばらくはそのままの姿勢で固まっていたのだが……不意に横島は視線を感じ、妻の肩越しに廊下の奥、
リビングの扉に目をやると、半開きのドアから誰かが顔半分を隠したままこちらを凝視している。

「……覗き見とは趣味が悪いぞ? タマモ」

 横島は妻から唇を離しつつ、同居人兼従業員のタマモに注意する、
見事な長い金髪のナインテールが扉の影に揺れていた。

「なによ、帰ってきた早々いちゃついている方が悪いんじゃない! まったく…
いつまでたっても新婚気分が抜けないんだから…あてられるこっちの身にもなってよね?」

 タマモの開き直った物言いに苦笑しつつ妻から体を離す、
そのまま玄関に上がるとタマモの居るリビングに向かった。

 その夫の後姿を見ながら、おキヌは哀しみと寂しさの入り混じった表情をしていたが、
直ぐに表情を改めると夫の靴を玄関の方向に向け直し整えてから小走りに夫の後を追った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


         GS横島!? 幸福大作戦!!
          プロローグ 『幸せの形、愛の形』 後編


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「まったく、そりゃ新婚当時に比べたら少しは落ち着いた方だけどさぁ…でも、玄関で
ディープなキッスなんて久々じゃない? どういう心境の変化よ」

「変化もなにも、お前がいっつも覗きをしやがるから自重しとっただけだっつーの、
それともなにか? 羨ましいからお前もしてくれって言うのか?」

「冗談! こっちからお断りよ…ったく、奥さんの前で堂々と浮気をするんじゃないわよ!
それにそんな暇があるならちゃんと依頼を受けなさいよね? 美神さんの所や
他の事務所に回してばっかりいるとクライアントに逃げられちゃうわよ?」

 リビングで夫から上着とネクタイを受け取りながらこのやり取りを聞いていたおキヌは複雑な思いをしていた、
いつもと変わらぬやり取り…だが、この夫はもう直ぐ…最早自分には夫を止める術は…だとしたらやはり自分も…

「ちょっと聞いてるの? おキヌちゃん、それともこの旦那には愛想つかしちゃった?」

 ふと見えると、タマモの顔が近くに寄っていた、どうやら考え事してる内に話しかけられていたようだ。

「ふぇ? あ…え、と、何だったかしら? タマモちゃん」

「もう……相変わらずポケポケしてんだから……要するに、
この浮気性の亭主をしっかりと捕まえてなきゃダメって話よ」

「あら? ウフフ……大丈夫よ、タマモちゃん…これでも手綱は
しっかりと握ってるつもりですよ…ねぇ? ア・ナ・タ?」

 そう言いながら持っていたネクタイを両手でギュッと絞るしぐさをするおキヌ…はっきり言って無茶苦茶怖い、
…どこがどうとは言えないが…なにやら額から眼の下辺りまで影が指しているような気もする。

 そんなおキヌの様子にタマモは「そ、そうよね……」となにやら語尾が震える声で答え、
夫の方はと言えば……壁際にまで後退して冷や汗を掻きながらコクコク頷いていた。

「もう…そんなに怖がらなくても…」

 そんな二人の様子に少々傷つきながらもおキヌは二人に感謝していた。
 あの日以来…この自宅も事務所も火が消えたように暗く沈んだ雰囲気になっていたのだが、
この二人が明るく振舞ってくれていた為、徐々に明るい雰囲気になってきていたのであった。

