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「栗色の髪の少女 横島! 第十二話(GS+オリキャラ)」

秋なすび (2007-12-28 07:41/2007-12-28 07:57)
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「横島さん」
「うん……」
「あの、横島さん」
「うん……」

私は横島さんに何度も話しかける。しかし、横島さんはそれに何度も同じような気の抜けた生返事を返してくる。

「横島さん、そろそろ出ませんか?」
「うん……」

このやりとりをもうかれこれ10回ほど繰り返しただろうか、返事はいつも「うん……」なのに一向に言うことを訊こうとしてくれない。私は横島さんの顔を覗き込む。その表情は心ここにあらずと書いてあるようだ。その視線はちらりちらりと横に向けられ、そしてぼうと物思いにふけるような仕草をしては、またちらりと横を気にする。その視線の先、それは先ほど隣に現れた灰色の髪の少年に向けられている。私達の座る席は二人用の四角いテーブルがもう一つ隣り合わせに付けられていた。そして、周りを見渡すとどうやら満席になっていたようで、それで隣の席を離し、その少年はそこに座ろうと私達に話しかけてきたのだ。しかし、その時の横島さんの反応がまた……。テーブルをずらそうとするその少年をぼうっと眺め、それに気がついた少年が「え〜っと、何か……?」と訪ねると、「あ、いいいいや、なんでも……」と、何故か酷い慌てっぷりで顔を俯け、そして暫くするとまたちらりと横目でその少年の様子をうかがう。まるで……そう、まるで恋する乙女。……なんなんですか、これ。ちょっと横島さん。あなた美形嫌いで通してるんじゃなかったんですか? いえ、この少年は美形というよりは、どちらかというとありふれた感じかと思いますが。輪郭は縦長で、鼻筋は通り、目は少し細め、特徴的なのはその瞳の色が髪と同じく灰色がかり、青みを帯びているということ。その瞳の色のおかげでぱっと見た印象よりも少しばかり冷たい雰囲気を醸し出しているが、全体的に言えば顔立ちは整い、良い印象を与える。でも、でもでもでも! なんなんですか! この人がなんだって言うんですか! 横島さん、もうそのグラス、氷しか入ってませんよ!? さっきからずずずずって音しかして無いじゃないですか! 水飲んでるんですか!? あ、また見ましたね、この人の何が気になるって言うんですか? 普通の顔じゃないですか! ていうか、あなた男の人が好きだったんですか!?

「横島さん!」
「うん……」

暖簾に腕押し、豆腐に鎹、糠に釘……。
くぅ……! 横島さん! そんな人見ないでください!

私を……、私を見てください!!


え〜っと……、これは俺の判断ミスだったのだろうか……。世の中にいくつもの分岐点があるとすれば、俺がこの女の子達の隣に座ったこと、いやいや、そもそもこの店に入ってきたこと、いや、それより先にこんな時間に外に出かけた事さえも誤りだったのかもしれない。人生には正解など無いと言うが、本当に正解などないのかもしれない。それは分岐点などと言いながら、その正解の方は常に工事中か殺人現場で立ち入り禁止なのだ。あぁ、失敗だった。視線が二つ、俺を串刺しにする。一方の栗色の髪の少女はちらりちらりと遠慮がちにこちらを見、その仕草は何か小動物のようなものを彷彿とさせ、とても愛らしい。あ〜……、なんだか癒される……。そしてもう一方の黒髪の少女はまさに射殺さんばかりに俺の横顔を睨み付けてくる。まさに鷹の目。俺、もしかして殺られるのか……? ネズミか野ウサギの如く捕食されるのか!? 何だこの温度差は! はぁ、女の子に見つめられるのは嬉しいはずなのに、なんでこんなに背筋に悪寒が走るんだろう。やっぱり早いとこコーヒー飲んで出よう。いや、しかしそんな急いで出て行ってしまったら、「やっぱりこんな女の子の隣に座るなんて失敗したとか思ったんだわ〜くやし〜」などと思われたらどうしよう。なまじ当たってるだけに余計痛い! ここは慎重に、ゆっくりと、しかし急いでコーヒーを飲むべし! おわっ熱ぃ! 舌を火傷した!

…………なんだろう、この虚しさは。


さて、それはさておき、俺の名前は鬼貫孝介(おにつらこうすけ)。つい最近上京してきたばかりの17歳。ちょっとした事情があって今は一人暮らしをやっている。不慣れな東京だが、やはり上京してやることといえば東京見物でしょう! そんなわけでまだ見ぬ街へと繰り出すため、自宅アパートの近くの駅で電車に乗ると乗客でごった返す車両に揺られ、世界一の乗降者数を誇る新宿駅へと降り立った。そして広い上に人の多い駅構内では迷いに迷い、たまたま辿り着いた山手線内回りのプラットフォームでたまたま到着していた電車に乗ると、たまたま中央まで押し込まれ、人混みにもみくちゃにされつつも、たまたまついた駅で吐き出されるように降り、その駅を出るとたまたま人の流れに流され大通りに出、大量の人にもまれ暑さにやられ、たまたま見かけたカフェについつい足を踏み入れてしまい、そして今に至るというわけだ。俺の無計画は子供の頃からの病気だな……。それにしても不運もいいところだ。東京のおなごはホント恐ろしい。は〜、コーヒー美味しいわ〜。視線は痛いけど、コーヒーは美味しいね。思わず現実逃避したくなるくらい。
しかし、なんで俺はそんなにもじろじろと見つめられなければならないのだろうか。東京の女の子は初対面の男にはガンを付けるのが習わしなのだろうか。それとも、東京はヤンキーが多いと聞いていたが、この二人、特に黒髪の娘、もしかして隠れヤンキーか? とはいうものの二人とも可愛いなぁ。栗色の髪の少女はこちらの斜め前の席に座り、先ほどから視線が合うことも数度あった。何故こちらを見てくるのかは謎だが、その視線は嫌みなものとはとても思えないし、慌てて目をそらし俯く仕草とか、何とも奥ゆかしい雰囲気がまた良い。さっきから黒髪の娘から横島さんと呼ばれている彼女、何やら騒がしくしていた黒髪の娘とは対照的におとなしげに座り、顔を少し俯けストローの先を噛むその姿はちょっとした絵になる。残念な事に胸は無く、少しばかり子供っぽいように見えるが、それでもそこら辺にいる女の子と比べると格段に可愛い。うむ、ポイント高し。そして黒髪の少女。さっきぱっと見た感じではかなり可愛い印象だった。が、しかし、今その顔は般若の如く目をつり上げているのが気配でわかる! 隣から今にも俺に襲いかかろうとしているはずだ! だ、だめだ、目を合わせるな……、食い殺されるぞ!!
ふぅ、コーヒーごちそうさま。熱いコーヒーを火傷した舌の痛みを我慢しながらも早からず遅からずをなんとか達成してみせたぞ。……ていうか、この暑い中、なんでホットなんて頼んだんだ、俺。俺のバカ。よし、任務完了だ。すぐここから撤退しよう。

「あ、それじゃ俺行きますんで、席ありが……ひっ!」

しまった! ついに、ついに目を合わせちまった! 中腰に腰が浮いたまま竦んで動けん……。目を、今度は目を逸らすな、逸らしたら襲ってくるぞ! あれは餓えた猛獣の目だ!

「そ、それじゃ俺達も出ようかおキヌちゃん」
「「え?」」

と、その時突然栗色の髪の少女……横島さんだっけか? が声を上げる。どうやら黒髪の少女に向けて話しかけたようだが、俺はちょっとどきりとした。俺、良く“キヌキ”とか呼ばれるからな。そのままあだ名になっちゃったりしてるし、思わず反応してしまった。しかし-、この娘はおキヌと言うのか、人のことは言えないが変わった名前だ、それともあだ名か? あ、いや、それより横島さん、そんな口調はだめだぞ? もっと女の子らしくしなきゃ。せっかく可愛いのに、おしい!