 先程からのやり取りも自分を元気付けようとしてくれていたのは明白で、
おキヌはそんな二人に深い感謝の念を抱いていた。

……もっとも、素でこのやり取りをしている可能性も高かったのだが。

「さぁさ! アナタ、お風呂が沸いてますから早く入って来て下さいね? 
それとタマモちゃんも事務所の片付けまだ終わってないでしょ? もう直ぐご飯ですからね!」

 微妙な空気になってしまったその場の雰囲気を振り払うように矢継ぎ早に二人に指示を出すおキヌ、
その姿からは先程の思いなど欠片も窺えなかったのであったが…

 そんなおキヌの様子をタマモは憂いを含んだ眼で見つめていたのだが、
直ぐに踵を返すと事務所に向かって歩いて行った。

それ故に、夫婦二人がそのタマモの様子に気付くことはなかった。


◆◆◆


 翌朝、自宅から出かけようとする横島は、二人に美神さん達の所に挨拶廻りをしてくると告げていた。

 あの日以来仕事をする気になれなかった彼は、キャンセルしたり延期したりした依頼を
他の事務所に回していた為に迷惑を掛けてしまったからである。

 実際その通りなのだが…誤魔化しだなと、車を運転しながら横島は自嘲気味な笑みを浮かべていた。

 これ以上妻の顔を見ていたら決心が鈍るからだと自身を嘲笑する、そして今更何を…とも思う。

 昨夜の事を思い返す…昨夜は久々に妻と燃え上がってしまった…何故か妻もいつになく積極的だったのだが
やはり帰宅する際のあの胸の激情が燻(くすぶ)っていたらしい。

 まったく未練だなと、再び自嘲する…出かける際にはこれで最後かと思うと思わず抱き締めてしまい、
タマモには『いい加減にしなさいよね…』と呆れられてしまった。

 妻も抱擁を離す際に何か言いたげであったのだが…横島はそれを振り切るように
『いってくる!』と玄関のドアを開けたのだった。


◆◆◆


「……ホントにご迷惑をおかけして…」

「なぁ〜〜にらしくもなく、しおらしぃ事言ってんのよ? アンタは…それよりもちゃんと
おキヌちゃんを支えてあげるのよ? 亭主のアンタがしっかりしなきゃいけないんだから…」

 横島は美神のその言葉に「えぇ、分かってますよ…」と応えながら改めて彼女を見る。

 彼女の姿は十年前からほとんど変わっておらず、相変わらずの美貌と抜群のスタイルを誇っていた、
今でこそあのボディコンスタイルではなく、母親の美智恵のようなビジネススーツ姿であったが、
アルバイトをしていた丁稚時代、彼女を見る度に煩悩を刺激され飛び掛っていたものだった。

 それが変わったのはやはりあの戦いからであろう…傷心の彼を見守り続けてくれたのは彼女であり、
そして支え続けてくれたのが今の妻である。

 なによりも五年…いや、六年前だったか、ようやくにしておキヌに結婚を申し込もうと考えていた彼は、
美神にその事を相談したのである。

 最初はシバかれるのを覚悟して(それでも一言もなかったらそれ以上にヤバイと判断して)
その事を告げた時、彼女は一言『やっと決心したんだ…』と、これまで見た事がないほど
慈愛の眼で彼を見やって言ったのである。

 呆けた顔をしている彼に美神は『なんて顔してんのよ? 反対するとでも思った?』と、
そして呆然としたままの彼に更なる言葉を告げた時、彼の思考は完全に停止していた。


――『横島クン…アンタ独立しなさい』――


「……ちょっと、どうしたのよ? 私の顔なんて見つめちゃって…」

 ハッとして美神を見る、どうやら昔を思い出し過ぎていた様だ、かつて彼女にシバかれる度に
『あのチチシリフトモモを諦めるのは惜しい!』などと戯(たわ)けた事を言っていたものだったが。

 今思えばこれほど彼女を侮辱した言葉はないであろう、
肉体ばかりを見て彼女の内面をまったく見ていなかったのだから。

「いえ、なんでもありませんよ…ただ、ココから独立して六年も経つんだなと、思い出しちゃって」

「本当ねぇ…あの役立たずの荷物持ちが、よくここまでなれたもんだわって思ってたモンよ…」

「何言ってんスか、その役立たずに独立を薦めたのは美神さんでしょうに」

「あら? ちゃんとアンタを評価したからこそ薦めたのよ? それにね…正直ホッとしたの、 
貴方達が付き合っていたのは知ってたけど、いつ結婚するのかヤキモキしてたんだから…」

「ハハ…美神さんには隠してたつもりだったんですが、『かなわないな』と思ったもんです、
それより俺の事なんかよりも、美神さんの方こそどうなんスか? ご結婚の方は…」

 彼自身、正直にその時の事を答え、ある意味地雷を踏むような事を平然と聞けるようになったのは、
これもある意味彼女のおかげかな? と思いながら尋ねる。

「アンタが私に隠し事なんて百万年早いのよ! それに結婚なんてまだまだするつもりはないわよ、
第一そのコトで、この間もママからお見合い写真を山ほど持ち込まれたんだからその話はしないでちょうだい」