「そ、そうですね、こんな所もう用はないですからね、とっとと出て行きましょう。横島さん、さあすぐに!」
「はえ? ちょ、ちょっとおキヌちゃん!? おわ!」

ぽふっ。

おおう!? 今まさに俺の胸に横島さんの顔がヒット!
説明しよう、横島さんの言葉におキヌさんがものすごい剣幕で立ち上がり、座る横島さんの腕を鷲掴みに掴んで引っ張り、立ち上がらせると、立ち上がったその勢いで掴んでいた手が離れ、姿勢を崩した横島さんは前のめりにたたらを踏み、しかしテーブルに倒れ込むのを避け、斜め前に突っ伏しそうになったところに中腰に立ち上がっていた俺の胸があったというわけである。ナイス俺の胸。

……ぞくり。

なんだ……なんだこの背中を冷たい何かが這い回るような感覚は……。いや、このどこかから猛烈に温度の低い空気が流れてくるような感触は一体……はっ、横! おキヌさんか!

「あなた……、いつまで横島さん、抱きしめてるつもりなんですか……」

何!? あ、いつの間にか横島さんの両肩に手を回していた! ……って、身体を受け止めたんだから当たり前じゃないか。ていうか、なんだこのドスのききまくった声は。目は笑ってるのに顔のあちこちが痙攣してるし、はっきり言ってめちゃくちゃ怖い。

「あ〜……あの〜横島さん? 大丈夫かい?」

俺は腕に力を込め少女の身体を少し離し話しかけた。ん? 返事が無い。不審に思った俺は横島さんの顔を覗き込んだ。

「う、うわあぁぁ!!」

すると突拍子もなく目の前で悲鳴を上げ、俺を突き飛ばすように両手で押し、身体を離すと、栗色の髪の少女はさっきまで彼女の座っていた椅子に慌てて座り込んでしまった。そして、

「違うんや、違うんやおキヌちゃん! ボクは何も感じてないんや!! なんかようわからんけど惹かれてたりなんてしてないんや〜〜!!」
「あぁ! 横島さん! テーブルが、テーブルが壊れますよ!!」

そう絶叫しつつ、テーブルの上に激しく頭突きを喰らわせ始めた。それを止めに入るおキヌさん。しかし、おろおろとしながら的外れな事を口にするだけで役には立っていないようだ。
は、ははは……なんだこの娘らは……。これが、これが東京か。父さん……、僕は遠い所まで来てしまいました……。
この日、俺の中で何かが目覚めたような、そんな気がした。


「その娘、大丈夫?」
「え、えぇ、大丈夫だと思います。多分……」

それから暫くたち店内の混乱も収まったころ、俺とおキヌさんはテーブルを挟み向かい合って座っていた。いや、実際のところおキヌさんはテーブルの少し横に外れた所に座っている。

「あの、さっきはごめんなさい。睨んじゃったりして……」
「え? あぁ、別に気にしてはいませんから」

そう言うおキヌさんは、申し訳なさそうな顔で微笑みかけてくる。こうしてみるとさっきとは随分と印象の違う、落ち着いた雰囲気の可愛らしい女の子だ。そのおキヌさんの膝の上、そこには栗色の髪の少女、横島さんの顔。椅子を寄せ、そこに気絶してしまった横島さんを寝かせ、おキヌさんが膝枕をしているのだ。それにしても無茶をする娘だ。いくらなんでも出血し、しかも失神するまで頭を打ち付けるなんて。しかし、血しぶきが舞うほど派手な光景を披露していた割に、その額にはほとんど血が出て居らず、傷もたいしたことがない。何故だ! ……いや、そこは決して言及してはならないところだった。くわばらくわばら……。とは言うものの、傷はやはりあるし、すでに止まってはいるものの多少は血が出ていた。自分でぶつけてできた傷だ。自業自得と言ってしまえばそれまでなのだが、しかし、彼女をそんな行動に駆り立てたものが一体なんなのか、わからん。見た目はとても可愛らしい女の子なのになぁ、ちょっとショックだった……。しばらく少女の寝顔を眺めながら、俺はそのようなことを考えていた。するとおキヌさんが不意にその少女の額の傷跡にそっと指先を触れた。そして少しなぞるようにそのすらりとした指先を滑らせるとその跡に淡く暖かな光がぼう……と浮き上がり、僅かの間輝き続け、そしてすっと消えていった。その後にはそこにあったはずの傷跡がまるで幻であったかのように姿を消しているだけだった。

「ヒーリング……」

俺は思わずそう呟いた。

「あ、そうです。……けど、ご存じなんですか?」

その言葉におキヌさんが少し不思議そうに訪ねてくる。

「え、まぁ、少しだけ……」
「そうなんですか。もしかして貴方も霊能者?」
「え〜っと……」

俺はその質問にどう答えるべきか少し悩んだ。しかし、答えようとした矢先、ジーパンのポケットの中でごそごそと“あれ”が動き始めるのを感じた。まずい、お、おとなしくしろ! あぁ!
“それ”はぽんっと音を立て俺のポケットから飛び出し、その真っ白な身体を宙で素早く翻すと、眠っている横島さんの顔へと襲いかかった!

『ぴきゅ〜』
「な、なんですか!? これ!」

“それ”は真っ白な羽毛のように柔らかな毛に包まれた、少し大きめな毬藻のような形をしたもの。“それ”に口元に載られ、息苦しさのためか微かにうめき声を上げる横島さん。その僅かに開けられた唇から吹き出す息に載って“それ”はふわりと舞い上がり、今度は横島さんの額に載った。

「いや、その……。それ魑魅魍魎の一種なんだ」
「魑魅……魍魎……、妖怪なんですか? これ」
「妖怪……、う〜ん、妖怪というか精霊というか……、曖昧なところだけど……」

子供の拳くらいの大きさをしたそれは横島さんの額に乗っかり、ゆらりゆらりとそのふわふわとした繊毛を揺らめかせ、微かな泣き声を上げている。

「あの、おキヌさん……でしたよね、お願いだ、こいつそっとしておいてくれませんか!? 別に何か悪いことをしてるわけじゃないんだ!」
「え!? あの、私は別にそんな……。それにこんなおとなしくて可愛らしい子を除霊するなんて私にはとても」

俺の言葉に少し不思議そうな視線を此方に向け、しかしすぐにその顔に微笑みを浮かべるとおキヌさんは答えた。そしてそっとその白い精霊に手を触れた。その優しげな様子に心配の必要はないと感じた俺はホッと胸をなで下ろす。

「この子、もしかしてあなたの式神ですか? つまり、あなたは式神使い?」
「いや、俺、霊能はないんですよ」

俺は正直に答えた。

「え? じゃあ霊能者じゃないんですか?」
「えぇ、そいつも俺が連れてきたってわけじゃなくて、ただ勝手についてきただけなんです」

俺の答えにおキヌさんはやはり首をかしげる仕草をする。

「でも、それにしてはいろいろとご存じなんですね。お知り合いか何かに霊能者がいらっしゃるんですか?」
「えぇ、まあそんなところです……」

俺の曖昧な返答に、しかし、おキヌさんはそれ以上の追求はせず、「そうなんですか」とだけ言うと白い精霊に視線を落とし、それをそっと撫で始めた。
確かに俺には身近に霊能者がいた。それはとても身近な存在だった。そして、遠く離れた今もなお身近な存在には違いない……。