 案の定、疲れたように答える美神に苦笑しつつ西条との仲はどうなったんだろう? と考える。

 そういえば西条が、又他の女性と食事をしていた事を電話で愚痴っていたと
この間おキヌから聞かされた事を思い出していた。

 まったくあの男も…美神さんを本命に定めてるんならフラフラしなければいいのに…と、
かつての自分の事を棚の上…処か天井の上にまで上げて思っていた。

 以前は顔を合わせる度に火花を散らしていた二人だったが、おキヌと付き合っていると知ると、
掌を返すように親しげに話しかけてくる彼に、苦笑を覚えたものだった。

 実際、美神との関係を抜きにすれば悪い男ではなく、それどころか独立に際しては色々と相談に
乗ってくれた上に、霊能関係の心得や手続き等を美智恵と一緒に教えてくれたのも彼であった。

 後でオカルトGメンに寄ったら彼女の事を真剣に考えるように言っておくかな…と、
そう考えつつ口に出しては別の事を美神に言った。

「まぁ、隊長も美神さんを心配してくれているんですよ…それにひのめちゃんにも色々と吹き込んでるようですし」

「もう! ママったらひのめまで巻き込んで…大体私はまだ結婚なんて『美神オーナー』ってなによ? 人口幽霊壱号」

 このまま美神の愚痴に突入するかという絶妙のタイミングで人口幽霊壱号が美神に話しかける。

『いえ、お客様がいらっしゃってます、ひのめ様ですよ』

 どこか苦笑を含んだようにも思える声で来客を告げる人口幽霊壱号。

「え? ちょっと今日は確か「(ガチャ)あはよう! 令子ねえちゃん!」ってちょっとひのめ!? 
入る時はちゃんとノックをしなさいっていつも言ってるでしょ? それに学校はどうしたの?」

「えへへ…ごめんなさ〜い、でも今日は土曜日で学校はお休みだよ?」

「あ、そっか今は土曜日もお休みの日があるん「あーー! おにいちゃんだ!」だ…
って…ちょっと…さっきから私の台詞が邪魔されてる気がするんだけど…」

 再三、台詞を邪魔されて最後はつぶやく様に言う美神…なにやら背中が煤けてるようにも見えるが、
触れてやらないでやるのが人情であろう。

 その後は遊んでとせがむひのめに苦笑しながらも、まだ挨拶に回らなければならない事を告げる、
不満そうなひのめに今度遊びに連れて行く約束をすると、彼女も納得してくれた。

 そのまま三人(?)に別れを告げると横島の背後から「またねーおにいちゃん、約束だよー?」とひのめの
元気な声が聞こえて振り向いて笑顔で手を振る、美神姉妹が窓際で手を振り返しているのが見える、
そして車に乗り込むと直ぐに車道を走らせるのであった。


「約束……か、ごめんね、ひのめちゃん…そしてありがとう…」

 ブロロロロロ……愛車のセダンの排気音を聞きながらそう彼女に詫びつつ感謝の言葉を告げる。

 実際、彼女が来てくれたおかげで別れ際に笑顔を見せる事が出来たのだ…あのままだったらちゃんと
笑顔で別れられただろうか…下手をすれば感のいい美神の事である、別れ際の自分の様子に不信感を
持たれていた可能性は大いにあったのだ。

 事実、美神は彼の様子になんら疑問を持つことなく普段通りの生活を送っているのだが…

 それが二重の意味で彼女を裏切っていることに横島は気付いているのだろうか?


◆◆◆


 夕刻、横島の姿は東京タワーにあった、展望台の屋根の上に文珠で移動する。

 彼は眼をつぶって今日会った人達の事を思い出す。


 美神達と別れた後、小笠原エミの事務所、六道家の屋敷、魔鈴の店、唐巣神父の教会、
オカルトGメンのオフィス、弓家の屋敷に足を運び、彼はそこに居た友人知人達に挨拶をして廻った。

 それは彼にとっては別れの挨拶でもあったのだが…


 エミの所ではタイガーが六道女学院を卒業した一文字魔理と共に、正社員となり働いていた。

 二人共おキヌの事でずいぶん心配してくれて、特に親友である魔理は一時食欲不振になるほどだった。
 タイガーも彼なりに色々と気遣ってくれていた。

 エミは専門的検知で呪術的な要素がないか調べてくれたが、そんな気配はまったくなかったと言う。

 ちなみに二人は横島がおキヌと付き合う前から付き合っていたのだったが、タイガーが独立するまでは
結婚しないと宣言していた為に、未だに結婚はしておらず、周囲をヤキモキさせていた。