それにしてもこの二人はやけに仲が良いな。おキヌさんは一方の手で精霊を撫でながら、もう一方の手では横島さんの手をきゅっと握りしめ、時折その感触を確かめるかのように指を絡めたり握り直したりしている。そして精霊を撫でている方の手もたまに少女の額にやり、優しく髪を撫でたり、軽く梳いたりしては愛おしげな視線をその少女に向けている。今にもキスでもしそうなほど親密な様子だ。ん〜……。あ、姉妹か。うん、俺は良く知らないが仲の良い姉妹とはこんなものなのだろうな。しかし、地元でもここまで仲が良さそうな姉妹は居なかったな。ん? でも、そうなると“よこしま”って下の名前? これも珍しいな……。いかん、そういえば何故俺は初対面の少女達を眺めては和んでいるのだろうか。そろそろあいつも連れて出て行かねば。

「あの、すみません。そいつ、いいですか?」

俺は席を立つとおキヌさんに近寄り言った。

「あ、ごめんなさい! つい夢中になっちゃってて」

俺の言葉におキヌさんは口元に手を寄せ照れ笑いをしながら言った。う〜む、やっぱり可愛いなぁ。しかし、さっきのあの猟奇的なまでの熱視線は一体なんだったのだろう。う、思い出しただけで背筋に悪寒が……。だめだ、気にしちゃいかん。とにかくこいつを……。
頭を振り、記憶を消し去ると、俺は横島さんの顔の上の白い精霊に手を伸ばし、つまみ上げようとした。しかし……。

「痛っ!」

白いそれに指を触れた途端、指先に激痛が走り、俺はその手を跳ね上げてしまった。

「ど、どうしたんですか?」
「か、噛まれた」
「噛まれた?」
「あぁ、こいつ口あるんですよ」
「そうなんですか? どこに……」

どこに。それがずっと一緒にいた俺ですら解らない。どこを見ても、毛を弄ってもただ真っ白な毬藻にしか見えないが、どこかに口があり、歯があるのだ。この分だとおそらく目や鼻もどこかにあるのかもしれない。だめだ、想像しちゃ駄目だ、想像しちゃ駄目だ……。いや、兎に角こいつを連れて行かないと。

「こら、おとなしくしろ!」

俺は白いそれを今度は掴もうと手を伸ばした。しかし、それは風に舞う木の葉の如くほわりと宙に舞い上がり、迫り来る手を避ける。なんの! それをぱっぱっと左右の手を代わる代わる突きだし掴もうとする。しかし、その白い物体は素早く身を翻し、悉く紙一重で躱していく。やるな、まさに白い彗星! しかし、それは再び横島さんの上へと降り立ち、その動きが一瞬止まった。チャンス! 俺は素早く右手を翻し振り下ろした。

ぷに。

捉えた! そう思ったのも束の間、手の僅かな隙間をまさに夏の夜の蚊の如くそれはするりとすり抜けて行ってしまった。そしてその掌に感じる柔らかな感触。あまり大きくはないが、しかし張りがあり弾力のある未熟な果実。いや、まさか……。俺は精霊を追って上に向けていた目を恐る恐る下の方へと向ける。そこに見えるは横島さんの控えめで可愛らしいぷっくりと膨らんだ胸元をわっしと掴む俺の手、そして、視界の端にはぱちりと開かれ、じぃ〜……っとこちらを見つめてくるこれまた可愛らしい左右色の違う大きなお目々。お……、起きていらっしゃる〜! ここで、すぐ手を離し理由を言って謝ればビンタ一発くらいでなんとかならないでもないこの状況。しかし金縛りに会ったように身体が硬直し、それができない。こういうことってあるよね。例えば立ちション中に通り掛かった大好きなあの娘に股間のあれを凝視された時とか。もうどうしていいのか、ね。
そして立ち上る一瞬にして全身から冷や汗が吹き出すような殺気。しかし、それは思いも寄らぬ方向から襲ってきた。そう、またしても横、おキヌさんだ!