 エミに言わせると横島に対抗意識を持ってそう言ったのだろうが、横島が独立した当時では
まだまだあぶなっかしくてとても認められなかったそうである。

 しかし、そろそろ認めてもいいかな? とエミが話しの際にそう言ってくれた為、感激したタイガーが
エミに『ありがとうございますジャー!!』と抱きつこうとしてシバキ倒されてしまい、横島からは呆れた視線を、
エミからは『いい加減それをやめないと認めてやらないワケ!』と言われ、落ち込んで魔理に慰めてもらうという、
ある意味この事務所の日常を目にしたのである。

 苦笑しながらも、別れ際にはタイガーに『がんばれよ』と、魔理には『こいつを頼んだぜ』とそれぞれ告げ、
エミには『お世話をおかけしました』と言って事務所から出たのである。


 その後、六道家では相変わらずのほほんとした口調の六道親子が出迎えてくれて、謝意を告げる横島に
『きにしないでいいわよ〜』と言ってくれた上に、それぞれお見舞いの言葉を貰い、
冥子の隣に居た鬼道も元教え子のおキヌの様子を気遣ってくれたのである。

 ちなみに六道家は三年前に鬼道を婿養子に向かえ今の鬼道は六道政樹となっていた、
もっとも、横島が結婚するまでは横島に対し、六道夫人が色々とアプローチをかけていたのだが…

 別れ際、六道夫人(もっとも冥子も夫人なのだが…)から何かあったらいつでも相談にきてねと言われ、
その夫人の気遣いに感謝しつつ、辞去を述べて六道家を跡にするのだった。


 魔鈴の店ではこれも相変わらずの魔女ルック姿の彼女が出迎えてくれた。

 謝意を告げると同じように気にしないようにと言い、丁度昼食時だった為に食事を出してくれた。
『サービスですよ』との言葉と一緒に出された食事は相変わらず素晴らしい味で、
その言葉に恐縮していると、『私にはこれぐらいしか出来る事がありませんから…』と、
そう告げた彼女の眼には哀しみと申し訳なさが混じっており、
横島は逆に気にしないように言うと礼を述べ、食事を済ませて店を出た。


 唐巣神父の教会に着くと、神父からは『君達夫婦に神のご加護があらんことを…』と
祈りの言葉の後に、『困った事があったらいつでもきたまえ、私の力が及ぶ限り力になるよ』と
祈りの言葉以上にありがたい言葉を貰い、恐縮して『ありがとうございます』と礼を述べ教会を跡にした。

 ――別れ際に神父の頭を見て『神父こそ髪のご加護を…』と言いそうになったのは彼だけの秘密である――


 オカルトGメンでは美智恵と西条が出迎えてくれた、アポを取っていたとはいえ、
二人共気さくに話しかけてくれて改めてお見舞いの言葉を送った。

 高校を卒業すると同時にGメンに入ったヴァンパイアハーフのピートは出張中とのことで
彼に別れの言葉を言うことができないのを残念に思っていた。

 支部長の美智恵には、妻の妊娠の際に色々とアドバイスをくれて、妻の様子も気遣ってくれていたのだ、
彼女にはその事のお礼を改めて言うと、西条には『女遊びばっかりしてると、美神さんに見限られるぞ』と
少しばかり意地悪く忠告する。

 西条が顔を赤くして何か言おうとすると『西条クン…この間もウチの若いコと食事してたわね…』と、
美智恵が半眼で睨みながら言う、すると西条はまるで金魚のように口をパクパクさせたのである。
 その彼の様子に『ハァー…』と溜息をつく、実の所彼と娘の令子との仲は半ば諦めているのである。

 西条は人格、能力共に問題のない(それ処か世間一般的には玉の輿レベル)のだが、
八方美人に過ぎる所があり、それが令子の神経を逆撫でしているのだが…
本人がそれに気が付いていないのである。

 更に言えば彼と娘の性格……と、言うよりは価値観が対極にあるのが致命的と見ているのだ。

 恐らくは結婚しても長続きはするまい…と美智恵はそこまで見切っており、
それ故に、娘の所にお見合い写真を持ち込んでいたのだ。

 そんな二人の様子に横島は、こりゃやぶ蛇だったかな…と、頭を一撫ですると
二人に辞去を告げてさっさと退出したのであった。


 弓家の屋敷に着くと、早速雪之丞が『一勝負しねぇか?』とこれまた彼らしい言葉で迎えてくれたのである。

 そんな雪乃丞の後頭をペシッと叩きながら妻のかおりが進み出て礼儀正しくお見舞いの言葉を告げる。

 そのかおりの言葉に礼を述べると雪之丞が『痛ぇじゃねぇか!』と文句を言い、
『まずはお見舞いを言うのが礼儀でしょ!』とかおりに言い返される。

 この二人は、横島が結婚するとほぼ同時期に雪之丞が婿入りする形で結婚していた、
そして雪之丞が結婚を申し込む際に、かおりの父親から『娘が欲しくば、この私を…』と、
お約束な展開が繰り出され、雪之丞は見事かおりの父に力を示し認められたのだった。

 その事を思い返して、自分がどうだったかを思い出す、氷室家に結婚の挨拶に行った際は妻の両親は共に
自分達を祝福してくれたものだ、もっとも義姉になる早苗は『この男が浮気したら直ぐに帰って来るんだぞ』と
憎まれ口を叩いたものだったが。

 そしてふと目の前の二人を見やる、普段は口喧嘩ばかりしているが、
それはこの二人のコミュニケーションであり、ストレス発散の場でもあるのだ。

 二人共に我の強い性格をしており、自分を抑えるのが苦手なのが原因なのだが…
しかしいざとなると抜群のコンビネーションを見せるのだから、二人の仲の良さが窺える。

 もっともそれを指摘すると二人共真っ赤になって否定するのだから夫婦というのは面白い。

 いつまで経っても終わりそうにない口喧嘩に少々強引に割り込むと、二人に謝辞を述べ帰る事を告げる。

 そんな横島に雪之丞は上がっていけばいいのにと言い、一方のかおりは客にお茶も出していないことに気付き、
少々青くなってゆっくりしていくように述べる。

 だが横島はこの後クライアントとの打ち合せがあるからと言って断り、じゃあなと言って車に乗り込む。

 別れ際、車の窓越しにかおりはおキヌによろしくと言い、なんのもてなしも出来なかったことを詫びた。
 雪之丞は『力がいる時はいつでも呼べよ! 手を貸すからな!』と、これまた彼らしい言葉で励ましてくれた、
そして右手の拳を握り横島の前に差し出す、横島も拳を握り窓越しに差し出してお互いの拳を合わせた。


 横島はそこまで思い返すと彼等の顔を一つ一つ思い浮かべながら、これから自分がする事を詫びていた。

 更には今日会えなかった人達にも…

(親父…お袋…シロ…小鳩ちゃん…マリア…愛子…ピート…義父さん…儀母さん…早苗ちゃん…銀ちゃん…
そして小竜姫様…ヒャクメ…ワルキューレ…べスパ…パピリオ…ジーク…猿神…)

 それらの人々(?)にも謝罪すると徐に懐からビンを取り出す、そして注意書きを今一度読み返す。

 注意書きには『この薬品を服用する際には用法、容量を正しく…』と薬品に関するお定まりの文章が
書かれていて、最初に読んだときは『……嫌味か?』と思ったものだったが。

 前半を読み飛ばし、後半を読み始める、言ってみればここからがコレの本当の注意書きであろう。

 『…この改良型時空消滅服用液は飲む時間が重要である、必ず○月×△日の(今日の事だ)
17:00時ジャストに飲むこと、そして飲んだ後は戻る時間を正確にイメージする事である、
具体的にはその日、その時に起こった出来事を正確に思い浮かべることであり、
なんとしてでもその場に留まりたいと強く思うことである。
 尚、それに失敗すれば通常のモノと同じく完全消滅する可能性がある、
要は想いの強さが成功する鍵なのだ、では、成功を祈っとるぞ? 小僧。

                           P・S 報酬は成功した時に貰いにくる。  Dr、カオス』

 そこまで読み返して最後の一文に再度首を捻る…成功報酬ということか?
しかし、成功しても失敗しても確認のしようがあるまいに…

 確かに報酬は払っている、前金として文珠を数個と、材料費にいくばくかの現金を(それでも数千万の単位)だ、
今の自分にはどうという事はない金額であるのだが、自分が消えれば意味をなさない代物だ。