「こ、この……、どスケベ変態〜!!」

怒りに満ちた罵声。そして迫り来る鉄拳。俺はこれを受けねばならないのか! なぜ、おキヌさんからぁ!? 少し納得がいかなかったが俺は覚悟した。宙を三回転半する己の姿を想像し、明日の命を祈った。だが、次の瞬間身体に重いものがぶつかり、俺は仰け反り、その拳は顔の一寸先を僅かに掠めていった。

「だめっ!」

不意に襲った衝撃にたまらず、俺は数歩後ろにたたらを踏んだ。その衝撃の直後、俺の前で上がったおキヌさんのものではない声、その主は俺に背を向け中腰に立つ栗色の髪の少女。その向こうではおキヌさんが驚き、呆気にとられたようにその少女を凝視している。まさか俺をかばってくれたのか? 横島さんが? 何故……。頭に過ぎる微かな疑問。しかし、それは横島さんの向こうで彼女を見つめるおキヌさんの表情にさらに増す。それは苦痛を表すそれにも似た表情。そして反らされる視線。しばらくそのまま時だけが流れ、何とも言えぬ微妙な空気が漂っていた。

「あ、あれ?」

と、唐突に何かを思い出したように俺に背中を向けたままの横島さんが声を上げた。

「ご、ごめん、おキヌちゃん! いや、そのいきなり殴ろうとかしてたからつい。あ、あはは……」

そして慌てたようにおキヌさんに向かって言い訳をするように話し始めた。

「い、いえ、ごめんなさい。私もつい……」

おキヌさんもそれに微笑み応えた、しかし、その顔は影がかかり、何か不安げな表情のままだった。

「ごめん……」
「いえ……」

それを見て取ったのか、またも詫びる横島さん。それにやはり影のかかった顔で返すおキヌさん。
……え〜っと、それは良いんだけど、俺、どうしたらいいんだろう……。何やら二人だけの世界に入っちゃってるよな。ここはやっぱりあれかな、声もかけずにこっそり出て行って、「あら? あの人は?」とか言われて、「名前も知らないけど、変わった人だったね」とかなんとか言われて、「もし、どこかの街角で偶然また会えたら、ごめんなさいの一言くらい言わないと……」な〜んて言われたりして。……んなこたどうでもいいんだけどな。しかし、マジでなんだか気まずい。話しかけるにしても何言って良いのかわからんし、やっぱりこのまま行くか。
こっそりその場を去ろうとした俺は自分が座っていたテーブルの上のトレイを持ち上げた。あ、そういえばあいつは……。しかし、ふと白い精霊のことを思い出した俺は周囲に視線を巡らせる。その時俺の腰のあたりで何かがもぞりと動いた。それに気づいた俺はその辺りに目をやった。まったく……。そいつはいつの間にかジーパンのポケットの中に入り込んでいた。こっそりと尻だか頭だかわからない白い身体の一部がポケットの入り口から覗いている。それを見ると、俺はそのぽっこりと膨らんだポケットの上をぽんっと軽く一つ叩く。さ、行くか。そして俺は1階へと続く階段へと向かおうとした。

『ぴきゅ〜……』

しかし、その時、ポケットの中から精霊が鳴き声を上げた。そして、背後から視線が二つ此方を向くのがなんとなく解った。あらぁ……。

「あ、行くんですか?」その声はおキヌさんのもの。「ごめんなさい、私、ついかっとなっちゃってその……」
「い、いや、あれは俺の自業自得っていうか。こっちが謝らないといけないっていうか」

俺は慌てて振り返って言った。やはり二人は此方を見ていた。おキヌさんは申し訳なさそうにし、そして横島さんは首をかしげ、何かを考えているようだった。そしてその横島さんがおもむろに口を開く。

「そういえばあんた、俺が起きたとき、何してたんだ?」

ぎくっ! 俺はその邪気のない左右色の違う不思議な瞳に見竦められ、心臓をえぐられたような衝撃を憶えた。なんだ、気づいてなかったんだ。それで庇ってくれたのね……。あぁ、そりゃそうだよなぁ……、ははは……。