 そう考えて、これはやっぱりカオスの嫌味を含んだジョークであろうと思うことにした。


 腕時計を見る、時間は16:58を指していた、そして視線を戻し、夕日を……見ることなく背を向ける。

「ルシオラ…今の俺にココで夕日を見る資格はないよ…お前とはもう会えないと
分かった時よりも、キヌの身体の事を知った時のほうがショックだったからね…」

 どんな哀しみも薄れていく…どんな感動も色あせていく…そう、所詮人は死んだ人よりも、
生きて側に居る人のことを想うものなのである。

 あれから十年…最早彼女の顔すら正確には思い出せなくなっていた、その事を寂しくは思っても
あまり哀しくは思わない自分が…今ここに居る。

「でも、やっぱり俺が消えるとしたらココ以外には思いつかなくてね、ゴメンよ…
そして……さようなら……キヌ」

 そう言うと再度時計を見る 16:59 秒数は……30・31・32・33と進んでいく、
ビンのキャップを取り、時計を見ながらビンの縁に口を付ける……秒数は……

50・51・52…………57・58・59…

17:00(ゴクン)


◆◆◆


 次の日の朝刊の片隅に一人の老人が死去した記事が載っていた…
その老人は遺書を残しており、自分の死後は所有していた書物等をGS協会、
もしくはオカルトGメンで処分して欲しいというもので、金銭的価値のある物は
現金に換えて滞納していた家賃に充てて欲しいと書かれていた。
 又、老人の所有物であったアンドロイドも同じく処分していいとも…
そのアンドロイドは老人の遺体の側で完全に機能を停止していたと言う…
そして、専門の研究機関に運ばれてなんとしてでも再起動させようとしたのだが…
結局解った事は…その老人、ヨーロッパの魔王と呼ばれたその男が正真正銘の
天才であったと言うことだけであった。

 その老人の名は、ドクター・カオスと言い、アンドロイドはマリアと呼ばれていたと記事には記載されていた。

 尚、記事の最後には亡くなったその人の正確な年齢が分からず、その新聞社では創業以来、
年齢の欄に【?】が付いた始めての人であったと書かれていた。


 そして、その日を最後に“一組の夫婦”が消えたことについては誰も気付く事はなかった…

 しかし、一匹…いや、一人の妖狐が姿を消した事は関係者の間で騒がれたが、
結局二度と見つかることはなかったと言う……


 続く


 後書き

 あ、どうもチョーやんです、やっと……やっとプロローグが終わった……
正直、ここまで文章が増えるとは思いもしませんでした。
本当なら愛子、小鳩、ピートの出番もあったのですが…あまり必要という訳でもなく、
あまりにも容量が増えすぎるので泣く泣く削ることに……(涙)
 まぁ、それを言ったら他の面子の出番も必要じゃなかったんですけど…
逆行モノを読んでると、逆行する以外の人達の描写がほとんど無い場合が多くて、
『この世界の未来では、みんなはこうなってますよ』と書きたかったというのが本音です。

 それにしても…横島クン……落ち着きすぎ…
 そして…美神サン……素直になりすぎ…
 つーかお前ら誰ジャーーーーーー!? っと書いてる私自身が思ってるくらいですから、
読んでる皆様方の違和感がどれほどのものなのか…(汗)

 尚、なんで妙神山の人達が出てこないんだ? とか、なんでヒャクメに横島の事が
バレなかったんだ? と、お思いの方は…次回以降をお待ち下さい。

 又、皆様からご意見、ご指摘、突っ込み等がありましたら遠慮なくお申し下さい。

  追記:まさか私がこの掲示板の新年最初の投稿者になるとは思いませんでした(汗)

 では、レス返しを。

●いしゅたる様
  感想ありがとうございます、そう言って下さると励みになります、今度ともよろしくお願い致します。
 >ツッコミを。
 うぅ…お恥ずかしい限りです…原稿を再チェックしたら追加の文章がそのままになっていました…orz

●stf様
  ご指摘ありがとうございます、なるべく改善できるよう努力する所存ですので、
 なにとぞお見捨てなきよう今後ともご指導願います。
  改行の点ですが、今回なるべく読みやすいようにしてみましたが…いかがでしたでしょうか?
  尚、私が投稿する手順は…
   ワードに原稿を書く→テキストにコピペ(転写)して転写具合を見る→掲示板に投稿(コピペで)する
   →そこで最終チェック(誤字、脱字)する。 
  …という流れでしております、改善したりこうしたほうが良いという点などがありましたらご指摘して下さい。

●ash様
  ご指摘ありがとうございます、修正いたしました。
 >妻に関する
  やっぱりバレバレですよねぇ…(ノ∀`)

●雲海様
  ご感想ありがとうございます、これからの横島クンがどうなるのか…
 ご期待に添えるようがんばりたいと思います。

 以上、皆様ありがとうございました。

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