「はぁ……」

俺は大通りを一人歩いていた。大量の人混みにもまれ、溜め息を吐き、ひりひりと痛む右の頬をさすりながら。結局横島さんに問い詰められ、嘘を吐けなかった俺は全てまるっと答え、そして謝った。しかし、次の瞬間飛んできたのは左の平手。はぁ……、きっちりビンタ一発でなんとかなったけど、なんだか痛いなぁ……。これならおキヌさんのパンチで三回転半の方が良かった……。俺は何故かそんな気分に落ち込んでいた。そしてもう会うこともないであろう栗色の髪の少女の怒りに燃えさかる表情を思い出し、また溜め息を吐いた。

『きゅう』

ポケットの中で精霊が鳴き声を上げる。俺はそれに応えるようにその膨らみに手を触れた。まったく、お前のせいだぞ? ついてくるならたまには素直にしろよな。こいつはいつもこうなのだ。人のことをさんざん振り回しておいて、結局はついてくる。しかし俺はこいつを捨てる気にはならない。何故かはわからないが……。

これが俺と横島さんの……、いや、横島との最初の出会いだった。それはごく自然で偶然の出会いでしかなかった。しかし、運命というものがもしあるとすれば、俺の運命の歯車はこのときから狂い始めていたのかもしれない。俺と横島を、いや、もっと広い、多くの人々を巻き込んでそれは狂い始めていた。それはもしかするともっと以前から、俺達の生まれるよりもずっと昔、もう千年以上も前から決まっていた事なのかもしれない……。


そして、ここはどこなんだ。背の高い建物がほとんど無い。あちことに田んぼがある。そして遠くには山が見えるぞ。

「君、ここは奥多摩っちゅうんだよ」

お巡りさん、東京にもこんな田舎があったんですね。もう日も暮れてるし、どうやって帰ろう。俺の無計画は筋金入りだ……。


あとがき

ついに登場してしまいましたオリキャラ。鬼貫孝介君(イラスト右側、目は全然細くないように見えるけど、GS基準で考えると細いということで)。
初めて書くオリキャラですが、どうでしょうか。まだまだキャラ作りはこれからになるでしょうが、基本的な性格はこんな感じです。
ちなみに、このカフェのある街のイメージは原宿。
新宿駅は私もたまに迷います。そして東口と西口を間違えると悲惨。ちなみに、新宿駅から原宿駅までは、山手線内回りで二駅。ものの数分でついてしまうような距離なんですよねぇ。
それはさておき、前回は思っていたよりも随分とレスが多くて驚きました。みなさんありがとうございます。レスを貰うためにSSを書いているわけではもちろんありませんが、しかし、やはりレスをいただけると言うことはとても嬉しいことです。やはりレスは宝物ですね。それは数や内容じゃない。
というわけで、レス少しでもあればいいなと思いつつ。
では……。


レス返し

>T城さん

お待たせしました。頭の中で紆余曲折を経てやっと続きを書くことを決意しました。
いえ、結局は書くことを断念するつもりはなかったのですが。少し思うところがありまして……。
今のところ伏線張りをいろいろしていますが、私自身話の進み具合が微妙だなって思っています。
これからどうなるか。灰色の髪の少年はどうなんでしょうね。まだまだこれからです。


>Februaryさん

憶えていていただいて嬉しいです。
私は実のところ絵を描く方が専門っていうか志望なので、そっちを本来頑張らねばならない人間だったり……(汗
おキヌちゃんもずっぽり填っちゃってますね。これから頑張ってくれると思いますw


>雲海さん

はじめまして〜。
おキヌちゃんとはこれからも絡ませて行きたいと思います。
美神も含め、これからできるだけ絡ませたいですね。


>猫炎さん

はじめまして。
そして、お待たせしました。これからもお待ちしてもらえるように頑張らねば。
これからはできるだけ早めに投稿できるように頑張りたいです。
私自身早く書きたいって気持ちがあるのです。
ちゃんと完結させたいですね。


>K’さん

おキヌちゃん、がちで嫉妬ですねw
イラストも描けるってことくらいしか私にはステータスが無いですからねぇ。できるだけ描いていきたいと思います。
続きもできるだけ書いていきたいと思います。できれば完結させたいです。
そんでもっておキヌちゃんはきっと頑張ってくれますよw

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